家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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お久しぶりです、ぬら孫の更新……納得のいく形で書けましたので、とりあえず続きをどうぞ。

サブタイトルがまるでガ〇ダムでも出てきそうな響きですが……本分を読んで頂ければ、それで違和感がないと分かってもらえると思います。


第百十三幕 起動、青行燈!!

AM 4:00

 

 

 

「ここは……ここが百物語組の本拠地……ここに、圓潮が!!」

 

 深川の下水道を駆け抜けた先、遂に敵の本拠地と思しき場所へと辿り着いたリクオたち。

 

 そこは壁のいたるところに眼球のようなモニターが埋め込まれており、その眼球同士を繋ぐように部屋中に血管のようなものが張り巡らされていた。

 それだけでも生理的な嫌悪感を抱かせるような雰囲気であったが、眼球のモニターには外の様子——百物語組が繰り出した化け物たちに、襲われている人間たちという光景が映し出されていた。

 

「ここから高みの見物ってか……ふざけやがって!!」

 

 きっとここにいるであろう黒幕たちは、このモニターから人間たちの苦しみ逃げ惑う姿を悠々自適に眺めていたのであろう。そう考えただけでも、リクオの内側からさらなる怒りが沸々と込み上げてくる。

 

「代償は払ってもらうぜ……きっちりとな!!」

 

 だがそれもここまでだと。こんなふざけた遊びを企み、大勢の人たちを巻き込んだ報いは必ず受けてもらうと、リクオは刀を握る手に力をこめていく。

 

 ここに間違いなく今回の事件の黒幕が——山ン本の口・圓潮が潜んでいる筈だと。

 奴を倒してこの戦いに終止符を打つと、リクオは勢いよく通路を駆け抜けていく。

 

『敵襲、敵襲!!』

『ここを通すな……迎撃しろ!!』

 

 無論、敵側もここが最終防衛ラインだということは百も承知。最後の抵抗とばかりに、その場に残っていた異形の兵士たちを総動員し、リクオたちを食い止めようとしてくる。

 

「リクオ、先に行け!!」

「滅っ!!」

 

 もっとも、今更その程度の抵抗で止まる面々ではない。共にアジトに殴り込みを掛けていたイタクがリクオに先に行くよう叫び、竜二と共に残る敵兵を一掃していく。

 

「すまねぇ! 恩に着るぜ、二人とも!!」

「急ぎましょう、リクオ様!!」

 

 自分を先に行かせてくれた二人に手短に礼を言い、リクオは先を急ぐ。隣には側近であるつららがいてくれるため、戦力としてはこれで十分だ。

 ふと、下水道で春明と別れていてある意味正解だったかもしれないと。二人だけになったリクオとつららに対し、もしかしたら何かよからぬことを企むかもしれないと、思わずそんなことを考えてしまう。

 

 

 

「リクオ様、あれを……!!」

「扉か……!!」

 

 そうして阻むものが全てなくなり、駆け抜けた通路の先で——リクオたちはついに目的地へと辿り着いた。

 視界の先に飛び込んできたのは、見るからに頑強そうな真っ黒い扉だ。きっとこの扉の先にこそ——圓潮がいる。

 

 

「——圓潮!!」

 

 

 リクオはその名を叫びながら、ノータイムで扉をぶち破っていく。

 突入した勢いのまま、圓潮の姿を見つければそのまま斬り込むつもりであったのだが——。

 

 

 

「——うるさいよ、お前」

「——えっ?」

 

 

 

 飛び込んだ部屋の中に、確かに圓潮はいた。だが、奴は刀を手にし——それで傍にいた人物を刺し貫いていた。

 

「がはっ……は……はぁ、はぁ……」

 

 刺された方は息も絶え絶えとその場に倒れ伏し、圓潮はその人物をまるでゴミでも見るかのような目で見下ろし、足蹴にしていた。

 

 

「な……なに……してんだ……?」

 

 

