家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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さりげなく二か月ぶりくらいの投稿ですが……そこは気にせずにいただけるとありがたい!!

今年の7月に発売した『ゼノブレイド3』に関して。
作者はまだこのゲームを購入もしていないのですが……このゲームのEDに、前作の『ゼノブレイド2』の主人公がチラリと映った画像を目撃してしまいました。
レックスという男の子だったのですが、すっかり成長した姿で……『三人のヒロインがそれぞれ彼との子供を抱えている』という衝撃的な光景。

これはあれか? 今作のリクオも最終的にはああなることが理想像なのか?
つまり、カナとつららとゆらと三人、全員一緒に横並びになれということだろうか?

ED、何パターンか考えておいた方がいいのだろうか……。



第百四幕  リクオ変貌、困惑

PM 9:00

 

 

 

「暴れている妖は、山手線内だけでも三十匹以上は確認されており……」

 

「どいつもこいつもそこそこ強く、幹部だけを見つけるのは困難で……」

 

「ああ!? だったらどうした!? しらみ潰しに潰していきゃいいだろうが!!」

 

「百物語組のヤツら……姑息な手を使いやがる!」

 

 

 奴良組本家。奴良組の幹部たちが集まっている大広間では、混乱しきった妖怪たちの怒号が飛び交っていた。

 既に彼らのところにも百物語組の仕掛けてきた『鬼ごっこ』の詳細が届いている。自分たちに宣戦布告してきた連中の策略をどうにかしなければと、重鎮たちも対応に追われていた。

 

 しかし、あまりにもいきなり過ぎたためか。ほとんどのものが碌な対抗策を打つことができずにいる。

 相談役の木魚達磨のように落ち着いているものもいるが、中には仲間内で責任を押し付け合うなんてことも。

 

 

「——東京にシマがある奴はしっかりしろよ!!」

 

 

 まるで東京にシマがない自分には関係ないと言わんばかりに、一人の幹部が叫んだ。

 

 

 その瞬間——カアンッと、甲高い音が鳴り響く。

 

 

「ヒィっ!?」

「そ、総大将……」

 

 皆の視線が部屋の奥で胡座をかいていた老人——ぬらりひょんの元へと注がれる。

 老いても尚、その威圧感には微塵の衰えもない。寧ろ、いつも以上に張り詰めた空気を纏いながら、彼は煙管で灰皿を叩きつけて一言。

 

 

「——東京? 関東一円の奴らに声を掛けろ。百物語を許すな……総力を挙げて跡形もなく潰すんだ」

「へ、へい!!」

 

 

 静かではあるが確かな殺気の込められた言葉に、浮き足立っていた面々が怯えながらも平静さを取り戻す。

 責任の擦り付け合いなど後回しだ。それぞれの役割をきっちりこなそうと、互いに意見を出し合い知恵を巡らせていく。

 

 

 

 ——死ぬなよ……リクオ……。

 

 戸惑う幹部たちを一喝で黙らせたぬらりひょんだが、彼にできることもそう多くはない。

 既にこの戦いの全権は、三代目であるリクオに託されている。今も街中を駆けずり回っているであろう孫を信じ、少しでもその手助けができるように古株の組員たちを動かすのが自身の役割だと。

 

 ぬらりひょんもまた、自分にできる最善をこなそうと必死に知恵を巡らせていく。

 

 

 

 

 

「はっ!! なんだよ、また逃げやがったかよ……」

「はぁはぁ……」

 

 奴良リクオは山ン本の骨・雷電との戦いに思いの外苦戦を強いられていた。

 雷電はその大柄の見た目に違わず、腕っ節の強さに絶対の自信を持つ武闘派。しかし、ただ単純な力自慢とも違う。

 

 何より特徴的なのは——その肉体の『硬度』にあった。

 

 最初の一撃をぶっとい二の腕で防がれたときにも感じたが、その肉体は明らかにただの筋肉質とは異なっていた。

 もっと硬い『何か』を、この男はその内側に隠しているのだ。

 

「……フンヌ!!」

 

 さらに雷電、力んだかと思った次の瞬間にも——自身の肉体を『変形』させる。

 片方の腕を縮めたかと思えば、もう片方の腕が大きく膨れ上がった。大きさもさることながら、硬度がさらに増したその片腕で雷電は奴良リクオを力任せにぶん殴っていく。

 

「……っ!!」

 

 これを当然リクオは全力で躱す。

 ぬらりひょんの鬼憑・鏡花水月で認識をずらし、何とか紙一重でやり過ごしていく。

 

「ちっ! 逃すかよ!!」

 

 しかし、雷電の猛攻は止まらない。逃げるリクオを追いかけるように、その巨腕をさらに激しく振り回す。リクオであればその激しい猛追も避けることが出来たが、周囲はそうもいかない。

 

 

 建物を、道路を、自動車を。

 周囲にあるありとあらゆるものを破壊しながら、雷電はリクオを追い詰めていく。

 

 

「リクオ様!!」

 

 これに護衛のつららが何とかリクオを援護しようと試みるも、その攻撃の激しさの前では迂闊に近づくことも出来ない。

 圧倒的な破壊力、そして硬度を持った雷電相手では雪女の冷気も通じない。

 

