家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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祝、お気に入り1000突破!!

いや~……前回の話の反響が良かったらしく、おかげさまでぐんぐんとアクセス数やお気に入り数が伸びてビックリしましたわ!!

この間、小説書いてることを知ってる知り合いにも「お前の作品、ランキングに入ってるぞ?」と言われ「はっ?」ってなってしまった。
どうやらそのおかげで、多くの人の目に留まってくれたらしい。かつてないほどに伸びて嬉しい悲鳴を上げています!!

さて、今回の話は皆がそれぞれ京都に行こうという話。そこまで捻った内容にはなっていませんが、どうか、よろしくお願いします!!


第五十二幕 いざ、京都へ!!

「いや~絶好の旅行日和! 我ら清十字団の記念すべき日に、これ以上ないほどに相応しい日取りだね、諸君!!」

 

 東京駅。全国新幹線網の最大拠点。東京の表玄関とも称されるターミナル駅の駅前広場にて。

 清十字団団長、清十字清継のテンションマックス、浮かれに浮かれた歓喜の雄叫びが木霊する。

 

 彼にとって、今日はついに訪れた京都旅行の日だ。一週間前から企画していた清十字団の京都妖怪合宿ツアー。京都は妖怪の伝説が多く、それだけ妖怪との遭遇率も高い……筈。 

 ここでならきっと、霊感がないとディスられ続けてきた自分でも妖怪と出会うことができる。そして、もし妖怪に襲われれば、きっと『彼』——妖怪の主が自分を助けに現れてくれると。

 四年間、主の影を追い続けてきた自分の苦労も報われるだろうと、かつてないほどにテンションが高まる清継であった。

 

「舞妓になりたぁーい!」

「芸者になりたぁーい!」

 

 この京都旅行には、妖怪そのものに対してあまり興味を持っていないメンバー、巻と鳥居も大いに喜んでいた。最初の頃は清継に強引に誘われ、夏休みの予定を崩されることにあまりいい気分ではなかった彼女たち。

 しかし、いつもの小旅行とは違う。行き先はなんといっても華の京都だ。今や世界的にも有名な観光スポット。日本人であるならば、死ぬ前に一度は行っておきたい心の故郷だろう。

 旅行費用も全て清継が持つという事もあり、彼女たちのテンションも絶賛爆上り中であった。

 

 しかし、そうしてはしゃぐ人がいる一方。最初のスタート地点から既にテンションが下がっている団員が何人かいた。

 

「及川さん……まだ来ないんすか……」

 

 及川つららに恋する少年・島二郎。サッカーU-14日本代表の強化合宿を休んでまで、彼がこの旅行に参加した理由の半分以上は彼女と一緒にいられるから。旅先での触れ合い、うっかり湯船を覗いてしまったなどのハプニングを期待してのこと。ここ一週間、何度ムフフな妄想を抱いたことか。

 しかし、そのつららが集合時間になっても待ち合わせ場所に一向に現れない。その時点で島のやる気は七割方削がれていた。

 そして、もう一人。

 

「カナちゃんも、リクオくんも遅いわね。ひょっとして、来ないのかしら……」

 

 清継たちより一学年上の先輩・白神凛子。彼女が清十字団に入部したのは今年の五月頃だが、既に多くの出会いと触れ合いを通じ、清十字団の一員として彼女はこのメンバーに馴染み始めていた。

 京都旅行の準備期間中も、何度か巻と鳥居にカラオケやら、ファミレスやらに誘われ、そこで旅行の計画を練ったり、ただただお喋りを楽しんだりとそれなりに充実した夏休みをエンジョイしていた。

 

 しかしその一週間、彼女はカナともリクオとも顔を合わせていない。

 

 どうやら二人とも、この浮世絵町にすらいないらしい。カナは実家に帰っており、リクオにいたってはどこに行ったのかも分からずじまい。何度か携帯にかけたりもしたが、音信不通で出る気配もない。

 

 ——ひょっとして……妖怪絡みで何かあったのかしら?

