家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

22 / 72
 
 久々の連休――!! 
 テンションが上がり、どうにか一話を書き上げた。そのテンションのまま、さあ、明日はゲゲゲの鬼太郎を見るぞ、と意気込んだのも束の間。
 
 明日は、ゲゲゲがお休みということに気づき、一気にテンションを下げる。

 マジか……週一の楽しみが……。
 けど大丈夫! 10月からは、鬼太郎も新シリーズ『西洋妖怪編』がスタートすることに今からテンションが爆上げ!!
 まなと猫娘に引き続き、新ヒロイン、アニエスも登場。まさかのゲゲゲの鬼太郎もトリプルヒロインの制度を導入してきやがった。
 どんな可愛い女の子なのか、今から楽しみですな――。

バックベアード様「このロリコンどもめ!!」

 


第二十一幕 百鬼夜行と盃

「リクオ。お前は……お前の百鬼夜行を作れ――!!」

「ボクが――百鬼夜行を作る?」

 

 布団にへたれこむ奴良リクオを叱り飛ばすように、彼と義兄弟の盃を交わした鴆が突きつけるように提案する。

 今――奴良組、いや、奴良組若頭のリクオは苦境に立たされていた。

 

 総大将たる、ぬらりひょんの不在。若頭たるリクオは先頭に立って、陣頭指揮をとらねばならない立場にある。その役目を果たすためにも、リクオは奴良組幹部の一人、牛鬼の推薦により、彼の配下である牛頭丸と馬頭丸の二人に敵軍の本拠地へのスパイ活動。四国八十八鬼夜行の増援に乗じて、敵軍に潜入するように命令を下した。

 

 少しでも自分たちが優位にたてるように。敵の次の一手、戦力を調べるために。

 

 だが、その結果——牛頭丸と馬頭丸の二人は重傷を負って戻ってきた。

 たまたまシマ内をパトロールしていた三羽鴉たちが彼らを連れ帰ってきてくれたが、もしそうでなければ、二人とも命はなかっただろう。

 牛頭丸など、「俺の力不足だ」と、己の不甲斐なさを悔しがっていだが、リクオは自分の作戦ミスだと、自分自身を責めた。

 組員の失態は、組の頭たる自分の責任。牛頭丸は自分の命令で動いてくれただけだ。策を提案した牛鬼も悪くない。最終的な判断を下したのは自分だ。全て自分が悪いのだと。

 

 そして――奴良組の妖怪たちも、この失態の矛先をリクオへと向ける。

 

『リクオ様では……ダメなのではないか?』

『この組は妖怪集団――人間なんぞに率いれるわけがない』

『やはり、総大将でなければ……』

『器を見誤ったのではないか?』

 

 リクオに近しい側近たちは何も言わなかったが、リクオを普段から軽く見る、妖怪たちが彼の陰口を叩く。

 その重圧に――ついに彼の心身が疲弊する。

 急激な目まい、吐き気と共に、リクオの意識は急激に真っ暗な闇の中へと沈んでいった。

 

 

 そして――目覚めたリクオは、彼を看病してくれた鴆によって叩き起こされた。

 どこまでも自分を追い詰めるリクオの、雁字搦めに固まった考えを、無理矢理解きほぐすかのように、鴆はリクオに先の言葉を投げかけていた。

 

「そうだ。妖怪なんざ、気まぐれなもんさ。大将に強さを感じなきゃ、どこへなりともすぐに消えてっちまう」

 

 実際、リクオの失態に疑いの目を向けた妖怪たちのように。

 人間からすれば薄情に見えるかもしれないが、それもまた、本来あるべき妖怪の在りようというものだ。

 だからこそ、その程度のことでいちいち忠誠心を揺るがすような連中に付き合う必要はないと、鴆はさらに続ける。

 

「いいか、リクオ。『畏』をぶつけて百鬼を集めろ。この俺のときのように……お前ならできる!」

 

 事実、鴆はリクオと盃を交わした。

 リクオという器を認めたからこそ、彼はリクオと義兄弟の契りを結んだのだ。

 だが――リクオは、

 

