ぐらんぶるに彼女持ちのリア充をぶち込んだら、どうなるか考えてみた 作:はないちもんめ
「で?何か申し開きをすることはある?」
不動明王のような顔を浮かべた愛菜は、目の前で正座をさせられている男を見下して話しかける。
その目は完全にゴミを見る目つきだ。間違っても、人間相手に浮かべる顔ではない。
「僕は守りたかっただけなんです」
「何をかなぁ?」
頬が引き攣りそうになるのを愛菜は懸命に堪えた。
「僕の彼女が下衆な男どもの視線に晒されることです。それを守る義務が僕にはあると思います」
「そっかぁ。でもさあ」
愛菜は懐から薬のような物を取り出す。
「その方法がカフェの食事に薬を盛るとか突飛過ぎるでしょ!?何考えてんの!!」
犯罪行為に物申す愛菜の至って当然の叫びがカフェの中にこだました。
事は一時間ほど前に遡る。愛菜達は文化祭の出し物としてカフェの準備をしていたのだが、それを孝二は手伝うと申し出たのだ。それを条件に特例として開演前に文化祭に参加した孝二だが、愛菜達からは当然の如く、疑われていたため徹底的な監視の元で作業をする羽目になった。その結果、上記の犯罪が看破された訳である。
「もう、コウったら。私のことが心配なのは分かるけどやり過ぎよ」
「かな子は黙ってなさい、このバカップル!何を照れてんの!?言っとくけど、これ犯罪以外の何物でもないからね!?」
「本当よ。全く、私たちのためにここまでするなんて」
「だよねー。モテる女は罪作りだわ」
「お前らは好きなだけ男に視姦でもされてろ馬鹿どもが。何ならお持ち帰りされたって一向に構わねぇ」
調子に乗って会話に割り込んできた恵子ときっこに吐き捨てるように言い放つ。その言葉には執念深い怨念のようなものが感じられた。
「そんな、酷い!」
「私たちが何をしたって言うの!?」
「合コンでしまくったよなぁ!!助けを求める俺にお前らは何をした!」
孝二の額に青筋が浮かぶ。絶対に忘れない。コイツらは何も悪くない俺を助けるどころか地獄へと突き落としたのだ。許されざる行為だ。何度も言うが、絶対に許さない。孝二は非常に根に持つ性格だった。
「え?合コン?それっていつの話だっけ?こないだ?半年前?去年?」
「んー、どの話かなぁ。とりあえず、思い当たる事全部話して良い?」
「お前らのことを俺が心配するなんて当たり前だろ?マジ許せねぇんだけど!そんな奴ら俺がボコってやんよ!」
過去の話のような終わったことを根に持っても良いことなど何もない。そんなことより未来を見るべきだ。この二人は孝二を確実に滅ぼせる黒歴史という名の核爆弾を何発も所有している常任理事国だ。核不拡散条約を結んではいるものの、気分を害せば孝二の未来はない。そもそも、友人を一度の誤解で恨むなど見当違いも甚だしい。友人を大切にする孝二にはあり得ない行動だった。
「だよね。良かったわ。そういう所が好きよ孝二」
「そうそう。やっぱり人間は前を向いて生きていかないとね」
穏やかな空気で談笑し始める3人とは異なり、愛菜は頭が痛そうな表情を浮かべている。非常に、真っ当な反応である。
「アンタらね…」
「あ、あはは。仲が良さそうね相変わらず」
「アレを仲が良いと言って良いの…?」
一般人寄りの感性をしているかな子は彼女ではあるのだが、その輪の中には加われず引き攣った表情を浮かべていた。そんな中、一人の人物がカフェの入り口からひょこっと顔を出す。
「あの…こんにちは。愛菜と孝二君ってここにいませんか?」
「え、私?って…千紗?何でここに?」
「あ、愛菜。良かった。響君が手伝いするために早めに行くって言うから私も手伝おうかなって。少し遅れたけど」
「本当!?ありがとう!でも、コイツが手伝いねぇ…実際、邪魔しかしてないけど」
冷めた目で愛菜は孝二を見る。どう見ても、邪魔をしているようにしか感じない。今、愛菜が一番手伝ってほしいことがあるとしたら孝二をここから連れ出すことだ。
「千紗って…もしかして、古手川千紗さん?」
「え、あの古手川さん?」
「あの噂の?」
「噂って…どういう?」
隣で話を聞いていたかな子だけでなく、少し離れた所にいた恵子ときっこも加わり、興味津々と言った表情で近寄る。しかし、噂と言われても千紗には心当たりが全くなく、事情を知っていそうな愛菜は別方向を見つめている。
「まあまあ、気にしないで」
「コウ、いや、響君と仲良くしてくれてるんでしょ?ありがとう」
「幼馴染として許可するけど、変な事やったら刺しちゃって良いからね」
果たしてどんな幼馴染が人のことを刺して良いという許可を下せるのだろうか。少なくとも法治国家ではあり得ない。その筈なのだが、誰もそのことに関して異議を唱えない。圧倒的に自身に対する優しさが足りないと孝二は内心憤慨した。自分が責められることは耐えられない男なのである。
「あ、あの響君は変な事はしますけど悪い事はしないので大丈夫ですよ?」
「あれ?もしかして孝二間違いしてる?」
孝二間違いって何?人間違いとかそんな感じ?
