「さて、二回戦目を始める前に奉仕部側集合」
俺が他の四人を呼び寄せる。
「どうしたんだ岸波」
「まず、この脱衣ルールは相手の作戦と考えていいだろう」
「作戦とはなにかしら?」
「相手は脱衣をルールに入れたことにより、このゲームに参加している男子を仲間にしようとしている。材木座辺りはいい標的になりそうだな」
女性の脱衣に興味がない男はいないからな。興味がない男は見慣れてるヤツか聖人ぐらいだ。
「な、何を言っているのだ!き、貴様は!!」
材木座は焦り声で反論している。まぁ無視しますが。
「それで相手はこっちの仲間割れを狙ってくるだろう。だからそれ未然に防ぐためにみんなを呼んだ」
俺たちの話を聞いていたのか、遊戯部の二人、秦野くんと相模くんが
「気づかれましたか。どうやらぼくたちも本気を出さないといけないようですね……」
「覚悟してくだいさい。……お遊びはここまでです」
結構序盤で本気を出すんですね。
本気って言うのも間違いではないようで、奉仕部側は負け続けている。
現在比企谷がパンツ一枚、材木座はコート、靴下、指ぬきグローブ、パワーリストを脱いでいてズボンとワイシャツは健在。
なんだろうなあの二人、不公平な気が……。
でもここから勝つのはほとんど運になるな。ジナコの言う『公平なゲーム』ってことだ。
今までで相手の攻め方はわかってるし、参加していない俺だけの権利『全員の手札の内容を見ることができる』これと俺の観察眼を使えば、ゲームの流れはだいたいは見えてくる。
俺は全員の手札を確認しながら、試合を見ている。
全員の手札を確認した。この勝負は……ん?なんか雰囲気が悪いな。材木座と遊戯部の三人だけど。
俺が最後の試合の流れを考えてる間に何かあったのか?
「ねぇ?なんでこんな険悪ムードなんだ」
俺がここにいる六人全員に尋ねる。
「お前、なんで聞いてねぇんだよ」
「ごめんごめん。この試合の結果を導き出していたもんで」
「何所のスーパーコンピューターだよ」
「月?」
「「「「「「………」」」」」」
ここにいる全員が「こいつ何言ってんの?」みたいな憐れむ目で見てくる。
「な、なんですか。変なことを言ったのはわかってるけど、結果を導き出したのはウソじゃないぞ」
「それじゃあ先輩、その結果を言ってくださいよ」
これは挑発だよな……、よし乗ってみるか。
「いいね、その挑発。俺ってそういうの乗るタイプではないけど、今回は特別だ。この最後の試合に勝つのは奉仕部側だ」
自信を持って俺はそう告げる。
「へ、へぇ…。じゃあその証拠を見せてもらいましょう」
「うん、いいよ。今から俺がここの全員が出していくカードの数字から枚数、全てを言い当ててあげる」
遊戯部の二人は恐怖しただろう。
俺は何一つ間違えることなく、比企谷の『革命』や材木座のミスの『イレブンバック』、遊戯部のジョーカーに由比ヶ浜さんが『スペ3』で止めるところまで全て言い当てた。
「これで奉仕部側の勝ち。どうかな証拠はこれだ。実際に俺が当てて、奉仕部が勝ってみせたわけだし」
「そうね。でもよくわかったわね。ここまで」
「まぁゲームに出れなかったからねぇ。することと言ったら観察ぐらいだよ。で、なんでさっき雰囲気が悪かったの?」
まぁ俺のせいでさらに雰囲気が悪くなったんだけど。
それから俺は話を聞いた。
内容は、材木座の夢についてのことだ。言ってることは遊戯部のほうが正しい。それに彼らは努力もしている。
「なるほど、君たちの、秦野くんと相模くんの言い分は何一つ間違っていない」
「な、岸波、貴様我を裏切る気か!!」
「裏切るも何も間違いではないからな。でも、人の好きなモノを、夢をバカにしていいことにはならない。だから今度は俺と勝負しようか、二人とも」
「「は?」」
「いや、俺さっきの勝負何もしてないからさ、俺もやりたいんだよねぇ」
でも、それだけじゃあ勝負には乗らないか。
「君たちが俺に勝ったら材木座が土下座し、俺が君たちの命令を一度だけ聞いてあげるよ。そして俺が勝ったら君たちが材木座に土下座してもらおう。勝負は君たちが得意な格ゲーでどうかな」
そして勝負することになったな。
今、遊戯部の二人は格ゲーの準備中。TVとかゲーム機とかアケコンとか。
「岸波!!貴様、完全に我を土下座させる気だろぉぉぉ!!」
材木座が俺の肩を握ってブンブン振る。
「いや、だって条件がむこうに有利にしないとさ」
ああ、頭が揺れるー。
「それで岸波お前って格ゲーやったことあんの?」
「あははは、二年前までちょっとだけね」
俺は笑顔で答える。
「これは材木座の土下座は確定だな。ん?おい岸波。お前さっき二年前って言ったか?」
比企谷は気付いたか?
