前作の『グリッドマン』に比べて最初はパワー不足かと思っていたが……全然そんなことなかった!
グリッドマンに勝るとも劣らない神作に仕上がっていてとても素晴らしい!
久しぶりに熱くなれるアニメ、堪能させてもらいました!
FGOでは現在『ネロ祭り』復刻が開催中。
何で今? と思ったけど、オリンピックだからというコメントで「ああ」と納得した。
新しく覇者級も追加されてるし、ぼちぼち周回して行きます(とりあえず80箱は開けておいた)
さて、小説の方ですが……とりあえず、今回で都市伝説シリーズは終了です。
試しにやっていた一人称視点も今回限り……やっぱり自分には向いていないかもしれん。
今回は前半が一人称、後半が三人称視点です。よろしくお願いします!
「………んっ、冷たっ…………えっ? こ、ここ……どこ?」
暗闇の中、顔に掛かった水滴の冷たさにわたしは目を覚ます。
「暗い……? 何も……何も見えない……?」
意識が覚醒したばかりで頭が回らない。どうして……どうしてわたしは、こんな暗いところで眠っていたんだろう?
ぼんやりする思考を何とか巡らせ、わたしは自分の身に何が起こったのかを冷静に考えようとした。
しかし、そんなわたしの視界に——唐突に光が差し込む。
その光の先、四角い小さな窓から『男』がわたしの顔を覗き込むようにこちらを見つめている。
誰だろう? どことなく……見覚えがあるような、ないような……。
わたしがそんなことを考えていると——男は口を開く。
「——悪いけど、君にはここで…………死んでもらうよ」
——…………。
——……………………えっ?
——今、この人は何て言った?
——死ぬ? 誰が……? わたしが………死ぬ?
「暗い、怖い、独りぼっち……そうやって、叫びながら死んでほしい
わたしが戸惑っている間にも男は平然と、寧ろ楽しそうに語っていく。
「ここはね……誰にも来られない場所なんだ。君は孤独のままに……ここで死んでいくんだよ」
「え……!? だ、誰? 何の話をしてるの?」
わたしは背筋が寒くなって一気に意識を覚醒させる。『死ぬ』などと物騒な言葉、男の得も言われぬ表情に体が凍えるように震え上がった。
けど……その言葉の真意を問いただす前に、男は光が差し込んでいた扉を閉めてしまった。
「——この話は〈君の恐怖〉で完成する……傑作の予感、ふっふっふっ……」
男のそんな言葉だけを最後に、わたしの世界からは一切の光が消える。
わたしは暗闇の中、独りぼっちで取り残された。
「…………ヒッ!! い、いや……嫌あぁああああ、出して!! ここから出して!!」
一気に恐怖が押し寄せてきた。
訳もわからぬ状況に、わたしは何とかここから抜け出そうと体を動かしてみる。
「う、動けない!? なんで!? どうして!?」
だけど動けない。木の根のようなものに雁字搦めにされており、体がビクともしないのだ。かろうじて動かせるのは首から上の部分だけ。自力での脱出が不可能な中、わたしは助けを求めて叫んだ。
「だれか……誰か助けて……助けてよぉおおおおおおお!!」
けれど、わたしの絶叫に誰も何の反応も示さない。
先ほどの男も既にどこかへ行ってしまったのか、わたしの叫びは——虚しく闇の中へと溶けていく。
「出してよ……ここから出してよ……」
自然と涙が滲んでくる。なんで? どうしてこんな目に遭わなきゃいけないのか?
わたし——鳥居夏美はここに到るまでの状況を振り返ってみる。
あの日、わたしは一人で下校していた。
学校が終わった帰り道、親友の巻や凛子先輩と一緒に帰り道を歩いていたが、途中で二人とは別れて家までの帰路についていた筈だ。
——その道中で……そうだ! わたし……〈笠のお坊さん〉を見かけたんだ!!
