生まれ変わったら曹操だった。
彼がその事に気づいたのは何処からともなく彼の手に現れた槍が『
彼は思わず叫びそうになったのを必死で堪えた。彼の記憶では『ハイスクールD×D』の曹操と言えば主人公の兵藤一誠にやられる敵キャラ。
彼は誰もいないところで叫んだ。
「冗談じゃない! 俺は平凡な仕事に就いて仕事から帰ったらラノベに漫画やアニメやゲームを楽しんで、休日には女性との出会いを求める程度の普通の人生で十分なんだよ! 何が悲しくて生まれ変わったら他人の踏み台になる人生を送らなきゃいけないんだ! ふざけるな!」
とはいえ、彼の中には既に神器が宿っているからそんな些細(?)な望みすら叶いそうにない。
彼は決心した。どんなことをしてでも原作に関わらずに平穏な生活が送れるようにしてやる!! と。
「……と頑張ったのは良いんだけどなぁ」
どうしてこうなった。曹操は頭を抱えていた。平穏な生活を求めて努力した彼の現在の生活は原作とは違うものになっていたが――
「曹操! ジークとヘラクレスがまた喧嘩してるぞ!」
「曹操! レオナルドにまた余計なことを教えたわねぇ!」
「曹操さん! いい加減休んでください! 目の下にクマができていますよ!」
ゲオルク、ジャンヌ、アーシアの順に曹操の仕事部屋に突撃してくる面々に思わず死んだ魚の様な目を向けている曹操。今の彼の状況を一言で言うなら「ブラック」の一言であろう。
「あージークとヘラクレスに関してはすぐにどうにかするから被害が出ない様にだけしてくれ。ジャンヌ、レオナルドは具体的に何をしたんだ? アーシア、俺は今休むわけには行かないんだ。これが終わったら休むから」
順番に対応していく曹操だが、その声は力なく疲れ切っている。毎日のようにトラブルの対応に追われていれば仕方ないだろう。自分が原因の時も有るなら尚更だ。
「わ、わかった。できるだけ早く対応してくれ」
「レオナルドが三大勢力に喧嘩売ってる名前のモンスターを創ったのよ! ベルゼブモンとかセラフィモンって何!?」
「ダメです! 今すぐベッドに横になってください! 体が持ちません!」
ジャンヌの話を聞き「ああ、そう言えば前世の時に好きだったデジモンの話をしたな」と思い出し、アーシアの言葉を聞き「自分はそんなに疲れている様に見えるだろうか? 睡眠は充分取っているのだが」と疑問に感じながらも手は机の上に有る書類を処理し続けている。
「すまない、ジャンヌ。次から気を付ける。レオナルドには『進化前の姿にしろ』と言っておいてくれ。アーシア、まだ仕事が残っているんだ。まだ。オレは、ヤスメナイ」
対応していく内に段々と口調がおかしくなっていく曹操の様子を見てアーシアは机の上の書類を奪い取る。
「私が処理しときますから休んでください!」
「いや、しかし――」
「や・す・ん・で・く・だ・さ・い!」
「あっはい」
有無を言わせぬアーシアの迫力に曹操は頷くしかなかった。
「ジャンヌさんも子供達を寝かしつけたら手伝ってください!」
「分かってるわよ。それまではお願いね」
「はい!」
問答無用とばかりにジャンヌに仕事部屋から連れ出される曹操だった。
「はぁ~疲れた」
いざ仕事を止めると一気に疲れを認識してしまい体が重く感じる曹操はジークとヘラクレスを止めるために移動を開始した。
「なんでこうなったのやら」
今の英雄派という組織は原作から完全にかけ離れたものとなっている。
曹操達は現在人里離れた山中に建てた施設で暮らしている。ここで曹操達は世界中から集めた孤児の世話を行っている。孤児達は主に神器所有者か英雄の魂を受け継いでいるかであり、それが理由で捨てられたり神話勢力(主に三大勢力)に狙われたりして家族を失った子供達を保護している。もちろんそれ以外の孤児も保護している。更に神器が原因で疎まれていた人達も保護、と言うよりスカウトして働いてもらったり、あるいは三大勢力を除いた神話関係の職を斡旋したりもしている。アーシアも教会から追い出された所をジャンヌが保護した。
ジャンヌ曰く「聖女の魂を受け継いだ身としては気にかけずにはいられなかっただけよ」とのこと。実はジャンヌ・ダルクの逸話的に聖女の扱いが気になって仕方が無かったらしく、情報を集めていたらアーシアの件が発覚してすぐに保護したようだ。
閑話休題。
こんな組織が『禍の団』所属の訳もなく、曹操達は英雄派ではなく別の組織名を名乗っている。その名は『SPIRITS』。名前の由来は曹操が前世の頃大好きだった漫画から来ている。ちなみに他のメンバーには名付けた理由として「英雄には程遠い俺達だが魂だけは立派でありたい――と言う意味を込めた」と述べている。
