家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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グランドオーダー! 
新ぐだぐだイベント『オール信長総進撃ぐだぐだファイナル本能寺2019』開幕!!
長尾景虎が配布でも十分嬉しいのに、ついに実装された魔王信長。
そのあまりのカッコよさに、手持ちの聖晶石と呼札を総動員して宝具レベル2にしました! スキルをオール10にして、聖杯でレベル100にして、フォウくんカードで能力値を2000上げる予定! 
ホントにかっこよすぎる……ほとんど石を使いきってしまったが、一片の悔いなし!!

えっ……性能? …………………大丈夫!! いずれ強化がくる筈だから(希望的観測)!!


さて、今回の話で本小説が連載されておよそ一年が経ちます。
ここまで継続できたのも、読んでくださる読者の方々がいてくれたおかげです。
今後とも、頑張って話を盛り上げていきたいので、どうかよろしくお願いします!!




第五十三幕 絶望の裏切り、希望の援軍

「う~ん、着いたね、京都に!!」

「たくっ。マジで二時間も熟睡しやがって…………」

 

 新幹線に揺られること二時間。既に時刻は十時過ぎと空は真っ暗となっていたが、少女と少年——家長カナと土御門春明の二人は京都の地に足を踏み入れた。

 カナは前言通り、京都に着くまでずっと眠っており、今しがたようやく目覚めて背筋をぐっと伸ばして体をほぐす。その隣で呆れたような目をカナに向ける春明。結局、彼は新幹線の中で一睡もすることなく、京都についてからの自分たちの行動など、色々とシミュレートしながら頭の中を整理していた。

 

 特に春明が気に掛けていたのは京妖怪についてだった。昔、半妖の里の書物で読んだものの中に、彼らに関する資料も一部あった。彼らの特性、能力、生態など、それらの情報を記憶を頼りに思い出し、対策を練っていたのである。

 しかし、頭を悩ませるその横でカナは寝息を立てていた。それはもう、見事な熟睡ようである。

 人が必死になって対策を立てている横で呑気に眠る姿に、春明はカチンと若干キレかけていた。

 

「……でっ? これからどうすんだ? まさか、ノープランってわけねぇよな……」

 

 春明はとりあえず怒りを押し殺し、カナに今後の具体的な展望を問う。一応、春明の中にもいくつかのプランはあるが、カナ自身の考えも聞いておきたかった。

 これでカナが「何も考えていませんでした」などと答えれば、おそらく拳骨をお見舞いしていただろう。しかし、呑気に寝ていたにも関わらず、カナは春明の質問に淀みなく答えていた。

 

「うん、そうだね。一応、最初は清継くんたち——清十字団の皆と合流しようかと思ってたんだけど……」

 

 そう言いながら、彼女は清十字団との連絡用通信機——呪いの人形携帯のメールをチェックしていた。

 

 清十字団は旅行ということで、カナたちより先にこの京都に来ていた。だが、噂では既に京都は妖たちが蔓延る魔都となりかけているようで、何も知らずに迂闊にほいほい夜の京都市内を出歩けば、容赦なく京妖怪に襲われるような事態にまで発展しているとのこと。

 そのことを危惧したカナはとりあえず夜の街を出歩かないよう、すぐに宿泊先のホテルに向かうよう凛子に指示を出していた。

 

「うん! どうやらその心配はなくなったみたい。皆、ゆらちゃんのところで保護されたみたいだから」

「ゆら、って……花開院家の? 何だってそんな陰陽師の拠点に連中がいるんだ?」

 

 カナの言葉に春明が訝しがったため、彼女はその経緯を説明する。

 カナが凛子に警告していたのが功を奏したのか、清十字団は当初の予定を崩し、真っすぐ宿泊先まで向かうことに決めたという。だが、どうやら清継は元からホテルなど予約しておらず、ゆらの実家——花開院家に泊めてもらう算段だったらしい。「だってファミリーだもん!」と、何の連絡もしていないのに、泊めてもらうことを当然と思っていた、ある意味清継らしい発想。

 しかしその道中、彼らは妖怪ツアーで巡るつもりだった、とある神社の前に来てしまい、折角だから少し寄り道しようということになってしまったのだ。一軒くらいならばと、カナに注意を促されていた凛子も油断していたらしい。

 

 そこで彼らは思い知ることになる。今——この京都の都がどうなっているかということを。

 

 凛子が目を離した一瞬の隙に、巻と鳥居の二人が京妖怪に攫われ、凛子自身も生き肝を狙われて襲われかけた。そこへ、その神社の近くで偶々修行中だった陰陽師——花開院ゆらが駆けつけてくれたのだ。

