家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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グランドオーダー『終局特異点 冠位時間神殿ソロモン』公開当日に観に行ってきました!
あっという間の上映時間、もうどこから褒めればいいのか分からない感動の連続!
色々と尺不足な分も勿論ありましたが、大満足です!

まさか、あそこであのサーヴァントたちが活躍するとは……このチョイスはいったい、どういう基準なんだ!? 制作陣の趣味なら……いい趣味してるぜ!

もう一回観に行ってもいいかなと思ってますが、今は自分の住んでるところでもコロナ患者が増えてきているので自重中。
ゲーム本編の6周年、アヴァロン・ルフェの戴冠式をプレイして過ごします。


とりあえず、今回は繋ぎの回です。
鬼ごっこが始まり、カナが原作にない活躍をしていく……その前段階となります。



第九十七幕 東京鬼ごっこ

PM 4:50

 

 

 

「…………」

「……い、カナ……」

「…………」

「……って、おい!! 聞いてんのか、カナ!?」

「え? あ、なに? 兄さん?」

 

 放課後の浮世絵中学校。二人の生徒が校舎の屋上に残っていた。

 一人は家長カナ、奴良リクオの幼馴染。そしてもう一人はそんな彼女の兄貴分、土御門晴明である。

 

 今の時間帯、彼ら以外の生徒が屋上にやってくることはほとんどない。誰にも邪魔されないその場所で、二人は互いに『百物語組に関する情報交換』を行なっていた。

 カナがここ数日、リクオたちと一緒になって集めた情報。春明がここ数日、自分一人で行った調査活動の成果。互いが持っている情報をすり合わせ、より精度の高い情報にして百物語組の手掛かりを探っていく。

 しかし、そんな情報交換の最中に突然空を見上げたカナ。彼女はどこか不安げな表情でボソリと呟く。

 

「……今、リクオくんの声が聞こえたような気がしたんだけど……」

 

 虫の知らせというやつだ。なんの前触れもなく、なんの根拠もなくカナは何かを感じ取った。

 神通力で気配を感じ取っているわけでも、未来が視えているわけでもないのに。こんな感じで不安を予感するのは彼女にとっても初めての体験。言い知れぬ不安に、カナは引き込まれるように空を見上げている。

 

「はぁ~!? なんだそりゃ!?」

 

 カナの発言に春明は意味が分からんと素っ頓狂な声を上げる。彼女の口からリクオの名前が出たせいもあり、露骨に不機嫌な態度になっていく。

 

「なんでここであいつの話になんだよ……チッ!!」

 

 今現在も、春明はリクオのことを快く思っておらず、学校でもほとんど顔を合わせないようにしている。

 リクオのことを廊下で見かけただけでもその日一日は不機嫌な顔色になるというのだから、もはや筋金入りだ。

 

「……兄さんって、ほんとにリクオくんのこと嫌いだよね。……なんでそこまで毛嫌いしてるの?」

 

 そんな春明に対し、カナはいい加減その話題について切り込んでいく。

 

 別に誰が誰と仲良くするかはその人の自由だ。そこにカナが口を挟む権利はないのかもしれない。

 だが、彼女個人の思いとしては二人には、リクオと春明には仲良くしてもらいたい。

 ましてや、今は共通の——『百物語組の調査』『安倍晴明の打倒』という何よりも優先すべき目的があるのだ。最低限の協力は必要不可欠。互いにもっと友好的になるべきではと。この半年間にカナは二人の仲をそれとなく取り持とうとしてきた。

 

 しかし、リクオの方はともかく、春明は何があろうと頑なに態度を軟化させようとはしない。

 いったい、リクオの何がそんなに気に入らないのか。カナとしては何が何やらさっぱりである。

 

『……まあ、そこはアレだ。カナ……お前も察してやれよ……』

 

 そんな彼女の首を傾げる姿に、狐面の面霊気・コンがボソッと呟く。

 

