家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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この辺りはまだ原作の流れどおりですね……。
ちょっと小説らしくリクオの心情などを書き記してみましたが……
とりあえず、次回くらいから二次創作らしい展開に持っていきますのでご容赦下さい。


第十二幕 不穏を呼び込む報せ

 ――いったい、誰が狒々をあんな目に……。

 

 放課後。浮世絵中学校の廊下を奴良リクオはうつむいたまま歩いていた。狒々が何者かに殺されたと一報を聞いてからというもの、彼の気持ちはずっと沈んだままだ。

 

 先日の牛鬼の謀反の一件。あの一件にて、リクオは牛鬼の胸の内をしかと聞き届けた。彼が奴良組をどれだけ愛しているか。家族としてその危機にどれだけ胸を痛めていたか。

 その危機を脱するために、彼は自身の命すらを顧みずに行動を起こしたのだ。奴良リクオという器を見定めるために。そんな牛鬼の決意に、リクオも覚悟を決めた。

 夜の妖怪としてのリクオが、その場の勢い、妖怪としての血の熱さに身を任せるような刹那的な思考ではなく。

 昼の人間としてのリクオが、しっかりと自分の意志で考え、熟考し、そして決意したのだ。

 

 ――『いつまでも、目を閉じてはいられない』

 

 怖いけれども、平和なただの人間として生きたいけれども。

 それでも大切な仲間が、家族が、この奴良組にいるのだ。

 ならばこの妖怪の血に頼ってでも、自分がやらねばならない。自分が皆を守れる、立派な大将にならなくてはならない。だからこそ、彼は奴良組三代目の座を継ぐことを決意したのだ。

 

 

 しかし――その矢先。リクオはかけがえのない家族を一人、失うことになった。

 

 

 ――狒々……もっとちゃんと話をしておきたかった……。

 

 半妖のリクオを快く思わない古株の妖怪たちが多い中で、狒々はそれなりにリクオに理解を示してくれる幹部の一人だった。

 それは狒々自身が猩影(しょうえい)という、人間の女性との間にもうけた、リクオと同じ半妖の息子がいるからだろう。

 そのためか、彼はちょくちょくリクオのことを気にかけてくれた。

 

『そうしていると、ただの子供じゃな……』

「――っ!」

 

 彼が最後に自分にかけてくれた言葉を思い出し、リクオの胸がズキリと痛んだ。

 大切な家族との死別。まだ十二歳の彼にとって、そう簡単に折り合いを付けられるものでもないだろう。

 

「――リクオくん!!」

 

 だが、そんな落ち込むリクオに向かって、元気よく声をかけてくれる人がいた。

 幼馴染の家長カナである。

 

「部活始まるよ、早く行こう!」

「あっ……う、うん」

 

 彼女はいつものように笑顔で手を振りながら、リクオへと駆け寄ってくる。

 リクオと歩幅を合わせ、清十字怪奇探偵団が待つ教室へと、一緒についてきてくれる。

 

「リクオくん。この間はありがとう、誕生日プレゼント。今度は私が何かリクオくんにプレゼントしてあげなくちゃね。何がいいかな……」

「……そんな、気にしなくてもいいから……」

 

 隣を寄り添いながら、カナは先日の誕生日の一件の礼を口にしていた。今度はリクオの誕生日に何かお返ししなければと彼女は思案している。

 リクオの誕生日。それは彼が妖怪としての成人である十三歳になる日であり、彼が跡目候補から正式に奴良組の三代目を継ぐ記念すべき日でもある。

 だが正直、今のリクオにそんな情報は入ってこない。彼は大切な家族の死に、ただただ心を痛めており、カナの言葉にも生返事で答えてしまう。

 カナは、そんなリクオの態度に腹を立てるでもなく、悲しみでもなく。心配そうに彼の顔を覗き込んでいた。

 

「リクオくん……今日なんか変だよ? 授業中もボーっとしてたし、ちっとも笑わないし。何かあったの?」

「別に、何も……昨日あんまり寝てないから、そのせいだよ……」

 

