家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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新年、明けましておめでとうございます!!

年末は死ねほど忙しかったけど、何とか執筆時間を確保して、新年一発目に更新することができました。
そして、一月一日は久々に仕事が休み! 
朝から酒をかっくらって、fgoの福袋ガチャを回します!! 狙いは武蔵ちゃんだが、メルトでも、エドモンでも、金時でもいいぞ! こいつらなら、宝具レベルが上がっても嬉しい!!

さて、本編ではタイトルにあるように邪魅の話をします。アニメ二期ではぶかれたエピソードの為、詳細を知らない人もいるかと思ったので、できるだけ丁寧に書いたつもりです。長くなったので前後編に分けます。

それでは、今年もよろしくお願いします!! 




第三十三幕 邪魅の漂う家 前編

 

 

 

 しと――しと――。雨が降っている。 

 音に紛れ、水にまみれ、ぬるい風と共に枕元に立つ。

 

 奴の名は――邪魅(じゃみ)

 

 それは魑魅の類なり、妖邪の悪鬼なるべし。

 

 

 

 

 

 

 

 夏。

 ジメジメした梅雨の日々を乗り越え、今年もまた暑い季節がやってきた。

 人々も薄着で出歩くようになり、どこからともなく祭囃子も聞こえてくる。この時期になると、どこへ行っても浮かれた人間というものが湧いて出てくるものだ。

 

「おいこらぁ! どこに目ぇつけとんじゃ? ああん?」

「おいおい、ハセベさんのイケてるシャツに、アイスついちゃったじゃん!」

「どうしてくれんだよ、このメガネ? 弁償しろや、コラぁ!!」

「いてて……そっちがぶつかってきたんじゃないかな?」

 

 この港町においても、そういった輩は存在していた。数人の若い強面の男たちが一人の善良そうな少年に因縁をつけている。どうやら少年との接触事故により、ハセベという男の手に握られていた温泉卵アイスが零れてシャツについてしまったようだ。

 だが、前方不注意で先にぶつかってきたのは男たちの方で、少年の側に否はほとんどない。

 にもかかわらず、金を出せだの、アイスを買ってこいだのと、好き勝手なことをのたまう男たち。

 可哀相な少年。見たところ腕っぷしも強そうには見えない。きっと恐怖に怯え、男たちに身ぐるみを剥がされ、痛い目に遭うに違いない。

 もっともそれも、彼が――ただの人間の少年であればの話だが。

 

「お前、見ねぇ顔だな!! 俺たちのシマで何しとんじゃい?」

 

 地元の人間であるハセベが見覚えのない少年にそのように問いかけていた。すると少年は答える。

 

「妖怪を退治しに」

「―—はぁ……妖怪だぁあ? …………ギャハハハハ!!」

 

 少年の答えに男たちは馬鹿みたいに笑い声を上げる。どう見ても信心深いようには見えない男たちは、妖怪という言葉を聞き少年の正気を疑った。

 この現代に妖怪なんているわけがないだろうと、少年を笑い飛ばすハセベ。

 これに関しては男たちの言い分ももっともだ。このご時世、妖怪を探しているなどと言えば、大半の人間が男たちのような反応を示すことだろう。

 だが少年は知っている。目に見えることが全てではない。妖怪が――存在しているということを。

 

「そうだね。普通は見えないよね……」

「あ?」「え?」

 

 何故ならば――この少年、奴良リクオこそが妖怪だからだ。四分の一だけだが、その体には確かに妖怪の血が流れている。

 それも妖怪の総大将、ぬらりひょんの血が。

 その血の力で彼は多数の妖怪たち、奴良組を率い魑魅魍魎の主を目指している。

 

「うっ、うわぁああああ!?」

「ひぃ、化け物!?」

 

 今もこうして、多くの妖怪たちを後ろに率いて男たちに悲鳴を上げさせる。

 恐怖に染まる彼らの表情に、少年は満足そうに悦に浸る…………訳がなかった。

 

「ん……あれ? ちょっ、お前たち!? 駄目じゃないか、人間を脅かしちゃ!」

 