笠のお坊さん……以前怖い妖怪に襲われた時、わたしを助けてくれたお坊さんだ。
そのとき助けてくれたお礼を一言でもいいから直接伝えたい。そんな気持ちで、わたしはすぐに彼の後を追ったんだ。
——……だけど見失って……道がわからなくなっちゃって……それから……。
だけど見失ってしまい、わたしは見知らぬ住宅地……とある民家へと迷い込んだ。
その民家には人がいて……筆で紙に絵を描いていた。
『…………』
その人、その褐色肌の男の人に道を聞こうかと思った。
だがその直後、その男の人の描いていた絵がいきなり『化け物』に変わったんだ。
そう、男が描いた絵が——『妖怪』として実体化した瞬間をわたしは目の当たりにした。
『ヒィッ!?』
怖くなって、慌ててその場から逃げ出そうとした。幸い男は絵を描くことに夢中でわたしの存在に気づいていない。そっと足音を立てないように後退りながら、その場を離れようとした。
だけど——
『——何か用哉? 駄目だよ、こんなところに入ったら』
そこで別の男の人が背後から声を掛け、わたしの肩に手を置いてきた。
そこから先の記憶はない。
気がついたときには——わたしはこの状態、暗闇の中に一人閉じ込められていた。
——そうだ……! あのときの男の人!! わたしに……声を掛けてきた人だった!!
振り返って思い出したことだが、先ほど自分に『死んでもらうよ』と言い残していった男こそ、わたしに民家で声を掛けてきた人だった。
——じゃあ……あの人がわたしをここに閉じ込めて……なんで? なんでこんなことするの!?
何故、そんな見ず知らずの男の人にこんな目に遭わされなければならないのか。
その理不尽にまでは思考が追いつかず、現実を受け入れることができず。
わたしは……尚も助けを求めて声を絞り出していた。
「誰か……出して、ここから……出してよ……!!」
だけど届かない。
誰も、わたしの言葉に返事をする人などおらず。
あの男の言う通り……わたしは『独りぼっち』で死んでいくしかないのかと。
時間と共に不安と恐怖を募らせていくばかりだった。
×
鳥居が……いなくなった。
学校にも二日ほど顔を出さない。カナや凛子ちゃん、つららにも連絡が来ていない。
鳥居の家に直接押しかけようとも思ったが、もしも家の人に「どこにもいない……」なんて答えられたらどうしようと、そこまで踏ん切りがつかないでいた。
「鳥居……いったい、何処に行っちまったんだよ……」
放課後、とりあえずあいつが立ち寄りそうな場所をいくつか捜してみたが——全て空振りに終わった。
本当に何処へ行ったんだよ、このわたしを……巻沙織を置いて、あいつが何処に行こうってんだよ……。
嫌な予感を思い浮かべる中、わたしはさらに捜索を続けようと考え——ふと、駅の方角へと目を向けていた。
「……そういえば、清継の奴が言ってたっけ……〈地下鉄の少女〉の都市伝説がどうとか……」
わたしたちが所属するクラブ活動——『清十字怪奇探偵団』。ほとんど清継の趣味みたいな団体であり、その内容も妖怪の捜索やら、都市伝説の調査やら。
ぶっちゃけ、そういった活動そのものにわたしも鳥居も興味はなかった。金持ちの清継についていけば色々と良い目が見れると……最初はそれこそ、下心ありきで参加しているだけだったのだが。
「四時二十分……もうすぐ、例の幽霊って奴が出る時間だな……」
わたしはスマホで時間を確認する。
清継から聞かされた〈地下鉄の少女〉。そいつが出没するという時間まであと二十四分。今から行けば間に合うかもしれない。もしかしたら……などと言う考えに突き動かされ、わたしは駅に向かう。
ひょっとしたら鳥居も……その都市伝説に巻き込まれてしまったのではないかという、予感を抱きながら——
〈地下鉄の少女〉——鳥居がいなくなるのとほぼ同時期に噂になり始めた都市伝説だ。
その昔、今は使われなくなった東京の地下鉄駅のコインロッカーに、一人の赤ん坊が捨てられたという。
赤ん坊はその駅が廃止になってからも、死んでからも誰にも気付かれることなく、すくすくと成長を続けていったという。
そして、今になって——成長した少女が『幽霊』として電車内に姿を現すようになったというのだ。
「四時四十三分……あと一分か……」
わたしは慌てて、地下鉄浮世絵線を走る列車の四号車に飛び乗っていた。
清継の話によれば、例の〈地下鉄の少女〉は地下鉄線の列車のどれか、『四時四十四分』になったら出没するという。四時四十四分になると、電車内の何処かに現れる。