 

 ここで凛子が抱いた懸念は、二人が妖怪関係の何かに巻き込まれ、連絡が取れない状況に追い込まれているのでは、という不安だった。

 なにせ、ここにいる清十字団の中で唯一凛子だけが知っているのだ。カナとリクオ、二人の秘密を——。

 カナが妖怪に詳しく、詳細は知らないがそれなりに妖怪と戦う術を持っていることを。

 リクオが自分と同じ半妖で、彼が妖怪任侠一家『奴良組』の三代目であることを。

 

 なまじそれらの事情を知っているだけに、凛子は二人が危険な目に遭っていないかと、つい心配になってしまう。一応、カナとは一度清継が連絡をとり、待ち合わせ場所や時間、旅行の詳細などをメールしてあるという話だが、果たしてそのメールも彼女の下に届いているかどうか。

 凛子は嫌な予感がしてならなかった。しかし、そんな時だった。

 

「あら……?」

 

 清十字団の連絡用携帯電話、凛子の呪いの人形が震えている。彼女は清十字団用と親との連絡用に携帯電話を使い分けている。凛子がモデルだという、その人形が着信を知らせているのなら、その通話相手は限られてくる。

 

「もしもし……誰?」

 

 凛子は恐る恐ると電話に出ながら、その通話相手が誰かを真っ先に確認していた。

 

『——もしもし……凛子先輩ですか?』

「カナちゃん!? 無事だったのねっ!!」

 

 電話の相手は家長カナであった。ほとんど半月ぶりに聞いた友人の元気そうな声に、凛子はほっと胸を撫で下ろす。

 

「よかった~! 全然連絡も繋がらないし……何かあったんじゃないかって心配してたのよ?」 

『ご心配をおかけしてすみません。色々と立て込んでいたもので』

 

 カナは凛子を心配させてしまっていた自身の落ち度を素直に謝罪してきた。その言葉を聞き、凛子は軽く息を吐きながら首を振る。

 

「ううん、無事だったらそれでいいのよ……ところで、まだ実家にいるの? 京都旅行……来れそう?」

 

 凛子は目下のところ問題になっている京都旅行の件について言及した。

 既に集合時間は過ぎており、もうそろそろ出発しなくては予定の時間に間に合わなくなる。しかし駅に現れず、こうして電話してきたという事は、カナは来れないのかもしれない。

 断りの連絡を入れるために自分の電話にかけてきたのではと、そのようにカナの事情を予想する凛子。

 しかし、カナの口から語られた言葉は、凛子の予想を斜め上にいっていた。

 

『先輩。誠に恐縮なんですが、今回の京都旅行、中止にすることはできませんか?』

「えっ——中止!?」

「???」

 

 思わず叫ぶ凛子に、清十字団の皆が何事かと振り返る。

 そんな彼らの方を窺いながら、凛子は声を潜ませてカナに告げる。

 

「それは……ちょっと難しそうね。みんな、今回の旅行を楽しみにしてたみたいだし……」

 

 そう、旅行の企画者である清継だけではなく、清十字団の皆が今回の京都旅行を楽しみにしていたのだ。

 凛子も巻や鳥居と一緒になって旅行プランを練っていただけに、その楽しみを一番に理解できる。

 カナが何故そのようなことを言い出すかは分からないが、おいそれと中断などできる筈もない。逆に、そのような空気の読めない発言をしたカナに、ほんの少し凛子は怒りたくなってしまった。

 

『そうですか……。すいません、水を差すようなこと言ってしまって』

 

 凛子の渋る返事に、カナは意外なほどあっさりと引き下がる。簡単に中止などと口にした自身の浅慮を謝り、彼女は何事もなかったように自分の現状を報告する。

 

『実は今しがた浮世絵町に帰ってきたばかりでして。準備にはもう少し時間がかかるかもしれません』

「? あ、あら……そう、なの」

 