 思わずその場で立ち止まってしまう、リクオ。先ほどまで問答無用で圓潮に斬り掛かるつもりだった筈だが、その異様な光景、雰囲気に呑まれて動けずにいる。

 いったい何が起きているのか状況が理解出来ず、リクオは唖然と立ち尽くすしかなかった。

 

「——あなたの役目は終わった。元々、雑多な妖を束ねる〈山ン本〉が必要なだけでしたし」

 

「——百物語組は今日で解散ですよ」

 

 倒れた人物に向かって圓潮が淡々と何かを喋っていたが、正直会話の内容など頭に入ってこない。

 すると、未だに呆然としているリクオを嘲笑うかのよう。圓潮はぐるりと首をこちら側に向け、不敵な笑みを浮かべながらリクオに微笑み掛けた。

 

 

「——鬼ここに見つけたり……って顔じゃないね」

 

 

 

AM 4:10

 

 

 

『——救世主を……救世主を……』

『——誰か助けて……』

『——リクオを殺すという救世主は……まだか……』

 

 部屋中に埋め込まれている眼球のモニターから、人々の苦痛が漏れ聞こえてくる。

 百物語組の怪異たちに襲われ続ける人々は、その苦痛から逃れたい一心で救世主——〈夜明けと共に現れては、奴良リクオを殺す〉とされる救世主の存在を待ち望んでいた。

 

「今宵は……よく広がるね、あたしの噺」

 

 だが、そうした人々の救いを求める声を圓潮は平然と聞き流す。噂を流したのは他でもない圓潮自身だというのに、まるで他人事のようである。

 

「テメェ……なんなんだ……」

 

 そんな圓潮の態度に、呆然としていたリクオの中から再び怒りが込み上げてくる。

 

「意味……分かんねぇーぞ!!」

 

 黒幕である圓潮への怒りは当然だが、それ以上に相手の意図が理解出来ない。

 先ほど圓潮が刺した相手——『脳』。おそらく味方であろう人物だというのに。それを平然と斬り捨て、さらには踏みにじるという暴挙まで起こしている。

 一見すると整合性のない行動に憤り以上に、困惑からリクオは圓潮を油断なく睨みつける。

 

 

「あたしはただ怪談を語りたいだけの男ですよ。噺家としてね……人が恐怖する怪談を語りたいだけなのです」

 

 

 もっとも、そんなリクオの怒りや困惑を気にした様子もなく、圓潮は平然と吐き捨てる。

 自身の欲望——『口』として望む、ただ一つの願望を。

 

「…………だけ…………だと?」

 

 圓潮の口から語られたまさかの動機に、やはり理解出来ないとリクオの怒気がますます増していく。

 だがそうしたリクオの激情がこもった眼光すらも、圓潮は涼しい顔で受け流しながら言ってのける。

 

 

「雷電も、球三郎も鏡斎も……吉三郎もあたしもそう……皆、山ン本さんの一部ですから……」

 

 

 これは何も圓潮だけに限った話ではない。山ン本の一部から産まれた彼らは、自身の欲望に正直であり、そのためだけに行動するという。

 

 

 山ン本の骨たる雷電は、ただ派手に暴れたいだけ——。

 

 山ン本の面の皮たる球三郎は、ただ演じたいだけ——。

 

 山ン本の腕たる鏡斎は、ただ怪談を産み出したいだけ——。

 

 山ン本の耳たる吉三郎は、ただ人間の苦しむ声を聴きたいだけ——。

 

 

 望む欲望の形こそ違うものの、それにより多くの人間たちが苦しめられることに変わりはないだろう。

 

「まったく……それぞれ嫌なところが似たようで……」

 

 そういった山ン本としての性質に、圓潮がやれやれと自虐的に首を振っている。自身のそういった有り様に圓潮なりに思うところはあるのだろう。だが、それでもこの欲求を止めることなど出来ないし、そのつもりもないようだ。

 いずれにせよ、彼らにとって他者の苦しみなどどうでもいいことだ。自分の欲求が満たされれば満足するのだから、それで人間がどうなろうと知ったことではない。

 

 