 つららは援護もままならず、徐々にだが確実に奴良リクオは追い詰められていく。

 

 

 

PM 9:10

 

 

 

「おいおい、のらりくらりと逃げるだけって本当だな!!」

「はぁはぁ……」

「フハッ! 圓潮が言ってたけどよ……まるで布切れだ。そんなんじゃ、止まったハエも殺せねぇってな……!!」

 

 ここまでの戦い、逃げるだけの奴良リクオを雷電は嘲るように笑い飛ばしていく。実際、リクオは反撃の糸口も掴めないまま、体力だけを消耗していた。

 

 せめて、リクオの手にした刀が祢々切丸であれば。妖怪の妖気を元から断つようなあの妖刀であれば、雷電の硬度を無視して奴にダメージを与えることができたかもしれない。

 だが今の彼が手にしている刀は、あくまでただの日本刀だ。祢々切丸と比べればどうあってもその切れ味から見劣りしてしまう、鈍に過ぎない。

 

「ましてや……最強に頑丈な『骨』の体は斬れねーぞ!!」

 

 リクオの無力さをさらに嘲笑いながら、雷電は自らの肉体を自慢するように肥大化させた右腕を見せつけていく。

 

「……骨の体?」 

 

 その際、雷電の口にした言葉にリクオがピクリと反応を示した。

 

「ん? おうよ! 言ってなかったか? 俺は全部骨で出来てるんだゼェ!! どうだ、カッコイイだろう!?」

 

 

 山ン本の肉体から生まれ落ちた彼らは、それぞれ人間の身体の部位が元となっている。

 その中でも雷電は、山ン本の骨格——その全身が『骨』によって構成されている妖怪だった。生まれた当時は大した知能を持ち合わせていなかった彼だが、長い年月を経ることで強固な自我を獲得するようになった。

 

「いいか? この世で一番かてぇのは何か……? ダイヤ? ん~……ダイヤって思うだろ? けど違うんだな!」

 

 だが、やはり根本的に頭の方は良くないらしい。

 場合によっては弱点にもなりかねない自身の肉体の秘密、その能力をペラペラと喋り出していく。

 

「俺だよ!! 一番硬ぇのはこの俺だ!! なぜなら…………」

 

 もっとも、意気揚々と話そうとしたところで雷電は言葉を詰まらせる。

 

「えーと……密……密度だよ。鏡斎が説明してくれててな……。金剛石が炭素の……密度がすげぇから……」

 

 

 雷電はいまいち、自分の能力がどういったものかを把握し切れていないようだが、彼の骨としての肉体硬度を科学的に解説するのであれば——それは『炭素の結合度合い』によるものだと、一応の説明は出来るだろう。

 

 人体の中でも骨は多くの炭素を含んでおり、炭素原子はその結合の度合いによって硬度が大きく変化する。

 同じ炭素でも鉛筆の芯とダイヤモンドの硬さがまるで違うのは、簡単に言ってしまえば炭素原子が結合して『いる』か『いない』かという違いだ。

 故に、雷電が本当に自身の肉体の炭素原子の結合度合いを操作しているのであれば、理論上、彼の肉体はダイヤモンドを超える高硬度に変化するということだ。

 勿論、これはあくまで理論上の話に過ぎない。妖怪である彼の肉体構造が、人間の科学知識で語れるかどうかは怪しいところ。

 

 

「……な、なんだっけ? い、いいんだよ……そこんとこは……」

「…………」

 

 結局、雷電自身も説明を放棄したため、彼の能力の理屈をリクオが知ることはなかった。

 

「と、とにかく!! 一本の腕に骨を集めたのがこの龍の腕だ!! そんなボロボロ刀じゃ、防ぎきれねぇぞ!!」

 

 しかし、小難しい理屈を抜きにしても、雷電の肉体硬度は恐るべきものだ。

 特に片方の腕に骨を集中させて骨密度を上げた『(りゅう)(かいな)』など、リクオの刃こぼれも酷いボロ刀では傷一つ付けられない。

 

「そうして——」

「!!」

 

 さらに、ここで雷電は一気に攻勢へと出る。

 見せつけた龍の腕に意識が向いていたリクオの隙を伺い——その背後から、伸ばした『足』で攻撃を仕掛ける。

 そう、龍の腕で右腕を肥大化させたように、今度は右足に骨を集めて肥大化——それを地中へと伸ばし、背後からリクオに奇襲を仕掛けたのだ。

 

 

「足を伸ばせば——双竜の牙ってな!!」

 

 

 肥大化させた二つの骨の塊——これぞ『双竜(そうりゅう)(きば)』だ。

 正面からは巨大な右腕が、背後から巨大な右足がリクオを圧し潰そうと迫り来る。

 

 

「——こいつは避けられねぇぞ……リクオォオオオオオオオ!!」

 

 

 既に勝利すら確信しているのか、雷電は勝ち誇ったような咆哮を響かせる。

 

 

 

「なるほど、骨の化け物か……そりゃ、確かに硬ぇわけだ……」

 

 迫り来る絶体絶命の危機を前に、リクオは比較的冷静であった。

 

 圧倒的のパワーを誇り、生半可な攻撃が通じないほどの硬度を持ち合わせた——百物語組幹部・雷電。

 確かに並の敵ではない。ここまでのリクオであれば、正直かなりきつい相手だっただろう。

 

