ハリエット(シノア)の物語    作:揚げ紅葉(カスタード)

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説得

ダーズリー家 キッチン

 

温めておいたポットに茶葉を入れ、沸騰したお湯を手早く注ぐ。

蓋をして三分蒸らし、スプーンで軽く一混ぜして5つのカップに紅茶を注ぐ。

アールグレイの良い香りが部屋を満たす。

 

その間、ダーズリー家はまるで全員が留守にしているかのように静まり返っていた。

 

 

 

自作のチョコチップ入りのスコーンとともに紅茶を運び、まずいきなりやってきた黒服の“客人”に紅茶を出す。

 

「どうぞ」

 

「⋯⋯⋯」

 

客人は黙っている。というかみんな黙っている。我が家には氷河期が訪れたらしい。まあこの客人は表情には全く出てないもののこちらに凄い視線を向けてきているが。

 

おじさん、おばさん、ダドリーにもお茶を出した後、自分の分のお茶も机に置き、トレーをかたずけて自分の席に着く。

 

誰もが微動だにしない中、ハリエットの紅茶を飲む音やカップの音のみが響く。

 

「――それじゃあ、改めて要件を聴かせていただいても?スネイプさん」

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯⋯君は手紙を読んだかね」

 

「これのことでしょうか。朝自室の窓を開けた瞬間に何十枚もの同じ手紙に襲われればさすがに中身を確認しますよ。まあホグワーツ魔法魔術学校なんて聞いたこともないですし、フクロウなんてないので放置してましたが」

 

 

いやー驚きました。空気の入れ替えのために窓をあけた10秒後、部屋が手紙の海と化したのですから。いらないものは焼却処分しました。

 

私が読んでいることを知らなかったおじさんとおばさんがぎょっとしているのを見て、少し申し訳ないと思った。

 

「ダンブルドアが一通り書いてある手紙をダーズリー家に渡しているはずだが」

 

「⋯⋯へ?そんなものがあったんですか?」

 

まあその手紙はおばさんと初めて顔を合わせる前に確認しているが、そんなことなど一切知らない、という反応をする。

すると、今まで黙っていたおばさんが発言した。

 

「⋯⋯⋯ええ、あるわよ。あなたに見せたことはなかったけれど、あなたと一緒に10年前玄関に置かれていた手紙が」

 

「ペチュニア!?」

 

「バーノン、もう隠せないでしょう。黙っていたところで、きっとこの男がすべて話してしまうわ」

 

「⋯⋯あの、チュニーおばさん、聞き間違えでしょうか。いま私が玄関に置かれていたなんてとんでもないことが聞こえたのですが⋯」

 

「ハリエット、ごめんなさいね。あなたには隠していたことが山ほどあるのよ⋯⋯」

 

ペチュニアおばさんはゆっくりと話した。妹のリリー、つまり私の母が魔女だったこと。母もそのホグワーツに通い、魔法使いの男と結婚し、その間に私が生まれたこと。そして⋯⋯私の両親が魔法使いに殺されたこと。

 

 

妬みもあった。仲たがいもしていた。

 

それでも自分の妹だった。

 

魔法界にいかなければ、こんな死に方をすることはなかったはずだ。

 

私がホグワーツに行ってしまえば、今度は彼女までも死んでしまうかもしれない。そう思うと、ハリエットに魔法に関して教えようとは思えなかった。

 

 

 

ペチュニアおばさんが私に手紙を読ませたくない理由は知っていた。耳がいいから会話が聞こえてしまうのだ。だから私も、こうして向こうがきちんと説明に来るまで動かなかった。

 

 

 

 

「⋯⋯⋯スネイプさん」

 

「⋯⋯何かね」

 

「私の両親を殺したのは誰でしょうか」

 

「⋯⋯それは⋯」

 

スネイプは一瞬言葉に詰まる。大抵のイギリス魔法界の人間のように名前を呼ぶのが嫌なのか。

 

はたまた、その死には自分が関わっているということに、負い目でも感じているのか。

 

「ある闇の魔法使いだ。史上最も最悪と謳われている」

 

「名前をお聞きしても?」

 

「⋯⋯⋯我々の世界では、彼は非常に恐れられていて、誰もが名前を言いたくないのだ。それ故にいつもは例のあの人などと呼ばれる。名前だが、綴りを書くだけにさせてくれ」

 

そういって渡された紙には確かにVoldemortと書かれてあった。

 

「⋯⋯で、その男は今どうしているのでしょうか」

 

「お前の家を襲撃したのを最後に、消えた」

 

「⋯⋯⋯消えた?死んだ、と言わないことは、ただ姿を消しているだけですか?それとも死んだ可能性はあるものの、死体が見つかっていないとか?」

 

「前者だ」

 

「⋯⋯⋯それだと、学校が襲撃される可能性がありません?その⋯⋯⋯例のあの人とやらに」

 

「彼が猛威を振るっていた時、残された数少ない安全な場所がホグワーツだった。校長のダンブルドアは、彼が唯一一目置き、恐れていた人物だ。だから、学校は安全だ」

 

 

その 安 全 な 学 校 とやらには、今年はバックにヴォルデモートの本体がいる教授がいるし、ある隠し部屋には視線のみで人を石にするバジリスクなんて大蛇がいたりするのだが。

 

「⋯⋯そもそも、私がホグワーツに行くメリットは何ですか?もう既に公立のストーンウォール校に行くことが決まってますし、制服も買っていただきましたし。おじさん、おばさんも行ってほしくなさそうですし。納得できる説明がないと、行きたいと思えないのですが」

 

「今までお前が怒ったとき、困ったときに、不可解なことは起こらなかったかね?」

 

「⋯⋯⋯うーん、心当たりは無いですねえ。そんなに怒ったことも、困ったこともないので」

 

「⋯⋯⋯⋯あ!ハッティー、あれじゃない!?」

 

「へ?」

 

「前に僕らが知らないおじさんに誘拐されかけた時だよ!ハッティー、すごくでっかい男、軽々とぶん投げたじゃないか‼凄いかっこよかった‼」

 

「⋯⋯あれはただの体術ですよダドリー」

 

「まあとにかく、たいていの場合子供は魔力を暴走させる。今までなくとも、これからも起こらないとは限らん。だから、制御する方法を学ぶ必要がある。実際魔力を持った子供の暴走で、マグル⋯⋯⋯魔法を使えない人間が死んだ、という例もあるからな」

 

「⋯⋯⋯なっ」

 

「⋯それに、彼は一人で活動していたわけではない。彼の仲間の中でも凶悪な奴らはすでにアズカバンという監獄にいるが⋯⋯まあ、残党に襲われる可能性がある。この家は特殊な守りの魔法がかけられているから今は安全なのだが、君が成人するまでしか守りは持続しない」

 

「⋯⋯⋯つまり、反撃する方法を学ばなければ、殺されると?」

 

「可能性はあるな」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

暫く、時計の音のみが響いていた。

 

「おじさん、おばさん」

 

二人と目を合わせた。

 

 

「私を、ホグワーツに通わせてくれませんか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~~~疲れた~⋯緊張したあ~!」

 

『お疲れ、ハリエット』

 

何とか今までの関係にひびを入れることなく入学決定にたどり着いた。

 

スネイプがいきなりやって来て、おばさんと凄い言い争いを始めたときはどうなる事かと思ったが。明日はダイアゴン横丁に行くらしい。ようやく堂々と魔法界に行ける。オリバンダーの店に行きたい。杖の質が全然違うとヴォルもぼやいてたし。

 

 

 

 

 

三人のイメージです

【挿絵表示】

 

 

 

 


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