家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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ゲゲゲの鬼太郎最新話『漆黒の冷気 妖怪ぶるぶる』の感想。
話の捻りとしては少し物足りなく感じたが、十分に面白かった。
裕太くんの振り絞る勇気!! まるでニチアサの健全なキッズアニメを見ているような気分だ!! って、ゲゲゲの鬼太郎って、一応キッズアニメ……だよね……?
次回は豆腐小僧の話、そろそろ四将の話を進めてもいいんじゃないかと不安になりましたが、どうやら次の次、6月30日にやるらしいですね。
相手は『黒坊主』とのこと。…………出オチキャラにならなければいいが……。

FGOの二部四章をクリアしました。
色々とサプライズがあって驚きましたが、個人的に一番驚いたのが、相手のクリプターの一人であるペペロンチーノさんが六神通を使ってきたことです。
まさか、型月キャラが六神通を使ってくるとは……。
四章解放前にカナの能力説明しておいてよかった。危うくパクり扱いになるところだったぜ、ふぅ~……。



第五十幕  拭いきれぬ傷痕

「大変だぜ、リクオ!! 京都が……羽衣狐の手に落ちるぞ!!」

 

 遠野の稽古場。指導教官である鎌鼬のイタクと手合わせをしていた奴良リクオの下に、天邪鬼の淡島が血相を変えた様子でそのニュースを伝えにきた。

 数日前。京妖怪の襲撃をなんとか受けきったリクオ。彼は戦いの最中、ぬらりひょんの鬼憑―—鏡花水月を発動させ、鬼童丸たちを退けた。

 だがほとんど偶発的な部分も大きく、リクオ自身の戦闘技術は依然未熟なまま。リクオはさらなる戦闘力向上のため、遠野での稽古を続けていた。

 

 しかし、そこへ告げられる京都の近況――陰陽師壊滅の危機。

 

 リクオが友達のために京都を目指しているという事情を知っていた淡島たち。彼らはリクオのため、京都方面に行っている遠野ものから、常に最新の情報が送られてくるよう然るべき態勢を整えていたのだ。

 その情報によれば、手練れの陰陽師たちが軒並み羽衣狐たちの手によって殺され、京都は京妖怪たちの手に落ちる寸前らしい。

 

「てめえ京都に友達がいんだろ!? 今すぐ助けに行くべきだぜ!!」

 

 リクオの友達――ゆらがどうなったかは、情報を受け取った淡島にも分からない。だが、いつまでもこの遠野の地に留まっているわけにもいかないだろうと、彼はリクオに里の畏を断ち切り、京都に向かうよう叫んでいた。

 

 そして、少年の下に京都の危機が伝えられていた頃。

 とある少女の下にも、同じ情報が伝えられようとしていた。

 

 

 

×

 

 

 

 富士山頂上付近・富士天狗組の屋敷。

 日が沈み、一日が終わりに差しかかろうとしていた夜。屋敷内の大広間にて、富士天狗組の組員たちは夕食をとっていた。

 縄張りとする富士山近辺で何も問題が起こらなければ、皆が一斉に夕餉を取ることになっている富士天狗組。

 組長たる富士山太郎坊が大広間の最奥で酒を飲み、その両脇を固めるよう規則正しく席に着く何十人という天狗たち。その順番は組内での序列を表しており、組内部で発言権を持つほど、太郎坊に近い座席に鎮座している。

 

 しかしその列の中、一人の異分子が紛れ込んでいた。

 

 かつて、太郎坊の懐刀として組の若頭を務めていた木の葉天狗のハク。彼が座るべき太郎坊のもっとも近くの席に人間の少女――家長カナが座っていたのだ。

 

 ハクが亡くなってからまだ一年も経っておらず、太郎坊は未だ新しい若頭を決めあぐねていた。たまたま空席となってしまった若頭が座るべき席。そこに、太郎坊はカナが座ることを許可していたのだ。

 これに難しい顔をする組員も決して少なくはなかった。だが、カナは太郎坊に神通力――六神通の師事を仰ぐためこの山に訪れた客人だ。別にこの地に永住するわけではない、用事が終われば山を降りるだろうと、ある程度割り切る事にして、誰もカナがそこに座ることに異議を唱えることはなかった。

