家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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あけましておめでとうございます。
2024年初の更新、『ぬら孫』でございます。

去年の年末……本当に忙しかった!!
仕事が過去一でヤバかった……生きて新年を越せて本当に安堵している。
と思った矢先に例の地震が……年始も色々と混乱の最中にあります。

今回は特に変わった展開などではなく、原作にある通りのお話です。
ぬら孫の更新自体久しぶりというのもありますが、小説自体を書くのが久しぶりで……ちょっとしたリハビリ感覚で書いております。

誤字脱字、いたらぬ点がありましたら……遠慮なく指摘していただければ。
…………出来れば、感想も欲しいな。


第百十一幕 戯演舞

AM 2:40

 

 

 

「————!!」

「——ぐっ……」

 

 舞台・戯演舞にて。主演である狂役者・珠三郎が敵役たる首無を追い詰めていた。

 

 普通に戦えば、首無が一対一のタイマンでそう易々と敗れる筈がない。彼の戦闘力は奴良組でも屈指、かつて江戸を騒がせた『常州の弦殺師』の異名は未だ現代においても健在だ。

 ところが、珠三郎と対面する首無は押され気味で、極度の緊張状態の中にあった。それとは正反対に、首無と対峙する珠三郎の派手に化粧されたその顔には、常に余裕のようなものが漂っている。

 

「っ……螺旋刃!!」

「ふんっ!!」

 

 今も苦し紛れに首無の放った殺取・螺旋刃。張り巡らされた紐の罠を珠三郎は軽々と躱していく。その動きは——まるで首無の行動を、あらかじめ知っているかのようであった。

 

「正本通り、なかなかの立ち回り」

 

 実際、珠三郎は首無の動きを全て理解し、把握しているのである。

 

「思った通りの良き役者。その息遣い、手に取るように伝わってくる、くっくっく……」

 

 なにせ、ここは戯演舞——珠三郎が立て役者たる自身を輝かせるために構築した舞台だ。

 首無が自分の意思で放っているつもりの攻撃も、全ては正本に書かれている通りのもの。珠三郎はその全てを見切り、舞台の上で華麗な舞を披露して見せる。

 

「だが首無……悲しいかな、キミとボクでは役者が違う。戯演舞……主演はこの珠三郎!! 脇役にはそろそろ御退場願おう!!」

「ガハっ!?」

 

 所詮、主役の前に脇役が何をしようと全ては舞台を盛り上げるための演出に過ぎないと、珠三郎は薙刀で派手に首無を薙ぎ払う。

 その一撃に首無は碌に抵抗も出来ず、為す術もなく無様に舞台の端へと転がされてしまう。

 

 

 

 ——珠三郎の力自体、大したことはない。

 

 ——しかし、妖怪の戦いとは畏の奪い合い……。

 

 首無もその舞台の『特性』には気付いていた。だが、気づいたらからといって即座に対抗策が思いつくわけではない。

 

 ——その演舞……蠱惑的!!

 

 ——く、悔しいが……やつの魅力に目が眩む!!

 

 それどころか珠三郎の演技に魅了され、普段の実力を十二分に発揮出来ずにいる。

 既に首無は相手の術中に嵌っている。この舞台の上でまさに自分は脇役だと、惨めに思い知らされるような気持ちであった。

 この感覚を払拭するには、何かきっかけが必要だ。首無もその何かを掴もうと、必死に思案を巡らせていく。

 

 

 だが——。

 

 

「…………え?」

 

 そんなきっかけを作る間もなく、舞台はクライマックスへと差し掛かる。舞台端で首無が庇っていた筈の彼女——奴良若菜が、舞台上に移動させられていたのだ。

 一瞬暗転する中、舞台中央の梅の木にスポットライトが当てられ、そこに若菜が——彼女の背後には珠三郎が薙刀を構えていた。

 

「ふふふ! 奴良リクオの母親よ……あ! 刀の錆に……な~れぇ~~~」

「わ……若菜様!?」

 

