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小説を書いている皆さん……万が一のためにデータは常に別メモリに保存しておきましょう。
今回の話で百物語編、一番の山場である青行燈戦は決着します。
戦いの結果そのものは原作と変わりませんが、そこに至るまでの過程を色々とアレンジしています。
人々の想い……サブタイトルの意味をどうか噛みしめていただきたい。
AM 4:40
「——明鏡止水・火斬!!」
畏を攻めに振った奴良リクオの一撃——明鏡止水・火斬が炸裂。炎を纏った刀の一撃は、青行燈の名を冠する巨大兵器に手傷を負わせる。
その巨腕が燃え上がり、鋭い斬撃によって切断された左腕が轟音を上げながら崩れ落ちていく。
「やった!! 効いてる!!」
ついに負わせることに成功した致命の傷に、つららが喝采を上げる。
難攻不落の怪物のように見えた青行燈とて、しっかりとダメージを与えることは出来るのだ。このまま畳み掛ければ、どれだけ巨大な存在であろうといずれは倒すことが出来るだろうと。彼女の声音は希望に満ちていた。
ところが——。
『————————』
青行燈の腕が切り落とされた、その刹那——。
部屋中の壁に埋められていた眼球のようなモニターから不気味な光が放たれる。モニターからは何か黒いものが溢れ出し、それが青行燈へと流れ込んでいく。
〈殺せ……殺せ、殺せ!!〉
それは、モニターの向こう側で絶望に喘いでいる人々の『思念』が形となったもの。救いを求める人々が救世主に願った想い——。
〈死ねばいいのにリクオ殺す死ね死ね誰か奴を殺してくれあいつが全部悪いんだリクオを殺せ奴が死ねば助かる殺す殺す奴良リクオを殺せ死ね死んでしまえお前のせいで誰か奴を殺してくれ死ねばいいのに殺せ殺せ奴を殺してくれ死んでしまえ奴良リクオお前が死ねばリクオを殺せ〉
目を凝らせば、その想いが——まさに奴良リクオへの殺意や憎悪によって彩られたものだと分かるだろう。
その殺意が凝縮し集まることで、欠損した腕を補填——瞬く間に修復してしまった。
「そんな……まさか、不死身なの!?」
「デタラメだ……」
本来なら、再起不能になってもおかしくない深傷を何事もなかったように修復してみせた青行燈に、つららが顔面を蒼白に。リクオですらも無茶苦茶だと冷や汗を流す。
強い上に、何度でも再生する体。こんなものをどうやって倒せというのか、これを攻略出来るビジョンが全く思い浮かばない。
「無尽蔵に再生する体なんてありえねぇ……」
しかし戦闘のプロフェッショナル、遠野妖怪のイタクは理不尽なまでの再生力を前にしながらも冷静に敵能力の分析を測る。
「目を凝らしてよく探せ……どこかにカラクリがある!!」
どんなに強大な妖怪だろうと、無尽蔵に再生するなどあり得ない。不死身に見える再生力にも、必ず理屈が存在する筈だ。その理屈がなんなのか、そのカラクリさえ見破れば必ず勝機はあると。
「早く見つけねぇと……こいつは止まらない!!」
そのカラクリをどれだけ早く見つけられるか、それがこの戦いの肝となるだろう気合を入れていく。
「…………」
「…………」
青行燈とリクオたちが戦っている、そこから少し離れた地下通路に圓潮の姿があった。隠し通路から脱出した彼——『彼ら』のいる場所からも、リクオたちが派手にぶつかり合う戦闘音が聞こえてくる。
もっとも、彼らのいるところは安全圏内。圓潮も特に慌てることもなく、黙々と地上への出口へと歩を進めていた。
「え……圓潮師匠!!」
「——!!」
するとそんな圓潮の元に、一人の男が息を切らしながら駆け寄ってくる。
「はぁはぁ……師匠、貴方がここにいるということは……もしや、山ン本様が復活なされたのか?」
百物語組の一員、圓潮を師匠と慕っている柳田だ。彼は山ン本五郎左衛門が人間であった頃から、彼に付き従っていた妖怪である。
柳田にとって主人である山ン本の復活は三百年間、待ち望んだ悲願そのもの。その悲願がようやく叶ったのだろうと、気が気でないといった様子で問い掛ける。
そんな柳田の想いに——。
「——ああ、山ン本さんは復活なさった」
圓潮はいけしゃしゃと言ってのける。真顔で、平然と、後ろめたさなど微塵もなく。
「ほ……本当か? ……し、師匠……貴方という人は……」
圓潮の言葉を真に受けた柳田は感動で打ち震える。その瞬間、柳田という男は確かに幸福の絶頂にあったいえよう。
「だがね……脳はやられてしまった。奴良リクオによって……」
「え……?」
「だから……声はもう届かない。すまない……」