 その程度を許すくらいには、組の天狗たちもカナに気を許していたのである。

 

 ―—う~ん……そろそろ、切り出すべきかな……。

 

 カナは天狗たちに囲まれる中で食事をするという行為に、ようやく慣れ始めていた頃。彼女は例の話を太郎坊相手に切り出さなければと、少し頭を悩めていた。

 カナが悩んでいたのは先日、学校の友達である清継に誘われた京都旅行についてだった。

 丁度一週間ほど前だったか。彼女は修行の合間の電話で、浮世絵町にいる清継から『清十字団は全員、京都に妖怪合宿だ!!』とやや強引にその旅行に参加することを促されていた。

 修行中ということもあり断ることも一時は考えたが、せっかくの誘い。皆との夏休みの想い出を作りたいと思い直し、カナはこの旅行に参加することに決めた。

 

 幸い修行の方も順調。少しくらいなら休暇をとっても問題はないだろう。しかし、自分から修行をつけてくれと頼んだ手前、こちらの都合で休みたいと言い出すのがややネックだ。

 人間嫌いを公言する太郎坊が自身の頼みを聞き、どのようなリアクションをとるのか、カナは少し不安だった。だがそろそろ山を降りて浮世絵町に戻る準備をしなければ出発に間に合わない。

 

「……あ、あの……太郎坊様!」

 

 カナは覚悟を決め、太郎坊に話を切り出すことにした。

 

「なんだ?」

 

 やや挙動不審に話しかけてきたカナに、太郎坊は酒を飲みながらギロリと視線だけを向けてきた。その鋭い目つきにギクリと怯みつつも、カナは臆さず自身の要望を伝える。

 

「誠に勝手な頼みなのですが……一度修行を切り上げて、浮世絵町に戻っても構わないでしょうか……?」

「何故だ? 理由を申してみよ」

 

 動揺気味に話すカナとは違い、簡潔に、そして短めに修行を一度切り上げる理由を太郎坊は問いかけてくる。

 無駄に誤魔化すことは悪い印象を与えるだけ。カナは包み隠さず山を降りる目的を正直に話した。

 

「実は……友達に京都に旅行に行こうと誘われておりまして…………?」

「―———————」

 

 

 そのとき、不思議なことが起こり、カナはその異変に思わず言葉を止めていた。

 

 

 あれほどワイワイと賑わっていた食事の席。それがカナが『京都』という単語を口にした途端、ピタリと静寂に包まれたのだ。天狗たちは隣人たちと話すのを止め、皆がカナに視線を向けている。

 

「えっ、な、なに……? 私、何かおかしなこと言った?」

 

 確かに修行を一旦切り上げるというの身勝手かもしれないが、そこまで注目されるような問題ではない筈。しかし、太郎坊ですらまるで彼女の言葉を疑うように呆気にとられた表情で固まっていた。

 

「…………貴様、それは冗談か? それとも、本気で言っておるつもりなのか?」

「えっ? 冗談では、ないですけど……」

 

 少し間を置いてから太郎坊がそのようなことを口にするが、いまいちカナにはそのようなことを聞かれる意味が分からなかった。カナがそのように戸惑っていると、「ああ……」と合点がいった様子で太郎坊は一人納得する。

 

「そういえば貴様は何も知らなかったな……おい! 誰かこの阿呆に、京都が今どうなっているか教えてやれ!!」

 

 太郎坊は組員たちに向かって、そのように声を上げる。

 

「では、わたくしめが……」

 

 組長たる彼の命令に一人の天狗が歩み出る。太郎坊に向かって膝を突きながら、首を傾げているカナに向かって京都の近況に対して説明をしてくれた。

 

「いいですかな、カナ殿? 京都は現在――妖におかされた町になりつつあるのです」

 

 その天狗の口から語られた言葉により、カナはようやく今の京都に行くことがどれだけ危険なことか。彼らが自分の言葉に呆気にとられたその意味を理解することができた。

 

 

