貞操観念逆転した魔女の世界で   作:宇賀神

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三話

 僕は魔力を持った男、通称『ウィザード』。別にオフィシャルな呼び名でもないし呼び慣れていない人は『男性ウィッチ』と呼ぶ。で、当然ウィッチなわけだからネウロイと戦う。そのために501にゲストとして招かれたのだ。

 

「宮藤、出ます!」

 

 だからネウロイ出現報告があると、こうしてストライカーを履いた僕は大空に向かって射出される。

 敵は大型ネウロイ一機だけ。奇をてらったデザインではなくシンプルな航空機タイプで戦いやすかったが、コアが内部で移動しまくるため破壊までの時間を要する厄介なタイプだ。

 

『宮藤大佐、そっちに小型ネウロイの群れが行きましたわ!』

 

 ペリーヌからインカム越しに報告された通り、空を飛ぶ僕を追尾して小型ネウロイが大量に突進してきていた。一体どこから現れたのか。

 

「了解、こっちで対処するからそっちは大型ネウロイを落としてくれ」

 

 こういう手合いはレーザー等の遠距離武装を持っておらず、数にモノを言わせたインファイトを仕掛けてくる。ペリーヌの雷を放射する《トネール》や、ハルトマンの風を操る《シュトゥルム》など、AOEが有効打なため彼女達に助力を申し出たいところだが、彼女達は大型ネウロイと戦っているため手が離せない。

 だが、僕にもこういう雑魚を散らす方法は心得ている。

 僕は大型ネウロイと交戦する本隊から大きく離れた。1kmほど離れてもまだ、疲れを知らない小型ネウロイは追尾してくる。

 チャンスだ――――。

 

「どおおおおりゃああああああぁぁッ!!!!」

 

 僕はシャンデルしてシールドを展開し、追尾していた小型ネウロイの群れに突っ込んだ。端から見れば自殺行為に見えるが、僕が展開したシールドの大きさを見てそれは勘違いであったと気づくだろう。シールドは円錐型で直系500mにも及び、また三つのシールドを重ねているため強度も高い。有り体に言えば、僕の『固有魔法』と宮藤家特有の底なし魔力量をふんだんに使ったルッキーニ戦法のパクリだ。

 しかし困ったことに、僕のシールドは耐久力があるもののストライカーのスピードはそこまで高くなく破壊エネルギーとしては物足りない。ルッキーニの『光熱』みたいにシールドに接触しただけで全てのネウロイは壊れてくれないのだ。

 一応、当たり所が悪くコアが壊れた小型ネウロイは破片を散らして崩壊していったが、群れを通り抜けた僕の正面には、シールドに押された衝撃で方向感覚の狂った小型ネウロイが浮遊している。

 

「良い的だ」

 

 僕は肩にかけていたサブマシンガンを乱射した。シャーリーが使っていないので借りたトンプソンM1A1だ。特に武器に対して愛着も執着も無いし、使えれば何でも使うの精神なので他の隊員からその場の気分で武器を借りることはままある。何なら坂本さんが怪我でフライトできない間に烈風丸を使わせてもらったこともある。

 

「1、2、3、4――――」

 

 フラフラとその場に漂うだけの小型ネウロイは簡単に落ちていく。途中まで撃墜数をカウントしていたが、それも面倒になったので止めた。マガジンを交換して、構えて、撃つ。撃つ。撃つ――――。

 

 後から思えば、僕はこの時トリガーハッピーになっていたんだと思う。小型ネウロイを破壊するのに夢中で周りが見えていなかった。大型ネウロイと交戦する501の面々から距離を取っていたから、誤射する心配も無いというのも拍車をかけた。

 

「ふぅ……ん?」

 

 小型ネウロイを一掃したところで、急に僕の視界が暗くなった。何かが太陽光を遮ったのだ。

 

『宮藤大佐、真上です!』

 

 かなり遠くで大型ネウロイと交戦しているはずのサーニャから無線が入った。彼女に誘われるまま大空を見上げる。気づいたときには遅かった。ハニカム構造を幾重にも重ねた中型ネウロイが、先端部に真っ赤なエネルギーをチャージしているのが見えた。照準は僕に合っている、機械のように放たれるレーザーは寸分の狂いなく性格に僕を撃ち抜くだろう――――。

