やぁ。僕はストライクウィッチーズの世界に生まれ変わった転生者だよ。これまでのあらすじを端的に説明すると、前世の僕は病におかされて夭折した。で、なんやかんやあって転生して5歳くらいに前世の記憶を取り戻すと同時にウィッチ(ウィザード?)としての才能を開花。それ以来色んな戦場に介入してあれこれ好き放題暴れまくっていたら、いつの間にか階級も大佐にまで登り詰め、第501統合戦闘航空団のゲストとして加入した。
それで色々とやっている間に劇場版後にまで時系列が進んでしまい、今はオラーシャ解放の足がかりとして、まずはベルリン奪還を目的に再編成された501の仮設基地にいる。
でも、この世界は僕の知ってるストライクウィッチーズとはちょっと違ってたみたいで――――。
◇
「お兄ちゃーん!!」
「おぶぇっ!」
淡々とモノローグを語っていたが、布団越しに伝わる衝撃で目が覚めた。見れば従妹の芳佳が腹の上にダイブしている。こうやって起こされるのは何度目か。そんなの一々数えていられないほどダイブされているのだが普通に起こしてほしい。
「おはよーお兄ちゃん!」
「お、おはよ……」
芳佳は、未だ眠気と戦う僕の頬に自分の頬を擦り付けてきた。
彼女と従妹の関係であると知ったとき、ストライクウィッチーズの知識がある僕には吉報だった。かのコンテンツはアニメとドラマCDといらん子小隊しか知らない俄組なのだが、1期から劇場版まで芯のぶれない、誰からも好かれる要素しかない主人公様の親類。それは約束された勝ち組も同然だ。それはそれは嬉しかった。ちなみに彼女のはとこであるみっちゃんこと山川 美千子ちゃんは、やはりこちらもはとこで幼少の頃から仲が良かった。今頃、共通の趣味を持った土方さんと憎からずな関係でも築いているだろう。
「お兄ちゃ~ん……」
「……芳佳、満足した?」
「まだ!」
このホッペスリスリは昔からの癖みたいなものだ。彼女のお父さん――――僕から見て叔父さんがいなくなってから、家が隣同士ということもあってこうして甘えてくるようになった。元々甘えてきてはいたのだが、それがより過激になったというべきだろうか。
それにしても、こうしている時は小動物みたいで可愛いのだが、擦り付ける部位が胸板にシフトすると――――。
「お兄ちゃん……お兄ちゃ……んっ……ふぅ……♡」
――――ウットリとした顔に豹変してしまい、彼女の下半身は妙齢に負けず劣らずの艶めかしい腰つきになっている。男を誘う妖艶な動きだ。本人の性格を鑑みるに無自覚に行っているのだろう。
嘘みたいだろ。これでもこの子16歳なんだぜ。
(まだ行方不明の叔父さんごめんなさい……)
「ほら、もうどいたどいた」
「はぁーい……」
腹の上の芳佳を退かしながら「このままではお宅の芳佳さんは一足早く大人への階段を踏まんでしまいそうです」と宮藤叔父さんに腹の中で報告した。
でもこうなったのは、芳佳が思春期という多感で大事な時期に貴方が仕事にかまけて行方不明になってしまい、その穴埋めに僕が駆り出されたからなので文句を言われる筋合いは無いと主張します。
「……ん?」
僕はベッドから起きあがろうとしたのだが、なにかが足にまとわりついている感触がする。僕の下半身はまだ布団に埋もれているのだが、よく見れば一人分の足腰では盛り上がらないであろう起伏ができていた。
怪しく思い、布団を捲るとそこには――――。
「おはようございます、お兄さん♡」
「わぁ!? リーネ!?」
――――瞳にハートマークを宿したリネット・ビショップ曹長がいた。
「お、おはようリーネ……」
「あー! リーネちゃんだけずるい! 私もお兄ちゃんと一緒に寝たかったのにー!」
「ふふっ、ごめんね芳佳ちゃん。じゃあ芳佳ちゃんも今から一緒に入ろ?」
「うん!」
「うん」じゃねーよ、ナチュラルに布団の中に入ってくんなよ。朝飯だっつって僕を呼びに来たんでしょうに。
