「また会いましたね」
そう言って、穏やかに微笑んでいるハリエットを見下ろす。⋯⋯⋯女の子、だからなのだろうか?前のハリー・ポッターと比べるとかなり落ち着いた印象を受ける。
自分は死んだはずだった。普通に老衰で。
入学許可証が届いた時に全てを思い出して、混乱で頭が真っ白になった。
思い出すだけでぞっとするのは、あの人が復活した後のこと。
父上が日記を私的利用し、破壊を許したことの罰で、命令を受けたこと。
また、あれを繰り返すのか。そう思うと顔から血が抜けた。
マダム・マルキンの店で制服を待っていると、「失礼します」と澄んだ声がして、見ると黒い髪の少女が隣に腰掛けていた。
あれ。前は⋯⋯ハリー・ポッターだったはずなんだが。
不躾にならないように観察する。艶やかな黒髪。ポッターと同じアーモンド形の緑の瞳。そして⋯⋯前髪の隙間から僅かに窺えた、古い傷跡。
「⋯⋯⋯ハリー・ポッター、か?」
思わず問いかけてしまった。
学生時代、ポッターたちとはかなり仲が悪かった。卒業してから和解できたのだが、その分後悔もしていた。
プライドやらなんやらが邪魔して全く素直になれなかったが、もっとましな関係性は築けなかったのか、と。
彼、否彼女がもしも自分と同じように”前”を覚えていたら⋯⋯⋯という期待もあった。
まあ、その期待は、外れてしまったが。
彼女は、立場はハリー・ポッターと同じだった。だが、ハリーとは全然ちがう少女だった。
ハリーは闇の帝王のことを名前を聞くことを嫌がる人の前でも堂々とヴォルデモートと呼んでいた。だがハリエットは名前を直接言うことを避けた。だが恐れているわけでもないようで、つい驚いてそのことを追求すると「じゃあヴォルで」と言っていた。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯イギリス魔法界を恐怖と絶望に突き落とし、力を奪われて失踪中の今もなお恐れられている、自分の両親を殺した史上最悪の闇の魔法使いを、愛称呼び⋯⋯⋯。英雄殿はやっぱり大胆だな。ハハッ
また、僕の家名を聞いた時、すぐに「死喰い人」という単語を出してきた。
⋯⋯本当に、彼女は僕と同類じゃないのだろうか。正直彼女との会話は11歳としているように思えなかった。
そして入学の日。
列車が出発して少ししてから、クラッブとゴイルを置いて一人ハリエットを探した。
僕は決めた。直球で彼女に前の記憶がないか聞くと。そして記憶のあるなしに関わらずポッターの苦難に手を貸すと。
扉の前で立ち止まり、深呼吸をする。この先に、ロン・ウィーズリーはいるのだろうか?
扉の先にロンはいなかった。
代わりに、酷く美しい人間がいた。恐ろしいほど顔が整っているが、そのせいで性別が判然としない。
教員だろうか?前では、こんな人物はいなかったはずだ。
いや、それを言ったらそもそもポッターは性別が違う。今いる世界は前といろいろ異なっていると考えた方が良いだろう。
「⋯⋯あの、こんにちは。あなたは?」
「ん?私かい?こんにちは。初めまして。今年から教員となったシカ・マドゥだ。こちらのポッターさんとは友達なのかな?」
「マルフォイ君です。制服を購入する際色々お話したんですよ。」
「マドゥ先生、ですか。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
軽く頭を下げる。マドゥはずっと微笑を浮かべていた。
「⋯⋯⋯なあ、ポッター、ちょっといいか?話したいことがあるんだ」
「⋯⋯はい、いいですけど⋯」
「ああ、二人きりになりたいの?じゃあ私が移動してあげるから、ここを使っていいよ」
「良いのですか?」
「私はほら、荷物も少ないしね(⋯それに私のスペースがないならシノアの中にもぐるなりやりようはあるしねえ)」
気を利かせたマドゥが出てくれた。⋯⋯顔が良い教師でも、ロックハートとは大違いだな。
「あは、気になりますか?マドゥ先生のこと。言っておきますけど、あの人は男ですよ」
「⋯⋯男、なんだ。授業は何かな」
「さあ?それはついてからのお楽しみだと言ってました」
「で、ドラコ君。わざわざ二人きりで話したいことって何ですか?は!まさかまだ学校ついていないうちから告白――!?」
「⋯⋯は、はあ!?こくっ⋯⋯何言ってるんだポッターそんなわけ⋯」
「まあそれは冗談として。で、何ですか?」
「⋯⋯⋯」
なんだろう。遊ばれている気がする。
「⋯⋯単刀直入に聞きたい。別にふざけているんじゃないんだ。」
「はあ」
「⋯⋯ポッター。君に、前の記憶はあるか?」
「⋯⋯前、とは。具体的にどのような?」
「⋯そうだな。少し、僕の話をするよ⋯⋯」
「で、あなたは今、人生をやり直してる⋯⋯つまりは逆行者だと。で、色々事件に巻き込まれるであろう私を手助けしたい、と。そういうことですか」
⋯⋯やっぱり、相当頭が良い。少し話しただけでほぼ全て理解してくれた。
「⋯⋯というかあなた、大丈夫なんですか?」
「⋯⋯なにが?」
「あなたのお父様は死喰い人。ヴォルが復活したらあなたも逃げられない。私のサポートをして大丈夫なんですか?」
「⋯それは」
考えてない、訳ではない。でもまさかここでポッターに指摘されるなんて。
「⋯⋯それでも、決めたんだ」
「⋯⋯そうですか」
「私は逆行はしていません」
「⋯⋯そうか」
「でも、転生はしています」
「⋯⋯⋯え?」
「前の私は柊シノア。日本帝鬼軍月鬼の組の、吸血鬼殲滅部隊に所属していました」
「⋯⋯日本⋯吸血鬼⋯⋯?」
「言っておきますがこちらの吸血鬼とは全くの別物ですよ。昼を歩き、月の満ち欠けの影響を受けず、十字架もニンニクも銀も効かない」
「それは本当に吸血鬼なのか?」
「吸血鬼ですよ。人間の血を吸わないと生きられませんから」
「まあ、お互いどの寮に配属されるかは分かりませんが、波乱万丈な学生生活を頑張っていきましょう」
「⋯⋯行きたい寮とかはあるのか?」
「⋯⋯別にどこでもいいのですが。しいて言うならハッフルパフ?」
「なんで?」
「まずスリザリンはダンブルドアの印象がちょっと⋯あれでしょう?グリフィンドールはスリザリンとの対立が凄くて面倒だし⋯優しそうな人が多そうじゃないですか。まあ選べるならハッフルパフに行きますよ。問答無用で帽子に叫ばれない限りは」
「ポッター・ハリエット!」
「スリザリン‼‼」
問答無用で叫ばれていた。彼女は僕と同じ寮になった。
組みわけの時の名前をポッター・ハリエットにしたのは、日本語訳でそう呼ばれていたからです