「要領を得ねーんだよ!! テメェらのその勝手な欲望でカナを……どれだけの人間を苦しめるつもりだ!!」

 

 

 そんな身勝手な彼らの理屈にリクオは激怒する。山ン本たちのその欲望が人間たちを、何より大切な幼馴染を苦しめてきた。

 

 家長カナ——彼女もまた、山ン本の欲望によって過酷な運命を背負わされることになった犠牲者の一人である。

 両親を殺され、恩師であるハクを殺され、前世で先生と慕った相手を弄ばれ——自身の命すら、あと一歩というところで失いかけた。

 

「アンタたち……絶対、許さない!!」

 

 怒りを抱いたのはリクオだけではない。つららもまた同じ思いで、山ン本たちの身勝手な有り様に叫び声を上げる。

 

「リクオ!! そいつが圓潮か……」

 

 すると後方から、敵をあらかた片付け終わったイタクが駆けつけてくる。

 

「どうした、いかねぇのなら……俺がやるぜ」

 

 彼にいたっては圓潮の戯言を聞くつもりもないのか、問答無用で斬り掛かろうと試みる。

 

 

「いや、奴は……俺がやる!!」

 

 

 しかしそんなイタクを制し、リクオは自身の手で圓潮を仕留めんと仕掛けた。

 人間たちが受けた痛みを、幼馴染の怒りをその手で晴らさんと。圓潮がこれ以上の無駄口を叩く前に飛び出していた。

 

「そう、噺家として歴史を……伝説を語る者となる。すなわち——」

 

 それでも、圓潮は自らの目的を語り続ける。

 自身の願望、その目的。これから始まる新たな〈伝説〉——その伝説の主役の名をその口から紡いでいく。

 

 

 

「——鵺の再誕を」

 

 

 

「鵺……だと?」

 

 紡がれた伝説の名は——鵺。すなわち安倍晴明のことだ。

 何故ここで奴の名が出てくるのかと、圓潮に斬り掛かりながらも瞠目するリクオ。

 

 

「今夜はその序章ですよ」

 

 

 刹那、圓潮は微笑を浮かべながら自らの『畏』を解放していく。

 

 

 

 

 

「……何!?」

 

 その異変に最初に気づいたのは、イタクの後から部屋に突入してきた竜二であった。彼は陰陽師として、周囲の妖気が異様に高まっているのを感じ取っていた。

 その妖気は圓潮のものではない。圓潮の後方——部屋の奥に鎮座していた『巨大な鎧武者』から放たれるものだ。

 巨大な鎧武者の、その腕に抱かれている茶釜に『畏』が集中しているのだ。

 

「…………」

「…………」

 

 さらに竜二は、その鎧武者の影に隠れていた『何者か』の気配を探知していた。いったいそれが誰かまでは把握出来なかったが、只者でないことは察せられる。

 

 しかし、その何者かに意識を向ける間もなく——突如、巨大な鎧武者が動き始める。

 

「これは……!?」

「リクオ様、危ない!!」

 

 その異変をイタクやつららも察知した。だが彼らの警告がリクオの耳に届くよりも先に、巨大な鎧武者の剛腕がリクオへと振り下ろされる。

 

「な……なんだ、あいつは……」

 

 リクオはその一撃をなんとか刀で受け止めた。それにより致命傷を避けることは出来たが、動き始めたそれを前にいったい何事かと目を見張る。

 

〈救世主を……〉

〈救世主を……〉

 

 それは人々の思念を原動力に動いていた。

 絶望に染まった人間たちの、救いを求める思い。救世主を望まんとする心——その救世主に、全ての元凶だと信じ込まされているリクオを殺してくれと人々は願うのだ。

 

 

〈ええ……人の心とは恐ろしいもので。それが縋れるものとあらば……人の死さえも、望んでしまうものなのですなぁ……〉

 

 

 人々がそう願うように仕向けた圓潮は、それを〈怪談〉として語ることでより強固なものへと補強していく。

 

 

〈我が身可愛さに救いを求める世……そして君はその供物……〉

 

 

