家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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ゲゲゲの鬼太郎の最新話『SNS中毒VS縄文人』の感想。
話の内容そのものは馬鹿馬鹿しく始まったけど、最後らへんはちょっとぞくっとする内容だった。
作者はSNSもツイッターもやりませんが、本小説のお気に入り数やアクセス数に囚われることがあるため、あまり他人事と笑い飛ばせないですね。

久しぶりの更新で済みません。ちょっと忙しいのと毎日が暑いのとが重なって中々執筆が捗りませんでした。内容そのものも、オリジナルな会話が多いため、わりと苦戦しつつ、何とか形にできました

読む前に注意事項。オリキャラが全力でヘイトを稼ぎにきます。苦手な方はご注意を!
ただ、オリキャラの事は嫌いになっても、ぬら孫のことは嫌いにならないでください!!




第五十七幕 黒幕たちの影

「……吉三郎?」

 

 京上空。もうすぐ夜明けを迎えようとしていた宝船の甲板上で、奴良リクオはその名を名乗った少年の言葉に少し困惑気味になっていた。

 その名は河童や雪女、天狗といったわかりやすい妖怪の名前ではなく、響きとしては、普通の人間らしい人名に近いものがある。姿形も人間の高校生といった感じ。普通に人混みを歩いていれば、何の違和感なく人間たちの中に溶け込めるだろう。

 

 だが——その黒く淀んだ瞳が雄弁に物語っている。

 その少年が——人間ではないという事実を。

 

「そっ、吉三郎……ちゃんと覚えてよね? 君を……地獄に連れていく存在の名前さ」

 

 親し気に話しかけてきたと思えば、物騒なことを平然と口にする吉三郎。

 口元には常に笑みが浮かべられているが、その目の奥はまったく笑っていなかった。

 

 その目は、この世の全てを見下すような、この世の全てを嘲るような、傲慢と悪意に満ち満ちている。

 

 ——こいつは……いったい、何だ?

 

 リクオはその瞳に見つめられ、不気味な寒気を覚える。

 純粋な妖気のデカさや畏の迫力なら、先ほど戦った白蔵主の方がずっと大きかった。

 だがその少年——吉三郎は、そういった妖気の大きさや質とは全く別のベクトル。言葉にしにくい部分でリクオに何とも表現しにくい不快感を与えていたのだ。

 

「吉三郎」

 

 その異質さに言葉を失っていたリクオ。すると二人の会話に割って入るように、先の戦いでリクオに敗れた白蔵主が吉三郎に向かって声を掛ける。

 

「これは我ら京妖怪と奴良組との戦である。鏖地蔵の知り合いというから同伴を許したが、本来部外者である貴様が口を出すべき場ではない」

 

 どうやら吉三郎とやらは京妖怪ではないらしい。白蔵主は出しゃばってきた彼にそのように苦言を呈す。だが——

 

「——黙れ、負け犬」

「なっ!?」

 

 リクオにフレンドリーに話しかけてきた態度とは真逆。吉三郎は隠しようもないほどの軽蔑と侮蔑を声音に込め、白蔵主の言い分を斬って捨てる。

 

「あれだけ大口叩いておきながらあっさりと負けやがって、京の門番が聞いてあきれるよ、ハンッ!」

「ぐ、ぐぬぬぬ……」

 

 リクオに負けたことが事実であるためか、白蔵主はその言葉に何も言い返すことができず押し黙る。それをいいことに、吉三郎はさらに畳み掛けるように言葉を紡いでいく。

 

「挙句、敵に情けを掛けられて生き延びるなんて……武士の風上にも置けないよねぇ~。そんな役立たずが生きてても、羽衣狐も困るだけだろうし……」

 

 白蔵主に向かってそっと手を翳しながら——彼は冷酷に吐き捨てる。

 

 

「面倒だから、ここでボクが処分しといてやるよ——『阿鼻叫喚地獄』」

 

 

 吉三郎がそう呟いた瞬間——不可視の力が白蔵主に襲いかかる。

 

「ぐっ!? ぐうぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「なっ! おい、どうした!? しっかりしろ!!」

 

 いったい何をしたのか、白蔵主がいきなり悲鳴を上げる。リクオに敗北したときですら、快活な笑い声を上げていた大男が頭を抱え、苦悶の表情で苦しんでいるのだ。

 その尋常ならざる様子にすぐ側にいたリクオが駆け寄り、白蔵主に呼びかける。

 

「あははっ! ほらほら、狂い死ねっ! あはははははははははははっ!!」

 

 吉三郎は、そんな白蔵主の苦しむさまを眺めながら、愉快そうに笑い声を上げている。

 楽しそうに、愉しそうに——味方である筈の京妖怪の苦悩を彼は心底喜んでいた。

 

「おいおい……」

「な、なんだ、こいつはっ!」

「頭おかしいんじゃねぇーか!?」 

 

