家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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ようやく、長かった生徒会選挙が終わります。とりあえず、この投稿が今月は最後です。次は九月に入ってから。
 それではどうぞ!


第十九幕 生徒会選挙・後片付け

 浮世絵中学校の生徒会選挙は候補者の演説後、すぐにその場で生徒たちによる投票が行われる。

 

 今年度の生徒会長候補者は――四人。

 当然ながら候補者は全員が中学生であり、心身共にまだ子供だ。

 成績優秀者を集めたような進学校ならいざ知らず、ごく一般的な学校である中学校にこれといって特出した生徒など、滅多にいるものではない。身も蓋もない言い方をすれば、誰が生徒会長に選出されようと、大した違いなどありはしないと。学校側もそれを承知で、生徒たちの好きなようにこの生徒会選挙の運営を任せていた。

 

 たった一人――清十字清継という生徒を除いては。

 

 彼はこの浮世絵中学一の変人にして、有名人だ。

 成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗。ワカメっぽい髪型や、性格と趣味に若干の問題はあるものの、その点に目を瞑れば実に優秀といっていい生徒である。

 まだ一年生ながらも、生徒会長に立候補したその度胸もあってか全校生徒の注目の的となっていた。

 そんな彼が演説で行ったパフォーマンス?は、さらに皆の関心を引いたことだろう。

 順当に行けば、彼が今年度の生徒会長に選ばれることになっていた。

 だが――

 

「な、なぜだ?」

 

 清継は膝を突き、今にも消え入りそうな声で目の前に張り出された、その結果に目を通した。

 

「……なぜだ?」 

  

 何度も何度も疑問を口にするが、残酷なことに結果が変わることはない。

 

「なぜだぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 残酷に立ち塞がるその事実に、彼はガゴゼに襲われて以来の絶叫を校内に轟かせていた。

 

 

 

×

 

 

 

「いやぁ~……一時はどうなることかと思ったが、なんとかなるもんだねー、土御門くん!!」

 

 会長候補の一人だった男子生徒の西野が、いかにも上機嫌といった調子で自分の席でだるそうに目を擦っている土御門春明に話しかけている。

 春明の肩をポンポンと叩きながら、ハイテンションに笑う西野。

 

「……に、西野くん、もうそれくらいで……」

 

 その隣の席で、白神凜子が冷や汗をかきながら、西野に止めるように注意を促していた。

 春明の性格を多少なりとも知っている彼女からすれば、西野の馴れ馴れしい態度にいつ彼が怒り出すかもしれないと、とても穏やかな気分になれたものではなかった。

 実際、凜子の視界から春明の額に青筋は浮かんでいるのが見えた。いつ切れだしてもおかしくない爆弾の導火線。だが、彼女の心配とは裏腹に、春明は行動を起こそうとはしない。

 それほどまでに、先ほどの騒ぎで疲れているのだろう。ギロリと視線だけを西野へと向け、不機嫌そうに眉をひくつかせているが、それに気づいた様子もなく、西野は機嫌よさげに笑みを溢す。

 

「前々から、きみの言葉には妙な威圧感や説得力があると思っていたが、まさかあの状況から巻き返せるとは思わなかったよ」

「………別に、たいしたことを言ったつもりはなかったんだがな……」

 

 西野の賞賛に、興味なさげに呟く春明。

 その呟きに、凜子は先ほどの騒ぎ――生徒会選挙終盤の出来事を思い出していた

 

 

 

×

 

 

 

 巨大な犬の化物。狐面に巫女装束の少女。

 首のない男子生徒。鋭い眼光に着物を見事に着こなした青年。

  

 多くの魑魅魍魎が入り乱れた騒動は、全て清継のパフォーマンスとして片付けられた。

 狭い館内には巨犬が暴れた破壊の痕跡が残っているものの、誰もそれが妖怪の仕業だと夢にも思わない。

 こういうとき、清継の破天荒な性格はありがたい。違和感なく皆が彼の演出だと信じ込んでくれたことに、凛子は安堵の溜息を吐いていた。

 

 だが、まだ彼女の仕事は終わっていない。生徒会長候補者の演説はまだ一人残っていたのだ。

 

 それこそ、春明に応援演説を頼んだ西野の演説。彼の演説が最後なのだが、先ほどの騒ぎのせいでステージ内はめちゃくちゃにされてしまっていた。壊された器具を新しいものに代える作業に、委員たちが忙しなく動き回っている。