 これぞまさにリクオを仕留めるためにと、圓潮が此度の鬼ごっこで用意した最後の切り札。

 

 

〈今宵最後の噺は百物語に終わりを告げる——妖怪『青行燈』〉

 

 

 青行燈(あおあんどん)。それは百物語という遊び、百の怪談を語り終えた最後に姿を現すとされる妖怪の名である。

 正体不明、実態不明。実際に百物語に興じていた人々も、その多くが青行燈の存在を恐れ、九十九で怪談を語るのを止めるため、実際にそれを目撃したものはほとんどいない。

 

 果たして、それがどのような妖怪なのか——それが、今宵明らかとなる。

 

〈どうぞお楽しみを〉

 

 圓潮の語りによって『起動』したそれは、まさに怪物と呼ぶのに相応しい出立ちであった。

 巨大な鎧武者ではあるが甲冑はボロボロ、兜は完全に破損しており、そこから異形の頭部が剥き出しになっている。

 腹部からは肋骨が牙のように飛び出ており、体のいたるところから角やら、触手やらを生やしている。

 

 こんなものが救世主などと呼ばれるなどとんだ皮肉ではあるが、それは確かにリクオを叩き潰せるほどの力を秘めているのか。

 

『————』

 

 無言のまま、もう一度その剛腕でリクオへと殴り掛かってくる。

 

「リクオ様、下がって!!」

 

 今度はつららがリクオを庇い、氷の盾を展開して敵の攻撃を防ごうとする。割り込むタイミングは完璧、氷自体もかなり頑丈で並大抵の衝撃ではビクとしない筈であった。

 

「ぐっ……!!」

「きゃっ……!?」

 

 ところが、青行燈の一撃はつららの氷を軽々と打ち砕き、リクオとつららの二人を壁際まで殴り飛ばしてしまう。

 

「リクオ!! 雪女!!」

 

 殴り飛ばされたリクオたちをフォローするため、すぐさまイタクが援護に入った。両手に鎌を握りしめて、疾風のような速度で青行燈に向かって斬り掛かっていく。

 

〈えー……この妖は、君に向けられた東京都民、一千万人の殺意と希望の塊〉

 

 だがイタクが動くよりも早く、圓潮は青行燈という怪談とは何かを語っていく。

 圓潮の饒舌な語り口により、青行燈がさらに激しく活発に蠢いていく。その体から無数に生えた触手がムチのようにしなり、イタクに鎌を振るわせる隙すら与えない。

 

「……っ!!」

〈世が不安に堕ちた……置き土産として受け取っておくれ〉

 

 イタクほどの手練れすらも押し切るほどの圧力、地力。これこそ、リクオの死を願う人々の思いが具現化した——救世主。

 

 妖怪・青行燈とは——まさに人々の不安と恐怖がピークに達した刹那にこそ産まれ落ちる、〈最後の怪談〉なのである。

 

 

 

 ——なんだ、この強い思念は……尋常じゃない。

 

 ——これが圓潮の……力!!

 

 青行燈を産み出した圓潮の畏を間近に感じ、竜二は戦慄する。

 これは、決して圓潮という男が単独で成しているわけではない。人々の不安や恐怖を〈言霊〉で煽り、その絶望を一点に収束——『何か』を起点に掻き集めた畏を、あの巨大な鎧武者・青行燈へと注いでいるのだろう。

 

 だが真に恐るべきは、これほど強大な畏を産みだす人々の思念を、最後には言霊一つで編み上げてしまった圓潮の〈口〉としての力である。

 竜二も同じように言葉を操る陰陽師だが、圓潮の能力には敵わないと素直に負けを認めざるを得ない。

 

「今日のゲームは楽しかった」

 

 もっとも、自らの成した所業をなんでもなかったかのようにニコリと笑みを浮かべ、圓潮は置き土産を残してその場から立ち去ろうとする。

 

 

〈リクオを殺せ……〉

〈奴らを殺せ……〉

 

 