 そのときになって、凛子はカナの声音に若干の違和感を感じ始めていた。

 

 自分が今話している相手は家長カナで間違いない筈。だが、なんというか。彼女にしては随分と淡々としているように凛子には思えた。

 京都旅行を中止しようという爆弾発言を冷静に提案し、それが却下されたからといって動じていない。

 冷たい、という訳ではない。何だか、少し大人びたような印象を電話向こうのカナに抱いてしまっていた。 

 

 しかし、淡々に思えたカナの口から次の言葉が力強い響きで聞こえてきた。

 

 

『だから、先に行ってください。後から……絶対に駆けつけますから——』

 

 

 力強い声音だった。たとえどのような障害があろうと、絶対に事を成そうとする、確固たる意志が感じられた。

 

「そ、そうなの……。わかった、待ってるから」

 

 凛子はその声音から感じる迫力に圧されつつ、了解の意を伝えて電話を切ろうとした。しかし——。

 

『あっ、ちょっと待ってください!』

 

 慌てた声音で電話を切らないように制止するカナ。

 

『今その場に——リクオくんはいますか?』

 

 彼女が訪ねてきたのは大切な幼馴染の有無。

 皆が集合している駅前広場に、彼がいるかいないかの安否確認だった。

 

「り、リクオくんは……来てないわ。連絡も……ないみたいで……」

 

 カナの問い掛けに、凛子は動揺しながらも正直に答えてしまっていた。

 リクオの方はカナとは違い、清継の方でも連絡が取れていないようだ。幼馴染のカナならばあるいはリクオの居場所を知っているかもと思ったが、わざわざ凛子に尋ねてきたという事は、彼女も知らないのだろう。

 大切な幼馴染が音信不通。さぞ、内心穏やかではいられない筈だ。

 

「だ、大丈夫よ、リクオくんなら……連絡はとれてないけど……きっと、無事でいると思うから……」

 

 凛子はカナの心の不安を危惧し、リクオがきっと無事だと彼女を励まそうとする。勿論、それは何の根拠もない希望的観測だ。凛子自身も不安があることを隠しきれていなかった。しかし——。

 

『ふふふ……大丈夫ですよ、凛子先輩。リクオくんなら』

 

 必死にカナを励まそうと躍起になる凛子に、逆にカナが心配しないように笑いかけてきた。

 

『私と同じですよ。彼なら絶対、遅れても後から駆けつけてくれますから』

「そ、そう……」

 

 カナの落ち着いた声音に、凛子は呆気にとられる。彼女の言葉は強がりでも、希望的観測でもなかった。

 リクオなら絶対に京都へ駆けつけてくれる。それを事実として認識し、欠片も信じて疑っていない声音だ。

 

『とりあえず、京都についたら真っ先に宿泊先のホテルに向かってください。私が行くまでは、あまり出歩かないようにお願いします』

 

 カナは既にリクオの話題を終え、京都についてからの清十字団の行動に言及してきた。行程表どおりなら、京都について直ぐに神社仏閣を巡る予定なのだが、自分が行くまでは待って欲しいと彼女は願い出ていた。

 詳しい理由を話さないカナだが、その言葉からは確かな真摯さが伝わってくる。

 

「わ、わかったわ。そ、それじゃあ……そろそろ時間だし、切るわね……」

 

 全ての要件を終え、凛子はよそよそしく電話を切ろうとした。何だか大人びた電話向こうの友人。暫く顔も合わせていなかったこともあり、凛子はカナと少し心の距離を感じてしまっていた。

 だが最後の最後、カナは凛子に託すように言葉をかける。

 

 

『先輩。清十字団の皆のこと……宜しくお願いしますね』

「———っ!」

 

 

 切実な願いが込められたカナの言葉は友人であり、先輩でもある凛子を頼ってくれる後輩としての頼み方だった。自分のことを頼ってくれるカナの申し入れに、凛子は友達として先輩として、最大限の喜びで応じていた。

 

 

「ええ……任せておいて!!」

 