 四百年の時を経て、現代に復活した転生妖怪―—『羽衣狐』。

 その羽衣狐を頂点に暗躍する――『京妖怪』たち。

 彼らは宿願を果たすため、京の地を欲し、その地の守護者たる陰陽師『花開院家』と全面戦争に入った。

 京妖怪と羽衣狐の恐るべし力により、成す術もなく壊されていく『慶長の封印』。

 既に妖怪たちは洛中に入り込み、一般の人間にすら悪さを働くようになっている。

 もしも、このまま京妖怪たちが最後の封印『弐条城』を手にすれば、京都が――否。

 日の本の国、そのものが妖が跋扈する世界となるだろう、と――。

 

 

「―———————」

 

 組員からの話を聞き終え、カナは絶句していた。

 まさか、自分が山に籠って修行している間にそのような事態になっていたとは。太郎坊たちは京都にいるという知り合いの天狗と情報交換をしていたため知ることができたというが、カナはその報告を聞かされていなかったため、今の今までその事実を知ることができなかった。

 だが、知ってしまった以上、何もしないでいるわけにはいかない。

 

「理解できたであろう? 今京都に行くことがどれだけ危険なことか。分かったらここで大人しく――」

「―———行きます……」

 

 大人しく山に籠って修行を続けろとでも言おうとした太郎坊の台詞を遮り、カナは言葉を絞り出していた。

 

「なんだと……貴様、今何と言った?」

 

 その言葉に自身の耳を疑う太郎坊。ギロリとカナのことを睨みつけ、脅すように彼女の言葉を聞き返す。

 しかし諭されようと、脅されようと。彼女の答えに変わりはなかった。

 

「私、京都に行きます。友達を……ゆらちゃんを助けに行かなきゃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―—たわけ!!」

 

 カナが陰陽師の友達を助けに京都に行く。その宣言が嘘でも冗談でもないことを悟り、太郎坊は烈火の如く叫んでいた。自身の食膳を卓袱台の如くひっくり返すその様は、まさに昭和の頑固おやじそのものだ。

 

「貴様ごときが京都にだと!? 己惚れるのも大概にせい! 人間の小娘風情が!!」

「…………」

 

 太郎坊は人間である彼女に調子に乗るなと、激しい罵倒の言葉を口にする。その言葉を、カナはただ静かに聞いていた。

 

「確かに貴様は強くなった……下地があったとはいえ、ほんの二週間程度の修行で神足、天耳、他心をある程度使いこなせるようになった事実は認めてやる」

 

 怒りのトーンをほんの少し下げ、太郎坊はここ二週間でのカナの修行の成果をそのように評価する。

 

「だが、相手は京妖怪だぞ!? お前が以前戦ったと言っておった四国の田舎狸共と訳が違うのだ!!」

 

 奴良組と四国との抗争の詳細をカナの口から聞いていた太郎坊。彼はその四国妖怪たちと京妖怪の力量の差を語り、カナがやろうとしている行為がどれだけ無謀かを説いた。

 

「四国の連中など、所詮は若さと勢いに任せた血気盛んなチンピラに過ぎん! 同じ若造のお前や奴良組の若頭が相手をするのには丁度いい相手であっただろう。だが、京妖怪は違う!! 奴らは数百年、あるいは千年と自身の畏を高め続けてきた、古の妖なのだぞ!? 当然、歴史も力量も比べ物にならんわ。ワシら富士天狗組ですら苦戦するような相手だぞ!? それを……たかが人間の小娘風情が相手できるものか!!」

 

 太郎坊はそこまで一気に捲し立てる。そして自身の昂った怒りを一旦冷ますように呼吸を整え、彼は別の疑問を口にする。

 

「そもそもだ……。貴様は奴良組の小僧の力になるために神通力を磨きに来たのではなかったか? 分かっていると思うが、花開院家は陰陽師……ワシら妖怪の敵だぞ? 貴様が本当に奴良組の力になりたいのであれば、真っ先に潰すべき相手ではないのか?」

 

 それは妖怪としての太郎坊視点の意見ではあったが、あながち間違いではないだろう。実際、花開院ゆらは打倒ぬらりひょんを掲げ、浮世絵町にやってきたのだ。そんな彼女を助けても妖怪であるリクオの助けにはならないだろうと、太郎坊がそのように考えるのも自然な流れ。

 しかし――

 

「―—関係ないよ、そんなの……」

 

 太郎坊の疑問に対し、カナは毅然とした態度で答える。

 