何でも、自分の遺体を見つけてくれる人を捜しているんだとか……。
「…………ふぅ~……何も出るわけねぇか……」
しかし、時間間際になっても何かが出てくる気配はない。
「清継の野郎……ガセネタ掴ませやがったな。まあ、今に始まったことじゃねぇが……」
所詮は清継がネットの噂から仕入れてきた情報だ。一瞬でも間に受けた自分が馬鹿だった。とっとと電車から降りて、引き続き鳥居の捜索に当たろうと。
わたしが……次なる捜索場所に考えを巡らせていた——その時だった。
例の時間になった直後、わたしは気づいてしまった。
電車のドア、出入り口のすぐそこに『彼女』がいた。
わたしは戦慄する。だって……だってそこにいたのは〈地下鉄の少女〉なんかじゃない。
そこにいたのは、そこにいたのは——
「と、鳥居……?」
行方を晦ましていた筈の鳥居夏美、彼女がそこに座り込んでわたしのことを見つめていたのだ。
「——あなた……わたしが見えるのぉ……!?」
「………………はぁ~、呆れた……」
鳥居を見つけ出せたことにわたしは安堵感と……同時に僅かな苛立ちを覚えた。
あれだけ必死になって捜し廻っていたというのに、当の本人はこんなところで何をやってるんだか。
本当に心配していただけに、わたしは多少キツめの口調で鳥居を叱っていた。
「あんたね……どんだけ心配かけたか分かってんの? ったく、無事だったからよかったけどさー」
わたしだけじゃない、きっと他の皆も鳥居のことを心配し、捜している人もいるかもしれないのだ。
「ほら立って、帰るよ!」
そういった人たちを早く安堵させるためにも、無事な顔を見せてやらなくては。そう思い立ち、わたしは鳥居を連れて行こうと彼女の手を引っ張っていた。
だけど——
「……何言ってるの? また見つけたんだよ?」
わたしが怒っているのにも構わず、鳥居は全く動じることもなく——
「——私が……見える人ォォ」
鳥居は猫のような仕草で——わたしの顔をいきなり『舌』で舐めたのだ。
「と、鳥居!? あんた何をやって……こ、こんなところで……!!」
よりにもよって公衆の面前で、いきなりこんなことをするなんて。
べ、別に嫌悪感なんかないし……むしろ嬉しいっていうかっ!
け、けど……わたしにもこ、心の準備ってものが……! こういうのはもっと段階を踏んでから…………って、あれ?
などと、自分でも何を考えているのか分からなくなるくらいにテンパった——そのときになってわたしは気付いてしまった。
——この子……鳥居じゃない!?
目の前にいる彼女は、わたしの捜している鳥居ではない。
似ているが……よく見ると違う!! こいつ……いったい何者だよ?
「——帰さないよ」
けど、わたしが勘違いに気づいたときにはもう遅かった。
鳥居の偽物はガッチリとわたしの腕を掴み——
わたしの乗る電車が——永遠の終着駅へと辿り着く。
×
《終点ー、終点ー》
「……あっ? なんだ、ここ?」
電車が止まる。
混雑気味だった電車内から他の乗客が消え、わたしと……『鳥居の偽物』だけを乗せ、電車は木の根が大量に張っているその『地下鉄駅』へと辿り着いた。
《なお、この電車は折り返しません。永遠に——》
「あ? おい……ふざけてんのか車掌」
車掌からふざけたアナウンスが流れてきた。永遠に折り返さないって……なら、どうやって帰ればいいんだよ?
不可思議なその放送に戸惑いも覚えたが……それよりも、今は偽鳥居だ!
「待ってよ!! おい!! あんた、なんで鳥居の姿をして……」
わたしは無言で電車を降りていく偽鳥居を慌てて追いかける。
こいつ、これだけそっくりってことは……鳥居について絶対に何か知っている筈だ!
そんな思いに駆られたわたしは急いで電車から飛び降り、ホームへと降りていた。しかし、そこは駅のホームなどではなかった。
わたしが偽鳥居を追いかけた先で見たもの——それは『コインロッカー』だった。
木の根が大量に張っているその地下空間に、廃棄されたと思われるコインロッカーが大量に置かれている。
百、いや二百口以上はある。
「な、なんだこれ……どんだけコインロッカーが…………あっ!?」
眼前に聳え立つコインロッカーの山に呆気に取られるわたしだったが、そこでふと思い出す。
大量のコインロッカー、使われなくなった地下鉄駅、謎の少女。これこそ……清継の話していた都市伝説だ。
間違いない。これが〈地下鉄の少女〉なのだと。
なら目の前にいるコイツは——コインロッカーで成長し続けているという、幽霊少女だってことになるが……?