だがそんな幸福の最中から、一気に絶望の底へと払い落とされる。地獄にいる山ン本との唯一の通信手段であった〈脳〉が倒されたという事実によって。
それがいったい誰の手によって成されたことなのか、圓潮はいかにも神妙な顔で平然と嘘を吐き出していく。
「え……でも……じゃあ、我々はどうすれば……?」
柳田は圓潮の言葉を吞み込み切れない様子だった。せっかく山ン本が復活したというのに、その彼の言葉を聞くことができない。
ならばこれから百物語組は、自分はどうすればいいのかと戸惑っている。
「——よくそんな堂々と嘘がつけるもんだぜ」
「!? だ、誰だ!!」
と、そのように困惑している柳田に、物陰から声を掛けるものがいた。
「俺も嘘には自信があるが……そんな残酷な嘘はつけないよ」
圓潮の後をひっそりと追跡していた、花開院竜二である。
言葉を巧みに操り、敵を翻弄することに長けた陰陽師である彼ですらも、圓潮という男の嘘つきぶりには呆れ返るほどだ。
「あんた騙されてるぜ……そいつの話に……」
「え……なっ? ど、どういうことだ……え、圓潮……?」
とりあえず、竜二は親切心から柳田が圓潮に騙されていることを忠告してやる。
身も知らない相手からの言葉に柳田は困惑しているようだったが、その混乱に乗じて竜二は少しづつ、隠形を駆使して本丸へと近づいていく。
「あんた噺家のくせに大した役者だよ……」
「…………」
本丸——竜二の狙いである圓潮は図星を刺されながらも、その口を閉ざして沈黙を貫く。
言葉を操る二人の男が、静かに互いを牽制し合っていく。
AM 4:55
「くそ……近づきゃ、無条件で超反射攻撃。ちょっと離れりゃ、遠距離射撃……こんな奴で時間食ってるわけにゃいかねぇのによ……!!」
青行燈の規格外な能力、カウンターやビーム砲に苦戦しつつも、リクオたちはその巨体に何度か致命的な傷を与えていた。しかしその度に、青行燈は人々の思念から力を得て、自らの体を修復していく。
イタチごっこだ。これではいくら戦いそのものを有利に進めていても、決着などつくわけがない。
「街中でも、まだみんなが戦ってくれてんだ!! こんなとこで……時間食ってるわけにゃいかねぇのによ……」
そして時間が経てば経つほど、リクオの焦りは募っていき、その動きからも精細さが欠けてしまっている。
それは今この瞬間、自分以外の仲間たちも必死になって戦っていることを知っているからこその焦燥だ。
人々を守るため、仲間を守るため、シマを守るため。それぞれがそれぞれの役割を果たすため必死に戦ってくれている、奴良組の仲間たち。
彼らに報いるためにも、ここで青行燈を倒し——黒幕である圓潮を必ず引きずり降ろさなければならないのに。
——そうよ……圓潮を、倒すのよ!!
——人間の洗脳を解かないと……リクオ様が戻れない!!
——みんなの場所に……カナのいるところに!!
つららもまた、リクオと同じ気持ちで青行燈との攻防に焦りを抱いていた。
このままダラダラと戦いが続き、圓潮を取り逃がすようなことになってしまったら——リクオが表の世界に戻れない。
彼の帰るべき世界に、カナが待っている日常に帰還を果たすことが出来ないと。
それはつらら自身も、カナともう一度一緒に笑い合いたいと思うが故の焦燥でもあった。
「これならどうだ!?」
そんなリクオやつららの焦りを感じ取ってか、比較的冷静に立ち回っていたイタクがここで攻勢に出る。
「——レラ・マキリ・イワンぺ!!」
彼が繰り出した大技は、レラ・マキリの発展版——イワンぺ。
イワンぺとはアイヌ語において『6』を数えるときの数字だ。その言葉通り、イタクは自身が持つ六つの鎌——その全てを青行燈に向かって投げ付ける。
六つの鎌はイタクの巧みな鎌捌きにより、それぞれが独自の軌道で弧を描いていく。本来は複数の敵を殲滅するための広範囲攻撃だ。決して一体の敵に放つべきではない大技をまともに食らい、青行燈の全身がズタズタに引き裂かれていく。
「六本全部投げ!? はやっ……」
「すげぇ……体がズタズタだ!!」
リクオたちですらも、初めて目の当たりにするイタクの奥の手に驚愕の声を上げる。六つの鎌はその全てが青行燈の手足、胴や首を切り裂いた。真っ当な相手であれば間違いなく絶滅必死。
「堕ちろ!!」
イタクにとっても、まさに渾身の一撃だ。たとえどれだけタフな再生力を持っていようと、治癒にはかなりの時間を労する筈——と、リクオたちの顔にも希望が宿る。
〈リクオ殺す死ね死ねお前のせいで誰か助けてリクオ殺してくれ殺せ殺せ——〉
〈死ねばいいのに奴良リクオを殺せあいつが死ねばみんな助かる誰か殺し——〉
