ぐらんぶるに彼女持ちのリア充をぶち込んだら、どうなるか考えてみた 作:はないちもんめ
次回は冬…かなぁ。(約束できず)
「四人…か。纏まってくれてるとはあのクズ共楽をさせてくれるじゃないか」
今村と最初に追い詰められた教室へと向かうと、その付近で目標の5人のうち4人が視界に入る。
「北原の姿は確認できないが何処だ?」
「古手川の所だろう。俺と古手川が会話したら終わりだからな」
奴等の勝利条件を考えれば古手川のガードは必須だ。となれば古手川の所に俺を一番良く知る伊織を置くのは悪くない選択肢だ。
「確かにな。では、残りの四人が集まってるということは俺がこちら側についたのはバレてると言うわけか」
「恐らくな。だが、確かなことは分かるまい。何の証拠も無いのだからな」
確かめようがない以上、疑いがあっても確定はできないだろう。俺にやられた可能性とて十分に考えられるのだから。
「北原が居ないとはいえこっちの倍だ。どう攻める?」
「とりあえず不意打ちだ。そこで2人倒せれば残りは同数。何とでもなる」
「そんな都合良くいくのか?」
耕平は怪訝な顔を浮かべる。まあ、こんなガバガバの作戦なら不安にもなるだろう。
「いかなくとも問題ない。次の策はある。良いか?仮にピンチになったらこう叫べ」
孝二は耕平にある単語を伝える。それを聞いても耕平は怪訝な顔を崩さない。
「それが何なんだ?」
「お前には意味がなくとも奴には意味がある単語だ。良いな…行くぞ!」
そう言うと同時に孝二と耕平は扉を開け放つと同時に教室の中へと侵入し、即座に攻撃を行った。
完璧な奇襲だった。2人の攻撃は流れるようなスムーズな動きで行われており、常人では回避することは不可能だった。
しかし
「「ふん!」」
孝二の金属バットと耕平のスタンガンは中にいた4人の内の2人ーーー野島と山本によって止められていた。
しかも素手だ。人間業ではない。
「この野郎…コレを止めるかよ」
「ふん、当然だ。お前の行動はシュミレーション済みだ。今村が裏切った理由は不明だが、別にどうでも良い。古手川さんのチケットを手に入れるための障害が減っただけなんだからなぁ!」
俺たちが止められている間に残りの2人が背後に回ろうとしてくる。はっきり言って普通に考えれば詰みの状況だ。
飽くまでも普通に考えればの話だが。
「耕平!」
「分かっている!」
2人はすうっと息を大きく吸い込む。
「「俺たちは大橋りえを知っている!!」」
「突然、何を…なっ!?」
良く分からない名前を叫んだ2人に山本と野島は首を傾げるが、目の前の光景に目を疑った。
「「藤原ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
残りの2人のうちの1人がもう1人の手によって打ち倒されたのだ。予想外過ぎる展開に思考のリソースの大部分がそちらにもっていかれた。
その隙を見逃す2人ではない。瞬時に攻撃態勢へと移り、スタンガンと金属バットを相手にぶちかました。
「敵を前に注意力を疎かにするとは愚かな」
「それよりも俺はコイツがこっち側についた理由の方が気になるんだが?」
くいっと指を俺たち側についた男に向ける。
「何言ってんだ?親友だからだよ。なあ?御手洗?」
「当たり前だ。当然だろう」
孝二がサムズアップしたのに合わせて御手洗もサムズアップで答える。流石は親友だ。孝二は満足げに首を振る。
「さーて、それじゃ北原を殺しに行くか」
「いや、お前には別の役割がある」
「ん?何をするんだ?」
「決まってるだろ?」
そう言うと孝二は耕平からスタンガンを借りて御手洗に渡し、サムズアップした親指を下へと向ける。
「自害しろ」
「…は?」
孝二の発言に御手洗はダラダラと汗を大量に流す。普通に考えれば聞き間違いだと思うレベルの案件だ。しかし、このクズを知る御手洗から見れば今の発言は本気だとしか思えなかった。
「つ、つまんない冗談を言うなよ響。笑えないぞ?」
「安心しろ。冗談じゃないからな」
冷や汗を垂れ流す御手洗に向けてニコリと孝二は笑顔を向けた。クズの笑みである。
そもそも孝二からしてみれば連れて行くなどという約束は全くしていない。していないのであれば、当然連れていかれないことを考慮に入れるべきであり、それを考慮に入れていなかった御手洗に全ての責任はあると言える。
少なくとも孝二の視点から見ればそうだった。ほとんど詐欺師と同じである。
「な、何で俺を自害させる?北原を殺すには俺が必要だろ?」
「残念ながら伊織を殺すのにお前は必要なコマではないんだ」
友人を指すのにコマという言葉を示す時点で人として終わっているが、今更なので省略する。
「お、俺たち親友だろ?」
「勿論だとも。だからこそ自害という自主性を重んじた方法にしているんじゃないか」
