すっかり冬になり冷え込んだホグワーツの中庭に雪が舞い落ちる。
中庭にはハリエット・ポッターとハーマイオニーがいて、ミセスノリスやヘドウィグと遊んでいた。
彼女たちは最近よくノリスかヘドウィグと遊んでいる。
それに、先程から視線を向けている者がいた。
いつもは三つ編みに纏めている白髪をおろし、口元にいつもの微笑を浮かべている。
真っ白な髪と肌は、舞い落ちる雪にひどく映えている。
「マドゥ先生」
「⋯⋯ああ、ダンブルドア校長。なんでしょうか」
「先程からあの子たちをずっと見てなさるが、どうかしたのかのう?」
「ああ⋯仲がいいなと思いまして。長年の対立が深いあの二寮では、珍しいでしょう?」
「⋯⋯そうじゃのう」
マドゥはいつも自然な表情を崩さない。会話に不審な様子を見せない。開心術でも、ごくごくありふれた情報しか出てこない。
一見、怪しいと思うようなところは、全く見られない。
だから最初、彼が教員になりたいという話を持ってきたとき、承諾したのだが⋯⋯⋯
「ハリエットと、よく話しているようじゃが」
「まあ⋯⋯なにせあの子は、『生き残った女の子』ですからねえ⋯⋯直接教鞭は振るってないとはいえ、折角話せる立場にいることですし、お話しできるときにしておきたいと思いまして。何度か話しているうちに個人的に勉強しているらしい数学や、他教科の質問を受けるようになり、自然と話すことも多くなったんですよ。光栄なことに」
そう言って、マドゥはにっこりと笑う。
それは自然なことだった。生き残った女の子として英雄視されている少女は世間から注目されている。
まあだからこそ、スリザリンに入った後の風当たりも他のスリザリン生よりもきつくなっていたのだが⋯⋯
「それにしても、随分と冷え込みましたね」
「もうすぐクリスマス休暇じゃからのう。そう言っておる割には、いつもと服装が変わっておらんようじゃが⋯⋯」
「ははは⋯暑さや寒さには生来強い方なので。ダンブルドア校長こそ、お風邪に気をつけてください」
そう言ってマドゥは去っていく。
⋯⋯考えすぎ、なのだろうか。
マドゥの表情は、まるで違和感がない。完璧だ。
完璧すぎるのだ。
教員としてホグワーツに迎え入れ、接するようになってから、何となく違和感を感じるようになった。
ヴォルデモート卿――――トム・マールボロ・リドルから感じたものとは別の空恐ろしさを感じるのだ。
ただの老人の思い違いであって欲しいのだが⋯⋯
「ダンブルドア校長?」
すぐ近くで声がした。ハッとして意識を向けると、ハリエット・ポッターとハーマイオニー・グレンジャーが手をつないでそこにいた。
気づかなかったが、彼女たちがこそこそと忍び寄ってきたのではないだろう。ぼんやりとしすぎた。
「おお、ハリエットか。どうしたのかね」
「いえ、マドゥ先生と話してから、随分ぼんやりとなさっていたので、どうなさったのかなと思いまして」
「⋯⋯そうかの?」
「はい」
そういってこちらを見上げてくるハリエットは、無表情。
彼女はいつもそうだ。どんな悪口を言われても、どんな冷たい扱いを受けても、彼女の表情は普段と変わらない。
傷ついた様子も無い。怒る様子も無い。まるで興味が無いとでもいうように。
スネイプの罪を知った時すらも、彼女に動揺はなかった。
『私の親を殺したそうですねえ』
『この子供さえ、いなければ―――そう思ったことは、ないんですか?』
『あなたが私のことを守ろうとするのは、最愛の人を死なせてしまった自分の弱さと愚かさを、誤魔化しているだけですよ』
「⋯⋯友達ができたのかの?」
「はい、ハーマイオニー・グレンジャーさんです」
「あ、あの、こんにちは⋯⋯」
「こんにちは、グレンジャー嬢。学校は楽しいかね?」
「は、はい!」
「ほほ、そうか。勉強は順調かね」
「あ、えっと、はい、少し⋯⋯」
「あは、もしかして緊張してます?ハーマイオニー」
「そ、そりゃそうでしょ!校長先生よ!?」
「あはは~」
パシパシとグレンジャーがハリエットの肩を叩く。あのハロウィンの日から、随分と仲良くなった。
ハリエットも心なしか楽しそうに見える。
これなら、きっと、ハリエットは、大丈夫だろう。
そう、信じたい。
『愛など――無力だ』
『私は心底教師になりたいと⋯⋯⋯』
『それが、最後の言葉か?ならもう何も言う事は無い‼』
「⋯⋯⋯」
ハリエットは優秀だ。
トロールを殺せるほど。クィレルを返り討ちに出来るほど。
他人の開心術に気付けるほど。
そして、どこか彼に似た、冷たい瞳を持っている。
「⋯⋯⋯くしゅんッ」
「ハーマイオニー?」
「⋯⋯冷えたようじゃの。そろそろ中に戻りなさい」
「は~い」
「す、すみません、ダンブルドア校長⋯⋯」
彼女たちが校舎に帰っていく。
雪はいつの間にか止んでいた。