 現在、面霊気は春明の手に握られている。既にカナの正体が周囲にほとんどバレてしまっていることもあってか、カナが清十字団の皆と出掛けるといった用事があるとき以外、面霊気は常に春明が持っていることになっている。

 春明は面霊気の正当な所持者であり、彼の『抱えている事情』込みで彼のことを一番理解しているのはおそらく面霊気だろう。

 

 面霊気は春明がリクオを快く思わない理由を、それとなく理解していた。

 しかし、だからといってそれを口するような無粋な真似はしないでおくのだ。

 

 

 

 

「——はぁはぁ……こ、ここに居たのね、二人とも!!」

 

 と、カナと春明、面霊気がそうやって屋上で話し込んでいたときだ。

 

「あれ? 凛子先輩……どうかしましたか?」

「何のようだ、白神?」

 

 カナの先輩でもあり、春明にとっても数少ない友人である——白神凛子が彼らの元へと駆け込んでくる。

 切羽詰まった様子で激しく息を切らせる凛子は、屋上でカナと春明の姿を目に留めてまずは一安心。だがすぐに、そこにもう一人の重要人物がいないことで焦燥を見せる。

 

「二人とも……さ、三代目……り、リクオくん見かけなかった!?」

「……なんだよ、また奴良リクオかよ……」

 

 またもリクオの名前が出たことで、春明はさらに機嫌を悪くしていく。

 

 白神凛子にとってリクオは大事な友人、そして自分の実家である『白神家』が奴良組に所属している商家だ。

 リクオの意向もあって学校では先輩として接しており、あまり畏まった態度を取ることはないが、彼女はこのとき奴良組の一員として彼の身を案じ、その居所を二人に尋ねていた。

 

「リクオくんなら、先に帰って百物語組の調査をしている筈ですけど……リクオくんがどうかしましたか?」

 

 凛子の質問にとりあえずカナが答える。

 本来であれば、カナも今頃はリクオと一緒に下校し、彼と一緒になって百物語組の調査を手伝っていただろう。だが今日に限って春明に呼び出されており、リクオとは行動を共にしていなかった。

 

 それが吉と出るか、それとも凶と出るか。

 それは凛子の次なる発言——リクオの身に起ころうとしている問題に直結することになる。

 

 

「た、大変なのよ!! 今、学校のネット掲示板でリクオくんのことが話題になってて……それで——」

「——!?」

 

 

 

PM 5:00

 

 

 

「…………」

 

 衆人環視の中、リクオはやむを得ず自らの正体を晒してしまった。

 人間たちを救うため『妖怪』の姿となり、人々に仇をなしていた山ン本の十二指腸・悪食の野風を怒りの一刀のもとに斬り捨てたのだ。

 だが、それは人智を超えた力だ。人間たちにとって、化け物を斬り殺せるリクオもまた化け物として映っていただろう。リクオから逃げようと、悲鳴を上げながら人間たちは彼から距離を置いていく。

 

 しかも、その中の何人かは——スマホを掲げながら奴良リクオの姿を撮影していた。その映像がネットを介し、さらに大勢の人間たちが彼の正体を知っていくことになるだろう。

 

 リクオは『敵』の思惑どおり、大切な居場所を一つ失ったのである。

 

「リクオ様……あ、あいつらって……」

「…………」

 

 しかし、リクオに落ち込んでいる時間などなかった。

 彼の側に寄り添うつららが警戒を促すよう、リクオたちの眼前には——既に次なる敵の姿があったのだ。

 

「…………」

「ふっ、アッハッハ……」

 

 一見するとただの人間にしか見えない着物の男が二人。混乱する群衆の中に混じり、リクオたちを見据えている。

 その正体が妖怪であるということは、おそらく一般人には分からないだろう。それほどまでに人間たちの中に溶け込み、彼らは上手い具合に妖気を消している。

 

 一人は光の感じられない瞳でありながらも、口元だけには笑顔を浮かべている男。

 もう一人はリクオたちを馬鹿にするよう、クスクスと嘲るような笑みを零している男。

 