 ゆらと、さらに後から合流した雪女であるつららと倉田の活躍もあってか、京妖怪に攫われていた巻と鳥居の二人も無事に救出された。

 当初の目的とは些か異なる形ではあったものの、清十字団は宿泊先となる花開院家で保護されることになった。

 

「うん……凛子先輩。引き続き、皆のことをよろしくお願いします、と……送信!」

 

 その一連の流れを凛子からメールで受け取ったカナ。改めて、清十字団の面倒を見てくれるようメールを返信しておいた。

 

「ほー、白神のやつも来てんのか……でっ、どうする? 花開院の本家なら、よっぽどのことがない限りは安全だと思うぜ…………多分」

 

 春明は清十字団が花開院の本家に匿われている以上、ある程度の安全は確保されているだろうと考えた。少なくとも、そこらの安宿に泊まるよりはずっといいだろう。まだ慶長の封印が辛うじて機能している今の段階ならば、陰陽師の拠点がそう易々と妖の進行を許すことはない。

 

 問題は——封印が完全に解かれた後、この京の街が完全に妖の侵略を許してしまった場合だ。

 

 もしそのような事態になれば、京妖怪は昼夜問わず、自由に京都内を行き交うことができるようになる。そうなってしまったとき、果たして対抗できる陰陽師が花開院家内にどれだけ残っているのか。

 

 ——あの竜二や魔魅流、ゆらレベルの奴等なら何とか対抗できそうだが、さて……。

 

 春明は浮世絵町に依然やって来ていた面子を頭の中で思い浮かべる。あれくらいの力量の術者なら、京妖怪の幹部相手にもやり方次第で一杯食わせることができるだろうと、公平な視線からそのようにジャッジを下す。

 

「ん? そういや……奴良組の坊ちゃんはどうしてんだ、まだ来てねぇんだろ?」

 

 ふと、春明はカナに問いかける。

 どうやら、凛子たちを助けた奴良組配下の二人は、清十字団の中に旨いこと護衛として紛れ込んだようだ。だが、肝心の奴良リクオが京都に着いたという報告はまだない。

 

「ふん、さては逃げたか?」

 

 護衛だけ遣わして自分は安全圏から高見の見物をしている。そのような思考が過り、春明は軽蔑気味に鼻を鳴らす。するとそんな春明の憎まれ口に、カナは笑顔で言い返していた。

 

「もう、兄さんったら! リクオくんなら大丈夫だって! 後から絶対駆けつけてくれるからさっ!」

「…………」

 

 どうやら、カナはリクオが京都へ来ることを欠片も疑っていないようだ。リクオへ信頼を寄せている彼女の笑顔に、春明は密かにさらなる苛立ちを募らせる。

 

「じゃあ、どうするよ……これから?」

 

 イライラしながら投げやり気味に、春明はカナに今後の動きの確認を取る。

 彼の質問に対し、カナはこれからの指針を口にした。

 

 

「そうだね……まずは――――――――――」

 

 

 

×

 

 

 

「ほんと……私が丸山公園で修行しててよかったわ。とりあえず、本家におったら安全やろ」

 

 花開院ゆらは目の前で座り込む清十字団の面々にこれといって怪我がないことに、ほっと胸を撫で下ろす。

 ここは花開院本家。この本家にいる限り、当面は大丈夫だと、ゆらは彼らにここで大人しくしているよう指示を出していた。

 

 ゆらは偶然、自分が修行していた公園近くで『夜の神社仏閣には近づくな』という、花開院家の警告を無視している人間を助けた。だが、それが浮世絵町で出来た友達——清十字団の面子だと分かり、彼女は唖然とした。

 どうやら、彼らは何も知らずに京都へ観光旅行に来ていたらしい。地元の人間として、京都の素晴らしさを知ってもらえることは嬉しかったが、あまりに時期が悪すぎた。

 

 今、京都は妖に侵された街になりつつある。

 

 花開院分家のトップ3が敗北し、八つの封印の内、六つが羽衣狐たちの手に落ちた。既に妖たちは洛中に入り込み、夜だけとはいえ人々を襲うようになっているのだ。

 その事実を伝えると、清十字団は困惑気味だった。無理もないだろう。彼らからすれば現実離れした話。昨日まで普通の生活をしていた彼らに、今すぐその深刻さを受け入れろなどと酷な話だ。

 しかし、戸惑う彼らの側にいつまで付き添っていることはできない。自分には、やらねばならないことがあるのだから。

 ゆらはスッと立ち上がり、屋敷の外へ向かっていく。

 