 しかし雷電の能力は、言ってみれば『それだけ』だ。

 ただの力自慢、ただの硬度自慢。しかも、その能力を破壊のためにしか使うことができない。ただ力任せに暴れるだけしか出来ないのであれば、これ以上、この戦いを長引かせる必要もないと。

 

 

「こいつを試すには……丁度いい」

 

 

 リクオは雷電との戦いに決着をつけるべく——刀を鞘へと納めた。

 そして、この機会に『新たに身につけた力』を試そうと身構えていく。

 

 

 

 

 

「ご隠居!! ご隠居!! ご隠居!!」

「なんじゃ、騒々しい……いったい、何事じゃ?」

 

 つい数分前、ぬらりひょんが慌てふためく幹部たちを宥めたのも束の間。

 今度は屋敷の警護に付いていたものたちの間で騒ぎが起き、彼らは慌てた様子でその報告をぬらりひょんの元へと持ってきた。

 

「地下が荒らされています!!」

「まさか、百物語組の奴らがとうとう……!!」

 

 ここでいう地下とは——『地下隠し道場』のことを指す。

 

 奴良組本家の地下に用意されているその道場は体育館ほどの大きさがあり、本格的な戦闘訓練を行う場合は必ずここを使用することになっていた。

 数年前までは特に大規模な抗争もなく、あまり使用されることもなかった施設だ。しかしリクオが三代目を正式に継ぎ、安倍晴明との決戦に備えて戦力を向上させるためなど、ここ半年の間でだいぶ利用される頻度が増えてきた。

 リクオの幼馴染である家長カナという少女も、訓練ではここを利用してきた。

 

 そんな、最近になって使われるようになった施設が荒らされているというのだ。

 特に本家の真下ということもあってか、そこから奇襲を仕掛けてくるつもりかと。百物語組の狙いを深読みして警戒する警備の者たちも多かったのだが——。

 

「…………バカモンが。こりゃ違うぞい」

「えっ?」

 

 それは杞憂に過ぎなかったと、地下の様子を直接見に来たぬらりひょんによって否定される。

 彼はその道場の荒らされようが、百物語組の仕業ではない。あくまで修行の一環によるものだと、一目見ただけで理解する。

 

「フ……しかしこりゃヒドイ……」

 

 だが、この荒れようでは勘違いするのも無理もないと、ぬらりひょんは僅かに笑みを漏らす。

 

 地下道場の荒れようは、それはもうヒドイものだった。

 まるで隕石でも落ちてきたかのように、床どころか壁面にまでクレーターが出来ている。柱は何本も斬り倒され、刃の切り傷が無数に天井にまで達していた。

 この道場は外部に音や衝撃が漏れないよう、相当頑丈な造りになっている筈。生半可なことではビクともしないのだが、そんな地下道場にここまでの被害をもたらすほどの暴れっぷり。

 それが相当に激しい訓練であったことは想像に難くない。

 

「……あの若先生も、なかなか厳しいのう」

 

 ぬらりひょんはその訓練を課された孫の顔。

 そして、その孫の相手をした『若先生』の顔を思い浮かべ、さらに口元を吊り上げていく。

 

 

 

「——ぬらりひょん様……その、少し宜しいでしょうか?」

「ん? どうした? 何か動きでもあったか?」

 

 だが、そうした地下の荒らされようが敵襲でないと安心したのも束の間、今度は別の報告を持ってきた妖怪がぬらりひょんの元へと歩み寄ってくる。

 その小さな鬼は、ぬらりひょんに耳打ちして彼だけにこっそりと要件を伝えてきた。

 

「実は……つい先ほど白神家のものたちから連絡がありまして……」

「白神家……? ああ! 白蛇んところの!」

 

 一瞬、ぬらりひょんはそれがどこの家のものなのか考えるが、すぐにそれが土地神・白蛇の子孫たちの実家であることを思い出す。

 

 幸運を呼び込むとされる白蛇とはぬらりひょんも昔からの付き合い。だが白蛇自身はかなり歳を取ってしまったため、最近は幹部の集会などにも顔を出さない。

 白蛇には、彼の幸運の力を恩恵として受けた子孫たちがいる。彼らは先祖代々商売人として繁盛しており、奴良組の経済面を支えてくれる大事な屋台骨として活動してくれている。

 最近では、その家のものとリクオが親しくしているという話を聞いたりもしたが。

 

 しかし、彼らはあくまで商売人。此度の百物語との抗争でも戦力にはなれず、あくまで自衛に徹している筈だ。

 その白神家のものから、ぬらりひょんに対して連絡とは一体どう言うことかと首を傾げる。

 

 すると、報告を届けに来た小鬼もその話をどうすべきか扱いに困っているようで。

 とりあえず、ぬらりひょんの耳にもその情報を伝えていく。

 

 

「——実は若の……リクオ様のご学友が大変なことになっているとか……」

 

 

 

PM 9:20

 

 

 

「——な、なんだぁあああ!? お、俺の腕がぁあ!! 俺の……脚がぁあああ!?」

 

 激闘が続いていた裏路地、既に崩れた建物などで廃墟と化していたその戦場に雷電の絶叫が木霊する。

 

