ぐらんぶるに彼女持ちのリア充をぶち込んだら、どうなるか考えてみた   作:はないちもんめ

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新刊出たので例によって投稿


18 俺のことを庇ってくれる人が少ないっておかしいだろ!

 

「てい!」

 

楽屋のカヤさんに挨拶した直後、何故か唐突にチョップされた。

 

「何ですか、いきなり」

 

「また、悪いことしたでしょ」

 

また、と言うのも理解不能だし、悪いことと言うのも理解不能だった。

 

「いや、何の話ですか」

 

「カフェでの話。友達にあんな悪いことしちゃダメでしょ」

 

「友達に悪いことなんてしてないですよ」

 

何故なら、奴等は友達ではないし、あれは悪いことではないからだ。

 

だと言うのに、カナさんは深くため息を吐いた。何故、ため息を吐かれるのか理解できなかったけども。

 

「私の未来の義弟ながら全く…どうして、こうなんだろう?」

 

「こう」の意味が不明だが、良い意味に違いないと解釈することにした。

 

「そんなことよりカナさん。ライブの準備をしないで良いんですか?」

 

「そんなことでもないんだけど…うん、大体終わってるよ。後は本番を待つだけかな」

 

待つだけとは言いながらも、集中力を高めているのが伝わってくる。このライブのために努力・準備してきた時間の全てはこのライブのため。このライブが上手くいかなければ全て消える。大変な仕事だ。

 

「相変わらず、大変そうですねぇ。倒れたら元も子もないんで、頑張るのもほどほどにしてくださいよ?」

 

「分かってないなぁ、孝二は。そんなの無理に決まってるじゃない」

 

そう言うと、満面の笑顔になりカヤは続ける。

 

「頑張るよ?だって、私のこと待ってくれてるファンがたくさんいるんだもん」

 

そのカヤの笑顔は誰よりも輝いて見えた。

 

「本当すげーですよね。カヤさんは」

 

「ふふん。義姉のすげー所見せてあげるから楽しみにしてなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?響君?」

 

「よう、古手川。奇遇だな」

 

カヤさんへの挨拶を終えて少し軽食を済ませた後、ライブ会場へと向かっていると偶然、古手川と遭遇した。

 

そう言えば、古手川もカヤさんからチケットを貰っていると言っていたのを思い出した。つまり、古手川もライブ会場へと向かっているのだろう。

 

「愛菜たちは居ないのか?」

 

「愛菜達はカフェのシフトの関係とかで少し遅れてるみたい。私は手伝いだからって、先に行かせてくれたけど」

 

「なるほどなぁ。それじゃ、一緒に行くか」

 

美人と一緒に行動するというのはそれだけで嬉しいし、役得である。目的地も一緒ということであれば提案しない理由はなかった。

 

「うん。やっぱり、響君は優しいよね」

 

「は?」

 

急に笑顔で良く分からないことを言われた孝二は疑問の声を上げた。

 

孝二には知る由もないが、古手川からすると孝二の誘いは非常にありがたいものだった。伊織から離れて行動し出した途端、ナンパの誘いが後を絶たなかったからだ。

 

断るのも非常に面倒であったため、響の誘いはそれを念頭に置いたものだと考えたのだ。今日も千紗フィルター全開である。

 

そんな千紗の誤解など知らない孝二は疑問しかなかったが、優しいと言われているのだから別に良いと判断して、とりあえずライブ会場に千紗と共に向かうことにした。

 

そこまで遠いわけでもなかったので、すぐに着きそうだったのだが

 

「何してるんだアイツ」

 

「…さあ?」

 

ライブ会場の入り口で何か泣きながら土下座している耕平の姿を見つけた。

 

千紗と目を合わせて他人のフリをすることを了承し合ったが、あまりにも大声で泣き喚いているため事情が自然と耳に入ってしまった。

 

「今村君がカヤさんのチケットを無くす…?」

 

同じく聞こえていたのだろう千紗も首を傾げている。

 

孝二もあり得ないと思った。自分の命を無くすことがあったとしても、こいつがカヤさんのチケットを無くすなど想像がつかない。

 

となれば、何かがあったのだろう。何があったのかについては、流石に想像はできない。それに自分には関係ない話だ。

 

何時もの孝二なら、そう考えて忘れるだろう。

 

しかし、この世の終わりのような顔で俯いている耕平を見て呆れる気持ちと同時に、率直に羨ましい感情も抱いてしまう。

 

ここまで何かに熱中したことは自分の人生においてない。

 

「く…カヤ様のライブがもう始まるというのに!」

 