「まだだよ」

「——!?」

 

 その内の一人。目に光のない男が、柔和な微笑みを浮かべながら奴良リクオに向かって堂々と宣戦布告する。

 

 

「——この怪談は終わらない。君たちが滅びるまで……絶対にね」

 

 

 

 

 

 

 

『——奴良リクオヲ殺セ!! サモナクバ自ラガ滅ブコトトナルゾ!!』

 

 

 巨大な一羽の鳥が——リクオたちの頭上で人語を介し、人々へと叫び始めた。

 

 

『奴良リクオヲ殺セ!!』

 

 

『殺セ!! 殺セ!!』

 

 

 奴良リクオを殺せと。そうしなければお前たちが滅びることになるぞと。

 まるで預言者のように人々へと告げて飛び回る巨大な怪鳥。

 

「あ、あの鳥は……!?」

 

 つららはその怪鳥に見覚えがあった。

 去年の京都での戦いの際。土蜘蛛に捕まったカナを助けようと、相剋寺に単身乗り込もうとしたつららを寺まで連れて行った鳥妖怪だ。

 

 あの少年——吉三郎とかいう奴が愛用している、巨大な怪鳥。

 

 既にカナから話を聞いたリクオを経由し、つららにもあの少年の正体が概ね判明していた。

 江戸百物語組、山ン本五郎左衛門の一部。今まさに水面下で対立している敵勢力の妖怪。あの鳥がこうしてここにいるということは——。

 

「てめぇらが……百物語組か? この一連のことはてめぇらが仕組んだのか?」

 

 相手の正体を理解し、リクオは殺気のこもった瞳で二人の男を睨み付ける。

 人間たちを恐怖のドン底へと叩き落とし、畏を得ようとする連中。多くの怪談を産み出し、リクオの友人にまで手を出した語り手たち。

 

 そして——家長カナという少女の人生を滅茶苦茶にした外道共。

 

 彼らこそ奴良組の、奴良リクオの敵。この二人もきっとその一員。リクオは刀の鞘に手を添え、いつでも抜き放てるように構えていた。

 

「——さっ! 早速ですが……ゲームを始めましょう」

「何!?」

 

 ところが、そんなリクオの怒気などさらりと受け流し、目に光のない男はニコッと笑みを浮かべる。

 リクオに向かって——どこか楽しそうに『ゲーム』の開催を、そのルールを簡単に説明していく。

 

「耳、口、面の皮、腕、骨、鼻、脳……あたしら百物語組にはこう呼ばれている七人の幹部たちがいます」

 

 魔王となった山ン本は百に分かれている。

 その中でも、特に力や能力の特殊なもの——それが七人の幹部だ。

 

「これから東京中にあたしらが作った……百物語組の妖怪を全部放ちます」

 

 百物語組が作り、産み出した妖怪。

 それは百に分かれた山ン本の一部たちだけではない。彼らが三百年の間にずっと溜め込んできた〈創作妖怪〉たち。ここ最近になって出来たばかりの〈新作怪談〉。

 そして、今この瞬間にも『腕』の手によって新しい妖怪たちが描かれ続けていく。

 その全てを、無制限の解き放つというのだ。そんなことをすればたちまち人間社会は大パニック。東京中が大変なことになる。

 もっともそんなことなどお構いなしに、男は淡々とルールの説明だけを続けていく。

 

「君たちはその中に隠れている重要な七人を夜明けまでに見つけ出してください。七人の幹部を全員潰せば君たちの勝ちです」

 

 あくまで公平なゲームだと、奴良組の勝ち筋を提示してみせる。

 

「……な、何を言ってるんだ……?」

「……?」

 

 だがあまりにも突然過ぎたため、リクオもつららも相手の話などまるで耳に入ってこない。

 ゲームなどと、いきなり訳の分からないことを言い出す男に、リクオは怒り以上に困惑を覚えて黙り込んでしまう。

 

「師匠~~、もっと優しく説明してあげないと……理解できなさそうですよ?」

 

