家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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同時連載している、ゲゲゲの鬼太郎の小説で手こずっているためか。
どうにもこちらの執筆が捗って出来上がってしまいました……。


色々な意味で長々と書いてきましたが、ようやく『百物語編』完結しました!!
ここまで来ればゴールまであともう一息、といったところ。

とりあえず、今年中には『清浄編』の初めくらいは投稿したいと思いますが……。
モチベーションによってはさらにお待たせすることになるかもしれませんので、そのときはごめんなさい!!


第百十六幕 その怨恨を叩っ斬る!!

AM 5:35

 

 

 

 怨恨のみの存在——魔王・山ン本五郎左衛門が現世に甦ろうとしていた、まさに同じ頃。

 浮世絵中学の保健室にて、一人の少女が目を覚ましていた。

 

「…………」

 

 百物語との激戦の末、負傷した体をベッドに横たわせていた家長カナである。

 一度は危篤状態にまでなりかけた彼女ではあったが、土御門春明の応急処置、白神凛子の幸運を呼び込む白蛇の能力、奴良組から派遣された鴆の治療などによって何とか事なきを得た。

 

 彼女もまた、憎しみに囚われた人間だ。山ン本五郎左衛門の耳・吉三郎に対する憎しみの炎をその胸の奥から消し去ることは出来ない。

 だが、怒りや憎悪だけが彼女の全てではない。意識も朧げな中、彼女が真っ先に想うのは——今もどこかで戦っているであろう大切な幼馴染のこと。

 

「——リクオくん、負けないで……」

 

 その呟きは小さく、誰の耳にも届くものではなかったが、確かな『力』が宿っていた。

 圓潮が紡ぐ〈言霊〉のように、人を蝕む力ではない。自身の気持ちを、想いを直接口にすることでそれが叶うと信じる力。

 言葉というものが本来持つ、誰もが紡ぎ出すことの出来る強さ——それもまた『言霊』と呼ばれるものの力なのだ。

 

 その言葉を口に出来たのなら、もう大丈夫だ。リクオは必ず勝ってくれる筈だと。

 どこか安心した様子で、家長カナは再びその意識を微睡の中へと落としていく。

 

 

 

AM 5:40

 

 

 

「さ、さん……もと様?」

「山ン本……何故だ、肉体もないのに?」

 

 突如として降臨した魔王山ン本五郎左衛門を前に、敵であるリクオたちよりも寧ろ柳田や圓潮といった面々の方が驚いていた。

 

 山ン本に対して崇拝に近い感情を抱いている柳田は、主人が蘇ったことへの感動、畏怖によりその全身を震わせている。

 一方で圓潮は、どうして山ン本がこのような形で復活出来たのかと疑問を抱く。

 既に受信機としての役割を果たしていた脳も始末した。地獄に閉じ込められている山ン本には、もはや現世に干渉する肉体、手段などない筈なのだが。

 だが、そのように疑問を抱いた直後——圓潮の身に異変が起きる。

 

「な……に……!?」

 

 それまで全くの無傷だった彼の肉体が、何かに引っ張られるような感覚と共に剥がれ始めたのだ。

 それはまさに身を引き裂かれる痛みであり、ほとんど無表情だった圓潮が苦痛によりその表情を歪めていく。

 

『返せ……我が肉体……』

 

 圓潮の肉体を引き裂いたのは、山ン本五郎左衛門の仕業であった。

 奴は空っぽとなった青行燈の器に己の憎しみを詰め込み、さらには圓潮という〈本来であれば自分の一部〉を取り込み、自らの肉体を補填しようとしているのだ。

 もとより、圓潮は山ン本の口——その肉体が大元である山ン本五郎左衛門に帰結するのが自然な摂理である。

 

「くっ……!!」

「…………」

 

 圓潮がどれだけ不敵に構えようと、彼もまた山ン本であることに変わりはなく。そのままでは成す術もなく肉体の全てを失っていただろう。

 だが寸前のところで、傍らに立つ御門院家の少年陰陽師が七芒星による結界を張った。それにより体が引き裂かれるのも途中で止まり、圓潮は何とか己を保つことが出来た。

 

「水をさされちゃったね……どうする? 戻る?」

 

 しかし、既に見上げるほどの巨体へと肥大化した山ン本五郎左衛門のせいで地下は崩落寸前。先ほどまで対峙していたリクオたちも、崩壊に巻き込まれまいとその場から離脱していた。

 リクオたちとの戦いに横槍を入れられたこと、御門院の陰陽師も特に残念がってはいなかったが、どうにも締まらない幕引きに自然とため息が溢れていく。

 

「さすがに……一筋縄じゃいかないか……裏切りの代償は体半分、強欲な親父だね……」

 

 圓潮も〈半分〉となった自身の体を引きずりながら、苦悶の表情を浮かべていた。

 そう、肉体全てを失うことは回避出来たが、結界が間に合わずに圓潮はその肉体の半分を失う結果となった。

 

