一応、話のストックはあるので、暫くは途切れさせずに更新できそう……かもしれない。
第一幕 旧校舎での出会い
とあるアパートの一室。
朝日が部屋に差し込む中、少女は既にベッドから起き上がり、活動を開始していた。
着替えを済ませ、朝食を食べ、弁当を作り、歯を磨きながらテレビのニュースを確認する。
少女にとっては慣れたことで、それらの作業を淡々と一人で済ませていく。
最後には顔を洗い、年頃の女の子らしく鏡を見ながら身だしなみを整えていく。
いざ、出かけようと荷物を持って玄関のドアノブを握ったところ、何かを思い出したようで急いで部屋に戻る少女。
戻った先にあったのは、仏壇であった。
少女はお供えをしてから手を合わし、いつものようにその仏壇に話しかけた。
「――それじゃあ、行ってくるね! お父さん、お母さん、……
彼女――
×
「おはよ~! カナ!」
「うん、おはよー!」
クラスメイトからの挨拶に、家長カナは同じ言葉でそれに答える。
浮世絵町にある――浮世絵中学校。そこが現在、道を歩いている少年少女たちの目的地である。
その道中。ふと、とある少年が一人、前方を歩いているのにカナは気がついた。少年の方はこちらに気がついていないのか、ぼそぼそと何やら独り言を呟いている。
カナは「少し驚かしてみようかな?」と、軽い気持ちで悪戯心を芽生えさせ、気づかれないよう、バレないようにと、そっと近づいてその少年に声をかけようとした。
「リクオくん、おは~――」
だが、「おはよ!」と、言おうとしたその瞬間――少年は持っていたカバンを勢いよく振りながら大きな声で怒鳴り声を上げる。
「こらっ! カラス天狗! 心配だからって学校まで――」
「わっ!」
なんとかカバンをかわしつつも、驚きでカナは思わず声をあげる。
もっとも、驚いていたのは少年も同じようで、こちらが誰なのかがわかると、すっかり青ざめた顔になってしまっていた。
「リ、リクオくん……なんのつもり?」
「カ、カナちゃん!?」
「私を殺す気!?」
「そ、そんな……ご、ごめんなさい!!」
リクオと呼ばれた少年――
カナは思わぬカウンターにカチンときてしまい、さらに抗議の言葉を続けようとした。だがその途中、後ろから他の男子生徒がリクオに覆いかぶさってきたため、彼女の言葉が中断される。
「おはよ! 奴良~どうしたんだよ? 朝っぱらからケンカか?」
「あっ……お、おはよう!」
リクオの方は助かったといわんばかりに安堵し、男子生徒の言葉に耳を傾けている。
「なぁ~、アレやった? アレ?」
「え~? 何だよ?」
男子生徒のアレという言葉に、リクオはとぼけて見せたが、すぐに唇を綻ばせながら、カバンからデカい文字で『宿題』と書かれたノートを取り出し、自信たっぷりに答えてみせる。
「な~んて。もちろんだよ ハイ、これ!」
「うお~! すげぇ~! あとさ……悪いんだけど……」
「ハイハイ! まかしといて! お昼も買っとくから! ヤキそばパンと野菜ジュースだよね?」
どうやら、この男子生徒の代わりに宿題をやってきたあげく、お昼ごはんを買ってくる約束までしてしまったようだ。
話が終わると、もう用は済んだとばかりに男子生徒はそそくさと、先に校舎の方に入ってしまう。
どう考えても、ただのパシリにされているようにしか見えないのだが、リクオはこれを毎日喜んでやっている。
どこか誇らしげに、拳を握り締めて小さくガッツポーズをとっている幼馴染の様子に、カナは苦笑しつつも微笑みながら見つめていた。
「あっ、予鈴だ!」
そこで丁度よく朝の予鈴チャイムがなり、カナはハッとなる。
駆け足で学校へと急ぎ、リクオにも急かすように声を掛ける。
「ほら、リクオくん! 遅れちゃうよ、急いで!」
「あ、待ってよ! カナちゃん!」
機嫌が戻った幼馴染に安心したのか、リクオもまた駆け足でカナの後に続いていく。
いつもの朝 いつもの登校風景。
いつもどおりの毎日に、少年と少女は嬉しい気持ちになっていた。
しかし 二人とも知っていた
自分たちの境遇が決して『普通』ではないということを。
×
「――ところで君たち? 今夜の予定は空いているだろうね?」
開口一番。浮世絵中学一年――
今はちょうど昼休み、リクオは友人たちと屋上で昼食を取っていた。
「もちろんだよ、清継くん!」
清継のその問いに、元気良く返事をした男子生徒――
彼の手元にある、自分が買ってきたヤキそばパンと野菜ジュースを見て、奴良リクオは心の中でガッツポーズを取る。
――喜んでくれている! 僕はジーちゃんみたいに嫌われない! これが人間なんだ!