「確かに勘違いされ易いとは思いますけど、それだけじゃ無いですよ」
「そうだね。勘違いじゃないからね」
もう黙ってて欲しい。自身のことを見誤ってる俗物の声など聞きたく無い。孝二は雑音を排除して、千紗の声に耳を傾けた。
「響君って優しくて他人のことを思いやっちゃう所があると思うんです」
「ごめん、それってどの世界線の孝二の話?」
「この世界線じゃ無い事は確実よね」
「古手川さんって世界線を跨げるの?」
千紗の説明に反射で3人は否定の言葉を口にする。「優しい」「他人を思いやる」等の評価はあのクズに最も似つかわしく無い言葉だ。「自己愛」「自己中」と言った言葉の方が相応しい。
「ぱっと見はそう見えないのかもしれないですけど、優しいんですよ?この間も進んでゴミ掃除をしてましたし」
真実はクラスメイトという名のクズどもをゴミの中に閉じ込めるために集めていただけである。
「勉強が分からないクラスメイトに勉強を教えてあげていたり」
実際は対価を受け取っているので殆どバイトと同じである。しかもぼったくりレベルの対価を。
「お姉ちゃんにも詳しくは知らないけどプレゼントを渡してますし」
千紗の好感度爆上げと比例して上がっていく殺意を減らすための行為だ。しかもプレゼントは千紗の隠し撮り写真である。
「だから、良く見てあげてください。本当は優しい人なんです」
「「「古手川さん…」」」
千紗の説明に3人は涙を流す。まるで信者が聖女を見たかのような反応だ。相変わらず理論の埒外の行動を取る連中だと孝二はため息を吐く。かなは分かる。彼氏が正当な評価を受けていて、嬉しいのだろう。だが、恵子ときっこは理解不能である。何故、自らの良い話を聞いて自身でなく、千紗の好感度が爆上げになるのか。論理構造に支障があるとしか思えない。
「何を感動してるんだか…古手川は当たり前の現実を受け止めてるだけだろ?」
「黙りなさい。アンタが加わったら優しい世界が穢れるわ」
「優しい世界って何だよ…」
理不尽な塩対応を受けた孝二は渋々黙って、カフェの開店の準備の手伝いを始めていく。無論、愛菜はその一挙手一投足を観測している。間違っても、このカフェで警察沙汰など起こさせないためだ。一瞬の油断もできない。
「愛菜も、もう少し響君に優しくしてあげれば良いのに」
「いや、今までの対応見て何をどう優しくしてあげられるの!?」
「そりゃ、ちょっとやり過ぎかもしれないけど」
愛菜の怒り様を見て、千紗は苦笑する。
「響君なりに気遣ってのことでしょ?だったら、怒るだけじゃなくてその辺のところも見てあげないと」
「それは…そうかもしれないけど」
確かに、良く考えてみればこれは愛の一種である。
かなり過剰な反応の気がしなくも無いどころか、完全に犯罪行為だが、これは孝二なりにかな子のことを思いやっている結果である事は間違いない。
勿論、千紗のように完全なる善意であるとは全く思わないが少しくらいは善意の心で見てやっても良いのかもしれない。
愛菜がそんなことを思いながら見つめていると準備を終えた孝二は金属バットを構えて、号令をかけた。
「さあ、オープンだ。気合い入れろよ、お前ら!店に来た男全員ぶち殺すぞ!」
孝二は店から摘み出された。所謂、出禁である。
文化祭の準備に部外者が入れるの?とかはスルーでお願いします。