家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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前回の補足説明の追加

下平さん
 原作コミックス四巻に登場。
 ただのモブですが、可愛いので登場してもらいました。
 こちらでもただのモブですが、一応カナの学校での友達という設定にして、今後も名前だけは出てくる予定です。





第三幕 清十字怪奇探偵団

「ねぇ 清継! 前の話きかせてよ!!」

「旧校舎……本当に行ったんでしょう!?」

「そ、それは……」

「出たの? 妖怪」

 

 朝のHR前。巻と鳥居、二人の女子が同じクラスの清継へと話しかけていた。

 

 内容は先日、清継が言っていた旧校舎探索の件についてだ。

 二人はその探索に同伴こそしなかったものの、その事の顛末には多少の関心をもっているのか、そのように清継に問い質していた。

 

 だが彼女たちの疑問に、清継は答えにくそうに言葉を詰まらせている。

 

 彼は探索の最中、妖怪に襲われた恐怖で気を失っており、彼自身は介抱されたリクオから「たむろしていた不良を妖怪と間違えて気絶していた」と教えられていた。

 結局、清継自身は最後まで妖怪の存在に気づくことがなく、不良を妖怪と間違えて気絶したなどという、みっともない事実を二人の女子に告げることができず、口を固く閉ざしていた。

 

「い、いなかったんだよ……あそこには……」

 

 苦し紛れにそう答える清継に、二人の女子は冷ややかな目つきになる。

 

「そーなのー?」

「なんか期待はずれ――」

 

 そんな二人の冷たい視線に晒されて尚、清継はめげない。

 

「うぐっ、し、しかし、待ってくれ! 今度こそは!! 今度こそは、たどり着いてみせる!!」

「「え~ほんとに~?」」

 

 そのように声高らかに宣言する清継。しかし、そんな彼の堂々たる発言に心打たれた様子もなく、巻と鳥居の二人はがっかりだと言わんばかりに、自分たちの席へと戻っていった。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 そんな、クラスメイトたちの賑やかな会話を――家長カナは自分の席から溜息混じりに見つめている。

 

 カナ自身、彼らの探索に一緒には着いていかなかったし、旧校舎の中にも入っていない。

 彼女は『狐面に巫女装束』という変装で妖怪を装い、少し離れたところから、ずっと彼らの様子を見守っていた。

 妖怪に襲われても大丈夫なようにと、万が一のときのため、こっそり後をつけていたのだ。

 

 しかし、それも杞憂で終わった。

 人を驚かすような小妖怪はリクオが対処していたし、最後に清継たちに襲い掛かった妖怪はリクオの側近たちの手によって退治された。

 結局、自分がやったことは旧校舎の二階から落ちるリクオを助けたことくらいだ。

 これといって活躍のなかった自分の不甲斐なさに、カナの口から洩れる溜息の数も知らず知らずに増えていく。

 

「みんな! おはよう!!」

 

 そこへ朝のHRの合図をしらせるチャイムが鳴るとほぼ同時に、カナたちの担任――横谷マナがクラスに入ってくる。

 今年で三十歳と、教師としてはまだ若い独身の女性。誰にでも優しく明るい彼女は男子、女子その両方から多くの人望を集めている。

 彼女に席に座るよう促され、クラスメイトたちはきびきびと自分の席に着いていく。皆が座ったのを確認したマナは、クラスメイトたち全員に聞こえるよう話しを切り出していく。

 

「今日は……皆さんに大事なお知らせがあります!」

 

 大事なお知らせとは何だろう? クラスメイトたちがマナの話に耳を傾ける。

 

「今日、このクラスに転入生が入ることになりました!」

 

 すると、続く彼女の言葉にクラスメイトたちがざわめき始める。

 一年生である彼らがこの浮世絵町に入学してから、一ヶ月が経とうとしている。ようやく新しい生活に慣れてきた、そんな半端な時期からの転校生というニュース。驚くのは無理からぬことだろう。

 ざわめく生徒たちをよそに、マナが廊下に向かって声をかける。

 

「さっ、入ってきて! 花開院さん」

 

 その言葉に促され、一人の女子生徒が教室に入ってくる。

 新しいクラスメイトは一般的な中学生より、少し小柄な少女だった。制服を着ていなければ、小学生高学年くらいかと間違えてしまうほどに背が低い。

 

「京都から来ました。花開院と言います……フルネームは花開院(けいかいん)ゆらです。どうぞ、よしなに……」

 