 残された置き土産——青行燈からは、『人間たちのリクオに対する強い憎悪』が伝わってくる。

 リクオを殺せば救われる、未だにそのような根も葉もない噂を人々は信じ込まされているのだ。

 

 

「圓潮……!!」

 

 

 しかし、そんな自分への殺意に溢れた青行燈を前にしながらも、リクオの怒りの矛先は全くぶれることなく圓潮一人へと向けられていた

 殴り飛ばされた痛みなど気にしていられるかと、リクオは再び立ち上がる。

 

 

「テメェの思い通りにはさせねぇ!!」

 

 

 必ず倒す。

 眼前のこの化け物も、圓潮も決して逃しはしないと。リクオの眼光がより一層鋭さを増していった。

 

 

 

AM 4:20

 

 

 

「——おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 立ちはだかる青行燈に対し、奴良リクオは雄叫びを上げながら真っ向から斬り掛かっていく。

 

 リクオが左右それぞれに手にした刀は、彼が畏を攻めに振った——鬼憑によって強化された得物である。リクオに鬼憑の基礎を叩き込んでくれたイタクからも、それは完璧になったと太鼓判を押されたほど。

 その一刀は、山ン本の中でも最硬度を誇っていた雷電の骨すらも斬り捨てた。祢々切丸を持たないリクオが、今繰り出せる中でも最大の威力を誇る一撃だったろう。

 

 

 だが——。

 

 

『————』

 

 

 リクオの接近に反応するかのよう、青行燈はギギギと不快音を鳴らしながらそちらを振り返る。

 まるで機械のような動き。そのようなシステムでも組み込まれているのか、向かってくるリクオを迎撃するため、その拳を凄まじい速度で振り下ろした。

 

 

「——なっ!?」

 

 

 瞬間、放たれた拳はリクオの顔面まで迫る。拳の振りの速度に反応しきれなかったリクオは、咄嗟に体をずらすことでなんとか直撃を回避する。

 だが、青行燈の一撃を僅かに掠めたリクオの刀——畏によって強度が増していた筈の刀が、いともたやすく砕け散ってしまう。

 

「っ……!!」

「どいてろ……リクオ!!」

 

 予想外の一撃に怯むリクオだったが、彼と入れ替わるような形で今度はイタクが青行燈に斬り掛かっていた。

 どんな強者でも、攻撃した直後にこそ最大の隙が生まれる。その隙を見逃さずに攻勢に出る戦闘センス。流石は妖怪忍者として名高い遠野妖怪だ。イタクは見事に青行燈の隙を突き、必殺の一撃をその身にお見舞いして見せる。

 

 

「——レラ・マキリ!!」

 

 

 イタクの鬼憑によって極限まで研ぎ澄まされた鎌の一撃。切れ味だけでいえば、リクオすらも上回るだろう鎌鼬の真骨頂ともいうべき業。

 

 

『————』

 

 だがイタクの一撃をまともに食らって尚、青行燈は微動だにしない。確かにイタクのレラ・マキリが直撃した筈だが、まるで堪えた様子がないのである。

 

 

「…………っ」

「イタク……!」

 

 

 それどころか、青行燈の間合いから戻ってきたイタクの体に、ところどころ傷を付けられていた。

 いつの間に反撃されたのか、攻撃を仕掛けた筈のイタクの方がダメージが大きいということに、リクオも驚愕するしかない。

 

「気をつけろ……リクオ。あれをまともに食らったら……マジでヤバイぜ……」

 

 プライドの高いイタクも、青行燈の危険性を瞬時に理解したようだ。リクオに最大限の警戒をするように忠告し、自身も慎重に青行燈との間合いを測っていく。

 

 

「あの反撃……おそらく奴を覆っている畏だ。まるで畏で出来た兵器だな……」

 

 

 イタクが分析するに、自分たちの攻撃に対して瞬時に反撃するのは——青行燈が纏っている『畏』の力だ。

 あの巨大な鎧武者の化け物を動かしている人間たちの思念。殺意の塊といっていいほどに凝縮したその畏が、青行燈に近づくもの全てを薙ぎ払うほどに強烈な力を与えているのだという。