「妖怪だとか、人間だとか……そんなの関係ない。だって……ゆらちゃんは友達だもん! 友達を助けるのに理由が必要なの!?」

「…………」

 

 真っ直ぐな瞳で太郎坊を射抜くカナ。その瞳の輝きは実に人間らしいもので、太郎坊の心を苛立たせていた。

 

「それに……リクオくんだってゆらちゃんが危険だって知れば、絶対に助けに行くよ? リクオくんは、そういう人だからね……」

 

 幼馴染としての直感からか、カナは遠く離れた遠野の地にいるリクオの考えをズバリ言い当てていた。

 そして、やや悪戯っぽく、自身の結論を口にする。

 

「だから、私は『ゆらちゃんを助けに行く、リクオくんを助けに行く』んだよ。ほら、それだったら矛盾しないでしょ?」

「ム……」

 

 その屁理屈に黙り込む太郎坊。そんな彼の表情にカナはニコリと口元に微笑を浮かべる。

 だが、すぐに真剣な表情に戻り、カナは太郎坊に頭を下げた。

 

「だから……お願いします。私に、私の京都行きを……どうかお許しください」

「……………………」

 

 膝を突き、額を床にこすりつける勢いで頼み込むカナ。それに対し、太郎坊は無言のまま。周囲の天狗たちは、固唾を呑んで事の成り行きを見守る。

 ややあって、太郎坊が口を開く。

 

「…………駄目だ。如何にお前が人間とはいえ、死ぬと分かっている戦場に黙って送り出すわけにはいかぬ……」

「―—ッ! おじいちゃん!!」

 

 太郎坊の返答に、思わずカナが口走る。

 カナは幼少期。太郎坊から神足の手ほどきを受けていた時期があり、その際、彼女は彼のことを「おじいちゃん」と無邪気に呼んでいた。礼儀など全く身に着けていなかった、本当に子供の時分だ。

 その名残なのか。ときたま敬語を使うのを忘れ、そのように呼んでしまうときがある。

 そんなカナの無礼を特に咎めることもなく、太郎坊は続けた。

 

「だが――!! だが……本当に貴様にそれだけの覚悟があるというのなら。どうしても、京都へ行かねばならぬ理由があるというのならば……」

 

 そこで太郎坊は一旦言葉を区切り、頭を下げるカナの横を通り過ぎる。

 そのまま大広間から廊下へと続く出口へと向かい、彼は呟いていた。

 

「―—着いてこい。少し予定より早いが『最後の試練』をお前に課す。これを乗り越えられたら……そのときは好きにせよ……」

 

 

 

×

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 カナと太郎坊の二人は互いに何も喋らないまま、長い廊下をひたすら歩いていく。

 普段、カナは大広間や寝床として与えられた自分の部屋以外、屋敷内をうろつくことはない。ここ二週間滞在していた間も、ほとんど外で滝行や瞑想といった精神修行。天狗たちとの手合わせなどといった実戦式の稽古を行なっていた。

 

「……あの……これからどこに? 私は……何をすればいいんでしょうか?」

 

 故にどこに向かっているかも分からず、何をすればいいのか分からず、カナは戸惑い気味に太郎坊の後をついていく。おろおろする彼女に、太郎坊はピシャリと言い放つ。

 

「狼狽えるな。黙ってついてこればいい」

「はぁ……」

 

 どうやらこの場で説明するつもりはないらしい。カナは仕方なく、黙々と足を進めていく太郎坊に従って歩いていく。

 やがて――目的の場所に辿り着いたのだろう。太郎坊の足が止まり、カナは眼前の大きな扉に目を向ける。

 

「ここは……?」

 

 かなり大きな鉄製の扉だった。厳重に封をされており、その重厚感にカナは緊張感が高まっていく。

 その扉の前で、太郎坊はわずかに躊躇するように動きを止めるがそれも数秒。彼は入口の鍵を開け、扉に手を添えてゆっくりと開いていく。

 

「―—これは……仏像?」

 

 扉を開いて真っ先にカナの目に飛び込んできたのは――金色に輝く仏像だった。それも一体ではない。何体もの仏像が部屋全体を取り囲むように鎮座している。

 一体一体が精巧な出来栄え。その神々しさにカナは思わず感嘆の声を溢してしまいそうになるが、彼女はその仏像たちの配置に既視感を覚えていた。

 

