「あなたって、もうちょっと怖い女だと思ってたわ」
「え~そんな~こ~んなに優しそうな笑顔で日々を過ごしているのに~?」
「え、それ優しそうな笑顔のつもりだったの?」
「本心からの声やめてくれません?」
校庭で猫じゃらし片手に猫のノーちゃん(ミセスノリス)と戯れていると、そばで分厚い本を読んでいたハーマイオニーに話しかけられた。
ハロウィンのあの日以来、彼女とはよく交流する。この前は私とハーマイオニーとドラコとネビルとウィーズリーの5人で図書館で集まって勉強会をした。ネビルさんはどうやら薬草学がかなり得意らしい。話すときがとても明るく楽しそうだった。⋯⋯動く植物の剪定が得意なのに、どうして魔法薬では危ないことがかなりあるのだろう。いつもびくびくしているから、スネイプに脅えているのだろうか?
「優秀なのは分かってた。天才だと思ってた。どれだけ頑張っても、あなたのように速く上手く薬ができなくて。羨ましいし、ちょっと妬んでた」
「そうですか」
まあ仕方ないだろう。作ってきた年数が違いすぎる。それに私やドラコといったイレギュラーを除けば、間違いなく学年最優秀は彼女だ。飲み込みも速いし実技の成績も優秀。十分天才と言えるだろう。
「あなたの噂も、ちょっとあれだったし」
「噂?」
「氷みたいだ、感情がないんじゃないか、例のあの人があなたを殺せなかったのはそれを超える闇の魔法使いになる可能性のある魔女だからじゃないのか、とか」
「うはあ」
「実際、魔法薬学や飛行訓練の時にあなたを見てたけど、声も目もどこか冷たくて」
「そうですか?自分の顔は自分じゃわかりませんからねえ」
「⋯⋯⋯それで、その⋯⋯」
と言って、暫く言いよどむ。
「ハーマイオニー?」
「前に、私が本を置き忘れた時、届けてくれたけど⋯⋯⋯」
⋯⋯そんなこともありましたっけ
「⋯⋯そっけない態度で、ごめんなさい」
それが言いたかったらしい。
「⋯⋯いいですよ」
にゃあ、と、ノーちゃんが鳴いた。
校舎に戻って、階段を上っていく。
ノーちゃんは私があげた干し魚を咥えてどこかに消え去った。
これから、ハーマイオニーと別れたら、談話室に戻るつもりだった。
そう。本当だったら。
「⋯⋯⋯ん?」
上の方に、違和感を感じた。目線を動かす。
私の寮監が、セブルス・スネイプの背中が。
何故か迫ってきていた。
落ちたのだろうか。
―――避ければ、ハーマイオニーにあたる
巻き込まないように二、三段上にあがる。腕を伸ばす。受け止める。どさりと音が立った。
顔を確認する。気を失っている。いつも以上に、顔色が悪い。体温が高い。発熱しているらしい。かすかに、血の匂いがする。恐らく脚だろう。
「まったく、馬鹿ですか、あなたは」
振り向いて、ハーマイオニーを確認する。その後ろで、クィレルが呆けた顔をしていた。恐らく見られただろう。だがそれはどうでもいい。
「⋯⋯は、え?スネイプ、先生?って、ハリエット!大丈夫なの!?」
「ええ、私は全然⋯⋯ちょっとこれ運んできますんで、ハーマイオニーは先に戻っててください」
「⋯⋯へ?ちょ、ハリエット?」
階段を駆け下りる。目くらましと隠し通路を使って人目につかないように、スネイプの部屋に行く。
教室を通り抜けて私室に入る。鍵を念入りに掛ける。魔法と呪術を重ね掛けして、盗聴を防ぐ。
ベットにスネイプを下す。ズボンを切り裂く。ひどい状態になっている。筋肉の痙攣などは見られない。破傷風ではないだろう。まさか、狂犬病か?一応開発した魔法薬で初期症状の時までなら何とかなるが⋯⋯
鞄から検査薬を出す。
体液を摂取して薬に落とす。
⋯⋯なんだ、風邪か。免疫が落ちているのだろう。
氷枕と冷●ピタで額と首と脇を冷やす。スネイプの薬品貯蔵庫に行って材料を物色して、薬を調合する。
傷薬と風邪薬と包帯を持ってスネイプの元に戻る。傷口に薬を塗って、包帯を巻く。ふと視線を感じて顔を上げると、スネイプの意識が少し戻っていた。
じっと見ている。
ぼんやりと、私の顔を――目を、見つめて。
「⋯⋯⋯⋯り⋯りー⋯⋯?」
――
―――――。
くつくつと、何かを煮込む音で目が覚めた。
「⋯⋯⋯?」
身体が重く、意識がはっきりとしない。ここは⋯⋯我輩の部屋、か?
何故、ここにいる?ベットに入った記憶はない。そもそも自分は今まで何をしていた?
いいにおいがする。スープでも作っているのだろうか。⋯⋯⋯誰が?
寝返りを打つ。小柄なスリザリンの女子生徒が、こちらに背を向けて何かを煮込んでいた。
火を止める。少女が振り向く。それで彼女が誰だかわかった。
「⋯⋯ポッター⋯?」
「⋯⋯気が付きましたか、スネイプ」
何故だろう。普段よりも、声が数段冷たい気がする。
二つの器に何かを入れて、こちらに来る。
「食べてください。その後薬です」
有無を言わせない口調だった。
中身はポリッジ(オートミールのお粥)と、ジャガイモとリーク(西洋ネギ)のスープだった。
味は、かなり美味かった。だが、味わうには、部屋の空気が凍っていた。
ポッターが薬を手に取る。受け取ろうとしたが、何故か彼女は動かない。
「⋯⋯医務室に行けと、言ったでしょう」
ぐっ、と、言葉に詰まる。正直、マダムポンフリーが苦手なのだ。
「あなたは今日、階段で気絶して転落しました。落ちた先には生徒がいました。どういう意味か分かりますか?」
な、と思わず顔を上げる。ポッターは手の中の薬瓶を見下ろしていた。
「幸い、あなたの転落による被害はありませんでしたが⋯⋯体調管理くらいはちゃんとしてください」
ぐうの音も出なかった。
彼女は動かない。
ただ、薬瓶に視線を落としていて。
「⋯⋯ポッター?」
「⋯⋯⋯」
数瞬の後、彼女が口を開いた。
「私の親を殺す情報を売ったそうですねえ。死喰い人さん」
「⋯⋯え」