 男たちが一目散に逃げだしていくのを見て、自身のしもべの小妖怪たちを慌てて引っ込める。

 普段の彼は人間であり争いを好まない。たとえはた迷惑な人間相手であろうとも、何とか穏便に済ませたいと思っている。そのため、こうやって妖怪をけしかけて人間を脅すのは彼の本意ではない。

 

「何をおっしゃいます、リクオ様! あのような輩、ちょいと脅してやらぁいいんですよ!」

「儂ら妖怪に喧嘩を売るなんざ、生意気でさっ!」

 

 だが、血気盛んな妖怪たちはリクオが人間に舐められる光景に我慢がならないようだ。生意気な人間を懲らしめてやろうという気持ちから、姿を現してしまった。

 

「わかった、わかったから。少し大人しくしておいてくれ、ふぅ……」

 

 そんな小妖怪たちをなんとか宥め、彼らが引っ込んだところでリクオはようやく一息ついた。

 

「リクオ様……何してるんです? 早くしないと置いてかれちゃいますよ?」

 

 そんなリクオに彼の護衛である及川つららが声を掛ける。普段は人間に扮しているが、彼女は純血の妖怪だ。ひとたび妖怪に戻れば、あらゆる者を凍てつかせる雪女としての力を発揮できる。

 

「むう、あんな人間共もいるんですね。やっぱり、リクオ様には護衛が必要です……むふーん!」

「ははは……この前の戦いで自信をつけちゃったか……」

 

 つららは先日の戦いでリクオを護り、彼の役に立てたことが余程嬉しかったのだろう。リクオの側近として、彼の隣を堂々と一緒に歩き、目的地へと向かっていく。

 先日の戦い。それは四国との百鬼夜行大戦。

 その戦において、大将として辛くも勝利したリクオは妖怪界で鮮烈なデビューを飾った。

 今や多くの妖怪任侠たちが彼の一挙手一投足に注目している。弱まっていた奴良組の畏も順調に回復の兆しを見せ、一時奴良組を離れていた者たちも再びその傘下に戻ってきた。

 まさに奴良組の次期三代目として順風満帆。

 まさに敵なし、憂いなしと、その勢いに乗るままに進んで行きたい奴良リクオであった。ところが、

 

「はぁ……」

 

 今現在、人間としてのリクオはとある二つの悩み事に溜息を堪えきれずにいた。

 

「奴良くん!! 遅いぞ!! もう目的地は目の前だというのに!!」

「ごめん、清継くん」

「ゆるさない、けして。ほら見たまえ、妖怪の出る武家屋敷はすぐそこだ!!」

 

 一つ目の悩みは、リクオたちが今向かおうとしてる目的地についてだ。

 

 

 浮世絵中学清十字怪奇探偵団。その団体に所属するリクオは団員たちと一緒に、とある港町の武家屋敷に訪れることになっていた。

 きっかけは清十字団の団長―—清十字清継の運営するサイト『妖怪脳』に届けられた一通のメールだった。

 

『清継くん、助けて!! 私の家に妖怪が出て、夜になると枕元に立つのよ!』

『お祓いしても、どうやっても解決しないの!』

『数多くの妖怪をハントしてきた清継くんしか頼れないの……お願い、助けて!!』

 

 どうやらそのサイトで清継は妖怪悩み相談らしきものを開いていたらしい。そこに届けれた救済メールに応じる形で、清十字団の面々はこの小旅行に乗り出した。

 リクオとしては、友達の皆にあまり危険な目に遭って欲しくない。妖怪が出るかもしれない場所にわざわざ首を突っ込むような真似はして欲しくないのだが、どうにも清継への妖怪の愛を止めることができず、他のメンバーと共にその武家屋敷に向かう事となった。

 

 ―—はぁ……やっぱり心配だな……何もなければいいけど。

 

 とにかく、何もないことを祈りながら、リクオは大人しく清継の後を付いていく。

 そこでふと、彼は前方を歩いている一人の女子に声を掛けていた。

 

「清継くんには悪いけど、何もでなければいいね。ねえ、カナちゃん!」

「え? あ、う、うん……そうだね……」

 