「あれ? この仏像の配置……どこかで――あっ!?」

 

 暫し記憶を振り返ることで、カナは思い出す。

 

「似てる。リクオくん家の仏間に……」

 

 それは以前、清十字団がリクオの実家を探検した際に見つけた部屋。リクオの祖父、ぬらりひょんの所有する仏像たちが安置されていた仏間にそっくりだったのだ。

 詳しい詳細は思い出せないが、仏像たちの配置が何となく似ているだけではない。居並ぶ仏像たちの顔つきやフォルムもどことなく似ているように感じられる。

 

「なんだ、貴様? ぬらりひょんの家にも行ったのか?」

 

 カナの呟きが聞こえていたのか、太郎坊がそのようなことを聞いてくる。すると、彼は何かを思い出したかのようにカナに向かって饒舌に語り出した。

 

「あの仏像たちはワシが昔、ぬらりひょんのやつにくれてやったものだ。盃を交わす代わりの友好の品としてな……。するとあやつめ、何を血迷ったのか。『この仏像、気に入った!』などとほざいて、それをモデルに自分の背中に釈迦如来像の刺青を彫りおった。しかもその如来の後ろに百鬼夜行の絵まで並べおって……」

 

 カナは勿論見たことはないが、ぬらりひょんの背中には釈迦如来像と百鬼夜行の刺青が彫られている。当然、その二つが同居することなど本来はない。百鬼夜行図には『塗仏』という妖怪が描かれたりするが、それはあくまで妖怪であり、本物の仏様ではない。

 

「まったく、常識も何もあったものではないわ。他にも陰陽師と酒を酌み交わすは、人間の女と交わるなど言い出すわ。本当に呆れ果てる……」

「…………ふふ」

 

 そのように愚痴を溢す太郎坊に、カナは思わず笑みを溢す。

 修行中も、太郎坊は何かとぬらりひょんの話題を口にだすことが多かった。そして、ぬらりひょんのことを語るときの彼は何だかとても生き生きして、年甲斐もなく浮かれているようにも見える。

 あーだこーだ文句を言いつつも、やはりかつての仲間であるぬらりひょんのことが忘れられないのだろう。どこか昔を懐かしむように、遠い目で過去の思い出を語っている。

 

「おっと、話が脱線したな……んん!!」

 

 少し経ってから、ようやく関係のない話をしていたのに気づいたのか。太郎坊は気まずそうに咳払いをし、本題――カナをこの仏間に連れてきた理由を述べる。

 

「さて、さっそくだが、貴様には今晩。この仏間で一晩を過ごしてもらう」

「………………一晩?」

「ああ、一晩、無事に乗り切ることができれば、その覚悟を認め、貴様の京都行きを許してやるとも」

 

 まるで、「それが出来ればな」と挑戦的に語る太郎坊の態度に、カナは疑問を覚える。

 カナは聞き間違いかと思い何度か尋ねたが、間違いなく一晩と太郎坊は断言する。三日でもなければ、一週間でもない。『一晩』だ。

 確かにこの仏間には窓もなく、部屋の中を照らす光は僅かな蝋燭の火だけ。多少、ホラーが苦手な人には堪える環境といえるだろう。

 だが、六神通のためにいくつかの精神修行をこなしてきたカナにとっては今更な課題だ。正直言って、何故それが『最後の試練』になるのか彼女には理解できなかった。

 首を傾げるカナに、太郎坊は意地の悪い笑みを浮かべながら思わせぶりに仄めかす。

 

「なに、すぐに分かるとも。今の貴様では一晩とて不可能であろう」

 

 そう断言しながら、彼は一人仏間を後にしようとする。

 

「扉の鍵は開けておく。もし……限界を感じたら迷わず部屋の外に出るがいい。無論、その場合貴様の京都行きは無しだ! 山を降りることも許さん、一から鍛え直してやる!」

 

 去り際そのようなことを吐き捨てながら、太郎坊は部屋の外へ。カナの視界から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「静かだな……」

 