「奴良も行くだろ?」
「あっ、う、うん」
そのように感動を噛みしめていたせいか、少し反応が遅れつつも、島の問いにリクオは素直に返事をする。
「なに、なに? なんの話?」
そんな男子の会話に、金髪の女子――
その隣でお弁当を食べている巻の親友――
「今夜 旧校舎の探索を決行する!」
そう、清継たちは今夜、噂の旧校舎へ探検に行くことになっていた。
浮世絵中学校の真横を走る――東央自動車道。
その向こうにある古い建物。道路を通すために引きはなされ、十年前から誰も近寄れない――旧校舎。
普通に考えれば、そんな放置された廃校など、行かない方が安全だろう。
しかし、奴良リクオにはそこへ行かなくてはならない理由があった。
彼はこの浮世絵町に門を構える『関東妖怪任侠組織』。その総元締めである極道一家――奴良組の三代目なのである。
そして、リクオはその奴良組の初代総大将――ぬらりひょんの実の孫。
彼の中には妖怪である祖父の血が、四分の一流れている。
しかし、彼自身は家を継ぐつもりはなく、普通の人間としての人生を歩みたいと思っており、特に組の仕事に関心を持ってはいない。
だが、自分の組の妖怪が人間に迷惑をかけているとなれば、話は別――。
旧校舎に妖怪が住みついている、という黒い噂。
その噂に、自分の組のものたちが関わっていないか審議をするつもりで、リクオは清継の誘いに乗り、旧校舎の探索に同伴を願い出ていた。
――厳重に査定しなきゃ! みんなを守るためにも!
そう、その旧校舎とやらに、自分の組の者が住みついていないかをチェックし、友人たちを守らなければならない。
リクオ自身が真っ当な人間として生きていくためにも、組の妖怪たちには大人しくしてもらいたい。
それが、現時点での奴良リクオという少年の心情であった。
「好きだよね、清継くん。妖怪の話」
すると、そんな意気揚々な男子たちに、リクオの幼馴染の家長カナが呆れ気味に声をかけていた。
「ていうか、貴方でしょ! 旧校舎の噂の発信者は!」
カナがやや責めるように清継に迫るが、その言葉に反論するように清継は答える。
「噂じゃないさ! 四年前、僕はまちがいなく見たんだ! この目で妖怪を!」
「それは……」
「とにかく僕はもう一度彼に会いたい! そのためにこうして、彼に繋がりそうな場所を探しているのさ!」
そう言い切った後、いつものように妖怪についての知識や魅力を延々と喋り始める清継。一度この状態になると、なかなか止まらない。
それを知っているためか。巻と鳥居は清継の話も聞かず、二人で雑談を始める。
カナも、何か考えているのか視線を宙に漂わせ、どこか遠くを見つめている。
清継の話を真面目に聞いているのは、島くらいなものだ。
かくゆうリクオも、清継の話を聞き流しながら自分の考えに没頭していた。
清継の話に出てきた『彼』。
リクオは『彼』が誰なのか知っている。
でもそれをここにいる皆に話すことはできない。
特に、彼女には……。
そうしている間にひととおり語り終えて満足したのか、清継は我に返ってさきほどの話の続きを始める。
「――そういうわけで、皆にも協力してほしいと思っている! でも生半可じゃない、本物の有志を期待しているぞっ!!」
「わたし、今日用事が……」
「わっ、私も……」
その勧誘に乗る気ではないのか、巻と鳥居はどこか気まずげに目を逸らす。
