家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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感想がもらえると執筆も捗りますね。いつも感想を書いてくれる方々に感謝です。
それでは続きをどうぞ!!


第十七幕 生徒会選挙・破

「――あのバカ息子どもめが!!」

 

 とある山中にて、怒りに震える巨大な唸り声が響き渡る。

 ここは四国の山奥――松山の山口霊神堂。開けた広場のような空間。その周囲は何百もの狸の置物によって囲まれている。ぱっと見、百や二百はありそうだが、これでもだいぶ数が減った方だ。全盛期には八百八あった狸の置物。この数の違いこそ、四国八十八鬼夜行の衰退を物語っていた。

 

 三百年前――四国妖怪たちが全盛期の頃。四国には八十八の霊場があり、その全てにそれぞれ妖怪の組が存在していた。そしてその全てを、一人のとある大妖怪が支配していた。

 その妖怪こそ先ほどの唸り声の主。バカ息子と声を荒げた大狸――隠神刑部狸(いぬがみぎょうぶだぬき)である。

 

「詳しく……聞かせてもらおうかい」

 

 巨大な像と見紛うほどの巨体の狸。その刑部狸を見上げる形で老人――ぬらりひょんは向き合っていた。ぬらりひょんと刑部狸は旧知の間柄にして、かつては『畏』をぶつけ合ったこともある、ライバル同士でもある。

 

 彼は四国妖怪ムチの襲撃を受けた後、ぬら組の誰にも行先を告げることなくこの場所を訪れていた。お供の一人としてついてきた納豆小僧、彼は今、四国の豆狸と遊んでおり、二人の会話には混ざってこない。

 ぬらりひょんがここに来たのは、刑部狸に聞きたいことがあったからだ。四国妖怪のことは、四国妖怪の総元締めに聞くのが一番手っ取り早い。狒々を殺し、自分を襲ったムチとやらについて、何か知っていることはないかとわざわざこの地まで足を運んできたのだ。

 その甲斐はあったらしく、彼には思い当たることがある様子で、どこか申し訳なさそうにぬらりひょんへと語りかける。

 

「玉章は……ワシの88番目の嫁の、8番目の息子にして、最もワシの神通力を色濃く受け継いだ男」

「なるほど……やはり、お主の息子であったか」

 

 何となく察してはいたのか、ぬらりひょんは納得する。

 既に隠神刑部狸は隠居した身の上だ。その引退した刑部狸がわざわざ重い腰を上げてまで、奴良組に喧嘩を売るとは到底考えられない。あるとすれば――独断専行。

 血気盛ん。若い血の気の多い妖怪が自分たちの力を誇示しようと、勝手を働いたのだろう。

 その予想通り、何も知らされていなかったのか、刑部狸はさらに苦々しい口調で語る。

 

「玉章は若き日のワシのように『(おそれ)』を持って、妖怪の主になろうとしている。七人同行と呼ばれる妖怪たちと共にな」

「七人同行か……」

 

 その七人同行、あるいはそれに次ぐ実力者の手にかかり、狒々は殺されたのかと、その名を呟くぬらりひょん。

 

「その幹部の中でも、犬神という奴は危険だ」

「妖怪、犬神……」

 

 聞いたことはある。確か、犬神術とかいう呪術の失敗に成れの果てに生まれる妖怪のことだ。

 

「奴は憎み恨むことでその力を増す恐るべき妖怪。その憎しみの念が強ければと強いほど、天井知らずにその妖力を高めていく」

「それは……ちと厄介じゃのう」

 

 妖怪の同士の戦いは、ただ力が強ければ、実力が高ければ勝てるという単純なものではない。

 自身の能力、特性、力がもっとも引き出される条件などをより正しく把握し、それを実践することにより、実力以上のポテンシャルを発揮することができる。

 それにより、自分よりも遥かに格上、年月を過ごした妖怪を打倒すことができる。

 もしも、その犬神やらがその条件に当てはまるような状況で、奴良組と戦うようなことがあれば、如何に歴戦の強者たちが揃っていようと苦戦は免れないだろう。

 

