家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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 久しぶりの更新、遅くなって申し訳ありません。
 本文自体は2、3日前に出来上がっていたのですが、前書きと後書きに何を書くかを迷っていて何故か更新できなかったんです、ホントすいません。

 いや~それにしても、今期はアニメが豊作ですね。
 前期からずっと視聴を続けている『ゲゲゲの鬼太郎』に『バキ』。
 今期からは『とある魔術』の三期に『ジョジョ黄金の風』、『スライム』、『サンダーボルトファンタジー』は人形劇か。
 その中でも、やっぱり一押しは『グリッドマン』ですかね。作者は親戚のお兄さんからもらったビデオでグリッドマンを見ていたので、今回のアニメ化はとても嬉しいです。
 二話まで視聴しましたけど、今のところ今期ダントツ。今後の展開が楽しみです。

 さて、それでは続きをどうぞ!



第二十六幕 野望の終焉

 ボトリ、と。

 

 新たな力——『鏡花水月』に目覚めた奴良リクオの祢々切丸が、魔王の小槌を握っていた玉章の右腕を一刀両断に切り捨てた。己の身に何が起きたのか理解しきれず、茫然となる玉章。その次の瞬間にも――

 

「うぉっ……うおおおおおおおおおおおおおお!! ひゃ、百鬼が百鬼が――」

 

 玉章の全身から力が抜け落ちていく。魔王の小槌の力によって得た妖気が、その力によって玉章が背負っていた百鬼が全身から抜け落ちていっているのだ。膨れ上がっていた巨体もみるみるうちに縮み、玉章は通常の背丈へと戻っていく。

 玉章は焼けるような体の熱さと、虚脱感に崩れ落ちそうになる体を必死に維持しながら、なぜこんなことになったのかその原因を思案する。

 

 ――そ、そうだ、刀だ!

 

 彼は自身の腕ごと地面に転がった神宝・魔王の小槌に手を伸ばす。もう一度、もう一度刀を手にすれば、そうすればきっと百鬼も戻ってくる。

 

「はぁはぁ……も、もう一度ボクに力を……」

 

 自分はまだ戦える、こんなところで終わるものかと、残った左手を伸ばした――しかし、

 

「――――――」

 

 玉章が刀を手にするよりも先に、それを拾い上げる者がいた。

 

「夜雀!? その刀をこっちに寄越せ――!!」

 

 雪女に敗れ、氷漬けにされていた筈の夜雀。いつの間に氷から抜け出していたのか、五体満足の姿で彼女はそこに立っていた。

 玉章は自身の配下である彼女が無事だったことを安堵するより、大人しく刀を渡すよう必死の形相で叫ぶ。だが、夜雀は何一つ言葉を発することなく、その冷たい眼差しを玉章へと向けている。

 そして、そのまま翼を広げ、空へと羽ばたいていく。まるで、玉章を見捨てるように――

 

「なっ、待て!? 夜雀! その刀をよこせぇええええええええ!!」

 

 玉章は最後の力を振り絞り夜雀を呼び止めるが、彼女は玉章の方を振り返りもせず、朝焼けの太陽に向かって飛び去って行ってしまった。その間にも、百鬼は完全に抜け去り、玉章は正真正銘全ての力を失った。もはや、今さら魔王の小槌を手にしたところで、力は戻ってこないだろう。

 

「んでだ……バカな……どこで、間違ったというんだ……」

 

 玉章はこの結末を理解することが出来なかった。力は完全に玉章の方が上だった。実力差も圧倒的だった。自分が奴良リクオに負ける要素など、何一つなかったのに。

 何故、何故、何故――といつまでたっても答えのでない疑問に捕らわれている玉章に、彼を打ち破った奴良リクオが声をかける。

 

「組を名乗るんならよ……自分を慕う妖怪くらい、しゃんと背負ってやれよ……」

 

 リクオは部下に肩を持たれ、今にも倒れ込んでしまいそうなほどに傷ついていながらも、その瞳は真っ直ぐ玉章を射抜いていた。見下すわけでも、勝ち誇るでもなく、ただ真っ直ぐ玉章を見つめていた。

 

「お前に尽くすため、ボクに死に物狂いでぶつかってきた……お前の畏れについて奴らを、お前が裏切ったんだ」

「ふ……ふ、ふはははは……」

 