 裏切ったことは後悔も反省もしてはいないが、まさかこのような手痛いしっぺ返しを喰うことになるとは。

 今回の奴良組との抗争、そのほとんどを圓潮に頼ってばかりだった脳・山ン本。

 組の頭としての威厳など全く感じられなかったが、腐っても〈魔王〉と呼ばれるだけのことはあった。

 

 

 その欲深さ、どこまでも貪欲に膨れ上がっていく怨恨だけは誰よりも強大な怪物である。

 

 

 

AM 5:45

 

 

 

「キャっ……!!」

「危ねぇ……気を付けろ!!」

「ここはもう駄目だ……早く脱出するぞ!!」

 

 突如として復活した、魔王・山ン本五郎左衛門にリクオたちも混乱の極みにあった。

 山ン本の肥大化していく巨体は地下の天井などあっという間にぶち破り、一気に地上へと浮上していく。ぶち破られた天井からは瓦礫が降り注ぐ。地下で生き埋めになるまいと、とりあえずの脱出を図る一同。

 

「圓潮っ……!!」

 

 その際、圓潮や御門院の陰陽師を取り逃がすことになってしまったことを、リクオは悔しそうに歯噛みする。出来ることならここで、少なくとも圓潮だけでも仕留めておきたいところ。

 しかし、今は彼らよりも暴走する山ン本五郎左衛門を止めるのが先だと。リクオはすぐに気持ちを切り替え、その視線を山ン本が浮上していった地上の方へと向けていく。

 

 

 

『恨めしや……ぬらぐみ……恨めしや……』

 

 地上へと浮上した山ン本はその口から奴良組への恨み言を呪詛のように呟き続けるが、足元にいるリクオたちには気付いていない。

 明確な目的地でもあるのか、どこかを目指すかのように進軍を開始していく。その進路上には当然東京の街が、そこに住む人間たちがいる。

 

「な、なんだぁ……あいつは?」

「でけぇ……救世主?」

 

 人々は突如として出現した山ン本を見上げながら、もしやあれが噂の〈救世主〉なのかと呟きを溢す。

 ネットの中を駆け巡る〈夜明けと共に現れ、奴良リクオを殺してくれる救世主〉の伝説は、リクオを擁護する人々がいるとしても、決してなくなりはしない。

 あれが噂の救い主かと、リクオ憎しと暴れ回っていた暴徒が山ン本の巨体を救いを求めるかのよう見上げるが——。

 

「ひぇっ!? な、何だよ……これ……!?」

「こ、こんなのが……こんなのが……救世主だってのかよ!?」

 

 山ン本の全貌を目の当たりにした人々、そのほとんどが顔面蒼白になっていく。

 

 魔王として蘇った山ン本五郎左衛門は、青行燈の残骸を器とし、頭部には肥大化した山ン本の脳が寄生するかのように引っ付いていた。

 その体には腕も足もなく、貪欲なまでに肥大化した図体だけで東京の街中を亡霊のように漂っていた。

 

 こんなもの救世主などではない、あってたまるかと誰の目にもそれが邪悪なものであることが明白だっただろう。

 

「あ、危ねぇっ!?」

「逃げろ……逃げろぉおぉお!!」

 

 事実、山ン本は人間を救済などしない。

 ひたすら目的地に向けて突き進んでいくその図体は、邪魔なビルなどの障害物を黙々と蹴散らし、街に甚大な被害をもたらしていく。

 建物の倒壊、それにより頭上から瓦礫が雨のように降り注いでいく。

 

「う、うわあああああああああ!?」

 

 当然、人々の中には逃げ遅れるものもいる。今まさに、瓦礫でペシャンコに潰されかける人間の断末魔が響き渡ろうとし——。

 

「——おおおおおおっ!!」

 

 間一髪というところで——奴良リクオが駆け付けてくる。

 暴走する山ン本を追いかけ、彼も地上へと飛び出していた。リクオは危機に晒される人々を放置することが出来ず、降り注ぐ瓦礫を一刀の元に切り捨てて人間たちを危機から救っていく。

 

「ぬ、奴良リクオだ……」

「こ、こいつを殺せば……って、それどころじゃねぇし!!」

 

 奴良リクオの姿に、いまだに圓潮の言霊に踊らされている人間たちが、彼へと殺気を向けようとするが、すぐに蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

 山ン本という巨大な厄災を前に、リクオを殺すどころではない。もはや人間たちもリクオの命を狙えるような状況ではなかった。

 

 

 

AM 6:00

 

 

 

「くっ……あのデカブツ!! 建物も人も関係なく進んで行きやがる!!」

 

 奴良リクオはこの戦いを終わらせるためにも、早く山ン本に追いつかなければならなかった。

 しかし建物などの障害物を全く意に介さず進み続ける山ン本の巨体と、人間たちに助け舟を出しながら進むリクオとでは歩幅に差があり過ぎ、なかなかどうしてすぐに追いつくことが出来ない。

 

「り、リクオ様、あいつの向かってる方角……浮世絵町の方では?」

「——!!」

 