「……」

 

 ぬらりひょん空を見上げる。関東――浮世絵町の方角へ視線を向け、おそらく自分の代理で奮闘しているであろう孫へと叱咤激励する思いで、言葉を投げかけた。

 

「リクオ……踏ん張り時だぞ。お前の器、今こそ示して見せろ」

 

 

 

×

 

 

 

「……おいおい、これはいったいどうなっているんだ?」

 

 浮世絵中学選挙管理委員長が、ずり落ちた眼鏡を掛けなおしながら、どこか狼狽気味に言葉を吐き出す。順調に進んでいたはずの生徒会選挙だったが、それが今どこかおかしな方向に転がっている。

 清継という名の校内でも1、2を争う変人――もとい有名人の演説に多少の混乱は予測していた面々だったが、このような事態まで、彼らは予想していなかった。

 

 応援演説で壇上に上がった奴良リクオの首元へ、突如としてかぶりつこうと襲いかかる首だけの犬――。

 そしてその犬を退治するかのように現れた、巫女装束の少女――。

 

 選挙管理委員長の彼からしてみても、全てがいきなりで何がなにやらさっぱりな状況だ。

 だが、彼はそこで思考を停止させなかった。選挙管理委員の委員長としての責任感、義務感を総動員して自分と同じように固まっている委員たちに素早く指示を出す。

 

「おい、誰か……先生呼んで来い!!」

「は、はい!!」

 

 現在体育館に教師の姿はない。浮世絵中学の生徒会選挙は生徒たちの自主性を重んじるため、あえて教師を同伴せずに行われる。だが、何かあったときのために、体育館のすぐ外に教師が一人は待機している手筈だ。

 さすがに自分たちだけでは手に余ると判断したのか、委員長はその教師を読んでくるよう指示を出した。

 彼の指示を受けた委員の一人が、急いでその場から動き出そうとする。

 しかし、その動きを呼び止める者がいた。

 

「ま、待ってください!!」

「ん、君は確か……」

 

 彼らを呼び止めたのは同じ選挙管理委員会で司会進行をしていた少女――白神凜子だった。

 自ら今回の生徒会選挙の司会に立候補した彼女は、少しおどおどしながらもはっきりとした口調で他の委員に訴えかける。

 

「大丈夫です。これも全部、清継くんの『演出』だそうです!」

「え? いや…しかし…」

 

 彼女の言葉に委員長は眉を顰める。確かに前もってある程度の『演出』を行うことは聞いていたが、段取りと大分違う展開だ。あんな犬や少女が出てくるなど、まるで聞いていない。

 だが、そんな彼の迷いを打ち消すように凜子は早口で言葉を繰り出す。

 

「これから、もっともっと派手な演出になるそうですから、壇上から他の候補者や委員を退避させて欲しいそうです!! 急いでください!!」 

「あ、ああ……わかったよ」

 

 未だに釈然としないものを感じていた委員たちだが、凜子の剣幕に押され、仕方なく彼女の指示通りに動くようにした。

 

 

 

 ――と、とりあえず、ごまかせたかな?

 

 一方の凜子は内心冷や冷やしていた。彼女の言葉は咄嗟に考えた出任せ。実際に彼女は清継からはなんの連絡も受けていない。候補者や委員たちを避難させるよう指示を出したのは、土御門春明だ。

 何か予定外の出来事が起きたら、とりあえず無関係の人間は退避させておけと言われていた。

 そしてもう二つ。凜子は春樹から指示を受けていた。

 

 ひとつは、『ある物』をステージ上にセットしておくこと――

 そしてもうひとつは――

 

 なにがあっても、予定通りに司会進行を勤めること――

 

 

 

×

 

 

 

 ――やっぱり、リクオくんを狙ってきた!!