 気合のこもった台詞と共に、珠三郎は若菜へと渾身の一振りを放とうとしていた。

 未だに珠三郎の演技に魅了されている首無では、その一撃を阻止することが出来ず。彼は己の無力感に打ちひしがれたまま、黙ってその光景を目に焼き付けるしかないでいた。

 

「——!!」

「なっ!?」

 

 だが次の瞬間、首無が目の当たりにしたのは一刀両断で切り伏せられる若菜ではなく。彼女が懐から取り出した『物騒な得物』で珠三郎に反撃するという予想外の一幕であった。

 

 若菜の手元から弾けるような炸裂音と共に発射されたのは——鉛玉だ。

 

「ぐあっ!? き、貴様!!」

 

 それは薙刀を振り下ろそうとしていた珠三郎の顔面を掠め、その身を仰け反らせる。

 

「あなた……この舞台には正本があるって言ってたわよね? だったら……こういう意外性には弱いんじゃない?」

 

 咄嗟に反撃した若菜は、得意げな顔で自らの得物を珠三郎へと突きつける。

 

 そう、彼女が懐に忍ばせていたそれは銀色にギラリと光る代物——『拳銃』であった。

 

 若菜の推察通り、珠三郎は戸惑っていた。正本によって決められていた物語の流れを絶たれ、拳銃なんてもので反撃されたのだから当然だろう。

 もっとも、驚かされたのは端から見ていた首無も同様である。

 

「若菜様……いつの間に、そんなものを!?」

「あら、任侠一家の妻なんだから……これくらい懐に忍ばせててもいーじゃない? ふふふ……こういうの、憧れてたのよ!」

 

 彼女は首無の戸惑いに、茶目っ気たっぷりの笑顔で答える。自身の命が危険に晒されているこんなときでありながら、いつもと変わらない笑みである。

 

 ——ああ、そうだ……この人は、そういう人だった。

 

 そんな若菜の有り様が、首無に妙な安心感を与えてくれる。

 

「ぐっ……このじゃじゃ馬めぇえ~~~!!」

 

 しかし、安堵していたのも束の間。動揺から立ち直った珠三郎が再び若菜へと襲い掛かる。尚も拳銃で応戦する若菜ではあったが、流石にただの人間でしかない彼女ではそれも限界があるだろう。

 

「——若菜様!!」

 

 若菜を救おうと、首無がその身に力を入れる。

 

 そうだ、何としても彼女を守らなければならない。彼女のあの笑顔こそが——ずっと暗い影を落としていた『親友』を救ってくれた唯一無二のものだったのだから。

 

 

 

十四年前

 

 

 

『——鯉伴さん! また暗い顔してる!!』

 

『——ねぇ、笑って!! 幸せは笑ってる人にやってくるんだよ!?』

 

 夜の東京。

 百鬼夜行を率いた空中散歩、魑魅魍魎の主である奴良鯉伴の隣に——その少女は当然のように座り込んでいた。

 

『やった!! 鯉伴さんが笑った!!』

 

 まだ奴良組に嫁ぐ前の、高校生の若菜だ。

 ただの人間の少女が妖怪の主である鯉伴の横に居座り、あまつさえその顔を無理矢理にでも笑わせようと、頬っぺたをつねったり引っ張ったりと。あまりにも無礼な行いに、一部の妖怪たちは反感を抱いていたかもしれない。

 

『たははは……』

 

 だが、当の本人——鯉伴は楽しそうだった。

 いっそ強引と言っていいまでの若菜の干渉に、困ったような表情を浮かべながらも彼はこの瞬間を確かに楽しんでいた。

 

『…………』

 

 百鬼夜行の一員として、その光景を少し後ろから首無は眺めていた。

 鯉伴とは主従関係を築きながらも、同時に親友として長い時間を過ごしてきた首無だが、彼があのような笑顔で笑う姿などほとんど見たことがない。

 

 それこそ、かつて愛した相手——山吹乙女がいなくなって以来かもしれない。

 

 あの女性がいなくなってからというもの、鯉伴の笑みにはいつも暗い影が指していた。心に負った傷をずっと引きずり、本当の意味では満たされない虚しい日々を送っていたのかもしれない。

