家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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 10月です。
 予告通り、どうにか次話を仕上げることができましたが、なかなかどうして苦戦しています。この辺りになってくると話に矛盾が生じたり、誤字脱字が目立つようになってくるかもしれません。何か問題があれば遠慮なく教えてください。その都度修正します。


第二十四幕 戦場に舞う風

「やった……すごい、及川さん!」

 

 雪女のつららが夜雀の妖術を打ち破り、リクオの危機を救ったことに、ビルの上から戦況を眺めることしかできないでいたカナが感嘆の声を上げる。

 春明の言う通りだった。カナが出しゃばらずとも、妖怪であるリクオの援護を、同じ妖怪であるつららがこなしていた。カナは、そのことに若干のもやもやを感じつつ、リクオが無事であったことにホッと胸を撫で下ろす。

 また、カナが視線を送っていたリクオとつらら以外の戦場において。

 この百鬼夜行戦の戦局を左右するそれぞれの戦い、幹部たち同士の戦いにも決着が着こうとしていた。

 

 

 

 青田坊VS手洗い鬼

 

 どちらも力自慢を自負する怪力の持ち主。互いに無手での取っ組み合い、シンプルな腕力勝負。

 優勢に立っていたのは四国一の怪力・手洗い鬼だった。

 破戒僧たる青田坊を、その自慢の剛腕で抑え込み、彼は豪語する。

 

「くははは! これが奴良組一の怪力と申すか。弱い、弱いのおう!!」

「ぬぐっ……」

 

 苦悶の表情で地べたに身体を押さえつけられる青田坊。心なしか、その図体も小さくなっているように見える。

 そのまま、勢いに乗って手洗い鬼は青田坊を押しつぶす。完全な勝利を確信してか、手洗い鬼は自身こそが日本一の怪力であると豪語する。しかし――

 

「――えっ……? ギャアアア!? 腕が変、か、肩がぁぁああ!?」

 

 ベキッと、手洗い鬼の腕が、小気味よい音を鳴らしあらぬ方向へと曲がる。

 

「おっと……すっかり忘れてたぜ。俺の力、セーブしねぇと人間世界だと何かと不便なんだ……強すぎてな」

 

 そう、青田坊は全力を出していなかった。

 彼は日頃から、リクオの側近として人間社会に溶け込むため、自身の力に大きく枷をはめていた。その制限を解くのを、すっかり忘れていた青田坊は、この土壇場にその枷である、首元に掛けられていた髑髏の数珠を外した。

 

「ちょろっと本気の力を見せてやるよ。『剛力礼賛(ごうりきらいさん)』!」

 

 宣言通り、青田坊は全力で手洗い鬼の顔面に拳を叩き込んだ。

 先ほどとは比べ物にならぬ彼の剛腕の威力に、手洗い鬼の巨体が宙に舞う。悲鳴を上げながら数メートル吹き飛ばされた彼は、そのままコンクリートの地面に落下。綺麗に手洗い鬼型の穴を残し、穴の底で全身を駆け巡る痛みに悶えることとなったのである。

 

 決着――勝者・青田坊

 

 

 

 河童VS崖涯小僧

 

「ゲッゲッゲ、逃げんじゃねーよ、てめぇ!!」

「…………」

 

 両者は百鬼入り乱れる戦場の合間で、追いかけっこに興じていた。

 水辺でこそ真価を発揮する水系妖怪二人。水の量が限定的なこの場では、お互いイマイチ全力を発揮できずにいた。僅かな水を巡って、少しでも有利な位置取りをしながら、戦場を忙しなく動き回っている。

 現在は、崖涯小僧が河童を追いかけまわす形になっている。互いに決定打を欠ける戦い。しかし、この戦いも奴良組が、河童の方が一枚上をいっていた。

 

「逃げてんじゃないよ~」

 

 崖涯小僧から距離を置き続けていた河童は、ただ逃げ回っていたわけではなかった。

 

「ちょっと大きめの作ってたから。時間がかかったんだよ~」

 

 彼は手持ちの竹筒に入れておいた水や、道路の水たまり、大気中の水分を掻き集め巨大な水球を作り上げていた。

 

「『河童忍法秘伝・ミズチ球』!! どーん!」

「ギャアアアアァァァァ!」

 

 河童の手のひらで作られていたその水球が、巨大な激流となって解き放たれる。

 その特大ミズチ球の直撃を食らい、空の彼方まで吹っ飛ばされる崖涯小僧。

 

「ふぅ~~楽しかった。ん? やあ黒、元気?」

 

