家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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 この小説が投稿予約されている頃、自分は仕事をしている真っ最中。
 家に帰ったら真っ先にパソコンを付けて、『ゲゲゲの鬼太郎』の最新話をコメント動画付きで見る。それが毎週日曜日の楽しみです。
 尚、前書きなどでゲゲゲの鬼太郎をプッシュする作者ですが、本小説にゲゲゲのキャラをクロスオーバーさせることはありませんので、ぬら孫はぬら孫でお楽しみください。


第十八幕 生徒会選挙・急

「さ、三分経った! 清継くんの言ってた時間だ!」

 

 体育館外で待機していた清十字団の一員である島。彼は清継の指示を律儀に守り、渡された腕時計の針から目を離さず時間を測っていた。そして彼が指定した時間、ちょうどリクオの応援演説が終わる時間帯がやってきた。

 この時間になったら体育館へ突入し、リクオを襲う。それが、妖怪役と与えられた自分の役割。

 そのために、こんな妖怪の着ぐるみを纏ってまでずっと準備をしていたのだから。

 

「『計画は時間通りに実行する』って言ってたからな。お金もかけてるし。でも、恥ずかしいな……」

 

 だが、中一という微妙なお年頃の少年にとって、この格好のまま衆目に前に出るのはかなりの勇気がいる。清継の影響で、それなりに妖怪に関する知識や興味が芽生えた彼でも、恥ずかしさ全て拭いきることはできない。

 しかし――それでも、やらねばならないときが男にはあるのだ。

 

「えーい、ビビるな! これも清継くんに当選してもらうため、それに――及川さんにカッコいいところを見せるチャンスっす!!」

 

 何よりも尊敬する清継に生徒会長になってもらため、そして――憧れの女子・及川つららに自分のカッコいいところをアピールするために。

 

 島は一年二組の女子・及川つららに恋をしていた。

 一目惚れだ。初めて会った瞬間から、島は彼女に夢中なのだ。何故など考えたこともない。ただ、彼女への一途な愛が、島という少年の心を鷲掴みにしていた。

 その愛は、捻眼山で他の女子たちが入浴しているのを覗くチャンスがあったにもかかわらず、つららが妖怪探索に出かけるからという理由から棒に振るうほど。(つまり!! 他の女子の裸を覗くという不健全な行為よりも、つららと一緒に健全な探検に行くことの方が彼にとっての優先事項!!)

 そんな彼にとって、清十字団の活動をつららと共に過ごすことができる時間は、まさに至福。

 サッカーU‐14日本代表の彼がサッカー部の活動を休止してでも、清十字団の活動に精を出す半分以上の理由が、つららのためでもあった。

 しかし最近は、何かとリクオがつららと仲良さげにしている姿が目に留まる。島はリクオのことが友人として好きではあったが、この恋だけは譲るつもりはない。

 つららを巡って繰り広げられる、この恋の争奪戦を制するためにも、この場でガッチリと彼女の♡を掴む必要があった。

 

『――やったね島くん! すっごくカッコよかったよ!』

「えへへへ……さあ、行くっすよ!!」

 

 この生徒会選挙で圧倒的な活躍を見せた自分を、褒めてくれるつららの姿を妄想しながら、彼はいざ体育館へと突入する。

 

「? なんか騒がしいな」

 

 自分が登場する前だというのに、何やら騒がしい館内。だが、島は脇目も振らず、ステージの真ん前――全校生徒が注目しているであろう、体育館の最前列へと躍り出た。

 

「ガォ――! 俺が妖怪だ!! この学校は俺が支配するぞ――!!」

 

 決まった!! と心の中で自身の渾身の芝居に酔い痴れる島であった――だが、

 

『グオオオオォォォォォォォォゥッ――!!』

「え……? うぇえええ――!? 何これっ!?」

 

 自身の後ろ。ステージの壇上の上で吠え猛る巨大な犬の化け物に島は悲鳴を上げる。

 作り物の着ぐるみや、立体映像などではありえない。

 その圧倒的な存在感を間近で、最前列の特等席でいきなり感じ取ってしまい、一瞬にしてその迫力に呑まれる。

 

「き、清継くん……お、及川さん……ぐぅ~――」

 

 島の意識はそのまま、この生徒会選挙が終わるまでブラックアウトすることになる。

 

 

 

×

 

 

 

「なんだぁ――!?」

「真っ暗でよく見えねぞ!!」

「何が起こったんだ?」

「…………ちっ!」

 