 

『じゃあーねー、また明日!!』

 

 もっとも、そういった鯉伴の暗い過去などを、その時の若菜は知る由もない。けれど彼女は毎日のように、無邪気な笑顔で鯉伴へと手を振りながら帰っていく。

 そんな彼女の後ろ姿を見届けながら、ふと鯉伴は傍らの首無に問いを投げ掛けていた。

 

『首無……人と妖って……どっちが寿命長ぇんだっけ?』

『そりゃ……』

 

 答えるまでもなく妖怪だろう。鯉伴は半妖だが、その寿命は妖怪とほとんど変わらない。仮に彼が若菜と一緒になったところで、きっと最後まで同じ時間を過ごすことは出来ないだろう。

 

『——あいつなら……俺より、長生きすんじゃねぇかって思えてくるよ』

 

 だがそれでも、そんなことあり得ないと分かっていながらも。

 鯉伴は若菜が『自分より長生きをして、その最後を看取ってくれる』のではないかと。そんな夢を見るようになっていた。

 

『——あたし鯉伴さんより長生きして、ずっと見ててあげるから……』

 

 そう思えたのも——きっと根拠もなく自信満々に言ってのけた、若菜の言葉を信じてのことだろう。

 

 

 その後、ほどなくして二人は結ばれた。

 そして、鯉伴は百物語組の卑劣な策略によって他界し——皮肉にも若菜の言っていた通り、彼女は鯉伴よりも長生きすることになる。

 

 最愛の伴侶を失った若菜が、かつての鯉伴のように暗い影を背負って生きていくことになるのではと、首無は彼女の行く末を危惧したものだ。

 もっとも、そんな彼の心配をよそに——若菜は眩いばかりの笑顔で日々を過ごしている。

 

 鯉伴の葬式の際などは流石に涙を流していたが、数日後には生来の明るさを取り戻していた。

 寧ろ、大将である鯉伴を失ってあたふたしている奴良組の妖怪たちを元気付けるよう、いつも以上に明るく振る舞っていたかもしれない。

 

 

 ——強いな……人間ってやつは……。

 

 

 そんな若菜の笑顔を前に、首無は改めて人間というものの強さを思い知ったものである。

 

 

 

AM 2:45

 

 

 

 ——この娘がいたら……あんたが久しぶりに幸せを掴める番になるって……思ったんだ。

 

 首無は戯演舞の舞台の上を駆けた。

 鯉伴の愛した女性を、彼の心を救ってくれた若菜を守るために今一度力を振り絞る。

 

「ボクの正本を乱しおって……人間のくせに!!」

「う……ああ……」

 

 一度は虚を突いて優位に立てていた若菜であったが、戦いという場ではやはり彼女も普通の人間。護身用の拳銃を手から弾かれ、無防備となったところを珠三郎によって組み付かれていた。

 乱暴に胸ぐらを掴まれ、抵抗が出来ないところを薙刀の一指しで貫かれようとしている。

 

「……何だ!?」

 

 だが、そのような蛮行を許すほど——今の首無は腑抜けではない。

 

「ぐ……ば、バカな!? 何故……何故、動けぬ!?」

「その人を離せ」

 

 身体が動かないと困惑する珠三郎に対し、畏を滾らせながら首無が歩み寄っていく。

 

 

「こ、これは……極細の糸!? い、いつの間に……畏で強化していたのか!?」

 

 

 珠三郎の動きを封じていたのは、目を凝らさなければ視認できないほどに細く研ぎ澄まされた極細の糸であった。珠三郎が若菜に気を取られた隙に、首無が張り巡らせたものだ。

 

「強く縛り上げるだけだと思ったか? 俺が……誰の後ろで戦ってきたと思ってんだよ!!」

 

 畏で研ぎ澄ました紐を操作しながら、ギラリと鋭い眼光で珠三郎に眼を飛ばす首無。その瞳には、既に珠三郎の演技に気圧される、端役としての無様な首無などどこにもいなかったのである。

 