 さらに、リクオと共に駆けつけてきたつららが気づいたことだが、山ン本五郎左衛門の進む方角には——浮世絵町がある。

 

 だとするならば、予想される山ン本の目的地は——奴良組本家。

 奴は憎しみに突き動かされるまま、リクオたちの帰る場所を根こそぎ潰そうとしているのではないか。急いで止めなければ、帰る家がなくなってしまう。

 

「リクオっ!! 何をモタモタしてやがんだ!!」

「つっても……こっちを放っておくわけにもっ……!!」

 

 イタクもリクオに早くしろと急かす。

 だが、山ン本が通った際に起きる被害から人間たちを放置することも出来ないと。リクオはその場で足を止め、瓦礫などから人々を守るために奮闘せざるを得ないでいた。

 

 

「——先に行ってください、三代目!!」

 

 

 だが、ここでリクオの窮地を救おうと集まってきたものたちがいた。

 

「ここは俺が引き受けます!!」

「猩影!!」

 

 まず駆けつけてきたのは、関東大猿会の二代目・猩影である。

 父たる狒々から受け継いだ能面を付け、ここ半年の間でさらに磨きを掛けた怪力で倒壊しそうになっていたビルそのものを支える。さらに降り注ぐ瓦礫を、猩影に随伴する組員たちが防いでいく。

 その光景を見れば、人々を守るという奴良組の方針。リクオの意思が組全体に反映していることが分かるだろう。

 

「三代目〜、こっちはオイラに任せといて〜!!」

「河童!! 助かるぜ!!」

 

 さらに燃え盛る建物に対して川や池の水を操作し、消火活動にあたっていたのは河童である。

 こんな状況下でも冷静に、マイペースに自分の出来ることをこなしていく彼の仕事ぶりにリクオの表情が安堵に包まれていく。

 

「リクオ様!!」

「黒羽丸!! トサカ丸!! ささ美!! 良いところに来たっ!!」

 

 そしてリクオの元へと颯爽と飛翔してくるのが、三羽鴉。三人とも今回の戦いでは連絡係として重要な役割を果たすことになった。

 電子機器の類が時折通信不能になる中においても、各地で奮闘する奴良組同士が連携を取れていたのは、ひとえに彼らのような情報伝達員がいればこそだ。

 

「みんなに伝えてくれ……ここが正念場だ、気を引き締めていけってな!!」

 

 裏から奴良組を支えてくれた三羽鴉たちに、リクオはこの戦いにおける最後の指令を下す。

 もうこれ以上、小難しい指示は必要ない。ここを乗り越えることが出来ればこの戦いも終わると、気合を入れるようにと声を掛けていく。

 

「「「はっ!!」」」

 

 そんなリクオの指示に力強く頷き、三羽鴉たちは自らの役目を果たすべく方々へと飛び去っていった。

 

 

 

「よし! ここはあいつらに任せても大丈夫そうだ……いくぞ、お前らっ!!」

「はいっ!! お供します、リクオ様!!」

「遅せぇよ……フン!!」

 

 そうして、信頼できる組員たちにその場を任せることで、リクオは先へ進むことが出来るようになった。つららやイタクも、リクオと共に先を急ぐ。

 

 もたついている間にだいぶ引き離されてしまったが、それでもまだ間に合う。

 あの怪物に、魔王・山ン本五郎左衛門の元に必ずこの刃を届かせると意気込みを入れ直し。

 

 

 自身の守るべき大切な故郷——浮世絵町を守るべく、東京の街中を颯爽と駆け抜けていく。

 

 

 

AM 6:40

 

 

 

「ん!? あ、ありゃ……何だ!?」

 

 空が白み始めた。夜明けまであと数十分、日が昇ればこの戦いにも決着が付くだろうと、完全に油断しきっていた奴良組の隙を突くかのように、その巨体は本家の目前まで迫っていた。

 

『うらめしや……ぬらぐみ……』

 

 魔王・山ン本五郎左衛門。

 憎き奴良組の総本山に辿り着きながらも、変わらず恨み言だけを吐き続ける怪物。

 

「のわあああああ!? 巨人じゃ!?」

「こっちに迫ってくるぞ!!」

 

 不気味なその巨体を前に、本家の警備についていた奴良組の妖怪たちが恐れ慄く。その異様な風体、膨れ上がる憎しみの畏を前に並の妖怪ではまともに抵抗する気力もなくしてしまうだろう。

 だが、逃げ惑う小さな妖怪たちなど全く気にも留めず、山ン本は体から触手らしきものを伸ばし、奴良組の本家へと襲い掛かった。

 

 

 

「——うわああああぁ!! 引っ張られるぅうう……痛い!! 痛いよぉお!!」

 

 そんな山ン本の襲撃にもっとも狼狽し、苦しみを露わにしていたのが——山ン本の面の皮・珠三郎であった。

 首無に敗れ、本家の幹部たちから袋叩きにされた彼だが、その命だけは奪われずに済んでいた。

 後で色々と尋問しようと、その身は本家の柱に括り付けられていたわけだが——。

 