当然ながら『SPIRITS』がここまでの事業を行うのに曹操達の様な若人だけでは成立しない。ある神話勢力の保護下にいるため活動できている。一つはエインヘリヤル候補が欲しい北欧神話。もう一つが、と言うより一柱が――
「あ、曹操くん。お邪魔しているよ」
「こんにちは、ヘスティア様。」
炉の神であり家族を失った孤児たちの保護者とされる女神ヘスティアが後ろ盾となっている。彼女は元々神器関係で生まれる孤児達に胸を痛めていて、秘密裏に保護したりもしていたが神の身では色々と不都合も多く難儀していたところを『SPIRITS』と出会い共に協力する形で孤児の保護を行っている。実際、曹操達もヘスティアの協力がなければ子供達の世話は難しかったと言える。なぜならまともな家庭環境だった者は一人もいないのだから親代わりになるのが難しく、苦労していた。転生者であるため唯一まともな家族と言うものを知っている曹操でも子育ての経験は無く、ヘスティアが全員の親代わりをしてくれなければ持たなかっただろう。今となっては誰もヘスティア相手には頭が上がらないぐらい全員が母親の様に思っている。
「また限界まで仕事していたのかい?」
「う……はい」
「駄目じゃないか。君はここのリーダーなんだから無理をしたら皆に迷惑がかかるって事を自覚しなきゃ」
「はい、すいません」
働きすぎの曹操を叱るその姿は正しく母親。曹操も目の前の女神相手では言い訳もできずに謝る事しかできない。自分を心配して叱っているのだから猶更だ。
「アーシアちゃんにも休む様に言われているだろ? 周りの皆も心配してるってことだよ?」
「今後は気を付けます」
「それは前にも聞いた」
このままでは分が悪いと感じた曹操は話を切り上げることにした。
「すいません、ヘスティア様。俺はジークとヘラクレスの喧嘩を止めなければ行けないので……」
「またあの二人かい? いい加減年長者として子供の見本となって欲しいんだけどなぁ」
「君も含めてね」とヘスティアにジト目で見られた曹操は即座にその場を離れるのだった。
曹操が現場に着いた時には既にまだ二人は喧嘩していた。
「ジィィィークゥゥゥ!!」
「ヘラクレスゥゥゥ!!」
ジークの剣とヘラクレスの拳がぶつかり合い、いつも子供達を遊ばせている運動場がボロボロになっていた。後で修復能力を持つ者達が直してくれるとはいえ毎回どうにかならないのだろうかと曹操は頭を抱えた。このままでは駄目だと思った曹操は近くで二人を見守っているゲオルクに話しかける。
「ゲオルク、今回の喧嘩の原因は何だ?」
「曹操。それなんだが――」
時を少し遡り、二人が喧嘩する直前の会話。
「ジィィィーク!」
「なんだ、ヘラクレス?」
「お前の所為で恥掻いたじゃねえか!」
「何のことだ?」
「お前、俺が極寒をゴッサムと読んだのを訂正しなかっただろうが! お陰でガキ共の前で間違ったまま読んじまっただろ!」
「ふっ、間違った貴様が悪い」
「鼻で笑うんじゃねえぇぇぇ!」
以上。
「――と言った感じでヘラクレスが切れて殴り掛かったんだ」
「…………」
曹操は内心思った。「なんでリトルバスターズみたいな喧嘩してるんだよ!」と天を仰いだ。「ヘラクレスが井ノ原真人でジークが宮沢謙吾ってことか!? あれ意外と違和感ないぞ?」などとどうでもいいことを考えて現実逃避し始める。
「曹操。悪いが止めてくれないか? あの二人は曹操かヘスティア様の言う事以外聞いてくれないからな」
「……もう、ヘスティア様に頼んだらどうだ?」
「さすがにこんな下らない事に付き合せられないだろ?」
「ごもっとも」
観念した曹操は喧嘩を止めるために二人に近づく。自身の神器『
「
「「!?」」
声を聞き漸く曹操が来ている事に気づいた二人はその場で硬直する。
「ま、待つんだ曹操。早まるな」
「お、俺達が悪かった。喧嘩はもう止めにするから」
このままではマズいと悟った二人は必死に曹操に弁明する。
「……後でお前達にピッタリの喧嘩方法を教えてやる。次からその方式でやれ」
曹操の言葉に見逃してくれると思った二人はホッと息を吐く。
「それはそれとして罰は受けてもらう」
すぐに絶望へと叩き込まれたが。
「「ま、待って――」」
「第一の槍『エクスプロージョン』!!」
そう言って曹操が槍を激しく突き立てると同時にジークとヘラクレスを爆発が飲み込んだ。
その後、曹操がリトルバスターズの「野次馬から投げ込まれた物を武器として戦うバトル」を教え、ジークとヘラクレスがそれで戦う様子を見て施設内で子供達が真似するようになったため、曹操はまたジャンヌに叱られたそうな。
ちなみにヘスティア様の口調は「ダンまち」のをイメージしました。
この曹操の禁手
黄昏の十戒聖槍(トゥルー・ロンギヌス・テンコマンドメンツ)
元ネタはRAVEのテンコマンドメンツと言うよりFAIRY TAILの魔槍テンコマンドメンツ。