 太郎坊が去ってから三十分ほど。カナは暗闇と静寂の中、一人取り残されていた。

 蝋燭の灯りを増やし部屋の中を照らすが、それでもまだまだ仏間は真っ暗な闇だ。その闇の中、金色の仏像たちが部屋の中央にいるカナに視線を向けている。

 いかにありがたい仏像とはいえ、流石にこのシチュエーションでは不気味なだけだ。カナは極力、仏像の方に目を向けないように努めている。

 

「それにしても、分からないな……」

 

 やることもなかったため、カナは座禅を組みながら考えた。

 

 自分がここに一人取り残された理由。太郎坊が口走っていた『最後の試練』という言葉の意味を。

 

 確かにこの暗闇の中、飲まず食わずで一晩を過ごすのは精神的にきついものがあるだろう。しかし、そのくらいであれば普通の人間でも頑張ればどうにかなるようなものだ。

 しかも、太郎坊は一晩という時間を過ごすにあたり、特に制限を設けなかった。極端な話、このまま朝まで眠って過ごすだけでも問題ないということだ。

 流石に何かあるのだろうと考え、カナは横になって寝ようとは思わなかったが、考えれば考えるほど分からなくなる問題である。

 

「駄目だな……集中しよう」

 

 雑念で心が乱れていることに気づき、カナは一旦呼吸を整える。そして瞑想――精神を研ぎ澄ませるメンタルトレーニングに集中する。

 体の中の気の流れを意識し、自身の呼吸音にだけ耳を傾けて心を鎮める。

 カナはまだまだ修行中の身であるため、完全なる無心といった領域にまでは至れていなかったが、それでも十分にリラックスした心穏やかな面持ちで暗闇の中を耐えることができていた。

 

 ――ゆらちゃんは……無事なのかな? それにリクオくんも……。

 

 それからどれくらいの時間が経っただろう。カナの心と体が現在の環境に慣れ始めた頃。別の不安が彼女の脳裏に過ってきた。

 壊滅状態だと言うゆらの実家―—花開院家。きっと彼女も実家の危機に浮世絵町を離れ、京都に帰っていることだろう。

 そしてリクオも。きっとゆらのピンチを知れば、どこにいようと京都へ駆け付けるだろう。そう信じて止まないカナは、流行る気持ちを抑えるのに大分苦労しながら瞑想を続けていた。

 

 ―—私の力がどこまで通じるか……それが問題だよね……。

 

 ここ二週間ほどの修行で、カナの心に自信のようなものが芽生え始めていた。自分で何でもできると己惚れているわけではないが、それでも友達の手助けくらいできるだろうと思っていた。

 現在、カナが完全に制御化に置いている六神通は『神足』と『天耳』と『他心』の三つ。この三つを上手く扱えば、リクオたちのサポートくらいはこなせるだろう。

 その上、カナにはハクの形見である『天狗の羽団扇』がある。攻撃の面で乏しいカナの力を、その羽団扇の風でカバーする。六神通には攻撃的な能力がほとんどないため、それが補える羽団扇の存在はかなり有難かった。

 

 ―—羽団扇のコントロールも上手くできるようになったし、これなら……っ!!

 

 最初は勝手が分からなかった羽団扇の力加減も、随分とコントロールできるようになったと、カナがさらに自信を持ち始めた――そんな時だった。

 ふいに、彼女の耳に雑音――自身の呼吸音以外の何かが聞こえてくる。

 

「……そうだよね。このまま、何もないわけないもんね!」

 

 カナは組んでいた足を解き、すぐさま戦闘態勢に移行する。式神の槍を取り出し、目を閉じて六神通の一つ、他心を発動させる。

 敵意・悪意を持っているものを見つけ出せる神通力。その力を発動させておけば暗闇の中であろうと、彼女に不意打ちなど誰もできよう筈がない。だがしかし――

 

 ―—……? 反応がない……だったら!

 

 他心を以ってしても、部屋の中に蠢く敵意はおろか、生き物の気配一つ感じられない。カナは次に天耳の力で部屋の中がどうなっているのか探りを入れてみた。

 槍の石突きで床を叩き、跳ね返ってくる反射音で周囲の状況を把握する。だがそれでも、室内に動く物体はなく、仏間は最初に部屋に入ったときとなんら変わらない構造になっている。

 

 ――…………何もない? でも、音がっ……!!