 するともう一人の、嘲るような笑みを浮かべていた男が理解の追いついていないリクオたちを小馬鹿にする。

 

「クス……単純に言うと、今度こそお前らは終わりってこと哉……アハハハハ!」

「な、何よ……アイツ!」

 

 特徴的な語尾に、こちらを侮蔑するような笑い声。その男はリクオたちを勝たせるつもりなどないのか、奴良組の終焉を確信し、見下した笑みを浮かべ続ける。

 感じの悪い男の態度につららが苛立たしさを募らせるも、相手の目的が何もわからないため、迂闊に動くことができない。

 

 いったい、彼らは何故そのようなゲームをしようなどと言い出したのか?

 

「単純な追いかけっこですよ」

 

 そういった魂胆を何一つ明かすこともなく。目に輝きなど一切感じられない男がさらに一方的にゲームのルールを押し付けていく。

 

「ケイドロとジャンケンが混じった感じかな? あたしらが人間を襲い……人間が君たちを襲います。そして、君はあたしら百物語組を追うのです」

 

 

『百物語組』→『逃げる人々』を殺すために妖を生み出し、街に放っていく。

『逃げる人々』→『奴良組』を、自分たちが助かるために奴良リクオを殺さなければならない。

『奴良組』→『百物語組』を倒し、このゲームそのものを終わらせなければならない。

 

 

「ルールは特になし、何をやっても構いませんよ。強いて言うなら舞台は『東京』、残り時間は『十四時間』です」

 

 現時刻は午後五時。制限時間とされる時刻は翌日の明朝——午前七時だ。

 それまでの間に、奴良組は百物語組の七人の幹部を倒さなければならない。

 

「さあ、お互いの畏を賭けて頑張りましょう!」

 

 さもなくば——奴良組は消え失せる。

 この一晩で全てを終わらせなければ、奴良組の所有する『畏』が消えて無くなる。全て百物語組によって奪われる。

 そして、奴良リクオが消え去ることで、きっと人間たちは助かるだろうと。

 

 

 これは、そういうゲームなのだと。

 山ン本の口・圓潮の『言霊』が——人々の意識を塗り替えていく。

 

 

 

PM 5:30

 

 

 

「な、なんなの……これ……?」

 

 家長カナは呆気に取られていた。

 彼女がスマホで見ていたのは学校のネット掲示板。校舎の屋上へと駆け込んできた白神凛子が教えてくれたのだ。

 

 その掲示板に、奴良リクオへの誹謗中傷のコメントが寄せられていることを——。

 彼の正体に関する『暴露』コメントも一緒に添えられていることが——。

 

 

■奴良リクオは人と妖との間に生まれた子。

 

■呪われた存在、この国を破滅へと導く。

 

■件の予言だ。もう誰にも終末を止められない!

 

■みんな騙されてた! 人の皮を被った化け物がこの学校に潜んでいたなんて!

 

■怖いよ、嫌だよ。そんな人が同級生だったなんて。

 

 

「……さっきからずっとこんな感じなのよ! それで……このコメントを見た学校の人たちが……みんなパニックになっちゃって……」

 

 本来、学校のネット掲示板は関係者以外立ち入り禁止。誰がどんなコメントをしたのかログが記録され、こんな誹謗中傷は管理者権限ですぐにでもストップされる筈だ。

 しかし、先ほどからこれらのコメントが差し止められる様子はなく、寧ろ加速する勢いで書き込みが続いている。

 最初の、リクオの正体に関するコメントを見た生徒たちからの疑問や罵詈雑言。

 皆何かに取り憑かれたかのように、次から次へと奴良リクオという『人間』を否定し、拒絶し始めているのだ。

 

「…………」

『…………』

 

 これには土御門春明も、面霊気も口を噤む。

 陰陽師である彼の目から見て、それらのコメントは明確な悪意や——強烈な『呪詛』に彩られている。

 

 そう、これは何者かによる明らかな敵対行為。ネットを介して行われた——奴良リクオに対しての『攻撃』だった

 

「り、リクオくんは!? 先輩、リクオくんにこのことは!!」

「そ、それが聞きたくてカナちゃんのところにきたんだけど……」

 

 カナは真っ先にリクオの身を案じて凛子に尋ねるが、それは凛子の方が聞きたいことである。

 

 今、奴良リクオはどこにいるのか? ここに書かれているコメントの数々を目にしているのか?