「わかってる。鴆くん。けど、それ――夜のボクのことを言ってるんだろ?」

 

 そう言って、昼の自分を卑下する。

 

 昼の、今のリクオは人間だ。

 ぬらりひょんの血が四分の一しか流れていない自分は、夜の間しか妖怪にはなれない。そして、妖怪たちがどれだけ自分を慕ってくれていても、それは夜の自分に向けられているものだと考えている。

 それこそ、昼のリクオが普遍的に抱える悩みであった。

 だからこそ――今の姿のままでも、皆についてきてもらえるように頑張るしかないと。どこまでもリクオは自分を追い込んでいる。

 しかし、そんなリクオをさらに畳みかけるように鴆は彼に喝を入れる。

 

「ばっかやろー!! やっぱり、おめーはなんにもわかっちゃいね――! 百鬼夜行をそうじゃねえだろ。昼も夜も関係ない。『お前そのもの』におのずとついてくる仲間ってのを――集めろってんだ!!」

 

 そう叫ぶや、鴆は勢いよく後ろの障子をあけ放った。

 

「どわっ!?」

「ば、バレてたのか……」

 

 その障子の向こうには、鴆とリクオの言い争いを覗き見ていた側近たちが立っていた。

 

 青田坊、黒田坊、首無、河童――そして、雪女のつらら。

 皆、幼少期の頃より、リクオを見守り、仕えてきた者たちだ。

 

 部屋を覗き込んでいたバツの悪さに、一瞬気まずく沈黙する側近たちだったが、息を吐かせぬ間に、彼らは口々に叫んだ。

 

「リクオ様!!」

「我々と――盃を交わして下さい!!」

「え……!?」

 

『盃』――妖怪任侠世界において、種族の異なる妖怪同士が血盟的連帯を結ぶための儀式だ。

 一度盃を交わした以上、裏切りなどもってのほか。

 ましてや、側近たちがこのとき望んだ盃は、七分三分の盃。

 リクオと鴆が交わした義兄弟の盃――対等の立場となる五分五分の盃ではない。

 真の忠誠を誓うという――親分子分の盃。

 真の信頼がなければできぬ、絶対の契りであった。

 

「でも……ボクは、四国が来てから、皆に迷惑かけっぱなしだし……」

 

 未だに自分自身に自信の持てないリクオは、そんな側近たちの提案に不安げな表情を隠すことができなかった。

 しかし――皆を代表するように青田坊が言う。

 

「だからこそ、我々と一緒に戦いましょう! 俺たちを使ってくれりゃーいいんですよ!」

「みんな……」

 

 彼の言葉に、他の妖怪たちも頷く。

 その覚悟のほどを受け取ったリクオ――彼は、側近たちと七分三分の盃を交わすことを決心した。

 

 そうして、厳粛に行われる盃の儀式。

 青田坊、黒田坊――奴良組の特攻隊長二人が、我先にとリクオの盃をいただく。

 次に首無。彼は優しい瞳でリクオを見据えながら言ってくれた。

 

「リクオ様。どのようなリクオ様でも、私たちは受け入れます。信じてついてきた、この家の『宝』なんですから。――自分に、正直に生きてください」

 

 ――自分に、正直に……。

 

 その言葉に、リクオは勇気づけられる。

 次に、雪女のつららがリクオの盃を受けとろうとしたところで、彼はふと――とある女性の姿を連想する。

 

 巫女装束の、顔もわからない、髪の白い女性。

 だが、それでも自分と――自分の周りの人間たちを、幾度となく救ってくれた少女。

 

 いつか、奴良組以外の妖怪と――彼女のような妖怪とも、盃を交わすことができるのだろうかと。

 

 

 

×

 

 

 

 ――あかん……私、やってもうた……。

 

 家長カナが住むアパートの一室にて。花開院ゆらは自身の軽率な行動によって生まれた後悔にうなだれていた。

 リクオのことを探ろうと思って、カナの部屋を無遠慮に物色していた彼女。その過程で、ゆらはカナの秘密を知ってしまった。彼女には既に――両親がいないという、その事実を。