 

 

×

 

 

 

 家長カナの遅れるが、後から必ず駆けつけるという連絡。出発の時間が差し迫っていたこともあってか、清十字団一行は新幹線に乗り込み、京都へと出発した。

 清継もリクオたちが後から駆けつけてくることを信じて疑っていなかったようだ。多少の欠員があっても特に気落ちすることなく、意気揚々と新幹線へ乗り込んでいった。

 約一名「及川さんはっ!?」と叫んでいた男子がいたが、そんな恋する少年の叫びを一同は聞き流し、東京駅を旅立っていった。

 

 そうして——清十字団が東京駅を出発して二十分後。

 

「ほらっ! 青、急いで!!」

「わってるよ、そう急かすな!」

 

 及川つららこと雪女、倉田こと青田坊の二名が慌てた様子で東京駅のホームへと駆け込んできた。

 つららは清十字団の一員として今回の京都旅行に誘われていたが、参加するつもりはなく、奴良組の本家で遠野の修行から帰ってくるであろう、自分の主——奴良リクオを待っているつもりだった。

 来る日も来る日も、彼のことを想いながら、彼当てに文を書き溜めながら。

 

 だが、つららは京都の情勢を知り、それどころではないことを悟る。 

 

 奴良組の方でも京都の情勢が逐一分かるよう、情報収集を行っていた。黒羽丸たち三羽鴉を始めとした、諜報能力に長けた組を動かし、常に最新の情報を取り寄せていた。

 その黒羽丸の話によれば——既に京都は妖に侵された街になりつつあるというではないか。

 花開院分家のトップ3が破れ、京都を守護する封印も殆ど機能していないという。

 妖怪が人間を、『街行く一般人』を襲うようにすら、なっているという話だ。

 

「もうっ!! もっと早く知ってたら、止めるかついていったのに!!」

 

 本来であれば、リクオの参加していない京都旅行になど、つららが着いていく義理などない。だが、もし万が一、そんな魔都と化している京都で妖怪に襲われ、清十字団の誰かにもしものことがあれば——。

 

「リクオ様に顔向け出来ない! 仕方ないけど私たちが合流して、あの子たちを守るしかないわ!! 行くわよ、青!!」

「へいへい……」

 

 そうならないよう、自分たちが清十字団と合流して彼らを護衛しなければならないと、つららは青田坊を連れ、京都へ行くことを決意した。

 青田坊は清十字団の一員ではないが、同じ学校の生徒である倉田として彼らとも面識がある。清十字団のメンバーに正体を悟られないよう、すぐ側で護衛するのに適した人材であろう。

 

「みんな……リクオ様のこと、頼んだわよ」

 

 京都行きの新幹線に乗り込みながら、つららは本家でリクオの帰りを待っている側近たちに後のことを託していた。きっと、彼らも後から駆けつけてくるであろうリクオと共に、京都入りするだろう。

 

 そのことを少し羨みながら、つららはリクオの友達を護るため京都へと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つららと青田坊の二人が東京駅を出発した、その一時間後。

 東京駅の駅前広場に、一組の少年少女がやってきた。

 

「さあ、私たちも行こうか、兄さん」

「なんで俺まで……………」

 

 どこか清々しい表情で歩く、私服姿の家長カナ。

 不満たらたら、不機嫌さを全開にした制服姿の土御門春明。

 

 神通力を得た少女と、灰色の陰陽師である少年。

 二人もまた、清十字団やつららたちの後を追うよう、京都行きの新幹線に乗り込んでいく。

 

 

 

× 

 

 

 

「…………………」

「…………………」

 

 東京駅発、京都駅行きの新幹線に乗り込んだカナと春明。二人は新幹線のぞみの自由席で隣り合うように座り、互いに言葉を交わすことなく、出発の時を静かに待ち続けている。

 春明はその間、久しぶりに顔を合わせる妹分の表情を何度か覗き見ていた。

 