 しかし、そんなカナの気遣いにリクオはその場しのぎの誤魔化しを口にする。

 妖怪世界の事情をカナに言える訳もなく、しかしだからといって、今のリクオに彼女の気遣いに気の利いた言葉を返す余裕もない。

 リクオのそんな態度に、一瞬カナは悲しそうな表情をしたが、すぐに表情を真剣なものに戻し、彼へと語りかけていた。

 

「そっか……それならいいだけど。いつも元気なリクオくんが落ち込んでいると、なんか心配で……」

「――!」

 

 カナの言葉にリクオはハッとなる。

 

 ――そっか……ボクが落ち込んでも、皆を不安にするだけ。こういうときこそ、ボクが、三代目候補のボクが元気でいないといけないんだ!

 

 リクオは今朝。学校に行く前に家の妖怪たちと顔を合わせたときのことを思い出す。

 皆、リクオに対してどこかよそよそしい態度で接していたが、それは他でもないリクオ自身がそうさせていたのだ。狒々を失くした悲しみで暮れるリクオに気を遣い、どう踏み込むべきかと彼らの頭を悩ませてしまっていたのだろう。

 だが、それでは駄目だ。仮にも自分は三代目候補。皆の規範となって、皆を引っ張っていかなければならない。

 いつまでも落ち込んでいる様子など見せては、皆に示しがつかない。

 

「リクオくん?」

 

 そのように考え込むリクオに、またカナは彼の顔を覗き込む。そんな不安がる彼女に、今度はリクオも笑顔で応えることができていた。

 

「カナちゃん、ありがとう、心配してくれて。でも、もう大丈夫だよ」

「……うん、そうみたいだね!」

 

 上っ面の空元気ではない。本当に気持ちを持ち直したリクオへ、カナもまた笑顔で喜んだ。

 

 

 

 そうこうしている内、二人は目的地へ辿り着く。

 決まった部室のない(もとより部活動として認可されていない)清十字団は、いつものように空き教室を利用して活動していた。

 

「ほら、凛子先輩! ここのステップはこうですよ、こう!」

「ええと、こうかしら? なんだかちょっと、恥ずかしいわ……」

「何言ってるんですか。恥ずかしがってたら、妖怪から逃げられませんよ? 私らみたいに全裸で襲われることになりますよ、いいんですか!?」

「ぜ、全裸は……ちょっと困るわね……」

 

 机や椅子を片付けた広々としたスペース内で、巻と鳥居の二人がゆらから習った禹歩を、先日入部したばかりの凛子にも伝授していた。講師であるゆらがお休みのため、どこか本来の禹歩とかけ離れているように見えるが、実に楽しそうに、三人の少女は和気藹々と不思議なステップを踊る。

 そんな彼女たちの輪と少し離れたところで、団長の清継が何やらノートパソコンで作業をしている。

 

「よし、出来た! ふふふ、みんな驚くなよ」

 

 自信満々の笑みを浮かべながら、側にいたリクオ、カナ、つららの三人に声をかけた。

 ちなみに島はサッカー部の方に顔を出しているため、今日もお休みである。

 

「清継くん。また何か作ったの?」

 

 普段の調子を取り戻したリクオが清継の呼びかけに応じ、彼のノートパソコンを覗き込む。

 すると、そこには日本地図に何かのグラフを重ねた画像が映し出されていた。バッと見、天気予報などで降雨量を表すような棒グラフにも見えるが。

 疑問の表情をする一同に向かって、清継は得意げに語って聞かせる。

 

「ふふふ、ただの日本地図に見えるかい? ノンノンノン! これは全国の妖怪分布図だ。化原先生との共作で作った。二人で文献を調べたりして得た情報を元に、妖怪の出没地域をデータ化したものだ」

「へぇ……本当、清継くんて妖怪が好きなんだな……」

 

 捻眼山で遭遇したあの怪しい作家と未だに接点を持っていたことに驚きつつ、リクオは清継の底知れぬ妖怪愛に心の底から敬意を抱く。いったい、何がここまで彼を駆り立てるのか、長い付き合いながら未だに理解できない部分も多い。

 