 

 ――……一人暮らしとは聞いてたけど、まさか……亡くなってたなんて……。

 

 ゆらがカナの両親の仏壇を見つけ、カナ自身の口からも肯定された。

 その後、カナは何事もなくキッチンに戻っていったが、ゆらの心はもう探索どころではなかった。先ほどとは打って変わり意気消沈した、ゆらの表情。お通夜そのものといった空気で、彼女は何もすることができず、その場にうずくまっていた。

 

「――お待たせ、できたよ! さっ、食べよ……どうしたの。ゆらちゃん?」

 

 ゆらとは対照的に、キッチンから顔を出したカナは、何事もなく笑顔で料理を運んでくる。

 その笑顔が、無理やり強がっているように見えて、ゆらはとてもいたたまれない気持ちになってしまう。

 

「ごめん……ごめんな、家長さん。……あたし……あたし…………」

 

 ゆらは罪悪感のあまり、目に涙すら浮かべていた。彼女の泣きじゃくる様子に、今度はカナが狼狽する。

 

「ちょ、ゆらちゃん!? そ、そんな……だ、大丈夫だから、私は気にしてないから、ねっ?」

「けどっ――!!」

 

 そんな簡単に許されていいことではないと、ゆらは尚も自分を責めようとするが、そんな彼女にカナは少しだけ笑顔を曇らせながらも、はっきりと言ってのけた。

 

「ほんと……大丈夫だから。二人が亡くなったのも、もうずっと昔の話。そのときに……沢山泣いたから、私は平気だよ、ゆらちゃん」

「家長さん…………」

 

 カナのその言葉に、ゆらは涙を拭きながら顔を上げる。

 

「あっ、でも……学校の皆には内緒にして欲しいかな。その……あんまり、気を使わせたくないから……」

 

 そんな持ち直したゆらに、カナは自身のお願いを口にする。

 

「……う、うん。わかった! 誰にも言わへん! ……奴良くんは、このことを知っとるんか?」

 

 その願いに首を全力で頷かせるゆらであったが、ふと気になってしまい問いかけていた。

 自身の推測が正しければ、奴良リクオはこの部屋に頻繁に訪れている筈だ。この仏壇の存在に気づいてもいいもの。しかし、ゆらの疑問にカナは一瞬固まり――そして首を横に振った。

 

「ううん……リクオくんには……尚更、知られたくないから……」

「…………」

 

 幼馴染のリクオですら知らないという、カナの秘密。

 そんな大それたものを、まだ出会って半年も経っていない自分が知っていてよかったのかと。ゆらはその責任感に、再び顔色を曇らせる。 

 

「ほらほら! そんな、ゆらちゃんが落ち込むことなんてないよ! さっ、ご飯食べよ。いっぱい作ったから、遠慮しないでね!」

 

 落ち込むゆらを励まそうと、カナは作った料理で彼女をもてなす。

 こんな話をさせておきながら、今更夕食をご馳走になるなど気は進まないゆらであったが、折角の好意を無下にするのも悪いと考え、重苦しくも箸をつけていく。そして――

 

 

 

 

 

「ふぅ~……ごちそうさん。いや~上手かったで! 煮物なんて、久しぶりに食べた気がするわ!」

「ふふっ、お粗末様でした」

 

 三十分後。そこにはカナの手料理を食べきり、膨れた腹を押さえながら満足げに一息つくゆらの姿があった。

 先ほどのやり取りもあってか、始めは食欲など湧いてこなかった彼女だが、一口箸をつけた瞬間、空腹が一気に押し寄せてきた。

 ゆらはここ数日、生活費を節約するため、まともな食事にありつけていない。

 毎日ほぼ、TKG——卵かけご飯ばかりの食生活を送っている中、人肌を感じる暖かい手料理に食欲を刺激され、どんどんと箸が進んでいった。

 カナも、そんなゆらの食べっぷりに、作り手として満ち足りた表情を浮かべている。

 