 ——何かコイツ……雰囲気変わったな……。

 

 春明がカナと最後に会ったのは二週間ほど前だ。暫く修行のため、浮世絵町を留守にするから後のことを頼むと、彼女はリクオたちのことを春明に託し、一人富士山——富士天狗組の屋敷へ旅立っていった。

 当初、春明はカナがこの夏休み期間中、ずっと修行のために山に引きこもる予定だと聞かされていた。その間、リクオや清十字団のことをある程度気に掛けねばならないことを面倒に思いながら、彼は日々を過ごしていた。

 

 しかし、カナは唐突に帰ってきた。

 

 特に連絡もなかった帰還であったため、流石に面を食らう春明。開口一番、カナは春明に言った。

 

『ちょっと京都に行くからついてきて、兄さん』

 

 あっけらかんと言い放つ彼女に、一瞬呆ける春明だったが、すぐに我に返り彼は叫んでいた。

 ふざけんなと。

 

 京都といえば例の羽衣狐が復活し、何やら騒ぎを起こしているという土地だ。春明は特に興味もなかったため、彼の地の詳しい事情などほとんど仕入れていなかったが、先日浮世絵町にやってきた花開院の連中がピンチであることは何となく察しが付いていた。

 カナはその花開院家の友人——ゆらを助けるために京都に行きたいと申し出ていたのだ。そして、春明にもその手助けをしてくれと頼んできた。

 

 面倒事を嫌う春明は当然、カナの提案に猛抗議。カナが京都に行くことにすら反対した。

 ところが、春明の返事を聞くや、カナはわざとらしく困ったように腕を組み——。

 

『えっ、駄目? う~ん……困ったな。兄さんがいてくれないと、わたしちょっと心細いんだけど。やっぱり兄さんがいてくれるから、安心して後ろを任せて戦える感じがするから!』

 

 などという事を平然と口にし、

 

『でも仕方ないか……じゃあ、わたし一人で行ってくるから、コンちゃんだけは貸してね!』

 

 あっさりと前言を撤回し、一人でもゆらの加勢に行くと決める。正体を隠すためだと、面霊気のコンを春明の手から笑顔でひったくっていったのだ。

 

『———————』

『———————』

 

 これには流石の春明も、面霊気も言葉を失った。

 いざとなれば、力づくでもカナを止める気でいた春明だが、彼女の平然とした態度、その笑顔に毒気を抜かれた。そしてなんやかんや、結局京都までついていく羽目になったのである。

 

 ——なんつーか……気負わなくなったよな。片意地を張らなくなったていうか……。

 

 春明はそれをきっかけに、カナに対して明確な変化を感じ取っていた。

 少し前までの彼女なら、京都まで友達を護りに行くと、どこか切羽詰まった様子で春明に頭を下げていただろう。そして、それを憮然と断る春明。

 その流れから彼と喧嘩に発展し、最悪どちらかが血を見る羽目になっていたことだろう。

 

 そもそもな話。それまでのカナはリクオや友達を護ろうと、どこか『使命感』のようなものに駆られていた印象があった。リクオの力になりたいと、修行に出たのもその使命感によるもの。そのために彼女は中学生としての貴重な夏休み、青春を犠牲にしてまで富士山太郎坊の下へ教えを請いに行ったのだ。

 だが、修行から帰ってきたカナに、そのような印象は一切なかった。皆のために力を尽くそうとする姿勢はそのままだが、だからといって躍起になる様子は見られない。

 

「…………」

 

 あくまでも自然体。こうして新幹線の発車を待っている間も、カナはずっと瞑想に耽るかのように目を閉じている。

 

「…………ちっ! おい、カナ!」

 

 その落ち着いた態度がどうにも気に入らない春明。彼は舌打ち混じりにカナに声を掛ける。

 

「? なに、兄さん」

 

 カナは目を閉じたまま、春明の呼びかけに応える。

 こちらの苛立ちにまるで気づいた様子もない彼女に、春明の口は自然と動いていた。

 