 幼馴染である家長カナ。今いる清十字団の中でもとりわけ長い付き合いであり、それなりに気心の知れた相手――の筈だった。

 だが、ここ数日。何故か彼女とは気まずい関係が続いている。リクオが普段通り話しかけるのだが、どこか素っ気なく、視線を合わせようともしてくれないのだ。

 これがリクオを困惑させる二つ目の悩みだ。何故彼女にそのような態度を取られるのか全く身に覚えがないリクオは、ずっとモヤモヤとした気持ちを抱え続けている。

 

「あの、カナちゃん……その……あの……」 

 

 リクオはどうにかしてこのモヤモヤを晴らそうと、カナに積極的に話しかけるのだが、

 

「―—ごめん、リクオくん。私、先にいってるね!」

 

 露骨にリクオとの話を打ち切り、カナは先を歩く二人の女子――巻と鳥居と合流してガールズトークを始めてしまう。女の子同士の話に割って入る度胸もなく、リクオはまたもモヤモヤを解消する機会を失った。

 

「リクオ様。家長……さんと喧嘩でもしたんですか? あの年頃の人間の女の子は色々とめんどくさいですからね~。何か怒らせるようなことでもしたんじゃないんですか?」

 

 カナに袖にされるリクオに、つららがそのような疑問を投げかける。

 

「わかんないよ。休日明けてから、ずっとああで……」

 

 リクオは先日の四国戦から暫くの間、怪我が原因で自宅で療養生活を送っていた。

 久しぶりに学校に顔を出して以降、カナとはずっとこの調子。休む前、生徒会選挙の日までは今までと変わらぬ日常を過ごしていた筈なのに。

 

「カナちゃん……ボク、君に何か怒らせるようなことしちゃったのかな?」

 

 心当たりが全くなくても、人の良いリクオは自身に非があると考えていた。

 どうにかして謝って許してもらいたいと、リクオは深刻に思い詰めていた。人間としての学校生活を送る上で、カナの存在は彼にとって必要なものだと、無自覚にそれを理解しているからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ―—どうしよう。リクオ君の顔、まともに見れないよ……。

 

 一方のカナ。巻と鳥居の二人と一緒にガールズトークに花を咲かせてはいるものの、心の奥底では、常にリクオの存在を意識せずにはいられなかった。

 リクオの夜の正体を知り、今後どのように接するかを悩んでいた矢先、彼はそのリクオから「自分の百鬼夜行に入らないか?」と勧誘を受けてしまった。勿論相手は自分の正体のことも知らず誘ったわけだが、昼のリクオの顔を見ただけでも、あのとき掛けられた言葉の数々が思い出される。

 

『アンタの力が欲しいって言ってるんじゃない。オレはアンタの心意気に惚れたんだ』

『アンタのような妖怪こそ、オレの百鬼に相応しい』

『俺と、盃を酌み交わさねぇか?』

 

「―—っ!!」

 

 それらの言葉を思い出すのと同時にカナの脳裏に、あの夜のリクオの表情がチラつく。

 

「? どうしたカナ、顔赤いぞ?」「あれ、ホントだ。風邪でも引いた?」

「なっ、なんでもないよ!! 大丈夫だから!!」

 

 そんな赤面するカナに、巻と鳥居の二人が不思議そうに首を傾げる。

 どうしてあのときのことを思い出して赤面するのか、カナ自身も理解しきっていない。だがそのときのことを、昼のリクオと顔を合わせるだけでも思い出してしまい、それを悟られたくなくて、露骨にリクオを避けるような態度をとってしまう。

 

 ―—きっとリクオくん、怒ってるよね……はぁ……。

 

 こんなことを続けていれば、人の良いリクオとて不満をため込むだろう。

 早いうちに何とかしなければと思いつつ、具体的な解決方法を思い浮かべることができずカナも溜息の回数を自然と増やしていた。

 

 

 

 

 

 ちなみに、そんな幼馴染二人の様子に、意外にも清十字団の面子は気づいてなかったりする。

 団長の清継は、これから出会うことになるかもしれない妖怪へと、思いを馳せているため。

 

 ―—うぉぉおおおお、邪魅邪魅邪魅邪魅!! 主主主主主!!

 

 その腰巾着的立場の島二郎は、好きな女子との少旅行に浮かれているため。

 

 ―—及川さん、及川さん、及川さん、及川さん、及川さん!!

