ぐらんぶるに彼女持ちのリア充をぶち込んだら、どうなるか考えてみた 作:はないちもんめ
「なんだ伊織の奴は寝てしまったのか」
「しょうがないな、全く」
自分の妹がわざわざ来てくれたというのに、早々に寝てしまった伊織を見て周囲のメンバーは不満を漏らしている。
伊織の妹がわざわざ来てくれたというから、せっかく集まったというのに開始早々で当の伊織が寝てしまったと言われればそんな反応にもなるであろう。
実際は、妹である栞のハンカチ落とし(クロロホルムver)を嗅がされたことによって強制的に眠らされてしまったというだけなのだが。
「申し訳ございません、兄がご迷惑をおかけしております」
だが、そんなことは顔にも出さず、栞は周囲にぺこりと頭を下げる。流石は伊織の妹といったところであろうか。
「栞ちゃんも疲れてるだろうし、ゆっくりさせてやりたいから伊織を部屋まで運ぶか」
「そうだな。耕平も倒れてるし、他のメンバーの自己紹介も済んだところだしな」
耕平が倒れていることはサラッと流されている。倒れている理由はしょうもないため割愛するが、自分の大切なものを守るために散ることを選んだとだけ言っておこう。
「残ってるのは孝二くらいか」
その言葉を聞いて栞は首を傾げる。どうやら、今この部屋にいるメンバーがサークルメンバーの全員というわけではなかったらしい。
「他にもサークルの方がいらっしゃるのですか?」
「いるにはいるんだけど…」
悩ましいという顔を愛菜は浮かべる。果たしてアレを完全な中学生に合わせて良いものかどうか…
今後の栞の成長も考えると、自身の選択が運命の分岐点に思えてならなかった。大袈裟である。
「どうかしたのですか?」
「アレと合わせることが栞ちゃんの人生にとって良いことかどうか決めかねて…」
「良いことにきまってんだろが」
そんな風に愛菜が葛藤していると待ってたかのようなタイミングで当の孝二が現れた。愛菜は露骨に微妙な顔を浮かべる。
「何、その顔。面倒な奴が来たみたいな顔浮かべて」
「正に、そういう顔をしてるんだけど」
「誤解を与えるような発言はやめてもらおうか」
何処が誤解なのよ!と叫ぶ愛菜を無視して、孝二は先輩達や千紗に挨拶をすると栞に目を向ける。
「で?この娘は誰です?」
「栞ちゃんよ。伊織の妹」
「へー。伊織の妹」
言われてみれば、ちょいと似てるなと言う孝二の言葉は侮辱に感じたが、そこには触れずにぺこりと頭を下げて挨拶をした。
「北原栞です。はじめまして」
「おう。俺は響孝二だ。短い間かもしれんが、よろしく頼む」
手をヒラヒラと振って挨拶を返すと孝二はそれで…と視線を倒れている伊織と耕平に向ける。
「この馬鹿共は、どうして倒れてるんだ?」
「耕平は色々あったのよ。伊織は突然寝ちゃってね」
「何が色々あったら、血まみれで倒れることになるのかはわからんが、耕平のことはいいや。んで、伊織は寝てると…ふーん…」
本当に寝てるのか確かめるため、木の棒を伊織のおでこに刺してみたが反応がないことから本当に寝ているようだと孝二は判断した。
「確かに寝てるな。しかも突然寝てると…そして、この匂い…ふーん…」
クンクンと孝二は鼻を鳴らすとニヤリと笑う。
「先輩達はこれから何を?」
「伊織を部屋に送り届けようとしてたところだが」
「じゃあ、栞ちゃんは空きますよね?せっかく伊豆まで来てくれたので、近所のご案内をしてあげようかと思ってるんですが、栞ちゃんこの後空いてる?」
「は、はあ、まあ…空いてると言えば空いておりますが」
「なら、良いんじゃない?折角、響君が案内してくれるって言ってくれてるし」
爽やかな笑顔を浮かべて栞を誘う孝二に何の疑問も抱いていない千紗は「いつもごめんね」と謝っているが、孝二はそんなことはないと返事をする。
「気にすることはない。伊織の妹ってことは古手川の従姉妹でもあるわけだろ?それなら、俺だって楽しんで欲しいと思うさ」
そこまで言うと孝二は、じゃあ行こうかと栞を連れて外に出ようとするが、そこで強制的にスタート地点に戻される。
「なんだよ、突然」
「良いから来なさい」
孝二の服を掴んだ愛菜はずるずると引きずりながら栞が聞こえない位置へと移動した。
「アンタ、今度は何を企んでるの」
「どうしてそう言う話になるんだ」
孝二としては心外以外の何物でもなかった。中学生に近所を案内しようとしたら企んでいると判断されるなど意味がわからない。
「アンタが素直にそんなことするわけないでしょうが!さっさと吐きなさい!」
「お前、病院に行った方が良いんじゃないのか?」
まるで犯罪者を取り調べるような顔で捲し立てる愛菜を孝二は可哀想な顔で見つめる。周囲のクズどものせいで、苦労しすぎてしまったのだろう。
「まあまあ、愛菜。落ち着いて」
「梓さん!でも、ここで止めないと取り返しがつかないことに!」
「いやいや、流石にそこまでのことはしないでしょ…しないよね…しないと思うよ多分」
「そこは自信を持ってくれませんかね」
助け舟に入ったはずの梓さんも途中で自信がなくなったのか曖昧な感じになってしまう。
それからは他の先輩達も含めた作戦会議が始まり、結果として「1時間以内に帰ってくること」を条件に許可が降りた。