 僕は冷静にシールドを展開した。余裕で間に合う。そんなに焦る必要はない。ただ武器がトンプソンだけだとちょっと物足りないかな……。

 なんて考えていたら、今度は坂本さんから無線が入った。

 

『下にもいるぞ!』

 

 

 まさか――――。

 

 

 そう思って下を向いた。そのまさかだった、そこには僕のマウントを取っている中型ネウロイと同じ型のネウロイがいた。先端には赤い光が灯っている――――。

 僕の知る限り、多方面にシールドを展開する技術は習得しているウィッチはいない。一カ所に魔力を集中させることがシールドを展開するコツであり、神髄でもある。それをばらけさせてシールドを多角的に展開させるのは至難の業。少なくとも僕はそれに成功しているウィッチは知らない。

 

 つまり上下に挟み撃ちにされた僕は詰み――――。

 

 

「ッ!?」

 

 撃墜を覚悟した僕だったが、衝撃が訪れることはなかった。

 

「――――!」

 

 僕の真下でネウロイが爆発したからだ。ネウロイは甲高い摩擦音を立てて壊れていく。次いで、上にいるネウロイも爆発四散。あっという間に窮地は脱した。

 奇跡でも起こったのかと神様に感謝しそうになったが、インカムを必要としないくらい近くに、不相応なフリーガーハマーを担いだ女神がいたため神への祈りは取り下げた。

 芯がしっかりとしているが、どこか儚げで庇護欲を掻き立てられて守りたくなる天使――――サーニャちゃん。アニメでも十二分に可愛かったが、改めてこちらの世界でも整った顔立ちは健在でエイラが惚れるのも分かるくらいの美少女。そんな彼女が僕を守ってくれた。

 

「な……ナイス、サーニャちゃん! マジで助かった!」

 

 グッとサムズアップすると、あちらも手を振り返してきた。しかしその表情はどこか優れず、頬から血の気が引いているように見える。危機一髪だったため、きっと僕の顔もあれくらい青くなっているだろう。

 

『フゥッ……。冷や冷やさせるな……。ネウロイの殲滅を確認。総員、速やかに帰投せよ!』

 

 坂本さんに従い帰投すべく、サーニャの側へと飛んでいった。

 

「ありがとうサーニャ。マジで助かったよ……ナイスカバー! もう走馬燈が一瞬頭を過ぎっちまってよ、三途の川渡りかけたわ」

「フフッ、間に合って良かったです……」

「しかしあの中型ネウロイどっから出てきたんだろうな。僕たちが戦ってるときはいなかったよね?」

「私達が交戦していたネウロイの体内から中型ネウロイが射出されたんです。それを魔導針で感知して、慌てて飛んできて……」

「あーなるほど……。じゃああの突然現れた小型ネウロイも」

「はい、多分あの大型ネウロイの体内から……」

 

 サーニャと会話しながら空を飛んでいるが、彼女の顔色は益々悪くなっており青白くなっている。

 

「サーニャ、顔色が優れないけど大丈夫? どっか怪我でもした?」

「実は、魔力を使いすぎて疲れちゃいました……」

「あー……。昨夜に夜間巡回して帰ってきて、それから一時間も待たずに出撃。ネウロイを探知するためにずーっと魔導針出しっぱなしだったもんな……。とりあえず肩貸すよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 フラフラと力なく飛び続けるサーニャに肩を貸して、基地へと帰っていくみんなの背中を追った。しかしその間も、サーニャは何かを言いたげにチラチラとこちらを見ては青白かった頬に朱が差している。やはり、男女逆転した世界だから友達以上恋人未満のエイラだけでなく、いやが上にも異性を意識してしまうのだろう。

 

「えぇーっと……どうかした?」

「あっ、いえ! その……今から寝ても今日の夜間哨戒までに魔力が回復するか分からないので、できれば魔力を分けて欲しいのですけれど……」

「マジで……? まぁサーニャが欲しいっつーなら別に良いけど……いいの?」

「お、お願いします! 夜間哨戒に影響が出てからじゃ遅いんです! 是非、是非私に魔力をください……!」

「わ、分かった! 分かったから急にアクティブになんなって!」

 

 若干早口で捲し立てるサーニャの迫力に押された僕は、固有魔法を発動した。

 

 一握りのウィッチにしか使えないとされる固有魔法は僕にもある。特に名前は決めていなかったが、その異質な能力から知り合いのウィッチの間で『魔力タンク』と呼称されているようだ。