 

 だが音だけ、音だけは絶え間なく聞こえてくる。

 寧ろ先ほどより大きく、音の数が増えているように思える。

 ヒタヒタと、何か小さい生き物の足音。それが群れを成すように一匹、また一匹と増えていることをカナの天耳が拾い上げていた。

 

 ―—これって……ひょっとして幻聴ってやつ!?

 

 動く物体はない筈なのに、音だけは聞こえてくる。その現実を前に、カナはそのような判断を下す。

 そうこれは幻聴、そして幻覚だ。実際にない筈なのにあるように聞こえてしまう、見えてしまう。

 実際にはそこに何もないのだから、天耳も他心も役には立たない。

 

「……くっ!」

 

 せっかく身に着けた神通力が役に立たなかった事実にショックを受けつつ、カナは観念して目を開けることにした。音の正体を確かめるのに目を閉じたままでは駄目だ。眼前に立ち塞がる脅威を乗り越えるためにも、彼女は両の眼でこの幻聴の正体を見ることにした。

 部屋の中が暗いため、まだ音を発した者の正体が見えない。カナは新しい蝋燭に火を灯し、光源の数を増やして室内をさらに明るく照らし出した。

 

 それで見えてくるだろう――試練の正体を知るために――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―———————―———————————————なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ところが――

 その音の正体を目に焼き付けた瞬間、カナの思考が真っ白になってしまう。

 彼女は眼前に広がっていた幻聴の正体に息を呑み、そして――恐怖する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね…………ねず、み」

 

 彼女の目の前に広がっていたのはネズミの群れだった。

 数十、なんてもんじゃない。

 数百という数のネズミたちが仏間中を埋め尽くし、キィキィと耳障りな鳴き声を響かせている。

 

 ネズミ。それはカナにとって決して忘れることのできない傷痕。

 あの日、あの霧深い森の中で起きた惨劇。巨大なネズミの妖怪――『鉄鼠』。

 あのときの恐怖を、あのときの絶望を否が応でも思い出させる、忌まわしき記憶の引き金。

 

「あ……ああ………っ!」

 

 その忌まわしき記憶は、どのような試練が来てもきっと乗り越えて見せる。そう覚悟して身構えていたカナの心を、木っ端みじんに粉砕した。

 

「い、いやぁあああああああああああああああっ!!」

 

 カナは絶叫した。

 たとえ一匹でも視界に入れば、我を忘れて取り乱してしまうほどに苦手なネズミ。

 それが群れを成し、津波のように大挙して襲いかかってくる、その悍ましき光景に――。

 

 もはや神通力など、使えようが使えまいが関係なかった。

 彼女はまるで非力な人間の小娘のように、ありとあらゆる対抗手段を見失ってしまい。

 

 ただ成すがまま、そのネズミの群れに呑まれていく――。

 

 

 

×

 

 

 

「……始まったか」

 

 カナの絶叫は遠く離れていた太郎坊の部屋まで届いている。

 彼は自分の部屋でつまらなそうに一人酒を煽っていた。

 

 カナが何に襲われているかは、実のところ太郎坊にもあずかり知らぬことである。

 あの仏間はその昔、とある人間の修験者が使っていた修行の場。あの仏間の仏像たちが、あの場所に留まった人間にとって最もつらい記憶――トラウマを幻覚として見せつけるようになっているのだ。

 勿論、それは幻覚であり、実際にそこには何もない。どれだけリアルに感じていようと、何もないのだから『力』でその幻影を振り払うのは不可能。その幻覚に耐えうる強い『心』がなければ、そのトラウマに呑まれ、最悪再起不能となってしまうだろう。

 

「人間は脆い……体は勿論、その心もだ」

 

 六神通を扱う際、何より重要になってくるのは力ではなく、その精神力――何事にも動じない強い心だ。あの仏間の試練はその精神力を鍛えるための最後の試練として、カナに開放するつもりでいた。

 あの部屋の試練はカナが常に平常心でいられるような、達観した精神を身に着けていなければ耐えることはできない。おそらく、今の彼女では試練が始まって一時間と留まってはいられないだろう。

 

「逃げ道は用意してある……無理なら無理とさっさと諦めてしまえばいい…………」

 

 本来であれば、問答無用で出入り口の扉を閉めておくものだが、太郎坊は今のカナでは決して乗り越えることはできないだろうと、お情けとして扉を開けたままにしてある。

 