 リクオのその言葉に、玉章は乾いた笑みをこぼす。

 奴良組、四国、所属不明の狐面の少女、その誰もがうずくまる玉章の反応を待った。そして――

 

「夜雀……針女……犬ぅ……役立たずどもめが……誰も、この玉章について来んとは……」

 

 そうだ、全て自分についてこない下僕どもが悪い。

 何故、誰もこの玉章に最後まで付いてこないのだ。自分についてくれば新しい世界に行ける。せこい組で地べたを這いずり回ることも、蔑まれることもないのに。玉章は選ばれたのだ。魑魅魍魎の主になるべきと、あの刀に、魔王の小槌に選ばれたのだ――と。

 リクオの言葉の真意を理解しきれず、妄執に捕らわれた玉章は未だにそんなことを呟いていた。

 

「――若。こいつは、もう駄目だぜ」

 

 すると、そんな玉章を見上げる大きな影が差す。

 狒々組の猩影。玉章たちがこの地に来て、最初に殺害した奴良組の幹部——狒々の息子。 

 弱かった狒々組の跡取り息子と、見下していた相手に玉章は見下される立場に立っていた。

 

「約束は守らせてもらうぜ――親父の仇だ!」

 

 猩影は、敗北を喫し変わり果てた玉章に、僅かながらも憐れみの視線を向ける他の奴良組の面々とは違う。

 彼の瞳には最初から最後まで、怒りしか刻まれていない。この怒りは、父の仇たる四国の大将をこの手で討つまで収まることはない。

 この復讐を成就させるためにも、今まさに刀を振り下ろし、猩影は玉章の首を討ち取ろうとした。

 

 だが――ガン!! と。

 

 振り下ろされる刀を刀で受け止め、その場に割り込み、猩影を止める者が現れた。

 

 

 

 

「ふぅ~……なんとか間に合ったわい、やれやれ……」

「えっ? そ、総大将!! 今までどこへ――!!」

 

 奴良組総大将・ぬらりひょんその人であった。

 謎の失踪を遂げていた彼が戻ってきたことに、おそらく組の中で一番彼の身を心配し探し回っていたであろうカラス天狗が驚きの声を上げ、他の奴良組の面々も言葉を失っている。いったい、今までどこをほっつき歩いていたのかと、誰もが疑問を挟む余裕すらなく唖然としている。

 

「止めないでくれ!! 親父の仇だ、オレがやるんだ!」

 

 いち早く気を取り直した猩影は、玉章を庇ったぬらりひょんに対し、悲痛な想いで叫んでいた。

 何故、自分の敵討ちの邪魔をするのかと。

 

「――おお、玉章よ。情けない姿になりおって……」

 

 すると、ぬらりひょんの後に続くように、その場に謎の老紳士が乱入してきた。老紳士はすっかり変わり果てた玉章の様子に情けないと、体を震わせながら彼に歩み寄っていく。

 彼が何者なのかと、ぬらりひょん以外の誰もが首をかしげる中、ドロンと、煙幕のような煙を上げ、その老紳士は正体を現した。

 

「たのむ……この通りだ……」

「なっ!? デケェェェ、化け狸だぁああ!!」

 

 正体を現した老紳士は巨大な化け狸だった。その場にいる誰よりもでかい図体でその正体を現すと同時に、彼はその場で土下座をし、奴良組に対し平身低頭に願い出ていた。

 奴良組の面々はその巨体に驚いていたが、四国の面々は別の意味で度肝を抜かれていた。

 

「い、隠神刑部狸様さま!? こんなところにまで……」

 

 四国の幹部・手洗い鬼が畏まった口調で驚きを口にする。そう、デカい化け狸の正体は隠神刑部狸——玉章の実の父親なのである。

 新生四国妖怪として旗揚げした彼ら若い衆にとっても、玉章以上に敬意を払わなければならない相手である。四国勢は、隠居した筈の彼がわざわざこんな敵地にまで足を運んできたことに、驚きを隠せずにいた。

 そんな四国妖怪たちをよそに、刑部狸は奴良組の大将ぬらりひょんと、若頭である奴良リクオに向かってひたすら頭を下げ続けている。

 

「償っても償いきれんだろうが、何卒命だけは……それ意外なら、どんなけじめでも取らせますから……」

「リクオ……どうすんだ? お前が決めろ」

 