「いや~、家長さんは、ほんまに料理上手やわ~。ええお嫁さんになるで!」

「ふふふ、ありがと。お世辞でもうれしいよ。……ゆらちゃんは、普段料理とかしないの?」

「う~ん……ほとんど惣菜ばっかやな。料理してる暇があったら、修行に時間を割いとるし……」

 

 ゆらは自炊など、ほとんどしない。食事はさっさと進め、その分の時間を自分の陰陽師としての修行に当てていることが多い。

 特に、ここ最近は街も物騒になり、夜町内を見廻るパトロールなどにほとんどの時間を取られている。

 と、そのようにゆらが身の上話をしたところ、カナは心配そうに彼女を気にかけてくれた。

 

「ふ~ん……何だか、陰陽師って大変なんだね。ほら、デザートのフルーツ盛り合わせ。よかったらどうぞ!」

「うわー!!」

 

 その苦労を労う、夕食後のデザートに、ゆらは喜び勇んで手を付けていく。

 うまい、うまいと絶賛しながら口に運んでいく彼女だったが――

 

「あっ、せ、せや! こ、こんなことしとる場合やない。アルバムや、アルバムを見に来たんや!」

 

 料理の美味しさに、我を忘れて目的を見失うところだった。

 自分は奴良リクオの素性を探るため、カナに彼の写真を見せてもらうために彼女の家にまで来たのだ。

 先ほどの件もあってか、これ以上部屋を漁るような失礼な真似こそ控えていた彼女だが、そちらの目的まで忘れるわけにはいかない。

 とりあえず、フルーツから一旦手をどけ、ゆらはカナに小学校の卒業アルバムを見せてもらうように、改めて願い出ていた。

 

 

 

 

 

 ――う~ん……やっぱり誤魔化し切れなかったか……。

 

 一方のカナ。彼女はゆらが目的を忘れていなかったことに、ぎくりとする。

 ゆらに両親の死を知られてしまったのは、正直言って不本意であったが、彼女をこの家に招いたときから、ある程度の覚悟はしていた。

 カナとしては、あまり気を遣ってほしくないため、あまり友達に知られたくないというのも偽りざる本心だ。

 しかし、それをきっかけに、ゆらがここに訪れた目的を忘れてくれるならば、それはそれで有り難かった。何だか、両親の死を利用したようで後ろめたさが残りはしたが、この場合やむを得ない。

 

 あとはこのまま、ゆらが夕食を食べて大人しく帰ってくれることを期待していた。適当にお土産でも持たせて、そのまま何事もなく別れる。それが一番いい流れだ。

 だが、ゆらは我を取り戻したかのように、ここに来た目的。リクオの写真を見せてもらう約束を思い出してしまった。

 

「そ、そうだね……今持ってくるよ」

 

 正直、未だにカナはゆらにアルバムを見せることに抵抗があった。しかし、ここまで真正面に頼られてはカナにも断ることができない。カナは観念して、棚の奥に閉まってある小学校の卒業アルバムを探しに行く。

 

 ――まっ、大丈夫だよね、アルバムくらいなら……え~と確か、この辺りに……あった!

 

 そうして、棚の奥から取り出した分厚い卒業アルバム。まだ一度も見返していないため、新品同様にピカピカだった。

 

 ――あの頃は、ほんと……見返してる余裕なんてなかったからな……っ!

 

 卒業アルバムが配られた当時は、カナにも余裕がなかった時期だった。その頃の出来事を思い出し、瞳の奥から涙が込み上げてくるが、それをゆらに悟られまいと、雫をしっかりと拭ってから、ゆらの元へアルバムを持ってくる。

 念のため、中身の確認だけはしておこうかと、カナは自分だけが見える角度でアルバムをゆっくりと開いていき――

 

 そして、勢いよく閉じていた。

 

「? どないしたんや、家長さん……なんかあったんか?」

「え、ああ……ううん、な、なんでもないよ」

 

 不審がるゆらに咄嗟にそう返すカナだったが、彼女の心中は動揺に包まれていた。何故ならば――

 

 ――う、映ってる……めっちゃくちゃ映ってるよ!