「何だ……どうした、急に……」

「み、見てないで助けてくれよぉおおおお!!」

 

 珠三郎が呻き声を上げ始めたことに、事情を把握しきれていない首無は訝しんだ。

 彼は縄で縛られた珠三郎が逃げないようにと見張っていたわけだが、その珠三郎の肉体が——何かに吸い寄せられるかのよう、ぶちぶちと音を立てて引き裂かれていく。

 

「あ…………ああ、山ン本……さ……」

 

 その様は、まさに面の皮を剥がされるかのようであった。

 圓潮が親元である山ン本を裏切った事実を知らない珠三郎は、どうして自分がこんな目に遭わなければならないのかと。

 縋るように山ン本の名を口にしかけ——そのまま、息絶えていく。

 

 

 

『うらみ……ぬら組……』

「うぁああああ!! ほ、本家がっ!?」

 

 そうして、珠三郎を取り込んだことでさらに肥大化した山ン本五郎左衛門。奴はその勢いのまま、奴良組の本家へと覆いかぶさるように突っ込んでいく。

 外で警護に付いていた妖怪たちは、自分たちの総本山がまだ家にいたであろう重鎮たちごと押し潰されていく光景に唖然と立ち尽くすしかないでいた。

 

 しかし本家が潰されかけるその刹那、危機を察知して家の中から飛び出して来た影があった。

 

「てめぇら……狼狽えてんじゃねぇぞ!!」

「ご、御隠居……!!」

「ぬらりひょん様っ!!」

 

 ぬらりひょんだ。

 彼やそれに随伴する青田坊や木魚達磨が、両脇にリクオの友人たち——清継や巻、鳥居といった面々を抱え、崩れかける本家から脱出していた。

 よくよく見れば、他の重鎮たちも既に脱出している。この驚くべき事態にすぐにでも行動できる、その危機察知能力は流石の一言である。

 

 

 

 ——こいつぁ……鯉伴が倒した三百年前の……。

 

 ——まーた、地獄から蘇って来たんかい!!

 

 ぬらりひょんは奴良組の本家まで攻め込んできた怪物に、三百年前にも江戸を暴れまわった魔王・山ン本五郎左衛門の面影を見た。

 あのときとは若干形状こそ異なるものの、その禍々しい畏。奴良組憎しと暴れまわるその姿は、まさにあのときの山ン本そのものである。

 

「わああ……」

「な、なんじゃありゃ……」

 

 その山ン本の禍々しさに清継、巻や鳥居といった子供たちが恐怖から震え上がってしまっている。安全のためにと本家まで避難させていたわけだが、結果的に彼らを危険な目に遭わせることになってしまったようだ。

 

「キミらは達磨についててもらいなさい……テメェら!! たかが建物ぐらいでピーピー騒いでんじゃねぇぞ!!」

 

 ぬらりひょんは、とりあえず怯える子供たちに優しく声を掛けながらも、逃げ惑う組員たちに喝を入れていく。

 ぬらりひょんから言わせれば建物くらい、壊れてもまた建て直せば済む話。そんなことより、この怪物をいかにして食い止めるか、今はそれに注力するのみである。

 

 ——今のワシにはちと厳しい相手じゃが……何とかするしかないか……。

 

 ぬらりひょんは山ン本という巨大な敵を前に、一線を退いた自分では勝ち目がないことを悟る。

 だがやるしかないと、場合によっては——『本気』を出すことも念頭に入れ、一瞬その顔に覚悟を宿らせる。

 

「——退いてろ、爺!!」

「——むっ……」

 

 だが、山ン本相手に仕掛けようとしたぬらりひょんを制止し、その巨体に向かって斬り掛かるものがいた。

 上空より颯爽と飛来するその人影は——紛れもなくぬらりひょんの孫・奴良リクオその人であった。

 

 

 

「くそっ……この刀も、もう駄目だな……」

 

 リクオは先制の一撃で山ン本の巨体を怯ませつつ、そのまま半壊していた本家の屋上を足場として着地する。その際、自身が握る刀の刀身を見つめ、彼は己の不甲斐なさを嘆く。

 

 一晩中戦い続けた結果か、畏憑によって畏を纏った刀がボロボロになってしまっている。

 この刀も寿命だ。リクオがもっと畏を上手に纏わせていればこうはならなかったと、イタクであれば落第点を出しているところだろう。

 

「リクオ……どうやって倒す……」

 

 しかしリクオと共にここまで駆け抜けてきたイタクも、今になってそんな評価を下すことはない。今はただ目の前の怪物をどう倒すか、それだけに意識を集中させていく。

 

「もう小細工なんざ、必要ねぇぜ。奴は……図体ばかりデカいだけだ」

 

 もっとも、今のリクオに魔王・山ン本五郎左衛門という妖怪は、それほど強大な敵には見えていない。

 

「怨恨だけで動いちゃいるが……それに任せて暴れてるだけだ。それでどんなに膨れ上がろうが、なんの畏も感じねぇ……」

 

