ぐらんぶるに彼女持ちのリア充をぶち込んだら、どうなるか考えてみた 作:はないちもんめ
「さて、最後は伊織たちの試合で決まるのか」
「実際どうなんだ孝二?あいつらは勝てそうなのか?」
「正直微妙なんですよね…半分くらいの確率で勝てそうなので困ってます…」
「遂に露骨になってきたわねこのクズ…」
ゴミを見る目で愛菜は孝二を見てくるが、残念ながら孝二には責められて喜ぶ性癖はないのでそこに喜びは見出せなかった。
しかし側で聞いていた千紗は愛菜とは別の場所に反応した。
「半分くらいの確率で勝てるの?相手がテニサーなのに?」
「ああ、多分それくらいか」
「相手が弱いってこと?」
「それもある」
「それも?」
その言葉に千紗は首を傾げる。他にも何か要素があるのだろうか?
「ああ、一つは単純に」
同時にズバンという音が響く。孝二の話を聞いていた面々はその後に驚いて試合を見てみると、伊織が放ったサーブによって生じた音だと分かった。
千紗と愛菜が驚く中で孝二は当たり前のように続けた。
「アイツ(伊織)が強いってことだ」
あのバカの運動神経の高さは素晴らしいものがある。ぶっちゃけ、泳ぐこと以外なら何をやってもヒーローになれる程の運動神経だ。なのにアイツは何を思ってか自分が唯一できないものをサークルとして選んだ。
できないものに興味を持つのは良いが、恐らく普通に得意分野でサークルを選んでたら今頃ある程度はモテていただろう…いや、無理かもしれない。頭の運動神経が悪過ぎる。
「へぇ、伊織にこんな特技がねぇ…てか、この様子なら勝てそうだけど?」
話を聞いていた梓さんは少し驚いた顔で聞いてくる。
と言うか、近い。あなた自分のスタイルと容姿の良さを自覚して!変なところが元気になっちゃうでしょ!
「そうですね。シングルスなら問題なく勝てるでしょうね」
「へ?」
梓さんはきょとんとした顔をしたがそれすらも美しい…何ということだ美人は何をしても美人だと言うのか。
「ねぇねぇ。どういうこと?」
反対側の方から愛菜が俺の発言の意図を確認してくる。その様子を見て孝二は爽やかな笑顔になった。
「やっぱりお前を見ると安心するよ」
「(何でだろう…褒められてるのに褒められてない感じがするのは…)まあ良いわ。で?どういうこと?」
「どういうことも何も、そのままの意味だが」
「だからその意味を聞いてんのよ!」
チラリと周りを見ると愛菜だけでなく、古手川や奈々華さんに梓さんを含めた先輩たちまでうんうんと頷いている。
孝二は怪訝な顔になる。え?まさか皆知らないのか?
「まさか全員知らなかったとは…アイツも良く今まで隠し通せていたもんだ」
「アイツって伊織のこと?」
「んにゃ。もう一人の方」
孝二がそう言うと同時にチャンスボールが耕平に上がった。それを見た耕平は今だと言わんばかりにラケットを振りかぶった。
周りはオオッと歓声をあげながらその姿を見つめる。
だが
「うおらぁ!」
耕平のラケットはボールにカスリもせずに空振る。てん、てん、と転がるボールが寂しく映る。
え?と味方だけでなく敵である向こう側も目が点になって見つめる。
だが孝二だけはその様子を冷めた目で見ながら続けた。
「あの残念イケメンの運動神経は切れてるぞ」
何故か水泳だけはそこそこできるようなのだが。どうやら、他のスポーツというものをこの面子でやることがなかったので、皆は知らなかったらしい。よく考えたらこの面子ってダイビングやる時以外はほとんど酒しか呑んでねーや。
「ていうか、アンタそこまで分かってるなら交代してあげなさいよ!」
我に戻った愛菜は火を噴く勢いで俺に文句を言う。やれやれ、何も分かっていないなコイツは。
「阿呆か。アイツらが恥をかかせたいのは伊織と耕平なんだぞ?俺が出てってもアイツらが納得する訳ないだろ。俺も愉悦に浸れないし」
「清々しいクズね、アンタ!」
「まあまあ、愛菜も落ち着いて。ところで響君?それじゃあ、もう一つ聞いて良い?」
「何だ古手川?」
怒る愛菜を宥めながら古手川が質問をしてきた。
「今度はこのままじゃ、普通に負けそうだけど…何で半分くらいの確率で勝てるって言ったの?」
「え?当たり前だろ?」
「そうだねぇ」
「うむ、そうだな」
首を傾げる古手川とは対照的に分かっているのか先輩たちは楽しそうに試合を見物している。いやあ、流石は先輩達だ。