「——迷子になった〈私〉を、このコインロッカーの中から見つけて!」
幽霊少女はわたしに、この都市伝説のルールを説明してきた。
それは清継から聞かされていたものと全く同じ内容であり、噂どおりであるならこの無数のコインロッカーから少女の〈本体〉を見つけ出さなければならないらしい。
見つけなければ……その少女に殺されてしまうというのだ。
「時間は四十四秒!! ハーイ、よーいスタート!!」
しかも制限時間付きで……って、四十四秒!? いくらなんでも短すぎるだろ!!
自分のことを見つけ出して欲しいなら、もっと猶予をよこせよと文句を言いたくなってしまう……けど!
「…………あんたを、見つけ出せばいいんだな!?」
わたしはルールの内容を理解し、常に携帯している十徳ナイフを取り出す。最近は妖怪に襲われることが多くなってきたからな、最低限、これくらいは武装しておかないといけない。
「奇遇じゃん……わたしも、あんたを捜してたんだよ!!」
わたしは自分自身を奮い立たせるためにも叫んでいた。都市伝説の少女に向かって——寧ろ望むところだと十徳ナイフを突きつける、
「鳥居が……そこにいるんだろ!? そんなそっくりな顔をして、関係ねぇなんて言わせねぇよ!!」
そう、わたしは捜しに来たんだ。幽霊少女と同じ顔をした親友——鳥居夏美を!!
この都市伝説の女、他人のそら似にしてはあまりにも鳥居に似すぎている。
こいつが噂になる時期も、鳥居が失踪し始めた時期と一致する。きっと鳥居は——この都市伝説のモデルか何かをさせられてるんだ。
だから、鳥居はきっとこのロッカーの中のどこかにいる。
理屈じゃない!! わたしの魂がそう確信していた!!
「鳥居!! どこだ!? いるんだろ!? 叫べぇええ!!」
しかし、これだけのロッカーの中から人一人を見つけ出すなど容易なことではない。しかも制限時間は四十四秒しかない。
わたしは周囲にはり巡っている木の根をナイフで削ぎ落としながら、喉がはちきれんばかりの大声で親友に呼び掛けた。
「声出せぇ————!! どこだ————!!」
わたし一人じゃきっと見つけられない。鳥居の方から、わたしに呼び掛けてくれないと。
だから叫んでくれ。わたしの名前を呼んでくれ。
——鳥居……! 鳥居……!
——夏美っ!!!
「はぁ……はぁ……」
あれから……どれだけの時間が経ったのだろう。
すっかり喉も枯れ果てて、わたしは助けを呼ぶ声も満足に出せなくなっていた。暗いロッカーの中にずっと閉じ込められたせいもあって、恐怖すら麻痺しかけている。
ここで『死ぬ』。それが現実のものとなりかけていたことを、わたしは諦めて受け入れかけていたのかもしれない。
だけど……そんなわたしの元に——あの声が響いてきた。
「鳥居!! どこだ——!? いるんなら、叫べ!!」
「ま……巻……巻なの……?」
それは、わたしの名前を呼ぶ親友の……間違いなく巻沙織の呼び掛けだった。
わたしは彼女に気づいてもらいたくて、なんとか枯れ果てていた筈の声を絞り出して巻の名を呼ぶ。
「来てくれたのね……巻……ああ、巻ぃ……」
「!! 声がした……鳥居!? どこだ、鳥居!!」
我ながらかそぼい声だったが、巻はわたしの声に気づいてくれた。わたしを見つけ出そうと、さらに大声でわたしの名を呼び続ける。
「鳥居!! どこにいんの!? 喋って!! もっともっと喋ってよ!!」
「ここよ……ここ……」
わたしは彼女に見つけ出してもらおうと、なんとか声を張り上げる。だが体力、気力共に限界を迎えていたため、気を緩めばすぐにでも消えてしまいそうな、儚い声しか出すことができずにいる。
「くっ……開かね! 木が絡んで……くそっ、どけっ!! 邪魔すんなよ!!」
それでも、巻はわたしを見つけ出そうと、わたしの小さな声を頼りに必死に障害物を跳ね除けている。その声が段々と近づいてくるのが分かる。
そして——
「——あ、開いたぁ!!」
わたしがいるであろう場所の扉を開けたのか。巻の声が歓喜に滲んでいた。わたしも彼女が来てくれたと、開かれる筈の扉へと目を向ける。だけど——
「…………巻?」
わたしの視界には何の変化もない。巻の笑顔も、一欠けらの光さえわたしの瞳には映らない。
「——ウゥッ!? ヒャッ……ウ……!?」
代わりに聞こえてきたのは、巻の悲鳴だった。いつもの強気な彼女から信じられないような、怯え切った悲鳴がわたしの耳に届く。
「惜しい。残念、時間切れ……」
誰か、巻ではない何者かが彼女に向かって残酷に告げる。
惜しい? 時間切れ? 何のことを言っているのかは分からないが……どうやら巻はわたしのいる場所とは、違う扉を開けてしまったらしい。
その失敗が……まさにわたしと彼女の生死を分けるものだったのかもしれない。
「ま……待って!? 今のは間違えて……」
「ダメよ、貴方もここで死ぬの」
必死に弁解する巻に、その誰かは冷酷に告げる。
——……死ぬ? 誰が……? 巻が…………死ぬ?
