家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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 だいぶ間が空いてしまいましたが、続きです。ようやく猛暑が収まり、涼しくなってきました。新しい季節の変わり目、心機一転頑張って投稿していきたいです……と言いたいところですが、申し訳ありません。
 前々から呟いてきましたが、溜め込んでいたストックがとうとう切れてしまいました。話自体はこれからも続けていきますが、目に見えて更新自体が遅くなると思います。ご迷惑をお掛けしますが、どうか長い目でお待ちください。

 感想欄には一日一回は必ず目を通しますので、感想、評価、質問があればそこにコメントを下さい。もし、感想に対する返事が一週間以上ないのであれば、作者は亡くなったと諦めて下さい。
 作者がお亡くなりになって未完で終わる小説は決して少なくない。
『風の聖痕』しかり『トリニティ・ブラッド』しかり『ゼロの使い魔』などなど。
 ゼロは別の人の手により、完結したけど。
 



第二十幕 リクオの秘密、カナの秘密

夕暮れが一日の終わりを告げる。

駅前では会社や学校帰りの、サラリーマンや学生たちが帰宅のため集まってきていた。

 

「…………」

「…………」

 

 その集まった人々の中に、家長カナと花開院ゆら、二人の少女の姿があった。彼女たちは駅前のベンチに腰を下ろし、自動販売機で買った飲み物を片手に一息つく。

 カナはいちごミルクを、ゆらは紙パックの牛乳を。特に言葉を発することもなく、ちゅるちゅるとストローの音だけを響かせている。

 適度な緊張感が漂う中、カナはゆらが話を切り出すのを静かに待っていた。

 

 ――ゆらちゃん……急になんだろう。リクオくんのことを聞きたいだなんて……。

 

 つい先ほど、通学路でゆらに呼び止められたカナ。ゆらがリクオのことで話があるというから、黙ってここまでついてきた。

 最初は自分の正体が気づかれたのかと慌てたものだが、どうやらそのことに関しては心配ないようだ。ゆらからは、自分のことを怪しむような、警戒するような気配は微塵も感じられない。

 代わりに、ゆらから感じられたもの――それは奴良リクオに対する、懐疑心のようなものだった。

 

 ――もしかしたら、ゆらちゃん!

 

 カナはドキドキとしながら、ゆらの言葉を待つ。

 そして――

 

「家長さんて……奴良くんと、どんな関係なん?」

「えっ!? ど、どんな関係ってっ……?」

 

 ゆらの口から飛び出てきた質問に、ドキんとカナの心臓の鼓動が高鳴った。

 

「ほら、いつから知ってるとか。彼、どんな人とか……」

「あ――え、え……と、それは……」

 

 ゆらが食い入るように詰め寄り、カナを質問責めにする。その問いかけにカナが言葉を詰まらせていると、カナの手を取りながら、さらに畳みかけるようにゆらは問いを投げかけてきた。

 

「普段、彼とはどんな話をしてるん!? 休みの日とかは!? 友人関係とか!?」

「え、ええ――ちょ、ちょっと待って!?」

 

 ゆらの迫力に押され、思わず体を反らす。それにも構わず、ゆらはさらにカナへとグイグイと顔を近づけてきた。

 

 ――そ、そんなこと、何で私に……。

 ――ゆらちゃん、なんかいつもと雰囲気違うし……。

 

 普段のゆらは、どちらかというともっとのんびりして、どこかおっちょこちょいだ。このように、前のめりになってまで、同年代の男の子に対して興味を持つような少女ではない。

 彼女がこうまで、強い関心を持つことなど、それこそ――妖怪が絡んだときくらいだろう。

『陰陽師』として妖怪への敵意を現すときのみ、彼女はその意思を強く持つのだ。つまり――

 

 ――そ、そーだ! やっぱり、ゆらちゃん。リクオくんの正体に勘づいて!!

