転生者なんだが原作がおかしくなった   作:岸寄空路

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予想以上に長くなってしまいました。
説明ばかりで読みづらいと思います。


グレモリー家次男になったら原作崩壊した

 あり得ない。

 

 ライザー・フェニックスの頭にはそれ以外の言葉が浮かばなかった。なぜここまで自分が考えていた結果と違うのか。自分が追い込まれ膝をついている理由が分からない、いや分かりたくなかった。理解してしまえば、認めてしまえば自分のプライドに傷がつく。自身の築き上げた地位が崩れ落ちる。それだけは許せないからだ。

 ライザーは目を逸らしていた。今の状況は自分が作り出したという事を。レーティングゲームで勝ち星を上げ続けて自惚れ調子に乗った結果だという事を。自業自得でしかないという事を。

 

 既に――詰んでいるという事を。

 

「さて、もうだいぶ参っている様だが……降参したらどうだ? ライザー」

「お、おのれ……!」

 

 グレモリー()兄妹の一人、母親譲りの亜麻色の髪が特徴の次男ジョシュア・グレモリー。彼こそがライザーを追い詰めた張本人。ライザーが見下し侮っていた相手。その相手に敗北しようとしている。

 

「俺は! 不死身のフェニックスだぞ! 貴様なんぞに降参などするものか!!」

「そうか」

 

 ライザーの苦し紛れの言葉を意に介さずジョシュアは淡々とライザーを倒す準備をする。

 

「ならば――耐えてみろよ」

 

 ジョシュアは魔力で出来た紅く光る球体を十八個生成する。その球体の周りには魔力で出来た輪も浮かんでいて、その見た目を一言でいうなら紅い土星だった。

 

 紅い土星は高速で動き、ライザーを包囲した。

 

「穿ち、切り刻み、押しつぶす。俺が使う魔法の効果はそれだけだ」

 

 紅蓮の炎の様な魔力を纏いジョシュアはライザーを見る。その目に感情は無く、既にライザーの事など眼中に無いと語っているように見える。

 それに気づいたライザーは怒り、立ち上がろうとするが何故か力が入らない。よく見ればライザーの脚は震えていた。どれだけ怒りで心を誤魔化そうとしても体は既に敗北を認めているのだ。

 

「……魔法を使うまでもないようだな」

「ちぃっ!」

 

 舌打ちをして弱気を隠そうとするライザーだが体が震えているその姿はどう見ても怯えている様にしか見えない。

 

「本当ならもっと手加減してやるべきなんだろうが――」

 

 ジョシュアの魔力が膨れ上がるのをライザーは間近で感じていた。まだ余力が、いや最初から本気など出していなかったのだと理解してしまった。

 

「いい加減『滅びの力』が使えないだけで弱者扱いは飽き飽きなんでな。俺を格下に見ていた奴等に実力を思い知らせる必要もある。悪いが踏み台になってもらうぞ」

 

 そこから先の記憶はライザーの脳内に残っていない。だが心には刻まれたのか、紅い色がトラウマになりグレモリー家の話題が出ると「紅色怖い紅色怖い紅色怖い」と叫び引き籠るようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジョッシュお兄様、さすがにあれはやりすぎじゃ……」

「フェニックスを倒すならやりすぎなぐらいで良いんだよ」

「まあ、お兄様には良い薬です」

 

 紅色恐怖症を発症したライザーと戦ったジョシュア、愛称ジョッシュはグレモリー家の屋敷の一室にて妹のリアスとライザーの妹のレイヴェルと会話していた。

 

「グレモリー家の次期当主に当たるジョッシュ様を見下すだけでも失礼千万ですのに『リアスと結婚してグレモリー家を継ぐのは俺だ』などと世迷言を言い放ったのですから。むしろもっとやっても宜しかったのですよ?」

「予定とは言え義理の弟をそこまで痛めつけるのは気が引けるよ」

 

 あれで? リアスは実の兄の基準が分からなくなった。

 