「お前…………無駄に落ち着いてて、何か気持ち悪いわ」

「はぁっ? 唐突になに!?」

 

 何の前触れもなく罵声を浴びせてくる兄貴分に、流石に目を見開いて抗議するカナ。すると、春明を援護するよう、カナの手に握り締められていた面霊気も彼の言葉に同意する。

 

『あっ、それあたしも思ったわ。今のお前、相当気持ち悪いぞ』

「コンちゃんまでっ!? 二人して何なの!? いきなり人のことディスらないでよ!!」

 

 カナは席から勢いよく立ち上がり叫ぶ。二人がかりで罵倒し、ようやく以前のような少女然とした家長カナが戻って来たような気がした。

 そのことに少し安堵する春明だが、カナは溜息を吐きながら、今一度心に平静さを取り戻し席に腰掛ける。

 

「別に落ち着いてるわけじゃないよ。ただ京都に着くまで、あまり無駄な体力を消耗したくないんだ」

「ほう……」

 

 カナの言葉に春明は思う。果たして自身の変化を彼女は自覚しているのだろうかと。

 以前までのカナなら、無駄な体力消費だと理解しながらも、京都の到着をまだかまだかと、イライラしながら通路を行ったり来たりしていたことだろう。

 やはりどこか物腰が柔らかになった。少し大人になったと、妹分の成長を感じる春明。

 すると、感心している春明に向かってカナは言った。

 

「さて、京都に着くまで二時間くらいか……兄さん。わたし、少し寝るね」

「…………………………………はぁ?」

 

 春明は呆気にとられた。それは流石に落ち着きすぎではと思ったが、カナは欠伸をしながら事情を説明する。

 

「ふぁ~……実はずっと寝てないんだ。昨晩も一晩中起きてたし、その後すぐに浮世絵町に戻って京都行きの準備をしてたから、眠くて眠くて……。それじゃ、おやすみ。着いたら起こしてねっ!」

 

 ご丁寧に座席の椅子まで倒して完全に就寝態勢に入るカナ。相当眠気を我慢していたのだろう、一分もしない内にすやすやと、少女の寝息が聞こえてきた。

 

『うわっ……コイツ、マジで寝やがった……』

 

 眠るカナの手に抱かれている面霊気も完全に呆気に取られている。

 その穏やかな寝顔。とてもこれから、京都まで決死の戦いを挑みに行く少女のものと思えぬほどに、無垢な寝顔であった。

 

「……やっぱ落ち着きすぎだろ。いったい、どんな修行してきたんだ、コイツ?」

 

 いつもならマイペースで他人を振り回す立場の春明だったが、今は少女のマイペースに振り回され、頭を抱えるしかなかった。

 

 いったい、富士の山でどのような修行をしてきたのか? 

 春明は妹分をここまで成長させた、その修業内容が気になって気になってしょうがなかった。

 

 

 

×

 

 

 

 カナたちが東京駅を出発したその一時間後。既に日も暮れた奴良組本家にて。

 カナやつらら、奴良組の妖怪たちが待ち望んでいた大将がついに帰還を果たしていた。

 

「ん? ありゃ、リクオ様!?」

「何!? ホントだ、リクオ様だ。リクオ様が…………帰ってきたぞ!!」

 

 奴良組の門を叩く妖気の渦に、最初は敵襲かと身構える本家の妖怪たち。だが、彼らは夜のリクオの姿を目に留めるや彼の帰還を総出で出迎えていた。

 だが、リクオは一人ではなかった。彼は見慣れぬ妖怪たちを引き連れ、本家へ帰ってきたのである。

 

「へ~~、ここが奴良組かい?」

「ふん、広いじゃないか」

「走るから汗かいて溶ける~」

「ケホッ、ケホッ」

「やっとついたかよ」

「へへへ……沼ある? 喉乾いたー」

 

