家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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書きたいことが色々とあるので、箇条書きで詰め込みます。何卒ご容赦を。

百鬼繚乱大戦の感想
 前回の更新時は未プレイでしたが、がっつりプレイしてきました。
 普通に面白い!! ぬら孫らしい子分召喚システムが実に良い! 
 キャラごとのストーリーも、それぞれキャラが壊れてていい意味で酷かった(笑)
 不満点は肝心要の子分たちをコンプリートするのにかなり難易度が高いこと。
 最初からすべての子分を使えるか、もう少し難易度を下げて欲しかった。
 多くのレビューで言われていた、シナリオがフルボイスでない点は特に不満無し。
 逆にボイスがないからこそ、あれだけ自由度の高いシナリオが作れると思う。

グランドオーダー 紅の月下美人の攻略感想
 先日配信された2部3章をクリアしてきました。  
 スパさんや荊軻がカッコよかった。
 星になるスパさん(からの赤兎馬! 人馬一体ケンタウロスグリッドマン……違う、そうじゃない)。
 始皇帝との直接対面。だが荊軻よ、スマホの力を過信したな!! 
 他でも言われていますが、メインシナリオにしては難易度が高い。
 久しぶりに一回ではクリアできず、引き返してAPを無駄に消費してしまった。
 ほんとに、連続宝具は勘弁してくれませんか、ヒナコさん?
 
ゲゲゲの鬼太郎最新話感想
 悲報! バックベアード様、ついにロリコンになる。
 あれだけロリコンを嘆いていたバックベアード様が。
「アニエス、お前は私のものだ!」と、堂々宣言してしまった。
 西洋妖怪編もいよいよ佳境。果たして今期ではベアード様と決着をつけれるのか?
 来週はドラゴンボール特番で、ゲゲゲは休止。
 おのれ、ブロリー……映画自体は興味深いが、許すまじ!!

以上、それでは本編をどうぞ!!
  



第三十一幕 家長カナの過去 その③

「——それで、ハクよ。その陰陽術を扱う小僧とやらの近況を聞かせてもらおうか?」

「はっ! それが、大変申し上げにくいのですが……」

 

 富士天狗組。組長たる太郎坊の屋敷の居間にて、木の葉天狗のハクは言葉を濁しながらも報告を続ける。

 

 鉄鼠討伐から、既に一週間が過ぎ去ろうとしていた。

 シマを無断で荒らしまわった下手人を始末して安堵したのも束の間、ハクは新しく浮上した問題に日々頭を悩ませている。

 ハクが久しぶりに半妖の里に顔を出した際に出くわした少年——春明。

 彼は里の半妖と、里の外からやってきて人間の女性、春菜との間に生まれた。未だ六歳という若さでありながら、陰陽術を行使し、里で様々な問題行動を起こしているという話だ。

 富士天狗組は半妖の里と上下関係にあるものの、村人の数など特に戸籍を作って管理しているわけではない。そのため、ハクはその少年の存在を今になって認知することになった。

 里の者たちに聞いたところ、春明の異常性が発覚したのは彼が三つの頃であったという。

 一、二歳まではそこいらの子供と何も変わらぬ無垢な少年であった彼は、三つになった頃、里の外れにある一軒の小屋に保管されていた、陰陽術に関する記述を読むようになってその才覚を発揮するようになったという。

 

 元々、この半妖の里という場所は、とある一人の陰陽師によって開かれた場所でもある。

 その陰陽師は半妖であり、世捨て人としてこの地に隠居を始めた。その半妖の血に惹かれるように同じ半妖が彼の下へ、庇護を求めて集うようになった。

 それが、いつしか『半妖の里』と呼ばれるようになり、今日に至っている。

 春明が立ち入った小屋の中には、その陰陽師が残した陰陽術の秘伝や、妖怪の記録、裏の歴史書などが大量に保管してあった。本来であれば、小屋の中に立ち入られぬよう、その陰陽師が残した結界があったのだが、その結界は——彼の血を継ぐ者には効果を発揮しなかった。

 

 そう、春明はその陰陽師の血統——彼の父親がその陰陽師の実子であり、春明はその陰陽師の孫にあたる。

 