「ど、どこ行くの? ゆらちゃん」

「まさか…………」

 

 ゆらが安全だと言った本家から立ち去ろうとしていることに、巻と鳥居の二人が青い顔をする。彼女たちの懸念に、ゆらは正直に答えた。

 

「相剋寺……今夜あたり、来るみたいなんや」

 

 そう、京妖怪の進行はまだ終わっていない。今夜あたり、第二の封印『相剋寺』を攻略しにやってくる頃合いなのだ。

 

「何で逃げないの!?」

「そーよ!! ゆらちゃんは中学生よ!?」

 

 ゆらが危険な場所へ向かおうとしていることに、巻も鳥居も悲鳴を上げる。ゆらはまだ自分たちと同じ中学生なのだ。何故、彼女がそんな危険な目に遭わなければならないのだと。

 

「…………逃げた人もおるよ。『自分』の命を守るために」

 

 花開院分家のトップ3が敗れたことで、分家の大半は完全に希望を失った。既に当主候補を失ったいくつかの御家が陰陽師としての責務を放棄し、京都から逃げ出した。

 残っている術者も未熟な者ばかり。ゆらや竜二、魔魅流くらいしか封印の守護につけるような人材がいないのが今の花開院家の現実なのだ。

 

「でも、私らは花開院家の陰陽師や」

 

 しかし、そんな過酷な現実の中においても、ゆらは自らの使命を全うしようとと奮起する。

 

『——護るのは 京都だ』

 

 既に殺されてしまったかもしれない、尊敬する義兄の言葉を胸に、ゆらは決意を固めていたのだ。

 

「敵に背を向けて、逃げたらあかんねん!!」

「………………………」

「………………………」

 

 彼女のかつてないほどの気迫が込められていたその言葉に、もはや誰も何も言えないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん? そういえば、家長さんはどうしたんや?」

 

 ふいに、ゆらは清十字団の中に家長カナの姿がないことに気づいた。

 

 今本家で保護したメンバーは清継に島、巻に鳥居に凛子、そしてつららと倉田だ。

 リクオがいない理由は先ほどこっそりとつららから聞いていた。奴良組の一員である彼女の話によると、リクオは現在、遠野という地で修行中らしく、彼らの京都旅行に着いてこれなかったという。

 別に妖怪であるリクオの助けを期待していたわけではないと、突っ張るゆらだが、心の奥底ではやはり寂しさと心許なさを感じていた。

 しかし、カナは? 特に彼女が不在の理由を聞いていなかったため、ゆらは心配になってきた。

 すると、ゆらの質問に清継が答える。

 

「家長くんなら、少し遅れてくるそうだよ。実家に帰省していた影響で、一人出発の時間に間に合わなかったんでね」

 

 凛子が電話で伝え聞いたという理由をそのまま話す。すると——。

 

 

「……………………………………………………………実家?」

 

 

 清継のその言葉に、思わずワンテンポ返す言葉が遅れるゆら。

 彼女が言葉を濁したことに、一同は首を傾げる。 

 

「どうかしたかね、ゆらくん?」

「——っ! な、なんでもないわ! そうやな、実家に帰ってたんなら仕方ないやろ!」

 

 清継が尋ねると慌てた様子で取り繕い、ゆらはそのように返事をしていた。

 

 ——そ、そうや! 別に、両親が亡くなってるからといって、天涯孤独ってわけでもないやろ。

 

 ゆらは一人、迂闊にも知ってしまったカナの秘密を抱え込みながら考える。

 ここにいるメンバーの中で唯一、ゆらだけが知っている。家長カナの両親が既に亡くなっているという事実を。故に、実家に帰っているという言葉に多少の違和感を覚えてしまったが、よくよく考えればそれほどおかしいことではない。

 母方か父方か、どちらかの祖父母の家にでも帰省していたのだろう。両親を失ったカナにもちゃんと帰る場所があることに安堵しながらも、ゆらはカナが遅れて京都入りする事実に頭を抱える。

 

「どうしたもんか………ちょっとゆ、お……及川さん、こっち来て」

「な、なによ……」

 

 ゆらは素知らぬ顔で花開院の本家に上がり込んだつらら、妖怪・雪女を呼び寄せ、声を潜ませて耳打ちする。

 

「あんた……あの子を捜して、ここまで連れてきてくれんか?」

「ええ!? なんでわたしがあの子を迎えに行かなきゃならないのよ! アンタが行きなさいよ!」

 

 別に外をうろついても問題ないであろう雪女の彼女に、ゆらはカナをこの本家まで連れてくるように指示する。しかし、そんなゆらの提案につららは反発する。

  