 

 出来ることなら——見ていないで欲しいとカナは思う。

 こんな酷い誹謗中傷、リクオ自身の目で見ることなどない。

 

 しかし、リクオの正体に関するコメントを多くの学校関係者が見てしまっている。その事実だけでも伝えなくてはと、カナはスマホの携帯でリクオへと連絡を試みる。

 

「…………出ない? そ、そんな……どうして?」

 

 だが応答がない。試しに清十字団の活動用に使う呪いの人形型携帯電話でも連絡を試みようとしたが、駄目だった。

 よりにもよってこのタイミングで繋がらない。カナは嫌な予感を覚える。

 

「……おい、なんか知らんが……よそのサイト? そっちの方でもデカイ騒ぎになってんぞ……」

「えっ?」

 

 すると、そこで春明が自分のスマホを何気なく弄りながら、カナに声を掛けていた。

 ちなみに、カナや春明が携帯をガラケからスマートフォンに変えたのは去年の秋頃だ。最初こそ色々と手こずってはいたものの、今では人並み程度にスマホの機能を使いこなせるようになった。

 凛子の話を聞いている間も、春明は『奴良リクオ』のワードを検索。よそのサイトでも動きがないかと、情報収集をしていたのだが。

 

 学校の掲示板サイト以外でも——既に『奴良リクオ』に関する話題は蠢いていた。

 

 

■ついにキター!!

 

■浮世絵町マジだったか。

 

■待ってろ、今オレも向かってる。

 

■誰かいる? オレも近くまで来た。

 

■奴良リクオマジ殺す。

 

 

「…………」

「…………えっ? な……なんなの、これ?」

 

 カナは言葉を失い、凛子もそこに書き込まれていたコメントに絶句する。

 そこでは学校の掲示板よりも過激で、明確な殺害予告。明らかに犯罪となる可能性の高い表現まで使われ、奴良リクオが貶められている。

 

 しかもそのサイトには、人間時の奴良リクオの『顔写真』まで表示されていた。

 戸惑っているリクオの表情から、それが本人の許可もなく撮影されたものだと。カナは服装・マフラーの柄から——それがまさに『今日』撮影されたものだと瞬時に判別できた。

 

「……あん? なんだこりゃ? 動画か……リアルタイム?」

 

 さらにそれだけでは終わらない。

 そのサイトでは現在進行形で書き込みが続けられており、そこにひとつの『動画』がアップされていく。

 

 春明はその動画をタップ。その場の全員に聞こえるよう、音量を上げていく——

 

 

 

 

 

 

『——殺セ殺セ! 奴良リクオヲ殺セ!!』

 

 最初に映像が映し出したのは『空』だった。日が落ちきろうとしている黄昏の空を——巨大な怪鳥が飛び回っていた。

 

「——っ!!」

「——!!」

 

 カナと春明は瞬時にその鳥妖怪が、京都での戦いの際に奴が——あの『怨敵』が乗り物として利用していた怪鳥だと気づく。

 気づいた途端、瞬間的に殺気を垂れ流してしまい、側にいた凛子など「えっ!?」などと背筋を凍らせていたが。

 

「あっ!? 今見えたの、リクオくん!?」

 

 次に見えたのものに、カナが若干安堵の声を上げる。

 

 奴良リクオと及川つららだ。二人がその鳥に追われるような形で黄昏の空を飛んでいた。二人とも翼のある妖怪ではないが、リクオがお散歩の際に愛用している妖怪・蛇ニョロに乗ることで彼らは空を飛翔している。