 既にその陰陽師はこの世を去り、彼の息子である春明の父親もそっち方面の才能がなかったのか、誰にも触れられることなく、捨て置かれていた多くの文献、資料の数々。

 その封印を春明が解き放ち、それから彼はそこに入り浸るようになった。

 

 娯楽の極端に少ない半妖の里において、春明は寝食を忘れてそれらの書物を読み漁り、知識を貪った。

 そして驚くべきことに、誰の指導を受けることもなく、春明はそこに書かれていた陰陽術の基礎を、僅か数年でマスターしてしまったという。

 五歳くらいの頃からだ。彼は会得した陰陽術を、里の半妖たち相手に行使するようになった。本人は軽い悪戯、あるいは試し打ち程度にしか思っていないようだが、やられる方はたまったものではない。

 一応、手心は加えているのか命を奪うまでにはなっていないが、わりとシャレにならないような被害を出したことも、一度や二度ではないらしい。

 春明が問題を起こすたび、母親である春菜が頭を下げ、彼女は常に息子に口酸っぱく言い聞かせてきた。

 春明も、母親の前ではそれなりに大人しくなるのだが、彼女の目が離れるとまたも無茶を繰り返すという。

 だが、半妖の里の者たちは寛容であった。子供のしたことと、それらの所業を上役ともいうべき富士天狗組に報告を入れることなく、今日にまで至っていた。

 

 それがとうとう、一週間前。富士天狗組の若頭であるハクによってことの次第が知られることとなった。

 ハクは当然、春明の存在を太郎坊に報告し、然るべき処置をすべきと進言したのだが——

 

『そうか……あやつの孫か……。よい、もうしばらく様子を見るとしよう』

 

 と言い、急いで何かをしようとはせず、春明の動向を見定めるようハクに監視だけをつけるよう命じた。

 そして、今日はその監視から一週間たった最初の報告日。しかし、その最初の段階から、ハクは既に頭を抱えたい気分であった。

 

「農作物への被害もそこそこ、里中に罠を仕掛けたり、監視員たるウチの組員相手に陰陽術で迎撃したりと、やりたい放題です。いかに子供と言えども、流石に目に余るものがあると言わざるを得ません。太郎坊様、何卒ご再考を!!」

 

 一週間、軽く調べただけでもそれだけの問題行動。果たして今日に至るまで、里の者たちがどれだけの被害を被ったのか、想像に難くない。それでも、里の中からは春明を糾弾、追放しようという動きがない。

 おそらく、半妖として迫害されてきた経験が彼らの心を寛大なものにさせているのだろう。

 しかし、このままでは流石にまずいと、ハクは危機意識を抱き始めていた。

 

「太郎坊様。このまま奴の行為がエスカレートすれば、里の者だけでは飽き足らず、いずれ我らにも牙を剥くやもしれません。まだ子供と侮らず、今のうちに奴めには己の身の程というものを弁えさせるべきです! このハク、太郎坊様のご命令さえ頂ければ、すぐにでもあの小僧をとっちめてまいります!」

 

 ハクはこの組に若頭としての責任感からか、些か熱がこもった言葉で、春明に制裁を加えるべきと強く進言する。しかし、それだけの熱意に晒されて尚、太郎坊はどこ吹く風とハクの怒りを受け流す。

 

「そうカッカするでない、ハクよ。五月蠅くてかなわんわ……」

 

 太郎坊はあくまで落ち着いた態度でハクを宥める。これがぬらりひょんと喧嘩別れした四百年前ならば、太郎坊も意気揚々と春明を制裁すべく乗り出しただろう。

 だが、歳の功というやつなのか、見た目同様に歳を重ねた太郎坊は、そう簡単に怒りを露にしようとはせず、呑気に煙草などふかしている。

 

「必要とあればワシが直接出向いて叱りつけてやる。それまでは好きにさせてやれ」

「はっ……太郎坊様がそう仰るのであれば、そのようにいたしますが、本当に宜しいので?」

「よい、あやつにはワシも『借り』があるからな……少しくらいならば大目に見よう」

 