 そうして、楽しい戦いを終えた河童。ちょうど近くにいた黒田坊へと、マイペースに声をかけていた。

 

 決着――勝者・河童。

 

 

 

 首無VS針女

 

「……もう止めなよ。君らは ボクら奴良組には勝てない。数でも規模でも……能力でもね」

 

 奴良組一の色男・首無は女性に甘い。襲い掛かってくる針女相手に手荒い真似はせず、その攻撃を躱すだけで済ましていた。その気になれば早々に決着をつけられるほどの実力差がありながら、針女の髪をポニーテルに結んだりして、あしらっている。

 そう、首無の言葉や、先の青田坊や河童の戦闘の結果を見れば分かるよう、奴良組と四国妖怪たちとの間には絶対的な戦力差があった。

 奴良組は弱体化したとはいえ、かつて妖世界の頂点と呼ばれた勢力。特にリクオと盃を交わした面々。若いつららを除き、多くの側近たちは、その奴良組全盛期を支えた古強者だ。

 一方の四国妖怪たち。彼らは若い大将である玉章自らが集めて回った若い妖怪たち。その若さに任せた勢いは侮れないものがあったが、地力の差において奴良組に大きく劣ってた。

 真っ向からぶつかってこうなることは、目に見えてわかっていたことだ。

 

「う、うるさい! 我々四国妖怪が全妖怪を支配するのだ!」

 

 しかし、それでも針女は諦めずに向かってくる。

 自分たち四国こそが妖世界の頂点に立つのにふさわしいと。自分たちの大将・玉章にはそれを成すだけの力があるのだと、彼女は豪語する。だが――

 

「へぇ~……そこまで玉章は強いのかい。それならまだ理解できるよ。けど、仲間を殺す奴がボスだなんてボクは嫌だな」

「――え?」

 

 首無の何気ない言葉に、針女の瞳が揺れる。

 そんな彼女の迷いを察し、首無は針女に語り掛ける。

 

「犬神のことだよ。……まさか君は知らないのかい? 犬神の最後を……」

 

 

 

 ――犬神……。

 

 針女は思い出す。あの故郷の崖の上。明ける夕日を共に見ながら彼と語らったときのことを。

 

『犬神……あんたはなぜ仲間になったんだい? 元は人間だったんだろ。人で在り続けた方が、お前は幸せだったんじゃないのかい?』

 

 犬神の人としての絶望を知らぬ針女は、妖怪として覚醒したばかりの彼にそのように話しかけていた。

 実際、妖怪任侠の世界は血生臭い部分を多く孕んでいる。いつ命を落としてもおかしくはない。

 だが、それにも構わず犬神が玉章に忠誠を誓い、付き従っている姿に針女は疑問を覚えていた。

 

『そこまで魅力的なのかい……あんたにとって玉章は……』

 

 彼女は犬神のように玉章に忠誠を誓っているわけではない。

 彼女はただ怖かった。玉章に逆らうのが怖くて彼に付き従っているだけなのだ。

 彼女以外にもそのような妖怪は、決して少なくない。そんな中、彼の玉章に対する忠誠心は本物だった。

 かつては玉章にいたぶられて殺されかけただろうに、何故と犬神に彼女は問う。

 

 そんな針女の疑問に、犬神は何の迷いもなく答えていた。

 

『玉章は――オレを変えてくれたんぜよ』

『オレに眠る力を目覚めさせてくれたぜよ』

『恨みはあるが、感謝もしている』

『だから、俺は奴についていく。それにアイツは言ったんだ……』

 

『オレに――新しい世界へ連れてってくれるって』

 

 彼の下についていれば自分もその世界へ、もっと上への世界へと昇り詰めることができる。

 玉章と出会えてよかったと――

 

 恨みから生まれた妖怪とは思えぬ、どこまでも晴れやかな顔で、記憶の中の犬神は笑っていた――。

 

 

 

 ――犬神。あんたは幸せだったのかい?