 

 内容は「魔力を他人に譲渡できる」という至極単純な能力だが、他にも二つ、特殊なメリットがある。

 

 一つは、魔力を譲渡するにあたって相手が魔力を保有しているかの有無は関係ないこと。通常、ウィッチは二十歳を境に魔力が減衰していく『アガリ』という時期を迎えてしまう。だが彼女達に僕が固有魔法を使うと『アガリ』がピタリと止まる。これに関してはウィッチの間で議論が白熱したのだが、なし崩し的に僕が普通の女の子をウィッチに目覚めさせてしまったことがキッカケで一つの結論に至った。どうやらこれは、僕の『魔力タンク』が"元々ウィッチに備わっていた魔力の器に魔力を流し込む"のではなく、僕の中にある"魔力を溜める器をそのまま譲渡する"かららしい。つまり古い器を新品に取り替える、若しくは新しい器をそっくりそのまま渡せてしまうのだ。これによって『アガリ』の時期が止まる、もしくは先延ばしになる理由が解決された。

 

 それと同時に僕の『固有魔法』は世間一般に流布されることはなく隠蔽された。当たり前だ。普通の人間をウィッチに造り替えるなど神に対する冒涜であり、反逆行為であり、ウィッチ不足に喘ぐ昨今からすればどこの国も喉から手が出るほど欲しくなる兵器製造能力――――。

 だから僕の固有能力に関しては箝口令が敷かれた。幸いにも噂が広まったのは扶桑ウィッチの間だけで、また魔力を譲渡した相手にも、男という特殊な立場を生かして「内緒にしてね」と色気たっぷりのウィンクもセットでやったから情報は漏れていない。……と、思いたい。

 

 もう一つのメリットは、僕の体内で常日頃から魔力を溜める器が生成されていること。これによって宮藤家特有の素質としてあった魔力量と合わさって、悪魔じみた魔力量を誇る。先ほどのような馬鹿でかいシールドを展開してもこれっぽっちも疲れないし、24時間のフライトも余裕で行える。

 

 以上の二点からダブルミーニングで『魔力タンク』と名付けられた。

 

 ただし、『魔力タンク』を他者に行使する際に最大にして最低最悪のデメリットがついて回る。

 

 

 それは――――。

 

 

「いっつぅ……。はい、舐めて」

「あぁ……ありがとうございます……!」

 

 僕は自分の手首をナイフで切って、垂れてきた血をサーニャの口元にあてがった。

 

 これがデメリット。

 

 『僕の体液を他者の体内に入れなければならない』

 

 人体から流れ出る液体など、自分にとっても相手にとっても不快の塊でしかない。汗であれ、唾液であれ、血液であれ。それが親族でもない他人であれば尚更だろう。

 ハッキリ言って、僕はウィッチに体液を飲ませるのが心底嫌だった。僕は軍人だ。それに体質なのか新陳代謝もそれなりに高い。すぐに汚れるし垢や頭垢も皮膚表面上に付着している。風呂やシャワーを頻繁に浴びても拭えない不潔感があるのに、体を洗う余裕のない現地で汚れた皮膚を口元に運ぶのが、ましてや体液を飲ませるのが本当に嫌だった。

 それでも彼女達から強請られたら僕は飲ませるしかない。それがこの世界での、新しい体を得られた僕に託された唯一の"役割"であり、また前世で誰かに頼らなければ生きられなかった僕が、誰かに頼られることに喜びを見出していたからだ――――。

 嗚呼……僕の自己満足に付き合わせるのが申し訳なくなる。自己嫌悪してしまう。

 

「……ごめんねサーニャ、こういうやり方でしか魔力を渡せなくて。他に手だてがあればいいんだけど、まだ研究中でさ……」

「じゅ……ちゅるっ……」

「あれ……サーニャさん? もしもーし?」

「ジュルッ、ジュゾゾゾゾッ……。んっ、ふぅ……んっ……」

 

 それはそれとしてもう一つ嫌なことがあるのだが、それがこれ。『僕の体液には麻薬のような中毒性がある』。

 魔力を潤沢に保有する僕の血液が余程美味しいのか、ウィッチに血を吸わせるとまるで蛭のように吸い付いて離れなくなってしまう。今も、僕がサーニャに肩を貸して帰投している最中だと言うのに、彼女は悩ましげな声を上げながら抱きついて離れない。体液に変な成分は入っていないと思うのだが、血を吸ったウィッチによると麻薬のような中毒性があるそうで、一度吸ったら何度も何度も血を吸いたくなるらしい。それが魔力の充足している日常であっても。吸血鬼か何かか?