 体育館内は、突如として巨大化した妖怪・犬神の存在によってさらに混沌を深めた。だが、多くの生徒たちが悲鳴や絶叫を上げる中、春明は慌てず騒がず、目の前のトラブルを一つずつ冷静に対処すべく行動を開始していた。

 彼は手始めに、巨大化した妖怪の重圧に今にも崩れ落ちてしまいそうな体育館を支えるために陰陽術を行使する。ポケットから植物の種らしきものを取り出し、静かに念じた。

 すると、種から木の根が生え出す。根はすさまじい速度で成長し、通常ではありえない長さに伸びていく。他の生徒たちは巨大な犬神の図体に目を奪われているため、館内の一番後ろにいる春明の生み出した不可解な現象を目撃するものはいなかった。 

 その木の根を、そのまま壁に張り付け、さらに春明は命じる。

 

「根よ……この建物を支えろ」

 

 春明の命令に答えるかのように、成長を続けた根を壁の中に入り込み、そのまま館内全体に広がっていく。

 

 陰陽術・木霊――樹縛(じゅばく)

 

 本来は敵を捕縛したり、そのまま締め上げた妖怪を引き千切るための陰陽術だが、春明はこの建物を支えるためにあえてこの術を使った。

 体育館内部に浸透した根が館内全体に張り巡らされ、重要な柱を何本か補強する。功が相したのか、建物の揺れが幾分か収まった。

 

「ふぅ、やれやれ」

 

 とりあえずの危機が去ったことで安堵の息を漏らす春明。だが、根本的な解決には至っていないことに憂鬱な気分になる。

 

「さて、あれをどうしたもんかね……」

 

 既に大きくなるのを止めた首なしの犬が、壇上で自身の首を繋げているのが見えたが、暗闇であることもあり、彼のいる後方からでは、その戦況のほどをはっきり窺い知ることが出来ない。

 ステージ上に敵が現れた際の策は一応用意してはいたが、このままではカナまで巻き込みかねない。

 

「ちっ! おら、どけっ!」

 

 春明は短く舌打ちをすると、戸惑いで固まる他の生徒たちを押しのけ、もっと戦況が分かる場所まで苛立ち混じりに移動を始めていった。

 

 

 

×

 

 

 

「なんだ、あいつは?」

「突然出てきたぞ!?」

 

 カーテンの奥から現れた見慣れぬ人物に生徒たちがざわつく。後ろに伸びきった長い髪、鋭い眼光、着物を見事に着こなした長身の男。この体育館にいる大多数の人間にとって、初めての登場人物であろう『彼』。

 だが、『彼』のことを何度も目撃したことのあるカナは、他の生徒たちとは全く別の意味で困惑していた。

 

 ――な、なんで……また――この人がここに?

 

 訳が分からなかった。何故『彼』が学校にいるのだろう。

 

 ――だって……今そこにいたのは……リクオくんで、リクオくんがいた筈で……!

 

 先ほどまで、カーテンの奥には確かにリクオがいた筈だ。犬の一撃を喰らって潰されてしまったリクオがいる筈だった。だが、そこには『彼』以外誰もいなかった。ぐしゃぐしゃに潰された椅子やボロボロに切り裂かれたカーテンの残骸だけで、他に人はいない。

 

 ――お、落ち着け、わたし……。

 

 早まる心臓の鼓動を落ち着かせるように、カナは自分に言い聞かせる。

 

 ――き、きっと奴良組の妖怪。リクオくんの……護衛の人よ……。

 

 そう言い聞かせ、自らを納得させる結論をだそうとするが、そう考えるにはあきらかに不自然な点がある。

 

 先ほども疑問に思ったように『彼』はリクオがいる筈の場所から現れた。

 まるで、最初からそこにいたかのように。 

 それに着ている着物。首に巻いている黒いマフラーも、間違いなくリクオが着けていた物だ。

 

 ――………。

 

 あらゆる状況が、カナの安易な考えを否定する。残る可能性は――。

 

「おい!! あんた……」

 

『彼』がこちらをちらりと一瞥し、話しかけてきた。

 

「さっきは、ありがとよ…」

 

 カナに向かって『彼』が礼の言葉を投げかける。

 

 ――ち、ちがう、やめて……!