 そんな玉章の助命を請う刑部狸の頼みに対し、ぬらりひょんがリクオにそのように声をかける。

 ぬらりひょんはわざわざ四国まで出向き、この場に刑部狸を連れてきてこのような場を設けはしたが、これ以上出張るつもりはないらしい。今回の一件で体を張って百鬼夜行を引っ張ったリクオに、すべての采配を委ねるつもりのようだ。静寂に包まれる中、誰もが息を呑み彼の――リクオの決断を待つ。

 

「一つだけ……条件がある……」

 

 暫し迷い悩んだ末、奴良リクオそのように重たい口を開いた。

 

「犠牲になった者たちを……絶対に弔ってほしいんだ……」

「そ、それで良いのか? 奴良組の若頭よ」

 

 彼の言葉に刑部狸が頭を上げ、思わずそのように問いかけていた。許しを願い出た刑部狸からしてみても、それはあまりにも破格の譲渡だろう。

 今回の戦い、奴良組には一切の非がない。

 彼らのシマに無断で立ち入り、一方的に戦を仕掛け、奴良組に多大な被害をもたらしたのは四国側だ。全ては彼らの一方的な宣戦布告が原因であり、奴良組は仕方なく応戦した、いわば被害者だ。

 それだけのことを仕出かしておいて、自分たちの仲間を弔うという当たり前のことをするだけで許されるなど、とても信じがたい条件だ。

 だが、こちらを真っ直ぐに見つめるリクオの瞳の輝きに、彼が本気であることを理解する刑部狸。

 

「奴良組の若頭よ……感謝する――」

 

 その決断に再度、刑部狸が頭を下げて奴良リクオに礼を述べようとする。

 しかし――当然ながら、その決定に納得しきれず、異議を申し立てる者もいた。

 

「ま、待ってくれよ! 若頭!!」

  

 猩影である。

 

「アンタが俺に言ったんだぜ! 親父の仇を討てと、奴の化けの皮を剥がせと! アンタが俺に言ったんだ! それを、こんな甘い手打ちで許すってのか? 冗談じゃないぜ!」

「猩影……」

「猩影くん……」

 

 若頭としてリクオが下した判断には猩影は真っ向から食い下がる。リクオの言葉に逆らう態度だが、首無やつららといった側近の面々ですら、猩影を責めることができずにいる。

 父親を無残に殺された彼がそのような結末で納得できる筈もないと、彼の心情を理解できているからだ。

 

「若いの……」

 

 すると、そのように納得しきれていない猩影に何かを悟ったのだろう、刑部狸が声をかける。

 

「バカ息子がお前さんに何をしてしまったのか、大体の察しは付いた。その上で頼む。どうか……あの馬鹿息子を見逃してはくれまいか? ワシらにはもう……あいつしかおらのんだ」

 

 刑部狸の言葉通り、四国妖怪たちにはもう玉章しかいないのだ。彼らの頭を張り、導いていける頭が――。

 

 魔王の小槌を手にした玉章は、その力を持って自分よりも序列が上の兄たちを皆殺しにしてしまった。そのため、刑部狸の後継者として組を立て直せる人材が、もう彼しかいなくなってしまったのだ。

 一応、玉章の粛清を免れ、生き残った兄弟たちも何人かいるが、元より玉章より序列が低いか、ほとんど再起不能にされてしまった。

 そういった赤裸々な内部事情を告白し、刑部狸は猩影に刀を納めてくれるように願い出た。

 

「そ、そんなこと知るか! それはお前らの事情だろうが! 俺は、親父の仇を取るために奴良組に戻ったんだ、それを今さらっ――!」

 

 そう、そんなことを聞かされたところで、猩影の怒りが収まる筈もない。彼にだって譲れない想いがある

 

 元々、猩影は妖怪の世界から足を洗うつもりだった。

 学生の頃は親父に認めてもらいたいがために、不良学校のてっぺんを取ったり、暴走族を潰したりなど、破天荒な無茶を繰り返していた彼だが、学校を卒業し、落ち着きを持つようになってからはすっかり鳴りを潜め、人間の世界に混じって生きていくつもりで実家から離れていた。

 そんな彼が、父親の死を契機に狒々組を継ぐことを決めた。父の死によって妖怪としての血が滾り、覚悟を迫られた。父を殺した玉章たちによって、生き方を狭められたのだ。

 今更、そのことをあーだこーだと言うつもりはなかったが、ケジメだけはつけなければならない。 

 