「ああ言ったよ。雪ノ下さんと再会する二年前までやってた」
「フッ、お前って結構捻くれてるよな」
「そうでもないさ」
他の三人は俺と比企谷の会話を理解できなようで。
「先輩。準備できました。でも本当に格ゲーでいいんですか?ぼくたち剣豪さんよりも強いですよ」
「わかった。負けないように全力でやらせてもらうよ」
「そうですか。剣豪さん土下座の準備しておいてくださいね」
俺は秦野くんの横に座る。
残りの五人は俺たちの後ろで立って見ている。
「それじゃあ始めますけど、本当にいいんですね」
「大丈夫、気にしないで本気でいいよ。あ、その前にコマンドとか書いてあるものない?」
俺はこの格ゲーの説明書を受け取り、コマンドやガード等を見は始める。
「この勝負どうなのかしら。私、岸波くんがこういうピコピコのゲームしてるの見たことがないのだけど」
「ピコピコってお前はおばあちゃんかよ……、俺の母親ですらファミコンっていうぞ……」
「だって、ピコピコ言うじゃない……」
「まぁゆきのんはゲームやんなそうだし」
「由比ヶ浜さんはやるの?」
後ろで楽しそうに話してるな。
それに俺だってゲームぐらいはするさ、ギルとかアストルフォとかと一緒に。英雄の皆さんはゲームとかあまりしないんだよな。あの二人はギルは多趣味だし、アストルフォは面白いのが好きだからな。
「よし、覚えた。ありがとう」
俺は説明書を渡す。
「覚えた程度では、ぼくには勝てませんよ」
「お手柔らかに……。そして見せてあげるよ、『ホワイトナイツ』の戦い方を……」
『ホワイトナイツ』って自分で付けたけど、店員さんが何か名前を付けて戦ってくれって言ったからやってるんだけどね。
結果、俺が圧勝したわけだ。
「「白騎士さん。またお手合わせしてください」」
そう言いながら遊戯部の二人は俺に土下座をしてくる。
「土下座の相手間違ってるから。ほら材木座」
俺が材木座を呼ぶと、材木座は土下座をした。俺に。
「し、師匠と呼ばせてください」
「いや、師匠にはならないよ。それに弟子はいらないから。それより早く仲直りしろ」
俺がそう言うと三人は互いに謝り始めた。
はぁ……疲れた。
俺がため息をしながら、奉仕部の三人のほうにむかう。
「そろそろ疲れたから早く部室に帰ろうか」
「岸波、お前って本当に何者だよ」
比企谷は珍しく笑顔で尋ねてくる。三人も土下座してる人間を見れたからだろうな。
「魔術師だよ」
俺も笑顔で返す。
「関係ねぇだろ。やっぱりお前は変なやつだな」
「比企谷は人のこと言えないぞ」
「な、おいお前、超常識人に向かってなんつーことを」
「それはどこの文化圏の常識なのかしら……。あなたたちみたいな変人と一緒にいるととてもつかれるわ」
あなたたちって俺も入ってるんだな。
「いや、ゆきのんも結構おかしいよ……」
由比ヶ浜さんはちょっと困ったような笑みを浮かべて言う。
雪ノ下さんはその言葉に怒るでもなく、優しい微笑みを浮かべる。
「そうね。私も岸波くんも比企谷くんもどこかまともではないようだから、……だから、由比ヶ浜さんみたいにまともな人がいてくれると、とても助かる、のだけど」
雪ノ下さんは頬をわずかに赤く染め、それを見ていた由比ヶ浜さんは少し瞳を潤ませ、雪ノ下さんの右腕に抱きつく。
「……う、うんっ!」
雪ノ下さんは「暑苦しい……」と小さく呟くが腕をほどくことをせずに、そのままにしている。
「じゃあ、部室に戻ろうか」
「そうだな」
俺と比企谷が先を歩いて、数歩遅れて雪ノ下さんと由比ヶ浜さんもついてくる。
前よりも仲良くなれたみたいでよかった。それにもし俺が離れても、もし俺が消えてしまっても大丈夫だ。もう彼女が一人になることはないだろう。
部室に着く頃には、夕日も沈む時間になっていた。
「けど、どうしようかしら……。せっかくケーキを焼いてきたのに」
雪ノ下さんがため息混じりに言う。
「あ、雪ノ下さんもケーキ作ってきたんだ」
「ええ、あなたが去年私にしてくれたように、それで岸波くんもケーキを焼いてきたの?」
「今は家庭科室にあるけどね」
去年は雪ノ下さんの誕生日を祝った。雪ノ下さんの誕生日は冬休みになるからな、小学生や中学生の頃は雪ノ下さんが実家に住んでいたから行けなかったけど、去年から一人暮らしになっていたから、雪ノ下さんのマンションに行って祝ったな。
プレゼントはブックカバーとパンさんのぬいぐるみをあげた。
由比ヶ浜さんは俺と雪ノ下さんの会話を聞いて呆けた顔で首を捻る。
「ケーキ?なんでケーキ?」
「まぁ由比ヶ浜さんには言ってないもんね。今日は由比ヶ浜さんの誕生日を祝おうって雪ノ下さんが」
俺がそう言うと由比ヶ浜さんは雪ノ下さんのほうを向く。
「由比ヶ浜さん、最近、部活に来ていなかったし……その、これからもしっかり励んでほしい、とそういう話をしたかったのよ。あとは、その……感謝の証、とでもいうのかしら」
雪ノ下さんは照れ隠しをしながら話していると、雪ノ下さんが言い終わる前に由比ヶ浜さんが雪ノ下さんに飛びつく。
「……ゆきのん、あたしの誕生日覚えててくれたんだ」
雪ノ下さんは俺と同じでメールアドレスから推測したんじゃないのか?雪ノ下さんは最初から知ってたのかな?