 逆にいえば、近づかない限りは攻撃されることもなく比較的安全ということになるわけだが——。

 

『————』

「……えっ?」

 

 そのような安易な考えを抱いた直後だ。

 青行燈の頭部——口元が何やら点滅していることにつららが気づいた。嫌な予感を抱いた彼女が、リクオへと警戒するように叫ぶ間もなく。

 

 

 青行燈の口から——極太のビーム砲が放たれる。

 

 

「なっ……」

 

 

 予想だにしなかった攻撃方法に呆気に取られる一同。妖怪がビームなどと思うかもしれないが、そうとしか表現しようのない——『高出力の光線』を青行燈は異形の口から放出したのだ。

 直撃など食らえば消し炭になるであろう凄まじい威力の光線に、一行は顔面蒼白になりながらも回避行動を取っていく。

 

 だが、逃げるリクオたちの動きを追尾するかのよう、青行燈を頭部をぐるんぐるんと振り回す。

 発射口が動いたことで、それに合わせてビームも動き回る。まるで生き物のように不規則な軌道で放たれるビームに皆が翻弄されていく。

 

「んだ……こいつは!! 来なけりゃ、飛び道具かよ!?」

 

 青行燈の反則気味な性能に、リクオが思わず悪態をついていた。

 

 斬り込むために近づけば、こちらの畏に反応して超反射攻撃——カウンターを放ってくる。

 だからといって距離を取ろうものなら遠距離射撃——高出力のビーム砲を放ってくる。

 

 近距離も遠距離も全く隙がない。

 イタクが言う通り、まさに畏で起動した兵器——完全無欠の戦闘マシーンである。

 

 

 

 

 

「ふっ……行こうか……」

「…………」

 

 強大な力を誇る青行燈を前に、逃げ惑うしか出来ないでいるリクオたちの姿を見届け、圓潮は静かに笑みを浮かべる。そして、その場で繰り広げられている激戦を背に、彼はそこから立ち去っていく。

 どうやら青行燈が鎮座していたすぐ後ろに、この部屋から脱出するための隠し通路が用意されていたようだ。

 

 その通路から——圓潮とそれに同行する『何者か』がその部屋から抜け出そうとしていた。

 

 

「…………逃すかよ」

 

 

 そんなその場から立ち去っていく彼らを、花開院竜二は見逃さなかった。

 彼は一瞬、青行燈やそれと戦うリクオたちに視線こそ向けたが、彼らに加勢することもなく。一人静かに圓潮たちの後を追っていく。

 

 

 

AM 4:30

 

 

 

 リクオたちが起動し始めた青行燈と激闘を繰り広げていた頃、全く別の場所でも各々の戦いを続けていたものたちがいた。

 

「——どけどけ!!」

「——おーいこっち、怪我人だぞ!!」

「——早く、手当してくれよ!!」

 

 奴良組本家。元より、奴良組の妖怪たちが多く詰めている総本山だが、今はたくさんの負傷した妖怪たちで屋敷内が埋め尽くされていた。

 既に大半の敵幹部を討ち取って優勢な状況とはいえ、未だ根本的な決着には至っていないのだ。終わりの見えない中ダラダラと戦いが続き、負傷者の数も増えていくばかりであった。

 

 そんな、大勢の妖怪たちがひしめく奴良組内に——明らかな『異物』が紛れ込んでいた。

 妖怪たちが右往左往する大広間の片隅に、肩身の狭い思いをしながらも集まっていたのは——人間の少年少女たちだ。

 

「き、清継くん……」

「だ、大丈夫なのかよ……ここ……」

 

 二人の女子——鳥居夏実と巻紗織は周囲の状況、妖怪たちが屋敷内にひしめき合う光景にオドオドしながらも、もう一人の男子の様子を伺っている。

 

「…………」

 

 そしてその男子——清十字清継はというと、真剣な様子でノートパソコンと睨めっこしており、周りのドタバタ具合に目を向けている余裕もなかった。

 