「そうか……どうしても言うのであれば……」

 

 猩影の、その覚悟のほどが刑部狸にも伝わったのだろう。

 彼は意を決したように拳を強く握りこみ、深々とこうべを垂れた。

 刀を握る猩影に向かって――己の首を差し出したのだ。

 

「どうか、ワシの首一つで手打ちにしてくれんか? この老いぼれの首一つで、どうか――!」

「なっ!?」

「隠神刑部狸様!?」 

「――そんな!!」

 

 刑部狸の言葉に猩影が目を見張り、四国妖怪たちから悲痛な叫び声が上がる。四国妖怪たちにとって、刑部狸は引退したとはいえ、四国の大親分として精神的支柱としての役割を果たす存在。

 そんな自分と引き換えに、玉章を見逃してくれと刑部狸は願い出たのだ。

 四国の大親分としてではなく、玉章の父親として――。

 

「なんだよ……それ、なんで……」

 

 そんな刑部狸の父としての姿に、堪えきれないものが猩影の胸の内から湧き上がってくる。

 父親が、息子を庇うということ。

 それは父を失った自分では、二度と得ることのできないこと。

 もしも、あそこにうずくまっているのが自分で、それを庇うために立ち塞がっているのが自分の父であったのならばと。猩影は、そんなもしもの幻影を抱いてしまう。

 

「ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう……」

 

 一度そんな考えが過ってしまうと、もうそれ以上、刀を握る手に力が入らなかった。

 猩影はその場にがっくりと項垂れ、力なく拳を地面へと叩きつける。

 何度も何度も、歯を食いしばり、うわ言のように悔しさを口にしながら。

 

 

 

 

「猩影……」

 

 そんな猩影に向かって、リクオは声をかけようとし――止めた。

 どんな慰めの言葉を投げかけたところで、今の彼の心の傷を癒すことはできないだろう。

 リクオは猩影に無念を晴らさせてやれない、自分の決断に罪悪感を覚える。

 

 だが、それでも目を逸らすことだけはしなかった。

 

 彼にあんな表情をさせたのは自分の決断だ。ならば、その悲しみから目を逸らさないと。

 涙を流す猩影から目を離すことなく、リクオは大将としてその全てを受け入れていた。

 

 

 

×

 

 

 

 ――リクオくん……強くなったんだね。

 

 奴良リクオが敵の大将を許す決断をし、部下の悲しみから目を背けずにいる姿を、少し離れた距離から見守るよう、面霊気で正体を隠したカナはじっと視線を送っていた。

 既にリクオは妖怪としての夜の姿から、学校での人間としての姿に戻っていた。その変わりように、改めてカナは彼がリクオなんだと再認識される。

 

 ――本当に強くなったよ、君は……。

 

 先ほどの戦いにおける活躍もそうだが、その後、大将として彼が下した決断にもカナは深く感銘を受けていた。つい先ほどまで、殺し合いをしていた筈の相手を許すなど、生半可な覚悟でできることではないだろう。

 今回の戦い、リクオにだって失ったものがあった筈だろうに、それを押し殺して、彼は敵との和解の道を選び、手を差し伸ばした。

 力だけではなく、心の方も強くなった。カナが思っていた以上に、ずっと大人になった幼馴染。

 

 ――私は……何も変わってないよ。あの頃から……ずっと子供のままだ。

 

 そんな彼と今の自分を比較して、カナは気が滅入る。

 部下に肩を支えられながらも、しっかりと両の足で立つリクオの姿がどこか遠い。

 二人の物理的な距離はそれほど離れてはいない。手を伸ばせば届きそうな距離だったが、それでもカナはリクオがどこか遠い、自分の踏み入ることができない場所に立っているように感じた。

 その感情に寂しさを抱きながら、カナは静かにその場から去ろうとした――その時だった。

 

「おっと待ちな。悪いが、このまま帰すことはできねぇな……」

「えっ?」

 

 カナの背後に大きな男——青田坊の影が差す。

 

「これまでの助太刀には感謝しちゃいるが、いい加減はっきりさせようぜ。アンタ……いったい何者だ?」

「わ、わたしは……」

 

 カナの加勢に礼を言いながらも、青田坊はその巨体から、威圧するような疑問をカナに投げかける。

 そのプレッシャーにカナが思わず口ごもっていると、そんな二人の様子に気づいたように、四国の方に向いていた奴良組の視線が続々とこちらの方へと向けられていく。

 