 リクオは既に夜の姿。つららも妖怪の姿で、何故か動画に向かって「あっかんべー」をしている。

 その映像を見る限りで二人は無事だ。リクオの頬にかすり傷らしきものはあるが、特にそれ以外大きな外傷はない。

 

 

 だがリクオたちの眼下——地上にこそ『混乱』は広がっていた。

 

 

『死ねぇええ! 妖怪!!』

 

『降りてこいや、化け物!!』

 

『殺せ!! 奴良リクオを殺せ!!』

 

 

 カメラが地上の方へと向けられたのか、その様子が映し出される。

 場所は駅周辺の繁華街だ。場所が場所だけに多くの人が集まっており——大半の人間が、奴良リクオへの憎しみを吐き捨てていた。

 

 リクオを殺せと、あの化け物を殺せと。彼がいる空に向かって叫んでいる。

 人々の手にはバットや包丁、棒切れや消火器。傘などまでもが凶器として握られている。

 

 中には彼らの暴れように驚いて目を丸くしているまともな人もいるが、八割の群衆は既に暴徒化しており、その中には警察官なども混ざっている。

 得物が届かない、上空にいるリクオに対し、人々は石を投げつけていた。

 

『————』

 

 彼らから逃れるため、奴良リクオと及川つららはその場から遠ざかっていく。その映像のリクオはずっと背中を向けているため、その表情を窺い知ることは出来なかった。

 

 だが不思議と、その背中が泣いているようにカナには感じ取れた。

 

 

 

 

 

 

「……行かないと。リクオくんのところに……!」

 

 その映像を見終わった直後にも、カナは行動を起こしていた。

 懐にしまっていた護符を取り出し、それに念を込める。護符はすぐさま巫女装束や槍へと変わっていき、カナは一瞬で戦支度を整える。

 そして、六神通・神足を発動しようとし、すぐにでもリクオの元へ飛ぼうと覚悟を決める。

 

「待て待て、そう急ぐな」

 

 しかし、そんなカナに春明が静止の声を掛けた。

 彼はあくまで冷静に、カナを諭そうと落ち着いた言葉で彼女を宥める。

 

「そんなに慌てる必要はねぇ。奴良リクオがあんな一般人どもに遅れをとるなんてことはないんだ。今はとりあえず……敵の出方をだな——」

 

 リクオの正体が世間にバラされ、人々が彼への憎しみを叫ぶようになってしまったのは間違いなく奴ら・百物語組の仕業だろう。だが敵の策略はまだ始まったばかりだ。ここから相手がどのように手を打ってくるか。

 春明としては、それをじっくりと見定めた上で行動したい。この騒動の影で暗躍しているであろう——例の『耳クソ野郎』を確実に始末するためにも。

 

 

 だが——

 

 

「そういう問題じゃないでしょ!?」

 

 その考えに反発するように、カナは叫んでいた。

 

「リクオくんは、傷ついてるんだよ!? 人間に裏切られて、石を投げられて……このままじゃ、リクオくんの居場所がなくなっちゃうよ!!」

 

 そう、これは勝つとか負けるとか、そういう問題ではない。

 

 リクオは共存したいと願っている人たちから矛を向けられた。それはただ敵から刃を向けられるのとは意味合いが違う。彼は、守るべき筈の人間から拒絶されたのだ。

 たとえこの危機から逃れ、生き延びることができても——このままでは、人間社会での彼の立場がなくなってしまう。

 それは『妖怪』としてだけではなく、『人間』としても生きたいと思っている、『半妖』としてのリクオの根本的な価値観の崩壊を意味する。

 

「とにかく……! わたしはリクオくんのところに行くから!! 兄さんはここで待機してて!!」

 

 そんな彼の心を案じ、カナは今すぐにでも、リクオの元へと向かわなければならないと。

 たとえ多くの人間たちから悪意を向けられても、自分だけは彼の味方でなければならないと。

 

 自惚れかもしれないが、それが出来るのは自分だけだと。カナは使命感のようなものに駆られ、春明の静止すらも振り切って校舎の屋上から飛び立とうとした。

 