 

 そして巻と鳥居の二人は二人で、海というワードに心躍らせていた。

 

「今日のために水着新調しちゃったよ!」

「わたしは浮き輪! 良い感じの買っちゃったよ、へへへ!」

 

 また、この小旅行に陰陽師である花開院ゆらは付いてきていない。

 なんでも最近は学校も休みがちらしく、連絡もとれないとのことだ。

 

 と、こんな調子で、誰もリクオとカナの二人の間に流れる気まずい空気を悟れずにいた。

 只一人を除いては――。

 

「……………………」

 

 一同の最前列。清継と並んで歩く白神凛子。このメンバーの中での最年長(つららを除いた)の彼女は、ちらちらと後ろを振り返りながら、探るような視線をリクオとカナへと向けていた。

 

 

 

×

 

 

 

 その日の夜。清十字団の面々は依頼先の武家屋敷で一晩を過ごすことになった。女子たちは全員一塊の部屋で過ごし、男子は外で彼女たちを護衛する。

 そういう態勢の下で、妖怪『邪魅』に備える。

 清十字団に助けを求めてきたのは、中学二年――菅沼品子(すがぬましなこ)という女子である。彼女は最近、地元で長いこと問題になっている『邪魅騒動』の被害者であった。どうやらこの地域では、たびたび邪魅という妖怪が目撃され、人々に迷惑をかけているらしい。

 

 品子の話によれば、邪魅は彼女の枕元に立ち、じーっと眠る品子を覗き込んでくるらしい。しかも覗きこむだけでは飽き足らず、昨日は腕を掴まれたらしく、その跡が今もくっきりと残っているとのこと。

 邪魅を鎮めるために作られた、近所の神社もあてにならず、耐えかねた品子は藁にもすがる思いで清継に応援を頼んだのである。

 

「でも、まさか清十字団にこんなに女の子がいるなんて思ってなかった。これはすごい心強いわ!!」

「護衛は男子に任せて寝よ~」

「明日は海――♪」

 

 しかし、かなり追い詰められている筈の品子だったが、女子全員で就寝の準備をする中では笑顔を浮かべていた。

 まさか、あんな怪しげなサイトから呼び寄せたメンバーに自分と同年代の女子が五人もいるとは思っていなかったのだろう。

 屋敷の入口で初合わせをした当初は不安がっていた顔色も、ほんのり安らいでいる。

 きっと彼女も、効くかもわからないお祓いのお札を部屋中にペタペタ貼られるより、同年代の女子が一緒にいてくれた方が心も休まるのだろう。

 

 

 

 ―—う~ん、今のところ特に妖気は感じないけど?

 

 皆が寝静まる中、カナは起きていた。つい先ほどまでリクオのことで頭が一杯だった彼女だが、品子の現状に心打たれ、彼女のために力になろうと妖怪の正体を見極めようと集中する。

 だが少なくとも現時点で、これといって目立つ妖気は感じない。

 隣でぐ~すか、と寝入っている、つららの妖気は鮮明に感じているが、それ以外はさっぱりだ。

 果たして今夜も邪魅は現れるのか。それとも、この人数を前に怖気づき逃げ出したのか。

 いずれにせよ、自分たちがいる間に何とかしなければと、カナはさらに精神を研ぎ澄まして探りを入れようとした。

 

「ねぇ……カナちゃん、起きてる?」

「? あれ、眠れないですか、凛子先輩?」

 

 その矢先、カナのもう片方の隣で寝ていた筈の凛子が声を掛けてきた。布団を自身の方へ寄せ、皆を起こさないようにと声を忍ばせながら、凛子はカナに尋ねてくる。

 

「カナちゃん。リクオくんと喧嘩でもしたの?」

「えっ――?」

「何かよそよそしいから、ちょっと気になっちゃって。普段はあんなに仲が良いのに……何かあったの?」

「あ……」

 

 悟られていないとは思っていなかったが、まさかこのタイミングで聞いてくるとは。心の準備ができていなかったため、思わず回答に詰まるカナ。

 

「え~ええと、それは、その……」

 

 現在のカナの心境について、もし嘘偽りなく述べるならば、奴良リクオの正体に関してまず語らなければならないだろう。勿論、そのようなこと何も知らない凛子に訊かせられるはずもなく、何か上手く誤魔化すことができないかとカナは思案を巡らせる。

 だが――そこでふと、疑問に思った。

 

 ―—あれ? そういえば、先輩はリクオくんのこと……どこまで知ってるんだろう?