 奴良組によって助けられた清十字団の面々は、リクオの意向によって奴良組本家にて保護されている。ここならたとえ敵の襲撃があったとしても、奴良組の妖怪たちが守ってくれると。リクオは仲間たちを信じて友達のことを任せたのだ。

 

「…………」

 

 その期待に応えようと、彼らをここまで護衛してきた青田坊が清継たちにずっと付き添っていた。

 しかし性格上、戦わずにじっとしていることが性に合っていないのか。落ち着かない様子で、今にも飛び出していきたそうにうずうずとしていた。

 

 

 

『ダメですよ!! みんな寝ちゃってます!! 欧州や中東のサッカー友達とはメールで繋がったけど、意味ないっすよね!?』

「島くん、東京だけでいいんだ!!」

『ハイー!!』

 

 奴良組で腰を落ち着かせることになった清継がノートパソコンに向かって叫ぶ。画面には島二郎の寝巻き姿が映っており、眠気眼を擦りながらも清継の要求に応えようとしてくれている。

 サッカー遠征で東京を離れていたため、島は今回の惨状に巻き込まれていなかった。彼はU-14日本代表選手としての伝手を使い、海外のサッカー選手にも連絡を取ってくれたようだ。

  

 だが、圓潮の言霊によって人々が扇動されているのは、東京——広くても関東圏内の人間たちが殆どだ。

 海外の人々にリクオの勇姿——皆のために戦う映像など見せたところで、大勢に影響など及ぼさない。

 

 圓潮の言霊の支配から脱却させなければならないのは、今も怪異たちに襲われている東京都民一千万人なのだから。

 

「くそ!! 圓潮の言霊だって、きっと完全じゃない筈。現に普段の奴良くんを知ってるボクらにはそんなに効いてないんだ……最初は惑わされたけど……」

 

 清継はリクオの動画を、彼のありのままの姿をネット上に流すことで人々の心を動かそうとしていた。

 彼が必死に戦い、人々を救う姿を見れば、奴良リクオが決して『悪』でないことが伝わるだろうと思って。

 だが、大多数の人々は未だに圓潮の言霊に支配され、リクオを亡き者にしようと彼の死を願っている。

 普段からリクオのことを知っている清継たちや、中学校の生徒たちは既に正気に戻っているようだったが、やはりリクオのことなど何も知らない、赤の他人の洗脳を解くにまで至っていないのが現実だ。

 

「真実を伝えることしか出来ないけど……少しでも可能性があるのなら、それをボクらはやるしかない!!」

 

 それでも、清継は諦めずにネット内を駆け巡ることを止めない。一人でも多くの人にリクオの本当の姿を伝えようと、最後まで自分に出来ることをしていくつもりのようだ。

 

「私……兄貴に電話してみる!!」

 

 そんな清継の必死な姿に触発されてか、巻も自分に出来ることがないかと身内に声を掛けようと電話を手に取る。

 巻には兄が一人おり、その兄から彼の友人、そのまた友人の友人へと。そうやって人から人へと伝わってくれればあるいはと。

 僅かな可能性に縋ってでも、この事態を打開しようとしている。

 

 

 

 ——保護とはいえ、この子らを家に入れて大丈夫かい、リクオよ……。

 

 そんな清十字団の姿を、見守るような形で後ろから眺めているものがいた。リクオの祖父——そう、ぬらりひょんである。

 彼はリクオの要請に応える形で、人間である清十字団に本家の敷居を跨ぐ許可を与えた。今は緊急時であり、やむを得ないことであると割り切ってはいるものの——この騒動が終わった後、果たして彼らが妖怪である自分たちのことをどう思い、リクオとどのように接することになるか。

 既にこの戦いの後のことにまで目を向けている辺り、流石は元総大将といったところか。

 

「……とりあえず、飴でも喰うかい?」

 

 それはそれとして、とりあえず彼らの緊張を解こうと。ぬらりひょんは清継たちに飴でも舐めないかと声を掛ける。ぬらりひょんなりに、場の空気を和やかにしようと思ってのジョークだったのだが——。

 