 

 その直後だ。カナのスマホから着信音が鳴り響く。

 

 

「——っ!! もしもし……!?」

 

 もしやと思い、すぐに着信に応じるカナ。

 

『はぁはぁ……カナちゃんか?』

「リクオくん!? 今どこにいるの!?」

 

 カナのスマホに掛けてきたのは奴良リクオだった。今も追われている最中なのだろう、息を激しく乱していた。

 

『……済まねぇな、さっきは出てやれなくて……それで何の用事だったんだい?』

 

 口調から分かるように夜のリクオだ。彼はカナからの着信履歴を見つけ、わざわざかけ直してくれたようだ。心配を掛けまいと、何事もないかのように振る舞っている。だが——。

 

「リクオくん……今、ネットの動画で見てたの。リクオくんが……大勢の人たちに、追われているところを……」

 

 あの映像を見ていたカナに誤魔化しは通用しない。

 リクオが今どのような状況にあるのか、既に彼女には分かっていることだ。

 

『!! そうか……そんな動画まで……まったく、用意周到なことだぜ……』

 

 どこまでも先回りし、手を回していく敵のやり口にリクオは舌を巻いている。

 

 おそらく、動画を投稿したのはリクオを追い回していた人間の一人だろうが、人々がそのように行動するよう仕向けたのは百物語組だ。

 ネットの書き込みといい、動画サイトへの素早いアップロードといい。敵はリクオの『居場所』を徹底的に潰すつもりのようだ。

 江戸時代の頃とは違う、現代だからこその情報戦。認めざるを得ないが、文明の利器を利用する点において、相手は奴良組より上手であると。

 

『聞いてくれ、カナちゃん! 連中が……これから百物語組の奴らがやろうとしている企みを……!』

 

 カナがリクオ側の事情をある程度把握していることを理解し、リクオはカナにも語ることにした。

 

 

 彼ら百物語組がこの東京でやろうとしている『ゲーム』について——。

 

 

 

PM 5:45

 

 

 

「……鬼ごっこ?」

『ああ、そうだ。ふざけてやがると思うが……連中は本気だ。本気で……こんなくだらねぇゲームに人間たちを巻き込むつもりでいやがる!』

 

 僅か数分だが、奴良リクオはとりあえずの状況を説明した。

 リクオたちの前に現れた百物語組の幹部。山ン本の口・圓潮という男が宣言したゲームの内容、鬼ごっこを——。

 

 人間たちがリクオを殺そうとする一方で、百物語組はリクオから逃げながら妖怪を街中に放とうとしている。

 人間を殺戮できる妖怪が東京中に放たれれば、人間社会は甚大な被害を被る。多くの人たちが、罪のない人たちがこの抗争に巻き込まれて殺されてしまう。

 

『カナちゃん。キミや……春明の奴にも手を貸してもらいたい。東京中に散らばってる百物語組の連中を倒して……人間たちを助けてやってほしい』

 

 リクオはそんなことはさせまいと。人間を守るためにカナや春明、奴良組の組員たちを総動員。戦力を東京中に散らし、それぞれが個別に対処できるように戦力を分散すると提案する。

 

 それが一番効率が良く、多くの人間を守ることができる最善の方法だと。

 

「! で、でも……それって!?」

『そうだな……連中も、俺がそう動くってことは既に予想済みだろうさ……』

 

 だが、それこそが敵の狙いだろう。 

 戦力が分散されれば、百鬼夜行戦のような集団としての力を発揮できなくなる。仮に幹部とやらと対峙した場合も、個々の力で勝たなくてはならなくなる。

 

 また、戦力を分散することで必然的にリクオの守りも手薄になってしまう。

 リクオが人間に捕まるなんてことは起きないだろうが、彼の守りが手薄となったところに強力な妖怪が襲い掛かれば——リクオの身にも、万が一なんてことが起こりうるかもしれないのだ。

 