 

 白神凛子はリクオと同じ半妖だ。しかも凛子の実家の白神家は、奴良組の傘下に属していると本人の口から聞いた覚えがある。

 普段の清十字団での活動中は、特に親し気な空気など見せない両者だが、一応の繋がりはある。凛子はリクオの正体に関してどこまで知っているのか、それによりどこまで話すかカナの対応も変わってくる。

 

「凛子先輩。先輩はリクオくんのこと、その……どこまで知ってるんですか?」

 

 他の皆に聞かれないようにと、より一層声を忍ばせて逆にカナは凛子に問いかける。

 

「? どこまでって――――――――それはひょっとして、リクオくんが、奴良組の跡取りだってこと?」

 

 カナの言わんとしていることを悟ったのか、凛子もさらに声を小さくしてカナの問いに注意深く答えていた。

 

「ああ、やっぱり。凛子先輩も知ってたんですね、リクオくんの家のこと……」

「うん、まあ、知ったのは最近、清十字団に入ってからだけど。ひいじいちゃんから聞かされてね……失礼のないようにって、念を押されちゃったわ」

 

 浮世絵中学の噴水に住まう凛子の曽祖父・土地神白蛇。凛子はお供え物を持って、たびたびその曾祖父の下を訪れ、最近の出来事など世間話などをするのだが、その話の中で奴良リクオの名前を出したらしい。リクオの実家のことを聞かされたとのこと。

 まさか身内のひ孫が、自分たちの総大将の孫と同じ団体で活動していたとは夢にも思わず、大層驚かされたとのことだった。

 

「そっか……じゃあ、リクオくんの夜の姿のことも……」

 

 リクオが奴良組の跡取りで、半妖であることを知っていた。ならば夜のリクオのこともと、何気なく口にするカナであったが――

 

「夜? 夜のリクオくんって……何のこと?」

「あっ……」

 

 凛子の反応に思わず手で口を塞ぐカナ。

 どうやら凛子は、夜にリクオが妖怪に変化することまでは知らないらしい。

 それはかつての自分と同じ。しかし彼女の場合、リクオと知り合ってまだ日も浅いのだ。一度、生徒会選挙の際にあの姿を見たことがあるとはいえ、それを初見でリクオだと気づくには無理があるだろう。

 

 ―—う~ん……となると、どこまで話せばいいのやら。

 

 カナは先ほどの凛子の問いにどのように答えるべきか頭を悩ませる。何も知らないのであれば沈黙を貫き通すしかないが、知っているのであれば話は別だ。カナは慎重に、話せる範囲だけでも事情を説明できないかと口を開き始める。

 

「実は……!!」

「カナちゃん?」

 

 しかし、いざ口を開きかけたその時、カナは異変を感じ取った。急に口を閉ざしたカナに不思議がる凛子。

 

「先輩、静かに……」

「……もしかして、いるの?」

 

 カナに静かにするように言われ、凛子は察する。どうやら、例の妖怪が現れたようだ。先ほどまでは感じることのできなかった妖怪の妖気をカナは鮮明に感じ取っていた。

 

「……先輩、振り返らないで。後ろにいます……品子さんの枕元に――」

「―———」

 

 カナの警告に息を呑みそうになり、凛子は慌てて口を閉じる。カナの視線の先、凛子の後ろ――品子が寝ている枕元に例の妖怪――邪魅が立っていた。

 着物を着た、髪の長い長身の男(?)だった。顔の部分におびただしい数の札が貼られており、その表情を窺い知ることがまったくできない。いったい何を目的として品子の枕元に立っているのか、その真意を理解できないカナは布団の中で護符を握り締める。いざとなれば、すぐにでもその護符から槍を取り出せる状態で待機し、相手方の動きを見る。

 

「…………」

 