 

 それは無理からぬことだろう。

 先ほどの生徒会選挙での騒動。リクオと『彼』――妖怪の総大将は、まるで入れ替わるように舞台の上に姿を現した。実際、『彼』こそがリクオで、その姿を変化させていた同一人物だった。

 それだけではない。

 窮鼠に誘拐された一件。捻眼山で妖怪に襲われた一件。リクオの周りで、立て続けに妖怪が絡む事件が発生していたのだ。

 たとえ、彼とリクオが同一人物だという答えに辿り着けなくても、何かしらの関係があると考えるのが自然なことだろう。

 

「家とか……昔から行っとたんやろ? 幼馴染なんやろ?」

 

 カナにリクオのことを聞いてきたのも、その正体を探るための情報収集だろう。

 リクオに直接問い詰めたところで、おそらくはぐらかされるのがおちだ。だからこそ、リクオと近しい人間として、ゆらはカナを選んだのだ。

 幼馴染という肩書を持つ、カナに。

 

 ――ど、どうしよう。私……どう答えたら……。

 

 カナは心中の動揺を押し殺し、思考を巡らせる。

 リクオの事情——彼が奴良組の三代目である事実を教えることなど、勿論できない。そんな大事なことを彼の許しもなく勝手に教えることなど、彼を裏切るも同然だ。

 つい先ほど、リクオの真の正体を知ってショックを受けたカナといえども、安易に口を滑らせてはいけないことだと理性が働く。

 なんとか、リクオの正体について語らず、この場を切り抜けるしかない。嘘をつくのは心苦しいため、ここは上手くはぐらかす必要があるだろう。

 カナはゆらに愛想笑いを浮かべながら、落ち着いて言葉を選んでゆらの質問に答えていく。

 

「べ、別に……幼馴染だからといって、いつも一緒だったわけじゃないよ……」

「え? そ、そうなん?」

 

 意外な答えだったのか、ゆらは拍子抜けするように首を傾げる。

 

「うん。リクオくんと出会ったのは幼稚園からだけど、小学校に上がるくらいに私、家の都合で浮世絵町から離れてた時期があったからね。四年前くらいだったかな……小学三年生くらいのときになってこっちに戻ってきて、そこで小学校でたまたまリクオくんに再開した……って感じかな?」

「へぇ……そうだったんか」

 

 そう、幼馴染といってもカナにもこの街にいなかった時期がある。

 その間、およそ三年ほど。その間、カナはリクオとこの浮世絵町と関わりを持っていなかったのだ。

 しかし、カナのその説明にも、ゆらは尚も食い下がる。

 

「けど、幼馴染ってことにかわりはあらへんやろ? せや! 写真! 奴良くんの映ってる写真とかない?」

「写真……写真か……」

 

 カナはゆらの質問に頭を悩ませる。

 幼稚園の頃の写真は、残念ながら持ち合わせてはいないが、この街に戻ってきてから今日までの四年間の写真ならある。小学校の卒業アルバムがそうだ。

 アルバムが配られたその頃は、カナもいろいろと個人的に立て込んでいた時期であったため、見返したりはしてはいないが、確か家のタンスの引き出しの奥にしまっておいたと記憶している。

 

「ゆらちゃん……リクオくんのこと、そんなに知りたい?」

 

 ゆらの意気込みに対し、カナは真剣に問いかける。彼女の問いに、真摯な瞳でゆらは黙って頷く。

 

「……そっか、わかったよ、ゆらちゃん」

 

 ゆらの想いに、とうとうカナの根気の方が先に折れた。自分の口から、リクオの正体に関して話すことは絶対にできない。しかし、これ以上ゆらの興味から、真実と向き合う心からはぐらかして逃げ出すことがカナにはできなかった。

 

「うちに来て、リクオくんのこと、私の話せる範囲でよければ教えてあげるから」

「ホンマか!?」

「うん! 写真も、小学校の卒業アルバムでよければ見せてあげられるから」

 