 雷電はリクオを仕留めたと、彼の息の根を止めた思った。肥大化させた腕と脚の挟み撃ち、双竜の牙によって逃げ場を失った奴は万策尽きた筈だと。何の抵抗もなくぺちゃんこになって終わったと、そう思い込んでいた。

 実際、一度は確かに捉えた。双竜の牙で追い詰められた奴良リクオは、鏡花水月とやらで逃げる素振りすら見せず、刀を構えて『何か』しようとしていた。

 雷電は、その『何か』をさせてやるつもりもなかった。自身の能力でさらに腕と脚を変化させ、より凶悪になった双竜の牙でリクオを踏む潰す。

 

 その一撃を——確かにリクオは避けずに喰らった。

 

 双竜の牙が奴良リクオを呑み込むように押し潰した筈だ。その事実は、彼が身に着けていたマフラーが牙の隙間から垣間見えたことからも分かった。

 

「そ、そんな……リクオ様……」

 

 これにはリクオの側近であるつららも絶望の表情で固まる。

 

「てめぇの大将は爆ぜて跡形も無くなっちまったよ!! ハハハハハハハハハ——」

 

 そんな彼女に向かって、自分がお前たちの大将を仕留めたと雷電も勝ち誇るように笑い声を上げていた。

 

 

 だが、その笑い声の最中——突如として雷電の腕と脚が粉々に弾け飛んだのだ。

 馬鹿みたいな雷電の高笑いは、一瞬で苦痛の悲鳴へと様変わりしていた。

 

 

「な、なんなんだ……何が起きてっ!?」

 

 ご自慢の肉体、特に硬度を高めていた右腕と右脚を失ったことで雷電は狼狽する。

 自身の肉体に対する絶対の誇りを打ち砕かれたことで精神的にも、肉体的にも支えを失いその場に尻もちをついてしまう。

 

 

「——雷電よ……今、何つった?」

「——!!」

 

 

 そんな、へたり込み雷電の耳に——奴良リクオの自信に満ちた声が届けられる。

 

 

「——俺はずっとここにいるぜ? てめぇなんざに逃げることも……ましてや、畏れを抱くこともねぇ」

 

 

 双竜の牙で踏み潰された筈のリクオが、五体満足の姿でそこに立っていた。

 鏡花水月で逃げてもいない。彼はそこに立ったまま、真正面から雷電必殺の一撃をいなしたのだ。

 

「り……リクオ様!? そ、そのお姿は!?」

 

 しかしそこにいたのは、いつもの奴良リクオではなかった。つららですらも、主のその変容には目を見開く。

 

 まずは彼の髪型。ぬらりひょんという妖怪特有の、後頭部に伸びた髪が通常の長髪になっている。白と黒で均等に分かれていた髪の色合いも若干だが異なっていた。

 さらに目元にはタトゥーのような黒い模様、その眼光もいつも以上に鋭く細められているような気がする。

 彼の刀も、その刀身さえも真っ黒に染まっていた。

 

 それらは全体的にいえば些細な変化であったが、明らかに『何か』が違うというのが分かる変貌ぶりであった。

 

「つらら」

「ふ……ふぇ?」

 

 すると戸惑っているつららにリクオが声を掛ける。その声音も、やはりどこか自信に溢れているようだ。

 

「近くにいすぎて……呑まれんなよ」

 

 彼はつららの身を気遣いながらも、手傷を負わせた雷電にトドメを刺すべく再度刀を構え——。

 

 

「——俺の畏れに……なっ!!」

 

 

 自身の畏れを、全力で解放していく。

 

 

 

 

 

 ——はっ? な……なんだ……これ? 

 

 ——え? お、おいおい!? 

 

 ——さっきまでと全然違うじゃねぇーかよ!?

 

 ——なんで……なんでこんなになっちまってんだァアア!?

 

 その場から動けない雷電は、至近距離から奴良リクオという男の畏を浴びせられ——そのあまりの『激しさ』に戦慄する。

 

 こんな畏、少なくとも雷電は知らない。彼が仲間から、園潮から聞かされていた奴良リクオという妖怪の特徴は『ぬらりひょん』のそれだ。ぬらりくらりと避けるしかない、掴みどころもなく飄々としていることこそが奴の長所でもあり、短所でもあると。

 奴の鏡花水月は確かに厄介ではあるが、雷電であれば戦いを優位に進められると園潮はアドバイスをくれた。彼の言葉に間違いはなく、確かに戦いは終始雷電が優位に進めていた筈である。

 

 だが今のリクオからは、話に聞いていたぬらりひょんらしい特徴がほとんど感じられない。

 より攻撃的な、濁流の如く押し寄せてくる刺々しいほどの畏れを放ちながら、彼は鞘に収めた刀を抜き放とうとしている。

 

「き、聞いてねぇ……聞いてねぇよ、こんなのっ!?」

 

 話が違うと、雷電は情けない悲鳴を上げる。

 

 

 こんな筈ではない。こんなところで自分が負けるなんてあっていい筈がない。

 もっと多くの人間を、妖怪を。弱者どもをその力で押し潰して楽しむのだ。

 

 今までだってこの力で大暴れしてきた。今回の奴良組との抗争だってこれまで同様、ただ力任せに暴れているだけで自身の欲求を満たせると。

 彼は心の底からそう信じていた。

 

