でも、まだ二十三、二十四巻が見つかっていない。後日、探してきます。
少女はただの人間だった。
ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の生活を送っていた。
やさしい母親や、理解のある父親に何不自由なく健やかに育てられ。
自分と同年代の友達と日が暮れるまで仲良く遊ぶ毎日。
他愛もなく流れていく、ありふれた日常。
少女にとってはそれが何よりの幸せだった。
そんな、ただの人間の少女の幸せが――
何の前触れもなく崩壊する。
深い霧に覆われた森の中に少女はいた。
彼女は、自分が何故こんなところにいるのかも理解することができない。
たとえ理解していたとしても、彼女にはそんなことを考える余裕すらなかっただろう。
少女の目の前に広がる光景は、まさに凄惨と呼ぶべきものだった。
眼前の地面が、真っ赤に染め上がっている。
無残に引き裂かれた、無数の人間たちの死体。
その中の一つに少女の父親が混じっていたが、もはやどれがそうだったのか判別もできないほど、死体はバラバラに引き裂かれていた。
少女を庇うように覆い被さっている母親も既に息を引き取っており、母の血で少女の体全体が真紅に色づく。
この地獄をつくりだした影が、霧の中で揺らめく。
霧深い森の中を闊歩していたのは巨大――あまりにも巨大な異形のモノだった。
人間をはるかに超える大きさ。鋭い爪と牙を真っ赤に染めている。
異形は、まだ生きている少女に気づいたのか。一歩、また一歩と近づいてくる。
少女は動かない。
異形が近づいてくるのを、虚ろな眼差しで呆然と見つめていた。
少女は子供ながらに理解する。
自分がこれから、死ぬという現実を――。
氷のように冷たい目で、死にいく自分を客観的に見ていた。
異形が少女のすぐ目の前まで迫り、立ち止まる。
逃げ出すことすらできない少女を嘲笑うかのように、口元を歪め、その牙を垣間見せる。
そして、ゆっくりと確実な動作で爪を振り上げ、少女に向けてその凶刃を振り下ろした。
その瞬間――風が飛来する。
その風は、森中の霧を吹き飛ばすかのようなすさまじい勢いで、少女と異形の間に着弾する。
あまりの勢いに、異形が雄叫びを上げながら仰け反る。
少女の虚ろな目が、風の勢いに呑まれ閉じられる。
そして、静寂。
先ほどの衝撃が、嘘であったかのように場が静まり返る。
少女の瞳が、静かに開かれる。
再び開かれた少女の眼前に広がっていた光景は――――白。
どこまでも広がる、美しい白一色の毛並みであった。
その日を境に、家長カナという少女の人生が変わった。
本来あるべき歴史から分岐し、穏やかな生を生きる筈の少女が、苦難と戦いの道へと足を踏み入れることになったのである。
後書きでは原作の設定や、オリジナルの設定について、ある程度の捕捉説明をさせてもらいます。
よろしくお願いします。