 そう言いながら、太郎坊は屋敷の外の景色を見つめている。

 太郎坊と半妖の里を開いたとされる春明の祖父。二人は旧知の間柄だと聞いたことがある。

 その頃のことを思い出しているのか、太郎坊はその瞳に哀愁を漂わせながら、ここではないどこか遠くを見つめている。

 

「そうですか……わかりました。では、私はこれで失礼を……」

 

 その『借り』とやらの内容を知らないハクでは、これ以上引き下がっても無礼にしかならない。

 ハクは一旦自身の提案を取り下げ、部屋を後にしようと太郎坊に背を向ける。

 すると、そんなハクの背に向かって、太郎坊が声を掛けた。

 

「そういえば……例の小娘の方はどうしておるか?」

「…………あまり良い報告は聞いていませんね」

 

 ハクの足が止まった。例の小娘——春明のことを知るきっかけになった里への訪問。その際、里の者たちに預けたあの娘——名を家長カナというらしい。

 なんとか名前を聞き出すところまではよかったが、それ以上これといって進展がない。

 少女の世話をするようになった春菜の話によれば、事態は思ったより深刻なようであった。

 

 

 

×

 

 

 

「カナちゃん、おはよう……朝ごはん、食べる?」

「……………………」

 

 運命の日。家長カナが全てを失った日から一週間。布団から目を覚ましたカナに、いつものように春菜は声を掛けていた。

 カナが現在寝泊まりしているのは、半妖の里の春菜の家だ。春菜とその夫、そして息子の春明の三人が住んでいたそこに、カナも住むようになった。

 

 丁度一週間前。傷の手当てを終え、眠りから覚めたカナに春菜は優しく語りかけた。

 きっと自分の身に何が起きたかも理解できず、錯乱するかもしれないと相応の覚悟をしていた春菜であったが、彼女の予想とは裏腹にカナは、何の反応も示さなかった。

 見ず知らずの場所で目覚め、名も知らない他人を目の前にして、両親の姿が見えないにも関わらず、彼女は——何の反応も示さなかった。

 何を聞いても、何と声を掛けても彼女は無反応。その瞳は何も映してはいなかった。

 

 最初の一日。春菜はそんなカナから何かしらの反応を得ようと、ずっと彼女の側で語り掛け続けた。ときおり、この里のことなど、春菜自身のことなど。必要になるであろう情報を交えながら、カナについてあれこれと聞いてみたが、成果は無しだった。

 二日目。初日と同じように語り掛け続け、ようやく彼女は自身のことを、家長カナという名前であることを教えてくれた。

 三日目。それまで何も口にしようとはせず、ずっと飲まず食わずで過ごしてきたカナに、危機感を覚えた春菜が食事を強く勧める。結果、彼女は水とお粥だけだが口に含んでくれた。

 四日目。春菜はカナが自分以外の人と接していないことを思い出し、思いきって半妖である夫と顔合わせをさせてみた。彼女の夫は、明らかに普通の人間ではありえない特徴を持ち合わせていたのだが、その部分についてカナが反応を示すことはなかった。

 五日目。ずっと布団の中で一日を過ごすカナに、外に出てみてはと手を指し伸ばした。カナは暫し、春菜の手を凝視した後、その手をとってゆっくりと外へ踏み出したものの、すぐに布団に引き返してしまった。

 六日目。それとなく食事の量を増やしてみたが、カナは一日に一食。それも必要以上の量を食べようとはせず、水と粥以外のものもほとんど口にしない。

 七日目。ここにきて、春菜は思いきって冒険してみることにした。家に犬頭の村長を呼び、カナと面会させてみる。だが夫の時と同じだった。ほとんど妖怪と言っていい見た目の村長相手にも、カナはそれらしい反応を示そうとせず、やはり視線は――ただ虚空を見つめたままであった。

 

 

 

「どうしよう、アナタ。……あの子、日に日に弱ってくわ……このままじゃ……」

 