「でも、今日は無理そうね」
そうなるとケーキが少し悪くなちゃうかな、結構フルーツを使ったし。
「じゃあさ、外行こ。外」
「え、けれど外といっても……」
「お店の予約とかあたしがやっとくから気にしない気にしない。ケーキ用意してもらっただけで、もう充分嬉しい。しかも二つも。ゆきのんもキッシーもありがとう」
「別に俺にはお礼はいらないよ。俺が好きでやってることだから。お礼を言うなら雪ノ下さんに」
今回俺は何もしてないのだから、俺がお礼を言われる意味がない、感謝される必要がないのだ。
「岸波くんはまたそういうことを言うのね……」
「ほら、俺のことなんか今は関係ないから。それにケーキだけじゃないし、ね、雪ノ下さん、比企谷」
こうやって俺から話を逸らす。
「まさか、プレゼントも?」
由比ヶ浜さんの問いに雪ノ下さんは頷く。そして由比ヶ浜さんは比企谷のほうを向く。
「ヒッキーもプレゼントを用意してるなんて思わなかったなー。その、こないだから、ちょっと……微妙だったし」
比企谷は鞄の中から小さな包みを取り出して、由比ヶ浜さんに渡す。
「……いや別に、誕生日だからってわけじゃねぇんだ」
「え?」
「少し、考えたんだけど。なんつーか、これでチャラってことにしないか。俺がお前んちの犬助けたのも、それでお前が気を遣ってたのも、全部なし」
やっぱり比企谷はそのことを知ったんだな。だから由比ヶ浜さんを自分から離したんだ。
「だいたい、お前に気を遣われる謂われがねぇんだよ。事故はあったが、俺には擦り傷か打撲ぐらいしか怪我はなかったし、相手の入ってた保険会社からちゃんと金貰ってるし、弁護士だの運転士だのが謝りに来たし。だからそもそも発生する余地がねぇんだ。その同情も気遣いも」
比企谷は次の言葉を言おうとしてるが、とても心苦しそうに見える。
そして口を開いく。
「それに、由比ヶ浜だから助けたわけじゃない」
由比ヶ浜さんは一瞬、悲しそうな瞳で比企谷を見て、すぐに俯く。
「俺が個人を特定して恩を売ったわけじゃないんだから、お前が個人を特定して恩を返す必要ないんだよ。けど、その、こうなに、……気を遣ってもらってたぶんは返しておきたい。これで差し引きゼロでチャラ。もうお前は俺を気にかけなくていい。だから、これで終わりだろ」
「……なんでそうなふうに思うの?同情とか、気を遣いとか、……そんなふうに思ったこと、一度もないよ。あたしは、ただ……。……なんか、難しくてよくわかんなくなってきちゃった……。もっと簡単なことだと思ったんだけど……」
「難しいことではないさ。比企谷は由比ヶ浜さんを覚えはない。由比ヶ浜さんも比企谷くんに同情した覚えがない。最初から間違ってるんだよ。だから比企谷の『終わりにする』は間違っていない」
最初から違うんだから、正しい答えにはならない。
「でも、これで終わりだなんて……なんか、やだよ」
由比ヶ浜さんが呟いた。そして雪ノ下さんが口を開いた。
「……馬鹿ね。終わったのなら、また始めればいいじゃない。あなたたちは悪くないのだし」
雪ノ下さんに言われちゃったね……。でも、それは違う。
「雪ノ下さん、それは違うよ。『あなたたちは』じゃなくて『誰も』だよ」
今、俺の言葉の意味を理解できる人間は雪ノ下さんだけだろう。だから俺は今日この場で、あのときのことを全て明かす。
「もし君が比企谷と由比ヶ浜さんが被害者で、自分が加害者だと思っているのなら、それは間違いだ」
比企谷と由比ヶ浜さんは意味がわからないって感じの顔をしている。
「雪ノ下さん、二人に言うけどいいかな?」
「………ええ。構わないわ」
雪ノ下さんは辛そうな顔をしていたが覚悟を決めてくれたようだ。
ごめんね…辛い思いをさせて。
俺は二人のほうを向く。
「比企谷、由比ヶ浜さん。俺と雪ノ下さんもあの場にいたんだよ」