「私はこれから相剋寺の護りに行かな、あかんのや!」 

「わ、わたしだって、ここに残ってこの子たちを守んなきゃいけないんだからね!!」

 

 陰陽師と妖怪ということもあってか、元々の相性が良くないのだろう。ぎゃあぎゃあと言い争う二人の女子。

 

「おいおいお前ら、ちょっと落ち着けって……」

 

 倉田——青田坊が彼女たちを宥めようと二人の間に割って入る。しかし、それでも中々言い争いを止めようとしない両者。すると、そんな彼女たちに近づき、一人の女子が声を掛けてきた。

 

「あの……カナちゃんのことなら心配しなくても、大丈夫だと思うけど……」

「? なんでです、白神先輩」

 

 清十字団の中でも学年が一つ上の白神凛子だ。彼女は二人がカナについて話をしていたのが聞こえていたのだろう。カナのことなら迎えに行く必要はないと、揉める彼女たちに告げる。

 

「……さっきメールが届いたんだけど、あの子、今さっき京都に着いたらしくて、もう夜も遅いから自分の方で宿を確保したらしいわ。明日の朝になったら、私たちと合流するって……」

「そ、そうですか。なら、安心……ですかね」

 

 どうやら凛子がメールのやり取りをして、カナの無事を確認したらしい。現段階ならば、対策はそれで十分だろう。ゆらはほっと胸を撫で下ろし、カナにはそのホテルで大人しくしているよう、凛子に伝えてくれと頼んだ。

 

 明日の朝——きっと自分でカナのことを迎えに行こう。ゆらは、そう心に誓う。

 そのためにも——今夜という日を乗り越えねばと、改めて覚悟を決めるのであった。

 

 

 

×

 

 

 

 第二の封印の地——相剋寺。

 

 迫る京妖怪たちの進行を阻止しようと、花開院分家——福寿流の術者たちが集い、結合結界を張り巡らせる。

 陣頭指揮を執るのは福寿流の長老——第三の封印で敗れた、花開院雅次の父親である。 

 

「頑張れ! 雅次のことを思い出すんだ!!」

『は、はい!!』

 

 長老の励ましの言葉に、福寿流の陰陽師たちは気合を入れる。

 彼らの当主候補であった雅次は父である長老にとって自慢の息子であり、弟子たちにとっても尊敬に値する人物だった。だからこそ、第三の封印で敗北し、殺されてしまっであろう雅次に報いようと士気も高まっていた。

 

「…………ほんまに、やられてしもうたんか」

 

 そんな福寿流の決死な覚悟で結界を維持する姿を横目にしながら、ゆらもとある人物に想いを馳せる。

 

 第三の封印——鹿金寺で敗れたのは雅次だけではない。花開院分家のトップ3——破戸と秋房もまた京妖怪に破れ、消息不明となっている。

 ゆらは特に秋房——自分に陰陽師としての何たるかを教えてくれた、誰よりも尊敬すべき義兄の行方を案じていた。

 

「どこかで……生きてへんやろか」

 

 死体こそ見つかっていないが、既に花開院家では彼らが死んだものと扱われていた。

 しかし、未だにゆらは信じられなかった。あれほど才能に溢れた秋房が負けたなどと。虫のいい考えだと分かっていながらも、どこかで生き残ってくれていないだろうかと、ゆらは心から願っていた。

 

 だが、そんなゆらの願いは——

 

 

 

 

 

 

 最悪の形で裏切られることになる。

 

 

 

 

 

 

 

「来たぞ! 奴らだ!!」

「——!?」

 

 福寿流の結合結界が侵入者の存在、京妖怪の襲来を知らせ、結界を維持する術者たちの間に緊張が走る。ゆらも油断なく身構え、京妖怪の襲撃に備える。

 しかし、この結合結界は福寿流の陰陽師三十人の心が一つになって展開される最大限の結界だ。その強度は福寿流最強の護り手、雅次の『洛中洛外全方位金屏風』をも上回る。

 いかに京妖怪とて、おいそれと破れるものではないと、ゆらは自分の出番は当分先だと体の緊張を僅かに緩めていた。だが——

 

「みんな! 気を抜くな!! 雅次のことを——っ!?」

 

 皆を鼓舞するため叫ぼうとした福寿流の長老。そんな彼の叫びが、突如として止まる。

 長老は、持ち場の最前線で結界の意地を務めていた。

 

 そんな彼の下に——結界を切り裂いた刃の一閃が襲いかかる。

 

「がはっ……!?」

 

 こんなにもあっさりと結界が破れるなど予期していなかったのだろう。長老は成す術もなく斬り捨てられ、その顔が驚愕に染まる。

 