 

『彼』からのせっかくの感謝の言葉を、カナの心は拒絶する。

 自分が助けようとしたのは奴良リクオ、幼馴染の男の子だ。

 それが『彼』である筈がない。

 戦う力のないリクオを、カナは護ろうとしたのだ。

 それが『彼』である筈はない。

 

 だがそんなカナの内心の混乱に気づいた様子もなく、『彼』は視線を変え、目の前に立つ強大な敵を見上げながら呟いた。

 

「あとは、俺に任せておきな……」

 

 

 

×

 

 

 

「ナンダ……」

 

 妖怪としての力を発揮している犬神も、その他大勢の人間たちと同じように戸惑っていた。

 

「誰ダ、オマエ……」

 

 自分は確かに、あのぬらりひょんの孫――憎っくき奴良リクオを踏み潰した筈だ。なのに、気がつけば犬神自身の腕が切られ、見覚えのない男が眼前に立ちふさがっていた。

 鋭い眼光で睨みつけてくる、長身の男。

 巨大化した自分に比べればちっぽけな大きさだったが、何故か異様な存在感を漂わせている。

 

「学校でこんな姿になるつもりはなかったんだがな」

 

 男が口を開いた。 

 

「とっと舞台から下りてもらうぜ。オレもお前も、ここには似つかわしくねぇ役者だ」

 

 不敵な笑み、尊大な口調で語りかけてくる。

 

 ――コンナ姿ニ、ナル……ダト!?

 

 男の台詞に犬神はハッとなる。リクオがいた場所から、まるで入れ替わる様に現れた男。

 

 ――マサカ、コイツ!?

 

 瞬時にある考えが犬神の頭に浮かぶ。だが、その考えを吟味する間もなく奴は動き出した。

 ゆらりと、一歩踏み込んだ瞬間――男の姿が視界から消える。

 

 ――ド、ドコニイッタ!?

 

 その疑問の答えはすぐに返ってきた。突如として走る、顔面の激痛という形で――。

 

「グガァァァア!?」

 

 その痛みに叫び声をあげる犬神。彼の視界が赤く染まる。それは彼の顔面から流れ落ちた血飛沫によるものだった。男が飛び上がるとともに、すれ違いざまに斬り込んだ斬撃による痛みであった。

 

「ふっ……」

「ク、クソ、舐メルナアァァア!!」

 

 刀を振り下ろし終えた男が犬神の視界の端で着地する。痛みに怯みながらも。男へ反撃するべく、犬神は腕を振り下ろす。男はその攻撃をなんなく躱し、そのまま犬神の腕を切り裂きながら、真っ直ぐこちらへ向ってくる。

 だが、今度は犬神にも奴の姿がはっきりと見えていた。眼前まで迫る男と、視線が交差する。

 男がさらに刀を振りかぶるよりも先に、犬神は爪を突き立てる。男はぎりぎりのところでその攻撃に気づき、間一髪でその攻撃をかわす。 

 男はそのまま、犬神の背に着地する。だが、奴は不覚にもつるりと足を滑らした。

 

 ――今ダ、喰ラエ!

 

 犬神はその瞬間を見逃さなかった。自分の体から滑り落ちる男へと尻尾による一撃をお見舞いする。

 

「チッ」

 

 男が舌打ちする。尾での一撃をまともに喰らった男は、そのまま無様にステージ上へと転げ落ちる。

 

「グオォォォォ!!」

 

 遠吠えを上げる犬神。先ほどとは違う、勝ちを誇った歓喜の叫び声だ。

 しかし――膝を突き、頭から血を流しながらも、男の戦意が全く衰えた様子はない。

 その鋭い眼光からは、尚も威圧感を感じる。

 

「………………………」

「………………………」

「………………………」

 

 いつの間にか、体育館は静まり返っていた。

 その場にいる全員が、まるで舞台のクライマックスでも観賞するかのように、集中して男と犬神の戦いに魅入っていた。男は流れ落ちる血を拭いながら、ゆらりと立ち上がる。  

 

「やるじゃねぇか」

 

 ――っ!!

 

 ゾクリと、犬神の背筋に悪寒が走る。奴の眼光がさらに鋭く光り、自分のことを見据えていた。

 

 ――ナンダ、コイツ……。

 

 何とかその眼光に負けじと、犬神は男を真正面から睨み返す。だが、犬神は自身の中に一度芽生えたその感情を、完全に消し去ることができなかった。

 そして、犬神はその目で確かに目撃した。

 

 奴の後ろに――。

 誰もいる筈のない空間に、何匹もの妖怪が付き従っているかのような――

 まるで、百鬼を背負っているかのような男の威風堂々たる姿を――

 

「ウ、ウオオォォォォ――!!」

 

 その百鬼夜行の勢いに飲まれぬよう、己を奮い立たせるため、より一層激しく吼える犬神、だが――

 

『出たな妖怪!!』

「――!?」

 

