クリスマス休暇が終わり、学校に戻ってから少しした後、ウィーズリーに誘われたネビルとハーマイオニーが私をハグリットの小屋に誘ったため、ドラコも誘って5人で小屋に行った。
「こんにちはー」
「ハグリット~」
暫くして扉が開く。中から物凄い熱気があふれてきた。
「うわ、あっつい」
「きゃっ」
皆で後ろに一歩下がると、中からとても大きな男が出てきた。
「おお、ロン、お前さんか⋯ん?」
男は私の方をジロジロ見てくる。こういう反応にはもう慣れた。
「⋯⋯お前さん、もしかしてハリエットか?」
「⋯⋯ええ、まあ」
「お前さんから会いに来てくれるとは!大きくなったなあ、ハリエット⋯目は母さんにそっくりだ⋯⋯父さんにはちっとも似とらんな!まあ元気そうで何よりだ‼」
「⋯やっぱり私、父さんには似てないんですよね。スネイプ先生はいったい私のどこに父の面影を感じているのでしょう」
「⋯⋯髪の色じゃないか?」
「ところでお前さんら、大勢でどうしたんか?」
「ハーマイオニーに誘われて」
「私とネビルはロンに誘われたの」
「僕はハリエットについてきた」
「おお、そうか!さあさあ、みんな中に入れ!お茶をご馳走するぞ!」
上機嫌で中に導かれた。小屋はとても蒸し暑くて、サウナのよう⋯⋯というかサウナだった。
暖炉で何かが煮込まれている。
「⋯⋯ん?」
近づいてみる。
「⋯⋯⋯んん?」
「ああ、それには触れんでくれ」
「あの、ハグリットさん」
「ハグリットでいいぞ!」
「じゃあハグリット。これ法律違反ですよ」
「⋯⋯ん?え、あ、いやこれはその⋯⋯」
「どうしたの、ハリエット⋯なにこれ?」
「あ!すごい、これドラゴンの卵!?」
「ええ、ノルウェー・リッジバックの卵です。ここにあっちゃいけないものです」
「い、いや、それはそうなんだが!育てたいんだ⋯⋯子供のころからの夢なんだ⋯⋯」
「あなた⋯ホグワーツを退学になったきっかけ忘れたんですか?これ公になったら追い出され⋯⋯いや最悪逮捕されますよ」
「い、いや、それは⋯⋯!」
「⋯⋯ハグリット。とりあえず私の質問に全て答えてください。いますぐに通報されたくなければ⋯⋯」
「ハグリット。あなた本当にやらかしましたね。あなたは一番漏らしてはいけない人物に⋯ヴォルデモート卿に三頭犬の情報を漏らした」
「そ、そんな⋯⋯そんなつもりじゃ⋯⋯俺は⋯⋯」
(ルビウス・ハグリット⋯⋯お前は何度俺に利用されるんだ)
「⋯⋯あ、あの、ハリエット、どうするの?」
「⋯⋯ハグリット。この卵はダンブルドア校長に引き渡します。今からでも罠を変えれば現時点で持っている情報で侵入を計画している闇の帝王をはめることもできるかもしれない。今回は情報を規制したほうが良いのでこの卵は秘密裏に処理し、自白してくれたこともあるのでお咎めが無くなるように掛け合います。どうなるかは分かりませんが⋯⋯」
「うう、すまねえ⋯⋯俺なんて⋯俺なんて、追放されて当然だ⋯⋯」
「とにかく反省してください。じゃあこれは持っていきますね」
火から下ろしたドラゴンの卵を透明マントに包む。
そのまま真っ直ぐ校長室に足を運ぶ。
『蛙チョコレートだ』
「蛙チョコレート」
ドアをノックし呼びかけると、扉がひとりでに開いた。
「お入り」
「失礼します」
「ハリエット。どうしたのかね」
「相談があって参りました。この卵と、賢者の石の警備について」
ダンブルドアの開心術に対し公開する情報を選びつつ説明する。
「ところでダンブルドア校長。今回の情報漏洩の件、あなたの計画ですか?」
「⋯⋯どういうことかの」
「ハグリットは確かにあなたに忠実です。完全に不死鳥の騎士団側でしょう。ですが彼は口が軽い。蝶の羽よりも軽い。ハグリットをずっと見ていたあなたが本当に情報を隠したいなら、絶対にあなたは彼に情報を渡さないはず。ですがあなたは情報を渡した。あなたは、ヴォルデモートをあの4階の廊下に行かせたいのでは?」
「⋯⋯」
「で、そこで消滅させたいのですか?方法が確立したのですか?」
「⋯いや、今はまだ、彼を消滅させるのは無理じゃ」