 

 カナはリクオの首に噛みつこうとした首だけの犬妖怪を、槍の一撃で地面に転がす。

 春明から帰れと言われていたカナだが、彼女は学校に残ることを選んだのだ。いつでも戦闘態勢に入れるよう巫女装束に着替え、面霊気を被り、体育館内天井で生徒たちに見えないように待機していた。

 予想通り、敵はリクオを狙ってきた。そして、彼が襲われたのを見て迷わず飛び出した。

 幼馴染を護るため、学校の皆を護るためカナは槍を構える。

 

「リクオくん。大丈夫?」

 

 犬妖怪の方に注意を向けながらリクオに容態を問いかける。何とか噛みつかれる前に対処してみせたが、どこか怪我でもしていないかと心配だった。

 

「あ、ああ……大丈夫だ」

 

 唐突に現れた乱入者である自分の問いかけに、戸惑いながらもしっかりとそう答えるリクオだったが、

 

「………?」

 

 彼の返答に違和感を感じたカナは犬妖怪から注意を離し、リクオの方に意識を向けた。

 

 ――……あれ、この人?

 

 そのときになって、彼女はとある違和感に気が付いた。だが、その違和感に思考を割く暇はなかった。敵はいつまでも待っていてはくれないのだから。

 

「くそ! この野郎!!」

 

 悪態をつきながら犬は首を浮き上がらせ、恨めしげな目でカナを睨みつける。

 

「てめえも奴良組か、邪魔しやがって!!」

 

 犬は吼えるようにカナに向って怒号を放つ。その圧倒的な敵意にカナは槍を構える。

 

「邪魔するってんなら――」

 

 そして犬は口を大きく開き、その牙をカナに突きたてようとギラつかせた。

 

「てめーから喰い殺してぇぇぇやるぜぇっ――!?」 

 

 だが、その牙がカナの首元に突き立てられることはなかった。

 

「やはり――若を狙っていたな」

 

 リクオは一人そう呟くと、同時にどこからともなく紐を取り出した。その紐は瞬く間に犬の顔中に巻きつき、無理矢理その口を閉じさせた。

 

「な、なんじゃあこりゃあ!?」

 

 紐によって口どころか動きそのものを束縛された犬は、驚愕の表情でリクオを見やる。カナもまたリクオを見つめる。その視線の先には――

 

「首だけで戦うのは、君だけじゃないんだよ……」

 

 リクオが――いや、 

 今朝、カナが校門で見かけた護衛らしき男が変装を解いて首を浮かせて佇んでいた。

 冷たく不敵な笑みを浮かべながら。

 

 

 

×

 

 

 

「首無!!」

 

 首無と入れ替わるために彼と衣服を交換していたリクオは、体育館二階のギャラリーから彼の加勢をすべく刀を取り出し飛び出していた。

 リクオの作戦は自分を囮に敵を誘き出すだすというものだった。

 だが、護衛たちに指示を出し配置につくよう命令した最後の最後で、首無は一人リクオに案を持ちかけた。

 

『わかりました若。ですが、その作戦では不十分です。私に考えがあります』

『考え?』

『どうせならもう一段、余裕を持って挑みましょう』

 

 ――首無、まんまとハマッたぞ。

 

 首無とのやり取りを思い出しながら、彼の用意周到さに舌を巻く。

 自分の身代わりなど、最初はリクオ自身が渋っていたが、戦力としては昼のリクオより首無の方が圧倒的に強い。万が一敵に襲われた際、自分なら成す術もなかったかもしれないが、彼の力量なら上手く敵をいなすことが出来るかもしれない。

 実際、四国妖怪はまんまと自分たちの策に嵌り、首無の紐で捕縛されることとなった。

 だが、思わぬ人物の登場に一瞬とはいえ飛び出すことを忘れてリクオは呆気に取られていた。

 

 以前、清継たちと一緒に入り込んだ旧校舎。古びた旧校舎から足を踏み外し、頭から地面に真っ逆さまに落ちていく自分を助けた少女。もう一度、会いたいと密かに思っていた少女。

 彼女が、リクオに変装していた首無に助け船を出したのだ。

 

 ――どうして、僕を?