殺すのであれば耕平と2人がかりで行っても構わないし、何なら奴の秘密を暴露するのも面白いだろう。そうなれば奴は嫉妬に狂った童貞達に殺されることになる。その様を愉悦に浸りながら見物するのも一興だった。
それをしないで敢えて自害を選ばせているのだからこれは優しさ以外の何者でもない。自分という人間は何と慈悲深い人間なのだろうか。これは聖人と言っても過言ではないのではないか。
無論、過言であり、聖人に滅ぼされる側の立場であることは言うまでもない。
「か、考える時間を…」
「生憎と時間がない。後、10秒で自害しなければあの子との関係を学校中に知らせることになるだろうな」
9、8という残酷なカウントダウンが孝二の口から放たれた。そんなことになれば自分の命運が尽きることを御手洗は良く知っていた。故に選択肢など無かった。
「こ、この腐れ外道がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
この断末魔を最後に御手洗の意識は途切れた。
それを確認した後に孝二は床に落ちたスタンガンを耕平に渡し、大きく伸びをする。
「さーて、後は伊織だけか」
「結局、あの名前の子は誰だったんだ?」
目の前の惨劇を見ても耕平は特に思うことはなかったため気になっていたことを尋ねた。だって、クズだもの。
「聞かないでやってくれ。自害したクズへのせめてもの情けだ」
特にこの情報を利用して再度お願いをしない等という約束はしていないため、今後も最大限利用するためにも情報の流失は抑えておきたかった。情けでも何でもなかった。
「貴様にそんな感情があるのか?」
「何を言っている。俺ほど慈悲深い人間も珍しいぞ。まあ良い。あのクズに別の策を練られても面倒だ。先を急ぐぞ」
「くそっ、何かがおかしい!嫌な予感がする!」
「私から見れば何かどころか全てがおかしいんだけど」
何が起きているのか全くわかっていない千紗から至極真っ当な言葉が漏れるが伊織にはそれに返事をする余裕が無かった。
本来であれば圧倒的な人数差によってとっくに孝二がやられた報告が届いてもおかしくないにも関わらず、全く報告が上がってこない。不気味以外の何物でもなかった。
「まさか全員やられたのか?あのクズは方法を選ばん。あり得ない話ではないが…」
クズを良く知るのはクズと言うべきか伊織は現状考えられる最悪の展開を想像しながら、次回の打開策を模索していく。と言っても、この段階まで来れば取れる手段など限られているが。
「本当に何が起こってるの?」
「千紗のチケットで誰が一緒に行けるのかの争奪戦だ」
「それに何で響君が?」
「何でって行きたいからだろ」
「響君ってチケット持ってるはずだけど」
「…何?」
千紗からの予想外の回答に伊織は驚きの表情を浮かべる。
「何で千紗がそれを」
「愛菜が言ってたの。私が響君を誘って行こうかなって言ったら響君は自分でチケットを持ってるって」
だから別に私のチケットが無くても響君は行けるはずなんだけど、と千紗は続けるが伊織はその以降の言葉は聞こえていなかった。
もしや、自分は前提を間違えているのではないか?追い詰められた伊織の頭脳は高速回転を始めた。
なら、何故アイツは俺たちから逃げている?別にチケットを持っているなら逃げる必要など無い…いや、違う!あのクズの心境に立って考えるんだ!俺があのクズならどうする?自分のチケットがあっても千紗のチケットまで手に入れれば他の奴等に有利に立てる…であれば、多少無理をしてでもやる価値はある…奴ならそう考える。であればチケットを持っていてもこのゲームに参加していることに違和感はない。
そして、そうであるならばこの状況において俺が取れるルートは…
「奴がいるのは此処のようだな」
「どうする?数はこちらが上だが」
「普通に攻める。それで終わりだ」
数は力だ。どのような策を練ったとしてもこの前提だけは変えることはできない。
「いいな?3で一斉に行くぞ。1、2、3!」
孝二と耕平は3と同時に飛び出し、伊織を打ちのめそうと武器を振り上げる。だが
「ありがとうな、孝二ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
満面の笑顔で良くわからないことを宣う伊織に孝二と耕平の手が止まる。何かの作戦か?と考えている間に伊織は立て続けに言葉を発する。
「いやあ、流石だよな孝二は!流石は俺の親友だ!」
「響君と今村君?2人揃ってどうしたの?」
伊織が意味不明なことを宣っている間に大声で釣られた千紗が側によって来るが様子から見るに千紗も伊織が何を言っているのか理解していないらしい。
「おお、千紗!お前も聞いてくれ!何と孝二が俺たちと一緒に文化祭に行こうって言ってくれてるんだ」
何言ってんだコイツ。
ありもしない幻想のようなことを話し続ける伊織に孝二は顔を顰める。そんなことが起こるはずもなく、そんな気すら孝二には無い。