 マナの隣に立った女子生徒――花開院ゆらがゆったりとした口調で自己紹介をする。

 聞きなれない方言で喋るゆらを、物珍し気にクラスメイトたちは見ていたが、マナはそんな生徒たちを静かにさせ、そのままクラス内へ視線を漂わせる。

 

「それじゃあ 花開院さんの席は……」

 

 どうやら、ゆらの座る席を捜しているようだ。そして、空いている席を見つけたのか、そちらへと手をかざすマナ。

 

「家長さんの隣が空いていますね。それじゃあ、彼女の隣に座ってください」

 

 その言葉にゆらは頷き、ゆっくりと指定された席へと向かっていく。席に座ったゆらに、隣の席のカナはすかさず声をかけていた。

 

「わたし、家長カナ! よろしくね、花開院さん!」

 

 カナのその挨拶に、ゆらは微笑んで応えて見せる。

 

「ゆらで結構ですよ。花開院って、呼ばれ慣れてないんで……」

「じゃあ……ゆらちゃん! これからよろしくね!」

 

 そう言って、カナも微笑みを返す。

 そこでマナが出席を取り始めたため、挨拶もそこそこに、二人は意識をそちらの方へと移す。

 この時点でカナは特別、ゆらという少女を意識してはいなかった。

 クラスメイトの一人として頼られれば力になるし、人並に仲良くしたいとも思っていたがそれだけだった。だが――

 

「――?」

 

 その瞬間――カナは、ゆらが身に纏っている空気に、違和感を覚える。

 

 常人とは違った空気、どこかで感じたことのあるその違和感に、思わずゆらの方へと目を向けるカナ。

 しかし、その違和感の正体がなんなのかが、自分でもよくわからない。

 幼馴染のリクオや、先輩の白神凜子のような、半妖としての妖気を発しているわけでもない。

 

 ――いったいなんだろう?

 

 じっと不思議そうな目をゆらに向けるカナ。すると、そんな彼女の視線に気づいたのか、ゆらはカナを見て、再び微笑むを浮かべる。

 その微笑に、カナはとっさに微笑みで応える。

 とりあえず考えるのを一旦止め、その違和感に関する自身の考えを引っ込めていた。

 

 

 

×

 

 

 

「――カナいるか?」

 

 土御門春明はノックもせず、カナの部屋にづかづかと上がり込んでいた。

 同じアパートに住むこの少年は、既にカナに遠慮という感情を持ち合わせていない。たとえ食事中だろうと、着替え中だろうと、顔色一つ変えることなく、自身の要件を優先することだろう。

 しかし、春明がカナの部屋に上がり込んだ時点で、既にカナは出かける準備をしていた。私服に着替え終え、今まさに玄関先でシューズの靴紐を縛り直している状態だった。

 

「……どこ行くんだ?」

 

 現在時刻は夕暮れ時。学校も終わり、部活動に入っていない二人はつい先ほど、アパートに帰宅したばかりだ。

 帰って早々にもかかわらず、カナが出かけようとしていた状況に、春明は眉をひそめる。

 

「ちょっと、リクオくん家に……」

 

 短く目的地を伝えたカナの返答に、さらに春明は顔をしかめる。

 

「……なんで?」

 

 その疑問に暫し考え込むカナ。彼女は観念したかのように、ポツポツとその理由を話し始める。

 

「実は今日……」

 

 

 それは、昼休みのことだった。

 いつものように清継が、いつものメンバー相手に妖怪について熱く語っていたときだ。いつもどおり、ほとんどのメンバーはその話を右から左に受け流していたのだが、その輪の中に、興味深げに首をつっこんできた、一人の女生徒がいたのだ。

 

 転校生――花開院ゆらである。

 

 彼女は清継に負けず劣らずの妖怪知識を披露。その博識ぶりに感動した清継が、彼女の手を取り言ったのだ。

 

『――是非とも、我が清十字怪奇探偵団に加わってくれたまえ!』と。

 

清十字怪奇探偵団(きよじゅうじかいきたんていだん)

 清継が妖怪を探すために結成した団体。いつの間にか、その団体の団員にされていることにカナは呆気にとられたが、続く清継の宣言にさらに彼女は言葉を失う。

 

『――この清十字団の結成式……奴良くん、きみの家でやろうと思うんだが……』

 

 リクオの家。即ち、妖怪任侠組織の総本山、奴良組の本家だ。

 言うまでもなく、その屋敷の中には妖怪がゴロゴロと潜んでいることだろう。

 