 その邪魅と思しき妖怪は暫しの間、じーっと品子の顔を覗き込んでいる。品子や、凛子以外のメンバーは熟睡しているのか、全く気づいてない。起きる様子のない品子に視線を落とし続ける邪魅――次の瞬間、どこから取り出したのか、その手に一振りの刀が握られていた。

 

「―—先輩、下がって!!」

「カナちゃん!?」

 

 邪魅が刀に手を掛けた瞬間――カナはたまらず声を出して凛子を下がらせていた。

 邪魅はカナの声に反応し視線を向ける。カナは立ち上がり、護符から槍を取り出し、その切っ先を邪魅へと向けた。

 

「…………」

 

 邪魅は驚いたようにお札の隙間から見える目玉を見開いてたが、すぐに気を引き締めるように刀を構え直した。カナの槍と、邪魅の刀。二つの刃の矛先が互いに向けられる。

 一触即発。何かがきっかけでそのまま戦いに発展しかねない状況。痛いほどの沈黙が室内を支配する。だが――次の瞬間、

 

「―—どこだぁああ妖怪ぃいいいいいいい!!」

「及川さぁああん!?」

「ひゃああああああ!!」

 

 部屋の襖を盛大に開け放ち、清十字団の男子――清継と島の二人がその場に乱入してきた。悲鳴を上げる凛子。男子には余程のことがない限り、部屋の中には入ってこないように言い含めていただけに、彼女の驚きは相応のものだった。

 

「え~なによ!」

「誰か入ってきたの?」

「う……う~ん?」

 

 清継たちがドタバタと勢いよく乱入してきた騒音に、熟睡していた面子が目を覚ます。

 

「やばっ!」

「…………」

 

 カナは慌てて槍を護符に戻し、邪魅もまたその姿を幻のように消していく。どうやら大人しくその場から立ち去ったようで、妖気すらも感じ取れなくなった。

 

「ふぅ……大丈夫でしたか、凛子先輩?」

「え、ええ……」

 

 脅威が立ち去ったことで緊張の糸を切るカナは、凛子に声を掛けていた。

 

「カナちゃん。今のが邪魅なのね」

「はい、おそらくは……」

 

 凛子は、先ほどの妖怪が邪魅であることを改めてカナに確認をとっていた。ちなみにカナが突如として、槍を取り出したことに関してはあまり驚いていない。カナがある程度妖怪世界に詳しいことを知っているためか、護身用の装備かなにかなのだろうと、納得してくれているようだ。

 

「う~ん、暗くてよく分からんな」

 

 そこでようやく、真っ暗だった部屋にパッと明かりが灯る。

 部屋に押し入ってきた何者かの存在を確認する為、巻が部屋の電気をつける。

 そして、明るさを取り戻した室内は混沌に満ちていた。

 

「妖怪! どこだ? なんだぁ!? いないじゃないか!!」

「…………え、にゃ? …………へ、変質者!!」

「はぁはぁ、及川さんの寝顔……何これ、邪魔」

「……おい、島……どこ触ってんだぁこらぁあああああ!!」

「な、何? 何かあったの?」

 

 部屋の中に入ってきた清継たちが、真っ暗な部屋の中を手探りで動き回った結果らしい。

 清継が、何故か鳥居を組み伏せる姿勢で「妖怪、妖怪!!」と連呼しており、組み伏せられていた鳥居が清継を変質者と糾弾。

 電気をつけるために立ち上がっていた巻の胸の谷間に、島が顔を埋めている。だが、及川さん命の島はそんなものは邪魔とばかりに手で除け、つららの寝顔を覗き込もうと奮闘している。

 そんなカオスな状況にあたふたと慌てふためく、品子。

 まったく気に留めることもなく、ずっと熟睡したままのつららと、もう何が何やら。

 

「み、皆! とにかく落ち着いて!」

 

 カナは、自分の先ほどの槍を構える姿や妖怪邪魅の姿を凛子の他に誰も見ていなかったことに安堵しながらも、とりあえず現状を落ち着かせようと皆に声を掛けて回った。

 

 

 

×

 

 

 

「ハァハァ……消えた?」

 