 そして、八日目の夜。カナが死んだように眠るのを見届けた後、春菜は居間で夫とカナについて相談していた。

 この一週間、何とか無事に過ごすができたものの、カナの容体は日に日に弱っている。

 碌な運動もせず、食事もほとんどとらず、日がな一日を布団の上で過ごす彼女。当然体は衰えていき、幼い五体は徐々にやせ細っていく。そんな痛ましいカナの姿を、春菜は歯がゆい思いで見守ることしかできず、自分を責めるように彼女は夫に弱音を吐いていた。

 

「君はよくやっているよ、春菜。……だが、あの子の体験したトラウマを考えれば、すぐに立ち直れと言う方が酷な話さ。ゆっくりと、やっていくしかない……」

 

 春菜の夫は、狐の耳をしょんぼりとさせながら、妻の苦悩に対して何もできない自分に情けなさを感じていた。

 半妖である彼は見た目はほとんど人間だが、狐の耳と尻尾だけ、父方の遺伝が強く引き継いだ。

 四日目以降、彼も何かとカナのことを気にかけ、それとなく話をするのだが、日中は農作業などで家を留守にすることが多いため、中々距離感を縮められないでいる。

 

「僕も……もっと彼女と話ができればいいのだが……済まない、君に任せっきりにして……」

 

 カナの世話の大半を妻に任せていることに強い罪悪感を覚え、夫は謝る。

 

「いいえ……これは私に課せられた役目です。アナタに救われたこの命、きっと役立ててみせます、あの子のためにも……あの子の、亡くなられた両親のためにも……」

「春菜……」

 

 妻の健気な言葉に、ドキリとした夫が妻を見つめる。その視線に春菜も頬を真っ赤に染め、真っすぐ見つめ返す。夫婦の間で、どことなく甘い雰囲気が漂うのだが――

 

「——わるいんだどさ……そういうのは、二人のときだけにしてくんない?」

 

 そんな甘ったるい空気を粉砕するように、飯をかっ食らいながら、息子の春明が割って入る。

 

「ん、んん!! いや、別にそ、そんなつもりじゃあ……」

「ご、ごめんなさい、春明……」

 

 夫婦は恥ずかしそうに互いに体ごと視線を逸らす。

 

「……たく……いいとしでイチャつきやがって……」

 

 そんな両親に呆れたように溜息を溢す、目つきの悪い六歳児。

 

「……ん? そういえば春明、お前はあの子と何か話をしたのか?」

 

 だがふと、父親は息子である春明が、カナとどのような接し方をしているのかが気になり、逸らした体を息子の方へと向け直した。父の問いに対し、如何にも気だるげな様子で春明は答える。

 

「あん? べつに……さいしょに顔合わせはすませたけど……それ以降はなにも……」

「……おいおい、何をしてるんだ、お前は……」

 

 息子のいかにも冷たい返答に、父親として頭を抱える。狐の耳をピンと尖らせながら、彼は怒ったように声の調子を強めた。

 

「あの子の境遇はお前だって聞いているだろ? 私達は……大人としてあの子を庇護することはできても、友達として寄り添ってやることができない。この里には同年代の子がお前しかいないんだ。お前しか、あの子の友達にはなれないんだぞ?」  

「……んなこと言われてもなあ……なに話しゃいいのか、わかんねんだよ……」

 

 父の言葉に対し、春明はそっぽを向く。少し気まずそうになる息子の表情から、父はハッとなった。

 そうだ。この半妖の里に子供は春明しかいなかった。春明も初めての同世代の人間相手にどう接していいか、勝手がわからないのだろう。

 ましてや、相手は女の子。陰陽術を行使したりと、どこか普通とは違うところがあるとはいえ、そういう繊細な部分は年頃の男の子だ。

 そんな息子の心情を父親として察してやれず、少し申し訳ない気持ちになる。

 

「……お願いよ、春明」

 

 だが、それでもやらねばならないと。母である春菜は、息子の手を強く握りしめた。

 

「アナタも戸惑ってるのは私も知ってるわ。……けど、カナちゃんの困惑はそれ以上のはずよ……」

 

 両親を失い、一人生き残ったカナ。見ず知らずの場所で暮らすことを余儀なくされた彼女の孤独は計り知れないものだろう。その孤独を少しでも癒し、彼女をもう一度立ち直らせるためにも、自分たちが手を差し伸べなければならないのだ。