 

 脳裏にこびり付く、死した仲間の笑顔に問いかける針女。

 彼は、玉章に切り捨てられ、どのような顔で最後を迎えたのだろう。

 そのような疑問を覚えながらも、彼女は首無へと猛然と襲い掛かる。

 

 全ては玉章のため。彼の役に立てねば自分もきっと始末されるだろう。

 彼への『おそれ』——恐怖心から、針女は敵へと立ち向かっていく。

 

「それは、『畏』じゃないよ……」

 

 針女の迷いを読み取ったのだろう。首無は己の紐で針女を縛り上げ、その動きを封じるだけに留める。

 

「済まない、大人しくしててくれ」

 

 最後まで全力を出すことなく、首無は針女を行動不能にした。

 

 決着――勝者・首無。

 

 

 

×

 

 

 

「――どいつもこいつも、役に立たない奴らだね」

 

 夜雀の敗退を目の前で見せつけられ、他の幹部たちも次々と敗れる現状に、リクオと向かい合っていた玉章はそのような愚痴を溢していた。だがその言動とは裏腹に、彼自身の落胆はそこまで深くはない。この結果はある意味、予想していた通りの展開でもあったからだ。

 相手は歴戦の強者が揃った奴良組。自分たちのような勢いだけの若造の集まりではこの程度が関の山。もう少し粘れるかとは思っていたが、それも仕方がないと。

 

 玉章は、不甲斐ない下僕たちを許した。

 

 何故なら彼は最初から、誰一人信じていなかったからだ。

 玉章が信じるのは己だけ――自分とこの神宝『魔王の小槌』の力だけである。

 

 

 魔王の小槌。

 三百年前――玉章の父、隠神刑部狸がまだ野心溢れていた時代。彼は妖怪軍団を引き連れ、人間の城を乗っ取ろうと画策したことがあった。

 人間側は何の力もない一万人のただの人間。対する刑部狸側はその数をはるかに上回る、神通力の力を持つ妖怪狸軍団。勝敗は――火を見るよりも明らかだった。

 だが、狸妖怪たちは殲滅せしめられた。人間側が持っていたたった一振りの刀によって。

 その刀の銘こそが、魔王の小槌。

 かつて父の牙をもいだその神宝が、現在玉章の手の内にあった。

 

 

「――お前たち、ボクの為に身を捧げろ」

「へっ?」

 

 そして、玉章はその神宝の力を最大限に発揮させるため、自身の近くにいた妖怪、数匹を惨殺した。

 自分を護るために集まっていた、味方の妖怪を――。

 玉章はさらにその刀を自身の長い髪に括りつけ、そのまま頭を回しながら前進する。歌舞伎役者が髪をぐるぐると振り回す演技『連獅子』のよう、その勢いに身を任せるまま、仲間の百鬼夜行の妖怪たちを斬り殺していく。

 

「た、玉章さま!?」

「ぎゃぁあああ!」

 

 絶望に怯え惑い、断末魔の悲鳴を上げ、消えていく四国の妖怪たち。

 

「!? 何をしているんだ、あいつは」

「味方を……斬っているのか?」

 

 奴良組の妖怪たちも、玉章の凶行に驚きを隠せないでいる。

 

「玉章さま、おやめください! 仲間に何をっ――」

 

 その凶行を阻止しようと、一人の四国妖怪が玉章に呼びかける。

 先ほど首無に敗北を喫した針女だ。紐の束縛から何とか逃れ、玉章に駆け寄っていく、しかし――

 

「ふっ……」

「あああ!?」

 

 そんな彼女を一笑に伏し、玉章は何の躊躇もなく斬り捨てた。

 そのまま針女の屍を踏みつけ、彼は堂々とリクオに向かって吐き捨てる。

 

「ふはは! 見ていろ、リクオ! 下僕の血肉で僕は魔王となるのだ! はははははは!!」

 

 

 

×

 

 

 

「な、なんで…………?」

 

 玉章の理解不能な凶行を前に、カナは茫然自失としていた。

 

「味方じゃないの……? 守るべき……自分の仲間じゃ……ないの?」

 

 リクオという妖怪の大将のことを知っているだけに、カナには相手の思考回路が理解できなかった

 

 妖怪というものは、もっと仲間意識が強いものだと思っていた。少なくともリクオや、カナのよく知る妖怪たちは皆そうだ。仲間を護るために力を振るい、仲間を護るために体を張る。

 なのに、敵の大将はそれとは真逆のことをしている。護るべき仲間を見捨てるどころか、自らの手で斬り捨てるという行為。

 その凶行に――カナはそれまで感じたことのない怒りにその身を震わせていた。

 

「ありゃ……蠱術だな。なんで妖怪が、あんなもん持ってんだ?」

「こ、こじゅつ……?」

 

 言葉を失っているカナの隣で、春明がポツリと呟く。彼の瞳は鋭利に細めており、その真剣な目つきから、その言葉の重要度が伝わってくる。

 

「蠱術ってのは……呪いの一種だ。犬神術なんかと同じ、人の手によって作られたな……」

 

 玉章の行動を理解できないカナのため、春明が説明する。

 