わたしは脳内でその言葉を繰り返し——彼女が、巻が今まさに殺されようとしている事実を理解する。
「——ヒィイイイイイイ!? や、やめて!! イヤアアアアアア!!」
巻の絶望の悲鳴がわたしの鼓膜を震わし……わたしの、疲れ切っていた心に僅かだ『火』を灯した。
「巻っ!? 巻!? あぁああああ!?」
このままでは巻まで死んでしまう、彼女まで殺されてしまう。
わたし一人だけならまだ諦めもつくけど……それだけは絶対に駄目だ!!
わたしはどうなってもいい!! だけどっ! 巻までわたしのせいで死ぬなんて耐えられない!!
「——沙織ぃいいい!!」
わたしは親友の名を呼びながら、心の中で必死に願った。
——お願い!! 助けて!!
——誰か……っ! 誰でもいいから!!
——沙織を……たすけてぇえええええええぇええ!!
その願いが、聞き届けられたのかは分からない。
——……あ……ま、眩しい……?
わたしの視界に、突如として『光』が差し込む。闇だけしかなかった世界に、温かい光が舞い込んできた。
体の動きを阻害していた木の根の束縛も解け……わたしの体は、誰かによって優しく抱き止められている。
——誰? ……沙織?
一瞬、沙織がわたしを助けてくれたのかとも思ったが、そうではなかった。彼女はわたしのすぐ横で眠っている。穏やかな寝息だ。
どうやら彼女も誰かの手によって助けられたようだった。良かった……本当に……。
だけど……沙織でなければ、いったい誰がわたしたちを助けてくれたんだろう?
わたしは、わたしを抱き寄せてくれるその人へと目を向けた。
「ああ……そっか。また……助けてくれたんですね……」
「…………」
正直、そうなんじゃないかと思っていた。
誰かに助けられたと感じたときから、きっと『彼』なんだと期待していた。
そう、そこにいたのは……わたしを助けてくれたのは〈笠のお坊さん〉だった。
またも助けてくれたその人に、わたしは精一杯の笑顔でお礼を言う。
「ありがとう……ずっと……あなたにお礼が言いたかったんです。だけど、貴方を追いかけてたら……ここに閉じ込められちゃって……」
「そうか……」
わたしのお礼に、お坊さんは無愛想ながらも返事をしてくれた。
わたしの頭に手を伸ばし、そっと頭を撫でてくれた。
——ああ……嬉しい。お坊さんが……わたしの目の前にいるんだ……。
助けられたこともそうだが、何よりあのお坊さんともう一度会えたことが嬉しかった。
せっかくの機会だ。この人には色々と聞きたいことが……
——ああ……駄目だ……意識が……。
だけど、その辺りが限界だった。
積み重なった疲労がピークに達したのだろう。急激に眠気が襲い、わたしはそれ以上自分の意識を保っていられなくなっていく。
——せっかく……また会えたのに……。
——また……きっと会えるよね?