 だがそうではない、そうではなかった。

 この戦いの敗北により——雷電は、これまでの悪行の報いを受けることとなる。

 

 

「お前らは、俺が半年間何もせず……ただ待っていただけだと思ってたのか?」

「う、うわあああああああ!!!」

 

 リクオは敵の浅はかな考えを容赦なく切り捨てながら、一切の迷いなく刀を抜き放つ。

 居合一閃、雷電の胴を横一文字に薙ぎ払った。

 

 

「——雷電……お前ら百物語は人を殺しすぎた」

 

 

 雷電を含めた百物語組、その全てにリクオは告げる。

 彼らのせいで殺された人間は数多く——リクオの幼馴染・『彼女』の家族もその犠牲者の内に含まれている。

 

 故に、リクオが悪逆非道な彼らに慈悲を見せることはなく。

 

 

「——ごべぇえええぇえええええええん!!!!」

 

 

 雷電は断末魔の悲鳴すらまともに上げさせてもらえず、その肉体は内側から弾け飛び——消滅した。

 

 

 

 山ン本の骨・雷電——撃破。

 

 

 

PM 9:30

 

 

 

「——よお! つらら、無事だったかい?」

「り、リクオ様……!? えっ……リクオ様ですよね……」

 

 檄鉄の雷電を打ち倒したことで、その場が静寂に包まれる。

 激しい戦いの後の静けさは、それまで必死に逃げ回っていたリクオやつららに暫しの休息を与えてくれた。

 

 だが、つららは身体を休ませるどころではない。彼女は様変わりした主の様子にすっかり目を丸くしていた。いつもであればリクオの無事を確かめようと彼に駆け寄るような場面なのだが、正直そうすることに若干の躊躇いを覚えてしまう。

 

「……どした? なんか……距離遠くね?」

 

 リクオも、つららが自分に対して距離感を抱いていることに気付いたのか。彼自身はとても不思議そうに首を傾げている。

 

「だ……だってリクオ様、いつもと違いすぎですよ! 髪型とかもそうですけど……こう、いつものスカした感じのリクオ様じゃないですよ!!」

「スカした感じってなんだよ? 俺ってそんなイメージなのか?」

 

 つららの言葉に思わずツッコミを入れてしまうリクオだが、実際、普段のリクオと今のリクオではその言動や佇まいに僅かな差異がある。

 普段のリクオはもっと気取った、少し悪い言い方をするとキザっぽい一面があったりする。意識はしていないのだろうが、ちょっと格好を付けた台詞を平然と、それも嫌味もなく言えてしまうようなところだ。

 

 もっとも——そういうリクオがつららは好きでもあるのだが。

 

 だが今の彼はなんとなく荒っぽい、どことなく態度にも挑発的な空気が滲み出ているような気がするのだ。

 昼と夜ほどの明確な違いではない。本当に些細で、それこそリクオのことを良く知るものでなければ気付かないような変化だろう。

 

「変か? 俺の畏を『守り』から『攻め』にふったんだ。だから……ちょっとくらい攻撃的に見えっかもな!!」

「……攻撃的?」

 

 すると、リクオはその変化の理由をそれとなく説明してくれた。だがそれだけでは何を言っているのか、つららでもいまいち意味を理解しかねる。

 

 そのようにつららが戸惑っていると——。

 

「!! とっ……」

「キャッ! えっ……なに?」

 

 リクオに向かって、どこからともなく物体が飛来してきた。咄嗟にそれをキャッチするリクオ、どうやらそれは白鞘に納められた刀のようであった。

 次いで、リクオに武器を投げ渡したその人物が、自分自身もその場へと姿を現す。

 

「!! あ、あなた……イタク? イタクじゃない!?」

「……フン」

 

 つららの眼前に姿を見せたのはイタク——鎌鼬のイタクであった。

 

 半年前、京都で奴良組と共に戦った遠野妖怪の一人だ。腕利きの傭兵揃いの遠野の中でも、特に腕の立つ妖怪忍者。だが京都での戦い以来、つららがイタクとまた顔を合わせるの初めてだ。

 安倍晴明との決戦に備えて組同士では連絡を取り合っているという話だが、実際に彼らと直接的な交流があるとは聞いていなかった。

 

「なんだよ、追ってきてたのか、イタク? 見てたんなら、手を貸してくれても良かったじゃねぇかよ!!」

 

 しかし、リクオはイタクがこの場にいること自体に違和感を抱いてはいない。それどころかもっと早く手を貸せと、愚痴をこぼす気安さでイタクと話し込んでいく。

 そんなリクオの言葉に、イタクは相変わらずの憎まれ口を返していく。

 

「倒したのはいいが赤点だな。その刀じゃ、一晩もたないんじゃねぇか」

「あっ! ははっ……いけね、こりゃだめだ」

 

 敵の幹部を仕留めたリクオにまさかの駄目だし。ところがイタクの厳しい言葉に同意するよう、リクオはどこか気まずそうに自身の刀へと目を向ける。

 

「えっ……うわっ! ボロボロ!?」

 

 つららもその視線につられ、リクオの刀へと目をやった。

 