「ごめんね……清継くん。私も無理そう」
家長カナもきっぱりとその誘いを断り、その返答にリクオはそっと胸をなでおろした。
――そう……彼女だけには、絶対にばれるわけにはいかないのだから……
×
あたり一面の空が黒く染まり、夜が世界を支配する時間帯。
それでも、街は休むことなく動き続け、人々はネオンの光の中を歩き回っている。
その街の輝きを、一人上空から見下ろしている少女がいた。
少女はまるで、足元に透明なガラス板でもあるかのように悠然と、何もない空間に立っているかのように体を宙に浮かせていた。
白い衣に緋色の袴、一般的に巫女装束といわれる格好をしている少女。
絶え間なく吹くそよ風が、少女の白い髪を揺らしている。
少女がどんな思いで眼下に広がる街を見下ろしているのか、その表情を読み取ることは誰にもできない。
何故ならその顔を、狐の顔を模したお面で覆い隠しているからだ。
やがて、少女は意を決したように優雅に空を舞い、目的地へと飛び立っていく。
――ありえない
今の心情を誰にも悟られないよう、リクオは心の中で叫ぶ。
学校が終わり、夜になるのを待ってから、彼らは妖怪を探しに旧校舎に訪れていた。
ちなみにメンバーはリクオを入れて三人、清継と島とリクオだけ。
あまりの集まりの悪さに清継は嘆いていたが、リクオは逆にホッとしていた。
――これだけ人数が少なければ、妖怪を見つける確率も低いだろう。
しかし、そんな彼の希望はあっさりと打ち砕かれることになる。
正直、心のどこかでそう簡単に妖怪など出てこないだろうと、高を括っていた部分がリクオにはあったが、いざ蓋を開けてみればこのとおりである。
次から次へと、休む暇もなく妖怪たちが顔を出す。
リクオは二人にバレないよう、先回りして一匹一匹妖怪たちを片付けていた。
幸い、大半の妖怪たちが力の弱いモノであったため、リクオ一人でもなんとか対処できていた。
しかし、そろそろ体力的にも精神的にも限界だ。とても一人で隠しきれる数ではない。
バレる、バレないなどといった問題ではなかった。このままでは、二人に危険が及ぶ可能性だってある。
そう判断したリクオは、もう探索を中止しようと清継に提案した。
すると、霊感のない清継は妖怪どころか野良犬一匹出てこないことに落胆しているのか、がっかりしたように肩を落とす。
「仕方ない。最後にここを見て帰ろう……」
そう言いながら、目の前にあった教室に入っていく。
その言葉にホッとしたリクオは、二人に続いて部屋に入ろうとし――
刹那、背筋に悪寒が走る。
――まずい……ここはまずい!
リクオは急いで二人の後を追いかけたが、遅かった。
部屋の中には――巨大なカマキリの姿をした妖怪が一匹待ち構えていたのだ。
「…………え?」
あまりの突然の出会いに、呆けたように清継が言葉を洩らす。
そして、こちらの存在を認知した妖怪が、間髪いれず彼らに襲いかかってきた。
「うわぁ……ああぁぁああ!!」
「で……出たあぁぁぁ!!」
叫び声をあげる清継と島。恐怖のあまり、二人はそのまま気絶してしまう。
リクオはそんな二人を背に庇いながら、その妖怪と対峙する。
しかし、今のリクオに戦う術などない。
カマキリが緑色の刃を振り上げる光景を、黙って見ていることしかできなかった。
――くそっ! どうする……全然!
――間に、合わない!