 

「だから……ね? 話し相手になってくれるだけでも、違うと思うから……」

 

 そのために力を貸して欲しいと、改めて息子である春明に懇願する。

 

「…………あした、いっしょに外にいくようさそってみるよ……」

「春明っ!!」

「ああ、ありがとう……」

 

 ぶっきらぼうながらもそう返事をする息子に、夫婦は顔を見合わせその表情を明るいモノにした。

 

 

 

×

 

 

 

「……………………」

 

 ——って、かんたんに引き受けるんじゃなかったなあ……。

 

 翌日の朝。昨日の夜、両親に宣言したことを春明は早くも後悔し始めていた。

 この頃になると、カナは一日に一回は布団から出て新鮮な外の空気を吸うために、家の外に出るようになっていた。しかし、だからといって何をするでもなく、カナは終始ボーと宙を眺めるだけ。三十分と経たずに家の奥へと引っ込んでしまう。

 春明は、そんなカナに付き合う形で彼女の傍らに立っている。

 

 ——……な、なんだ、これ? き、きまずい……。

 

 だが気の利いた言葉も掛けることができず、いたずらに時間だけが過ぎていく。 

 無理もない。春明はこれまでの人生、自分から誰かと積極的にコミュニケーションをとったことなどなかった。

 今までなら、里の大人たちが向こうから話しかけてくるため、それに答えるだけで済んでいた。

 だからこそ、自分からどうやって声を掛けるべきなのか勝手がわからないのだ。

 故に、この少女と二人っきりという今の状況が、春明にとっては苦痛であった。

 

 ちなみに現在、家の中にも、周囲にも春明以外の人影は見えない。

 

 半妖の里では今日、月に一度の会合が開かれており、大人たちは皆その会合に顔をだしている。これまで常にカナの面倒を見ていた春菜も、その会合でカナの近況について報告する役目があるため、家を留守にしている。

 そういった理由もあり、どんなに気まずくても、春明はカナから目を離すわけにもいかず、こうして彼女の動向に気を使っていた。

 

 ——あ~あ……はやく会合、おわんねぇかな……おれ一人でこいつの面倒みんのはしんどい……。

 ——……まっ、実際には、一人じゃねぇんだけど。

 

 不意に、春明は気だるげな目つきを瞬間的に吊り上げ、後方——森の向こうに意識を向ける。

 茂みの中には妖気が二つ。里の者ではない、純粋な妖怪の気を春明は感じ取っていた。

 

 ——1匹……いや、2匹か……毎日毎日、ごくろうなこって…… 。

 

 それは、ハクが春明を見張るために寄越した監視員、富士天狗組の妖怪であった。

 陰陽術を使うことができる春明のことを相当警戒しているのだろう。常に付きまとうかのように春明のことを毎日監視している。

 その視線をうざったく感じた春明は、陰陽術で彼らを迎撃したこともあったのだが、それを春菜に怒られ、今は自重している。

 だが、ずっと監視されているというのはストレスが溜まるもの。カナのことにも気を回さなければならず、春明は相当にイライラをため込んでいた。

 いっそ、昨日の約束などすっぽかして、いつも入り浸っている小屋にでも引き籠ろうかと、本気でそのようなことを考え出したときだ。

 

「————ねぇ……」

「うわっ!?」

 

 カナが、言葉を発した。

 視線こそ宙を漂ったままだが、明らかに春明に向けた呼びかけである。

 

「び、びっくりした……なんだお前、喋れんのかよ……」

 

 何気にカナの声を聴くのも初めてだったため、仰天して思わず聞き返す春明。

 数秒の間を置き、さらにカナは言葉を重ねていく

 

「……きみ……なんで、今日はずっとわたしといっしょなの? いつも……すぐどっか行くのに……」

 

 カナが春明の家に住むようになってからというもの、春明は朝早くに出かけては夜までずっと祖父の残した小屋の中に閉じこもっている。そんな春明が、今朝からカナに付き添っている。