 しかし——次の瞬間、その場にいた陰陽師たちの表情が真に凍り付く。

 

 

 

「——そこにいるのはゆらか?」 

「——っ!?」

 

 

 

 自分の名を呼ぶ、聞き覚えのある声音に顔を上げるゆら。そこに立っていたのは、結界を破り、福寿流の長老を斬り捨てた相手だ。

 その相手は——ゆらがまさにその身を案じていた、誰よりも尊敬すべき陰陽師。

 

 

「——あ、秋房義兄ちゃん……?」

 

 

 ゆらは心臓が止まる想いで、目の前の人物を見やる。

 どこかで生きていて欲しいと願っていた相手が、目の前に立っていたことに目を見開き、彼が味方である筈の福寿流の陰陽師を斬り捨てたことに驚愕し、そして——。

 

「ふははは……見ろ。やはりビビっとる。ビビっとるのう……」

「さっさと殺ろうぜ、もう我慢できねぇ!」

「ここにいる陰陽師全員、ハリツケにしてやるよ!!」

 

 陰陽師である秋房が、まるで百鬼夜行を率いるように、京妖怪たちを引き連れていたことに絶望する。

 京妖怪たちは一様に、秋房と同じ妖刀を手にしていた。結界を紙切れのように打ち破る妖刀。それはまさに、妖刀造りの天才である秋房が与えたものに違いない。

 

「なっ……秋房だと!?」

「それに……あれは雅次に、破戸!?」

「い、いったい、な、何が起こっているんだ!?」

 

 ゆら以外の陰陽師たちもその異常事態を前に色めき立つ。

 妖怪を引き連れる秋房たちと共に、そこには十字架に張り付けられてた破戸と雅次の姿も確認できた。気を失ってはいるが、生きてはいるようだ。人質として連れまわされている二人の陰陽師。

 

 花開院秋房はそんな二人の同僚には目も暮れず、自身が与えた妖刀を構える京妖怪たちに号令を下す。

 まるで百鬼の主のように、一切の慈悲もなく。

 

「——進め、蹴散らせ。結界は消えた」

「ウォォオオオオオオ——!!

 

 彼の号令に従い、京妖怪たちは雄たけびを上げながら一斉に陰陽師たちに襲いかかった。

 

 

 

×

 

 

 

「だ、だめだっ! 各自、個別結界に切り替えろ!!」

 

 結合結界を秋房の手によって破壊されたことにより、福寿流は個人で結界を張る対応を迫られる。

 結合結界は強力ではあるもの、その下準備には大きな時間を取られる。目の前から京妖怪が攻めてくるこの状況で新しく結合結界を張ることは実質不可能。彼らは各々で結界を張り、自分の身は自分で守るしかなかった。

 だが——。

 

「……ぐっ、こ、この武器は!?」

 

 京妖怪たちが手にした妖刀が、結界を張る陰陽師の守りを容易く貫く。妖刀によって脇腹を貫かれ、福寿流の術者が血を流し絶命する。

 京妖怪たちが手にしている妖刀は、秋房が結合結界を破ったのと同種類のものだ。その武器には秋房が持つ妖槍『騎憶』ほどの力は込められてはいないが、『結界を破る』という概念が埋め込まれていた。

 その概念はどんな力の弱い妖怪が手にしようと、福寿流の個別結界を容易く切り裂き、結界の上から人間を丸刺しにする威力が込められていた。

 

「ひゃはははっ!! こいつはいい、結界が紙きれみてだぜ!」

「こいつら弱ぇえ——!!」

 

 その力を手にすっかり増長する京妖怪たち。人間を殺す快楽に溺れ、一人、また一人と陰陽師たちをその槍の餌食にしていく。

 ところが、いい気になって借り物の力に酔い痴れる彼らに、突如として巨大なニホンオオカミが襲いかかる。

 

『——ガァルル!!』

「うわっ、な、なんだこいつは!?」

 

 そのニホンオオカミ——式神・貧狼は何匹もの京妖怪を喰い殺し、さらにその爪で敵を切り裂いていく。

 続けざま、さらなる式神が現れ、陰陽師たちを襲っていた京妖怪を葬り去っていく

 

 エゾジカの式神・禄存。その巨大な角で敵を突き殺し、その脚力で容赦なく京妖怪たちを蹴り飛ばす。

 その禄存に騎乗し、落ち武者の式神・武曲が武器を振るう。禄存との見事な連携を披露し、彼らは多くの人間の命を救った。

 

「ま、また来たぞ!?」

 