 見たこともない妖怪たちだった。

 喧嘩っ早そうな女性に、目つきの悪い少年。落ち着いた雰囲気の女性に、咳き込む少女。猿に河童の妖怪と。実に個性的な面子が揃っている。

 

「おい、リクオ。てめーが遅れ気味だから夜になっちまっただろ」

「しゃがないじゃない。昼間は人間になっちゃうんだから! イタクもイタチになるでしょ?」

「お互いカワイーよね~」

 

 彼らは慣れ親しんだようにリクオにため口を聞いている。奴良組の一員として、長年リクオに敬意を払ってきた奴良組の面々からすれば考えられないことである。

 

 

 彼らは奴良組ではない。リクオが遠野の修行中に交流を深めた、奥州遠野一家の者たちだ。

 京都の情勢、友人の危機を伝えられたリクオは遠野を出発する決意を固めた。未だに技の研鑽が不十分と感じてはいたが、背に腹は代えられない。急いで駆け付けねば、何もかも間に合わなくなってしまうだろう。

 旅立つ前日の夜。リクオは遠野の大将である赤河童に修行を付けてくれた御礼を述べにいった。

 ついでとばかりに、彼は皆が揃ったその場で、挑戦的なことを口にしていた。

 

『なんだ? この中で俺が魑魅魍魎の主になる瞬間を、一番近くで見てぇ奴はいねぇのか?』

『こんな山奥で偉そうにしてても、それこそお山の大将だぜ』

 

 そんなリクオの挑発的な態度に、当然激怒する遠野妖怪たち。自分たち遠野を馬鹿にしたなと、殴りかかってくるものまでいた。

 だが、そんな彼らの喧騒を『鏡花水月』でぬらりくらりと躱し、リクオは悠々とその場を立ち去っていった。

 彼の誘いに乗り、京都まで着いていこうと申し出る遠野妖怪はいなかった。その場においては——。

 

『——リクオ』

 

 リクオが旅立とうとした早朝。里の川辺で一人ポツンと立っていた彼に、淡島が声を掛けてきた。

 

『お前がお願いします、助けて下さい!! ってことだったら、考えてやらんでもないぜ』

 

 天邪鬼らしい、ひねくれた物言いでついていってやらんでもないと口にする。

 そんな態度の淡島に、リクオは屈託のない笑顔を浮かべ。

 

『——ああ!! 頼む!!』

 

 と、実に素直な態度で淡島、その後ろでリクオについていくか迷っていた面子に願い出ていた。

 

『ど、どーする?』

『どーするって、リクオがそう言ったら、行くって約束だぜ?』

 

 あまりにもリクオが素直だったためか、彼についていくか迷っていた面々の方が戸惑ってしまっていた。

 淡島に、沼河童の雨造。雪女の冷麗に座敷童の紫に、経立の土彦。

 リクオの修行をまじかで見てきた面子だ。リクオのことを認め、彼が京都で魑魅魍魎の主になる瞬間を見たいと思ってしまった。リクオの『畏』に当てられ、彼と共に京都に行きたいと思ってしまったのだ。

 

『……イタクは来てねぇか』

 

 リクオはその面子の中に、鎌鼬のイタクがおらず残念そうに呟く。今日まで自分に稽古を付けてくれた指導教官である彼がいれば、これほど頼もしいことはない。そう思っていただけに、リクオは少し落ち込む。すると——。

 

『——常に畏を解くなっていってんだろ』

 

 まるでその言葉を待っていたかのように、リクオの背後にイタクは回り込んでいた。鎌の刃をリクオの首筋に当て、隙を見せた彼を叱るように威嚇する。

 

『てめえの教育係は終わってねぇ!! ただし、てめぇと盃は交わさねぇからな!!』

 

 あくまで対等の立場だと言い放ち、イタクもリクオについていくことを決めたようだ。

 

『……ありがとよ』

 

 そんな彼らに礼を言いながら、リクオは里の結界を破るべく刃を構えた。

 もっとも、それはその辺りの川辺で拾った木の棒——多樹丸だ。この里の結界を破るのに、祢々切丸を使うまでもないと、リクオはその霊木を思いっきり振りかぶる。

 