 その尋常ならざる様子に奴良組はおろか、周囲の京妖怪たちからも少年の正気を疑うような発言が飛び出る。しかし、それらの声を素知らぬ顔で無視し、吉三郎は白蔵主の苦しむさまを愉悦顔で鑑賞し続ける。

 だが——。

 

「ぐぅううう、なめるなぁああああああああああああ!!」

 

 頭を抱え苦しんでいた白蔵主は歯を食いしばり、全身に畏を滾らせ気合を込めて叫んだ。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 どうやら、吉三郎から仕掛けられた『何か』を自力で打ち破ったようだ。息を切らせながらも白蔵主は自身の足で立ち上がり、毅然とした態度で吉三郎と向かい合う。

 

「へぇ~……流石は白蔵主。伊達に京の空の門番を羽衣狐に任されてはいないね……」

 

 自身の『力』を跳ねのけられた吉三郎。彼は笑うのを止め、僅かに視線を細めて白蔵主を称賛する。だが、すぐにその口から白蔵主への侮辱の言葉が流れるように紡がれていく。

 

「けどさ~、どれだけ強かろうが役目を果たせないならゴミ同然だよね~。そんなゴミが無様に生き残っても目障りなだけだし。いっそ潔く腹でも斬って死んでれば? 好きだろ? 君たち武士は腹を切るのがさ! ほらほら、切腹♪ 切腹♪」

「ぐっ……貴様!!」

 

 武士として、リクオに介錯すら頼んだ白蔵主の在り方そのものを侮辱する吉三郎の言葉。だが、どれだけ口汚く罵られようと、白蔵主はやはり何も言い返さない。

 負けたという事実がある以上、何を言い返したところでそれこそ『負け犬の遠吠え』にしかならないことを、白蔵主は弁えているからだ。

 するとそんな彼を見かね、思わぬところから助け船を出す者がいた。

 

「——待てよ」

「奴良……リクオ……」

 

 白蔵主を打倒したリクオが、彼に代わって吉三郎に物申す。

 

「こいつは大将として堂々と俺と戦って負けたんだ。戦う気も見せずに高みの見物を決め込んでいる外野に、とやかく言われる筋合いはねぇ筈だぜ」

 

 リクオは白蔵主を庇うように言い放ち、鋭い目つきで吉三郎を睨みつける。そして、高みから自分たちを見下ろす彼に向かって、祢々切丸の切っ先を突きつけた。

   

「文句があるなら、てめぇも俺と戦いな! 降りてこい……相手してやるからよぉ!」

 

 そう言って、吉三郎に誘いをかけるリクオ。

 

「ふ~ん…………なるほど、それが今の『奴良リクオ』か……」

 

 しかし、吉三郎は挑発に乗ることなく、何かを冷静に分析するようにリクオをそのどす黒い瞳で射抜く。そして、すぐににこやかな表情を作り、再びフレンドリーにリクオに声を掛ける。

 

「やぁ~、立派になったねぇ~リクオくん。しばらく見ないうちに、すっかり大将っぽくなって……ボクぁ~、感動しちゃったよ!」

「…………」

 

 言葉だけ聞くと褒められているように聞こえるが、この少年から賞賛されても、リクオの心は微塵も動かされない。寧ろ、馬鹿にされているようにすら感じてしまう響きが、彼の言葉には込められている。

 こういった輩とは話をするだけ無駄である。リクオにしては珍しく相手の言葉を無視し、吉三郎に斬りかかるために構えた。

 

 しかし——どれだけ相手の言葉を意識しないと決めたところで、次なる吉三郎の言葉にリクオは動きを止めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に立派になったよ——ぼくたちに殺された君のお父さんも、きっと草葉の陰で喜んでいることだろうねぇ~」

「——————————————」

 

 時間が止まった。

 少なくとも、その言葉で動揺しない奴良組の面々は一人もいなかった。

 奴良組でないものでも、その吉三郎の台詞の文面を吟味すれば、その言葉にどういう意味が込められていたか察しがつくだろう。

 そして——数秒の沈黙の後、彼の言葉を理解し、怒りを堪えきれずに飛び出す者が現れる。

 

「っつ!! てめぇらがっ——鯉伴を!!」

 

 奴良組の首無である。

 彼はリクオの父親である奴良鯉伴の部下でもあったが、首無にとって鯉伴はかけがえのない戦友でもある。

 普段は「鯉伴様」と敬称を付け、畏まった言葉遣いで話すように心がけていたが、愚痴を溢すときや我を忘れたときなど、荒っぽい口調で主のことを「鯉伴」と呼び捨てにすることもあった。

 首無にとって、鯉伴はそれほどに近しい相手であった。

 その主でもあり、友でもあった「鯉伴を殺した」と吉三郎は発言した。たとえ、それが偽りであったとしても、決して許せる言葉ではない。

 

「殺取、くさり蜘蛛!!」

 