〈死ね死ね死ね殺す殺す殺す死んでしまえ誰かあいつを殺してくれ殺殺殺——〉
〈救世主様どうかリクオを殺してください俺たちを助けてくれる死ね死ね——〉
〈殺してくれ殺してくれそうすれば救われるリクオが死ねば死死死殺殺殺——〉
だが同じことだった。
イタクのイワンぺによってズタボロに切り裂かれたどの傷も、次の瞬間には人々のドス黒い思念を補充してすぐに再生してしまう。
「そ、そんな……これでも、ダメなのか……!?」
「いったい、どうすりゃいいんだ……!?」
あれだけの手傷を負わせて尚、瞬く間に修復してしまう青行燈の再生力にリクオたちも唖然となる。
いったいどうすれば、この怪物を倒すことが出来るのか。終わりが見えない、勝ち筋を見出すことの出来ない戦いに、いよいよ追い詰められていくリクオたち。
〈殺せ殺せ奴良リクオをは信じるよ死ね死ね——〉
「……?」
だが一瞬、ほんの数秒であったが——青行燈の再生に、僅かなズレが生じた。
「こ、これは……?」
そのズレがなんなのかを、必殺の一撃を放ったイタクが至近距離から観察しようとその動きを止めてしまう。
その止まった隙をつくよう、再生を終えた青行燈が再び動き出し、その口がチカチカと点滅し始める。
「おい、イタク!? 何してんだ、避けろ!!」
敵が攻撃しようとする瞬間に、それを避けようともしないイタクに、リクオが慌ててカバーに入る。
次の瞬間にも——青行燈の口からイタクに向かって、至近距離から強烈なビーム砲が放たれていく。
「よ、よーし!! なんとかまとまった……リクオくん死亡説。あとはこれをネットに投稿して……」
「ほ、本当に……こんなんで上手くいくのかよ……」
「正直……不安しかないよ……」
奴良組の本家に保護されている清継たちは、人々のリクオに対する敵意や悪意を少しでも削ごうと『リクオが既に死亡している説』を、ネットに流そうと試みていた。
果たしてそれで上手くいくかどうか、不安を口にする巻や鳥居であったが、とりあえず駄目で元々。
何もしないよりはマシだろうという考えから、即興でまとめ上げたリクオ死亡説を複数のネット掲示板に書き込んでいく。
「……? なんだ……このコメント?」
結論だけ言えば、清継たちのその作戦は特に意味を成すことはなかった。
何故なら、そんな付け焼き刃の作戦が効果を発揮するよりも先に——ネット内に、とある動きがあったからだ。
その予兆とも呼ぶべきコメントをたまたま見つけ、清継は眉を顰めていく。
□勝手なことばっか言ってんじゃねぇ!! お前らに、奴良リクオの何が分かるってんだ!!
AM 4:20
時間を少し巻き戻る。
清継たちが奴良組に保護されていた頃、リクオたちが青行燈と激突し始めていた頃。
「う~ん……こんな感じでいいのか?」
「こんなんで、本当に効果あるのかよ……」
浮世絵中学校の情報処理室に、複数の生徒たちが集まっていた。
つい先ほどまで、避難所と化していた学校の体育館で様々な作業に従事していた彼らの何人かが、パソコンと向き合って何らかの作業をこなしていたのだ。
「会長、清継くんから送られてきた動画……とりあえず投稿しましたけど……」
「そうか……何か反応はあったかい?」
その作業の監督役を務めていたのは、生徒会長の西野である。
彼の指揮の元、生徒たちは清継から送られてきた動画——『奴良リクオが皆のために戦っている、ありのままの姿』をネット内に拡散していた。
そう、彼らも清継たち同様、奴良リクオに対する風当たりを少しでも和らげようと出来ることをしようとしていた。
清継からの協力要請と共に送られてきた動画を知り合いを中心に拡散し、少しでも多くの人にリクオの無実を訴えようとしていたのである。
「西野くん……リクオくんの動画、みんなちゃんと見てくれてるかしら……?」
しかしその作戦が本当に効果があるのか。西野たちと一緒に情報処理室を訪れていた白神凛子も、不安げな表情を隠しきれないでいる。
実際、清継が命懸けで撮った動画は、そこまで大々的に人々の心を動かしはしなかった。清継が動画を投稿し始めたタイミングで、園潮が新しい噂——救世主の噂を〈言霊〉を上乗せして流し始めていたからだ。
まるで清継の動画の話題を上書きするかのよう、救世主の噂がネット内の話題を掻っ攫ってしまった。完全にタイミングを掴み損ねたリクオの動画は、ほとんどの人に流し見されただけで終わってしまったようだ。
■奴良リクオを殺してくれる奴が出るって件が言ったらしいよ?
■妖怪同士戦ってるんだ……人間には何も出来ない。
■夜明けと共に救世主が現れてリクオを殺す。
■早く出て来てくれ……俺たちを救ってくれ!!
