「スリザリン‼‼」
「ちょっと組みわけ帽子さん!?まだ被りきってすらないんですけど!?」
(しーちゃんなんですかその生暖かい目は!ヴォルもなに嗤ってるんですか!)
(⋯いやいや、嗤ってなんていないさ。良かったな。今はどうか知らんが、スリザリン寮は合言葉が純潔のままずっと変わらない寮で楽だったぞ?中の構造だってすでに知ってる寮だし、いいじゃないか。決して、普段ムカつく半笑いで俺様をからかいまくっているクソガキが、珍しく動揺していることに対して「ザマアw」なんて思ってないからな)
(つまり思ってるんですね⋯⋯もお)
半目になって周りを見る。
大広間はすっかり静まり返っていた。だれも私がスリザリンに配属されるとは思っていなかったようだ。
情報でスリザリン寮が良い印象を持たれていないことは分かっていたが⋯⋯
すっと立ち上がると、ようやくまばらに拍手が鳴った。
そのまま監督生に歩み寄り、笑顔で握手を交わし、そのままドラコ君の隣に着席する。
「一緒になりましたねえ」
「⋯⋯ああ、そうだな」
まあ、ドラコ君にとっては同じ寮のほうがサポートはしやすいだろう。そういう意味ではこれで良かったのかもしれない。
彼は非常に興味深い話をしてくれた。彼にとっての『前』。ハリエット・ポッターがハリー・ポッターだった世界。因みに話しきった時ヴォルは表情が凍っていた。
⋯⋯⋯話を聞く限り、ヴォルはハリーに倒されたというよりも、ただ自滅しただけのように感じたのだが。
少なくともこの10年一緒にいたヴォルが、そんな事態になるとはちょっと思えない。
それは魂が壊れているかどうかの違いなのだろうか。本体と会話したわけじゃないから分からないのだが。
「さて、食事の前に一つだけ伝えることがある。昨年度までマグル学を担当していたチャリティ・バーベッジ先生じゃが、諸事情で退職することとなった。今年度から新しい教員を迎える!シカ・マドゥ先生じゃ‼」
その言葉に、しーちゃんが被っていたフードを下し、立ち上がって一礼する。
数瞬の沈黙の後に大きな拍手と、いくらかの男女の黄色い悲鳴が聞こえる。まるでアイドルだ。
ダンブルドアの「わっしょい!こらしょい!よっこらしょい!」という掛け声で宴会が始まった。
(どうしたクソ爺)
「あの人大丈夫なんですか?」
「さあ⋯でも前も同じだったよ」
「へえ⋯」
食事はイギリスにしては悪くない――のだが、全体的に脂っこくて野菜が少なく、栄養が偏っているように感じた。
シノア時代にはあまり気にならなかったのだが、ダーズリー家の食卓を半分担っている今は気になる。近日中に厨房に行くことが決まった。
今学期の諸注意を受けた。最後の廊下に入るな、という注意だが――それならそこらへん一帯を完全に封鎖すればいいのに、と思う。絶対迷って入ってしまう人が出るだろう。怪我人が出てからでは遅い。学校の責任問題だ。
⋯⋯まあ、封鎖されている理由は分かる。賢者の石だ。おそらく別の場所での保管なり破壊するなりして、いかにも怪しい場所にヴォルの本体をおびき寄せたいのだろう。
まあ、ここまで大々的に怪しくしてしまうと、罠だと思われて逆に来ないと思うのだが⋯⋯
まあでも『前』では来たようだし、彼もそうとう追い詰められているのだろう。
おまけ
あの少女は、ジェームズではない。ましてやリリーでもない。なのに、あの子供の顔を見ていると、無性に心がざわつく。
ペチュニアのもとに――ダーズリー家に自分が赴いたのは、ダンブルドアの指示のためだ。
手紙を受け取って以降音沙汰のないハリエットを入学させること。それが自分の任務だった
「スネイプ‼‼何しに来たの‼ハリエットは渡さないわよ‼」
「ハリエットをお前らの様な危険な連中に引き取らせると思うのか‼?」
「おっさんがどんな奴だろうと、ハリエットの可愛さに目がくらんで、ストーカー行為に走るような男に僕の従妹は渡さない‼」
凄まじい歓迎を受けた。成程、忌々しいあの男とリリーの娘はこの家と良好な関係らしい。
⋯⋯⋯吾輩はストーカーなどではない。断じて。
それから暫く玄関で言い争っていた。いっそ押し入ろうかと思ったとき。
「⋯⋯⋯先程から随分声が響いていますが、お客さんですか?でしたらお茶を入れますから、中で会話したほうが良いと思いますけど。近所迷惑です」
綺麗だが、どこか冷めている女の声がした。
「は、ハリエット⋯⋯」
ペチュニアが呟く。あの少女が、ハリエットらしい。
年の割には低い身長。艶やかな黒髪に、黒い大きなリボン。幼いながらも整った顔立ち。
リリーと同形同色の、澄んだ瞳。
だが、リリーと違って、その目は感情を映していない。
ひどく冷たい目を半目にして、こちらを見ている。
そしてその無感動な目は――――
十年前 ゴドリックの谷
崩れた家。ベビーベットで眠る、額に小さな黒ずんだ稲妻型の傷がある赤ん坊。
床に倒れ伏す、赤い髪に緑の瞳の女性。
瞳孔が開いた、もうナニモ映すことのない、最愛の人の――――
「⋯⋯あの」
ハッと我に返った。
「どうしました?随分と顔色が悪いですけど。もうすぐ八月なのに、随分暑そうな格好してますねえ。熱中症にでもなりましたか?紅茶を入れますので、お飲みになったほうが良いですよ。家の前で倒れられても困りますし」
そう半目でへらへらと笑った少女。リリーの瞳を持つ少女。彼女の娘である証。
自分の渡す少しの情報からこちらのことを推測する様からは、リリーと同じように優秀であることが感じられた。
―だが、少女が動くたびに揺れる髪の色は、誰より憎いあの男の子供だという証。
「⋯⋯⋯⋯」
愛情、自責、憎悪、哀しみ、悔恨、懐かしさ、懺悔
様々な感情がないまぜになり、おかしくなりそうだった。
だが、それは閉心術で抑え込む。やるべきことがあるのだ。動揺など、してはならない――
「――さん、お客さん?」
「ッ⋯何かね?」
「どうしたんです?心ここにあらずといった感じでしたが⋯」
「⋯いや、すまん、何でもない。考え事をしていてな⋯」
これからあの少女にそれなりに会うことになると思うと、気が重くなった。
願わくは、自分の寮には来ないでほしい。まあ、来るわけがないだろうが。彼女の両親は二人ともグリフィンドールだったのだ。それに忌まわしきあの男の娘が、スリザリンに来るわけがない⋯⋯
ないはずだ。きっと。たぶん⋯