 恐怖に怯え、何もかもかなぐり捨てて逃げ出すか。

 はたまた恐怖に呑まれ、ただの廃人と化すか。

 

 できることなら前者であって欲しいと願いながら、太郎坊は一人酒を飲み進めていく。

 そのときは一から鍛え直してやると、今からカナの修行プランの見直しを頭の中で構築していた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……っ!!」 

 

 しかし、太郎坊の期待とは裏腹に、カナはその場に押しとどまり耐えていた。

 自身を襲うトラウマの恐怖から。ほんの少し手を伸ばせば、足を踏み出せば出口へと辿り着けていたが、逃げ出したいという欲求を押しとどめ、彼女はひたすら耐え抜いていた。

 

 顔色は既に土色。体中から嫌な汗を流し、呼吸も過呼吸気味に乱れている。

 幻覚のネズミが体中を這いずり回る感触に寒気がする。 

 腐臭を放つネズミたちの匂いにむせかえりそうになる。

 彼らの姿を見まいと、鳴き声を聞くまいと、目と耳を塞いで耐えていた。

 

 既にカナはこのネズミたちが実体でないことを察していた。太郎坊の言っていた『試練』の意味を悟り、これが自分の心の弱さが見せている幻であることを見抜いていた。

 しかし、どれだけ頭で理解していようと、カナの脆い心がそれを幻覚だと切って捨てることを許さなかった。

 

 それほどまでに、ネズミたちは真に迫る現実味を帯びていた。

 それほどまでに、カナの心にあの日の恐怖がこびりついていた。

 

 そのトラウマは彼女にとって、今すぐこの場で克服できるような生半可なものではない。

 

 ―—でも、これを耐えないと、私は京都に行けない!!

 

 その一念だけで、カナはその場に押しとどまっている。友達の助けになりたいという心が、辛うじて彼女の理性を繋ぎ止めていた。

 だがどれだけ強がっていようと、所詮は蛮勇に過ぎない。時が過ぎれば過ぎるほど、幻覚のネズミはさらに部屋中を埋め尽くしていき、カナの虚勢という名のメッキを剥がしていく。

 

「い、いや……いやだ!! こないでぇええええええええええええええええ――!!」

 

 遂には精神の均衡を失い、カナは泣き叫んでいた。

 赤子のように成す術もなく地べたに頭を伏せ、ありとあらゆるもの全てを拒絶するように蹲る。

 

 カナが平常心を失ったことにより、彼女の中に秘められていた六神通の力が制御を失い暴走する。

 

 

 第一の神通力――神足。

 自由自在に空を飛翔する能力だが、制御を失った力は彼女の体を勝手に宙に浮かしたり、そのまま部屋中を飛び回らせたりと、カナの体を悪戯に傷つけるだけであった。

 

 第二の神通力――天耳。

 目を閉じていても周囲の状況を知ることができるほどの超聴覚。その力の暴走は、幻覚のネズミたちの音をより鮮明に拾い上げ、カナの恐怖心をさらに煽っていく。

 

 第三の神通力――他心。

 他者の敵意や悪意を読み取る力だが、それを向けるべき相手がこの仏間にはいない。今彼女が戦っているのは他の誰でもない、自分自身に他ならなかった。

 

 カナがコントロールできていた筈の力が、順々に彼女の制御化から外れていく。

 勝手に行使される神通力。それにより増長した恐怖が、さらにカナの心を追い詰めていき――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その不安が、彼女が未だに制御下に置いていない『次なる神通力』の発動を許してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、第四の神通力――『宿命』の発動を。

 

 

 

 

 

 

 

 




補足説明
 仏間の試練
  この試練に関しては当初やる予定はなく。急遽思いついたものです。
  発想の元ネタは『サガフロンティア』の心術の資質を会得するイベント。
  仏間で瞑想をして、イメージの中で襲いかかってくる敵と戦うというもの。
  それをアレンジして、カナのトラウマ克服イベントとして使わせてもらいました。


 次回は宿命の詳細と、それに伴いカナがこの状況をどう克服するのかを描写します。
 一応、今月は四回更新したし、丁寧に描写したいので、次の更新は七月になってから。
 それまで、どうかお待ちいただければと思います。
 

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