その一方で、救世主の噂はネット内で爆発的に広まっていき、それが青行燈の力の源になっている。
自分たちを救ってくれると信じている存在こそが、自分たちを苦しめている元凶とも露知らず。人々は全ての災いの元だと信じ込まされている——奴良リクオの死を望んでいく。
「…………くそっ……」
そうした現状に、ひたすら苛立ちを募らせていく生徒がいた。リクオやカナと同じクラスの女子生徒——下平である。
彼女も情報処理室で西野たちの手伝いをしていたのだが、せっかく投稿した動画もいまいち反響が薄く。
■早く死ねよ、奴良リクオ!!
■お前のせいでみんな苦しんでんだよ!!
■くたばっちまえ、リクオ!!
■お前なんか誰も必要としてない!!
それどころか、さらに奴良リクオへの殺意、悪意が凝縮したようなコメントが増えていき、そうしたコメントに目を通したことで——ついに、下平のイライラが最高潮に達する。
「ああ、もう!! 我慢出来ない!!」
「し、下平さん!? ど、どうしたの……いきなり?」
瞬間、叫び声を上げる彼女に凛子を始めとする周囲の生徒たちがビクッとなる。皆の視線が集中する中、下平は手元のキーボードに向かって感情をぶつけるようにコメントを打ち込んでいく。
□勝手なことばっか言ってんじゃねぇ!! お前らに、奴良リクオの何が分かるってんだ!!
下平はリクオへの悪意が渦巻く掲示板に、自らの意見——リクオを擁護するコメントを投稿したのだ。
「し、下平さん……何を?」
「よしたまえ、そんなことをしても……」
その行動に凛子が戸惑いを露にし、西野がやめた方がいいと口を挟む。
リクオを庇いたいという気持ちは、二人にだって理解は出来る。しかし不特定多数の人間たちが入り乱れるネット内で、彼女一人が声を上げたところで効果を発揮するとは思えない。
■何だこいつ、意味わかんねぇ?
■結局、全部奴良リクオのせいなんだろうがよ!!
■リクオ死ね、リクオ死ね。
事実、彼女のコメントなどさして気にされた様子もなく、それどころか無駄に反感を買っただけでリクオへの誹謗中傷がますます激しさを増していく。
「…………!」
それでも、下平は決してキーボードから手を離そうとしなかった。さらなるコメントを投稿しながら、自分を制止しようとした二人の先輩に涙声で訴えかける。
「だって、悔しいじゃないですか……」
「……っ!!」
「………」
下平の感情がこもった叫びに凛子と西野、二人の瞳も揺らいでいく。
「こんな……奴良のこと何にも知らない奴らに、好き勝手言われて……悔しいじゃないですか!!」
下平は奴良リクオという少年のことを何も知らないくせに、好き勝手なことを口にするネット上の有象無象に強い怒りを抱いていた。
「奴良は……良い奴なんですよ!! あいつがこんな扱いを受ける謂れなんてないのに……!!」
下平にとって、奴良リクオはただのクラスメイトだ。特別親しいわけでも、密かに想っているわけでもない。
クラス内にいる多数の男子、その内の一人に過ぎない。この騒動が起きる前まではそのくらいの認識でしかなかった。
だが、そんな彼女でも——奴良リクオが『良い奴』であることは知っている。
彼には何度も日直の仕事を代わりにやってもらった。こちらから頼んだわけでもないのに、自分がやるべき仕事を次々とこなしていく彼に、正直若干引き気味になったこともあるが、それでもありがたいと思ったのは事実だ。
日直の仕事以外にも、リクオは人が嫌がるような仕事を率先してこなしていた。掃き掃除、ゴミ捨て、庭の草むしり。さらには友達の宿題を代わりにやって来たり、昼飯のパンを買いに行ったりということまで。
そんなリクオを「それパシリじゃない?」と、都合の良い奴みたいに思う生徒もいた。
けどそんなではない。奴良リクオという少年はその名前の通り、本当に『良い奴』なのだ。
そんな良い奴としての一面を知らない赤の他人が、リクオを半妖だからとか、噂に踊らされるままに誹謗中傷を書き殴り、彼を不当に貶めている。
下平はそんな連中に心底から腹が立った。何かを言い返してやらないと気が済まないと、それはとても子供っぽい感情からくるものなのだろう。それでも——。
「そうだね……確かに、君の言う通りだ……なんだか、ボクも腹が立って来たぞ!!」
「西野くん!?」
下平の憤りに呼応するよう、西野までもネットの掲示板にてリクオを悪く言うものたちへの反論をコメントし始める。そんな彼に思わず素っ頓狂な声を上げる凛子だが、西野はあくまでも冷静に自身の考えを口にしていく。
「一人二人なら、こんなことしたって焼け石に水さ。けれど学校に残っている生徒、みんなでやればあるいは……!」
「あっ……!!」
そう、個人がどれだけ騒ぎ立てようと群衆という数の暴力の前では無力。きっと何を言ったところで聞き入れてはもらえないだろう。
「白神くん……学校に残っている生徒たちに声を掛けてくれ!!」
だがそれが数十、数百となればどうだろう。塵も積もれば山となるともいう。西野は情報処理室以外の生徒、校内に残っている皆にも声を掛けるよう、凛子に指示を出していく。
「よ、よーし……やってやるか!!」
「わ、私も……お手伝いします!!」
さっそく情報処理室に残っていた他の生徒たちも、下平や西野に続くようにしてパソコン、あるいはスマホへと向き合っていく。
ネット上に溢れるリクオへの悪意、それらに対抗するかのように、彼を擁護するコメントを投稿し始めていく。
最初は、小さな波紋でしかなかった。
■リクオが死ねばみんな助かるんだ、誰か早く殺してくれ!!