絶望に染まるリクオの表情――
だが次の瞬間、旧校舎の壁をぶち破って飛んできた飛来物が巨大なカマキリを吹き飛ばしていた。
×
飛来物が旧校舎に向かって飛んでいく光景を、巫女装束の少女は少し離れたところで見ていた。
しかし、少女の位置からでは物体がなんなのかを判別することができなかった。
旧校舎の壁は突き破られた際の衝撃で、白煙を巻き上げ、さらに少女の視界を遮る。
――ここからでは見えそうにないな……。
そう思った少女は中の様子を詳しくを確認するべく、リクオたちのいる旧校舎へと近づいていった。
飛んできた物体は奴良組の特攻隊長『青田坊』であった。どこから現れたのか『雪女』のつららも一緒だ。
カマキリは既に二人の手によって退けられており、リクオたちは無事に危機を脱していた。
「お前たち、どうしてここに?」
助けてもらったことに感謝しながらも、リクオは少しだけ語気を強めて二人を詰問する。
今朝、奴良組の妖怪たちにはここに近づかないようしっかりと念を押していた筈だ。
ところがそんなリクオの問いに、何を今更といわんばかりの口調で青田坊たちが答える。
「若、俺たちは四年前のあの日から、ずっと若をお守りしていましたよ」
「いつも若のお側で……」
「いつも?」
二人の言葉にリクオは唖然となる。
四年前――それはリクオが妖怪に覚醒したという日だ。
人間としてのリクオはそのことを覚えてはいない。
いや、正確に言えば『記憶』はある。
謀反を起こした奴良組の妖怪――ガゴゼを切り捨てたという記憶。
しかし、アレはリクオがやったことではない。
リクオの中の『彼』がやったことだ。
少なくとも、昼間のリクオはそのように考えていた。
「話は後ですよ、若! 早くこんなところ出ましょ!」
昔の記憶を思い出しているリクオに対し、つららがそう言って急かしてくる。
「……そうだね」
彼女の言葉にリクオは自身の考えを一旦打ち切り、青田坊へと声をかける。
「青、悪いけど清継くんと島くんを……」
運んでくれ、そう言おうとした瞬間――
ガラっ、という音ともにリクオの体が後ろに反れる。
リクオが咄嗟に足元へ目を向けると、そこにはあるはずの足場がなかった。
先ほど青田坊が飛んできた衝撃で、元々脆かった旧校舎がさらに脆くなったのか、足場が音をたてて崩れ落ちていたのだ。
その結果、リクオは頭から地面へと落ちていく。
「「若!!」」
青田坊とつららが、手を伸ばそうと駆け出したが間に合わない。
リクオは思わず、目を閉じて落下の衝撃に備える。
しかし、いつまでたっても、くるはずの痛みがこない。
代わりに感じたのは、妙な浮遊感――。
鼻腔をくすぐるいい匂いが、リクオの嗅覚を刺激する。
恐る恐る目を開けるリクオ。すると、そこには――。
「――大丈夫?」
白い髪を風にたなびかせた『少女』が、頭から地面に落ちようとしていたリクオを抱きかかえ、宙を飛んでいた。
「え……な、なにこれ?」
リクオは自分の状態を見る。世間一般的に言われる、お姫様抱っこの状態だ。
助けてくれたその少女の顔は、狐の顔を形どったお面がつけられており、表情を読み取ることができない。
声のトーンや着ている巫女装束、少し膨らんで見える胸元でリクオは自分を抱えているのが、女の子だということがわかった。
女の子にお姫様抱っこをされるという、男としてはかなり恥ずかしいシチュエーションに、リクオは顔が熱くなり、思わず顔を背ける。
そんなリクオの慌てた様子に気づいたのか。少女はゆっくりと地面に近づき、旧校舎の入り口あたりにリクオを降ろした。
「き、きみは?」
助けてくれたお礼も言わずに、とっさに少女に問いかけてしまうリクオ。
「……」
少女は何も答えない。
「若!!」
「リクオ様! ご無事ですか! 返事をしてください!!」
すると二階から、リクオを心配する青田坊とつららの声が聞こえてきた。
「大丈夫だよ!!」
リクオは上を向き、二人に聞こえるように大きな返事をする。
その間、少女はリクオへ背を向けて、その場から立ち去ろうとしていた。
「あっ き、きみ!」
咄嗟に呼び止めるリクオの声に反応し、彼女は止まるが――
「気をつけて……帰ってね……」
それだけをいい残し、一陣の風とともに彼女は夜空へと飛び去ってしまった。
「あっ……」
――今のいったい?