 その間、委員たちは全員、恨めしげな視線を清継に注いでいた。この騒ぎの元凶であると思い込んでいる彼に「余計な手間を取らせやがって!」と怒りの視線を向けている。もっとも、清継はそんな一向の視線に気づいた様子もなく、自らのパフォーマンスが大成功したことに、上機嫌に高笑いしていた。

 この選挙の勝敗に関わらず、後で先生に叱ってもらおう――委員たちは強く心に誓ったという。

 

 

 そうして、インターバルを挟んでようやく再開される生徒会選挙。

 だが、壇上に西野が上がり演説を始めたが、ほとんどの生徒は彼の話をまったく聞いていなかった。

 生徒たちの間では、清継の演出の話題で持ちきりだった。清継の演出が終わった後も、浮き足立ったようにざわざわと、生徒同士で熱く話し込んでいた。

 そんなギャラリー達に負けじと、西野も熱く語りかけるのだが、まったくといっていいほど効果を発揮してはいない。あっという間に彼の持ち時間が終り、無念だとばかりに西野は壇上から降りて行った。

 

 そこへ、春明の出番が回ってきた。

 

『え~……次は会長候補西野くんの応援演説です』

 

 司会進行役の凜子の、どこか戸惑いがちなアナウンスが館内に響き渡る。

 西野がいったい、どのような手段をもって彼をここへ立たせることができたのか。凜子には甚だ疑問だったが、確かに彼――土御門春明はステージの上に立っていた。

 普通、中学生くらいの年代の子がステージに上がって話をするというのは、極度の緊張が伴う行動だろうが、春明からはそのような様子、微塵も感じ取れない。ついでに、やる気や意気込みといったものも感じとれないが。

 仕方なくそこに立っているという心境が、ひしひしと伝わってくるようだった。

 

 春明が壇上に上がっても、生徒たちは彼の話を聞くつもりはないようで騒ぐのをやめない。

 本来ならば、ここで司会進行の凜子が「静かにして下さい」とでもマイク越しに注意するべきなのだが、西野の演説前に既に何度も試して、失敗している。この混沌とした状況を鎮めるのは、今の凜子にも少し荷が重いようだ。

 

 だが、春明はざわつくギャラリーを特に気にした風もなく、懐から原稿用紙を取り出し、読み上げようとマイクを手にする。すると――

 

「ああぁ!? アンタは!!」

 

 一人の少女が、春明に指を突きつけながら、声高らかに叫んでいた。少女の近くで雑談していた生徒たちの何人かが、何事かと少女の方を見やる。

 少女の名は花開院ゆら――先日凜子が入団した『清十字怪奇探偵団』の団員だ。

 彼女もまた、春明と同じ陰陽師であるということは、既に団員たちから聞かされていたし、同じ陰陽師であっても、ゆらと春明との間に、これといって接点はないとカナから聞いている。

 それゆえ、ゆらが壇上の春明を指差し、叫んだことに凛子は面食らう。

 しかも、ゆらの態度は同業者に対する親しみのこもっているものではない。天敵に、敵意剥き出しで吼える犬のように、ゆらは彼に噛みついていく。

 

「あんた、あのとき公園にいたやつやないか!! 今回の騒ぎも、なんかあんたに関係あるんやないんか!!」

「ちょ、ちょっとゆらちゃん!?」

「落ち着きなよ!?」 

 

 彼女の隣に座っていた巻と鳥居の二人がゆらを諌めようとする。ゆらの周りにいた他の生徒たちが、突然声を荒げるゆらに驚き彼女に注目しているが、離れている生徒たちは彼女の声など耳に入っていないのか、尚も喋り続けている。

 

 がやがやとお喋りを止めない生徒たちに加え、壇上に向って吼える少女。

 

 体育館内はさらなる混沌に包まれる。いったい、どう収拾をつけるべきかわからず、凜子はちらりと裏で待機している委員長に目線を送って指示を仰ぐが、委員長は成す術もなく固まっている。

 

 ――ど、どうすれば……。

 

 冗談抜きで泣きそうになってきた凜子だったが、そこへ救いの手が差し伸べられる。

 もっとも、それは救いと表現するには、あまりにも荒々しいモノだった。

 

 その救いの主――春明は壇上で大きく息を吸い込み――そして叫んだ。

 

『やかましい!! うっとしいぞ、このガキ!!』

「「――!?」」

 