 カナの言葉に「よしっ!」とガッツポーズを取るゆら。よっぽどリクオの正体を暴きたいのであろう。

 ゆらには悪いが、カナは全てを話すつもりはない。彼女がいかに陰陽師として頑張り屋さんと言えどもだ。だが、写真くらいならば。それくらい見せたところで、問題にはならないだろうと。

 カナはゆらの気が済むまで、見せてあげようと、彼女を家に招くことを決意した。

 

「それじゃあ……行こうか」

「せ、せやな! 善は急げや、はや行こ!」

 

 そうと決まればとばかりに、ゆらはキビキビとカバンを持って立ち上がる。

 こんなところで道草食っている場合ではないと、カナを急かすように息巻く。

 

「うんわかってる、でも、その前に……」

「その前に……なんや?」

 

 だが、急かすゆらを落ち着かせるように、カナはゆっくりと立ち上がる。

 自動販売機の横に設置されているゴミ箱に、飲み干した紙パックのいちごミルクをダストシュートし、カナは嬉しさを隠し切れずに声を弾ませ、心からの笑顔で微笑んだ。

 

「買い物に付き合ってよ。せっかくだから、夕飯食べていってもらいたいから!」

 

 

 

×

 

 

 

 その日の夜――浮世絵町の空は闇に紛れ、漆黒の雲が覆っていた。黒い霧が町全体を包み込むように広がり、人々の背筋を凍らせる。

 それはこの町に、大量の妖怪たちが押し寄せてきたことを知らせる合図でもあった。

 奴良組を始め、もともと多くの妖怪たちが住む浮世絵町だが、今この街に押し寄せる妖気は関東の妖怪たちのものではない。

 四国八十八鬼夜行の増援。

 遥か四国から、または四国を故郷とする全国各地で活躍する妖怪たちが。この浮世絵町の玉章の幻術によって作られた本拠地の高層ビルへと集結していた。

 きたる奴良組との――最終決戦のために。

 

 

 

「ふん、緊急会議か……それで? 何か対策は立てているのかな?」

『何、大したことはなにも。昼行燈とはアイツのことですよ』

 

 その四国妖怪たちを束ねる長――玉章。彼は現在、自身の部屋でとある相手と連絡をとっていた。

 部屋には玉章の他に、七人同行の一人、夜雀が控えている。新生八十八鬼夜行の長である玉章の側には、常に護衛が一人以上付き従っている決まりだ。先日までその役目は常に犬神がこなしてきたのだが、彼の姿はもうここにはない。

 他でもない、玉章自身の手で消したばかりだ。

 

『――散れ、カス犬』

 

 昼間の一件。犬神は奴良リクオの抹殺に失敗し、彼に対し『畏』を抱いてしまった。恨みが畏に変われば、その力は二度とリクオに牙を剥くことができなくなってしまう。故に――始末した。役立たずとなった犬神を、玉章は何の感情も込めずに、己の神通力で消したのだ。

 

『たま、ずき……』

 

 今際の際、犬神は縋りつくような目で玉章を見ていたが、それで痛む良心など持ち合わせてはいない。玉章にとって配下の妖怪など、替えのきくコマでしかない。犬神も、今部屋にいる夜雀も、全て玉章が魑魅魍魎の主になるための消耗品に過ぎないのだから。

 

「――――――――――」

 

 もっとも、代わりと言っても犬神とは違い、夜雀は一切の無駄口を叩かない。犬神ならば自分が電話中であろうと、会話に入ってきてやかましく騒ぐであろうことを想像し、ほんの少しの物足りなさを感じる玉章。

 しかし、そんな感情をおくびにも出さず、玉章は電話相手の話に黙って耳を傾けていた。

 

『あんな調子じゃ、あんたがじきに天下を取るだろう』

「そうか……それは有り難いね」

『ワシが手引きした甲斐があったてもんだ。その暁には是非、ワシに重要なポストを頼むよ。ギヒヒ……」

「ははは……」

 