 確かに、見てくれだけでみれば青行燈よりも悍ましく、巨大な怪物に見えていただろう。

 しかしその身に宿るのは山ン本自身の『憎しみ』だけ。どんなに憎悪を募らせようと、所詮は独りぼっちの男が産み出すもの。

 東京都民一千万人の殺意によって起動した青行燈には遠く及ばない、比べるまでもない相手だ。

 

 

「——だったら力でねじ伏せる。真っ向から叩っ斬るまでだ」

 

 

 よって、このまま力のみで叩き伏せる。

 作戦も小細工も必要ないと声高らかに宣言する——奴良リクオ。

 

 

「————」

「————」

「————」

 

 

 リクオのその発言は、山ン本に恐れ慄いて逃げ惑う妖怪たち。震え上がるしかなかった清十字団の面々、その場に集まっていた全てのものの耳に鮮明に届いていた。

 彼らは一様に逃げるのをやめ、リクオに向かって歓喜の声援を送る。

 

「リクオ様!!」「リクオ様!!」

「奴良くん!!」「リクオ様!!」

 

 その歓声の中にちゃっかり清継も混じっていた。委縮して声こそ上げられていなかったが、巻や鳥居もこちらを見つめている。

 

「つらら」

「!!」

 

 そんな彼らの応援を背に、リクオはつららへと声を掛けた。

 自分がここにいるのだから、彼女も付いてきている筈。彼女が傍にいることが当然だとばかりに、彼は振り返りもせずに言葉を紡いでいく。

 

「人間の俺も……妖怪の俺も……信じてくれる奴らがいる」

 

 今回の百物語との抗争において、奴良リクオは世間にその正体をばらされてしまった。

 きっとこの戦いが終わったとしても、リクオの人間社会への復帰は厳しいものになるだろう。そのことに後悔がないと言えば嘘になるが、それでも、こうして信じてくれているものたちがいる。

 

 今のリクオには、それだけで十分だった。

 

「ええ……そうですとも!!」

 

 つららもまた、リクオを信じるものの一人だ。彼を想う気持ちであれば誰にも負けないと、そう自負するほどに。

 

「つらら、鬼纏うぞ」

「!!」

 

 そんなつららの想いに応えるかのよう、リクオは彼女に向かって手を差し出す。

 

 

「俺の……刃になれ!!」

 

 

 この大一番、最後の最後にリクオはつららとの鬼纏を選んだ。

 

 

「はいっ!!」

 

 

 つららの胸が高鳴る。

 彼の刃になれることにこれ以上ないほどの喜びを嚙みしめながら、自らの畏をリクオへと託していく。

 

 

「畏襲は初めてだな……つらら……」

 

 

 つららから流れてくる畏をしかと受け取る、リクオ。

 彼女との鬼纏そのものは初めてではないが、これまで彼女と行なってきたのは『畏砲』——畏を一気に解き放つタイプの業だ。

 此度の戦い、リクオ初めて『畏襲』にて、つららの畏をその身全体に羽織っていく。

 

 これぞ、もう一つの雪の下紅梅。

 まるで寒さから身を守るようにマフラーなどが巻かれるが、それとは正反対にリクオの血は熱く迸っていた。

 

 

 

AM 6:50

 

 

 

 ——っ!! 今……なんだ!?

 

 ——リクオ様の背が……鯉伴様に重なって……見えた。

 

 リクオたちより少し遅れて本家へと到着した黒田坊は、リクオとつららの鬼纏・畏襲をする後ろ姿に一瞬、奴良鯉伴の姿を垣間見た。

 

 首元にマフラー、履き物はわらぐつと。雪女との鬼纏なだけあってか寒冷地のような装備。鯉伴が過去に雪女との鬼纏をしたことはなく、それはあくまでリクオだからこその畏襲姿であったが、やはりどこか鯉伴の面影を見てしまう。

 

 ——そうか……リクオ様も、とうとうあの方と肩を並べられた。

 

 ——本当に……子供の成長とは早いものだ……。

 

 その理由として、黒田坊はなるほどと一人納得する。

 リクオは奴良鯉伴、今は亡き父親と同じ場所に立つようになったのだ。こんなときでありながらも、黒田坊はリクオの成長に感じ入ってしまっている。

 

 ——鯉伴……思い出すな、お前と盃を交わした……あのときのことを……。

 

 ふと、黒田坊の脳裏に思い浮かぶ。

 初めて鯉伴と盃を交わし——そのまま鬼纏にて互いの畏を重ね合わせた、あの日のことが。

 

 

 

三百年前

 

 

 

『——黒田坊。一目見たときから、俺はお前のこと……強えと思ってたんだぜ……』

『——!!』

 

 そこは、異境の淵。

 星さえも見えない夜空、泉の上に浮かぶ小島に何故か桜の木が一本、光り輝くように咲き誇っているという、とても奇妙な場所だった。

 

 どうやらそこは奴良鯉伴という男の心の中、心象風景とでも呼ぶべき場所だったようだ。

 自らの懐へと無防備に他人である黒田坊を招き寄せ、彼は『強さ』について語っていく。

 