 一方のリクオ。彼は廊下で出くわした何者かと交戦していた。

 女子たちを護衛する為に彼女たちの部屋の周囲を固めていた清十字団の男子たちだったが、その際、リクオは廊下の曲がり角を曲がる怪しげな人影を見つけ、その後を追いかけていた。

 だが一人曲がり角を曲がったところで、彼は『妖怪ではない』何者かの襲撃を受けた。

 清継と島には危険だと警告を発し、皆の下へ戻るように指示を出していたのが功を奏した。誰も見ていない所で隠し持っていた袮々切丸を抜き放ち、その襲撃を迎撃できた。

 

「……こいつらが、邪魅?」

 

 リクオが迎撃した者の正体。それは黒い靄のようなものだった。

 その靄を斬り捨てると、後にはボロボロの布切れ――『護符』が落ちていた。

 護符――それは陰陽師が式神などを用いる際に使う、彼らの仕事道具だ。

 黒い靄を斬り捨てた後に、それが残っているということは、この『邪魅騒動』の犯人は――

 

「いや、でも……昼間見たやつとは違う。あいつは強い妖気を放っていた」

 

 しかし、リクオは確かに見た。昼間、品子の屋敷の前で強い妖気を放つ奴の姿を。

 

『その娘に近づくな』

 

 一瞬だったが、確かに見た。長い髪に顔中にお札を貼った妖怪『邪魅』の姿を。

 

「何だ、ここ……何者だ、邪魅って?」

 

 二つの種類の違う『邪魅』。それがリクオの考えをややこしいものにさせていた。

 果たしてどちらが本物の邪魅なのか。どちらが品子を脅かしている邪魅の正体なのか。

 リクオは考えを整理しようと、その場で思案に耽っていた。

 

「奴良くん! どこ行った、奴良くんぅんんんんん!」

「き、清継くん!」

 

 すると、そこへ清継が戻ってきた。リクオは慌てて考えを中断し、護身刀を後ろ手に隠す。

 

「奴良くん、どうだった? 何か見つかったかい?」  

「ご、ごめん清継くん。何も無かったよ。ボクの見間違いだったみたい、ごめん……」

「ゆるさない、けして」

 

 リクオは咄嗟に、先ほど見たと言った人影を見間違いだということにして清継に謝罪する。

 清継は少しご立腹な様子だったが、すぐに気を取り直したようにリクオにとある事実を告げていた。

 

「まあいいさ。どうやら邪魅は向こうの女子の部屋に出たらしい! 家長さんが邪魅の姿を見たそうだ。すぐに戻ってガードを固めよう!」

「えっ? カナちゃんたちのところに!? それで皆は!?」

 

 清継の言葉にドクンと心臓が高鳴るリクオ。どうやら向こうの部屋にも『邪魅』が出没したらしい。おそらく昼間見たアイツのことだろうと、リクオはカナたちの無事を確かめていた。

 

「ああ、それは大丈夫だ。ボクと島くんが部屋に飛び込んだと同時にその場から消え去ったらしい。ふふふっ、きっとこのボクに恐れをなして逃げ出したのだろう!!」

 

 自信満々に自分の功績だとばかりに語る清継。しかし直ぐにその表情を不満なものに変えていく。

 

「それにしても、どうしていつもいつも家長さんや、他の女子たちばかり襲われるのか……まったく……ボクの目の前に現れてくれれば、喜んで歓迎するというのに……ブツブツ……」

 

 なにやらズレたことを言っているように思えるが、なにせ本人の目的が妖怪に襲われ、そこを妖怪の主に救われることにあるのだから仕方ない。

 その妖怪の主が目の前にいるとも知らず、彼は終始自分を襲ってこない妖怪たちにブツブツと文句を垂れていた。

 

 

 

×

 

 

 

 女子たちのいる部屋に戻ってきたリクオたちは、そのまま再び彼女たちの護衛につくことになった。先ほどよりも用心深く、一度女子たちの部屋に侵入を許してしまった失敗を教訓に、出入り口を固める。

 一方の出入り口を清継と島の二人で。もう一方の出入り口をリクオが一人で見張っていた。

 

 ―—カナちゃんを、また怖い目に遭わせてしまった……。

 

 一人、縁側で月を見上げながら、リクオは心中で後悔を噛みしめる。

 自分が近くにいながらも、大切な幼馴染に妖怪の姿を目撃させてしまった。きっと怖かっただろうと、幼馴染の心中を案じるリクオ。次こそはしっかりと彼女を、彼女たちを守らなければと使命感を総動員してリクオはこの任務についていた。

 すると、さっそく向こうの廊下から何者かの気配を感じ取る。

 

 ――また来た! どっちの邪魅だ!?  