 首無は上空で佇む吉三郎に向かって、紐に畏を込める鬼憑を繰り出す。

 愛用の紐『黒弦』を鎖のように硬くし、真正面から敵に向かって解き放つ。

 

「おっと!」

 

 だが、怒りに身を任せた首無の攻撃を予測していたのか。吉三郎はあっさりと紐の一撃を躱し、怪鳥と共にすぐさま首無の射程外へと退避してしまった。

 

「危ない、危ない! 名乗り合いもせずにいきなり仕掛けてくるなんて、随分と野蛮なヤクザ屋さんだなぁ……『常州(じょうしゅう)弦殺師(げんさつし)』さんは……」

 

 吉三郎は先ほどより宝船から少し距離を取りつつ、耳障りな言葉を変わらず吐き続ける。しかも、首無に対して昔の、江戸時代の頃の呼び名を使った。

 それだけ奴良組のことをよく知っているぞ、とでも言いたいのだろう。意味ありげな笑みを浮かべている。

 

「でも、もう少し冷静になったら? そんなおっかない顔してちゃ、せっかくの二枚目が台無しだよ?」

「貴様っ!!」

 

 さらに煽ることを止めない吉三郎に、鬼の形相の首無。

 だが、怒りに我を忘れようとしているのは彼だけではなかった。

 

「アンタ……いい加減にしなさいよ!!」

「それ以上は……拙僧たちも怒りを抑えられんぞ……」

「…………」

  

 毛倡妓や黒田坊、河童など。鯉伴と共に奴良組の全盛期を支えてきた彼らは、先ほどの鯉伴殺害の発言に既にキレかけている。各々がそれぞれの忠誠心を持って、鯉伴に仕えていた面子だ。もし首無が飛び出していなければ、その中の誰かが吉三郎に飛び掛かっていただろう。

 無論、彼らだけではない。奴良組の誰もが先ほどからの吉三郎の態度に爆発寸前。その怒りに身を任せたまま、全面戦争に突入かと——そのように思われたときだった。

 

「——待てよ……お前ら」

「り、リクオさま!?」

 

 他でもない奴良リクオが組員たちの先走った行動を止め、冷静に——否、冷静を装って吉三郎を見据える。リクオ自身も勿論怒りを抱いているだろうがそれを押し殺し、表面上は平静を保ちつつ彼は疑問を投げかける。

 

「……てめぇみたいな馬鹿に……親父を殺せるとは思えねぇ……」

 

 実力的な意味で鯉伴を殺せる妖など限られてくる。その数少ない実力者の中に、この吉三郎が混ざっているとは思えないと、リクオは彼への毒舌を含めながら冷静に指摘する。

 するとその指摘に対し、吉三郎は何でもないことのように返す。

 

「そりゃ、ボク一人じゃ無理だろうけどさ……」

「…………」

 

 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、吉三郎は多くの者たちの関与を疑わせる発言をする。

 どうやら、羽衣狐や吉三郎以外にも、鯉伴の『死』に多くの黒幕が関わっているようだ。

 

「ふっ、知りたいかい? リクオくん……」

 

 まだ見ぬ黒幕たちに考えを巡らせるリクオに向かって、吉三郎は不気味に問いかける。

 

「知りたいのなら、このまま京の地に足を踏み入れるといい。けど、真実とはいつも残酷なものだよ。京都で君を待ち受ける、その『真実たち』の重みに……果たして君は耐えることができるのかな?」

 

 リクオは試すような台詞。しかしそんな吉三郎の挑発的な発言にも怯まず、リクオは答えて見せる。

 

「——ハッ! 上等じゃねぇか!」

 

 彼は改めて京まで来た目的を口にする。その場にいる全員に宣言するように。

 

 

「あの日、何があったのか。てめぇらが何を企んでいるのか。たとえどんな真実だろうと、四百年分の因縁ごと、全部纏めて断ち切ってやるぜ! オレは……そのためにここまで来たんだからな!!」

 

 

「リクオ様!」

「ひゅう~……言うねぇ、リクオ!!」

 

 彼の堂々たる宣言に首無たちが感極まったように体を震わせ、遠野妖怪たちもリクオの大将としての貫禄に改めて感心する。

 

 それでこそ奴良組の大将、自分たちの慕う魑魅魍魎の主だと。

 

 

 

×

 

 

 

「ふぅ~ん…………四百年分の因縁、ねぇ……」

 

 リクオの宣言を聞くや、吉三郎の表情に変化があった。先ほどまでの微笑を引っ込め、どこか面白くなさそうに冷めた目つきでリクオを上空から見下す。

 しかし――次の瞬間、何かの悪戯を思いついた子供のように、ニヤニヤと口元を歪め、彼は嬉々として語る。

 

「そう言えば話は変わるんだけど…………君の友達——清十字団って言ったけ? 今、京都に来てるんだってね」

「———!!」

 