 キーンとハウリングするマイク。彼の怒りの叫びが、大音量のマイクを通して館内を駆け巡り、生徒たち全員の鼓膜に襲いかかった。 

 音の兵器とも呼べるそれは、混沌としていた体育館を鎮めるのに十分な破壊力を持っていた。

 あまりの大音量に耳を押さえる生徒たちを無視し、春明はさらに叫び続けた。

 

『こっちはさっきのごたごたで疲れてんだよ、ボケ!! これ以上、余計な面倒は起こすな、どチビ!!』

「……………………」

 

 春明の罵声に、目にちょっぴり涙を貯めながら固まるゆらの姿に、凜子は同情する。

 以前、彼が妖怪をしばき倒している現場を凜子は目撃したことがある。そのとき感じた彼のすさまじいプレッシャーは、今思い出しただけでも体が恐怖で震え出す。ゆらもきっと、同じようなプレッシャーを感じているのだろう。

 そして、彼の怒号に気圧されたのは、ゆらだけではなかった。

 先ほどまでワイワイと好き勝手に騒いでいた生徒たち全員が、春明の怒気に言葉を失っていた。

 静まり返る館内。皆が固唾を呑んで、彼の次の言葉を待っている。

 

『あー……どこまで話したっけ?』

 

 春明は頭をかきながら、めんどくさそうに原稿用紙に目を通す。だが何を思ったのか、次の瞬間にもその原稿をぐしゃぐしゃに握りつぶし、懐にしまいこんだ。

 その行動に、彼に最後の願いを託していた西野の表情が絶望に染まる。

 そんな彼を一瞥することもなく、春明はマイクを片手に語る。

 

『あーあれだ。なんか、さっきの騒ぎでどっと疲れちまった。面倒だから、手早く終わらせるぞ』

 

 相変わらずやる気のない態度で、彼は言い放った。

 

『とりあえず……一言』

 

 静まり返る体育館内に、その言葉は異様によく響いたという。

 

『――平和な学園生活を送りたければ、西野に投票しろ』

「「……………………………」」

 

 最後に『以上!!』と短く付け加え、そのままさっさと春明は壇上から立ち去っていく。

 こうして、長く感じた生徒会選挙は終了した。

 

 

 

 春樹の最後の言葉「平和な学園生活」という部分に、多くの生徒たちがハッとしたという。

 

「平和かー……」

「ん、どうしたお前?」

「いや……清継の演出、すごかったよな!」

「ああー! あれはすげーよ!! あんな真似清継にしかできねぇ、さすがだぜ!!」

「ああ、すごかったよ。けどさ……」

「けど、なんだよ?」

「……正直、毎回アレに付き合わされんのはどうかとおもってな……」

「……まあ、確かに。アレは心臓に悪いな……」

 

 そんな会話が、大半の生徒たちの中で流れたという。

 そして、皆が一旦冷静になって投票相手を考え直した結果。

 

 清継の支持率がどかんと下がり、多くの票が西野の方に流れていき、生徒会長は二年の西野に決定した。

 

 

 

×

 

 

 

「なぜなんだぁ~~」

 

 そんな生徒たちの気持ちの変化を察することも出来ず、清継は自分が敗北した原因も分からず教室の床に突っ伏している。

 

「き、清継くん、元気だすっす……」

 

 落ち込む彼に島が慰めの声を掛けるが、彼自身もつららに良いところを見せられず、落ち込んでいた。

 だが、彼らの落ち込む様子に目も暮れず、先ほどの生徒会選挙に困惑していた面々がいる。

 

「……ねぇ巻。さっきのお面の子、温泉のときに助けてくれた子だよね。なんで、こんなところにいたんだろう?」

「…………」

 

 鳥居が巻に問いかけるが、その返事は帰ってこない。

 二人は混乱していた。壇上に現れた巫女装束の女の子は、捻眼山に合宿にいったとき、妖怪たちから自分を助けてくれた人物であった筈だ。

 あそこは浮世絵町ともかなり離れた距離にある場所。そんなところにいた彼女が何故、どうしてと、疑問符を浮かべる少女たち。

 既に彼女たちは、あの少女の出現のおかげで、アレが清継の演出でないことを理解していた。あの巨大な妖怪も、刀を携えた男も同様なのだろうと。

 ならば、あれは本物の妖怪同士の戦いということになる。自然と彼女たちの身が恐怖で震える。

 