 

 間髪入れずにやってきた侵入者にリクオは身構える。だが、廊下を歩いてきたのはどちらの邪魅でもなかった。

 

「! り、リクオくん……」

「カナちゃん!? あれ、部屋にいたんじゃ……」

 

 部屋でみんなと一緒にいると思っていたカナが外からやってきた。そのことにリクオが驚いていると、カナは申し訳なさそうに謝る。

 

「ご、ごめんね。ちょっと外の空気が吸いたくて……」

「そ、そうなんだ……まあ、あんなことがあったばっかりだし、気が滅入るよね……大丈夫?」

「う、うん……大丈夫だから、気にしないで……」

「…………」

「…………」

 

 先の邪魅騒動をきっかけになんとか会話にはなったものの、未だに二人の間には気まずい空気が流れていた。

 やはりカナは自分のことを露骨に避けていると、リクオは改めて思い知らされる。

 いったい、自分は彼女に何をしてしまったのか。己の無知さに泣きそうになるリクオ。

 

「そ、それじゃあ、わたし……部屋に戻るから……」

 

 カナは、その気まずい沈黙を無理やり終わらせ、リクオの横を通り過ぎようとした。

 そのとき、いてもたってもいられなくなったリクオは、カナに向かって――

 

「―—ごめん、カナちゃん!!」

 

 と、全力で頭を下げていた。

 

「? どうして、リクオくんが謝るの?」

 

 土下座でもする勢いで頭を下げるリクオに、カナは心底不思議そうに首を傾げる。

 何故リクオが謝るのかと、その顔は戸惑いに満ちていたが、それでもリクオは続けて謝罪を口にしていた。

 

「ボク、カナちゃんに知らず知らずに酷いことしたのかなって……それでカナちゃん、ボクのこと嫌いになっちゃったのかなって……それで、ボクのことを避けてるのかなって……思い出せなくて、ごめん!!」

 

 理由はわからないが、それでもと頭を下げるリクオ。

 これで『どうして怒ってるのかも分からないのに、気安く謝らないで!!』なんてドラマのようなことを言われたらどうしようと、内心気が気ではないリクオ。許してくれなかったらどうしようと、緊張しながらカナの表情を窺い見る。

 

「―—————」

 

 意外なことに、カナの顔に怒りはなかった。彼女は頭を下げるリクオ相手に目を丸くして、そのまま数秒間、固まっていた。

 だが、不意に視線を逸らし、その表情がリクオから見えなくなった。

 やはり許してもらえないのかと、リクオの胸中が絶望に染まり始めた、そのときだ。

 

「―—ねぇ、リクオくん」

 

 彼女は視線を逸らしたまま、リクオに質問を投げかけていた。

 その問い掛けが如何なる意味を伴っていたのか、その意味をリクオは暫く後になってから理解することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―—リクオくんの……将来の『夢』って何?」

 

 

 

 




補足説明
 菅沼品子
  正当な眼鏡っ子。見た目も正当な文学少女といった感じの女の子。 
  だいたい原作通りですが、中学2年という年代なのは本作の独自設定です。
  理由は、凛子と同い年にしたかった。彼女との絡みは後編までお待ちください。

 凛子の知っていること
  本編に書いたように、凛子はリクオが半妖で奴良組の後継ぎであることを知っています。
  ただ原作と出会い方が違うので、リクオに惚れてはいません。あくまでリクオは後輩であり、友達です。
  これ以上、ヒロインが増えても扱いに困るので、期待されてた方はごめんなさい。

  また、凛子はカナが何かしらの秘密を抱えていることを勘づいてはいますが、詳細は何も知りません。
  カナが狐面を被ったあの少女だとも気づいていません。
  いつか知ることになりますが、それはまたの機会に……。


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