 ちなみにジョッシュの言った『義理の弟』とはライザーのことだ。どういう事かと言うと、まずジョッシュはサーゼクスの弟でありリアスの兄だ(ついでに転生者でもある)。ここで問題となるのはサーゼクスが魔王になったためにグレモリー家を継げない事だ。では誰が継ぐか。原作通りであればリアスの婿養子か将来的にはサーゼクスの息子のミリキャスになる。だがこの世界にはグレモリー家次男であるジョッシュがいる。長男であるサーゼクスが継がないなら一番継承権が高いのは次男のジョッシュだ。

 結果、グレモリー家の将来を案じた父ジオティクス・グレモリーは原作ではリアスの婿養子にライザーを婚約者にしたが、この世界では次男のジョッシュとフェニックスの末娘レイヴェルとの婚約に変えたのだ。原作の様にライザーを婿養子にする案も有ったが、ライザーの素行や能力を鑑みてジョッシュが継ぐべきだと考え破棄した。

 その事を知ったライザーがジョッシュに決闘を申し込んだ事で冒頭の事態へと繋がる事となる。

 

「でもレイヴェルは良いの? ジョッシュお兄様との婚約は勝手に決められたことでしょ?」

「確かにそうですが、私はジョッシュ様をお慕いしているので問題ありませんわ」

(……なんでこんなに好かれてるのだろうか?)

 

 ジョッシュは疑問に思っているが好感度が高いのはちゃんと理由が有る。まずジョッシュの冥界での評価は一言で言うなら「サーゼクスにも意見を言える有能な悪魔」だ。転生者でありグレモリー家の後継ぎとして生まれたジョッシュは今後の事を考えて神話や政治関係の勉強を現在進行形で行っている。その過程で魔王になったサーゼクスに注意や忠告をしてきた。

 

 代表例で言うなら塔城小猫の姉の黒歌の件だ。ジョッシュの考えでは黒歌がはぐれ悪魔と認定されたのは上級悪魔側の意見しか聞けなかったからだと思っている。詳細は分からないから断言できないが、黒歌が主殺しを行った時に現場からすぐに逃げたのではないかと予測したのだ。ジョッシュは転生してから色々調べてみたが、『悪魔の駒』関係の法整備が「杜撰」の一言しか出ないほど穴だらけだった。そもそも転生悪魔の地位が低いために上級悪魔の言い分が優先されて、転生悪魔側が訴えても負けると断言できてしまうほど酷い状態だった。前世の頃から薄々察していたジョッシュが「権力に縋る老害共が!」と声を大にして愚痴を吐きたくなるほど荒ぶったのだから相当だろう。

 

 『悪魔の駒』自体も問題が多く、相手の承諾を得なくても使える上に他神話の存在ですら転生できるのだ。その事を知ったジョッシュは「これは使う前に他の神話と交渉しないと戦争不可避だな……」と死んだ魚の様な目で悟りを開きかけた。外交担当で有るはずのセラフォルーですら気づいて無い為よりやばい。このままではまずいとジョッシュはセラフォルーとアジュカとサーゼクスを脅……説得して他神話と交渉し、使う上での条件を纏めた。

 

 具体的には

1.双方の合意無しで使用できない様にセキュリティを搭載すること。

2.他神話に所属する(管理している)相手を眷属にする場合はその神話の関係者を立ち会わせること。

3.生死が関わっている時は緊急時のため許可する。ただし、後に厳しく調査を行う。

4.死んだ相手に使う場合は死後の世界を司る神と交渉してから行うこと。

 

 この条約に反対する上級悪魔もいたが「他神話と戦争を起こしたいんですね? そうなった時には最前線で戦ってくれますか?」と言うと沈黙したそうな。

 

 余談だがこの一件で他神話からの連絡がジョッシュに来るようになった。外交担当のセラフォルー涙目である。

 

 閑話休題。

 

 転生悪魔の扱いが悪すぎた為に黒歌は自首せずに逃げたのではと考えたジョッシュは、上級悪魔とその眷属のトラブルを処理する部署を設立するようサーゼクスに打診し、更に過去視の能力を持つ悪魔を派遣して転生悪魔が無条件ではぐれ扱いされない様にした。