 そのことを疑問に覚えるくらいには春明に意識を向けていたのだろう。そのことに驚きつつ、春明はカナの質問に素直に答える。

 

「な、なんでって……まあ、お前のことを気にかけるように、おやに言われたからで……」

「………………ねぇ……なんで、あのひとたちは……わたしのことをきにかけてくれるの?」

 

 あの人たちというのは、春明の両親のことだろう。春明は特に考えもせず答える。

 

「そりゃ……お前がかわいそうだからじゃなぇの? ひとりぼっちのままで不憫だからとか?」

「……………………」

 

 本当であれば、そういったことは本人に対して言うべきではない。だが、これまでまともに人とコミュニケーションをとってこなかった春明に、そのような気遣いをすることができるわけもなく、質問に対し、彼は馬鹿正直に答えてしまう。

 暫しの気まずい沈黙を得て、カナはさらに春明に問いかけていた。

 

「ねぇ…………」

「ちっ、今度は何だよ!」

 

 彼女が質問の内容を口にするより前に、春明はわずわらしそうに舌打ちする。

 実の無い質問の連続に、いい加減、そろそろ我慢の限界が近づいていた。

 質問の内容によっては、全てをほっぽり出して、ここから立ち去ろうと心に決め、春明は彼女の言葉を待つ。ところが——

 

 

 

 

「————なんで、わたしは……まだ生きてるんだろう……?」

「——っ!!」

 

 

 

 

 少女の口から飛び出た予想外な質問と——彼女の身の内側から走るどす黒い瘴気に、ぞくりと、春明の腕に鳥肌が立つ。

 

「おとうさんも、おかさんもいなくなった……死んだのに……どうして、わたし……いきてるのかな……ねぇ——どうして?」

「……っ!」

 

 ぐるりと、それまでずっと宙に漂わせていた視点を、首ごと春明の方に向けてくる。

 その瞳は変わらず空虚なまま、寧ろ初めの頃より、ずっと黒くくすんでいるようにも見え、春明は思わずビクリと、一歩後ずさる。

 

「どうして……なんで? いっぱい、人が死んだのに……どうして、わたしだけ? なんで、わたしだけなの……わたしだけが……どうして、こんなに……きみたちに気をつかわせてるの……?」

「…………」

 

 春明は何も答えられない。空気の読めない彼とて瞬時に察した。

 迂闊な答えを口にすれば、それが引き金となってしまい——『何か』が終わってしまうと。

 

「おかしいよ……ぜったい、おかしい! ……だって、わたし……何もできなかったんだよ? ひとりじゃ、なにもできないんだよ!? なのにおかあさんは、そんなわたしを庇って……おとうさんは——っ!」

 

 徐々に声を荒げ、感情らしきものを発露していくカナ。

 彼女はこの一週間、自身の境遇をずっと嘆いていた。

 一人だけ生き残ったことを、生きている自分自身を責め続けてきたのだ。

 何故自分だけが助かったのかと、ずっと——。

 そして、その追い込まれた彼女の心は、ついにその禁断の望みを口にするまで至る。

 

「こんな、こんな思いになるくらいだったら、こんなに苦しいだけなら……」

 

 

 

「——わたしも……私が、死ねばよかったのに!!」

 

 

 

 

「——ちぃ!」

 

 一際カナが大声で叫んだ瞬間——彼女の中で渦巻いてた、どす黒い瘴気が一気に漏れ出そうとする。だがその前に、ダムが決壊するように、彼女の中で何かが崩壊しようとしたその刹那——。 

 春明は懐から、護符を取り出し、それをカナめがけて投擲していた。

 

「あっ……!」

 

 バチィっ、とカナの体内で稲妻が走ったようにその肉体が痙攣する。春明の放った護符がカナを襲い、彼女の気を失わせる。

 

「お、おかあ……さん……」

 

 気絶する間際まで、カナは縋るように母の名を呼んでいた。

 

「こいつ……」

 

 己の陰陽術で地面に倒れ伏せるカナに、春明は険しい目つきを崩すことなく身構える。

 するとそこへ、バサバサっと翼の羽ばたく音を立ながら、春明の下へ降り立つ影があった。

 