 もちろん最初はリクオも渋っていた。だが、清継とゆら二人の押しに負け、最後にはその提案を承諾してしまった。

 あいかわらずの幼馴染の人の良さに、カナは少し呆れてしまう。

 

 かくして、清十字団なるものの結成式が、リクオの家で開かれることとなった。当然、その一員に数えられるカナも、その式にお呼びがかかっている。

 彼女としても、行かないわけにはいかなかった。

 

 妖怪屋敷である奴良リクオの家で、皆が余計なものを見ないためにも――。

 多少なりとも事情を知る自分が、少しでもリクオの平穏を守るためにもと――。

 

 

「それじゃ 行ってきます!!」

 

 そういった、一通りの説明を終えたカナは、春明の返事も待たず、元気よく玄関を飛び出していった。 

 一人取り残される春明。暫くその場に立ち尽くしていたが彼だったが、頭をポリポリと掻きながら、憂鬱そうに愚痴を吐き捨てていた。

 

「…………花開院ね。嫌な予感しかしねえな……」

 

 

 

×

 

 

 

 結成式の待ち合わせは、リクオの家の前。カナがその場についたときには、既に今回参加するメンバーが全員集まっていた。

 ちなみにメンバーは清継と島、ゆら、カナ、そしてリクオの五人である。

 巻と鳥居の二人は案の定「お腹が……」「頭痛が……」と言ってそれぞれ断っていた。

 

 幼い頃より、リクオの家を何度も遠目から見ていたカナだったが、実際に中に入るのはこれが初めて。予想以上の家の広さに、他の清十字団の面々も驚きを隠せないでいる様子だった。

 一同は客間へと通され、結成式はそこを借りて行われる流れになった。

 

「すぅー……はぁ……。いい雰囲気だ。清十字怪奇探偵団の結成式にもってこいじゃないか~」

 

 屋敷の空気を存分に味わうかのように、深呼吸する清継。恍惚とした表情で、この歴史的瞬間を存分に堪能している。

 周囲の者たちが、そんな彼の表情にやや引き気味になるが、清継は気にも留めることなく式を進めていく。

 

「お茶入りました~」

 

 すると、そこへ客間の襖を開け、一人の給仕がお茶を持って入ってくる。

 着物を着こなす大人の色っぽさを感じさせる美しい女性。どこか人間離れした色気に、健全な男の子である島が鼻の下を伸ばしている一方、カナはその女性を見て気づく。

 

 ――あっ……この人も妖怪だ。

 

 カナは陰陽師である春明から、妖怪の妖気を敏感に感じ取る術を学んでいた。

 人間に擬態する妖怪などから身を守るために、いの一番に身に付けるべき護身術とのことだが、そのおかげでカナはその異様に髪の長い女性。

 彼女が隠しながらも僅かに放っている、その妖気に気づくことができていた。

 

 見ると、ゆらもその女性に何かを感じたのか、じっと彼女の横顔をまじまじと見つめている。いや、それ以前。ゆらはこの屋敷に入ってきた当初から、ところどころに潜んでいる妖気に勘付いたかのように、やたらと周囲を気にして視線を巡らしていた。

 

 その妖怪の女性の登場に、一番驚いていたのは何故かリクオだった。

 ハニワのような顔つきで、全身から冷や汗を流しながら、彼は慌てた様子で給仕の女性を下がらせる。

 すると、ゆらが―― 

 

「やはり……この家はどうも変ですね……」

 

 と言って、さらにリクオの動揺を誘う。

 彼女の言葉に一旦間を置こうとしてか、リクオはトイレに行くと言い、その場を逃げるように立ち去ってしまった。

 

 

 

 

「……」「……」「……」「……」

 

 そうして、取り残されたカナたち一行。

 暫くは誰も何も言葉を発さず、妙な沈黙が続くだけであったがおもむろに、ゆらは座布団から立ち上がり、そのまま部屋の外へと出て行ってしまう。

 

「ちょ、ちょっと ゆらちゃん!?」

 

 あまりにも自然な動作で立ち上がったため、カナは遅れて制止の声をかける。残りのメンバーも、急いでゆらの後に続いていく。

 

「ゆらくん どこへ行くんだい?」

「駄目だよ、ゆらちゃん勝手に……」

 

 清継がゆらの突飛な行動に戸惑い、カナが制止の声をかけ続ける。

 しかし、それにも構わず、ゆらは奴良家の廊下を黙々と歩いていく。

 トイレ?から戻ってきてリクオ。彼は部屋に誰もいないのに焦ったのか、息を切らしてカナたちに追いついてくる。

 リクオは皆に部屋に戻るよう提案するが――

 