 リクオの変貌と共に刀身が黒く染まった刀は、雷電との激しい戦いで完全に朽ち果てていた。刃こぼれが酷いなんてもんじゃない、いつ折れても不思議ではない状態だ。

 もはや修復は不可能、先ほどイタクが投げ付けてきた替えの刀に持ち替えなければなるまい。

 

「リクオ様、こんな刀で雷電を斬ったのですか!? 畏を攻めにって……いったい何なんですか!?」

 

 だがそもそもな話、そんな刀で雷電を『斬った』事自体が驚きである。いったい刀に何をしたのか、畏を『攻め』にふるとはどういうことなのか、その詳細をつららは尋ねていく。

 

 

「——ああ、簡単に言やぁ……敵を斬るために自分の畏を刃にのせたんだよ。イタクの鬼憑をヒントにしてな!」

 

 

 妖怪たちの中には、己の畏を武器に纏わせて戦う戦法を得意とするものたちがいる。これは妖怪任侠において、『鬼憑』と呼ばれる戦闘技術に分類される。

 

 鎌鼬のイタクが、畏を鎌に鬼憑させることでその切れ味が増すように。

 首無が紐に畏を鬼憑させることで鎖のように固く、ヤスリのように表面を荒くするように。

 リクオは彼らのそういった鬼憑の技術を参考にし、自分なりに畏を変える訓練を自らに課していたのだ。

 

 ぬらりひょんという妖怪はその特性上、防御面にはめっぽう強いが、攻撃面においては火力が不足気味になる。今までは袮々切丸がその弱点を補っていたが、武器に頼るようでは安倍晴明との戦いでは通じなくなるだろう。

 自らの畏を強化し、さらに強さの高みに至るために——リクオはこの半年間で新たな力を身に付けたのである。

 

 

「いや~……この半年間、遠野にまで通うのが大変だったぜ!」

「いや待て、通ってきたのは最初だけだ。あとはずっと俺がこっちまで出向いてやってたぞ」

「おいおい! 余計なこと言うなよ、イタク!」

 

 その特訓をするためにも、遠野妖怪であるイタクに指導を頼んだということだろう。もっとも、その指導方法に関しては色々と問題があったようで。

 最初の頃はリクオが遠野まで通っていたというが、やはり奴良組の長としての仕事が忙しかったのか。ここ数ヶ月はずっとイタクの方が奴良組まで出向いてくれていたようだ。

 そのため、リクオがイタクの稽古を受けていることを知っている面々の間で、イタクは『若先生』という呼び名で定着しつつあったりする。

 

「そ、そーだったんですか……へ、へぇ~……」

 

 しかしそれらの話、つららにとってはどれも初耳なものばかり。

 別に秘密にされていたわけでもないのだが、まるで除けものにされていたかのようにそれが彼女にはちょっぴり不満だったりする。

 今この瞬間も、リクオとイタクは男同士で気さくに話している。その光景にも、つららはなんだかちょっとジェラシーを感じてしまうのだが。

 

 

「——リクオ様!! ご報告です!!」

「黒羽丸!?」

 

 

 だが、そんなモヤモヤした気持ちに浸っていられたのも束の間。

 リクオから、街中で暴れている妖怪たちの動向を掴むように指示されていた、三羽鴉の長男・黒羽丸がその場に舞い降りて来る。

 常に真面目で与えられた任務を淡々とこなす彼が、かなり切羽詰まった様子でその知らせをリクオたちの元へと届けに来た。

 

 

「——ただいま渋谷駅を中心に妖怪が大量出没中!! 繁華街を埋め尽くすほどの妖怪に襲われ人間たちは大パニックです!!」

「なに!?」

 

 

 渋谷といえば、世界的にも大勢の人が行き交うことで有名な繁華街だ。

 そんなところに妖怪の群れが出現した日には、その被害がどれほどのものになるか想像も付かない。

 

「現地に入った奴良組組員の情報によりますと、まるで渋谷から『妖怪が生まれてるかのようだ』とのこと!!」

 

 しかも、ただ妖たちが暴れているというだけではない。その渋谷から妖怪たちが〈産まれ〉他の地域にまで侵攻の手を伸ばしているとのこと。

 

「百物語……誰かがそこで妖を産んでるってことか!!」

 

 その報告にリクオは思考を巡らす。

 三百年前もそうだったらしいが、百物語組は怪談を『集め』『語り』そして『産む』ことで勢力を拡大してきた組織だ。そしてこれまでの調査からも、連中がこの現代でも怪談を産み出し、自らの戦力に加えていることは明白。

 もしかしたら、その渋谷に直接怪談を産み出すことができるような奴——リクオが倒すべき敵幹部が潜んでいるかもしれない。

 

「——いくぞ!! 次は渋谷に向かう!!」

 

 そうと分かれば、こんなところで油を売っている暇はない。

 人間たちを助けるためにも、百物語の企みを阻止するためにも急いで渋谷に向かわなければ。

 

「は、ハイ!!」

「ご案内します!! リクオ様!!」

 

 当然、つららも黒羽丸も主であるリクオの意向に従い、彼と共に渋谷へ。

 

「ちょっと待て、何で俺に命令してんだ……」

 

 一方で、イタクはリクオの命令口調に不満を口にしていく。あくまで傍観者を気取るつもりか、その場から率先して動こうとはしない。

 

