ぐらんぶるに彼女持ちのリア充をぶち込んだら、どうなるか考えてみた 作:はないちもんめ
孝二の提案でテニサーと試合をしていた伊織達は、途中で孝二が脅されているという衝撃の事実を知った。
ふうとため息を吐き、孝二は呟いた。
「まあ、そんな訳だ。皆、俺のために頑張ってくれ」
「「「ふざけんなぁ!!!」」」
目の前の三人は自身を可哀想だとも思わず、ハンギレ状態で怒鳴ってくる。
酷い奴らだと思った。目の前で、苦しんでいる仲間がいるのだから、そのために頑張るのが仲間の役目ではないか。
そう考えた孝二はにこやかな笑顔で答えた。
「そんなこと言うなよ。俺たち親友じゃないか。困った時はお互い様だろ?」
その言葉は伊織たちの同情を買うのではなく、怒りを増加させるだけである。つまり、ようするに
「どの口がそれを言うか!」
「お前が原因だろうが!」
「試合にすら出てないあんたが何言ってんの!」
孝二の暖かい言葉は三人には響かなかったようだ。
孝二はため息を吐いた。現代人はこうも他人を助ける精神を失ってしまったのかと思うと悲しくなる。
そんなことを孝二が思っていると少し離れて話を聞いていた千紗は急いで孝二に近寄った。
「ねぇ、ちょっと響君!」
「そうだ!お前も言ってやれ、千紗!」
こんなクズに容赦などすることはないと伊織は千紗にも孝二を責めるように言う。しかし
「脅されてるって聞いたけど、大丈夫なの?何か私にできることない?」
「ありがとう古手川…こんなことにお前を巻き込んでしまってすまないと思ってる…」
千紗は責めるどころか脅されている孝二のことを心配する。孝二も伊織たちの時とは違い、非常に申し訳ないという態度で接しているので、それを見た伊織たちの顔に青筋が浮かぶ。
「晒し者にしようとしてる俺たちの方に謝れよ!」
「何でそんなクズを庇うの千紗!?」
「ていうか、古手川は響の奴に甘くないか!?」
「人間力の違いだろ。と言うかそもそもだ」
先程から暴言を吐いている伊織と耕平に向かって孝二は言う。
「仮にお前らが脅されて、俺らを売れば見逃してやると言われたらお前らならどうするよ?」
孝二の発言に伊織と耕平は暫し考える。そして
「さてと、じゃあ、どうやって勝つか考えるか」
「そうだな。まずは先輩たちの酔いをどうやって直すかだな」
「そこは仲間を売ることはできないって答えなさいよ!!」
自分たちも孝二と同じ行動をするだろうと結論づけた。
愛菜は正論を唱えているが、無視されて話は続いていく。常識人は苦労する世界である。
「ああ、その心配はない」
「どう言うことだ?」
孝二の心配ないと言う発言に伊織は首を傾げる。
そんな伊織の疑問に孝二はテニスのコートを指差して示す。そこでは
「勝者!ティンベル!」
試合が先輩達の負けで終わっていた。どうやら、孝二の話を聞いている間に試合が終わってしまったらしい。
「何やってんだ、あの先輩達はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「これで後がなくなったな。俺としても辛いぜ」
「心にもないこと言ってんじゃねぇぇぇぇぇ!」
勝てるはずの試合を馬鹿な行動で敗北してしまった先輩達に伊織は怒鳴るが、怒鳴ったところで現実は変わらない。
「え!?ってことは、ここで私たちが負けたら終わりってこと!?」
「そうなるな。まあ、負けてもクズ二人が恥を晒すくらいで済むんだ。気楽にやれ」
「「マジでぶっ殺すぞ、このクズがぁぁぁぁぁ!!!!」」
孝二としては、若干緊張している愛菜をリラックスさせるつもりだったのだが、クズ二人の怒りを煽る程度の効果しかなかったらしい。人を励ますとは難しいことなのだと孝二は学んだ。