□奴良リクオは悪くない!!
■はぁ? 意味不明?
■何このコメント? 空気読めねぇやつ。
■リクオ死ね死ね死ね!!
大海の只中に小石を投じるようなものであり、すぐにでもそのようなコメント、大衆の悪意によって呑み込まれてしまう。
だがそれでも、浮世絵中学の生徒たちはリクオを擁護しようと各掲示板にてコメントを書き込み続けていく。
■誰か、奴良リクオを殺して俺たちを救ってくれ!!
■もう間もなくだ、救世主が降りてくるぞ!!
□救世主なんかに縋るな!! 目を覚ませ!!
□奴良を殺したって、根本的な解決にはならないよ。
■なんでだよ!? 全部、奴良リクオのせいなんだろ!?
□リクオくんが悪いんじゃない……悪いのは、全部彼のせいにすれば救われると思ってる連中だよ。
■なんだそれ!? 俺たちが悪者だってのかよ!!
■ふざけんなよ!! 妖怪なんだからあいつが悪だろ!!
リクオを庇い立てる生徒たちに反発するよう、彼を憎む人間たちが攻撃的なコメントでさらに煽り立てていく。
それに対して強く言い返そうものなら、泥沼な論争になりかねない流れであろう。しかし、浮世絵中学の生徒たちは勤めて理性的に、奴良リクオが悪者でないことを自らの意見で持って説こうとしていく。
□リクオは良い奴だよ!
□いつも掃除とか、宿題とかやってくれる! パンも買いに行ってくれるしなっ!!
■…………それ、ただのパシリじゃね?
■草生える!! リクオ、体よく使われてんじゃん! 妖怪のくせに!!
□実は俺……リクオにテスト問題丸写しさせてもらったことある……。
■お前最低やな!?
■真面目に勉強しろ、学生!!
それはリクオと同じ学校に通っているからこそ分かる、彼という『人間』の側面を語ったエピソードの数々だ。
これにリクオを妖怪、即ち悪であるとしか認識していなかった人々も、ツッコミを入れるという形で耳を傾けていく。
□リクオは頭が良いからな!! 成績も上位だし……時々、勉強教えてもらってる。
■なんだ、リクオはガリ勉くんか? 写真だとメガネ掛けてるもんな。
□知ってる? あれって伊達なんだぜ? 度が入ってないんだよ、あの眼鏡!!
■似非眼鏡かよ!! 優等生の真似事なんかして、仲良くしてくださいってか?
■それで人間の振りが出来ると思ってんのかよ、おめでたい野郎だな!!
□そうだよ、おめでたい奴だよ……けど、それが奴良リクオだってことを、俺たちは知ってるんだ!!
□そうそう!! 何も知らない奴が、分かったようなこと言わないでほしいよね!
■ウルセェ、そんなことどうだっていい!! 早くリクオを殺せよ!!
時間が経てば経つほどにリクオを擁護するコメント、生徒たちの書き込みが勢いを増していく。無論、それでリクオへの悪意あるコメントが全てなくなるわけではない。
■ごちゃごちゃうっせんだよ、お前もぶっ殺すぞ!!
■なんだっていいだろう!! リクオをやっちまえば片が付くんだから!!
■殺せ殺せ殺せリクオ死ね死ね死ねお前らもみんな死んじまえ!!
リクオ擁護の発言に反発するよう、悪意ある人々からはさらに過激な発言が飛び出してくる。リクオのみならず、彼を庇うものへの殺害予告など、その憎悪は到底抑えきれるものではない。
□私も……奴良リクオは悪くないと思う。
□俺も……奴良組って名乗る妖怪に助けられたし……。
ただ生徒たちのコメントに後押しされてか。明らかに浮世絵中学の生徒ではないものたちからも、徐々にリクオを擁護するような発言が書き込まれていく。
それはリクオや、奴良組の手によって助けられた人々の声だ。
東京を舞台とした命懸けの鬼ごっこに巻き込まれて、恐怖のドン底に叩き落とされた人間たち。多くのものが救われずに負傷し、命を落としたりもしたが——そんな中でも、確実に奴良組の手によって助けられたものたちがいた。
□もうダメかと思ったけど……間一髪のところで助けられたよ……。
□あの人、なんであんなにボロボロになりながらも……戦ってるんだろう?