「こうして見ると西の方に多いんですね、特に京都とか、四国とか……」

「本当だ……なんか、意外だな」

 

 雪女のつららがそう呟くように、棒グラフの妖怪出没地域は西の方に手中している。

 特に京都と四国。京都に妖怪の目撃情報が多いのはまだリクオにも理解できた。京都には西方最大勢力の京妖怪たちが集っていると、カラス天狗や木魚達磨が口にしていたのを耳にした記憶があるからだ。

 しかし、四国もまた、京都に負けず劣らず妖怪の目撃情報が多いように見受けられる。あまり話を聞いたことがないだけに、リクオにはそれが意外なことのように思えてしまう。

 すると、つららとリクオの疑問に答えるように清継は得意げに答える。

 

「そう! 人口や歴史を考えても四国は妖怪の多発出現地域だ。まさに、妖怪王国の一つと言えよう」

「ふ~ん……」

「なんだ? また清継何か作ってんの?」

「何それ? 棒グラフ?」

 

 そんな自慢げな様子の清継の話に禹歩の稽古を一時中断して、巻と鳥居、凛子の三人も彼の周りに集まってくる。皆で清継のノートパソコンを覗き込みながら、ワイワイと騒ぐ清十字団の面々。

 

 ――うん、やっぱりいいな……こういう日常も……。

 

 そんなメンバーの様子を少し離れたところで眺めながら、リクオは一人微笑みを溢す。

 三代目として組を支えると誓った今でも、こういう何気ない日常がリクオが大好きだった。自分が守るべき日常がここにもあることを再確認し、その平穏に今は心を預けるリクオ。

 だが――そんな彼の平穏に水を差すように、忙しない羽ばたき音がリクオの耳に届いてきた。

 

「――総大将ぉ~~!! どこですかぁ~~!!」

「カラス天狗!?」

 

 その聞き覚えのある声に、窓を覗き込むリクオ。彼の視界、学校の上空を黒い影――カラス天狗が猛スピードで飛翔している。人間では視認不可能な速度だが、リクオの常人離れした視力はばっちりと彼の焦る表情を捉えていた。

 

「若……」

 

 同じものがつららには見えていたのだろう、深刻そうな顔つきでリクオの隣に寄り添ってくる。

 

「組に、また何かあったのかな……行ってみよう!」

「はい!」

 

 鬼気迫るカラス天狗の様子に、胸騒ぎを覚えたリクオ。飛び去っていく彼の後を追いかけることにした。

 隣のつららに声をかけ、血相変えて教室を飛び出していく二人に清十字団の面々が不思議そうに見送るのも構わず、リクオたち駆け出していく。

 その間、リクオは思わず心中で疑問を抱かずにはいられなかった。

 

 ――いったい、何が起ころうとしてるんだ?

 

 

 

×

 

 

 

 カラス天狗が行方を晦ましたぬらりひょんを捜して、四方八方を飛び回っていたまさにその頃。ぬらりひょんは謎の妖怪の襲撃に遭っていた。

 

「なんじゃ、あの男? 風を操る妖怪『かまいたち』か?」

 

 陰陽師である花開院ゆらと公園で談笑中のことだった。なにやら懐で彼に付き添ってきた納豆小僧が冷や汗を流していたが、それにも構わず彼はこの陰陽少女との会話を楽しんでいた。だがその最中、そんな二人の話に割って入るように、その敵はこちらへと襲い掛かってきた。

 

 しかし、突然の襲撃にもかかわらず、ぬらりひょんは落ち着いた様子で目の前の状況を分析する。

 自分に対して殺気をみなぎらせて近寄ってくる五人組みの男たち。男たちは皆、一様に黒いスーツに身を包んでおり、昔興味本意で見た外国映画に出てくるマフィアの構成員のような出で立ちをしていた。

 

「妖怪に詳しいんやな、おじーちゃん?」

「うん? まあのう……」

 

 自分の呟きが聞こえたのか、ゆらは不思議そうにぬらりひょんの方を振り返るも、すぐに視線を男たちに戻す。

 