釈然としない思いしかなかったが了承した孝二は栞と一緒に外へと飛び出した。
「なるほどねぇ…伊織を両親の旅館の後継にするために連れ戻しに来たと」
「はい。兄様には是非とも旅館を継いでいただきたく」
周囲の散策をしながら栞の話を聞いていた孝二はあの馬鹿に旅館の経営などできるのだろうかと疑問に思ったが、とりあえずその疑問に蓋をして話を続ける。
「素晴らしいな。そう言ったことなら、俺にも協力させて欲しい」
「え?」
突然の提案に栞は驚愕の声を上げる。
「何だ?疑問か?」
「え、ええ。手伝ってくださる方がいるとは思わなかったので」
「確かに伊織の気持ちを無視して強制的に事を進めようとするのは間違っているのかもしれない」
だがしかし、と孝二は続ける。
「自分の兄に両親の後継になって欲しいっていうのは至極当然の気持ちだと思う。俺はそれを叶えてやりたいと思うんだ」
孝二は真剣な目で栞に向き合う。その言葉を聞いて栞は思った。
(…おかしいですね…)
栞は訝しむ目線を孝二に向ける。
今のところ、特に孝二と呼ばれる人物に不審な点は見られない。
見られないからこそ、不安なのである。
その不安の根拠は栞の観察力などではない。
(あの兄の友人にまともな人がいるとは思えません…)
栞の兄に対する絶対的な信頼である。
そんなゴミのようなものを信頼と分類して良いのかどうかは不明だが、信頼と言えば信頼なのである。
「で。確認なんだが」
栞がそんな疑問を抱いているとは知る由もない孝二はくるりと振り返って栞に尋ねる。
「あのクズを送り返す時は、デッドオアアライブ(生死問わず)で良いのか?」
あ!良かった!やっぱり、変な人だった!
栞は安心した。やはり、あの兄にまともな感性の友人などいるはずがなかったのだ。
「いや、あの、死なれていては困るので生きているのは最低条件で」
「そうか。確かに。死なれては後継にならなくなるからな」
間違いなく兄の友人だ。
謎の納得を見せる孝二と栞。納得する内容は全く異なるが、両者はそれぞれ自身の疑問に対する答えを見つけていた。
「だが、腕は二本必要か?」
全方面から兄の友人だ。
「え?必要なのか?じゃあ、一旦切り離した後、実家でくっつけるのはどうだ?」
もしかすると、兄の親友なのかもしれない。
類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。類は友を呼ぶかもしれないが、クズはクズを呼ぶのだろう。
そんな感慨に耽った栞は満面の笑顔を孝二に向ける。
「え?どしたの?」
「いえ、流石は兄様の親友だと思いまして」
「ちょっと待って。何処から何を判断して、その結論に至ったの?」
とんでもない濡れ衣をかけられた孝二は疑惑を解消すべく言葉を尽くすが、その全てが逆効果であると気付いていない。
「まあ良い。その誤解は今後の付き合いで解いていくとして」
絶対に解けない自信が栞にはあった。
「問題は奴への対処法だ。俺たちのチームで目的を達成するにはどうするのがベストか。逆算してみるか」
何時の間にかチームを組まされていた。何故だろう。言っていることは特段変わっていないのに、犯罪に関わっている臭いがしていた。
こういうことにかけては行動が早い孝二は何処から持ってきたのかホワイトボードに「目標」と「前提条件」を記載していく。
そこには以下が記載されていた。
「目標」
クズを実家に連れ帰ること
「前提条件」
1・対象が生きていること
2・対象が旅館の後継の業務に勤められる程度に無事であること
3・証拠を隠蔽できること
4・隠蔽できない証拠が発生する場合には、誰かに罪をなすりつけることが可能であること
そこまで記載した後、孝二はホワイトボードを見つめて、長考に入る。
「ふむ…こんな所か」
「前提条件の1からおかしいと思うのですが」
前提条件の幾つかは社会的に当然の倫理観である。
そして、残りは最早、犯罪組織のグループの条件である。
「栞ちゃん。こういう時はまず、チームの認識を合わせないといけないんだ」
「通報してよろしいでしょうか」
「まあ、待つんだ栞ちゃん」
携帯を掴もうとする栞の手を孝二は掴んだ。
「また何か誤解があるのかもしれないが、こういうことは計画を遂行する上で大切なんだよ」
「犯罪計画にしか見えないのですが」
「違う。証拠がなければ犯罪にはならないんだよ」
ロアナプラ出身なのだろうか。日本で義務教育を受けてきた者の発想とは思えない。
「例えば栞ちゃんが使ってたクロロホルム。アレはダメだ」
どうやらクロロホルムを使っていた事がバレていたらしい。話を聞けば匂いで分かるとのこと。使い慣れているのかと不安に思ったが、聞いたらますます不安になりそうなので止めにした。
「あんな量のクロロホルムでは、奴の場合、効きが甘い。奴には毒物に対する抗体があるからな」
あの兄はどんな生活を此処で送っているのだろうか。旅館など関係なく人として心配になってしまう。
しかも、栞を連れ出したのはクロロホルムの匂いから自分と同類なのではないかと思ったとのこと。一緒にしないで欲しいと切に願った。
そんな栞を無視して孝二は安心しろと不敵に笑う。
「安心しろ。やるなら完全犯罪だ。明日にでも、奴には此処から消えてもらおうか」