「なぁ……ゆら。ゆらなら、なにか知ってるんじゃないか?」

 

 巻は、先ほどからずっと黙ったままのゆらに問いかける。

 陰陽師である彼女ならば、あの状況でなにが起きていたか分かるかもしれないと考えての問い。だが、ゆらは難しい顔をするだけで、彼女たちの疑問に答えることが出来ずにいた。

 その代わり、二人を安心させようと、ゆらは別の言葉を発する。

 

「……とりあえず、調べてみんことにはわからへん。まずは――あの子に話を聞いてみるわ」

 

 

 

×

 

 

 

 ちょうどその頃、学校の屋上にて。

 

「二人とも! どうして何も教えてくれなかったんですか!! 心配したんですよ!?」

「…………」

 

 雪女のつららが、首無と奴良リクオに説教をしていた。

 今回、敵を欺くために行われた首無とリクオの入れ替わり。しかし、その入れ替わりは、首無の提案によって土壇場に行われた奇策であった。つららを始め、青田坊や黒田坊、毛倡妓、河童に何の説明もなく行われた。

 皆に説明する時間がなかったという理由もあったが、そのことで他の護衛たちの機嫌を損ねてしまっていた。

 首無以外の護衛たちが皆、へそを曲げるようにつららの説教を静観している。

 

「ほら……敵を欺くにはまず味方からだってね」

「言い訳無用よ、首無。若も!!」

 

 首無は何とか言葉で取り繕うとするが、つららの怒りは収まる様子を見せない。

 

「なんで入れ替わったの言って下さらなかったんですか! 闇があれば昼間っからも変化できるってことも! 心配させて、もう~!!」

 

 口うるさいようにも聞こえるが、これもリクオのことを想ってのことだ。つららのリクオへの過保護が自然と彼女の口調を厳しいものにさせていた。

 

 

 

「ところで、リクオ様。また現れましたね、あの狐面の女」

「うん……そうだね」

 

 つららの説教が一段落ついたところで、護衛の青田坊がリクオに声をかける。彼の言葉にリクオは顎に手を当て、考え込んでいた。

 

 巫女装束を着た、狐面の少女。奴良リクオが旧校舎で出会った、例の少女だ。

 リクオが彼女と対面したのはこれで二度目。旧校舎のときもそうだったが、彼女はまるでリクオの危機に駆けつけるようにその姿を現した。

 しかし、それだけではない。リクオの預かり知らぬところでも、彼女はその姿を晒している。

 

「黒羽丸たちの報告によれば、捻眼山にも、その姿を現したとのこと。いったい、どこの誰なのか。皆目見当もつきませんな……」

 

 黒田坊が警戒心を滲ませながら呟く。

 捻眼山での牛鬼によるリクオ襲撃事件。その際、リクオと別行動をとっていた女湯のゆらたち。彼女たちを救うためにも、あの少女は力を振るったと、奴良組のお目付け役であるカラス天狗たちの報告に上がっている。

 そして、今回の犬神の件――これで三度目だ。偶然と片付けるにしては、あまりにも出来過ぎている。

 

「何を目的としているか、次に会ったらその目的を問いたださねばなるまい」

 

 リクオとリクオの周りを助けるために現れたとはいえ、正体が掴めない以上、リクオの護衛である彼らがそのように警戒心を滲ませるのは、致し方ないことである。

 だが、不審がる護衛達とは違い、リクオは彼女に感謝の念を抱いていた。

 

「けど……彼女はボクを助けてくれた。ボクの友達を助けてくれたんだ。だからきっと、悪い妖怪じゃないよ」

「しかし……リクオ様」

「きっとまた、ボクたちの前に現れるかもしれない。そのときにでも、またお礼を言わなくちゃね!」

 

 自分と友達を助けてくれた彼女に、リクオが悪い感情など抱けるはずもなく。心配する護衛を尻目に、リクオはもう一度、彼女と出会える未来を嬉しさと共に思い描いていた。

 

「それよりも、今は四国妖怪の方を何とかするのが先決だよ。隠神刑部狸……玉章」

「そうですね。ようやく、敵の大将とその目的が判明したところですし」

 

 リクオと一緒に説教をされていた首無が、同意するように頷く。

 

 今回、奴良組のシマを荒らしにやってきた敵の正体。

 四国八十八鬼夜行を束ねる敵の大将――妖怪・隠神刑部狸玉章。

 

 妖怪・犬神を退けたリクオ達の元へ、彼は自らそう名乗り、その本性の一端を垣間見せた。

 玉章の目的、彼は――奴良組の、リクオの『畏』を奪い、リクオを自身の配下に並ばせてやろうと豪語した。

 奴良組の乗っ取りを宣言、正式に宣戦布告を告げてきたのだ。

 

 ――玉章。君は絶対に間違っている。ボクは、奴良組を君に渡すわけにはいかない!!