 しかし、それでも京妖怪たちは怯むことなく福寿流の陰陽師たちへと襲い掛かる。

 

「——下がってて、福寿流!!」

 

 すると、福寿流の危機にそれらの式神の主である陰陽師——ゆらが、さらなる式神を召喚した。

 

「いでよ!! 式神・巨門(きょもん)!!」

 

『——パォォオオオオオオン!!』

 

「な、なんだぁあ!?」

「ぞ、象!? 象の式神だとぉぉっ!?」

 

 ゆらが京都の地に戻って新たに使役するようになった式神・巨門。

 巨大な像の式神である巨門は、その図体が貧狼や禄存の二倍はある。その大きさを活かした突進攻撃により、巨門は容赦なく京妖怪たちを踏みつぶし、ひき潰していく。

 

「…………」

 

 なんとか敵の第一陣を凌ぎ切ったゆら。だが、その表情は決して晴れることなく、彼女はとある人物と向かい合っていた。

 

「流石だな、ゆら。一度にそれほどの式神を出せるなんて……ゆらは天才だ」

「…………あ、秋房義兄ちゃん」

 

 自分に賞賛の言葉を浴びせながら歩み寄ってくる、すっかり変わり果てた尊敬する義兄——花開院秋房。

 彼は味方である陰陽師たちが妖怪に襲われているというのに、表情を変えることなくゆらの前に立っていた。 

 

「い、いったい何があったんや……これはなんや!」

 

 二人が話し込んでいる間にも、未だ多くの妖怪たちが暴れ、たくさんの陰陽師たちが犠牲になっている。

 

「早く止めよう! 福寿流は防御専門……結界が破られたら脆いんやで!?」

 

 福寿流は結界を専門とする術者たちの集まり。ゆらのような攻撃的な能力はほとんどなく、結界を破られれば成す術がない。その事実を秋房は知っている筈だ。なのに、彼は涼しい顔で言ってのける。

 

「京妖怪たちには、使えば使うほど妖力を増す武器を渡してある…………私の作だ」

「——なっ!?」

 

 秋房の口から飛び出たまさかの言葉に、ゆらは驚愕する。

 いったい何故、彼がそんなことを、妖怪に力を貸すのか理解できなかった。

 

「なんで……なんで妖怪に!!」

 

 ゆらは歯軋りする。式神・廉貞を腕に巻き付け、秋房を止めようと構えた。

 

『——ゆら、ボクらは京都を護る役目がある。わかるかい? それが才ある者の役目だ』

 

 ゆらの胸には、今も秋房に言われた言葉が残っている。

 他でもない、彼がゆらに教えてくれたことなのだ。なのに、それなのに——。

 

「目を醒ませ!! 秋房義兄ちゃん——!!」

 

 ゆらは必死に秋房へと呼びかける。

 いつもの彼の笑顔が見たくて、尊敬する義兄のあるべき姿を取り戻そうと——

 

 

 だが——。

 

 

「——隙だらけだ」

 

 

 ゆらの呼びかけに心動かされた様子もなく、秋房は彼女の一瞬の隙を突き、その死角に回り込んだ。無慈悲にゆらの首元に刃を突き立て、彼女の首を刈り取ろうと腕を振るう。

 

 ——あ、あかん……死ぬっ!

 

 ゆらは直感的に己の死を悟り、その顔色が真っ青に染まる。

 しかし——。

 

 

「——言言」

 

 

 間一髪のところでゆらの命を救うものが現れる。彼女の実兄——花開院竜二だ。彼はゆらの死角に回り込んだ秋房の、さらにその死角から式神・言言をけしかけ、秋房を退けた。

 

「出しすぎだ、ゆら。力を分散していたら、こいつには勝てんぞ」

 

 竜二はゆらの下に駆け寄り、彼女の拙い戦い方に毒舌を吐く。

 一度に大量の式神を使役できるのはゆらの特権。だが、操る式神の数が多ければ多いほど、消費する精神力の総量も高まり、集中力や注意力が緩慢になる。秋房もそのゆらの弱点を知っており、そこを突く形でゆらの死角に回り込んだのだ。

 こちらの手を知り尽くしている相手が敵に回ったことに、竜二は苛立ち気味に舌打ちしていた。

 

「チッ…………ゆら。式神はいつまでキープ出来る?」

 

 竜二は周囲の様子を観察しながら、ゆらに問いかける。

 

「えっ? さ、三匹くらいやったら、朝までいけるかも……」

「……相変わらず、無駄にとんでもない精神力だな」

 

 竜二はゆらの返答に呆れながら、数秒思案に耽る。そして何らかの考えが浮かんだのだろう。ゆらに指示を出していく。

 