「あんたは……自分が決めた手順を乱されると周りが見えなくなるようだな……」

「ぐぐぐ……ぐぇえ……」

 

 首無の指摘した通り、珠三郎は決められた正本を若菜によって乱されたことで、周囲への配慮はおろか自分自身の演技すらもおざなりになってしまっていたのだ。

 

 この戯演舞は、珠三郎の『演技力』によって畏を保っている領域である。

 いかに珠三郎が自身の領域で絶対の力を誇る妖怪であろうと、肝心の演技そのものが粗末になればその畏も十二分に発揮できない。

 

「手元や足元に気をつけるこったな……」

 

 もはや、珠三郎の演技で目が眩むこともない。己のペースを取り戻した首無は珠三郎の身体に纏わせた紐をさらに強く締め上げ、その動きを完全に掌握していく。

 

「一度足並もつれた役者にゃ、畏なんて感じねぇ!」

「うわっ!?」

 

 そうして、首無の紐によって舞台役者としての珠三郎は死んだ。

 もはや、そこにいるのは舞台の上で転げ回るだけの哀れな男。真っ向からの戦いであれば、首無が珠三郎如きに遅れを取る理由など微塵もない。

 

 

「——このしらけきった舞台で……お前の生きる道はねぇんだよ!!」

 

 

 首無は紐の範囲をさらに広げ、戯演舞の舞台そのものを縛り上げ——領域そのものを木っ端微塵に粉砕したのであった。

 

 

 

 

 

「カハッ……しゅ、主役が負ける結末など……あり得ない……」

 

 舞台を崩され、狂役者としての己を封殺されて尚、珠三郎はしぶとく生き残っていた。

 もっとも役者としての威厳も、演者としての尊厳も失った珠三郎に、もはや妖怪としての畏などほとんど残されていない。

 

「くそっ……覚えていろ……次こそは必ずや……」

 

 それでも、諦め悪くその場から逃げようとする。この場を乗り切れば、いずれ復讐のチャンスがあるとでも思っているのか。首無の視界を掻い潜ってその場から立ち去ろうとする。

 

 

「——どこに逃げるつもりだ?」

「——!?」

 

 

 だが、珠三郎はここが『どこ』かを失念している。戯演舞という領域が崩れ去った今、ここは元の場所——奴良組の本家だ。

 屋敷の中から騒ぎを聞きつけ駆けつけてきた奴良組の重鎮たち——木魚達磨や一ツ目入道といった面々が姿を現し、珠三郎を取り囲んでいく。

 

「う……うう……本家の……」

 

 全盛期を過ぎた身といえども、彼らとて歴戦の強者だ。満身創痍な珠三郎にどうにかできるような相手ではない。

 

「なんでぇ!! なんでぇ!!」

「おい、テメェ……百物語組かい!?」

「この本家で何をするつもりだったんだ!?」

「詳しく聞かせてもらおうじゃねぇか……あん!?」

 

 さらにゾロゾロとやってくる奴良組の妖怪たちに珠三郎は取り囲まれていく。

 

「ま、待ってくれ……まっ……」

 

 みっともなく命乞いなどを口にするが、当然それが聞き入れられるわけもない。

 

 

「——ちくしょうぉおおおおおお!! 首無ぃいいいいいいいい!!」

 

 

 断末魔のような絶叫。珠三郎は自分を打ち破った首無に向かって、恨みがましい悲鳴を上げるのであった。

 

 

 

 山ン本の面の皮・珠三郎——捕縛。

 

 

 

「首無くん、ありがとう!!」

「若菜様……」

 

 無事に珠三郎の襲撃を乗り切ったことで一息吐く首無。そんな彼に向かって、若菜がやはり笑顔でお礼を口にしていた。

 

「おお……若菜さん! 首無……おめぇーが守ってくれたのかい、よくやってくれた」

 

 少しばかり怪我を負わされた彼女に、本家からぬらりひょんが駆け寄ってきた。

 全ては戯演舞の中でのことだったため、詳細はぬらりひょんにも分からないが、首無が若菜を助けたのだということを察し、彼からも直々に感謝の言葉が述べられる。

 