 電話先で嫌らしく笑う相手の言葉に、玉章は愛想笑いを浮かべる。彼が連絡を取っている相手は——奴良組内部に潜んでいる内通者だ。

 玉章が関東に攻め入る足がかりを手引きした相手であり、奴良組を裏切り、四国側に彼らの内部情報を売り払った男。そして――玉章に力を、あの『神宝』を与えた相手でもある。

 

 正直なところ、玉章はこの協力者に見返りを与えるべきかどうか、未だ決めかねていた。

 神宝を自分に与えてくれたことに感謝はしている。この神宝のおかげで、ずっと日の目を見ることがなかった自身の立場は大きく変動した。その力を以って、玉章は自分を見下し続けてきた無能な兄どもを皆殺しにし、その力を前に、四国中の妖怪たちが自分の元へついてくるようになったのだから。

 

 しかし、所詮は自身の組を裏切り、売るような相手だ。

 自分たちの配下に収まったところで、また同じように保身のために別の組に寝返るかもしれない。

 そのような相手に重要なポストを任せるくらいならば、いっそ奴良リクオを幹部に取り立てるくらいのことをした方がマシだと考えていた。

 

「……君は、彼の闇での姿を見たことはあるか?」

 

 そこでふと、今日の昼、体育館で奴良リクオと対面したときのことを思い出しながら、玉章は内通者に尋ねる。

 

『? いや……ないな……』

 

 内通者の口から返ってきた予想通りの返答に、玉章は薄く微笑む。

 

「狸の皮を被っているのは、彼の方かもしれないよ?」

『ははは……そんな馬鹿な」

「ふっ、また後でかけ直すよ」

 

 内通者のリクオを小馬鹿にするような笑い声に、もう用は済んだと通話を切る玉章。

 

 先の体育館でのリクオとの対面。

 真っ暗な闇を閉じ込めた体育館という場所だったからか、昼にも関わらず、奴良リクオは夜の姿で玉章と対面することができた。

 実際、玉章は彼のことを見くびっていた。まさか、あんな弱々しい昼の姿から、ああも見事に化けるとは思ってもいなかったからだ。

 あれこそ、闇に純粋に通ずる魔導の姿。あれこそ、まさに百鬼夜行を率いる器。

 どこか自分と通ずるものを、あの夜の姿に玉章は垣間見た。

 勿論、自分には遠く及ばないという註釈が着くが、それにしても見事な変わりようであった。あれだけの変わり身ができるものが、この先なんの手も打ってこないわけがない。きっとすぐにでも、何らかの策を繰り出してくるだろう。

 

 ――ぬらりひょんか、化け狸か。騙し切るのはどちらかな、リクオくん……ふふふ。

 

 その化かし合いを楽しむように、玉章は酷薄な笑みを浮かべる。

 すると次の瞬間にも――

 

「玉章! 玉章、大変だよ!! が、岸涯小僧が!」

 

 七人同行の一人、針女が血相を変えて玉章の元へと転がり込んできた。息を切らせ、ただ事ではないことを予感させる。

 

「ほう……さっそく、仕掛けてきたか」

 

 しかし、部下の狼狽ようにも玉章は動じない。

 まるで相手方が打ってきた一手を楽しむように、彼は冷笑を浮かべていた。

 

 

 

×

 

 

 

「おおお~……これが家長さんの部屋か……」

「あ、あんまりジロジロ見ないでね。なんか、恥ずかしいから」

 

 夕食の買い出しを済ませ、ゆらは先の約束通り、カナの家にお邪魔させてもらっていた。カナが借りているアパートの一室。カナがゆらを家に上げる前に、少し掃除をすると待ってもらっていた成果だろうか、室内は小奇麗に整えられている。

 

「それじゃあ、まずは夕食作るから、適当に寛いでてね、ゆらちゃん」

 