「いえ、もう少しお宅を拝見させてください」

 

 一向に歩みを止めようとはせず、ゆらはリクオの家を隈なく調べ始めた。

 

 ――この子、けっこう押し強いな……

 

 ゆらの意外な強引さに、カナは誰にも気づかれぬよう、額に手をかざし首を振って溜息を溢していた。

 

 

 こうして――清十字怪奇探偵団による、奴良家妖怪探索が始まったのだ。

 

 

 最初にゆらが目をつけたのは大浴場のある水場だった。

 失礼と言いつつ、ためらいなく大浴場の扉を開く。

 しかし――何もいない。

 ……浴槽がぶくぶくと泡を立っていたが、多分気のせいだろう。

 

 次に通された客間とは、別の客間に入っていく。

 天井を見つめるゆら

 ……屋根裏から何やら物音がした気がするが、特に何も落ちてはこなかった。

 

 間髪いれず、その部屋にあった押入れを覗き込む。

 ……奥で何かが蠢いている気配がしたが、おそらく気の迷いだろう。

 

 二階へと続く階段を上っていく。

 ……階段の側にあった風呂敷に包まれた置物が動いているように見えたが、きっと見間違いだろう。

 

 とある小さな一室。

 お膳の上に、藁包みの納豆が一つ置かれていた。

 ……その納豆が震えているように見えたが、きっと目の錯覚だ。

 

 

 ――バレる、バレる!!

 

 その様子を、カナはリクオと同じよう、冷や汗をかきながら見ていることしかできなかった。

 

「よ~し! こうなったら僕もこの家を隈なく調べさせてもらうぞ!!」

 

 ゆらの大胆さに触発された清継が、リクオの制止を振り切り、側にあった部屋の襖を勢いよく開ける。

 

 その先には――着物を羽織った若い男が立っていた。

 

 いかにもヤクザものといった雰囲気の男が、怒りで顔を歪ませて眼を飛ばしてくる。

 ……何も見なかったことにして清継はそっと襖を閉じた。

 

「ここ! この部屋! これまでで一番怪しい!!」

 

 一際大きな部屋の扉を指差しながら、ゆらは叫ぶ。 

 入って見ると、部屋の中には何体もの巨大な金ピカの仏像が鎮座している。その仏像の見事さに感嘆の声を洩らす一同。

 しかし、そんな一同をよそに、ゆらは部屋の隅にあった一体の仏像をジッと凝視している。その仏像に触れようとするゆらに、リクオは慌てて声を荒げる。

 

「駄目だよ、花開院さん! その仏像だけは触っちゃ、おじーちゃんが!!」

「おじーさん?」

「――おう、リクオ、友達かい?」

 

 すると、まるでその言葉を聞いていたかのようにリクオの祖父――ぬらりひょんが一同の前に顔を出す。

 リクオは再びハニワのような顔で焦りまくるが、カナたちはぬらりひょんに軽く頭を下げて挨拶をする。

 

 ――この妖怪が、ぬらりひょん……リクオくんのおじーさんか……

 

 後ろに長く伸びた頭が特徴的な老人を見て、カナは思う。

 子供のような背の低さと、ぺカーっと笑みを浮かべる愛嬌。自身の想像とは大分かけ離れたその姿に、彼女は自然と口元を緩める。

 彼の血を四分の一引いているリクオも、お爺さんになったらこうなるのかなと、少し想像して、カナは思わず笑みを溢す。 

 

「どーもどーも、いつも孫がお世話になっとります。まっ、ゆっくりして行きなされ……」

 

 ぬらりひょんは寛容にも、人間である彼らにそのように言い残し、その場を悠々と去っていく。

 流石は大妖怪、流石はぬらりひょん。肝の座り方が他の妖怪たちとは違う。

 

「さっ! もう妖怪探しはこのくらいにして、部屋に戻ろ……」

 

 もういいだろうと、リクオはタイミングを見計らってゆらに提案する。だが、ゆらはまだ納得していないようで――

 

「……何か見られているような?」

 

 そういって探るように視線を漂わせ、ある一点を見つめる。

 すると、その視線の先から――小汚い、一匹のネズミが姿を現す。

 

 

「――っ!!」

 

 

 そのネズミの姿を視界に捉えた瞬間――カナの視界が歪み、脳裏にいくつもの映像が浮かび上がってきた。

 