 そのせいで僕は、誰とは言わないが一度貧血で倒れるまで吸われたこともある。

 

『おい康夫。お前また血を上げてるな』

 

 前方を飛んでいた坂本さんからインカムの回線を繋いで喋り掛けてきた。今更だけど僕の本名は宮藤 康夫(やすお)。仲の良いウィッチからは私的な用事があるとこうして名前で呼ばれることがある。

 そう言えば今更だけど、坂本さんはアニメだとアガリも近く妖刀・烈風丸に魔力を吸い取られて飛べなくなったが、僕の固有魔法によって今日も元気にストライカーを装着して飛行している。芳佳の魔力も枯れることはなく、501が解散された時に一度ウィッチを引退して医療の道を歩むべく劇場版に沿ってガリアを訪れていたが、復活の兆しを遂げるどでかいシールドも発動しなかった。あの場には僕が付き添いでいたからね。で、501が再編成されるにあたって僕と一緒に再入隊した。

 

「まぁ、このままだと夜間哨戒に支障を来すってサーニャが言うんで仕方なく……」

『気軽に飲ませるなと言っただろう。お前の血液は中毒性が強すぎるんだ』

「僕もそう思ったんですけど、サーニャは昨晩から今朝までずーっと出撃しっぱなしでめっちゃ窶れてたんで……――――」

『サアアアアアアアァァニャアアアアアアァァッ!!!』

「あーうっせぇ! 静かにしろエイラ!」

『サーニャちゃんだけズルイ! 基地に戻ったら私にもちょうだいお兄ちゃん!』

『私も飲むー!』

「芳佳もルッキーニも必要ねーだろ……。おいサーニャ、大丈夫か?」

 

 適当にインカムから聞こえるヤク中共をあしらい、まだ手首に吸い付くサーニャに語りかける。ぶっちゃけそろそろ僕がやばくなるから止めてほしいんだけど。

 ちなみにエイラは史実通りサーニャと仲がいいのだが、そういう関係性を持ちたがっているという話は聞いておらず、普通に男性に欲情するノンケともバイセクシャルとも取れるどっちつかずな変態に進化していた。サーニャの方もまだ本意を図りかねているが、それはまた別の話。

 

「プハァッ……。はい、ありがとうございました。お陰様で、今日の夜間哨戒も行えそうです」

 

 一滴も逃すまいと、口の端に垂れた僕の血をペロリと舐めとったサーニャがニッコリ笑顔でお礼を言っていた。儚げな薄幸美少女という妹系の容姿と性格をしているが、男性にガツガツくるウィッチの中で常識人というだけで、存分に甘やかすに値する人物だと思っている。僕の血でよければ幾らでも飲ませてあげよう。サーニャマジ天使。

 ……この性格が打算の上でやっている演技だとしたら怖すぎるが、それは考えないでおこう。

 

「ごめんな、こういう方法でしか魔力あげられなくて。汚いから嫌なんだけどさ……」

「い、いえそんな! 宮藤大佐の血が汚いなんて、思ったことも無いです……!」

「ハハッ、フォローありがとう。みんな同じ事言ってくれるよ。僕からしたら他人の血を飲むなんてのは絶対に嫌だけどね」

「私達も他者の血を飲むのは嫌です……。それが魔力を含んでいたとしても、私は飲みません。でも私は、宮藤大佐の血だから飲んでいるんです。誰でも良いわけでは無いんですよ……!」

「あーマジで可愛い……本当にできた子だなぁサーニャは」

 

 僕が傷つかないよう熱弁を振るうサーニャマジ天使。多分これは男女逆転しているからサーニャは僕の気が沈まないよう言葉を選んでいるんじゃなくて、逆転していなくてもこういう事言ってくれると思う。アニメで見ていたサーニャだったら同じこと言ってくれそう。

 サーニャと彼氏持ちのミーナ中佐くらいじゃないか? 男女逆転した世界で、性格があまり変わっていないウィッチって。

 

 

『サアアアアアアアアアアアニャアアアアアアアアアァァッ!!!』

 

 

 ――――訂正、エイラも変わってねぇ。

 

 

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