わたしはお坊さんと話せる機会がないことを残念に思いながらも、きっとまた会えると希望を胸に抱きながら。
かつてないほどに穏やかな気持ちで、その意識を途切らせていった。
×
「……巻き込んでしまっていたのか」
奴良組の妖怪・黒田坊は自身の胸の中で横たわる少女への謝罪を口にする。
彼女は鳥居夏美、自分の主人である奴良リクオの大切なクラスメイトだ。だがそれとは別に、彼女とは些か個人的な『縁』を持っていた黒田坊。
今回はその縁のせいで鳥居を巻き込んでしまったらしい。そのことを彼は密かに反省する。
——どうにか間に合ったようだな……この子が拙僧を〈呼んでくれて〉助かった。
だが、その縁のおかげで黒田坊が鳥居を救うことができたのも事実。
彼女が心の底から自分という存在に助けを求めてくれたからこそ、黒田坊は地下鉄駅——。
幽霊少女の領域である、廃棄されたコインロッカーがある地下へと進入することができた。
本来、〈地下鉄の少女〉の場所へは決まった手順を用いなければ辿り着けない。
『夕方の四時四十四分ちょうど』『地下鉄浮世絵線を走る電車の四号車に乗り合わせる』といったルールを守らない限り、誰にもその存在を感知することすらできない。
黒田坊もリクオの指示でそのルールを厳守し、〈地下鉄の少女〉の都市伝説の元へと潜り込もうとした。
しかし、その方法を用いたとしても、実際に幽霊少女を目撃できる可能性は運任せだ。
現に今回はその目撃者に鳥居の友人である巻が選ばれ、彼女だけがコインロッカーの地下鉄駅へと引き摺り込まれた。
どれだけ強大な力を秘めた妖でも、そのルールを厳守しなければそこへ割り込むことはできない。あのままであれば巻も鳥居も、〈地下鉄の少女〉の犠牲者となり、この都市伝説の一部に組み込まれていたことだろう。
だが——鳥居が心から救いを求めたことで、黒田坊はその領域へと進入することができた。
それは彼が元々〈子供を救うために産まれた妖怪〉だからだ。
〈助けて、助けて、黒田坊〉
〈いつか来てくれるんだ。漆黒のお坊さんがボクらを助けに〉
〈そのお坊さんは強くって、背が高くて〉
〈武器を無限に持ってて、どんな強い奴でも倒しちゃうんだ〉
戦や飢饉に見舞われていた時代、戦災孤児たちは願った。自分たちを救ってくれる存在を、自分たちを助けてくれるお坊さんの存在を。
そう、黒田坊とは——子供たちの強い願いによって創り出された妖怪なのだ。
だからこそ、彼は子供の声には必ず答える。子供たちが自分を求める限り、たとえそこが空間の断絶した場所であろうとも駆けつけることができるのだ。
『アレ? あなたどっから入ったの?」
『……〈呼ばれて来た〉』
そうして、地下鉄駅へと侵入した黒田坊は鳥居とそっくりな幽霊少女と対面した。
『ふ~ん? でも、私……斬っても消えないよ!!』
黒田坊は最初、通常の斬撃で少女を打倒しようと試みた。ところがいくら斬撃を加えようとも、幽霊少女には何の効果もない。
『もし私を消したかったら……四十四秒以内に迷子になった〈私〉を見つけないとね!〉
たとえ対象が妖怪であろうとも、幽霊少女を消し去るには『四十四秒以内にコインロッカーの中から彼女のモデルになった人物』を見つけなければならない。
侵入するにもルールを守る必要があり、戦闘にもルールが適用される。こういった『縛り』が都市伝説型の妖怪には多い法則がある。
そのルール通りにしなければ、いかに特攻隊長の黒田坊といえども只では済まなかっただろう。
もっとも——
『——ほぅ、それでいいのか……』
『え?』
幽霊少女がゲームスタートの合図をした瞬間、黒田坊は無数の武器を繰り出し、ほぼ同時に全てのコインロッカーの蓋をこじ開ける。
四十四秒どころか、ものの数秒で——コインロッカーの中から鳥居夏美を見つけ出してしまったのだ。
無数の手数を持っている黒田坊だからこその荒技。最初から最後まで〈地下鉄の少女〉と〈黒田坊〉という妖怪は相性がガッチリと噛み合っていた。
『あは……見つかっちゃった……お兄さん、何者?』