「うむ、青の言う通りだ……単細胞のお前にしては、気が利いているではないか」

「うるせぇ!! 誰が単細胞だ、黒!!」

 

 軽口をたたきながら、青田坊の考えに賛同する傘を被った坊さん――黒田坊もカナの傍へと寄ってくる。武器を突きつけるなどといった、野暮な真似こそしなかったが、その目つきは正体不明のカナのこと見定めようと、鋭く細められていた。

 

「そ、そうよ! 結局アンタはどこの誰なのよ!」

「そうね、いい加減はっきりさせようじゃない」

 

 黒田坊の発言を皮切りに、つららや毛倡妓などの幹部たちからも、そのような声が上がっている。

 気が付けば、カナを取り囲む様な形で軽い包囲網が出来上がっていた。

 

 ――ま、まずい……。

 

 その状況に、カナはシャレにならない焦りを感じ始める。

 このまま面霊気を外されでもすれば、否が応でも自分の正体がリクオにバレてしまう。空を飛んで逃げようにも、背後に回っている青田坊がそれを許してはくれない。

 かつてないほどの危機的状況に、カナはお面の奥で冷や汗を流す。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! みんなっ!」

 

 そんな剣呑な雰囲気でカナを取り囲む面々とは別に、リクオが焦った様子で声を上げる。

 これまで助太刀をしてくれたカナのことを気遣ってか、リクオは皆にやめるように言葉を掛ける。だが、それでも奴良組の面々は止まらない。

 

「リクオ様……お気持ちはお察しますが、これも貴方様のため。どうか、お許しください」

「で、でも――痛っ……」

 

 彼に肩を貸す首無がリクオの気持ちを理解していながらも、彼のためにカナの正体を暴くことに賛同する。

 そんな首無の説得にリクオは尚も食い下がろうとするが、玉章に斬られた傷が疼き出したのか、それ以上、上手く言葉が出てこない。

 奴良組は満身創痍のリクオを早く休ませるためにも、早々にカナの正体を暴くために動き出した。

 

「さて……それじゃあ、まずはそのお面の下の素顔……見せてもらおう――っ!?」

 

 力自慢の青田坊が片手でカナを押さえつけながら、もう片方の手で面霊気に手を掛けようとする。

 しかし、その瞬間――、

 

「ぐぅっ――な、なに……!?」

「青!? 貴様、一体何を!」

「――――えっ?」

 

 カナのお面に触れようとした青田坊が突如その場に膝を突く。黒田坊はカナが何かしたと考えたのか、すぐに臨戦態勢を整えていた。

 しかし、カナもカナで何が起きたのかすぐには理解できなかった。青田坊は、どうやら何かによって脇腹を刺し貫かれたようだ。細長い何かが彼の脇腹を貫いており、その傷口から血が滴り落ちていた。 

 

 ――あっ……こ、これって……。

 

 カナは目を見開く。青田坊の体を刺し貫いているものは、針のように尖った樹木であった。

 道楽街道に植えられた街路樹の木の根。その根が地面から勢いよく飛び出し、青田坊の脇腹を突き刺していた。

 

 ――兄さん!?

 

 当然、それはカナが仕掛けたものではないが、それが何なのかは理解できてしまった。

 春明の『木霊・針樹』。木々を自由自在に操る、彼の陰陽術によるものだった。

 何故彼がと、呆気にとられるカナであったが、その理由を考える間もなく奴良組の面々が殺気立つ。

 

「ちっ、油断したぜ!」

「なによこの女、やろうっての!」

 

 どうやら、この不意打ちをカナによるものだと思ったのか、青田坊が腹を押さえながらも拳を構え、つららが武器を構える。一触即発ともなった状態で、カナは後ずさる。

 

「ち、ちがっ……」

 

 慌てて否定しようと首を振るカナであったが、彼女も唐突過ぎて頭が回らず、上手く言葉が出てこなかった。

 そんな彼女の混乱をさらに加速させるよう、

 

『――おい、いつまで遊んでいるつもりだ』

 

 その場に何者かの声が響き渡る。

 

「だ、誰だ!?」

 