そうして助けられた人々が、ここに来て自分たちの窮地を救ってくれたのがリクオだという事実を呟いていく。
本当はもっと早くに声を上げたかったのだろう。けれど、迂闊な書き込みをすればリクオを悪く言う人たちからどんなことを言われるか。
それが怖かったからこそ、ずっと黙っているしかなかったのだ。
■殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺——
■死ねば助かるのに……。
■リクオ殺す殺す殺す殺す!!
■救世主がリクオを殺してくれる、俺たちを救ってくれる。
■リクオ死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!
実際、リクオへの誹謗中傷は留まることを知らない。
彼らの大半はリクオの人柄、彼が本当に『悪』かどうかなどどうでもいいのだ。彼を責めることで救われるのであればウソだろうとデマだろうと構わない。
我が身に降りかかる不幸を全てリクオのせいに、他者のせいにして非力な自分を守ろうとする人間の自己保全。
いつの時代も変わらぬ人の業。
そんな人間のどうしようもない側面を十分に理解しているからこそ、圓潮は今回のような形で大勢の人間を巻き込んだのだろう。
□僕は信じてるよ……リクオくんなら、皆を助けてくれるって!!
□頑張れ……頑張れ!!
□私は……奴良組が悪者とは思えないよ……。
しかしそれだけが人間の全てではない。その悪意に負けじと声を張り上げるものも確かにいるのだ。
それはきっと、全体の一割にも満たない数だろう。それでも人々の想いは決して昏いものばかりではない筈だと。
それを証明するかのように——青行燈という『人間たちの思念を糧とする怪異』に異変が生じ始める。
AM 5:00
「……どうなってんだ、こりゃ?」
その異変に奴良リクオは眉を顰めた。
「てめぇら……何庇いっこしてんだよ。甘ったれた奴らだ……」
「ご無事ですか、リクオ様!?」
リクオは青行燈の反撃からイタクを庇おうと前に出ていた。そんなリクオを甘ったれと憎まれ口を叩くイタクだが、自身の負傷には大人しくリクオの肩を借りていく。
つららはリクオが負傷していないかを気に掛けながら、氷で壁を作り続けて青行燈の攻撃を防いていたのだが——。
『——オ、オオオオォォォォォ』
その青行燈の様子が妙なことになっていた。
先ほどの再生時も、受けた傷の箇所によって修復の速度に違いなどが出ていたが、今はそれ以上に何かがおかしい。妙なところで動きを止めたり、攻撃の勢いが急に衰えたり。
さらには苦しみ悶えるよう、叫び声まで上げ始めている。青行燈そのものに感情などない筈だろうが、まるで頭痛に苦しむように頭を抱えていた。
「なんだっていいか……チャンスであることに変わりはねぇんだ!!」
そんな青行燈の異変に最初こそ戸惑いを見せるリクオであったが、これが好機であることを悟ったのか。刀を構え直し、ここで決着をつけるべく攻勢へと打って出る。
『——グオオオオオオオオ』
とはいえ、青行燈そのものが戦闘不能に陥ったというわけでもない。苦痛に身悶えしながらも、変わらず暴威を振るう巨大兵器。
リクオたちが攻撃すれば当然反撃もしてくるだろう。この巨大な怪物をどのように攻略すべきか思案を巡らせていく。
「さっき口の中に……奴が持っていた『釜』が見えた気がしたな……」
ふと、そこでイタクがとある考えを口にする。
彼が気になったのは先ほどのビーム放出時、口の奥に青行燈が起動前に抱え込んでいた『釜』が見えたということだ。
「あれか……」
その釜の存在ならリクオを気付いていた。
もしかしたら、あれが話に聞く『百鬼の茶釜』とやらなのかもしれない。
百鬼の茶釜とは、三百年前に山ン本五郎左衛門が使用していた〈畏を抱かれる者〉だけが使うことを許されたという茶釜のことである。
その釜には百鬼夜行の紋様が彫られており、自然と人々の畏怖や恐怖——即ち〈畏〉を集める性質があるとされている。
畏が集まり、溶け出すことで煮えたぎるその茶の味は〈覇者の味〉とされ、多くの人間たちがその味の虜となった。
元はと言えばその茶釜こそ、江戸時代に怪談が爆発的に広がり、百物語組が勢力を増すことになった要因でもある。
怪談によって人々の恐怖が世に広まれば広まるほど、茶釜には〈畏〉が集まり、その〈畏〉を溶かし込んだ茶が大量に製造され、それが民衆にまで配られる。
その茶の味がこれまたなんともいえぬ味とのことで、まるで麻薬のように人々の心を狂わせる。