『俺の見る目は間違っちゃいなかった……お前は子供を守る強ぇ妖だった。だから、どうしても仲間にしてぇんだ……』

 

 最初、黒田坊は山ン本五郎左衛門の命を受けて鯉伴の命を奪いに来た『刺客』として彼の前に現れた。

 しかし、それは山ン本に操られて我を失っていたためであり、本来の黒田坊とは『子供を守る妖怪』。戦や飢饉で孤児となった子供たちの『救われたい』と願う一心によって産み出された妖怪だった。

 

 山ン本に操られてその本文を忘れていた黒田坊であったが、子供たちが自分を呼ぶ声『助けて、黒田坊!!』という叫びに、本来の己を取り戻したのである。

 

『俺は江戸を守りてぇ……思いは同じだ。他の奴らもそうさ』

 

 そんな黒田坊だからこそ、鯉伴は彼を自分の百鬼に加えたいと思うのだ。

 

『大事なもんの……仲間のために命を張れる。そういう奴らさ。奴良組は強がりじゃねぇ……本当の強さを持った任侠集団。俺は自分の百鬼夜行をそう自負している』

 

 首無も、毛倡妓も、青田坊も、河童も。

 彼が仲間にしたいと思った連中は皆そうだ。誰もが強がりではない、本当の強さを背負っている。

 

『そこにお前を加えてぇ……!! 黒田坊、改めてお願いする!!』

 

 黒田坊もまた、そういった強さを背負っているものの一人だと。彼と同じものを背負いたいと、鯉伴は黒田坊へと盃を突き出していた。

 

『この盃を受けろ!! 奴を……山ン本を倒すために!!』

『…………』

 

 盃を交わす、その意味を当然黒田坊も知っていた。

 黒田坊を刃とすることで山ン本——魔王と化したあの怪物を倒し、この江戸を守りたいという鯉伴の思いにも触れた。

 

『強引な奴め……』

 

 黒田坊は鯉伴の真っ直ぐで、なんとも自分勝手な口説き文句にやれやれとため息を溢す。しかしそんな彼の言葉に惹かれるものを感じたのも事実。

 

 だからこそ——その盃を受けることにした。

 

『幾千万の刃は……全て子供の願いが産んだもの。貴様の言葉が真実と違えば、その刃で貴様の首をハネさせてもらうぞ』

 

 五分五分の盃を交わしながら、黒田坊は鯉伴へと釘を刺すように告げる。

 子供の願いから生まれた黒田坊の振るう刃は、全て子供たちのためにあるといっても過言ではない。

 江戸を守りたいと思う鯉伴の気持ちに嘘偽りはないと感じたが、万が一にでも子供たちの思いが蔑ろにされるようなことがあれば。

 黒田坊は再び、奴良鯉伴の命を容赦なく狙うことになるだろう。

 

『後悔はさせねぇ』

 

 もっとも、そんな物騒な黒田坊の言葉に鯉伴はまるで動じない。

 決して黒田坊を失望させることにはならないだろうと、それを確信するかのよう躊躇いなく盃を酌み交わしていった。

 

 

 

AM 6:55

 

 

 

 ——ああ、そうだな……鯉伴。確かに後悔はない!!

 

 ——リクオ様のあの姿を見れば……後悔など、感じる筈もない!!

 

 一時、鯉伴との思い出に浸りながらも黒田坊は今を、目の前にいるリクオを見つめる。

 

 かつてより巨大に膨れ上がった魔王・山ン本五郎左衛門は、黒田坊から見ても困難な敵だと感じた。

 それこそ三百年前のように、鯉伴と黒田坊が互いに畏を重ね合わせなければ倒せないだろうと。彼もそのつもりでリクオの元へと駆けつけようとしていた。

 

 だがリクオは自分ではなく、つららといった。妖怪として比較的若い彼女と畏を重ね合わせ、山ン本へと立ち向かっていく。

 次世代を背負っていく、若い世代の活躍に黒田坊は未来への希望を垣間見た気がする。

 

 もしかしたら、自分たちの過保護な助けなどリクオには必要ないのかもしれない。

 それでも、これからも黒田坊は仲間たち共にリクオと奴良組を支え続けていくだろう。

 

 それが、今は亡き奴良鯉伴の思いに応えることになると信じて——。

 

 

 

『ガッ……』

 

 つららとの鬼纏故か、リクオが一太刀、また一太刀と斬撃を浴びせる度に山ン本の巨体が凍りついていく。

 リクオが見抜いた通り、今の山ン本は図体がデカいだけの木偶の坊だ。憎しみの念でどれだけ膨れ上がろうとも、所詮は自暴自棄に暴れ回る、ただの『強がり』に過ぎない。

 

 何一つ背負うことのないそんな強がり、多くのものを背負って戦うリクオが負ける道理など何一つなかったのだ。

 

「山ン本……怨恨なんざに引きずられ、おめおめ戻って来やがって……だが、それもこれで終いだ」

 