「とりあえず、維持できる三匹で味方を守りまくれ。それから、裏門に配置していた魔魅流が騒ぎを聞きつけて直に来る筈だ。急いで合流して、あいつに伝えろ——」

 

 自身の不意打ちから立ち直り始めた秋房と対峙しながら、竜二はそれを口にした。

 

 

「『黒幕をさがせ』と——」

 

 

 

×

 

 

 

「はぁはぁ……!」

 

 竜二の指示に従い、ゆらは急ぎ駆け出していた。秋房の相手を実の兄に任せ、彼女は彼女のやるべきことをする。

 

 竜二は言った。この騒ぎのどこかから『黒幕』が自分たちを見ている筈だと。秋房を魔道に引き込み、彼をあんな冷酷な人間にしてしまった張本人が。

 同士討ちで苦しんでいる自分たちを嘲笑っている妖怪が、闇の中に潜んでいると。

 

 ——やっぱりや……! やっぱり、秋房義兄ちゃんは妖怪に操られてるだけなんや!

 

 秋房が本心から自分たちの敵になっていないことにゆらは安堵し、彼をあんなふうにしてしまった妖怪への敵対心を滾らせる。

 竜二は「違う、八十流は元々ああいう性質を持ってるんだ……」と気になるようなことを言っていたが、その言葉を振り払うかのように彼女は足を早める。

 目指すは裏門。そこを守っているであろう魔魅流と合流し、秋房を救うためにも黒幕を闇の中から引きずり出さなければならない。だが——。

 

「う、うわぁああっ! たすけてくれぇ!!」

「——っ!」

 

 どころどころで、ゆらの足が止まる。もう何度目かになるか、道行く先で仲間の陰陽師たちが妖怪に襲われており、見捨てることもできないゆらは、そのたびに彼らを守るために立ち止まる。

 

「このっ!!」

「ガハッ……」

 

 今まさに福寿流の陰陽師に斬りかかろうとした妖怪を廉貞で撃ち抜き、ゆらは彼らを間一髪で救う。助けられた味方は彼女に礼を述べていたが、生憎とゆっくりと話している暇もない。

 

「早く魔魅流くんと合流せなあかんのに……もたもたしてる暇なんかないんやで!」

 

 時間を食えば食うほど味方の損害は増えていくうえ、竜二と秋房の二人も気がかりだった。

 彼らほどの手練れの陰陽師が正面からぶつかって、互いに無事で済むはずがない。最悪——どちらか一方が命を落とす可能性だって考えられるのだ。

 ゆらはその最悪を実現させないよう、死に物狂いで魔魅流をさがそうと焦りを口にしていた。

 

「——ひぃっ!? い、いやだぁああああああああああ!?」

「ヒャハハハッ、死ねぇええええええええ!!」

 

 しかし、逸るゆらをさらに責め立てるように、目の前で一人の陰陽師が京妖怪に襲われていた。

 京妖怪は秋房から与えられた力でその陰陽師を斬り殺そうと、妖刀を思いっきり振りかぶる。

 

「危ない——!!」

 

 ゆらは彼を助けようと試みるも、先ほどよりかなり距離がある。ゆらの廉貞の射程外だ。

 

「貧狼!? 禄存!? くっ……あかん、助けられへん!」

 

 手持ちの式神も他の味方の守りについており、ゆらにはその陰陽師を救う手段がなかった。

 

 

 

 絶望に染まる、まだ年若い陰陽師の表情。 

 

 

 

 その若い芽を摘み取ることを歓喜するように、妖怪の顔が愉悦に歪んでいる。

 

 

 

 このまま黙って見殺しにするしかないのか?

 

 

 

 自分には誰も守れないのか?

 

 

 

 

 ゆらは己の無力さに、ただただ打ちひしがれるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そのときだった。彼女の眼前に——『神風』が吹き荒れたのは。

 

 

「——なっ? なんだぁああああああああああああああ!?」

「——と、突風だぁあああああああああああああああああ!!」

 

 

 突如として巻き起こったその風は、若い陰陽師を斬り殺そうとしていた妖怪、その周辺で他の陰陽師たちと交戦していた京妖怪たちをまとめて吹き飛ばす。

 

「た、助かった……」

「い、いったい……何が?」

 

 まさに神風。その風に命を救われ、陰陽師たちが安堵の溜息を溢す。

 

「なんや? 今の風は……」

 

 その光景を遠目から見ていたゆらは不思議がる。風はまるで意思を持っていたかのように、京妖怪たちだけを吹き飛ばし、陰陽師たちを守ったのだ。自然風にしてはあまりにも都合が良すぎる現象に、暫し呆然と固まるゆら。