リクオは、彼女が飛び去っていった空を黙って見つめることしかできなかった。
「リクオ様! よかった、ご無事で……!」
「すみません! 若!」
旧校舎から出てきた青田坊とつららが、リクオの下に小走りで駆けてくる。
青田坊の背中と腕に抱えられている清継と島の姿を見て、リクオはホッと胸を撫でおろす。
「リクオ様……今のはいったい?」
一部始終を見ていたのか、つららがそのような疑問を口にする。
しかし、助けられたリクオにも、彼女の心当たりがない。
「あんなやつ……ウチの組にいましたっけ?」
青田坊も、見慣れぬ相手にどこか警戒心を滲ませて呟く。
しばらく黙って三人で考えていたが、答えが出るわけもなく。
「リクオ様!! 早く帰らないと、またカラス天狗様に怒られてしまいますよ」
その沈黙に耐えかねたのか、つららが急かすように促す。
もっともな発言にリクオたちは頷き合った。帰路を急ぐため、旧校舎を出ようと歩き始める一同。
立ち去る間際――リクオは一度だけ、旧校舎の方を振り向き、彼女が飛び去っていった空の方も見つめて一人自問していた。
――また……会えるかな?
×
二階建ての古いアパート。その階段に、一人の少年が腰掛けていた。
ややたれ目がちなで瞳からは、眠そうな印象を受ける。
どこかくたびれた中年のような空気を纏っており、口にタバコでもくわえているのが似合う風貌だ。
何を考えているか読みにくい無表情なその顔を、ピクリとも動かすことなくボーっとしている。
少年がそうしていると、不意にアパートの中庭に一陣の風が舞い降りる。
「――ただいま!」
先ほど、奴良リクオを助けた狐面の少女がそのアパートの前に降り立ったのだ。彼女が足を地面につけた瞬間、さっきまで白髪だった彼女の髪が茶髪へと戻っていく。いきなり空から降り立った少女に向かって、少年は特に驚くことなく声をかける。
「おう、戻ったか」
少年がその少女の名を呼ぶ。
「――カナ」
少女――家長カナは着けていた狐面を外し、少年の方を振り返った。
「どうだった、夜の旧校舎は?」
まるで遠足の感想でも聞くかのように、軽く尋ねる少年。
『それがさ! あの阿呆、足すべらして旧校舎から落っこちやがったんだよ!』
その質問に口汚く答えたのは、カナではない。
カナが手に持っていた狐面が言葉を発し、答えを返したのだ。
いきなりお面が喋るといった非現実的な現象にもまったく動じることなく、少年はその狐面に向かって話しかける。
「ほう、それで?」
『仕方ねえから、助けてやったんだよな、カナ?』
「う、うん……」
「ちっ、どこまでもノロマな野郎だな……」
『まったくだね!』
悪態つく少年とお面。そんな二人をカナが咎める。
「もう二人とも、あんまりリクオくんのこと悪く言わないでよね!」
続けて、カナは呟くように囁く。
「しょうがないでしょ……奴良組の跡継ぎっていっても、私や兄さんと違って――リクオくんには、戦う力なんてないんだから」
「……ふん!」
その言葉に少年は眉間にしわを寄せ、つまらなそうに鼻を鳴らしていた。
家長カナは知っていた。
奴良リクオが人間ではないこと。彼が『半妖』であることを。
妖怪の総大将、ぬらりひょんの孫であることを。
妖怪任侠一家『奴良組』の跡継ぎであることを。
しかし、彼女は知らなかった
四年前――自分を助けてくれた『彼』。
その『彼』が奴良リクオだということを。
未だ何も知らずに――彼女は日々、日常を過ごしていた。
補足説明
今回のエピソードは原作漫画版二話と、アニメ版の一話の両方を参考に再構成しましたので、少しわかりにくい内容になっているかもしれません。何卒ご容赦下さい。
最後に出てきた人物について
少年と、喋る狐面。この二人が今後、家長カナと組むことになるオリジナルキャラです。一応、ぬらりひょんの孫という世界観を崩さないようにキャラ設定をしているつもりですが、変なところがあれば、ご容赦下さい。この二人については今後の話で、解説をしていきたいと思います。