天も地も、見渡す限り真っ白な世界。
柊シノアは、そこにぽつりと立っていた。灰色の髪を持つ15、6歳の軍服を着た少女。
ここは彼女の心の中だ。
「⋯⋯⋯」
『さっきはびっくりしたねえ』
声に振り向く。そこには二つの人影があった。
一つは見知った鬼―――【四鎌童子】
無駄に美しい顔に微笑を浮かべ、死神が使うような大きな黒い鎌に腰掛け足を組んでいる。
そしてもう一つは、知らない男。
黒い髪。赤い瞳。結構整った顔立ち。年のころは30代ほどに見える。
一瞬吸血鬼や鬼かと思ったが、口に牙もないし、耳も肌の色も人間のそれだ。
――何故か、知らない男のはずなのに、こいつのことを知っている気がする。
こいつ自身を、というよりは、こいつの気配を。
いつ知ったのだったか。
ああ、そうだ。さっき額を傷つけた呪詛と、同じ気配だ。
先程、何故か知らない場所にいて、何故か自分は赤子になっていて。
いきなり男に呪いを叩き込まれた。でもその呪いは術者に跳ね返って爆発し、部屋を半壊させながら男の体を破壊した。だが何故かそこから霞の様なものが出てきて。大体が開いた屋根から出ていったのだが、一部が自分の中に侵入してきた。
だが、顔が少し違う気がする。
というか、あの男よりも若い気がする。
だってさっきのあの男、ハゲだった。スキンヘッドだった。つるっつるだった。
「⋯⋯あなたは誰ですか」
男に話しかける。
「⋯⋯⋯こちらの台詞だ。お前達は何者だ」
睨みながら返答される。
「私が誰か。何者なのか。私よりもあなたのほうが知っているのでは?さっき私のことを殺そうとしたでしょう。赤子相手に、殺気まで向けて」
『確かにそうだよね。いまこの体の記憶を探っているけれど、この子の両親は君の襲撃の可能性を知っていた。君は初めから、赤子を目的にしているようだった。目覚めたばかりの私達よりも、君のほうがこの子のことを―――Harriet Lily Potter のことを知っているんじゃないのかい?』
「それ私の⋯さっきの体の名前ですか」
『そうだよ柊シノア。今日から君はハリエット・ポッターだ。改めてよろしくね』
「マジですかよろしくお願いしますシーちゃん」
「なんの話をしている」
「いえ別に。それよりもあなたは誰ですか。教えてくれないなら元ハゲのおっさんとでも呼びますけど」
「⋯⋯ふざけているのか?」
「冗談ですよ」
『ははは』
「⋯⋯⋯Load Voldemort」
「⋯⋯Load⋯卿⋯ヴォルは貴族かなにかですか」
「⋯⋯ヴォル?」
「ヴォルデモート。略してヴォルです。それともモートがいいですか?ヴォルデモーはちょっと長いですねえ」
「勝手に略すな」
「えー」
「なにが『えー』だ」
「だってヴォルデモートてなんか長くて言いにくいじゃないですか」
『もう元ハゲで良くない?』
「ふざけるなあ‼それならまだヴォルのほうがましだ‼」
「じゃあヴォルで。ところで日本語うまいですねえ」
「ふっこの俺様に出来ないことはない」
『⋯⋯君、一人称に俺様なんて使っているの?』
「⋯⋯⋯それがどうした」
『いや別に』
「成程中二病ですか」
「なんだ中二病とは」
「ご自分で調べては?あとそれ色々痛いからやめたほうがいいですよ」
「どういう意味だ」
「いえ別に」
「お前達先程から遊んでないか?」
「お互い初対面ですし緊張を解こうかと」
『主の方針に付き合ってからかおうとしているのは認めよう』
「⋯⋯⋯」
苦虫を嚙み潰したような顔でこちらを見てくる。
「ところでヴォル」
「なんだ」
「あなたは私―――ハリエット・ポッターを殺しに来たんですよね」
「⋯⋯それがなんだ」
「何故わざわざ私を?普通なら主目的は両親、復讐しに来る子供はついででしょう」
『確かに。私も少し気になるなあ。わざわざ赤子を殺しに来るなんて。ハリエットの母親⋯リリーだっけ?大人しくしていれば別に殺さなかったんじゃないのかい?すぐに殺さず再三忠告を入れたぐらいだし。でも父親はすぐに殺してたよね。彼女に対しては何か殺さないほうが良いような理由でもあったのかい?』
「⋯⋯それを言ってやる必要があるのか?」
「純粋な興味ですかね。だって、気になるじゃないですか。いきなり殺されそうになって、こちらとしても結構驚いたんですよ?」
『そうそう。それに―――』
しーちゃんが鎌から降り立った。と思ったら、既にヴォルデモートの前に立っていた。
ガシリと両肩を掴む。
『―――君に拒否権は、ないよ?』
そう嗤うしーちゃんの顔は、壮絶に美しかった。