 蠱術とは、読んで字のごとく、一つの皿の上に多くの毒虫が混在している状態のことを指す。

 その皿の上で、毒虫は生き残るために殺し合い、やがて一匹だけが生き残る。その一匹に死んでいった他の虫どもの恨みや念がこもり、呪われた生物『蠱毒』が作られる。そして、その虫を使役し、人を暗殺するのが蠱術である。

 先の浮世絵中の体育館で暴れた犬神も、その蠱術と同種の呪い。犬神術の成れの果てに生まれたもの。

 妖怪の技ではない。最も原始的な、人が人を殺すために生んだ呪術の一つ。

 あの刀は――その蠱術で斬った者の血肉や恨みを力に変えていると春明は分析した。

 その証拠に、玉章が妖怪を斬り殺すたびに、ボロボロだった刀身が脈打ち、生き物のように蠢いていく。さらにその刀を通して、玉章の力がどんどん膨れ上がっている様子だった。

 

 と、春明は玉章の行動理由、その力の根幹を陰陽師として冷静に分析し、カナに説明してやった。

 だが、そんな彼の説明をカナはほとんど聞き流している。

 彼女は眼下で広がるその惨劇に、目を逸らせずにいた。

 

「た、玉章さま……!」

「や、やめてください!」

「おねげだぁぁあっ!!」

 

 玉章は命乞いする仲間たちを容赦なく、寧ろ積極的に斬り殺していく

 その様子は、まさに一方的な虐殺だった。

 その虐殺を黙って見過ごすなどということを、人間であるカナには許容できなかった。

 

「これはもう――喧嘩なんかじゃないよ!」

「あっ――おい、こら!」

 

 さんざん悩んで足を止めていたカナだったが、玉章のその凶行を前に今度こそ飛び出していた。

 春明の制止を振り切り、いざ戦場へと舞い降りる。

 

 

 

×

 

 

 

「おい、逃げろ、アイツやべってぇ!」

 

 玉章の暴走を前に、奴良組の特攻隊長である青田坊ですら、容易に近づくことができない。彼は周囲の者たちに、玉章から急いで離れるように声を掛けていく。

 

「おい、何してんだ。四国の奴らも逃げた方がいいぜ!?」

「う……うう」

 

 その相手は奴良組だけではない。本来であれば敵である筈の四国の妖怪たちにも、彼は叫んでいた。

 

「うぐっ! 玉章ぃぃ!? ガハっ 何してくれんねんコラぁ! ワシの腕を、腕を……」

「お前も下がれよ、手洗い鬼!」

 

 ふと、青田坊の視界に先ほどまで力比べをしていた相手、手洗い鬼が玉章に腕を斬りつけられている姿が見えた。青田坊は急ぎ、手洗い鬼の首根っこをとっ捕まえて、共に玉章の刀の間合いから距離を取る。

 だが、彼が救える命はそれで精一杯。玉章の間合いには未だに多くの四国妖怪たちが取り残されており、彼らの命を啜るべく玉章の凶刃がすぐ目前まで迫る。

 

「ひぃっ!」

 

 彼らの表情が絶望に染まる――その刹那だった。不意に、突風が吹き荒れたのは。

 

「ぐうわぁぁぁあ!!」

「な、なんじゃあああああ!?」

 

 どこからともなく吹き荒れたその突風は、玉章の刀の餌食になる筈だった妖怪たちを空の彼方に吹き飛ばす。

 かなりの高さまで舞い上がったようだが、妖怪であればあの程度の高さから落ちようと、まず死ぬことはないだろう。図らずとも、風に命を救われる形となった四国妖怪たち。青田坊はその風が吹いてきた方角に目を向ける。

 

「あ、あいつは!?」

 

 そこにいたのは、巫女装束に狐面を被った例の少女だった。

 自分の主であるリクオの危機に、二度にわたって駆けつけてきた謎多き少女。

 彼女はその手に持っている羽団扇。天狗などが風を操る際に用いられる道具を使い、突風を起こしていた。その風は四国妖怪たちを玉章の間合いから遠ざけ、玉章自身の歩みを遅らせていた。

 残念ながら、刀の力で妖力が高まり、より強大になっていく玉章の身を吹き飛ばすことはできないようだが、風の勢いは確実に玉章の歩みを遅らせ、多くの妖怪たちが逃げるための時間を稼いでいた。

 

「あの女……おい、今のうちだ、手洗い鬼! 他の連中も下がらせるぞ」

「お、おう……」

 

 素性の知れない相手に警戒心を残しつつも、青田坊は彼女の行動に感じ入るものがあった。

 その努力を無にしないためにも、彼は手洗い鬼を伴い、恐怖で足がすくんで動けないでいる四国の妖怪たちを一匹でも多く逃がすために奔走する。

 