「ほら、朝ご飯食べるんだろ。出てった出てった」
「それにしてもお兄さん、昨日は少し遅かったですね……」
「いや出てけよ……。まぁ、昨日はサーニャから魔導針で他のナイトウィッチとの交信のコツを聞いてて、どうにか俺も魔導針を会得すべく――――ちょ、ちょっと待て」
リーネの発言で背筋に悪寒が走った――――。
昨夜は、深夜三時までという中途半端な時間だったがサーニャと一緒に夜間哨戒任務にあたっていた。そこから帰投しストライカーやら何やらを外して僕が寝付いた時刻は午前4時を回っていた。それもサーニャと話し込んでしまいいつもよりも30分ほど長く飛行していたが、それを知るのは一緒に飛んでいたサーニャのみ。そして寝る前の記憶は朧気だが、部屋の鍵はしっかりと施錠したし布団の中にリーネはいなかったと断言できる。
以上を踏まえると……リーネは僕が帰投する前から僕の部屋のどこかに隠れて見ていたという事だ――――。
「リーネ……お前まさか、僕の部屋に昨日から……!?」
「はい、クローゼットの中にいましたよ?」
「何当たり前みたいな顔してんだよ怖えぇよ!? ジャンルがホラーになっちまうよこのままだと!」
「あ、ご、ごめんなさい……。お兄さんを怖がらせるつもりは無くって……」
「それ何回目だ? ん? あの手この手で毎回やり口変えてるけど、僕が怒る度にしおらしくなる手口はもう十回は超えてるよな?」
一応形式として驚きはしたが、内心では「またか……」と呆れていた。彼女が僕の与り知らぬところで暴走する事は度々あり、その都度怒ってはしょんぼりとしょげかえるリーネを見ては(ちょっと言い過ぎたかな、可哀想だなぁ)と思って見逃してきたが、今回ばかりはヤバすぎる。『意味が分かったら怖い』系列のホラーで、危うく萌えアニメから怖ぇアニメになる所だった。
「リーネ、頼むから僕の部屋に了承無しに入ってくるのやめてくれ……」
「えー」
「『えー』じゃありません! 僕の我慢にも限度があるの!」
「じゃあじゃあ、私みたいに朝ご飯ですよーって起こしにくるのは? これは良いよね! じゃないと私のお兄ちゃん成分が不足しちゃうよ!?」
「んだよ『お兄ちゃん成分』って初めて聞いたよ……。まぁ、そういう形式的なもんなら別にいいけど、個人的な理由で入ってくんなよ。プライバシーってもんがあんだよ、僕にだって」
「はい……」
「はーい!」
「分かればよろしい。じゃあ僕は着替えるから先に行ってなさい」
「「えー!」」
「『えー』じゃない!」
がっかりと肩を落とす二人を部屋から追い出し、僕は寝間着から軍服に着替えた。
にしても、今朝の事も含めてずっと気になっていることがある――――。
芳佳が甘えてくるのは分かる。父親代わりに僕が芳佳の側に居続けた結果、男とも父親とも兄ともつかない特別な関係になっているなと自覚はあった。
けどリーネがこうなった理由がマジで分からない。僕は彼女と特別な思い出を共有したことはないし、初期の頃の僕とリーネは年相応の距離の取り方だった。年の差が二つあるから学生の先輩と後輩、みたいな。階級も僕が上だったから畏まって面と向かって話し合うことも少なかったし。
でもどこかで彼女が、僕に固執するきっかけがあったんだと思う。ただ僕には分からない。彼女に問い質しても「覚えていない方が悪いと思います」と頬を膨らませてツーンと突っぱねられてしまったから、間違いなく僕に固執するイベントはあったんだ。けど、それがどうしても思い出せない。
とまぁ色々懐かれる理由はあるのだが、やはり一番は――――。
「それにしても、男の人と一緒に戦うなんて想像もできなかったな……。それに同じ屋根の下で寝泊まりなんて……」
「お兄ちゃんは昔から男の人としての自覚が薄くって、同性よりも私達の輪に混ざって遊んでたからね。今はまともになったけど、油断するとすぐ上半身裸になるんだよ。気をつけないと女の人に襲われちゃうよって言ってるのに!」