 自宅に戻って早々、カナは真っ先にアルバムを見せずに、エプロンを着けて夕食の支度に取りかかった。

 夕食までご馳走になるつもりはないと最初は断ろうとしたゆらだったが、あまりの空腹に耐えきれず「ぐぅ~」と盛大な腹の音を鳴らしてしまい、頬を染めながらも黙ってご相伴に預かることになった。

 しかし、ゆらは当初の目的を忘れたわけではない。隣のキッチンから、湯を沸かす音や、包丁をトントンと鳴らす音を耳に入れながら、ゆらはさっそく――カナの部屋の捜索を開始した。

 

「……ふむ」

 

 手始めに、ゆらはカナのベッドの下を、四つん這いになって覗き込む。

 

「――ゆらちゃん。取りあえず夕食ができるまでお茶でも……ひぃっ、な、何やってるのゆらちゃん!?」

 

 そこへ、夕食できるまでお茶でもどうかと、進めに来たカナが、ゆらの奇想天外な行動にたじろんでいた。

 そんなカナの動揺っぷりに構わず、ゆらは平然と答える。

 

「何でもあらへん……これは、陰陽師の習性や。人ん家でつい妖怪を探してしまうんや」

「えっ、い、いないよ! よ、妖怪なんて!!」

 

 カナは必死になって首を振る。

 

 

 実のところ――妖怪はいる。

 カナが春明から預かっている、狐面の付喪神――面霊気ことコンちゃんが。

 ゆらが家に上がり込む前。掃除をすると待ってもらう間に、部屋に戻ったカナはカバンの奥にしまい込んでいたコンちゃんを、押入れの中の、さらに奥に彼女を仕舞いこんだ。

 カバンの中で事情を聴いていたためか、特に何も文句を言うことなく面霊気はカナの行動を受け入れ、完全に妖気を消し去り、待機している。

 その面霊気の妖気にゆらが気づいたのかと。カナはハラハラとゆらの行動に一喜一憂していた。

 

 

 

 だが実際のところ、ゆらの目的は妖怪探しではない。彼女は面霊気の気配に気づいた様子もなく、カナの言葉に――

 

「さーてね。ふふふ」

 

 と、棒読みで答えていた。

 

 ゆらがカナの家に来た目的はあくまで奴良リクオの正体を暴くため。カナにアルバムを見せてもらう以外の方法でも、ゆらはその正体の真に迫ろうとしていた。

 

「幼馴染なんやったら、きっと頻繁に出入りしとるに違いない。世の中そうに決まっとる!」

 

 ゆらは独自の幼馴染感、妄想によって、リクオがこのアパートに出入りし、何かしらの痕跡を残していると考えたのだ。

 

 見える、見えるぞ!!

 ゆらの脳裏に、ほわんほわんと浮かび上がる。

 幼馴染の家にノックもせず上がり込み、カナの着替えを覗き込んでしまう、奴良リクオの図が――

 

『また来たよー、カナちゃん』

『もう、ノックしてって、言ってるじゃん!』

 

 言うまでもなく、これは完全にゆらの妄想の暴走だ。

 リクオはこのアパートに訪れたことはおろか、カナが一人暮らしをしているという事実すら最近まで知らなかったのだ。痕跡など、いくら探しても出てくる筈がないのだ。

 しかし、そんな事情も知らず、一人暴走が止まらないゆら。

 

「と、とりあえず、これでも食べてね……」

 

 カナが適当な茶菓子で注意を引き、ゆらも一度はそれにがっつきもするが、その勢いは止まらず、カナがキッチンに戻ると同時にゆらは探索を再開する。

 

「次はベッドの上や! あんなええ娘を奴良リクオめ! きっと二人で何か、痕跡を残してるに違い……はっ!!」

 

 そこで、ゆらはある物を見つけてしまう。

 

「こ、これは、カキピーのカケラ!!」

 