 

 

「——伝令!! 伝令!!」

「——っ!?」

 

 

 

 ところが、いざ渋谷に行こうとリクオたちが動き出した直後。さらなる知らせが彼らの元へと飛んでくる。

 

「トサカ丸……?」

 

 黒羽丸に次いで姿を現したのは、三羽鴉の次男・トサカ丸であった。

 彼はリクオから本家との連絡役を仰せつかった。黒羽丸とは違う指揮系統で動いているため、彼がどのような報告を持ってきたのかは兄である黒羽丸にも分からない。

 

「はぁはぁ……お伝えします、リクオ様…………」

 

 するとトサカ丸、相当に急いで来たのか息切れを起こし、その場に膝を突きながら呼吸を整え——何故か、リクオにその『報告』を伝えることを僅かに躊躇していた。

 

「……? どうした、何かあったのか? こっちは急いでるんだが……」

 

 トサカ丸は堅物な黒羽丸とは違って冗談や軽いノリを口にすることもあるが、こういう状況下で意味もなく主を煩わせるような男ではない筈だ。

 しかし、彼はリクオに話の先を促されることでようやく意を決したのか。

 

 

 リクオにとっての重要事項を伝えるため——その重苦しい口を開いていく。

 

 

 

「——白神家の白神凛子より伝令! 浮世絵中学が百物語の強襲を受けたと!!」

 

 

 

「——なっ!?」

「——っ!?」

 

 その報告にリクオとつららが明らかな動揺を見せた。リクオにとっては勿論、今やつららにとってもその場所は特別な意味合いを持っている。

 だが、リクオの精神をさらに畳み掛けるように、トサカ丸の口から——『彼女』の名前が飛び出てくる。

 

 

「——敵の襲撃は家長カナ殿、並びに土御門春明の手で撃退……追い返すことに成功しました!!」

 

 

「——ですが……その戦いで家長殿が負傷! 意識不明の重体で……現在は浮世絵中学の保健室で傷の手当てを受けているとのことです!!」

 

 

 

 

 

 ——…………!

 

 ——カナが……重傷……?

 

 ——意識不明の重体……だと!?

 

 

 リクオの意識が一瞬で停止する。

 

 家長カナが、リクオの幼馴染である彼女が重傷。それも意識を失うほどの大怪我を負ったというのだ。

 とてもではないが平静ではいられない。急いで次の戦場に向かわなければならないのに——足が全く動かない。

 

 

 予想だにしなかった報告に、リクオは完全にその歩みを止めてしまう。

 

 

 しかし——

 

 

「……ク……様……リクオ様! リクオ様!!!」

「!! つ、つらら……?」

 

 

 呆然と立ち尽くす奴良リクオに、及川つららが強く呼び掛けた。

 

 彼女はリクオの両肩に手を掛け——棒立ちでいる彼の体を思いっきり揺さぶり、無理矢理にでもその意識を呼び起こしたのだ。

 主に対してかなり無礼な行為かもしれないが、そうでもしなければリクオもその意識を現実へと戻すことができなかっただろう。

 リクオがショックを受けていることを理解しているからこそ、つららは自分がしっかりしなければと彼に進言する。

 

「リクオ様!! 今すぐ……今すぐカナのところに行きましょう!! あの子の無事を……この目で確かめないと!!」

 

 つららはカナの身を案じ、彼女の様子を見に行こうとリクオに提案する。

 つらら自身もカナの容態が気になってしょうがないのだろう。カナと個人的な友好を深めている彼女だからこその意見だ。

 

「ですが、リクオ様!! 渋谷の方を何とかしなければ……人間たちの被害が!!」

 

 しかし、それに黒羽丸が待ったを掛ける。

 つい先ほど彼が伝えたように、渋谷では多くの妖怪たちが暴れ回って人間に被害をもたらしている。

 事は一刻を争う事態。酷な言い方かもしれないが——幼馴染とはいえ、今は一人の少女のために時間を割いている場合ではない。というのが黒羽丸の意見であった。

 

「けど……カナは、リクオ様の……っ!!」

 

 それは、つららとて理解はしていた。

 それでも彼女はカナの元へ急ぐべきだと、何よりも奴良リクオの気持ちを優先しようとする。

 

 つららの言葉に甘え、カナの元へ行くか。

 それとも、黒羽丸の言に耳を傾けて渋谷に赴くか。

 

 

 今この瞬間、奴良リクオはまさに己の『感情』と『理性』を天秤に掛ける選択肢を迫られていた。

 

 

 

 

 

「…………トサカ丸」

「はっ!!」

 

 ややあって、リクオはその決断を下すためにもトサカ丸に問いを投げ掛ける。

 

「カナは……敵の襲撃を退けたんだな? 浮世絵中学は……学校のみんなは無事なんだな?」

「は、はい! 既に百物語の脅威は去りました。家長殿を含めて負傷者こそいますが……犠牲者は誰一人いないとのことです!!」

 

 トサカ丸が伝え聞いた話によれば、浮世絵中学での戦いでは誰一人死者は出なかったとのこと。

 リクオたちですら助けられない人々、取りこぼしてしまう命がある中。誰も死なせなかったという幼馴染の奮闘ぶりを聞き、リクオは口元に笑みを浮かべる。

 