「え?」
由比ヶ浜さんは声を出して驚いている。比企谷も声は出してはいないが驚いているようだ。
「まずは雪ノ下さんだけど、雪ノ下さんはあの車に同乗していたんだよ。そして俺は比企谷の脚を治したんだ」
「……岸波、雪ノ下があの車に同乗していたってことはまだいいとして、俺の脚を治したってどういう意味だ?」
当たり前だろう。言ってる意味がわかるはずがない。
「ねぇ。比企谷。お前はあのとき、車から犬を助けたとき脚はどうだった?」
「痛かった、痛かったはずだ。だけど、俺が目を覚ました時には何もなかった」
「それじゃあ、その目覚める前は、気絶してたんだろ」
「ああ」
「気絶する前にお前に近付いてきた人間はいたか?」
「………いた。フードを被ってる男が話しかけてきた。でも痛くて何て言ってたかわからなかったんだ」
「そう。そのフードを被ってた男が俺だ」
これで俺が魔法を使えることを言うだけだ。
「そして俺が、比企谷の脚を治したんだよ、魔法で」
普通なら「何言ってんのお前」で終わるだろうけど、今回はそうでは終わらない。
「信じなくてもいい。比企谷の脚は完全に砕けてた。俺がその脚を治したんだよ。比企谷、お前がテニスのとき何をしたか聞いてきたときあったな」
「あの最後のサーブのことか。ときが来るまで言わないって言った」
「ああ、それが今だ。俺はあのとき魔法を使った。他にも、テニスのとき由比ヶ浜さんの足を固定したときも使った。引ったくり犯を追いかけるときにも、君たちが周りにいるところで四回使ったよ」
これで俺が魔法を使えることを知っている人が二人増えた。俺が信じると決めた人が増えたということだ。店長は……俺から言ってないから関係ないか。
「俺も雪ノ下さんもあの場所にいたんだ。雪ノ下さんは同乗していただけで故意でない。だから雪ノ下さんは加害者ではない。三人ともが被害者で、誰一人として加害者ではないんだ。もし加害者がいたとしたら、あの偶然を作りだした神が悪い」
神はいる。ガトーが教えてくれた。
「そう、だから君たちはこう思えばいい『間が悪かった』と」
「「「は?」」」
「『最後の最後で何言ってんだよこいつは』みたいな顔はやめなさい。これは俺が知り合いの僧侶が言ってたの!………でも実際にそうなんだよ。いや、そう思うだけでも救われるんだよ。人ってのは」
ガトーがジナコに言った言葉を言うか。ガトーのまんまだと『何そのキャラ。ウザッ』って言われそうだから俺らしく言うけど。
「自分も悪い。だけど周りも悪い。要は全てが悪かった。人生とはそんなものだ。全てが悪いのだから、悲観するのは馬鹿馬鹿しい。悲しいが、悲しいだけだ。それとはまた別のところに喜びもある。人生とは無意味と有意味のせめぎ合い。だからこう思うんだ。『ただ間が悪かった』のだと。すべての物事はたいていそれで片がつくって」
この言葉を聞いているときは誰一人として笑わずにそれを受け止めた。
「だから君たちのが入学式の前に起きた事故も全て偶然に起きただけだ。比企谷が由比ヶ浜さんの犬、サブレを助けたのも偶然。サブレの首輪とリールが壊れたいたのも偶然。そしてサブレが飛び出したとき雪ノ下さんが同乗していた車の前に出てきたのも偶然。複数の偶然が重なってできた不幸。誰一人として悪くはないんだよ。『ただ間が悪かった』だけだ」
そして俺は最後にこう言う。
「それにあの事故のときは悲しかったかもしれないけど、こうやってみんなが出会えたことは喜んでいいことなんだよ」
俺が話し終わるときには、みんな呆れ顔でありながら笑顔だった。
はい。ここでオリジナル展開です。今回で雪ノ下さんが同乗していたことを告げてしまいます。ということは、文化祭前の変な空気になることはないということになりますね
次回は由比ヶ浜さんの誕生会ですね。
それではまた次回!!