 ――深い霧に蔽われた森の中

 

 ――巨大な影に逃げ惑う人々

 

 ――その影の爪で無残に切り裂かれる『父親』

 

 ――血だらけでカナを抱きしめたまま息絶える『母親』

 

 ――その光景を震えながら見ていることしかできなかった幼き『自分』

 

 ――そして、霧の中で雄たけびを上げる――『巨大なネズミの怪物』

 

 そこまでが、彼女にとっての限界だった。

 

 

「いやああああああああああああッ!!」

 

 

 カナは、錯乱したように叫び声を上げ尻餅を突き、彼女の後ろにいた清継と島がその下敷きになる。彼女の叫び声に反応するかのように、ネズミは部屋の外へと逃げ出していく。

 

「待て!!」

 

 ネズミを追うゆら。

 

「花開院さん!?」

 

 突然叫び声を上げたカナに驚きつつも、リクオもゆらの後を追って部屋を出て行く。

 

「い、家長さん、重いっす……」

 

 カナの下敷きになった島が、苦しそうに抗議する。

 しかし、今のカナの耳に彼の声は届かない。

 彼女は顔面蒼白になりながら、自身の肩を抱きしめ、呼吸を荒げている。

 

「家長くん?」

 

 下敷きになりながらも、清継が怪訝な顔でカナに目を向ける。

 だが、彼女はその視線に気づくこともできない。

 

 カナの心は今――恐怖一色に埋め尽くされていたのだ。

 

 

 

×

 

 

 

 ――奴良組の三代目ともあろうお方が! 人間とつるむなんざ、情けねぇ!!

 

 心中で悪態をつきながら、妖怪――(ぜん)はズカズカと荒い足取りで廊下を歩いていく。

 

 彼は奴良組傘下『薬師一派』の棟梁。奴良組幹部の一人だ。

 先日、奴良組の若頭であるリクオと盃を交わし、義兄弟となったばかり。

 リクオに惚れ込み、盃を交わした鴆にとっても、今の状況はとても面白いものではなかった。

 リクオが連れ込んできた人間たちが、我が物顔で本家の中を探るその姿に憤りを覚え、彼は自身の心情を隠すことなく、ワカメのような髪をした少年に眼を飛ばしてやった。

 

 それで少しは大人しくなれば勘弁してやろうかと思っていたが、それでも探索を止めようとしない彼らに、さらに怒りを募らせる。

 

 ――この際、直接怒鳴りこんで追い出してやろうか!

 

 そう意気込み鴆は、現在彼らがいるであろう仏間に向かって足を速める。

 

「……くん、家長くん! しっかりしたまえ!!」

 

 尚も騒ぎ続ける彼らに、軽く切れながら勢いよく部屋の中に入っていく。

 

「おい! てめぇらいいかげん……」

 

 だが、放ちかけた怒声を途中で止める。

 部屋の中にいた二人の少年が、一人の少女を介抱していた。遠目から見ても、少女の姿はとても良好といえる状態ではなかった。

 

「……どうした?」

 

 先ほどまで感じていた怒りを引っ込め、鴆は彼らに問う。

 ついさっき、自分に眼を飛ばしてきた男が声をかけてきたことに顔を青ざめる清継だったが、すぐ気を持ち直し鴆の問いに答える。

 

「わ、わかりません 急に具合が悪くなったようで……」

 

 鴆は彼女に近づき、その様子を観察する。

 少女はしゃくり上げるように、忙しなく息を荒げ、嫌な汗を体中から噴きだしていた。

 その顔はすでに土気色に染まり、苦痛――いや恐怖に歪んでいる。

 その症状に洒落にならないものを感じた鴆は、語気を強めて彼らに言う。

 

「おい、お前ら! こいつに外の空気を吸わしてやれ」

「わ、わかりました」

 

 その言葉に従い、二人の少年が震える少女を支えながら外へと歩き出していった。

 

 




今回の補足説明
 
横谷マナ
 原作コミックス十六巻。『切裂とおりゃんせ』の回に登場する理科教師。
 原作では明言されていませんが、今作ではリクオたちの担任ということにして登場してもらいました。結構な美人さん(30)。

ついでに
 原作で、リクオとカナは清継たちとは別々のクラスでしたが、今作ではアニメ一期の設定を採用し、清十字怪奇探偵団は全員同じクラスになっています。
 そして、今回の話もアニメの話を主体にしています。
 
 イマイチわかりにくかったらユーチューブを見て情景を補完してください!
 

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