 リクオが負ければ、当然何もかも終わりだ。

 彼の命と立場を守ることこそが、本当は正しいのだろうが——。

 

『頼む、カナちゃん……協力してくれ!! 俺のせいで……これ以上人間たちが苦しむなんて……俺には!』

 

 それでも、リクオにそんな選択肢は選べない。

 自分の守りを厚くするより、一人でも多くの人間を助けることこそが最優先だと。

 

 自分に憎悪を向けてくる人間であろうとも、彼は一人残らず助けたいと願っている。

 

『っと! 済まない、また追っ手だ! ……必ず、また後で掛け直——』

「リクオくん!? リクオくん!?」

 

 通話は、そこで途切れてしまった。

 追われている最中でありながらも隙を作ってまで、カナに電話してくれたのだろう。

 

 

 それっきり、カナの電話とリクオの電話が繋がることはなかった。

 

 

 

「ど、どうするの……カナちゃん?」

 

 カナとリクオの通話に耳を傾けていた凛子が問いを投げかける。

 当初の目的通り、リクオの元へと向かうか。それともリクオの願い通り、人々を守るためにリクオとは違う場所へと向かうか。

 

「…………リクオくんのところには……行きません」

 

 カナは後者を選んだ。

 目を伏せたまま、通話の途切れたスマホを握りしめたまま——『リクオの元へは向かわない』という苦渋の決断を下した。

 

「大丈夫です、凛子先輩! リクオくんの側にはつららちゃんがいますから! わたしは……わたしにできることをします」

「……カナちゃん」

 

 平静を装っているようだが、誰の目から見ても意気消沈としてることが丸わかりである。

 本当であれば今すぐにでもリクオのところへと行き、彼の無事を確認し、彼を守りたいだろうに。

 

 だが他でもない、リクオ自身がそれを望んでいないのだ。彼の望まないことをしても、彼の力にはなれない。

 リクオのためにも、今はただ人々を守るために行動するだけだと、カナも決意を改める。

 

「兄さん! 今日はちゃんと手伝ってもらうからね!!」

 

 そのためにも、カナは春明にも協力を要請する。

 こんな時にまで「めんどい!」だの、「リクオ嫌いだからいやだ!」などとは言わせない。

 

 彼にもしっかりと働いてもらわなければと、春明へと視線を向ける。

 

 

 ところが——

 

 

「別に、それは構わないんだがよ……」

 

 春明は、渋りながらもカナの頼みを聞き届けようとしていた。

 リクオではなく、カナのために。人間たちを守ることもやぶさかではないと、その重い腰を上げようとしていたが。

 

「どうやら、敵さんは……とっくにこっちを『標的』として動き出したみたいだぞ?」

「……!?」

 

 一瞬何を言っているのか分からなかったカナだが、すぐに周囲の気配を察知して理解する。

 

 

 既に彼女たちのいる場所の周囲に、妖気が充満し始めていたことに——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはところどころに潜んでいるとか、機会を伺っているとか。そんな生易しいものではない。

 敵はすぐ目の前——カナたちのいる場所『学校の周囲』に展開し始めていた。

 

 そう、鬼ごっこは始まったばかりだが、既に彼らは『鬼』としてこの校舎へと赴いていたのだ。

 人間を捕まえて殺す鬼として、学校全体を取り囲んでいる。

 

 リクオが通う学び舎である、この『浮世中学校』を潰すために——。

 彼からさらに大事なものを奪い取ろう、その邪な魔の手がすぐそこまで迫る——。

 

 

 

 現在時刻はもうすぐ午後六時。

 まだ鬼ごっこは始まったばかりだが——家長カナにとって、まさにこの浮世絵中学での戦いこそが正念場となる。

 

 

 




カナが戦う舞台は『学校』。
原作において、まるで蚊帳の外でしたが……リクオを追い詰める上で、ここは外してはならん場所でしょう。

この場所の妖怪たちを率いる奴こそが……『耳クソ野郎』です。
ついに次回から、カナと吉三郎との戦いが始まりますので、お楽しみに!

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