 奴良組の誰かが叫ぶ。何らかの力が働いているのか、それはどこから発せられたものかも、男か女かも分からない不思議な声であったが、カナにはそれが誰のものか理解できた。

 間違いなく、土御門春明のものだと。

 彼の陰陽術による攻撃があった直ぐ後に響いてきたのだ、そう考えるのが自然な流れであろう。

 だが、カナ以外のものたちはそれが誰の声なのか知らない。一切正体の分からぬ声に対して、彼らは油断なく身構える。

 すると、そんな警戒する彼らの予想したとおり、さらなる追撃が奴良組に襲い掛かる。

 周辺の木々が、街路樹たちが一斉に怪しく蠢きだす。枝や根元が威嚇するかのように伸びたり、うねったりと。完全なる敵意を以って暴れ始めたのである。

 

『用はもう済んだんだろ? とっとと先に家に帰ってろ。殿は俺が務めてやるからよ』

「――っ」

 

 謎の声——春明はその木々の攻撃で奴良組を足止めし、カナがここから立ち去るための援護をするつもりのようだ。その意図を察することができたカナではあったが、彼女はすぐにはその言葉に従わず、奴良組の方へと目を向けた。

 

「リクオ様を護れ!」

「くそ、なんなんだコレは!?」

 

 先の戦闘で疲弊している奴良組は、リクオを護るように陣を組んでカナから距離を置いていた。確かに逃げ出すなら今が好機だろう。

 カナは神足にて飛翔し、宙を舞う。そして、その場から飛び去ろうとする直前、リクオの方を振り返っていた。

 

「ま、待っ――」

 

 上空へと飛び去ろうとするカナに向かって、リクオも手を伸ばしてきた。

 だが、その行く手を遮るように、木々のバリケードが張り巡らせ、交差するカナとリクオの視界を塞いだ。

 

「……ごめんね、リクオくん」

 

 リクオの姿が見えなくなったことにより、ようやくカナはその場から離れる決心がついた。

 彼に聞こえないとわかっていながらも、謝罪の言葉を口にし、彼女は空の向こうへと飛び去っていく。

 

 

 

×

 

 

 

「ふぅ、やれやれ……行ったか……」

 

 ビルの上からカナが無事立ち去るのを見届け、春明は一息ついた。

 カナの予想した通り、先ほどの声も木々による攻撃で青田坊の脇腹を刺したのも当然彼の仕業である。

 元より陰陽師である彼にとって、妖怪を殺すことに何の躊躇いもない。カナの正体を乱暴に探ろうとした奴良組の面々を、本気で滅するつもりで彼は術を行使していた。

 しかし、カナが無事に去った今、これ以上奴良組の相手をする必要もなくなった。

 

「あとは、適当に相手をしておいてやれ。それにしても……」

 

 春明は操っていた木々たちを遠隔操作から自動操縦に切り替え、適当に奴良組の相手をするように指示を飛ばす。自らもその場から立ち去り、家に帰ろうとしたところで、ふと――彼は別の方角へと目を向けていた。

 

「妖怪夜雀……いや、式神夜雀か……」

 

 彼が見ていたのは、魔王の小槌を持っていった四国の幹部・夜雀の飛び去って行った方角だ。

 玉章を裏切り、例の蠱術の刀を持って立ち去って行った彼女。既にそこに彼女の姿はなかったが、春明はその方角をじっと見つめたまま、おもむろに呟いていた。

 

「まったく、まだ裏でいろいろと糸を引いてんのかね……あの年寄り共は……」

 

 心底嫌そうに、眉間にこれでもかと皺を寄せながら。

 

 

 

「――千年も前に死んじまった野郎の為に、ご苦労なこって……」

 

 

 

 

 




 さて、これで四国編は完結です。後の流れは原作通りということで。

 猩影と刑部狸のやり取りは、作者が色々と妄想を膨らまして書き足した部分ですね。原作だと、その辺りまったく触れられないまま手打ちになってしまっていて、猩影の気持ちはどこへ行くんだと思ったので、この機に補完してみました。
 
 次回からの更新ですが、大分間を置くことになりそうです。
 カナの過去話、オリジナルな要素の説明などが多分に入り、色々とごっちゃになりそうなので、ある程度書き溜めてから投稿します。
 時期は未定で、ホントすいません。
 代わりと言ってはなんですが、次回の予告タイトルだけ発表して今回は締めくくりたいと思います。

 次回『夜のデート』——お楽しみにね。

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