「貴様っ、その娘に何をしている!! トチ狂ったか!?」 

「とうとう本性を現しおったな! この陰陽師め!!」

 

 春明を遠目から見ていた富士天狗組の天狗たちだ。もとより、春明を監視するよう命じられていた彼らは、春明に対して、決していい感情を持ち合わせてはいない。

 初日に陰陽術をぶっ放されたこともあって、臨戦態勢で春明を睨みつける。

 だが、春明は視線をカナから離すことなく、彼らの方に背を向けたまま、声だけを掛ける。

 

「ああ……ちょうどいいとこにきた。お前らさ、責任者よんできてくんない? この間、里にきてた……ハクだっけ? あいつでいいから、今すぐ連れてこいよ……」 

「はぁ? 貴様何を言っている。何故貴様なんぞのためにハク様をお呼びせねばならない? それより貴様。今その娘に何をし——」

 

 春明の無礼とも呼べる提案を一顧だにせず、彼に武器を向ける天狗たち。だが——

 

 

 

「いいから……呼んで来いって、言ってんだろ、ぶち殺すぞ!!」

「「——なっ!?」」

 

 

 突如、豹変したかのように殺気すら込めて叫ぶ春明に、天狗たちは息を呑む。

 

 春明が陰陽師としての力を全開に解き放っており、その力に怯んだというのもあるが、それ以上に彼の目つき。その視線には、一切の反論を許さないという強い意志が感じられた。

 とても六歳の人間の子供ができる目とは思えず、彼らは自分よりも遥かに年下の人間相手に一瞬とはいえ畏れに近いものを抱いてしまう。

 それでも、妖怪の意地としてその場に留まろうとする天狗たちに、春明は冷たく吐き捨てる。

 

「とっとと、呼んでこい……でないと——この女、手遅れになるぞ?」

 

 と、地面に転がるカナの方に目を向けながら。

 

「……おいっ!!」

「は、はいっ!!」

 

 そこに込められた意味深な言葉に勘付いた天狗の一人が、もう片方の同僚に視線で促す。促された方の天狗は暫し迷っていたが、春明の要請どおり、ハクへことの次第を伝えるため、急ぎ飛び去って行く。

 

「……さて、説明はしてくれるんだろうな。いったい、その娘に何が起こっている?」

 

 春明と二人っきりになった天狗は、彼にカナの身に起きていることを尋ねる。

 

「……そのまえに、あんたも手伝え。とりあえず、こいつを家の中まで運ぶ。それから結界をはらなきゃなんねぇ」

「結界だと? 何故、こんな人間の小娘相手にそんな真似……を?」

 

 そう疑問を口にしながら、天狗は横たわるカナを持ち上げていた。

 するとどうだろう。

 すっかりやせ細って軽い少女の体から、黒い靄のようなものが漏れ出しているのに気づいた。その靄から感じ取れたものは、間違いなく——妖気であった。

 

「お、おい……この娘!」

「ああ、そうだよ……」

 

 まさかと思い呟く天狗の言葉に、春明ははっきりと答えていた。

 家長カナという少女の体におころうとしている異変、その変化の兆しを――。

 

 

「この女……妖怪になりかけてる。はやいとこ手を打たないと——あんたたちと同じ化け物になっちまうぞ?」

 

 

 




補足説明
 春明の父親
  当初は出演を予定していませんでしたが、感想欄の意見を参考に急遽登場。
  ただ、細かいキャラ設定は考えていません。名前も、特に。
  狐の耳に尻尾で、それ以外は普通の人間と同じ半妖。 
  ビジュアルのイメージは犬夜叉かな? 
  何故、狐なのかについては――察していただきたい。

 春明の祖父
  現段階で名前は伏せていますが、原作に密接に関係する人物です。
  多分、アニメ派や、原作派でもコミックス読まないとわからないと思う。   
  ただ思い当たる方がいても、今は何もおっしゃらずに察していただきたい。

今月の更新はこれで終わり。来月はホント忙しいので更新頻度は著しく下がると思います。おそらく良くて二回、悪くて一回ほど。予めご容赦ください。


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