 その言葉に、リクオは先ほどとは別の意味で感情を揺さぶられる。リクオの動揺に満足そうに頷き、さらに吉三郎は続ける。

 

「いや~……心配だよね~。今の京都はほとんど無法地帯に近いから、何も知らずにぶらついてたりしたら、羽衣狐に取られちゃうよ。生き肝をね……」

「てめぇ——!!」

 

 ただ清十字団の心配を口にしているというわけではない。明らかに悪意を持って囁かれたその言葉に、先ほどは抑えることができていた怒りにリクオは突き動かされる。

 

「リクオ……?」

「どうしたよ?」

 

 その反応に遠野勢たちは怪訝そうな顔つきになる。無理もない。人間としてのリクオの生活に関しては、彼らもまだ知らないことが多すぎる。

 

 清十字団。それはリクオにとって、人間として護るべき自身の居場所だ。

 その居場所を『いつでもぶち壊すことができる』と、暗に吉三郎は告げているのだ。

 

 初対面で吉三郎がリクオに放った『ファン』という言葉は、あながち嘘ではないようだ。そういった部分までリクオの事情を把握している彼という存在に、リクオは焦燥を覚えた。

 

 すると、そんなリクオを落ち着かせるように吉三郎はいけしゃあしゃあと言ってのける。

 

「安心しなよ! 君の友達なら、花開院家の皆さんに保護されてる! ゆらちゃん……だっけ? あの陰陽師の子に感謝するんだね!」

「…………」

 

 成程、その話が真実であれば、当面の間は大丈夫だろう。が——そんな言葉を馬鹿正直に信じるわけもない。

 

「あれ? ひょっとして疑ってる? 酷いなぁ~……ボクは基本、嘘つかないよ?」

 

 リクオが当たり前のように吉三郎の言い分を疑っていると、彼は肩を竦める。

 

「ボクは嘘を吐く妖怪じゃない。……そんなものは『口』の役目だ。ボクはただの『耳』だからね……」

「……耳?」

 

 誰かに聞かせるわけでもない独り言にそのようなことを呟きながら、吉三郎は微笑みを消してどこか遠い目になる。しかし、次の瞬間にも——その口元をいやらしく吊り上げる。

 

「けど、一人だけ、他の皆とは別行動をとっている子がいるみたいだねぇ……………家長、カナさんだったかな?」 

「なんだと!?」

 

 これには流石のリクオも身を乗り出す。真偽はどうあれ、彼にとって決して聞き逃せるような内容ではなかった。

 

「そっ、君の幼馴染。可愛いよね~。ボク……ああいう子、わりと好みなんだよねぇ~」

 

 リクオの幼馴染であるカナのことを評しながら、吉三郎はさらに何気ない口調で言ってのける。

 

 

「ほんと、可愛いよ…………ああいった表情で泣き叫んでくれる子って——」

 

 

「てめぇ——カナちゃんに何をしやがった!!」

 

 まるで、『既にそのような表情を見たことがある』とでも言いたげな吉三郎の言葉に、リクオの表情が激情に染まる。その顔には、彼が滅多に見せることのない、憤怒と嫌悪の感情が同時に浮かべられている。

 そんなリクオの表情を見届けても、やはり吉三郎は微塵も揺らぐことがなく。彼は変わらずリクオにとっての『毒』を吐き続ける。

 

「嫌だなぁ~、そこまで大したことはしてないよ~……ただ、ちょっと遊んでもらっただけさ……」

「——!!」

 

 吉三郎の発した『遊び』という単語に、リクオはぞくりと背筋が凍る。

 このような相手が言う『遊び』とやらが、まともなものである筈もない。そのような、まともではないことに大切な幼馴染が巻き込まれたかもしれないという事実。リクオに取って、絶対に看過できることではない。

 

 カナはただの堅気の人間なのだ。自分たち妖怪の事情に巻き込んでいいわけがない。

 

 もはや言葉は不要。自分の周囲の人々にとって『害悪』にしかならないであろう、吉三郎という存在にリクオは殺気を解き放つ。

 

「う~ん? あー、ひょっとしてだけど……君はまだ彼女のことを只の人間だとでも思っているのかい?」

 

 ふいに、吉三郎がそのようなことを呟いていた。

 

「…………」

 

 もっとも、既に吉三郎の言葉をまともに取り合わないと決めたリクオは、彼の言葉を無視して斬りかかる態勢に入っていた。たとえ、どのような衝撃的な発言が飛び出そうと、全て自分を惑わす戯言だと無視する。

 

「鈍いねぇ……君も。そろそろ気づいてもいいと思うけど? だって、彼女は——」

 

 それでも、吉三郎は続けて言葉を吐こうとしていた。その言葉がどれだけ奴良リクオという人間に衝撃を与えるかを完全に理解した上で、『その事実』を告げようとした。

 

 

 だが——彼の言葉は突如として鳴り響く爆音に掻き消される。

 

 