更に古手川は理解不能と言わんばかりに首を傾げるが次の瞬間、ボールが後ろのフェンスに直撃する音が響いた。
驚いた古手川と愛菜はコートを見ると伊織のサーブだと判明した。しかしある程度分かっていた面々は、直ぐに伊織達の作戦を見破った。
「なるほどノックアウト狙いか」
「まあ、順当だな」
「一番手っ取り早いからねぇ」
「そうねぇ」
「甘いなアイツも。一撃で仕留められないとは」
「「いや、ちょっと待って!」」
当たり前のように受け入れている自分たち以外の味方に古手川と愛菜は声を上げる。
「何だどうした?」
「どうしたも何も反則じゃないんですか!?」
「一応ボディ狙いだろう多分」
「ボディどころか顔面に向かってましたけど!?」
「そういえばドッジボールなら顔面セーフだけど、テニスならどうなの?」
「さあ?詳しくないんで知らんすけど、まあボディ扱いでしょう多分」
「良いのそれで!?」
良いに決まっている。そもそも、あのクズどもが普通にやれば勝てない試合で普通に試合をする訳がない。
しかし、あのテニサー達は碌な対策をせんな。まあ、普通にやれば勝てると思っての行動なんだろうが甘いとしか言いようがない。
周りの先輩達が盛り上がっている中、そろそろ動くかと思い孝二はこっそりと席を立ち上がった。
「あれ、孝二何処に行くの?」
しかし案外目敏い愛菜には直ぐに見つかった。何でそんなに俺の行動見てんだよ。何?俺のことが好きなの?
「ちょっとばかし仕込みをしとくことがあってな。それにもう大体結果は決まったしな。別にこれ以上試合を見る必要もないだろ」
孝二の予想外の発言に愛菜は驚愕の表情を浮かべた。
「え!?もう!?まさか、伊織達が負けるってこと!?」
「このままいくとな」
いくわけないという意味を暗に含んでの発言だということに流石の愛菜も気が付いた。
「…え?どうなるの?」
「さあな。ただ一つ言えるのはこの試合はテニスが強い方が勝つんじゃねぇ。クズ度が上な方が勝つ」
「…何か負ける気がしなくなったんだけど気のせい?」
「お前、結構酷いな」
正直、五分五分だと孝二は思っていたのだ。まあ、今となっては伊織達が負ける未来は見えないのだが。
どうやら愛菜目線だとクズ度での勝利は確実らしい。人望のない奴等だ。
そんなことを孝二は考えながらそのまま去ろうとする。その後ろ姿を見て慌てて愛菜は続けた。
「ま、待ちなさいよ!それでアンタは何処に行くのよ?」
「何を言ってるんだ?決まってるじゃないか」
孝二は顔だけ振り返り、ニコリと笑って言い放つ。
「俺は正義の味方をしに行くんだよ」
孝二のその顔が愛菜には悪魔にしか見えなかったのは余談である。
そして、伊織達の試合の結果はと言えば
「…本当にクズ度が上の方が勝ったわね」
伊織達の勝利に終わった。
勝ったのに未だに喧嘩をしている伊織と耕平を見て愛菜は呟いた。
伊織達が劣勢から勝利したのは、伊織が足手まといである耕平をサーブでノックアウトさせたのが理由である。
ある意味合理的な判断ではあった。人としての尊厳とかスポーツマンシップとか、そういうのを全部捨てればの話ではあるが。
「まあまあ。賞金は貰えたんだし良かったじゃない」
「…それはそうですが」
笑いながら微笑む奈々華に愛菜は納得できないように呟く。相変わらず常識人は生きにくい世界である。
「お?そういえば孝二はどうしたんだ?」
「そういえば見当たらんな」
喧嘩が一段落した伊織と耕平は今気付いたかのように疑問を発する。
それを聞いた愛菜は若干呆れながら返事をする。
「正義の味方をしに行くんだってさ。何をやるかは知らないけど」
愛菜のその発言に伊織がふーんと言った後に呟いた。
「そうか。死人が出なければ良いがな」
「何を言う北原。それは無理だろう」
「だよねぇ。ほどほどで済めば良いけど」
「まあ、今回は工藤も悪いから多少はしょうがないな」
伊織だけでなく、耕平や先輩達まで良く分からないことを話し出したことに愛菜は戸惑う。
「え?あの…皆は何の話を?」
「何だ?ケバコは何の話をしているか分からなかったのか?」
意外と言う表情を浮かべた後、伊織だけでなく愛菜以外の全員が呟いた。
「「「「「アイツ(孝二)(響君)がやられっぱなしで黙ってるわけないだろ(でしょ)」」」」」
「…え?」
次の更新は多分そこそこ早いです