 すると、そんな彼女の隙を突いて、後方から京妖怪たちが飛び掛かってきた。

 

「今だ! 殺せっ!」

「その餓鬼を始末しちまえば、奴らも総崩れだぜっ!!」

 

 ゆらの活躍を陰から見ていたのだろう。ゆらの繰り出す式神こそが防衛の要であることを見抜き、彼女を殺そうと京妖怪たちが迫る。

 式神さえいなくなれば、自分たちが好き放題に暴れ回れると、敵はゆらに攻撃を集中させる。

 

「くっ……」

 

 ゆらは自分に向かってくる妖怪たちを迎撃しようと廉貞を構えた。だが——。

 

 

「——木霊・針樹」

 

 

 どこかで聞いたことのある声がゆらの耳に届けられた、その瞬間——。

 ゆらの視界を埋め尽くしていた京妖怪が全て、地面から飛び出てきた『何か』によって串刺しにされる。

 

「か、かはっ?」

「な、なんら……こりゃ……?」

 

 ケツから、頭のてっぺんまで。残酷なほど無慈悲に串刺しにされ、京妖怪たちは悲鳴を上げる間もなく絶命していく。

 彼らを串刺しにしたものの正体は——『木』だった。

 不自然なほどに異常成長した木の根が、針のように尖り、京妖怪たちを皆殺しにしたのだ。

 

「こ、この陰陽術……まさかっ!?」

 

 ゆらはその陰陽術の系統に見覚えがあった。ここまで見事に木を操る陰陽師は花開院にはいない。

 そう、『彼』は花開院家の陰陽師ではない。

 

「——ボケっとすんなよ……花開院」

 

 まさかと驚愕に固まるゆらに、その陰陽師——浮世絵中学校の制服を纏った目つきの悪い少年が声を掛けてきた。

 

「つ、土御門!? なんでアンタがここにっ!?」

 

 土御門春明。浮世絵町で自分より先に陰陽師として活動していた、一つ上の先輩。

 学校の生徒としても、陰陽師としても不真面目であり、決して尊敬できるような相手ではない。面倒事が嫌いだと公言してはばからない彼が、何故こんなところ——京都にまで現れ、自分を庇うような真似をしたのか。

 感謝より疑問が上回り、ゆらは何も言えず口をパクパクさせていた。

 そんなゆらの反応に、心底めんどくさそうに春明は溜息を吐く。

 

「言っただろ、花開院……。お前らの家の事情に首を突っ込むつもりはねぇ……本当なら、俺がお前たちに加勢してやる義理なんて欠片もねぇんだが……」

 

 不満たらたらにそのようなことを口にしながら、春明は頭を掻く。

 

 

「感謝なら、『アイツ』にするんだな……。あの、お人好しの馬鹿に——」

 

 

 そう言いながら彼は顎をクイっと、先ほどの突風が吹き荒れた方角を見るようにゆらに促した。

 

「……あいつ?」 

 

 ゆらは春明に促されるまま、反射的にそちらを振り返っていた。

 突風が吹き荒れた場所、花開院家の陰陽師たちを救った『神風』が舞い上がった発生地点に目を向け——。

 

 その瞳が大きく見開かれる

 

 

「!! あ、あの子はっ!?」

 

 

 ゆらの視線の先には——『彼女』が立っていた。

 

 

 巫女装束の恰好をした真っ白い髪の少女。

 

 

 右手に槍を、左手に羽団扇を握り、彼女は迫る京妖怪たちから人間を守っていた。

 

 

 その少女がどんな表情を浮かべているかは分からない。

 何故なら、その少女の顔は『お面』によって覆われていたからだ。

 

 

 だが、ゆらはその少女の姿を目にするや、胸に暖かいものがこみ上げてくるのを感じた。

 そこに立っていた『狐面の少女』の存在に——。

 

 

「…………」

 

 

 正体不明、顔も名前も知らない少女だが、彼女は幾度となく自分の危機を救ってくれた相手だ。

 そんな彼女が、まるでゆらの危機に駆けつけるかのように、浮世絵町から遠く離れた筈の、この京都の戦場に馳せ参じてくれていた。

 

 

 危機に陥っていたゆらにとって、それは何よりの『援軍』であったのである。

 

 

 




補足説明
 式神・巨門
  京都編から登場する、ゆらの新しい式神。しかし、この話以降、これといって活躍する場がない。個人的には破軍を除いたゆらの手持ちの式神で、一番強いと思ってるんだけど…………デカすぎて、使い勝手が悪いのかな?


 

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