「な、な……なんだぁ!?」

「た、大砲だぁ! 宝船の底が攻撃を受けてるぞ!?」

 

 奴良組の妖怪たちが叫ぶ。宝船の下の方から、京妖怪『背筒(せづつ)』が背中に背負った大砲を打ち出し、奴良組に先制攻撃を仕掛けてきたのだ。

 その攻撃を合図に、京妖怪たちが一斉に奴良組に襲いかかる。

 

「——いつまでくっちゃべっているつもりだ」

 

 苛立ちを口にしたのは京妖怪『火間虫入道(へまむしにゅうどう)』。

 彼が部下である京妖怪たちに号令を掛けていたのだ。人型の輪郭をした全身が紐の妖怪。その気になれば首を数百メートルと伸ばすことのできるその体を変化させ、火間虫入道は叫ぶ。

 

「相手が殺る気になっているのだ、これ以上、貴様の下らん雑談に付き合っていられるか!!」

 

 どうやら、リクオの殺気に当てられたのが開戦のきっかけとなったらしい。彼なりに空気を読んでリクオと吉三郎の会話こそ邪魔をしなかったが、流石に痺れを切らしたようだ。

 

「狙え! 底だ!!」

「舟ごと墜としてしまえば、楽に殺せるぞ!!」

 

 戦いを命じられた京妖怪たちは甲板上にいる奴良組の強者たちとは無理に戦おうとはせず、彼らの足場である宝船を集中的に攻撃する。白蔵主が「やめんか、正々堂々と戦わんか!」と部下たちの戦い方に口を出すが、既に京妖怪たちは彼の言葉など耳に入っていない。

 

 敵に敗れた大将の言葉になど何の価値もないと、彼らは白蔵主の言葉を無視する。

 そして、今の奴良組にとっての生命線である宝船。それを墜落させようと容赦なく船底に狙いを定めていく。

 

 

 

 

 

「——くっ!」

 

 その京妖怪たちの攻撃に、リクオは苦い表情をする。

 宝船が墜落すれば空を飛べない自分たちは全滅だ。何とかしなければと、リクオは急遽京妖怪たちへの対応を迫られる。

 しかし、そんな戦いの最中においても、リクオは吉三郎への敵意を鈍らせず、視線を彼に向けていた。

 

「…………邪魔が入ったか」

 

 リクオの視界の先で、吉三郎は心底不快そうに表情を歪めている。自分の話を途中で邪魔され、ご機嫌ナナメといった様子。だが、すぐにその顔に薄っぺらい笑顔を貼りつけ、彼は京妖怪たちの勝手を許した。

 

「まっ……いっか。お楽しみは後の方にとっておくとしよう♪ ……行こっか?」

 

 そのようなことを呟きながら、自身の乗り物たる怪鳥にこの場を離れるように告げる。

 

「待ちやがれ、吉三郎!!」

 

 戦おうともせず戦場から遠退いていく吉三郎にリクオは叫ぶ。この混戦の中、リクオは何とか彼に刃を届かせようと四苦八苦する。

 リクオの直感が、今この場で吉三郎を逃がすべきではないと告げていたのだ。だがリクオは勿論、他の組員たちも襲いかかってくる京妖怪たちの対処で手一杯。とても、吉三郎を追えるような状況ではない。

 

 リクオの叫びが吉三郎の耳に届いていたのか。彼は退去の間際、一度だけリクオの方を振り返り、言葉を残して去っていった。

 

「それじゃあ……またお話ししよう、リクオくん。君たちが……無事に生き残れることを期待しているよ?」

 

 

 

×

 

 

 

「——どうしてこんなことになったんだ!!」

 

 ここは花開院本家の会議場。

 妖怪から人々を守る裏の警察とも言うべき花開院家の代表、二十七代目秀元たちに向かって、表の警察たる京都府警の代表が声を荒げていた。

 彼の後ろには京都府知事や京都市長など、京都の表側の市制を守る錚々たる面子が揃い踏みしていた。

 

 彼ら知事や市長は就任する際、妖怪の存在、そしてそれを取り締まる花開院家の役目を教わるのが通例となっている。花開院家は時と場合により、一般人の避難誘導や立入禁止区域の封鎖など、彼ら表の存在に協力を仰ぐことがあるからだ。

 よほどのことがない限り、そのような事態に陥ることがないため、あくまで形式的な関係に過ぎず、歴代の知事たちの中には、妖怪の存在など教えられたところで眉唾だとあまり信じないものもいた。

 

 しかし、羽衣狐の進行を受け、花開院家は知事たちに協力を——いや、協力を取り次いだところで、どうにもならないような事態に直面している。

 

 第二の封印が解けたことにより、妖怪たちが洛中を堂々と歩き回れるようになっていた。既に何人もの一般人が襲われ、被害にあっている。警察の方にも「妖怪に襲われた!」という報告が何件も上がってきているのだ。

 警察ではそれらを見間違いとして処理し、なんとか混乱を押さえているが、それも長くは持たないだろう。

 