 

 もはや、心霊写真などと曖昧なものではなかった。

 写真の至る所に――奴良組のものと思しき妖怪たちが、リクオの周辺に映り込んでいた。

 

 遠足――リクオのカバンの中から、にょろりと蛇が顔を出したり、木々の影から人型の妖怪たちがこっそりとリクオの様子を窺っている

 運動会――入場行進の門の上から、リクオの勇姿を拝もうと複数の小妖怪たちが集まっている。

 

 一瞬見ただけでも、それだけの妖怪たちを見つけてしまったのだ。全てに目を通したら、いったいどれだけの妖怪が映り込んでいるのか、考えたくもない。

 

 ――奴良組の妖怪たちって、なんでこんなのに堂々としてるの!? 

 ――てゆーかこれ、皆には見えてないの? 清継くんとか、すっごく喜びそうなんですけど!!

 

 写真はどれも日中、真昼間に取られているものばかりの筈だが、それにもかかわらず、奴良組の妖怪たちは堂々と日の下に姿を現している。こんなもの、直ぐに大騒ぎになっていようものだが、実際にはそうなっていない。

 事実、この写真はカナやゆらといった、ある種の霊感に長けたものにしか見えないようになっている。流石にリクオ過保護の奴良組も、そのくらいの配慮はするらしく、姿をくらます術を各々が徹底して行っていた。しかし、結局それも、陰陽師などの霊感の強い人間には通じない。

 

「どないしたんや家長さん? はよ見せてや」

 

 そう言って急かすゆらだが、これは流石に見せられないとカナは心中で冷や汗を流してる。アルバムくらいなら大丈夫だろうと、高を括っていた数秒前の自分を殴り飛ばしたい気分だ。

 こんなものを見せた日には、ゆらがリクオに向ける疑いの目も、より一層増すというもの。

 何とかしてアルバムを見せない方向でこの場を切り抜けられないかと、カナは脳みそをフル回転させる。

 

「そ、そうだゆらちゃん。お風呂入らない? 食後はやっぱりお風呂に入らなくちゃ!」

 

 何とも露骨な話題逸らし。流石のゆらでも、その程度のことでは誤魔化されない。

 

「風呂? そんな後でもええやんか。それより、アルバム――」

「いや、でもね……うちのアパートのお風呂、結構広いんだよ? 二人で一緒に入れるくらいで……」

 

 尚も往生際悪く試みるカナであったが、やはり通じない。だが――

 

「別に――風呂なんて一日、二日入らんでもよくないか? それより……そのアルバムを――」

 

 何気なく発せられたゆらのその台詞に、急速にカナの思考が別のベクトルへと向けられることになる。

 アルバムをその場に置き、カナは声を低くして尋ねる。

 

「――ゆらちゃん……今なんていったの?」

「ど、どうしたんや、家長さん?」

 

 尋常ならざるカナの態度の変化に、それまで強気に押していたゆらの方がたじろぎ始めた。

 

「……ゆらちゃん念のために聞くけど……昨日、お風呂入ったよね?」

「き、昨日……いや、パトロールで忙しくて銭湯には行けんかったよ。うちのボロアパート、風呂もないねん」

「…………じゃあ、最後にお風呂に入ったのはいつ?」

「え、ええっと、た、多分。三日くらい前やったかな……そ、そないなことより、はよアルバムを――!」

 

 今度はゆらが、カナの追及を逃れようと、アルバムへと手を伸ばす。

 しかし、その手をピシャリとカナがはたき落とす。カナはゆらの両肩を掴み、彼女に言い聞かせるように真っ向から説教を食らわしていた。

 

「駄目だよ! 毎日お風呂に入らなきゃ! ゆらちゃんは女の子なんだよ!? どれだけ忙しくても、シャワーくらい浴びないと!」

「い、いや……それは、その……」

 