「お、お兄さんの裸……芳佳ちゃんそれは……」
「想像しただけでも鼻血でるよね……」
「うん……」
ドアの外から段々遠ざかる会話からも分かる通り、ストライクウィッチーズの世界が男女逆転していたからだろう。
もしもこの真実に気づかなければ、ただのウハウハハーレム人生まっしぐらだっただろうに。真実は時として、知らない方が良い時もあるとはよく言ったもので……。
「「……」」
見ろ、今もこうして僕が着替えようとしているのに、扉の隙間から芳佳とリーネが息を潜めて覗き込んできている。男の素っ裸を女性が見て興奮するのかは、前世では異性との接触が乏しかったため女性の性的知識が不足していることを否めないのだが、それでもこれは異質であると理解していると同時に、これが世の中の普通であることも理解している。
彼女達は、男のヌードを――――それも上半身だけが裸であっても性的興奮を覚えるらしい。それがダビデ像のように無駄な脂肪のない肉体美に溢れているかどうかは関係なく、ただ半裸というだけで、だ。
「はよ食堂に行けや! 散ッ!」
僕が怒鳴ると、扉の外から駆け足で去っていく音が聞こえた。恐らくこれで完全に僕を監視する目は消え失せただろう。僕は寝間着から軍服に着替えて、朝食を取るべく廊下へと出た。
「あら、おはようございます」
「ん、おはよペリーヌ」
食堂へ行く途中、ペリーヌとばったり出くわしニッコリ笑顔でご挨拶。アニメ初期のツンツンメガネはどこへやら。身に纏う雰囲気は柔らかく、お辞儀をする様はまさしくガリア淑女。パーフェクトなお嬢様っぷりだ。
「もしかして、僕のこと待っててくれた?」
「いいえ、たまたまですわ。本当に偶然ですわよ? えぇ、宮藤さんとリーネさんが貴方の部屋から出てきた時からのぞき見ていた訳じゃありません。偶然、バッタリと貴方と鉢合わせた、それだけですわ」
聞いてもいないのにやたらと偶然を強調してくる。そこまで言われると逆に怪しまれるとは思わないのだろうか。つーか、そもそも僕とペリーヌの部屋割りは対称的で偶然出くわす要素無いんだけど。
「ま、突っ込むだけ野暮ってことか……」
「つ、突っ込むですってぇ!!?!!? そんな、こんな朝っぱらから廊下でなんて……なんて破廉恥な……ッ! で、ですが、他ならぬ貴方がそう言うのであれば……私は身も心も捧げるつもりですわッ!!」
「……」
絶句。僕の言ったことを官能的に変換して独り相撲を取る彼女に、ただただ絶句――――。
一応、彼女がこういう風になるのは僕と二人きりの時だけで、そうなってしまった理由も想像が付く。
これは何ものにも代え難いが――――僕はペリーヌの家族は守った。
記憶が戻った時から、これだけは絶対に「やらねばならぬ、僕がやらねば誰がやる」と意気込んでいたポイントだ。処罰上等の覚悟でガリア撤退戦に参加し、彼女の家族やガリアの人々を数多く守れた時はとても達成感に満ちていた。無論、当時の僕はとても若く命令違反も大量にしていたので出撃許可が下りていなかったのだが、扶桑空軍の命令に背いて秘密裏に出撃した。そのため僕がガリア撤退戦に参加したことは機密事項である。
アニメしか視聴していない組の僕だが、誰も彼もが不幸を背負うこの時代で、それを感じさせまいと気丈に振る舞うペリーヌの背景を知った時は「何だそれ……ペリーヌの人生僕以上にハードモードすぎだろ……」と病室で絶句したのを覚えている。だから彼女は必ず救うと決めていた。
と言っても、ガリアがネウロイに襲われる頃にはあっちこっちの戦場に顔を出していたから『守れるだけ守ってみせる』をモットーに掲げるようになっていたので、気づいたら彼女の家族も救っていた。というのが本音だ。