 今の京都の状況をどこから、どこまで、どのように説明するか。あるいはどうやってこの混乱を防ぐか。

 表側の権力者たちはそのことを花開院家に相談——いや、彼らを責めにこの本家に集まっていた。

 

「花開院家の信用も、地に墜ちたものだな!」

 

 本来であれば、早急に対処しなければならなかった羽衣狐の復活、京都を支配しようとする妖怪たちの企み。それらを事前に防ぐことのできなかった花開院家の代表たちを一方的になじる。

 実際に何もできないでいたのは自分たちも同じ、その事実を無視するように。

 

 

 

 

「おい、あれ……いいのか?」

「ああ……問題ない。ただ、警戒は解くなよ」

 

 大人たちが目の前で責任の押し付け合いをしているその会議場にて。彼らとは少し離れたところでその会議の場に出席していた若い陰陽師たちの何人かが、視線を知事たちとは別のところに向けていた。

 

 若者たちが視線を向けた先には二人の人物が柱を背に立っており、彼らは花開院家と知事たち会話の方に目を向けている。ふいに、その内の一人、制服姿の少年がポツリと呟く。

 

「ハッ! マジで弱体化してんだな、花開院。あんな連中に好き勝手言われるままとは……」

 

 知事たちに責められ言葉を返せないでいる花開院、責任を押し付けようとする知事たち。その両者を同時に馬鹿にするように少年は失笑する。彼の態度に、若い陰陽師たちがギロリと睨みを効かせるが、その視線を意にも介さず、少年はさらに続けて呟く。

 

「まっ、俺みたいな外部の陰陽師の力を借りるくらい切羽詰まってんだ。当然と言えば当然か……」

 

 その呟きの通り、少年は花開院家の人間ではない、外部の陰陽師だ。

 名を土御門春明という。竜二曰く妖怪との血が混じった灰色の陰陽師である。本家の娘であるゆらが修行に出向いた浮世絵町で出会った、外様の陰陽師。

 どこの流派ともはっきりしない輩を、本来であればこの花開院本家に上げるべきではないのだろうが、切迫した状況がそれを許しはしなかった。

  

『——今は少しでも戦力が欲しい。……堪えよ、竜二』

 

 春明に警戒心を抱き、彼と一戦交えた孫の竜二に対し、二十七代目秀元が放った言葉。

 そう、それこそ部外者の春明が、花開院家に上がり込んでいても咎められない理由である。

 

 現在、花開院家はかつてない存亡の危機に立たされていた。

 四百年ぶりに復活した羽衣狐、それにより開始された京妖怪の侵攻。その侵攻により、封印を守護する陰陽師を始め、多くの花開院の人間が殺された。

 幸運にも生き残った秋房や破戸、雅次といった面々も瀕死の重傷を負い、とても戦線に復帰できるような状態ではない。

 手練れの陰陽師で動かせる者など、それこそ両手の指で数えるほどしかいない。加えて、花開院家にはこの先も京の地を守護し続けるという使命がある。これ以上、悪戯に大切な血族を減らすわけにはいかない。

 

 だからこそ、二十七代目秀元は現当主として、春明たちからの『共闘』の申し出を受けたのだ。

 

 勿論、ただ普通に共闘を申し出ていただけなら、二十七代目も受けてはいなかっただろう。だが、春明たちは京妖怪たちの魔の手から、捕まっていた雅次と破戸の二人を救出して送り届けた。

 それも、花開院家が僅かでも心を許すきっかけになった。

 また、前線に出ることになる孫たち——竜二やゆらの安全を確保する為、そのためならばこの際手段を選んではいられない。歳を重ね、酸いも甘いも経験してきた、二十七代目秀元らしい考えである。

 

「しかし——いくらなんでも妖怪の助けを借りることになるとは……」

 

 そんな二十七代目秀元の決定に、若い陰陽師たちは不満を隠し切れないでいた。露骨に嫌そうな顔で、春明の隣に佇むもう一人の人物――狐面で顔を隠した巫女装束の少女に目を向ける。

 

「…………」

 

 彼女こそ、この共闘において花開院家が最も警戒している相手。春明とは違い、純粋な妖気を放つ——『妖怪の少女』。

 少なくとも花開院家の人間は皆、そのように少女のことを認識していた。

 

 

 

 

 ——やっぱり、相当警戒されてるな。まっ、今の私は妖怪だから……無理もないけど。

 

 狐面で顔を隠した少女——家長カナは花開院家の人間の視線を意識しつつも、素知らぬ顔で目の前の会議に集中する。もっとも、その顔色はお面の付喪神——面霊気によって覆い隠されているため、元より誰にも窺い知ることはできない。

 この面霊気はカナの正体を隠すと同時に、妖怪として妖気を放っている。皆がカナのことを妖怪として警戒しているが、カナ自身は紛れもない人間。もしもその事実を知れば、花開院もここまで露骨な敵意を露にすることもなかっただろう。