そう、それは確かに幻想でありそんなことは現実には起こり得ない。
「そうなの?でも、何であんなことをした伊織達と一緒に?」
しかし、何事にも例外というものが存在する。
「やっぱり、皆で楽しんだ方が良いと思ったんだってさ。千紗も知ってるだろ?コイツはこういう奴なんだよ」
現実には起こり得ないことでも全てを良い方向に解釈し、クズを善人へと昇格させる機能を人々はこう呼ぶ。
「本当に優しい人だよね…響君って」
千紗フィルターと。
あのドクズがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
目の前で天使の微笑みを見せている古手川を見ながら孝二は内心で絶叫していた。
以前にも触れたが千紗フィルターは孝二の行為を全て良い方向に解釈する機能だが、孝二にも詳しいことは分かっていない。
分かっていないということは制御することも不可能ということだ。つまり、孝二の行動は例外なく全て良いものとして捉えられてしまうということになる。
今回の件も自分達のことしか考えていない伊織達を孝二が諭し、皆で一緒に楽しもうと提案したと解釈されている。
意味が分からない?大丈夫だ、皆、分かっていない。
分かっていないとしても現実としてそう解釈されてしまっているのだ。
「本当は伊織達と一緒に行くと迷惑かけられそうだから嫌だったんだけど響君がそこまで言うならしょうがないよね」
言ってないよという台詞が喉元まで出てきたがギリギリで声にはならない。
古手川のことを無視して伊織を殺せば良いのではないかと思うのだろうが、それをした場合千紗の反応がどうなるか想像がつかないという問題が出て来る。
確かに千紗フィルターがあるので殺したところで良い方向に解釈されるのかもしれないが、先程も言った通り全容が分かっていない以上、絶対ではないのだ。下手をすれば千紗の孝二への信頼が崩れ落ちる懸念がある。
そんなもの無視するのが孝二だが、古手川千紗だけは例外である。幼馴染から彼女に至るまであらゆる人間にクズ呼ばわりをされ続け、常に疑念を向けられている孝二にとって千紗のような純粋な信頼を向けられることはひどく稀なことであった。
その信頼を破るということは、サンタを信じる子供にサンタの存在を否定することに等しい行為だ。流石の孝二も行動を躊躇ってしまう。
「ふふっ。本当に響君って素直じゃないんだから」
千紗の純粋な好意は響の良心に剣となって突き刺さり、徐々に、しかし確実に孝二のメンタルにダメージを与えていく。それはまるで塩によって弱るナメクジのようであり、エンジェモンの光を恐れるデビモンのようであった。
それは伊織が計算した結果通りであり、全ては伊織の予想通りに事が進んでいた。
しかし、その伊織に余裕があるかといえばそんなことはない。
笑顔ながらも、その背には冷や汗をかき続けており良く見れば笑顔も若干引き攣っている。
これは当然ながら千紗フィルターを利用した作戦ではあるのだが、千紗フィルターの全容が明らかになっていない以上、利用することなど誰にもできない。
つまり、千紗が予想通りの行動に出るという保証は何処にもなく、下手をすれば3対1の状況で襲われる可能性も十分に考えられた。
しかし、この学園祭に行かなくては命に関わる可能性がある伊織には賭けをする以外の選択肢はなく、しぶといことにこの綱渡りのような状況を見事に乗り切っていた。
だがまだ終わっていない。孝二が千紗よりもクズさを取る可能性は十分に考えられる状況だ。ごくりと唾を飲み込みながら伊織は状況を見守っていた。
究極の決断を迫られている孝二は冷や汗を流しながらそっと目の前の千紗の肩に手を置く。何かないのか…?この状況で二兎を得る方法が…!?考えろ!全神経を集中させろ!
「あ…あー、古手川。お前は何かを誤解してると思うんだが冷静に聞いてくれ」
「うん、そうだよね。誤解なんだよね大丈夫、分かってるから」
「違う!良く分からんがお前の言う誤解と俺の言う誤解は果てしなく食い違っている気がするぞ!」
海以外の対象で浮かべる事が初めてなのではないかと疑う程の満面の笑みを浮かべている千紗を見てカケラも誤解が解けていないということを
孝二は本能的に察した。
「私…響君のそういうところ好きだよ」
ヘブンズナックルが炸裂した。
〜数日後〜
「へぇー、そうなの。皆で学園祭に行くことになったのね!」
「そうなんですよ!やはり、学生は共に学び、楽しむことを大切にしないと!」
「私は嫌だったんだけど、響君の優しさを裏切るわけにはいかなかったから」
「そう、良かった。ところで…」
チラリと奈々華は隣を見る。
「どうして孝二君は悔しそうに俯いてるの?」
奈々華の問いに孝二ではなく、微妙な顔をして孝二を見ていた愛菜とニヤニヤしている梓が回答する。
「因果応報と言いますか…」
「身から出た錆ってやつだねぇ」
闇は光に勝てない