「でも、多分……あいつは『かまいたち』ちゃうよ」

「ほう……」

「何かの文献で見たことある。ヒュン、ヒュルルンと、鞭のような音を出す風妖怪。その風の鞭は猛毒を含み傷を負った者を死にいたらしめる。――四国の怪異妖怪『ムチ』や!」

 

 ――なるほど、四国の妖怪ね……。

 

 ゆらの言葉に何か思い当たる節があるのか、ぬらりひょんは口元をかすかに歪め、そして悟る。

 先ほどの公園のブランコを真っ二つに裂いた風の刃。その手口、切り口は、狒々の死体を調べた三羽鴉たちの報告に一致する。

 間違いなく狒々を殺した下手人はこいつらだろうと、ぬらりひょんは目を細めて彼らを見据える。

 

 だが、ぬらりひょんの冷めた眼差しに気づいた様子もなく。男たちの真ん中に立っていた黒帽子に黒サングラスという、一際危ない雰囲気を醸し出しているリーダー格の男――ムチが腕をしならせる。

 再び突風が生まれ、風が鞭となって二人へと襲い掛かった。

 

「おじーちゃん、にげて!!」

 

 ゆらがぬらりひょんを背に庇いながら、素早く財布から何枚もの護符を取り出す。取り出した護符は空中に展開され、壁のように敵の攻撃を阻止し、風の軌道を後方へと逸らす。

 だが、はじかれた風の衝撃が後方のビルの窓ガラスを割り、ガラスの破片のシャワーが頭上から二人の元へと降り注いだ。

 

「!? いたっ!」

「あ、大丈夫!? おじーちゃん!!」

 

 チックとする痛みにおもわず頭を抑えるぬらりひょん。そんな痛みに気をとられた一瞬、男たちから意識を外してしまい、再び視線を向けるとムチが一人だけで、その場に立っていた。

 

「し、しまった!」

 

 ゆらが慌てた様子で周りに視線を向ける。いつの間にか、他の男たちが二人を取り囲むような形で陣を取っていた。

 

「ふふふ! 『風の陣形・砂打ちの鞭』!」

 

 ムチの掛け声とともに、男たちも腕をしならせ風を巻き起こす。複数の風の鞭が二人に襲いかかり、風圧によって舞いあがった小石がぬらりひょんへと飛んできた。

 

「む……」

 

 ぬらりひょんは飛んできた小石を避けようとするが、

 

「おじーちゃん!!」

 

 それよりも先に、ゆらがその身を盾にして小石からぬらりひょんを守る。

 

「おい、ワシのことはほっとけ」

「そうはいかん!!」

 

 彼女にとって今の自分は無力な一般人、必死になって守るその姿に敬意を感じたがこのままでは共倒れである。

 どうやら、そのように考えたのは彼女も同じらしい。

 

「おじいちゃん これに捕まって! 禄存!!」

 

 ゆらの呼び声と共に、巨大な鹿がその場に顕現する。

  

 ――式神!?

「ひぇぇぇ!?」

 

 ゆらの呼び出した式神の背にぬらりひょんが乗せられ、その式神の存在感に圧倒されたぬらりひょんの荷物の中に混じっていた納豆小僧が小さく悲鳴をあげる。

 そしてそのまま、ぬらりひょんを乗せ、禄存が上空へと避難して行く。

 

「追え!!」

 

 ムチが焦った様子で部下に指示を出す。男たちは全員で風を巻き起こし、上空へと駆けていく禄存に攻撃を加えるが、ムチたちの攻撃の射程外に出たらしい。彼らの繰り出した風の鞭は空しく空を切った。

 ビルの屋上まで逃れたぬらりひょん。禄存から降り、眼下に向かって彼は叫ぶ。

 

「おーい、ありがとうよ! 花開院の――」

 

 その行為に礼を言おうしたぬらりひょんだったが、ビルの上から見えたその光景に思わず絶句する。

 既にゆらは満身創痍と言った具合に疲労していた。服もあちこちが切り裂かれており、苦しそうに息を吐いている。

 

「総大将!!」

 

 ゆらの状態に納豆小僧も悲鳴を上げる。

 