 それはだらしなくも、カナがベッドでテレビを見ながらカキピーを食べていた痕跡なのだが、ゆらのピンク色の脳細胞にかかれば――

 

『カナちゃん、ほら、あ~ん』

『あ~ん……うん、美味しいよ、リクオくん……』

 

 と、カキピーを食べさせあう情景へと脳内補完される。

 

「ふ、二人でぬくぬくと、ベッドでカキピーを……カ、カキピーを……」

 

 さらに、その後の展開まで妄想を膨らませるゆら。

 

『……カナちゃん……』

『……リクオくん……』

 

 ベッドの上でぬくぬくと見つめ合い、そのまま――そのまま――

 

「カ、カ、カキ……ピ―――――って何やねん!! はっきり言えや!! うあああああああぁぁぁぁ!!」

 

 しかし、悲しいかな。所詮は中学生。この先の展開についての具体的なビジョンを、ゆらはまだ持っていない。

 自身の妄想が具体的な画に出来ない歯痒さを糧に、さらに探索を続けていく。洋服タンスや、べランドの窓など、ありとあらゆる場所を、虱潰しに探す。

 この調子では行けばいつ、押入れの奥の面霊気の存在に辿り着くかもわからない。カナは別の意味でも危機的な状況を迎えていたわけだが――そうはならなかった。

 

 ゆらがこの部屋に潜む妖怪の存在に辿り着く前に――彼女は『それ』を見つけてしまった。

 

 小さな部屋があった。年頃の少女らしい生活感が溢れる部屋の隣の、小さな畳部屋。

 そこに小さな仏壇が置かれていた。決して豪勢な造りではない。仏壇として最低限の役割のみを果たすそれを前に、ゆらの妄想も終わり、彼女の動きが止まる。

 

「これは……」

 

 仏壇からは、先ほど家に帰ってすぐに上げたのだろう、線香の匂いが香ってきた。

 すると、ゆらの背後からカナの声がする。

 

「あっちゃー……見つかっちゃったか……」

 

 ゆらが後ろを振り返ると、そこにはいつも通りの笑顔の中、わずな憂いを秘めた家長カナの姿があった。

 その態度と、言葉に、ゆらはまさかと思いながらも――聞いてしまっていた。

 

「い、家長さん。こ、この仏壇はひょっとして……」

 

 できれば違うと答えてほしかったが、その期待を裏切るよう、カナはわずかに躊躇いつつも、きっぱりとゆらの質問に答えていた。

 

 

「――うん、仏壇だよ。――お父さんと、お母さんの……」

 

 

 

 

 




補足説明

 原作のカナちゃん
 「リクオくんてたぶん……私のこと好きだと思うから!!」
  今作ではカットした、原作の迷台詞。思えばこのセリフの影響かな。読者のカナに対する風上りが強くなったのか……カナちゃんの出番が見る見るうちに削られていった気がする。

 ゆらの妄想
  原作コミックス五巻の巻末おまけ漫画より。
  カナの家に上がり込んだゆらが、一人妄想を爆発させる。アニメだとここまではっちゃけていなかったけど、漫画ではブレーキがないゆらちゃん。思わずカットしようかと思ったけど、思い切って書くことにしました。
  アニメでも、リクオとカナが付き合ってると思っていたゆら。ホント、妖怪が絡まないと脳内がピンク色だな、この子は……。

 前書きでも書きましたが、暫く更新が滞るかもしれません。
 そこで、ぬら孫が好きでこの小説を読んでくれる方にお知らせ。
 『今週のぬら孫』というサイトをお勧めします。
 このサイトは、ぬらりひょんの孫の各話をカナとつららとゆら。三人のトリプルヒロインが和気藹々と振り返るというものです。もうほとんど更新されていませんが、作者は今でも時々見返して、笑わせてもらっています。ここで出たコメントなども、少なからずこの小説に影響されているでしょう。どうか合わせてお楽しみください。
 
  

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