「……いえ、とんでもねぇ」

 

 そんな感謝の言葉に、首無は寧ろ自分が頭を下げる思いで暫し考え込む。

 

 

 

 若菜がいなければ、自分はみっともなく敗北していただろう。

 珠三郎の畏に魅了されたまま脇役へと押し込められ、敗北を喫していた。若菜が予想外な行動を取ってくれたからこそ、首無も相手の隙をつくことが出来て逆転できたのだ。

 

「???」

 

 もっとも、本人は自身の活躍などに無自覚でキョトンとしている。そんな彼女の反応に首無は自然と口元から微笑が溢れる。

 

 この人は、いつもそうだ。

 自分たち妖怪では思いもつかないことを平然とやってのける。影を帯びていた鯉伴の心を解きほぐし、彼に心からの笑顔を取り戻してくれたときもそうだった。

 きっと、本人にとってはなんでもないようなことなのだろう。しかし彼女のおかげで鯉伴も、そして自分も救われた。

 

 ——この人は『光』だ……。

 

 ——二代目、あんたが残した宝は俺が……俺たちが守っていくよ。

 

 そんな彼女の笑顔を消させてはならない。これから先も組員一同で守り抜いて見せると、首無は改めて己の中で誓いを立てる。

 

 ——ぬらりひょん様。貴方が立ち上げ……二代目が継いだ奴良組が……俺に居場所をくれたんです。

 

 ——礼を言うのは……俺の方なんですよ。

 

 そして、ぬらりひょんを前に首無は自分がここにいられる幸運を噛み締めていた。奴良組がこんな自分を受け入れてくれたからこそ、今もこうして生きているのだと心からそう思う。

 

『——首無……大事なもんの為に命をはれる。それが強さってもんだ』

 

 鯉伴が自分を勧誘する際に口にしていた言葉を、今も鮮明に思い出せる。

 彼の言葉がなければ、自分は強さの意味を勘違いしたまま、野良犬のように野を彷徨いとっくの昔にくたばっていただろう。

 

 ——ここでなら……奴良組の仲間たちとなら……。

 

 ——俺はまだ……強くなれるような気がするぜ。

 

 

 

「——俺の方こそ……ありがとうございます」

 

 

 

 そういったこと全てに対しての感謝という思いもあってか、首無はぬらりひょんや若菜に向かって礼を口にしていく。

 

「……?」

「いいってこった! 男にゃ、男同士しか見えねぇ絆ってもんがあるもんさ……多分ね!」

 

 もっとも、自分の中で色々と納得した上で礼だけを口にしたため、いまいち首無の気持ちなど伝わっていない様子で。若菜などはますます訳がわからないと、笑顔のまま首を傾げている。

 一方で、ぬらりひょんは年の功ということもあってか、首無の思いをなんとなく察しているようで豪快な笑みを浮かべてくれている。

 

 

「そうじゃ、首無……今、リクオはのう……」

「リクオ様が!! 今はどちらに……?」

 

 

 だが、ぬらりひょんはすぐに真面目な顔つきになり、奴良リクオ。

 今の首無が仕える奴良組総大将・三代目——鯉伴の息子の動向を伝えてくる。

 

 

 

AM 3:10

 

 

 

「——三代目!! どうやら、青蛙亭はもぬけのカラだ!!」

「——噺家なら、ここだと思ったのになぁ~!!」

 

 奴良組の先行部隊が青蛙亭——噺家たちの寄席へと雪崩れ込んでいく。しかし既にそこはもぬけの殻。人っ子一人どころか、妖怪の痕跡すら残されていなかった。

 

 だがその青蛙亭にこそ、噺家であるあの男——山ン本の口・圓潮がいたことは確かである。事実として、奴はそこで人間たちに己の怪談を聴かせ、百物語を世に広めていた。

 奴の語った怪談が人々の間で伝播し、結果的に今の東京の混沌とした状況を生み出したのである。

 

 奴を倒すことが出来れば、あるいはこの事態を打破出来ると考えた奴良組であったが、肝心の圓潮がいなければ話にならない。

 しかし悲観することはない。青蛙亭に圓潮の姿こそなかったが——奴を追い詰めているという確信が奴良組にはあった。

 