「いかに花開院の血筋といえども……これ以上は無理じゃ」

 

 だが、ボロボロのゆらに対して、ムチたちは容赦なく攻撃を加える。こちらを追う前に彼女を始末するつもりでいるようだ。

 

「ワシなんぞのために、式神を使うからじゃぞ……」

 

 ぬらりひょんは花開院の人間を決して低くは見ていない。むしろ人間として、陰陽師として高く評価しているつもりだ。しかし、いくらどんなに高名な陰陽師でも、式神がなければどうにもならない。

 彼女はその式神を、自分を助けるために使ってしまった。

 

 ――仕方ないのう。

 

 ぬらりひょんはビルから飛び出そうと、一歩前に出る。

 

「駄目です総大将!! 正体をばらすわけには――」

 

 納豆小僧が必死に自分を止めるが、既にぬらりひょんは彼女に加勢しに行くことを決めていた。

 

 正直、人間の一人や二人どうなろうと知ったことではないのだが、あの妖怪たちの狙いは自分だ。自分のせいで巻き込まれた彼女をこのまま見捨てておくのは、どうにも目覚めが悪い。

 また、ゆらは孫であるリクオの友達でもある。見捨てたなどと知れたら、どんな小言を言われるかわかったものではない。

 だが、さらに一歩前に踏み出し、ぬらりひょんがビルから飛び降りようした直後――

 

 ゆらを中心に爆発が発生し、その爆風ですべての風を打ち消された。 

 

『!?』

 

 爆風によって生まれた煙が、ゆらの姿を覆い隠す。

 突如として発生した不可解な現象に、ぬらりひょんとムチの動きが止まる。

 そして煙が晴れる同時に姿を現した『それ』を見て――全員の表情が驚愕に染まる。

 

 ゆらの背後に巨大な狼と、落ち武者の式神が顕現していたのだ。

 

 ――式神を、三体!?

 

「まさか、式神をあの歳で三体も出すとは! 信じられん、すごい才能じゃ!!」 

 

 ぬらりひょんが知る限り、普通の陰陽師が一度に使役できる式神の数は一体、多くて二体までだ。

 しかし、あの年端もいかぬ少女は一度に三体もの式神を使役している。

 それは過去400年前に出会った、あの男に匹敵する才能だ。

 

 ぬらりひょんが感嘆している間にも、巨大な狼が男を一匹食い殺した。

 男たちが動揺する隙を突くように、ゆらはさらなる護符を取り出し金魚の式神が顕現させた。

 

 ――四体!?

 

 まさかの四体目の出現にさらに驚愕するぬらりひょん。

 

 ――花開院、ゆらか……。

 

 先ほどまで、彼女のことを只の子供だと思っていたぬらりひょんだったが、心の中でゆらの評価を改めた。

 その才能にその実力に、どこか頼もしい思いを感じながら。

 

 

 

 

 

 このとき、ゆらは気づかなかった。襲撃者の男たちに集中するあまりに。

 男たちは気づかなかった、ゆらの突然の攻勢に驚くあまりに。

 そして、ビルの上から公園を見下ろしていた、ぬらりひょんですら気づかなかった。

 

 ゆらと男たちが交戦を続ける公園内。

 少し離れた先のベンチで、先ほどからずっと寝っころがっていた少年が、ゆっくりと起き上がっていたことに。

 

 少年の纏っている空気が怒気をはらんでいたことに。

 その殺気を、男たちへと向けていたこと、誰一人気づけずにいたのだ。

 

 




補足説明

 猩影
  ご存じ狒々の息子。彼の母親が人間であることは公式の設定です。彼も父親である狒々が死ぬまでは、ずっと自分のことを人間と誤解していたらしい。猩影くんの黒歴史共々、詳しい解説はコミックス二十四巻のおまけ漫画に載っています。

 今作における『半妖』の定義
  今作において、半妖の定義は妖怪の血が混じっていることを指すように書いていきます。妖怪の血が二分の一だろうと、四分の一だろうと、八分の一だろうと。呼び方は全員半妖で統一しますので、混乱しないようにお願いします。



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