「止めろ、通行の邪魔だ」

 

「止めるな響!カヤ様のためなら命など惜しくない!」

 

「お前の命とカヤさんの歌声が等価な訳ないだろう」

 

クズの命のいくら捧げてもゼロだ。当たり前のことだった。

 

「なら全てだ!全てを捧げてでも俺はこのライブに参加する!」

 

「そこまでするなら、このライブは諦めて他のライブに複数参加する方が有意義だと思うが」

 

しかし、理解はできないが納得はできている。損得勘定ではないのだろう。この馬鹿には今のライブが全てなのだ。

 

カヤさんのことが好きな気持ちで負ける気はないが、声優「水樹カヤ」を好きなのは間違いなく耕平だろう。

 

先程のカヤさんの笑顔と言葉が蘇る。同時に懐に入っているチケットに手を触れる。

 

『頑張るよ?だって、私のこと待ってくれてるファンがたくさんいるんだもん』

 

あのカヤさんの言っているファンというのは間違いなく耕平のような連中のことだ。そこに俺は含まれていない。何故なら俺はカヤさんが声優を辞めても別に構わないと思っている。カヤさんはカヤさんだ。あのプライベートのカヤさんを知らないとは全く可哀想な連中だ。可哀想過ぎて高笑いしたくなってしまう。

 

だから、俺は別に声優「水樹カヤ」に会いたいわけではない。

 

だから、俺は別にコンサートに必ず行きたいわけではない。

 

だから、これはただの気まぐれだ。

 

孝二は先程から手に触れていた懐のチケットを徐に取り出して、耕平に見せびらかした。

 

「そういや、何かさっきこんなの拾ったな。これ、お前のか?」

 

「こ、これはカヤ様のプレミアチケット!?何故、お前がこれを!?」

 

「拾ったって言ったろ。んで、どうする?お前のじゃなければ落とし物案内にでも届けるが」

 

「むう、しかし、席番号が違うような…?」

 

「それじゃ、これは落とし物案内行きだな」

 

「俺のだな。記憶が間違っていた。俺のものに違いない」

 

間違っているのはコイツの存在だ。目的のためなら平然と嘘を吐く神経は人として終わっている。

 

「お前のでもそうじゃなくても俺には関係ないし、まあ良いだろう。貸しにしといてやるよ」

 

「命にかけて返そう!」

 

正に神速のスピードで孝二からチケットを受け取ると、耕平は脇目も振らずに飛び出していった。

 

まあ、アイツならあの反応になるだろうと考えてた孝二には驚きはない。それよりも問題は…

 

「…」

 

「…」

 

き、気まずい…

 

それによって、古手川と二人きりになってしまったことだ。

 

何なの古手川!?その微笑ましいものを見るような目は!?何なの、その少し楽しそうな表情は!?

 

「いや、違うからな?」

 

「私、何も言ってないけど」

 

いや、言ってるじゃん!確かに何も言ってないけど、全身で言ってるじゃん!

 

「落としたの拾っただけなんでしょ?それで自分の分は落としちゃったんでしょ?」

 

「…そーだよ」

 

「うん、そーなんだよね」

 

アカン、ダメだ。何を言ってもこの空気を何とかできる気がしない。

 

「そ、そうだ、古手川。お前はライブ行かなくて良いのか?そろそろ始まるぞ?」

 

「残念だけど、私もチケット落としちゃったみたいなんだよね」

 

…私「も」ってとこに悪意を感じますよ、古手川さん。

 

そこまで言うと、古手川は珍しく少し意地悪そうに笑う。

 

「だから、時々、ものすごーく頭が悪くなる人に付き合おうかな」

 

「物好きめ…」

 

負け惜しみのように孝二は呟くが、それすらも面白いのか古手川はクスクスと笑っている。別に面白いモンでもないだろーに。

 

そんなことを考えている孝二の背中にバシンと衝撃が走る。

 

嫌な予感が頭を過ぎるが、嫌々顔をその方向に向けると予想通り良く見知った顔がニヤニヤと笑っている。

 

恵子ときっこはニヤニヤとした汚い笑顔を浮かべたまま詰め寄ってくる。

 

「あれ?もしかして、プレミアチケットを無くしちゃった孝二君?」

 

「偶然、プレミアチケットを無くしちゃった孝二君?久しぶり〜」

 

一部始終を見ていたのだろうが、そのニヤケ面を見ていると青筋が浮かび上がってくる。

 

全てを理解しながらこのような台詞を吐くコイツらの精神はヘドロのように濁っている。

 