あっさりとモデルである本体が看破され、幽霊少女は消えていく。
見つけ出された以上、彼女は消滅しなければならない。これもまた、この都市伝説のルールである。
そんな役割を終えて消えようとしている少女へ——黒田坊は手を伸ばしていた。
『——成仏しろ、幽霊少女。拙僧はお主と同じ……人の想いが産んだ妖怪だ』
子供たちの願いから産まれた〈黒田坊〉も。
人々の噂話から発生した〈地下鉄の少女〉も。
結局のところ、大元の部分は同じなのだ。
人間の想いや願いがあったからこそ、彼らは産まれた。そういった同族意識からか、黒田坊は優しげな口調と仕草で消えていく幽霊少女の頭を撫でてやった。
『…………へぇ~』
その言葉に何か感じ入るものが少女の胸にあったのか、それは誰にも分からない。
半分残念そうに、半分は嬉しそうに彼女という存在が成仏していく。
捨てられていた赤ん坊である自分を見つけてくれてきっと感謝し、満足して成仏してくれるだろう。
——さらばだ……。
今はそのように、心の中で願うしかない黒田坊であった。
「——ああ、折角傑作の予感だったのに。未完成のまま消えちゃったよ」
「……!」
そうして、黒田坊が幽霊少女を見送り、鳥居と巻の二人を救い出した——その直後である。
彼の背後に、何者かが姿を現していた。
「こんにちは……黒田坊さん」
着物を纏ったその青年は、親し気な様子で黒田坊に声を掛ける。だがその視線は鋭く彼のことを睨みつけていた。鋭利な刃物のように研ぎ澄まされた敵意を、その瞳の奥に滾らせている。
この青年こそ鳥居夏美が目撃した男であり、彼女に『死んでもらう』と冷酷に告げていた男である。
彼が鳥居をこの〈地下鉄の少女〉のモデルにしようなどと『仲間』に提案し、それによりこの怪談は産み出された。
もっとも、男の役目は怪談を集めることである。
怪談を〈産み出す〉のも、怪談を〈語り聞かせていく〉のも彼の役割ではない。
所詮彼は紛い物の『耳』であり、『鼻』の力で怪談の発生を嗅ぎまわることしかできない男。
しかし、それでも青年は不敵な笑みを黒田坊に向けていた。
不気味な笑みを浮かべ、黒田坊と対面する。
「お前……〈
黒田坊がその青年の名を呼んだ。
そう、この青年を黒田坊は知っている、覚えている。
この青年の名は——柳田。
かつて奴良組と勢力争いをしていた江戸百物語組——そこの構成員をしていた男である。
彼は魔王山ン本五郎左衛門。奴に仕えていた妖怪であり——。
「ふふ……覚えててくれたんですね」
「——元百物語組大幹部……黒田坊さん」
黒田坊にとっては——かつての同僚の一人でもあった。
補足説明
地下鉄の少女
鳥居夏美をモデルに産み出された幽霊少女。
白黒の漫画だと分かりにくいですが、コミックスの表紙絵のカラーでは肌がかなり青白い。
可愛いんだけど残酷、しかし彼女自身に悪意とかはないのだろう。
鳥居夏美と巻沙織
毎度お馴染み、清十字怪奇探偵団のメンバー。
原作だと、カナより妖怪に襲われる機会が多い娘たち。
二人はお互い、普段は苗字で呼び合っていますがどっちかがピンチになると名前呼びになる。
お前らはあれか? 付き合っているのを隠しているカップルか何かか?
黒田坊
こちらもお馴染み、奴良組の特攻隊長である暗殺破戒僧。
女難の相を持っているが、決めるときはきっちりと決めるイケメン。
アニメ版しか観ていない人は知らないかもしれないが、元々は『子供たちが産み出した妖怪』。
子供たちの願いから産まれたため、彼らの助けを呼ぶ声には颯爽と駆けつける。
柳田
百物語組……一応は幹部。
原作だと『耳』のポジションに収まっているが、今作では吉三郎がいるため……ちょっと立場が不遇。
耳に鈴をつけており、それが山ン本の『鼻』となっているため、一応は正式な幹部扱い……哉?
こいつの語尾を見るたびに……家長カナを連想してしまう。
とりあえず、次回に説明回を挟んで……それから物語を大きく動かします。
ついに始まる日常の崩壊に向けて、色々と伏線を張らねば……。