そしてその味がもっと欲しい、もっと茶が飲みたいと人々がさらに怪談を広めていき、さらに百物語組の下に畏が集まる——そういった悪循環を生み出していたのだ。
その茶釜は、魔王山ン本五郎左衛門が倒された際のゴタゴタによってどこぞへと紛失していた。
当時の奴良組でも一応は捜索したらしいのだが、見つけられなかったことで『きっとカケラも残らず吹き飛んでしまったのだろう』という結論が出され、捜索も打ち切られたとのこと。
だが、そうではなかった。茶釜を新たに誕生した百に別れた山ン本たちの手によって秘密裏に回収されていたのだ。
青行燈は人々の思念——リクオへの殺意、憎悪を糧に作動する巨大兵器であった。
その動力がリクオへの憎悪だとするならば、それを掻き集めることで作動する『動力源』がある筈だ。
その答えこそが、あの茶釜だということだ。
三百年前とは違う形ではあるものの、それはこの瞬間にも多くの人間たちを苦しめ、奴良組を——奴良リクオを追い詰めていた。
「あれが奴の動力源かもしれねぇ……そいつをぶっ壊せば……」
「少なくとも……再生はしなくなるかもっ!?」
しかしそれもここまで。
その茶釜こそが起点であり、青行燈の弱点だと勘付いたイタク。それを破壊すれば青行燈が止まる、最低でも再生はしなくなると考え、つららの表情にも希望が宿る。
あとはどのようにして、それを破壊すればいいかということだが。
「お前ら、耳貸せ……」
「!?」
「……?」
策があるということだろう。イタクはリクオとつららを呼び、こっそりと彼らに耳打ちする。
青行燈にこちらの作戦を盗み聞くような知性などないだろうが、念の為に声を忍ばせ——自らの作戦を二人へと伝えていく。
『————————』
「ちっ……うだうだ話してたらまた来やがる!!」
そうして作戦を伝え終えた瞬間、青行燈が再び猛威を振るい始める。原因不明の動作不良などを度々起こしながらも、その強大な畏は今だに健在だ。無策で突っ込んだところで返り討ちに遭うだけだろう。
「あの釜は俺がやる。あとはお前が……やるんだぞ!」
「イタク!?」
故に作戦通りと、まずはイタクが青行燈へと真っ直ぐに突っ込んでいく。
最も危険な役割を進んで引き受けるイタクに声を上げるリクオだったが、イタクとしてもここを譲る気はなかった。
元より、これは奴良リクオの戦いだ。最後はリクオの手で終わらせなければならない。
ならばこそ、ここは自分が露払いを済ませるべきだろうと。イタクはリクオの活路を開くため、自らの意思で火中へと飛び込んでいく。
「——雪女っ!!」
もっとも、イタクといえども一人で無茶をする気はない。青行燈の間合いに入る寸前、前もって話していた作戦を実行に移すため、彼はつららへと呼び掛けていく。
「我が身を纏いし眷属よ……氷結せよ」
つららもイタクの指示通りに、自らの妖力を高める。その際、彼女はイタクの言葉を思い返していた。
『——雪女、一瞬でいい……第一撃を入れる間を作ってくれ!』
『——攻撃すれば必ずカウンターを仕掛けてくる……そいつを逆手に取るんだ!』
「まさか、イタクから頼まれるとはね……」
イタクは、遠野妖怪として非常に高いプライドを持った妖怪だ。共に戦っているように見えていても、その背中を容易く他者に預けようとはしない。少なくとも、彼が戦場でつららを頼りにしたことなどなかっただろう。
そんな彼が、作戦のためとはいえ自分の戦力に期待している。共に戦う仲間として素直に嬉しく、つららとしても気合が入るというものだ。
「——呪いの吹雪……風声鶴麗!!」
ならばその期待に応えてやろうと、全力の一撃を持って青行燈の意識をこちらへと向けさせる。
『————————』
案の定、つららの吹雪に反応した青行燈がその大口を開いた。口の中がチカチカと点滅した次の瞬間にも、高出力のビーム砲を吐き出す
凄まじい光の奔流がつららの吹雪を飲み込んでいく。当然、青行燈にダメージはない。
「——好機!!」
しかしそれで十分だと、つららの吹雪の影にその身を隠していたイタクが仕掛ける。
その姿を本来の有り様——巨大なイタチへと変え、本気の一撃を隙だらけの青行燈へと叩き込む。
狙いは一点。青行燈の口の中に隠されている〈百鬼の茶釜〉。
その一点を狙いすましたイタクが、全身をまるでスクリューのように旋回させ、青行燈の口の中へと突っ込んでいく。
イタクの渾身の一撃は、青行燈の顔半分を抉り取り——その奥に秘されていた茶釜を見事、木っ端微塵に粉砕した。
「今だ!! リクオ!!」