 

 リクオは当然、玉章の目的を断固として阻止するつもりだ。

 奴良組を守る為でもあるが、それ以上にリクオは玉章に、言い表せぬほどの拒否感を示していた。

 

 彼は犬神を――自分の配下の仲間を自身の手で消した。リクオに畏れを抱き、役立たずになったという、ただそれだけの理由で自身の配下を手に掛けたのだ。

 奴良組の皆を仲間と慕い、家族と慕っているリクオからすれば理解不能、あり得ない鬼畜の所業である。

 そんな相手に、自分の組を、家族を好きなようにさせるわけにはいかない。

 この戦いは絶対に負けれない。その決意の元、彼は空を見上げていた。

 

 数刻前まで、その空の下、同じ場所で幼馴染が涙を流していたことも知らずに――。

 

 

 

×

 

 

 

 ――私……今までいったい、何をしていたんだろう?

 

 家長カナは独り、虚ろな瞳で通学路の帰り道を歩いていた。

 先ほどの騒動で知ってしまった。奴良リクオと『彼』――自分を何度も助けてくれたあの着物の青年が、同じ人物であることを――。

 別に騙されたと、リクオにショックを受けているわけではない。

 寧ろ、騙していたのは自分の方。面霊気を被り、顔を隠し、無力な人間を演じながらも、リクオの傍で幼馴染として振る舞ってきた。

 だからこそ、リクオが秘密の一つや二つ抱えていたところで、責める資格などないと彼女は自覚していた。

 

 カナがショックを受けていたのは、リクオを無力な半妖と、自分が勝手に決めつけていた事実に気づいてしまったからだ。

 勝手に彼を無力と決めつけ、彼を守ろうと意気込み、結局いつも助けられていたのは自分だという事実に気づいてしまったからだ。

 だが、彼に自分の助けなど要らなかった。

 彼を慕う奴良組の妖怪たちが彼を守り、いざとなれば彼自身の力で彼は自分を、仲間を、友達を護りぬくだけの力を誇っていた。

 

 ――どうしよう。私……この先どんな顔でリクオくんに遭えばいいか、わからないよ……。

 

 その力を知ってしまった以上、自分の助けなどいらないと、カナは自分の無力感に苛まれていた。

 心を失くしてしまった人形のように、ただ漠然と道を歩いていく。

 すると、そんな彼女の背中に――

 

「家長さん……ちょっとええか?」

 

 声を駆ける少女――花開院ゆらがいた。

 陰陽師である彼女はいつになく真剣な表情で、カナの肩に手を置き、彼女を呼びとめていた。

 

「ゆ、ゆらちゃん?」

 

 先ほどの騒動のこともあってか、カナの空虚だった瞳が揺れる。

 先の騒動で、大した活躍ができなかったといえ、彼女もその舞台上に上がっていたのだ。

 もしかしたら、自分の正体に感づいたのかと、カナは胸の内の動揺を悟られないように必死に隠していた。

 しかし、カナの動揺とは裏腹に、ゆらはただ一つ――とある人物にの名前を口にしていた。

 

 「ちょっと、リクオくんのことで……聞きたいことがあるんやけど、ええか?」

 

 

 

 




補足説明

 清継
  ご存じ清十字団団長の清継。奴良リクオの友人。
  原作では生徒会長に当選しますが、物語上、彼が生徒会長であることに必然性がないので、今作ではこのような結果にさせてもらいました。少年よ……これが絶望だ。
  書き手として、彼は何かと面白く、生き生きと描くことができるいいキャラです。

  西野
   今回、清継の代わりに生徒会長に当選した男子。
   作者のオリジナルキャラではありません。先にも登場した実好くん同様。生徒会選挙に立候補した人物として、名前だけですが作中に登場します。
   実好くんと違って、容姿もわからず、性別も不明。一応春明たちと同じ二年の男子ということにしましたが、特にキャラ付けはしていませんので、一発キャラで終わる可能性が高いですね。


  
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