 

 

×

 

 

 

「くっ――このっ!!」

 

 戦場に降り立ったカナは、天狗の羽団扇を全力に近い形で仰いでいた。

 未だに完全に制御しきれていないが、捻眼山で使用したときよりは、ある程度のコントロールができるようになっていた羽団扇。

 彼女はその風の力で四国妖怪も奴良組も関係ない。一匹でも多くの妖怪たちをあの刀の魔の手から逃すため、そしてあわよくば、刀の持ち手である玉章を吹き飛ばせないかと力を行使する。

 だが、木々を根元から引っこ抜く威力を持つその羽団扇を以ってしても、完全に玉章の歩みを止めることができなかった。

 吹きつける風に玉章は腕で顔を覆ているが、膝をつくこともなく立っている。じりじりとカナに向かって前進することを止めない彼は次の瞬間、気合を一閃、刀を横に振るった。

 

「邪魔を、するな!!」

 

 その動作に呼応するかのように、玉章の全身から妖気が放たれる。

 妖気は一つの塊。まるで巨大なハンマーのようにカナの体を殴りつけ、彼女を後方へと吹き飛ばす。

 

「……っ!」

 

 カナの華奢の体が地面に叩きつけられると――カナ自身も衝撃に身構え覚悟しようとし、

 そのカナの体を、優しく受け止める者がいた。

 

「おっと……大丈夫か、アンタ?」

「り――! ……あ、ありがとう……ございます」

 

 奴良リクオであった。

 咄嗟に名前を呼ぼうとしたカナは、慌てて自らの言動を呑み込み、他人行儀に振る舞う。

 後ろを振り返れば、すぐそばに彼の顔をあった。

 支えられた腕から、彼の温もりが感じられた。

 

「…………」

「…………」

 

 両者とも、突然の出来事であった故、何を話していいかわからず暫しの間固まる。

 そのまま視線と視線が交わり、見つめ合う二人であったが――

 

「リクオ様!! いつまでそのような女と引っ付いておられるのでしょうか!? ほらアンタも、いい加減離れなさい!!」

 

 後ろから駆けつけてきたつららが、二人を引っぺがす。

 つららは正体が分からぬカナのことを警戒しているのか、主を護るため二人の間に割って入る(もっとも、その視線には警戒以上のものが混じっていたが)

 その視線を維持したまま、つららはお面で顔を隠したカナを問い詰める。

 

「アンタ、いったい何者? 何が目的なわけ? 何でリクオ様の周りに出てくんのよ! そこんとこ、はっきりさせてもらうわよ!」

「いや……私は……」

 

 矢継ぎ早につららの口から飛び出す疑問の数々。相手の剣幕に押され怯むカナであったが、つららのその疑問に対して、彼女は思わず自問自答する。

 

 ――私は、リクオくんの何なんだろう?

 

 カナにとってリクオは大切な幼馴染であり、命を助けてくれた恩人であり、

 そして、そして――

 

 ぐちゃぐちゃになる自分の感情に、カナは思わず顔を歪めてしまう。面霊気で顔を隠していたおかげで、何とかそれをリクオたちに知られずに済んだのが彼女にとっての幸運であった。

 

「おい、つらら……今はそんなことを論じてる場合じゃなぇ――」

 

 喧嘩腰のつららを宥め、その場を取り持とうとするリクオ――その時である。

 

「――待て!! そこの妖怪! 人を害することはこの私が許さへんで!!」

 

 聞き覚えのある少女の声が、道楽街道に響き渡る。

 カナがハッとなって振り返ると、その先には玉章が――近くにいた仲間の四国妖怪たちをあらかた斬り殺したのだろう、無数に広がる屍を踏みつけながら、次なる獲物を探し求めてふらふらと亡霊のように彷徨っている。

 そして――幽鬼のように彷徨い歩く巨大な妖気を前に、見覚えのある一人の人間の少女が立ち向かおうと、その正面にて身構えていた。

 

 カナは心の中で彼女の名を叫ぶ。

 

 ――あれは……ゆらちゃん!?

 

 

 

 




補足説明

 魔王の小槌
  ご存じ。〇〇さんの心臓こと、魔王の小槌。
  後になってわかる事ですが、この刀が誕生したのが三百十年前。
  時間軸的に矛盾はしていませんが、僅か十年の間に江戸で生まれたこの刀が四国の人間たちの手に渡り、狸たちを殲滅せしめる。
  いったい、どういった経緯でそうなったのか、ちょっと気になる。
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