 まるで母親が子供に言い聞かせるようなカナの剣幕に、汗をダラダラ流すゆら。

 そんな彼女の姿を見て、ますますカナは声を荒げて捲し立てる。

 

「ほら。今も、そんなに汗だくになって! しっかり、汚れ落とさないと、肌が荒れる一方だよ? ゆらちゃんは可愛いんだから、もっと自分を大事にしてよ!」

「い、いや……これはアンタがプレッシャーをかけるからで……それに、あ。あたしは別に可愛くなんか……」

 

 可愛いと言われ慣れてないのか、少し照れるゆらに、カナは何かを思いついたかのように立ち上がる。

 

「とにかく、これからはどんなに忙しくても、毎日お風呂に入ること! ほら、今から入りに行くよ。せっかくだから銭湯に行こう! 私が背中流してあげるから!」

「え、これからか!? で、でも、うちはその、まだ、ここに来た目的を……」

「駄目! 湯船に肩まで浸かって六十秒! しっかり数えてもらうからね!!」

 

 そうして、自身の着替えを取り出しながら、問答無用でゆらを引きずって、部屋を出るカナ。

 そこには、ゆらにアルバムを見せたくないという打算は欠片もなく。ただ純粋に、この少女をしっかりとお風呂に入れなければならないという、女子としての使命感に燃えていた。

 その迫力に押され、成す術もなく、ゆらはカナに銭湯まで連行されていく。

 

 二人の少女がアパートを背に、夜の町へと飛び出していった。

 

 

 

×

 

 

 

「――ふふん! それ見たことか、所詮奴の器はこの程度よ! あれでは三代目など、到底襲名できる筈もないわ、がははははっ!!」

 

 奴良組本家の二階。

 四国襲撃の対策会議を行うために幹部たちが部屋に集う中、独眼鬼(どくがんき)組・組長である一ツ目入道は、愛用のキセルを吹かせながら上機嫌に笑みを浮かべていた。

 

 彼はリクオの三代目就任に反対する、所謂『反リクオ派』の筆頭でもあった。

 自分と同じ反リクオ派である、算盤坊(そろばんぼう)、三ツ目八面、――そして牛鬼と一緒になって、リクオの三代目就任を防ぐため、彼の命を狙ったりもした。

 牛鬼には、リクオの器を見定めようとする意思があったが、一ツ目にそのような殊勝な心掛けはない。彼は純粋に、リクオが自分たちの上に立つのを嫌がっているだけ。

 殆ど人間と言ってもいい彼が、自分たちのような古株の幹部妖怪たち相手に、偉そうにするのが我慢ならないのである。

 だからこそ――今の状況が彼にとっては愉快でたまらなかった。周囲からのプレッシャーに押され、中庭で倒れたリクオの醜態に笑みを溢していた。

 

「おい、達磨(だるま)よ! お前はあの醜態を見て、まだリクオを様を盛り立てようというのか、ん?」

 

 そして、その愉快な気持ちを隠そうとせぬまま、向かい側に座る幹部――木魚達磨(もくぎょだるま)に話しかける。

 

 同じ古株の幹部――達磨会の頭・木魚達磨。奴良組本家の相談役でもある彼は、リクオ寄りの鴆や、鴉天狗といった他の幹部たちとは違い、中立の立場を貫いている。少なくとも、一ツ目にはそのように見えていた。

 他の幹部よりも頭一つ飛び抜けているその達磨を、反リクオ側に付けることができれば、自分たちの意見もより通しやすくなるだろうと、リクオへ失望を抱いているであろう彼に声をかける。

 

 だが、一つ目の期待とは裏腹に、達磨はまったく揺るぐことなく、一ツ目の問いに答えていた。

 

「一ツ目よ。お前の言いたいことはわかる。だが、総大将の行方が分からぬ状況で、公然と四国八十鬼夜行の挑戦状を受け取った今、奴良組は三代目跡目候補、リクオ様を中心に一つに纏まらなければならない。儂のこの意見に変わりはない」