 

 旧校舎の一件の後、カラス天狗に聞いてみたが、彼女のような妖怪は知らないと答えた。最古参の彼が知らないということは、彼女は奴良組の妖怪ではないのかもしれない。

 そんな彼女が何故自分のことを助けてくれるのか、リクオはずっと疑問に思っていた。

 できることなら、彼女自身にその理由を詳しく問いただしてみたかったが――

 

 目まぐるしく変化する現状が、それを許しはしなかった。

 

 

 

×

 

 

 

 

 ――嵌められた! 入れ替わってやがったのか!!

 

 リクオと思っていた目の前の男の首が宙に浮き、その男の手により紐で雁字搦めにされて犬神は自分が嵌められたことを察した。

 

 ――クソが。こざかしいマネを………クソが、クソがっ!

 

 奴良組の策略に、怒り狂う犬神は胸中で毒づく。 

 

「うおおぉぉぉぉ!!」

 

 そして、怒り狂いながらも何とか束縛から逃れようと、紐を振りほどこうと激しく首を動かすのだが、

 

「ムダだよ。ボクの糸は逃げれば逃げる程からみつく。毛倡妓の一度好きになったら離れない性格と、絡新婦の束縛癖が合わさった糸だからね……」

「ハァ、ハァ」

 

 首の無い男が笑みを浮かべながら、こちらを見下すように忠告してくる。その男の言葉通り、紐は欠片も緩む様子はない。それどころか、先ほどよりもより一層強く絡み付いてくる始末。

 犬神の足掻く様に、余裕たっぷりの表情で口元を緩ませて笑う首の無い色男。そんな彼の態度が、さらに犬神の怒り憎しみを加速させていく。

 

 ――なんだよ、こいつもリクオの部下か! 憎ったらしい奴良組!

 ――こんなやつらに、負けんのかよー!!

 ――オレは、オレは……っ! 玉章……。

 

 ――玉章!!

 

 

 危機の中、胸のうちで犬神は自分の大将である玉章の名を呼ぶ。だが、それは決して彼に助けを請うようなものではなかった。彼はこの状況で、静かに思い出していた。

 彼に手を差し伸べられた、あのときのことを――

 

 

 

 

 

 

 

 

『一緒に行こう、犬神』

 

 まだ犬神が妖怪として目覚める前。彼が自分のことを只の人間だと思っていた頃。彼はその特異性から、毎日のように学友たちから虐めを受けていた。

 それは下駄箱の靴をゴミ箱に捨てたりや、ノートに『死ね』などと落書きをされるような陰湿なものではなかった。もっと苛烈な、もっと直接的な暴力による、弾圧だった。

 殴る蹴るといった暴行。毎日のように、犬神は痛めつけられていた。

 

 その指示を出していたのが、生徒会長の玉章だったのだ。

 

 彼は決して自身では手を汚さず、取り巻きの人間たちに犬神を痛みつけるように命令し、それを楽しそうに眺めていた。毎日、毎日、毎日、毎日………………………。

 

 犬神はそんな日々に絶望しつつも、どこか諦めた態度で受け入れていた。当初は泣き叫んでいたかもしれないが、それが毎日のように続けば感情も徐々に冷え切っていく。助けを呼ぶことも、理不尽な扱いに涙を流すこともなくなり、ただあるがままに、流されるままになっていた。

 だが、そんな犬神の態度が人間たちは、お気に召さなかったらしい。もっと絶望に泣き叫ぶ彼の姿を見たかったのだろう。その日、犬神をリンチしていた男の一人が、どこからともなく金属バットを取り出し、思いっきり犬神の顔面を目掛けてフルスイングした。

 犬神はなんとかギリギリで回避し、致命傷を避けることはできたが――その瞬間、彼は本気で命の危機を感じ取った。男は尚も、バットを手に追い打ちを掛けようとしていた。

 

 ――殺される、このままでは殺される!

 ――死にたくない! 死にたくない! 死にたくなぇ!!

 ――殺される前に――殺さなくては!!