 リクオは懲りずに地獄から舞い戻って来た山ン本に呆れ半分、感心半分で呟く。

 なんとしても自分たちに恨みを晴らさなければという、その執念は率直に大したものだと思うが、それで大勢の無関係な人間を巻き込むなど決して許されることではない。

 

 既に怨恨に引きずられるあまり、正気など微塵も残っていないであろう愚かで哀れな怪物へと、リクオは真正面から引導を渡す。

 

 

「とっとと……地獄に帰りやがれぇ!!」

『ブォオオオオオオオオオオ!!』

 

 

 最後まで必死の抵抗を続ける山ン本ではあったが、その足掻きすらも文字通り一刀両断していく。

 

 

『————!!』

 

 

 つららとの畏を纏った、奴良リクオの渾身の一撃が——山ン本の巨体を真っ二つに引き裂き、その怨恨ごと粉々に打ち砕いたのであった。

 

 

 

AM 7:00

 

 

 

 リクオとつららの特大の一撃、雪の下紅梅によって山ン本の肉体は氷漬けになって砕け、その肉片が氷の礫や氷塊となって周囲へと降り注ぐ。

 あれだけの巨体なだけあって、破片が飛び散るだけでも結構な威力だ。もしもそれを放置していたのなら、それなりの被害を奴良組本家にもたらしていたかもしれない。

 

「フン……!!」

「オラっ!!」

 

 もっとも、その程度はあらかじめ予測していたのか。飛び散る氷の礫をイタクが弾き飛ばし、大きめな氷塊は本家の守りに残っていた青田坊が殴り砕く。

 大将の尻拭いをするのも自分たちの役目だとばかりに。イタクはそれを不満そうに、青田坊は誇らしそうにアフターケアを万全にこなしていく。

 

 こうして、魔王・山ン本五郎左衛門は再び地獄へと帰っていた。まさにそのタイミングだ。昇る太陽が夜明けの訪れを報せる。

 

 その際、小さな氷の結晶が日の光を反射して輝きを放つ。

 それは、まさにダイヤモンドダストと呼ばれる現象を見ているような神秘的な光景だ。その光景の中で——奴良リクオは不敵に笑う。

 

 

「——お前ら、無事だったかい」

 

 

 リクオは守ると決めたものたち、その全てへと声を掛ける。

 彼の言葉に時が止まっていたように静まり返っていたその場が——瞬間、歓声によって埋め尽くされていく。

 

「り、リクオ様ぁああああああ!!」

「そっちこそ、ご無事ですか、ですよい!!」

「うおおおおおお!! リクオ様が、山ン本を倒したぁああああ!!」

 

 奴良組の妖怪たちは感動に打ち震えるように雄叫びを上げ、奴良リクオへと駆け寄っていく。

 自分たちの大将が、敵の親玉を見事に打ち砕いたのだ。彼の配下として、その現場に立ち会えた喜びは何物にも代え難いものであった。

 

「おい、テメェら!! 今夜は宴だ!!」

「えっ、なんで?」

「主が命狙われたけど、無事帰って来た記念じゃねぇか!!」

「飲みたいだけだろ!!」

 

 その喜びの勢いにかこつけ、さっそく飲みに走ろうとする小妖怪たちがいた。

 納豆小僧を始めとする、飲んだくれるのが大好きな江戸妖怪だ。戦いそのものが終わっても、事後処理などが残っているだろうに。奴良組の妖怪らしい陽気さ、調子の良さである。

 

「待て待て、テメェら……ちょっと通してやってくんな……」

 

 そんな興奮する配下の妖怪たちを宥めつつ、リクオは彼らに道を開けるように言った。

 リクオの元には大勢の妖怪たちが集まってくれているが、妖怪ではない『少年少女たち』はどこか居心地悪そうに、リクオに駆け寄れないでいた。

 

「……すご……あんなの倒しちゃった……」

「……あれが……本当に奴良なの?」

 

 鳥居と巻の二人。

 つい数時間前にリクオのことを知った彼女たちは、いまだに目の前に立っている夜の姿のリクオと、昼のリクオの姿とを同一人物なのだと、信じられない気持ちで唖然としている。

 

「無事だったか、みんな……」

 

 だが戸惑う彼女たちにも、リクオは遠慮なく声を掛ける。

 たとえ彼女たちにとって見慣れぬ姿であろうと、リクオにとって二人が大切な友人であることに変わりはない。

 リクオは彼女たちが無事で良かったと、心からの笑みを浮かべる。

 

「お、おう……まあ……おかげさまで……」

「あ、ありがとね……奴良くん……」

 

 しかし、やはりなかなか慣れないようで。リクオの安堵する表情にも巻たちは困惑したまま。

 

「ふっ……よお、清継!!」

 

 そんな彼女たちの態度に苦笑しながらも、リクオはもう一人の方へと目を向けていく。

 

「うっ!? ぬ、主……奴良くん……」

 