『いくぜ。さよならだ、遠野!!』

 

 威勢のいい掛け声とともに振るわれる多樹丸。リクオは見事、里の畏を断ち切った。

 

 

 

 

 

 

「帰ってきたってこたぁ、出られたってことだな?」

「…………」

 

 リクオは現在、奴良組本家の一室にて、自分を遠野に送り出した張本人——ぬらりひょんと向かい合っていた。

 本家に到着して早々、リクオは首無などの盃を交わした面子に京都へ行く支度をするように言った。すると、騒ぎを聞き、駆けつけてきたぬらりひょんがリクオの前に顔を出し、自分のところに来るよう言ってきたのだ。

 

「何か得られたかい?」

 

 てっきりまたもリクオの京都行きを止めるかと思っていたが、ぬらりひょんは落ち着いた様子でリクオの修行の成果を確認する。

 

「どうかな……まぁ『ぬらりひょん』って妖怪が何なのかってのは、わかったかな……」

 

 リクオとしてはまだまだ鍛錬の余地があったとは思うが、少なくとも自分という妖怪の特性――ぬらりひょんの畏がどのようなものかは理解できたと思っている。

 

「そうかい。じゃあ——」

「ああ……」

 

 ぬらりひょんの問い掛けに、リクオは堂々と答えていた。

 

 

「——これから京都に発つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————ふっ」

 

 刹那、ぬらりひょんは問答無用でリクオに切りかかった。遠野に行く前のリクオであれば、決して避けることができず、致命傷を負っていたことだろう。

 しかし——。

 

「…………」

 

 ぬらりひょんのドスに切られたリクオ——その虚像が空気に溶けていく。そして、ぬらりひょんの背後に、本物のリクオが現れる。

 ぬらりひょんの鬼憑『鏡花水月』。イタクに言われていた「常に畏を解くな」というアドバイスを実践し、リクオは祖父の前でも油断なく畏を持続させていた。

 

「おお~よくできてるじゃねぇか。まっ、好きにするがええさ」

 

 リクオの成長ぶりを肌で実感し、あれほど彼の京都行きに怒っていたぬらりひょんがあっさりと認める。

 呑気に「お土産に八つ橋よろしく~」などと、まるで修学旅行にでも送り出すように、ぬらりひょんはリクオに向かって宣言した。

 

 

「——因縁断ってこい。帰ってきたら、お前が三代目じゃ」

 

 

 その後、京都に行ったら秀元に会えとアドバイスを伝え、ぬらりひょんは奥の方に引っ込んでいく。

 そんな彼の背中に向かって、リクオも豪語した。

 

 

「——祝宴の用意でもして、待ってろよ」

 

 

 祖父との話を終え、リクオは庭先へと顔を出す。

 

「おーおー。仲良くやってんじゃねーか、おめーら」

 

 庭では奴良組と遠野の面々がワイワイと交流を深めていた。

 淡島と黒田坊が取っ組み合ったり、河童と雨造が池の中で話してみたり、紫が納豆小僧に追い掛け回されたり、冷麗が豆腐小僧の頭を撫でたり、と。

 だが、一同はリクオが顔を出すと騒ぐのをピタリと止め、彼の方を振り返る。

 

「おう、リクオ……そろそろ出るか?」

 

 皆を代表するように淡島がリクオに問う。

 彼女のその問い掛けに、リクオは意気揚々と宣言していた。

 

 

 

「ああ、てめーら、行くぜ。京都に——!!」

 

 

 




補足説明

 カナの微妙な変化
  前回の修行の影響でカナの性格が少し変わっています。根本的な部分は変わりませんが少し大人びた印象を意識して描写するようになります。
  それでも、まだまだ彼女は人間の少女なので、至らない所が多々あります。変な部分や違和感があれば感想で教えてください。その都度フォローを入れていきます。
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