 結果、黒歌は逃げずに自首し、過剰防衛のための期限付き奉仕活動に従事する事で決着した。

 

 ……ここまで冥界に大きな影響を与えた悪魔。その上レイヴェルが婚約者だと分かってから定期的にデートを重ね、プレゼントを贈り、迷惑にならない程度に連絡を取るようにしていたのだから好感度が上がらないわけがない。本人は「原作ヒロインに嫌われたくないと思って頑張っただけなのに……ここまで好感度上がるもんなのか?」と述べている。

 

「ところでリアス、勉強は進んでいるんだろうな?」

「当然です! 来年からは日本で領地管理を行うのですから万全を期しています!」

「ならいい。決して気を抜くんじゃないぞ。駒王町は元々日本神話が管理していたのを宗教争いで教会が勝ち取った土地だ。朱乃ちゃんの一件で神社の管理者は離れ、冥界側が起こした事件で教会の勢力も離れた。また悪魔が管理する事にはなったが無条件じゃない。問題を起こせば元々管理していた神が文字通り飛んできて、そこから戦争になりかねない。相手からすれば領土を奪った敵だからな」

「わかっています」

 

 ジョッシュはリアスには出来るだけ厳しく対応している。原作での管理の仕方を知っているからだ。依頼されてからはぐれ悪魔を討伐している様ではどれだけの死人が出るか分かったものではない。それに自分がどれだけ関われるか分からないため、今の内にリアスを立派な管理者に育てようと決めたのだ。妹に甘々のサーゼクスでは、合格ラインのハードルも低いから無能になってしまったのだと思ったのもある。

 

「判断が付かない時はソーナちゃんにも相談しろよ。自分のプライドを優先した結果の被害ほど最悪なものは無いからな」

「はい」

「本当にどうしようもない時は俺か兄さんに連絡しろよ? 力不足なのに無理に解決しようとする方が迷惑になるからな」

「もう何度も聞いたから分かっています」

「それだけ気を付けないといけないってことだ」

 

 リアスからすると耳に胼胝ができるほど聞いた内容の繰り返し。さすがに若干ウンザリした表情をしているが、大事な事だと分かっているのか真剣に聞いている。

 

 このような形でジョッシュによるリアスの魔改造は進められている。この結果が予想外の事態へと発展した事を知るのは、リアスが駒王学園の二年生になってからだった。

 

「ジョッシュお兄様。実は先生に相談されて、一年生にいる問題児三人をどうにかしてくれって言われてるの。私の判断で決めるよりグレモリー家の方で決めるべきだと思って……」

「普通に退学じゃ駄目なのか?」

「まだ共学になったばかりで男子の数も少ないから、悪いイメージを付けたくないって」

「あー、男子の肩身が狭くなると」

「それに元女子高だから、男子の印象が悪くなると共学から元に戻そうって意見が出るかもしれないし……」

「うーん。なら別の学校に転入させたらどうだ? 厳しいと評判のところにすれば、問題起こして退学になっても駒王学園のダメージも少なくて済むだろ?」

「そうね……わかったわ。早速先生達に相談してみるわ」

「頑張れよ」

「はい!」

(問題児か。そう言えば原作主人公も問題児だったな……。まあ、まだリアスも二年生だし関係ないか)

 

 ジョシュア・グレモリー。齢数十歳。

 原作知識がうろ覚えだった為に原作主人公を退場させてしまう痛恨のミスを犯すのだった。




なお、変わりは居るので問題ない模様。


※以下ジョッシュと魔王様達との交渉風景



ジョッシュ「貴様等が何もしないというなら俺は全魔力と全生命力を持って自爆するだけだぁ!」
サーゼクス「落ち着くんだジョッシュ!」
セラフォルー「早まらないでぇー!」
アジュカ「サーゼクス! お前の弟だろ!? 早く止めろ!」

このままでは悪魔VS全神話という負け確定の戦争になりかねないと思ったジョッシュ捨て身の交渉である。何もしなければどうせ滅びるならと自分の命を人質にしました。

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