 

 だが、カナ自身は彼らの敵意をあまり気にしてはいなかった。居心地は悪いが、それだけだ。カナがこの花開院本家に留まる目的——友達である『ゆらを助ける』という目的に比べれば、この程度どうということもない。

 

「…………」

 

 ——あっ、今一瞬、ゆらちゃんがこっち向いてた。

 

 それどころか、こちらの方を一瞬振り向いたゆらの視線に気づくくらいの余裕がカナにはあった。

 ゆらは今、会議の当事者として最前線で秀元たちの話に加わっている。そのため、カナはゆらと直接話をする機会を中々設けられなかった。

 だが、それでもゆらは正体を隠している自分の存在を意識しているようだ。何度かチラリと視線をこちらに向けてくるため、そのたびにカナは手を振って彼女の視線に応える。

 

「~~!」

 

 ゆらはカナが手を振ったことに気づくと、恥ずかしいような気まずいような、何とも微妙な表情で素早く視線を前に戻してしまう。いったい、どういった感情によるものかはカナの他心でも読み取れなかったが、少なくとも敵意は感じない。

 カナは、ゆらには自分の存在が受け入れてもらえていると自信を持ち、再び会議の方に集中する。

 

「——ほらほら! みんな、集まって! 聞いてくれるか?」

 

 すると、会議の方に大きな動きがあった。それまで、お偉いさん同士だけ話していた秀元の一人、十三代目秀元がその場にいる全員に向かって高らかに声を上げたのだ。

 彼は四百年前に実際に羽衣狐を封じた歴代当主であり、ゆらの力によって現世に舞い降りた式神の一種であると、油断ない瞳で秀元を分析した春明が教えてくれた。

 秀元も秀元で、何やら春明のことを訝しむような視線で見ていたが、とりあえず今は羽衣狐の対策に戻り、彼は今後の方針、作戦を口にする、のだが——。

 

「あっ、まず最初に言っとくと——最後の封印、弐条城は落ちます!」

「———————」

 

 ——ええぇ………………………。

 

 あっけらかんと放たれた言葉に、その場に集ったみんなの顔がキョトンとなる。カナもそのお面の下で目を点にしている。

 あまりにも、あまりにもあっさりと十三代目秀元は自分たちが羽衣狐たちには勝てないことを認める。

 

「あの女狐ホンマ強いでぇ~! その野望に集まる部下も、ド主役級ばっかりや♡」

「だいだい……千年も生きる大妖怪どもに人間が勝てる道理があるわけないやん、ハッハッ!!」

 

 何がおかしいのか、弐条城などくれてやればいいと笑い飛ばす十三代目秀元。

 

「なっ! なにぃいいい!! おい、ふざけんな、どうなってんだよアンタの御先祖様は!!」

「むっ、むむう………」

 

 この無責任ともとれる発言に、京都知事が二十七代目秀元にくってかかる。本当なら十三代目の襟首を掴み取りたいところだが、霊体である十三代目には彼の主人であるゆら以外、触れることができないため、仕方なく現代の当主に詰め寄る。

 二十七代目も先祖の発言があまりにも意外過ぎたためか、流石に言葉を詰まらせる。

 

「——だが、奴らはそこで守勢にまわる」

 

 しかし、そこで笑ったまま終わらないのが天才陰陽師たる十三代目の侮れないところだ。

 彼は急に口調を真面目なものに変え、これから語る自身の『作戦』の肝となる部分を説明する。

 

 

 羽衣狐は弐条城に入城して——『何か』を出産しようとしている。

 あの邪悪な羽衣狐から、さらに何かが産まれるという事実に驚愕する一同だが、その部分を曖昧に暈しながら秀元は続ける。

 

「羽衣狐から生まれるモノ……それが京妖怪の宿願なんや」

 

 その宿願を成就させるため、京妖怪は羽衣狐に従い、彼女の下に集っている。しかし逆を言えば——その宿願さえ誕生させなければ、京妖怪は目的を見失い、再びバラバラに散っていく。

 百鬼夜行は、その主さえ倒せばそこに集まる意味を失う。羽衣狐こそ最大の敵であり、最大の弱点でもあると。

 だからこそ、そこで攻勢に出るのだ。羽衣狐が出産の準備で動けないでいるそのときを狙って。

 

 

「おおっ!!」

「そ、そこを上手く付けば、あるいわ!」

 

 十三代目の理にかなった説明に、その場の全員の瞳に希望が宿る。明確な勝ち筋を提示され、自分たちの行く先に光を見た。そんな彼らに対し、秀元は必要となる条件を二つ提示する。

 

「一つは『破軍』……つまりはゆらちゃんや。みんな、この子を大事にしや♡」

「わ、わたしっ!?」

 

 名指しで指さされ、ゆらがキョトンと目を丸くする。そんな彼女の周囲を陰陽師たちがワイワイと囲む。

 