まだ手伝いが終わっていないのか愛菜の姿は見当たらないが、この二人の良心を凝縮した天使のような個体であるかなも近くにいたので何とかしてくれと目で訴えるが、笑ったまま何故か特に関わろうとしない。

 

良いだろう。であれば徹底的に口撃してその笑顔を泣き顔に変えてやろう。孝二はそんな顛末を思い浮かべてほくそ笑んだ。そんな顛末になったことなど一度もないと言うのに学習しない男である。

 

結果が見えている孝二vs恵子&きっこの論戦を側から見ていたもう一人の常識人千紗は慌てて止めようとする。

 

「あ、あの、待って!響君は」

 

だが、そんな千紗の前にかな子が移動すると黙ってウインクして笑顔のまま口に人差し指を当てる。

 

その姿を最初はポカンと見ていた千紗だったが、その意味を理解すると思わず苦笑する。

 

つまり、そう言うことなのだ。

 

「つまり、響君の友達ってことですね」

 

「つまり、古手川さんもね」

 

3人の論戦を傍目に二人の間には優しい空気が流れる。思わず心が暖かくなるそんな空気だ。

 

「響君、時々物凄く頭が悪くなりますからね」

 

「本当にね」

 

とは言え、そんな孝二の一面は万華鏡の一欠片のようなもので基本はクズだ。そんな一欠片を孝二の全てと思っている千紗に何も言わないとこに、良心が咎めないこともないがそれはそれで良い気がした。

 

一欠片だろうと万華鏡は万華鏡なのだ。

 

「よろしくね」

 

「何をですか?」

 

「色々とね。学校が違うから全部のフォローは難しいしさ。私も恵子もきっこもずっと側に居られるわけじゃないから」

 

愛菜は側にいると思うが振り回される気しかしないし、こんなメチャクチャなクズを一人で何とかしろと言うのは可哀想以外の何物でもない。

 

「響君、誤解されやすいですからね」

 

「いや、誤解しているのは古手川さんなんだけどね」

 

「そこは同意しろよ」

 

何のフォローもしない彼女に孝二は意見の撤回を求める。彼女が彼氏をフォローしないなど有り得ない。

 

「あ、負けたの?」

 

「戦略的撤退だ。負け戦を続けるのは馬鹿のすることだ」

 

「要するに負けたってことでしょ?」

 

その理屈で言えば勝てる見込みのない戦を始めた孝二も馬鹿ということになるが、特に訂正はしない。孝二が馬鹿なのは周知の事実だ。

 

「負けてない。まあ、良い。とりま、愛菜迎えに行こうぜ。その後は飯でも食おう」

 

「いいよー。その後ライブ終わったら耕平君も加えて晩ごはんに行こうよ」

 

「あら、良いわねそれ。だったら伊織君達も呼びましょうよ」

 

孝二との論戦が終わって会話に加わったきっこと恵子が妙な提案をしてくる。危ない提案だ。奴等の危険性を理解していないが故の発想だ。

 

「おい、待て。あの童貞どもと一緒に飲む?危険すぎるぞ」

 

常時発情期の猿のような連中だ。そんな中に女性が加われば、何をされても不思議ではない…いや、そうでもないか。発情期の前に童貞だ。奴等から先に、女の子に手を出す勇気はないだろう。

 

「あら、それなら大丈夫よ」

 

「そうそう」

 

「その自信は何なんだよ」

 

自身と同じ結論に至ったのだろうか?

 

そんなことを孝二が考えていると、悪巧みを考えていそうな顔で二人は顔を見合わせると笑ってそのまま答える。

 

「「そういう奴等はボコってくれるんでしょ?」」

 

何とも言いにくい笑顔で、先程自分が言ったセリフを引用して図々しい言葉を宣う二人に孝二は頬を引き攣らせる。

 

確かに言った…言ったけども!

 

訂正しようかと思ったが、今更言ったところでこの二人は聞きはしないだろう。

 

要するに、余計なことを言ってしまった自分の負けなのだ。

 

ついでに言えば微笑ましそうに会話を聞いている古手川とかなを説得できる気もしない。

 

孝二はため息を吐いて、青く綺麗な空を見上げる。

 

まあ、良いか。

 

たまにはこんな日も悪くないと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 




たまに感想で千紗ヒロインの話を見たいと意見があるのでアンケート書いてみました。

個人的にはこれ以上好感度上がって付き合ったら、甘々になってぐらんぶるらしさが減るのでは…?と思っているのですが読者の方はどう考えているのかな?と思いまして。今後の参考にいたします。
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