「いりません!!」

「…………」

 

 そんなぬらりひょんに対し、清継は怒ったように声を荒げる。自身のジョークを全く取り合ってくれなかったことに、流石のぬらりひょんもちょっぴりショボーンとなってしまう。

 

「そんな気分になれないです……おじいさん、すみません」

 

 一応、怒鳴った後に清継はぬらりひょんに謝ってフォローを入れる。しかし視線をノートパソコンから外すことはなく、気を緩めている場合ではないと、彼は胸の内の思いを叫んでいく。

 

 

「奴良くんが……あんなに傷だらけになって、ボクらを守ろうとしてくれているのに……こんなあり様じゃボクは……ボクはもどかしい……!!」

 

 

 ぬらりひょんの冗談など聞いていられないほど、清継は必死になっている。

 それは憧れの闇の主が、友達であるリクオが人間たちのためにあれほど頑張ってくれているのに、人間である自分には何も出来ないという、もどかしさから。

 清十字団の団長として普段からリクオたちに偉そうにしている分、それ相応の責任感を抱いてしまっているのだろうか。

 

「……ふーむ……まっ、しかしこのままじゃいかんのう……ワシらの力も弱まるかもしれんし……」

 

 清継の言葉に、ぬらりひょんも色々と感じ入るものがあったのだろう。何とか清継たちに元気を出してもらおうと、彼らにも出来るようなことを提案していく。

 無論、そこには自分たち奴良組の地盤。この地の畏の流出を何とか阻止したいという思惑もあるわけだが。

 

「どうじゃ、噂には噂……リクオ死亡説なんか?」

「それ流したら、噂も消えるかも!?」

「き、効くかなぁ~~?」

「な、何もやらないよりマシなんじゃないかな?」

 

 圓潮の流した噂話に対抗するため、ぬらりひょんは『リクオが既に死亡している』といった噂を流すことを思いつく。

 果たしてそれで上手くいくかという懸念もあったが、このまま手をこまねいているよりはいいだろう。とりあえずその作戦を試してみようと、清十字の面々の表情が前向きになっていく。

 

「ふっ……その気持ちだけでも、リクオは十分じゃろうがのう……」

「え……?」

 

 もっとも、実際に彼らの作戦が上手くいかずとも、その心意気だけでリクオにとってはありがたいことだろうと、ぬらりひょんは孫の気持ちを伝えていく。

 リクオが自分で伝えるには少し恥ずかしいだろう、彼ら人間たちに対する思いを——。

 

「それよりも……もどかしいのはあいつのほうじゃろう。あんたら人間たち巻き込んだことがな……」

 

 ぬらりひょんは知っている。

 リクオが人間たちを、友人である清十字団のことをどれだけ大切に思っているかを——。

 

 

「——奴は『人に仇なす奴は許さねぇ』……そう言って、この組を継いだんじゃからな」

 

 

 それが奴良リクオという存在の原点だ。

 何年経とうと変わることのない、彼の『芯』となるべき部分。

 

 人間に仇をなすような、そんなカッコ悪い妖怪にはなりたくない。

 誰に対しても恥じることのない、立派な人になりたいという幼い頃からの想いを今も変わらず貫いている。

 

 

 他でもない人間の少女、大切な幼馴染から教えられたその想いを——。

 

 




補足説明

 青行燈
  百物語組、最後の切り札。巨大な鎧武者の異形。 
  百物語を最後まで語ると姿を現すとされる妖怪。
  鬼女であったり、蜘蛛であったり、怪奇現象そのものであったり。 
  文献ごとに色々と違うらしいですが……ぬら孫だと巨大ロボットで登場。
  リクオやイタクですら、『ヤバい』『デタラメ』と口にするほどの怪物。

 巻の兄
  清十字団の巻紗織には兄が一人いるとのことですが……どんな人物かは不明。
  確か、ヤンキー的な人だという話をどこかで聞いたような?


次回仮タイトル『人々の想い』。
次回が本小説における、百物語組編一番の山場だと思ってますので、頑張ります!
 
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