「ゆらが……我々の希望!?」

「帰って来てから安物の卵でTKGばかり食っとるこの娘が……!?」

「明日から烏骨鶏にしたらどうだ……?」

 

 さしずめ、救いの女神を奉るかのような態度だが、彼らの瞳には今一つ敬意というものが欠けている。ゆらの才能の高さは前々から噂されていた事だが、真にゆらを女神と敬うには色々と足りないものが彼女に多すぎた。

 

 威厳やら、気品やら、冷静さやら、色気やら、身長やら、などなど——。

 

 無論、そういった足りないものを差し引いたとしても、ゆらが希望であることに変わりはなく、その場にいる全員の表情が先ほどより明るいものになっていく。

 

「……ふふふ」

 

 皆に慕われているゆらの姿に、カナは思わずお面越しに笑みを溢す。これほど多くの人々から期待され、彼らの表情から笑顔を取り戻すことのできる、ゆらという少女の存在。

 カナは彼女の友人として、そんなゆらの在り様にとても誇らしい気持ちになっていた。

 

 ——やっぱり凄いんだな、ゆらちゃんって!

 

 正体を隠しているため、その輪に加わることができないことを少し残念に思いながら、カナはゆらを中心にワイワイと賑わう陰陽師たちの光景を眩しそうに眺める。

 しかし、カナが微笑ましい気持ちになっている横合いから、聞き捨てならない台詞が聞こえてきた。

 

「——妖怪を斬る刀……祢々切丸なら、ぬらりひょんの孫が持っている」

 

 ——!! り、リクオくん!?

 

 思わず首を回すカナ。彼女が振り向いた先には柱に寄りかかった竜二がおり、彼は十三代目秀元に向かって祢々切丸——羽衣狐を倒すために必要なものの二つ目『妖怪を斬る刀』の在処を教えていた。

 

 そう、式神破軍と祢々切丸。この二つこそ、十三代目秀元の示した、羽衣狐を討伐するのに必要なもの。

 彼曰く、この二つが揃わない限り、復活した羽衣狐を再度封印することは叶わないとのことだ。そして、その片方を、竜二はぬらりひょんの孫である奴良リクオが持っていると言うのだ。

 

 ——あの刀……そっか、凄い刀だとは思ってたけど……。

 

 カナはリクオが常に戦いの場で振るっていた愛刀について思い出す。カナ自身は刀剣類に関してそれほど深い造詣はないが、あの刀に秘められている力のほどは、なんとなく気にはなっていた。

 

 ——……? あれ、でも何でそんな陰陽師の刀をリクオくんが持ってるんだろう? 

 

 しかし、そこで当然疑問に思う。何故、妖怪の組織である奴良組にその刀、祢々切丸があり、リクオがそれを所持することになったのか。その経緯を知らないカナは内心首を傾げる。

 勿論、誰かがその疑問に対して、懇切丁寧に教えてくれる筈もなく。

 

「奴良組には俺が行こう」

 

 カナの存在を置き去りに、花開院家は話をトントン拍子に進めていく。どうやら竜二が花開院を代表して奴良組に話を付けにいくつもりのようで、彼はさっそく出かけようと会議場を後に部屋の外へ向かおうとする

 

「あっ、待っ——」

 

 カナは咄嗟に竜二を呼び止めようとした。彼は今から関東にある奴良組へ行こうとしているようだが、その必要はないと、カナは教えてあげたかったのだ。

 何故なら——

 

 

「——その必要はありません!!」

 

 

 カナがその理由を説明しようとする前に、堂々と扉が開かれる。

 部屋に入って来たその人物は自信満々の表情で、カナが言おうとしたことと、全く同じ内容を口にし、竜二の歩みを止める。

 

「リクオ様は——必ずいらっしゃいます!!」

「てめぇは……」

 

 その人物を前に竜二の顔が険しいものになる。どうやら既に顔見知りだったようで、彼はその少女——雪女の及川つららを前に内側に敵意を宿らせる。

 つららは、竜二の鋭い眼光に睨まれようと全く怯む様子を見せない。

 他の陰陽師たちが「誰だ、あの娘?」と奇異な視線を向ける中、彼女は何度でも叫ぶように繰り返す。

 

 

「リクオ様は、絶対にこの京都へ駆けつけてくれますから!!」

 

 

 そう、それこそ花開院竜二がわざわざ奴良組まで出向く必要のない理由。

 リクオは必ずこの京都へ、友であるゆらの危機に駆けつけてくれると。

 

 つららも、そしてカナも。その事実を信じているからこそ。

 彼女たちはこの地で彼の到来を待ち続けているのだった——。

 

 




補足説明――今回からのキャラの立ち位置の変化。
 花開院本家でついに合流するトリプルヒロイン。
 カナとつららとゆら。三人がリクオと合流を果たした時、物語が大きく動きます。
 お楽しみに!


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