 ステージ上の巨大スクリーンに映し出された映像に水を差される。犬神と男の激しい戦いの中で、奇跡的に無事だったスクリーン。そこに、リクオが壇上に上がる前にぺらぺらと偉そうに演説をしていた少年の姿が映し出された。

 

「あっ――!」 

「清継だ!!」

「映像が復活した!?」

 

 二人の戦いに魅入っていた生徒たちが、我に返ったかのようにざわつき始める。

 

『そこのふとどきな大妖怪!!』

『このボク、清継ふんする「陰陽の美剣士」が来たからには』

『悪事はもう許さんぞ――!!』

「………………」

 

 今の状況とはまったく関係のない映像のくせに、まるで自分に向かって言っているような傲慢な少年の茶番に怒りを感じながらも、これを好機と判断する犬神。

 見れば男の方も、突然流れ出した映像の方に気を取られていた。その隙を突くように、犬神は渾身の一撃をお見舞いすべく、全身に力を溜め始めた。

 その時だ、不意に犬神の身を激痛が襲う。 

 

 ――グオっ!?

 

 その痛みにおもわず身をよじらせるが、下半身が、いや両の後ろ足がまったく動かない。即座に振り返り、痛みの発信源に目を向ける。

 

 ――ナ、ンダ……コレハ?

 

 犬神の視界に飛び込んできたもの。それは自分の足が、巨大な針のようなもので貫かれている光景だった。

 

 

 

×

 

 

 

「――やっと大人しくなったか」

 

 春明がやれやれといった調子で溜息を溢す。

 二人の戦いが激しかったため、なかなかチャンスが巡ってこないことに苛立っていたが、映像が流れ出したことで二人の動きが止まり、ようやく仕掛けていた罠を作動させることに成功した。 

 春明が行使したのは、陰陽術木霊・針樹(しんじゅ)

 ステージ上には、あらかじめ凜子に植物の種子を撒かせておいた。その種子に遠距離から力を送り、成長させた木の根を束ね、針状にして犬の足を刺し貫いたのだ。

 

「ふん」

 

 春明は手をかざし、犬の足を貫いた木の根にさらに命令を下す。命令を受け、樹木の先端がぐりゃりと曲がるとそのまま床を刺し貫く。木の根は犬神の足と床を縫いとめる形で、その動きを封じた。

 

「……なかなか良い線までいってたんだけどな」

 

『奴』と犬神の戦いを思い返しながら、春明はボソリと感想を洩らす。春明は『奴』に一撃を入れた敵の力量にわずかながらも感心していた。

 

「……だが、少し調子に乗って暴れすぎだぞ、犬っころ」

 

 しかしこれ以上、学校に被害を出させるわけにもいかず、春明は犬を排除すべく仕方なく『奴』に加勢した。

 誰にも悟られぬよう遠距離から、こっそりと。そして、さらにそこへ追い打ちを掛ける者たちがいた。

 

『見てろ!!今封じてやる ボクのフルCG超必殺退魔術』

『よみおくりスノーダスト退MAX――――!!』

『島くん、上手くくらえぇ――――!!』

 

 スクリーン内で『陰陽の美剣士』に扮する清継の必殺剣が炸裂し――それに合わしたかのように、雪が舞い上がり、凄まじい吹雪が犬神の巨体を包み込み、その体を凍えさせる。

 

「うわ……雪だ!?」

「なんで!?」

 

 室内で雪という不可解な現象に生徒たちが混乱する。だが春明は何事もないようにステージ上を見上げた。

 ガチガチに凍らされた犬の体に、さらに紐が絡みつく。『奴』の代わりに襲われていた、首の無い男の武器である紐。木の根と、雪と、紐の三重拘束に、犬神は完全に体の自由を奪われた。

 

 春明はこの戦いの終幕。敵の敗北を静かに察した。

 

 

 

×

 

 

 

 ――この雪。及川さんの……。

 

 巻き起こる吹雪の中、視界の先で巨大な犬が氷漬けにされていく光景をカナは目の当たりにする。犬は何とか氷の呪縛から逃れようと身をよじらせるが、ほとんど意味をなしてはいなかった。

 

 ――今なら、行けるか?