 

「そうか……カナは……みんなを守ってくれたんだな……」

 

 

 目を閉じ、ここにはいない彼女のことを思いながらも——リクオは決断を下す。

 

「トサカ丸……急いで本家に連絡だ。本家に詰めている武闘派の連中の何人かを浮世絵中学校まで派遣……それから鴆をカナの元に、彼女の容態を診るように伝えてくれ!!」

「しょ、承知!! リクオ様はどうなされるおつもりで!!」

 

 トサカ丸はリクオの命令を即座に承諾しつつ、彼自身はどう動くのかを尋ねる。その問いに——

 

「——俺は渋谷に向かう。襲われている人間たちを……放っておくことはできない」

「リクオ様っ!?」

 

 リクオは当初の目的通り、渋谷に行くと宣言。するとその決断に異を唱えるよう、つららは声を荒げる。

 それでいいのかと、リクオの気持ちを思っているからこそ、彼女は声高らかに叫ぶのだ。

 

「つらら。お前の言いたいことは分かる。もしも今も学校で戦いが続いていて、カナが苦戦してるってんなら……俺だって、そっちに行ってたかもしんねぇ……」

「……っ!?」

「……!」

 

 つららの言わんとしていることを先読みし、リクオは自らの心情を吐露していく。

 

 彼の本音——もしもカナが今も戦っている状態で、彼女が危機に陥ってるようであれば迷わずそっちに行っていたかもしれないと。

 リクオの言葉に、黒羽丸やイタクが驚きで目を見開いている。

 

「けどカナは……自分の為すべきことを果たした。俺の望みを……人間を守ってくれって言葉を聞き入れて、学校のみんなを救ってくれたんだ」

 

 だがこの鬼ごっこが始まってすぐに、リクオはカナに連絡を取っていた。

 彼女にも人間を守ってくれるようにと、その力を無力な人々のために役立てて欲しいと。リクオが直接彼女に頼み込んだのだ。

 

 カナはその願いを聞き届けた。

 その身を張って、自身が傷だらけになるのも構わず、学校の皆を助けてくれたのだ。

 

「なら今度は俺の番だ!! 俺も人間たちを助けるために動かなきゃ……カナに顔向けが出来ねぇ!!」

 

 カナはリクオの願いのために傷付いた。なのにここでリクオが個人的な感情を優先させ、カナに会いに行くようでは本末転倒だ。

 伏せっている彼女の元に駆けつけたところで、リクオにできることなど何もないのだ。鴆を向かわせて治療に当たってもらう方が、ずっとカナのためにもなる。

 

「リクオ様……けど、あっ……!」

 

 リクオの理に適った意見。それでも、つららは何か言おうと口を開きかけるのだが——彼女の視線が、リクオの下げられた左手へと向けられる。

 

「…………」

 

 リクオはあくまで平然を装っているつもりなのだろうが——その手からは『血』が滴り落ちていた。

 彼は血が滲むほど、自身の手を強く握り込んでいる。そうやって、自らの身体に傷を付けでもしないと己の感情を抑制できないのだろう。

 

「……分かり……ました」

 

 リクオの覚悟のほどを察し、つららも口を噤む。

 彼の決断に水を刺さないためにも、これ以上彼の心を惑わさないためにも。つららは黙ってリクオについて行く。

 

 一刻も早く、この鬼ごっこに決着を付け——それからカナの元に主を連れて行こうと、改めてこの戦いへの決意を固める。

 

「トサカ丸……本家への連絡、頼んだぞ!!」

「お、おうっ!! 任せろ、兄貴っ!!」

 

 三羽鴉たちも、リクオの意思の下に行動を起こしていく。

 

 黒羽丸は弟のトサカ丸に本家への連絡を任せつつ、自身は渋谷への案内役を務める。

 トサカ丸も兄の叱咤激励を受け、本家にリクオの意思を伝えるべく迅速に飛び立っていった。

 

「…………フン」

 

 そしてイタクも、鼻を鳴らしながらも武器である鎌を手に取っていく。

 ついさっきまで命令するなと文句を口にしていた彼だが、リクオのあんな必死な表情を間近にすればそのような気も失せるというもの。

 

 

 

 

 

 こうして、気持ちを一つにリクオたち一行は次なる戦場——渋谷を目指していく。

 

 

 

 

 

 既に『地獄絵図』と化している混沌の魔都へと足を踏み入れることとなった。

 

 

 




補足説明

 龍の腕、双竜の牙
  雷電くんの必殺技。自身の骨だけの身体を操作し、さらに強化していく。
  この能力の理屈、『鋼の錬金術師』に登場するグリードに似ている感じが。
  能力解説の地の文の説明にも、ハガレン要素を参考にさせてもらってます。
  まあ、妖怪相手に科学的も何もないので、話半分で聞いてもらえればと。

 攻めリクオ
  自身の畏を攻撃面にふった、通称『攻めリクオ』。
  ぶっちゃけ、この百物語編の間しかまともに活躍していない。
  戦闘面に関しては確かな違いがあるのですが、性格面でどこがどう違うのか。
  文章で説明するのが難しくてかなり苦戦しました。
  解釈違いなどもあるかとも思いますが、とりあえずこの方向性で話を進めていきます。
 
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