 

 そして――犬神は妖怪として覚醒する。

 その場で犬神のリンチに関わっていた人間数十人――その全てを皆殺しにした。

 

『凄いじゃないか。やっと見つけたな……自分に潜む魔道を』

 

 ぼろ屑になった人間の死体などには目も暮れず、玉章は犬神の力を称賛した。

 そして、犬神は玉章から聞かされた。自分が、自分たちが妖怪だという真実を――。

 自分たちは、人間など遥かに超えた存在であることを――。

 自分の中に眠る能力を――。

 

『来いよ。見せてやる』

『君に、新しい妖怪の世界を――ボクの百鬼夜行の後ろに並べ』

 

 犬神は、今でも玉章のことが大っ嫌いだった。彼にいたぶられた日々を思い出すだけでも、怒りや憎しみが溢れ出てくる。

 だがそれでも、彼は玉章に感謝していた。

 

 誰からも疎まれていた自分を、認めてくれた玉章を――。

 両手を広げて、自分を迎え入れてくれた彼に――。

 ゆえに、こんなところで負けるわけになどいかない。

 

 ――俺は、玉章の忠実なるしもべ――妖怪、犬神だ!!

 

 彼の力となるためにも、犬神はさらにその妖力を増大させていく。

 

 

 

×

 

 

 

 ――いつの間に入れ替わってたんだろう?

 

 犬妖怪を紐で縛り上げる護衛の男に対し、カナは率直に疑問に思った。壇上に上がった時点から彼からは目を離していない。だとすれば、演説の段階から既に別人だったと考えるのが自然だろう。

 その証拠に、体育館脇のギャラリーからリクオがステージへと飛び降りてきた。リクオは着物にゴーグル、黒いマフラーといった部下の男から借りた服装で変装をしていた。

 壇上に着地したリクオは、まず護衛の男に目配せし、その視線を受けた護衛が静かに頷く。

 次に奇襲を掛けてきた犬に目を向ける。人の良い、いつもの彼からは想像できない鋭い目で敵を捉えていた。

 そして、最後に正体を隠しているカナの方を見つめてくる。

 

「きみは……いったい…」

 

 戸惑っているのか、どこか複雑そうな目で彼女に問いかける。

 

「私は………」

 

 リクオの問いに言葉を詰まらせるカナ。この状況で、何と答えて良いのか分からず思わず言い淀んでしまう。

 だが、そんな気まずい沈黙も一瞬だった。

 

 突如――体育館全体が震える。

 

『――!!』

 

 カナとリクオ、護衛の男が何事かと振動の発生源らしき場所を見やる。そこにいたのは――首がない男子生徒の体が、瞬く間に巨大化していく様だった。

 

「なっ!?」

 

 あまりの光景にカナは思わず絶句する。男子生徒の体は巨大化しながら、獣のものらしき体毛を生やしながら人とはまったく異なるものへとその姿を変貌させていく。また、大きくなりながら、その妖気も徐々に膨らませていく。

 

「えっ……何?」

「うああああ!!」

「な、なんだぁ――!?」

 

 突如として現れた巨大な獣の出現に、生徒たちが悲鳴を上げる。しかし、彼らの様子は恐怖に怯えるというより、何が起きているか分からず混乱しているというものだった。

 首なしの獣は、そのまま体育館を突き破るかどうか、ぎりぎりの大きさで巨大化するのを止めて動き出した。

 四足歩行で、地響きを立てながらこちらへと近づいてくる。

 

「首無。こいつはいったい何だ!?」

「わ、わかりません。こんなの……どんどんデッカくなってくなんて!」

 

 リクオもまた、敵の変貌振りに戸惑っているようで護衛の男――首無へと問いかける。

 彼らが戸惑っていると、リクオの仲間らしきものたちが彼の元へ駆け寄ってきた。

 

 ビジネススーツをきっちりと着こなした男性。

 ヘッドフォンをつけた男子生徒。

 キャバクラ嬢風の女性。

 

 リクオを守護するために集まってくる、彼の護衛たち。

 彼らも、目の前の巨大な敵の存在に目がいっているせいか、カナにほとんど目を向けなかった。

 一方のカナ、彼女もそんな彼らに対して注意を向けている余裕などなかった。

 

 ――こ、こんなのどうすれば!?