「⋯⋯ならなにがしたいのですか?捕縛ですか?」
反応を見るに、違うだろう。
「⋯⋯私の訓練ですか?将来必ずヴォルデモートとぶつかることになる生き残った女の子を、まだ彼の力が弱まっていて死ぬ危険性が少ないときに引き合わせて、精神力や行動力を養い、また親の仇との接触を通して復讐心を目覚めさせたい。ヴォルデモートを倒す英雄を育成するために」
瞳が揺れた。ダンブルドアが意識してやっているのでなければ、これがあたりだろう。
「面倒なことをしますね。孫くらいに年の離れたかよわい女の子に、いったい何を期待してるのでしょう。そんなことをするよりも、あなたが全力で行動する方が確実ですし早いでしょう?今世紀もっとも偉大な魔法使いのあなたが。なのにあなたは特に自分では大きな行動をせずに、私を矢面に立たせようとしている。私の名声もそう。一歳の赤子が闇の帝王に本気で殺しに来られて、自分で抵抗できるわけがない。赤子が生き残ったのなら、赤子ではなく両親が何か細工をしたのだと疑うべきなのに。イギリス魔法界の大人たちは疑いもせずに、私が特別だと信じ、期待する。異常です⋯⋯あなた、情報操作してません?」
「ハリエット」
「まあそれは別にいいですけど。ですが、何故私は英雄視されるのでしょう?私自身は何もなしていない小娘なのに。ヴォルデモートが私を襲う最大の理由となった、例の予言となにか関りが?彼が戻ってきた場合の対策を考えるにも、正確な情報が欲しいので、もしよろしければ教えてくれませんか?私が生き残った理由を。10年前に何があったのかを。スネイプ先生が中途半端に聞いた予言の、全様を。⋯⋯それとも今は私からヴォルデモートに情報が伝わる危険性を考えて教えたくないですか?こう見えて口は堅いですし、閉心術には自信があるんですけどねえ」
「一方が生きる限り、他方は生きられぬ―――ですか。なんだかそれ、矛盾してません?私はこうして元気に生きてますけど、彼だってぎりぎり生きてるんでしょう?」
しかも私はヴォルデモートの分霊箱。私がある限り彼は死なない。彼が死ぬには先に私という器を破壊する必要がある。
共に生きるか、共に死ぬか、分霊箱を解除するか、私の中の魂を他の器に移すか。
だが二人とも生き続けること自体は可能だろう。どちらかが思想を変える必要はあるかもしれないが⋯
「それとも殺さなければならないのは思想ですか?ヴォルデモートに闇の帝王をやめさせるとか――」
「⋯⋯トムが改心するとは思えん⋯⋯してくれるなら嬉しいことじゃが⋯⋯」
「⋯⋯トム?」
「彼の本名じゃ⋯わしもできることなら彼を救いたい」
(貴⋯様、どの口が⋯⋯!)
「⋯⋯彼を改心させるために、何らかの努力をしたんですか?」
私には、ダンブルドアはいままで火にガソリンを注いだようにしか思えないのだが。
「やるだけのことをやってから言ってくださいよ。あなたは教師でしょう?これは私の仕事じゃなくて、あなたがやり残した仕事のはずです⋯⋯まあ、あなたの言葉が届くとは私にも思えませんが」
暫く沈黙が続く。不死鳥が止まり木の上でゆったりと羽を伸ばした。
「⋯⋯君は、この短期間で随分多くの情報を集めたようじゃな」
「ええ、まあ。面倒ごとに巻き込まれるのは確定なのだから、ちゃんと情報を収集しておいた方が良いとアドバイスされたので」
「言われたからやったのかね」
「ほかにやることも、やりたいことも無いですし」
「⋯⋯憎いかね」
誰が、とは言わなかった。
「⋯さあ、どうなんでしょう。両親には生きていてほしかったので思うところはありますが⋯⋯今までの人生に特に不満は無いので、復讐のために身の危険を冒したいとは思いません」
ただダーズリー家を狙うならその時は――――という言葉は飲み込む。
執着心は利用される。
「まあ彼の性格は知っておきたいので、会いに行くくらいはいいですけど。賢者の石は破壊しておいてくださいね。やばそうだったら私はさっさと逃げますので」
「⋯⋯それはもうとうに破壊しておる」
「⋯そうですか。ならいいです」