 

 敵の力の前に出遅れたカナだったが、今なら自分の刃を届かせることができる。敵に向かって、一歩足を踏み出す。だが――

 

『おい、カナ』

「……コンちゃん?」

 

 カナが被っていた狐面の妖怪・面霊気のコン。今まで沈黙を貫いていた彼女が、自分にだけ聞こえるように話しかけてきた。

 

『今のうちに、この場から離れるぞ』

「えっ?」

『これ以上、ここにいてもやることはなさそうだ』

「でも……」

 

 コンの提案に思わず躊躇するが、確かに彼女の言うとおり、ここに自分がいる必然性はないだろう。カナの刃が届くというなら、奴良組の妖怪にもそれが出来ない道理はない。

 

『正体、ばれたくねぇだろ?』

 

 寧ろ、ここに留まればその分、正体がばれる危険性も高まると、面霊気はさらにカナへと忠告してくる。

 

「くっ――!」  

 

 カナは後ろ髪を引かれる思いだったが、それ以外に選択の余地はない。飛翔して、窓を目指す。生徒たちは皆、ステージに注目しているためか、彼女の行動を見咎めるものはいない。暗幕を抜け、窓から抜け出そうとする直前、カナはステージの方を振り返る。

 

 真正面から『彼』が、敵へと向かって駆けていく姿が見える。

 巨大な敵に怯むことなく、堂々と立ち向かうその姿は、まさに妖怪そのものだった。

 

「………」

 

 彼女はそれ以上、『彼』を見ていることができなかった。

『彼』から素早く視線を逸らし、その場から立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ハァハァハァ」

 

 体育館から脱出したカナは、屋上へたどり着いた。

 フルマラソンを走りきった後のように、息をつかせてその場にへたれこむ。だがそれは、体力よりもどちらかといえば、気力の方を消費したような疲労感であった。

 それほどまでに、今のカナは精神を疲弊させていた。

 

「………ねぇ、コンちゃん」

 

 彼女を顔から外し、問いかける。

 

「あの人、また助けてくれたね」

『………ああ』

「私だけじゃない。学校の皆も助けてくれたよ」

『………ああ、そうだな』

「私なんかより全然強くて、カッコよかったよね……」

『…………』

 

 次から次へと『彼』に対する話がカナの口から発せられる。

 コンは静かに、彼女の言葉に耳を傾ける。

 カナが何を意図してこんな話をしているのか、コンは何となく察していたが余計なことは喋らなかった。

 

「………」

『………』

 

 カナも黙り込み、しばらく時が過ぎさったが――おもむろに、カナがその本題を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの人………リクオ、くん……なの?」

 

 やはり何度否定しても、その結論が浮かんでくる。

 どれだけ思考を続けても、それ以外の答えが導き出せない。

 藁にすがる思いでコンに質問するのは、それを否定して欲しいがためであった。

 

『………』

 

 だが、彼女は何も答えてはくれない。

 否定も肯定もしなかったが、その沈黙が逆に答えとなっていた。

 

「うぅ……う、うぅ…………」

 

 カナは嗚咽を漏らしながら、地面に突っ伏す。彼女の双眸からは、涙が零れ落ちている。

 

 

 ずっと、リクオのことを、護っていると思っていた。

 幼馴染として、時にはお姉さんを気どって、リクオの手をとって、歩いてきたつもりだった。

 四分の一妖怪の血が流れていることは知っていたが、それでも『彼』を只の人間だと、無力な一般人だと思い込んでいた。

 

 

 だが、違った。

 

 

 本当に無力なのはリクオではなく、自分だった。

 手をとっていたのは『彼』のほうだったのだ。

『彼』がいつも、自分のことを護ってくれていたのだ。

 

 

 それなのに、自分は――

 

「うっ、うぅぅあああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ――!!」

 

 カナは泣いた。

 時間も立場も、何もかも忘れて、その場で泣き崩れていた。

 

 

 彼女の心とは対照的に、空は憎たらしいほどに澄み渡っていた。

 

 




 という訳で、この話からカナは『彼』=リクオであるという真実に辿り着きます。
 果たしてこの先どうなるのか? 考察しながらお楽しみください。

補足説明
 冒頭のHな島くん
  詳しくは原作コミックス二巻の『島くんの憂鬱』をご覧ください。
  中学一年の男子ということを考えれば、彼の思考は真っ当なものだと思います。
  しかし、それでも彼の初恋が実ることはない……少年よ、これが絶望だ。

 陰陽術木霊のバリエーション
  オリキャラ・春明の陰陽術・木霊のバリエーション
   針樹――木の根を針のようにして、敵を刺し貫く。
   樹縛――木の根で敵を縛り上げ捕縛。場合によっては、そのまま絞め殺す。
   壁樹――木の根を分厚く纏め、壁として敵の攻撃を防御する。
  書いてて思った。意外と多様性のある能力で便利だなと。

 
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