 

 

「リクオ様……他のものたちはバラバラに散り、残った地区で奮戦中です」

 

 青蛙亭のある江東区・隅田川に架かる橋の上にて。三羽烏の黒羽丸が主たるリクオに集まってきた情報を纏めて報告していた。

 妖を産み出していた山ン本の腕・鏡斎を倒したこともあり、敵勢力の勢いが弱まり始めている。今はそれぞれの地区へと分散した奴良組各員で、残存勢力を叩いている真っ最中だという。

 

「それから、先ほど本家から連絡がありました。無事、若菜様を守り抜いたとのことです!!」

「そうか、首無がやってくれたんだな……」

 

 さらには、本家からも『襲撃者の魔の手から奴良若菜を守り切った』との連絡があった。その朗報に表情を引き締めながらも、奴良リクオの顔に笑みが浮かぶ。

 

 首無ならきっと守り切ると信じていたとはいえ、やはり実際に無事であると報告を聞くだけでも心が軽くなるものだ。

 さらに報告によれば、若菜の命を狙っていたのは百物語組の幹部・面の皮であったという。

 これで、主だった百物語組の幹部はほぼ打ち負かしたことになる。残った敵幹部は——口と、脳と、鼻。既に半数を切った。

 

「ジジイは……今どうしてる?」

「本家で総司令の立場におられます」

 

 リクオはこの現状で、自身の祖父であるぬらりひょんがどのような立場にいるかを問う。

 年老いた身とはいえ、ぬらりひょんもかなり好戦的な方だ。もしかしたら年甲斐もなく前線に赴いていないだろうかと少しばかり不安だったが、どうやらちゃんと自重しているようである。

 

「それでいい。この情報をくれただけでも、ありがてぇ」

 

 祖父が本家で大人しく指示に徹しており、さらにはこの情報——『かつての山ン亭がこの深川にあったこと』を伝えてくれたことにリクオは感謝を口にする。

 

「深川……旧山ン本亭があった場所か……」

 

 その情報は、京都からわざわざ東京まで赴いてきた花開院家の長男——花開院竜二が調べ上げたものとも符合しているらしい。

 彼の手元の資料と合わせることで、今の深川のどの辺りが山ン本亭の跡地だったのか。より精度の高い情報として、リクオたちはここまで辿り着くことができた。

 

「俺が調べまわった百物語……最後に行き着くのはここか? それとも……?」

 

 竜二はこの騒動が起きる以前から、ずっと百物語組が全国各地で起こす事件を調べていた。それらの事件の元凶、全ての大元にここで辿り着けたかどうかと、険しい顔で思案を続けている。

 

「行きましょう、リクオ様……ここで決着を!」

「…………」

 

 さらにリクオの傍には側近として彼の側に残ったつららや、今日までリクオを鍛え上げてきたイタクが無言で装備の確認をしている。

 二人もここが正念場であることを感じているのだろう、決戦に向けて己の内側で畏を研ぎ澄ましていく。

 

「………………」

 

 そしてリクオたちと少し距離を置いたところに、もう一人の陰陽師・土御門春明が不機嫌そうに佇んでいる。

 

 妹分の家長カナが百物語組との戦いで倒れたということもあり、今の彼は『敵』への殺意に溢れていた。

 その敵の中には——ひょっとしたら奴良リクオも含まれていたかもしれないが、竜二がすぐ側で睨みを効かせていることもあり、今は大人しく百物語組の怪異たちを惨たらしく惨殺するくらいに留まっている。

 

 

 

「——いくぞ、テメェら!! 圓潮を……見つけ出す!!」

 

 

 

 そういった面々を連れ、ついにリクオが号令を掛けた。

 

 

 狙うは山ン本の口・圓潮の首一つ。

 この争いに終止符を打つべく、あえて敵の懐へと飛び込んで行くのであった。

 

 




今年の目標……とりあえず、そろそろ百物語編を終わらせたいと思ってます。
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