「む、むむむ……」

 

 色よい返事を貰えなかったことに一ツ目は言葉を詰まらせる。代わりに達磨の口からでた、自身の主に対しての懸念を口にした。

 

「それにしても……総大将はいったい、何をなさっておられるというのだ……」

 

 如何にリクオに反対する一ツ目であっても、組に対する、総大将ぬらりひょんへの忠誠心が揺るぐことはない。

 現在、不在となっているぬらりひょんの安否を気遣う心に偽りはなかった。

 

「――敵襲!! 敵、来襲!!」

「――っ!!」

 

 そのとき、見張り妖怪からの報せに、その部屋に集った幹部たちの間に緊張が走る。

 

「四国の奴らと思わしき軍勢が、道楽街道をこちらに向かってくる!!」

 

 四国妖怪八十八鬼夜行の襲来を告げる、見張り番の叫び声。屋敷内に集っていた妖怪たちも俄かに騒ぎ出す。

 

「な、なななんだって――!!」

「こ、こりゃあ! 本格的にやべぇ!」

「そんな、い、いきなりだなんて。に、逃げるじょ――」

 

 小妖怪を始め、多くの組員たちが情けなくおろおろと逃げ惑う。一ツ目もまた、彼らと似たように動揺を隠せないでいた。

 

「お、おい、どうするのだ! 達磨、このままでは、奴良組は全滅するぞ!!」

 

 相手は百鬼夜行を率いて攻めてくるのだ。こちらもそれに対抗して百鬼を集わねば、戦いにすらならない。

 だが、百鬼を率いるべきぬらりひょんが不在の今、誰にも奴良組の百鬼を率いることなどできはしない。

 

「…………」

 

 しかし、そのような佳境の中にあっても、達磨はピクリともせず、まるで何かを待つかのように微動だにしない。そんな彼の態度に、一ツ目を始め、多くの幹部たちが浮足立つ。

 そのときだった――

 

「――競競としてんじゃねぇ。相手はただの、化狸だろうが」

 

 静かな声が凛と響き渡る。

 一ツ目が二階の窓から庭先を見下ろすと、そこには――若りし頃のぬらりひょんの姿があった。

 

 ――なっ! そ、総大将? いや、違う!?

 

 我が目を疑い擦る一ツ目。よくよく見れば、あの頃のぬらりひょんと似てはいたが、全くの別人であることが理解できる。

 

「おおー、リクオ様じゃあ!!」

「夜のお姿じゃ!」

「な、なぬっ……!?」

 

 本家の妖怪たちがその人物の名を呼んだことで、さらに一ツ目は度肝を抜かれる。

 

 ――あ、あれがリクオだというのか……。

 

 一ツ目はこれまで、夜の姿のリクオを見たことがなかった。だからこそ、あれほどまでに頑なに、リクオが三代目を就任するのを拒んできたわけだが。

 

「猩影」

 

 戸惑う一ツ目の視線に気づいた様子もなく、リクオはすぐ近くにいた猩影――四国妖怪によって殺された、大幹部狒々の息子に声をかける。

 

「テメェの親父の仇だ。化け狸の皮はお前が剥げ」

「――っ!!」

 

 その声音、その視線に、一ツ目の背筋がぞくりと震える。

 自分に向けられたものではないにもかかわらず、リクオのその言葉に――『畏』を感じずにはいられなかった。

 それこそ一瞬、自分が忠義を尽くすべき総大将――ぬらりひょんの若りし頃を幻視するほどに。

 

「よし、行くぞ、テメェら。……暴れたい奴は、俺についてこい」

 

 リクオは一言。それだけを告げ、先陣を切り本家を後にしていく。そんなリクオの後を追い、多くの妖怪たちが彼の後ろへと続いていく。

 リクオの側近たちは勿論、ついさっきリクオに対して陰口を叩いていた妖怪たちまでもが、彼の畏に惹き付けられるように、付いて行ってしまった。

 そして――

 