「大丈夫だよ、愛菜。響君。私たちは勝つから」
そんな空気の中試合の準備を終えていた千紗は珍しくダイビング以外でやる気満々という顔で試合会場へと向かっていく。
「頼むわ。期待してる」
「私と愛菜に任せて」
「千、千紗何でそんなやる気満々なの?」
「そりゃ響君が脅されたってこともあるけど、それ以上に」
そこまで言って千紗はチラリと孝二の顔を見る。
「響君の信頼に応えないとね。だって響君はこんな試合しないでも、伊織達のことを売って自分だけ助かることもできたわけでしょ?なのに、こんなことをわざわざしたってことは…私たちが勝つって信じてくれてるからじゃない」
だからあんな卑怯な奴らに私は負けられないと言い残し、千紗はその場を去っていく。
そんな千紗の後ろ姿を見ながら愛菜は千紗の優しさを感じながら感動に打ち震えていた。
そこにスッと梓が現れて、愛菜の肩を叩く。
「本当にちーちゃんは優しいわね」
「私…本当に千紗を見ると思うんです。人って素晴らしいなって」
「愛菜…何で絶対に後ろを振り向こうとしないの?」
「そんなの…決まってるじゃないですか」
愛菜は急に死んだ目になりながら話を続ける。
「その手があったかって言いながら血の涙を流してるクズを見たら人間に絶望しちゃいそうだからですよ」
「まあ、孝二だからねぇ」
このまま消えてしまいたい…
千紗はそんなことを考えていた。何故なら
「ナイスバディ、千紗!」
「ナイスバディだよぉ、千紗ちゃん!」
自分の応援をしているはずの人たちの恥ずかしすぎる応援のせいで、大勢の他の人が今の自分の姿を見ているからだ。
愛菜はジャージ姿だから良い…でも、自分の姿は…
自分の姿を改めて見直して、千紗は恥ずかしさでまともにテニスができなくなる。
響君の信頼に応えるためにも勝ちたい…とは言えこんな環境で…
千紗は半分勝利を諦めた。しかし、そこで
「チャージドタイムアウト!」
孝二の声が会場に響いた。え?と周りが騒つく中、孝二は気にもしないで紙袋を持ったまま千紗の元へと近づいて行く。
どうしたのと聞く前に孝二は千紗に紙袋を渡す。
疑問に思いながらも千紗が中を開けると、そこには
「長ズボンのジャージ…」
それも最新モデルの少し可愛いタイプである。バッと千紗が孝二を見ると孝二は黙ってうなづいた。そのまま、審判に彼女が服を変えるから待っててくれと伝えてくれる。
千紗は悟った。
孝二は自分が恥ずかしいのが分かって、自分のためにコレを持ってきてくれたのだと。私が全力を出せるように応援するために、コレを持ってきてくれたのだと。
孝二にお礼を言って千紗は即座に服を着替えに行く。今なら絶対に負けないと思った。
残された愛菜は訝しげに孝二を見る。果たして、この男は千紗のためにわざわざジャージを持ってきてくれたのだろうかと。
「ね、ねぇ、孝二?」
「あん?」
「あんた何でジャージを持ってきてくれたの?」
「はあ?そんなの決まってるじゃないか」
孝二はスッと応援席にいる奈々華さんを指差して続ける。
「色んなタイプの古手川の服装を見た方が奈々華さんも喜んでくれるだろ?」
「本当に色々台無しね、あんた!」
まあ、何はともあれ服を着替えた千紗は持ち前の運動神経を遺憾なく発揮。当然試合も
「勝者!ピーカブー!」
千紗と愛菜の勝利に終わった。
勝利した千紗は孝二へと勝利のVサインを送り、孝二もそれに応える。
それを見た愛菜は思った。
世の中には知らない方が良いこともあるのだと。
次の投稿もこっちは暫くかかりそうだなぁ…