 ずっと妖怪の主を憧れの相手として追いかけ続けて来た、清十字清継だ。

 ようやく巡り会えたその相手から直々に名前を呼ばれたのだ。もっと喜びはしゃいでもよさそうものだが、その態度はどこかよそよそしい、大人しいものであった。

 

「おいおい、どうしたんだ清継……いつものノリはどこいっちまったんだよ?」

 

 そんな彼をらしくないと、からかい混じりにリクオが声を掛ける。そんな彼からの呼び掛けにも、清継は表情を曇らせたままだ。

 

「いや、僕なんて……全然役に立ってないし……結局、噂を信じた人たちを元に戻せなくて……」

 

 清継はリクオのため。彼の誤解を解こうと、ずっとノートパソコンと向き合っていた。

 リクオが命懸けで百物語の妖怪と戦い、人間たちを助けている動画をネット内に拡散し、一人でも多くの人々に本当の彼を知ってもらおうと奮闘していたのだ。

 しかしその努力が効果を発揮したと、堂々と言えるような状況ではなく。少なくとも清継自身は何も出来なかったと、リクオに対して顔向けできないでいた。

 

「何言ってんだよ、清継……お前が誰よりも頑張ってたのは……私らが見てたって……」

「そうそう……学校に残ってるみんなにも協力してもらったりしてさ……」

 

 しかし、彼の活躍を隣で見ていた巻と鳥居は清継が何も出来なかったとは思わない。

 

 実際、清継たちは知らないだろうが——リクオと青行燈の戦いの最中、あの巨大兵器が唐突に動きを止めたのは、一部の人々がリクオを信じよう、信じてみたいと思ったからこそだ。

 そして人々がそう思うようになった、その最初のきっかけを作ったのが清継だったことは間違いないだろう。

 

 彼の勇気ある行動がなければ、人々への呼び掛けがなければ、あの瞬間は訪れなかった筈なのだから。

 

「まったく、清継らしくねぇな……しっかりしろって!!」

 

 もっとも、その事実をリクオも清継もまだ知らない。

 それでも、リクオは清継の努力を労い、その肩を叩きながら自信満々に言ってのける。

 

 

「畏を失ったんなら、取り戻しゃあいいだけだろ……俺は妖怪の主だぜ?」

 

 

 決して『強がり』などではない、本当の『強さ』を秘めた笑顔を浮かべなから。

 

 

「は……はい!!」

 

 

 その笑顔こそ、清継にとって何よりの報酬だった。ずっと追いかけ続けた憧れの人が、自分に向かって朗らかに笑い掛けてくれる。

 

 それだけで全ての苦労が報われたと、感涙に咽び泣く清十字清継であった。

 

 

 

 

 

「——っ!!」

 

 ところが、リクオがそのように笑みを浮かべた瞬間、彼の全身からガクッと力が抜け落ちていく。抗いがたい疲労感に、彼の体が前のめりに倒れ込んでしまった。

 

 ——くそ……完全に、日が昇っちまったのか……!!

 

 リクオはそれが朝が来たから——自分が妖怪でいられる時間が過ぎ去ってしまったことで、昼の姿に戻ってしまうのだと瞬時に悟る。

 そして人間時の肉体は妖怪時より頑丈ではないためか。疲労や怪我から少しでも体を回復させようと、リクオの意思とは関係なく肉体が彼の意識を強制的に眠りにつかせようとする。

 

「り、リクオ様!?」

「わぁ!? 奴良に戻った!?」

「ぜ、鴆さまを!! 急いで本家に呼び戻せ!!」

 

 いつも学校で見る姿へと戻っていくリクオに巻たちが度肝を抜かれ、自分たちの主が倒れたことで妖怪たちも彼を早く手当しなければと、その場が途端に慌ただしくなっていく。

 

 

 

 

 

 ——ちょっ……待ってくれ……まだやんなきゃいけねぇ……ことが……。

 

 ——会いにいかなきゃならねぇ……人がいるんだ……。

 

 薄れゆく意識の中、リクオは倒れる前にやらなくてはならない。

 会いにいかなければならない相手として——その脳裏に一人の少女を思い浮かべる。

 

 家長カナ。

 

 今回の戦いで負傷したという幼馴染の少女。

 既に彼女が無事であるという報告はリクオの耳にも届いていたが、それだけでは完全に安心しきれない。

 

 せめて彼女の無事な姿を一目だけでもと、なんとか踏ん張ろうとするリクオ。

 しかし、今の彼には立ち上がる気力すら残されておらず。

 

 

 ——カナ……ちゃん……どうか、無事でいてくれよ……。

 

 

 幼馴染の無事を強く願いながら、その意識を深い眠りの中へと落としていくしかなかった。

 




補足説明

 雪の下紅梅・畏襲バージョン
  つららの畏を羽織るように纏ったリクオの姿。
  マフラーはヒーローの証と、誰かが言っていた気がする……。

 
 次回仮タイトルは『事後処理』。
 とりあえず、日常的な話を挟みつつ……今後の伏線などを張っておきたいと思います。
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