流石のイタクも本気の一撃を放った後のため、そこからさらなる追撃など掛けることは出来ない。
だが、イタクがやってくれると信じていたリクオが既に動いており、青行燈にトドメを刺さんと刀を振りかぶる。
「——おおおおおおおおおおおおお!!」
気合一閃。この一撃を持って決着にせんと、リクオが雄叫びを上げながら刀を振り下ろさんとする。
「戻らない!? 貫通したまま回復しない……やった!!」
そんなリクオの一撃に対して、青行燈は顔半分を吹き飛ばされたまま、修復の兆しすらない。
やはり茶釜を破壊したことによって再生力は失われたようだ。これならば勝てると、つららの顔に今度こそはという希望が宿る。
『——オオオオオオオオオオオオ』
「なっ!? これでも、まだカウンターしてくるの!?」
だがそれでも尚、青行燈はリクオの攻撃に超反応する。
向かってくる彼を迎撃しようと、その巨腕を振りかぶらんと絶叫を轟かせる。
リクオと青行燈——どちらが先に相手に必殺の一撃を叩き込めるか、勝負はその刹那で決まる。
〈頑張れ……〉
そんな、両者の攻撃が交わらんとする瞬間にそれは起きていた。
〈死ねばいいのにリクオ殺す死ね死ね誰か奴を殺してくれいつが全部悪いんだリクオを殺せ奴が死ねば助かる殺す殺す奴良リクオを殺せ死ね死んでしまえお前のせいで誰か奴を殺してくれ死ねばいいのに殺せ殺せ奴を殺してくれ死んでしまえ奴良リクオお前が死ねばリクオを殺せ〉
茶釜という畏の供給源を失いながらも、青行燈は変わらずリクオへの殺意、人々の悪意によってその身を動かしていた。
もしも、その身に宿るのが憎悪だけであったのなら——リクオは敗北していかもしれない。
だがそれだけではない。
今の青行燈を構成する要素は、人間たちの負の感情だけではなかった。
〈死ねばいいのに『信じるよ』リクオ殺す死ね死ね誰か奴を殺してくれいつが全部悪いんだ『頑張れ』リクオを殺せ奴が死ねば『あいつは良い奴だよ』助かる殺す殺す奴良リクオを殺せ『負けないで』死ね死んでしまえお前のせいで誰か奴を『助けてくれてありがとう』殺してくれ死ねばいいのに殺せ殺せ奴を殺してくれ死んでしまえ『私は信じてる』奴良リクオお前が死ねばリクオを殺せ〉
ほんの僅かでありながらも、そこに紛れ込んでいたノイズ。
リクオを擁護する意思、彼を信じると決めた人々の意思が青行燈の中に流れ込んでいたのだ。
〈頑張れ……頑張れ、奴良くん!!〉
その意思が、ここ一番というところで奴良リクオの助けとなる。
『————————!!』
青行燈の動きが止まる。
まさにリクオへと拳を叩き込もうとした刹那に動作不良を起こしたのだ。
数秒もすれば復帰しただろうが、このタイミングでのそれはもはや致命的だ。
「——明鏡止水・火斬!!」
動きが停止していた青行燈へと、リクオの明鏡止水・火斬が最大火力で叩き込まれる。
『——オオオオオオオォォォォォォォォ!!』
鋭い斬撃で青行燈の胴体が真っ二つに引き裂かれ、燃え上がる炎が全身を包み込んでいく。
怨嗟の絶叫を響かせながら、その巨体が地に伏していく。
「や……やった……!!」
「リクオ!!」
ついに打倒した。
沈んでいく巨大兵器を前に、つららもイタクですらも喝采の声を上げる。
「……ハァハァ……届いた……?」
だが青行燈をその手で屠り去ったリクオ本人は、どうにも腑に落ちない様子だった。
今の一瞬、リクオにも青行燈の動きが止まった瞬間が見えていた。
もしもあそこで奴が硬直していなければ、自分の一撃が届かなかったかもしれないという自覚もあった。
いったい何故と、首を傾げるばかりのリクオには、彼を信じると決めた人々の想いなど知る由もなかっただろう。
だが今は知らずとも良い。
今は知らずとも、いずれ知ることである。
リクオを信じる人たちは、きっと彼自身が思うよりも多くいるという事実を。
彼の日常への復帰を心待ちにしている人たちが大勢いることを、この戦いの後に知ることになるだろう。
補足説明
百鬼の茶釜
そういえばまだ解説してなかったなと、ようやく気付いたくらいにはその存在をちょっと忘れてた。
三百年前から、人間時代の山ン本が使用していた畏を集める茶釜。
結構重要なアイテムの筈だけど、山ン本がどのような経緯でこれを手に入れたとか詳細は語られてなかった。
今回の話で木っ端微塵に粉砕されたので、再登場することはない……筈です。
百物語編完結まで……残り二話です!
今年中には新章にも入れると思いますので、引き続き当小説をよろしくお願いします。