とまぁ流れで助けたことになったのだが、彼女に感謝された時は人知れず自室で泣いたのも事実だ。
僕の前世は、齢19歳で夭折した親不孝者。録に親へ感謝を述べることも許されず、自責の念に囚われ続け、ただの金食い虫のまま死んでしまった。だから親に何も告げることなく死別してしまう辛さを知っている。
その辛さは、誰よりも、知っているとも――――。
『私を……私達を助けてくださって、ありがとうございました』
だから彼女にお礼を言われ――――ペリーヌの家族が今も生きていて手紙でやり取りしていると伝えられたときは、報われて達成感に溢れたと同時に安心して泣いた。
(あぁ、彼女はいつか家族の元へ帰れるんだな――――)、そう思うとまた泣いた。
そして僕の前世が重なって見えて再三泣いた。僕はこんなにも涙もろかったのか。
また、僅かであれば歴史の修正力に抗えることの証明にもなったので、天に向かって中指を突っ立てたのも忘れていない。
「み、宮藤大佐……? 棒立ちになってどうかしましたか……?」
「……ペリーヌが正気に戻るのを待っていたんだよ」
それがどうしてこうなってしまったのか。まぁ彼女が女性であり――――。
「こ、コホン……。では遅ればせながら、私が朝食までエスコートして差し上げますわ」
――――僕が唯一の『男性ウィッチ』だからという理由が大半を占めているだろうな。これで僕の性別が女だったら、アニメ版坂本さんと同じポジションに収まっていただろう。
さて、先の覗き見もそうだったが、元の世界の感性だと「いやそれ逆だろ」と思うことがままある。これもその一つで、紳士が淑女をエスコートするのではなく、淑女が紳士をエスコートするのがこの世界の常識らしい。最初の頃は本当に戸惑ったもんだ。
「……うん、でもエスコートは大袈裟じゃねーの?」
「そんなことありませんわ! 貴方は世界で唯一の男性ウィッチとしての自覚が足りていませんし、それにそもそも男性としての危機意識が低すぎます。道中でどんな女狐や豆狸に襲われるか……ガリア淑女たるもの、紳士を守ることが矜持でしてよ!」
「そんな食堂まで100mも無いのに……」
御覧の有様だ。男女の観念が丸っと反転してる。お淑やかにスカートを摘んでお辞儀する仕草は前世と変わらないのになぁ……。
彼女も最初期の頃はアニメ通りツンケンとしていた。しかし僕が介入したことで色々と改変がなされ、家族と領土を喪った悲しみがガリアを失った悲しみだけに代わり、それとなく坂本さんに抱いていた親愛は敬意になっていた。だって坂本さんがペリーヌを501に誘いに行ったとき僕も同行してたもん。一目見たいなーって。
おまけにどこで情報を仕入れたのか、一生懸命ガリアを守ったウィザードが僕であったと知ると態度は一変。上記のお礼も言われ、それまでの態度を改めて謝辞をつらつらと述べてきた。それを見ていた事情を知らない芳佳とエイラがギョっとして、しばらく腫れ物扱うような態度でいたのはとても面白かったよ。まぁガリアを守ったって言っても原作よりも死者を少なめに抑えただけで、歴史の修正力には抗えずにネウロイにガリア侵略を許しちゃったんだけどね。
それでツンツンした態度をとり続けていた反動がやってきてしまい、こうして僕に擦り寄ってくる子猫になった。いや好意をひらかしてくれるのは嬉しいんだけどね? でも僕まだ誰ともねんごろな関係になる予定は無いからね?
あ、すっかり忘れていたけど僕の名字は芳佳ちゃんと同じ宮藤姓。芳佳を宮藤呼びする面々は、僕に「大佐」と階級を付けることで区別してる。中には名前で呼んでくれる人もいるが。
「つべこべおっしゃらないで来なさいな。ほら、行きますわよ!」
ごく自然に腕を組んできた。これで食堂に入ったら一悶着ありそうだが離そうとしてくれない。嗚呼……ペリーヌが「少佐~! 坂本少佐~」と坂本さんにべったりだったアニメ一期が懐かしい……。