「ぜ、全員出ていきよった!」

 

 一ツ目や達磨といった主だった幹部を除き、奴良組の妖怪たちは全て出払ってしまう。

 静寂が訪れる本家の屋敷内に、愉快そうな笑い声が木霊した。

 

「ははは、今度の若頭はなかなかに面白い、そう思わんか、一ツ目?」

 

 先ほどまで黙っていた木魚達磨は、一ツ目にむかって口を開く。まるで若頭の成長を誇るように、笑みを浮かべながら。

 

「ふ、ふん! あんなこけおどしで組が救えるのなら、世話ないわ!」

 

 苦し紛れにそう答えるのがやっとの一ツ目。未だに頑なにリクオも認めようとしないのは、殆ど意地のようなものだ。

 一瞬とはいえ、自分もリクオのあの姿に畏を抱いてしまった。

 その事実を認めたくないがために、彼は達磨の言葉にそう言い返していた。

 

 

 

×

 

 

 

 奴良組へと総攻撃を仕掛けるべく、一直線に進行していた四国八十八鬼夜行。

 

 つい先刻、奴良組の仕掛けた策を見事に打ち破った玉章を先頭に、彼らは夜の浮世絵町を進軍していく。

 大将たる玉章は余裕の笑みを浮かべていた。相手の策を破った直後――このタイミングでの進軍に、敵は成す術もないだろうと、彼は部下たちを鼓舞していた。

 その鼓舞に、配下の四国妖怪たちも、意気揚々と街中を跋扈していく。

 

 ついに、このときがきたのだ。関東最大の勢力を打ち破り、自分たちが天下を取るこの日が――。

 

 ここで奴良組を破れば、四国は既に終わった者たちの集まりだと、蔑まれることもない。

 この夜を機に、自分たちは人にも妖怪たちにも畏れられる存在となると、覇気を漲らせながら進軍していく。

 

 しかし――

 

「ん? あれは!?」

 

 先頭を歩く誰かが気づいた。自分たちが進むべきその先、誰も阻むものなどいない進路上に、百鬼が群がっていることに。この街で自分たちの百鬼に匹敵するものなど、一つしか思い当たらない。

 

「玉章!? 奴良組の奴らだぞ、どういうことだ!?」

 

 玉章の脅しに。恐れ、縮こまっている筈の彼らが、まるで自分たちを待ち構えるように百鬼を展開させていた。

 話が違うと、四国妖怪たちは一様に、玉章へと視線を向けるが――

 

「ふっ、リクオくん。君もやはり百鬼を率いる器。あの程度では脅しにもならないか……」

 

 自分たちの大将はそんな想定外の事態にも余裕の笑みを崩さない。

 まるで、相手の大将を褒めたたえるように、彼は両手を広げ、敵の大将――奴良リクオへ歓迎の意を告げる。

 

「さあ、お互いの『おそれ』をぶつけようじゃないか――」

 

 自らの姿を人間の青年のそれから、妖怪のそれ――隠神刑部狸としての姿へと変貌させ、彼は自ら、宣戦布告の合図を下した。

 

 

「百鬼夜行大戦の――始まりだ」

 

 

 

 




補足説明

 一ツ目入道
  反リクオ派の筆頭。厳つい嫌なおっさんだが、こう見えて、ロリに優しいところがあります(苔姫のことです)。 
 「死なんざ誰もおそれちゃいねぇ。冥途に戻るが早いか遅いかじゃ」からの。
 「ワシらは死にたくねぇーんだよ」の華麗なる転身である……。
  一ツ目よ……どうしてこうなった。

 リクオの飲酒について
  夜リクオは未成年にもかかわらず平然と酒を飲んでいるシーンが多いですが、確か、夜の姿になると肉体の年齢が十年くらい進むという設定があったはずです。
  その設定の通りであれば、彼の飲酒シーンも特に問題がないように思われますが、このとき盃を交わしたのは昼のリクオ。
  人間的にも妖怪的にも未成年の十二歳……これは補導ですね、リクオくん?

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。