 

 今まで自分が出会ってきた妖怪たちとは違う。妖気の塊ともいえるその巨大な敵を前に愕然とする。

 

 首なしの獣は、壇上に前足をかけるともう一方の足を伸ばす。伸ばした先には、同じように巨大化して紐の呪縛から逃れた犬の頭部があった。その頭を掴み取り、そのまま自分の首元へと持っていき、繋げる。

 首を取り戻した獣は正に巨大な一匹の犬となり、怒りのこもった眼光で睨みつけてくる。

 

「グァァァァァアアア!!」

 

 雄叫びを上げながら怒涛の勢いで真っ直ぐこちらへ――リクオの元へと突撃してくる。

 

 ――いけない!!

 

 カナは震える自分の足をなんとか動かし、奴良組の護衛たちと同じようにリクオを護るべく立ち塞がる。

 だが――

 

「まずい。リクオ様を狙っている! 今、リクオ様は人の姿。こんな巨体にやられたら――」

 

 この首無の叫びは、強制的に中断されることになる。獣の腕が首無や他の護衛たち、カナを蹴散らす。

 吹き飛ばされたカナたちの体が、壁や床に打ち付けられる。

 

「ぐっ!?」

 

 ステージ上の壁に激突したカナは苦悶の表情を浮かべるが、ダメージ自体は軽症だった。

 カナの着ている巫女装束は春明の作った式神である。そのためか、見た目からは想像もできないほど頑丈な作りになっており、並大抵の衝撃ではビクともしない。だがそれでも、完全にダメージを消すことができず、足元がおぼつくカナ。

 しかし、なんとか立ち上がろうとした彼女の視界の先に、無情にもその光景は映し出された。

 

 巨犬が、護る者がいなくなったリクオの頭部を前足で掴む光景が――

 

 犬は掴んだリクオを、壇上にあった椅子やカーテンを巻き込みながら、床目掛けて叩きつけた。

 カーテンが邪魔でリクオの姿が見えなかったが、メキャメキャと嫌な音が聞こえてくる。カナの脳裏に最悪な結果が過る。

 

「「リ、リクオ」くん!!」様!!」

 

 護衛たちとカナが悲痛な叫びを上げる。一旦腕をリクオから放した犬妖怪。尚も攻撃を続けようとして、腕を振りかぶり――その動きがピタリと止まる。

 

「――あれは!?」 

 

 突然硬直した犬。見れば、その前足がパックリと裂かれていた。まるで刀で切り裂かれたかのような、深い傷がその前足に刻み込まれている。

 

 

 そして――『彼』の真実が闇の奥から暴かれる。

 

 

「陽は――閉ざされた」

 

 ――………え?

 

 聞き覚えのある声の響きにカナの心臓がドクンと高鳴る。聞こえる筈のない声、ここにいる筈のない人の言葉。

  

「この闇は――幕引きの合図だ――」

 

 ――あ……あの人は………。

 

 その男はそこに立っていた。

 

 着物姿に片手に刀を携えて。

 まるで最初からそこにいたかのように。

 幼馴染のリクオと入れ替わるかのように。 

 

 自分の窮地を何度も救ってれた『彼』がそこに立っていたのだ。

 

 




補足説明

 隠神刑部狸
  玉章の父親、四国妖怪の総元締め。
  原作では若い頃の姿は玉章と同じそのまんまですが、アニメ版ではかつて、イケメンだった頃の素顔がチラリとみることができます。八十八も嫁がいることが納得できる……かな? べ、別に羨ましくはないんだからね!!

 豆狸  
  四国の山奥で鬼に化けて門番をしているちっこい狸。本人の談では二百年は生きているという話だが、それで子ども扱いって……狸の寿命はどうなっているんだ!
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