やっぱり漫画は全巻揃えると気持ちがいいな~……と安堵したのも束の間。あらためてぬらりひょんの孫のコミックスの表紙を見て気づいてしまった――
どの巻の表紙にも――家長カナの姿がない事実に。
巻さんや鳥居さんはいるのに、カナちゃんの姿がない。
こんなところにも、ヒロイン格差の重みが…………
気を取り直し、彼女をヒロインにすべく筆を取りました。
「ふぅ。今日は色々あって疲れたなぁ……」
奴良リクオは縁側の庭の夜桜を眺めながら、今日一日の出来事を振り返っていた。
いつもの日常。清継の妖怪談義から始まった、転校生――花開院ゆらとの会合。
そのまま、何故だが皆がリクオの家に来ることになり、清十字怪奇探偵団とやらの結成に立ち会うことになった。
さらに、リクオの屋敷で行われた妖怪探索。皆には前もって隠れるように言っておいたため、何とか見つからずに済んだが、ゆらは帰り際「ええ、またお邪魔させてもらいます……」と意味深な言葉を残していった。
そんなゆらの言葉に冷や汗を流すリクオであったが――幼馴染である家長カナのあの様子には、それ以上に肝を冷やした。
「カナちゃん……ネズミ苦手だったんだ」
いつも笑顔で微笑んでくれる幼馴染の意外な一面に、リクオは驚いた。
まさか、ネズミ一匹にああまで動揺をするとは思ってもいなかったのだ。
もし、これで妖怪なんて――ネズミよりも恐ろしく、おっかないものと出くわしたりしたら――
そう思うだけでも、リクオの胸中が不安で一杯になる。
――やっぱ知られちゃダメだよな……僕も、妖怪だなんて……。
人間に、友達に、幼馴染に、嫌われたくないリクオは、改めてそのように誓いを立てていた。
「――若……リクオ様」
「ん? ……えっ、またネズミ!?」
しかし、そのように決意するリクオの元にまたもネズミの妖怪が姿を現した。
着物をきた、妙に畏まった言葉でリクオに礼を示すそのネズミは、自らを『窮鼠組』の使いの者と名乗った。
この時点で、リクオは窮鼠組がぬらりひょんによって破門されていた、はぐれ集団であることを知らなかった。
組の運営に関わっていない以上、それは当然のことであったのだが、そのせいで――彼は続くネズミの言葉を疑いもせずに信じ込んでしまっていた。
「――えっ、誘拐……誘拐って!?」
家長カナと、花開院ゆら。二人の少女が何者かに誘拐されてしまっという話を。
実際、二人が誘拐されたのは事実――しかし、その誘拐犯こそが、窮鼠組であることを隠しながら、ネズミは言葉巧みにリクオを誘い込む。
「駄目ですリクオ様! 花開院様は陰陽師。みなが進んで助ける筈がござりやせん」
本家の皆に力を貸して貰おうとするリクオを制止し、ネズミは小奇麗に言葉を並び立てる。
「大丈夫。万が一のときは私の組の者がおりやす。ですからどうぞ……おひとりで……」
疑うという言葉を知らないのか。リクオはそのネズミの言葉を信じ、彼の案内に従い、二人が攫われていったという場所まで急ぎ駆け出していく。
そして、辿り着いた先。それは豪勢な洋館だった。
奴良組本家とは似ても似つかない、大仰な門と大きな屋敷の前でリクオは気を引き締める。
――カナちゃん、花開院さん。待っててね。絶対、助けてあげるから……!?
だが、そんな彼を嘲笑うかのように――待ち構えていた窮鼠組の下っ端妖怪たちがリクオに襲いかかった。
「初めてお目にかかります。私、窮鼠組で頭をはらして貰っている、窮鼠と申します。お見知りおきを……」
「っ――騙したな!」
ネズミ妖怪たちに手荒い歓迎を受け、リクオは引きずり込まれるように屋敷の中に連れてこられた。
肩を押さえ、息を吐くリクオに、窮鼠と名乗ったホストの男が慇懃無礼な言葉遣いで話しかける。
「手荒なことは止めるように言ったんですがね。何しろ……どんなに使えない臆病者でも、れっきとした奴良組の三代目ですから」
「「へへへ……」」
窮鼠の言葉に、周囲の彼の部下たちも馬鹿にするような視線をリクオへと向ける。
口調こそ丁寧だが、彼の言葉には隠し切れない侮蔑の感情が込められていた。
「っ……二人を返せ!」
周囲を敵だけで固められた、味方は一人もいない状況でリクオは決して怯まなかった。
だが、そんなリクオの態度に何も感じていないのか、窮鼠は一方的に自分たちの話を続けていく。
「奴良組の代紋には、もう俺たちを満足させてくれるだけの力はないんですよ。代紋がどうの。仁義がどうのなんて時代は、もうとっくに終わってるんですよ……わかりますか?」
そう言いながら、窮鼠は手で何やら部下に合図を出す。
次の瞬間――窮鼠の背後、大きなカーテンによって遮られていた空間がバッと開き、その光景がリクオの視界に飛び込んできた。
「カナちゃん!? 花開院さん!?」
大きな檻の中で横たわる少女たち。
眠らされているのか、ピクリとも動かない二人に、慌てて駆け寄ろうとするリクオ。
しかし、リクオの行為は窮鼠の部下の手によって遮られる。
「かはっ!?」
腹を殴られうずくまるリクオに、窮鼠は冷徹に告げる。
「これも組のためですよ。貴方の率いる古い妖怪では、これからは生き残れない。三代目を継がないと宣言してもらいます……いいですね?」
今のリクオには、その言葉を呑むしか他に方法はない。
彼女たちを助けるには――もうこれしかないのだと、絶望に身を震わせていた。
×
「――リ、リクオ様! 何ですかこれは!?」
奴良組に戻って早々、リクオはお目付け役のカラス天狗に、大急ぎで書いたものを渡した。
そこに書かれたことの意味を理解し、半泣きになりながらリクオを問い詰めるカラス天狗。
「書いてあるとおりだよ、カラス天狗。これをすぐに全国の親分衆に廻して欲しいんだ。じゃないと、カナちゃんたちが殺される……」
「な、なりません いくらなんでもそれはできません!! 正式な『回状』は破門状と同じで絶対なんですぞ!!」
リクオが廻してくれと寄越してきた『回状』は宣言書であった。
奴良リクオが、奴良組三代目を終生継がぬことを宣言する宣言書。
これを廻したら最後――リクオはもう二度と奴良組三代目の地位を継ぐことが出来なくなってしまう。
「わかってるよ!! でも二人を救うためにはやるしかないんだ!!」
「み、みそこないましたぞ、若――!!」
「話は聞いたぞ、リクオ。こっちに来なさい!」
そこへ総大将ぬらりひょんも加わり、いよいよ本格的な口論になっていく。
あくまで、カナたちを助けることを最優先にするリクオと、リクオに三代目を継がせたい妖怪たち。
どこまでもいっても平行線にしかならない言い争い――
そんな彼らの様子を――屋敷の外から窺っている者がいた。
「……ふん」
陰陽師――土御門春明である。
リクオの家に行ったきり、帰って来ないカナを心配して捜しに来た彼は、どうやらそこで、彼女がリクオの取り巻くなんらかの事情にまきこまれたことを悟る。
――ちっ、使えねえ野郎だ!
心の中で毒づく春明。
リクオのことを嫌ってはいた彼だが、リクオの持っているであろう『力』には多少期待もしていた。
たった四分の一とはいえ、妖怪の総大将である『ぬらりひょん』の血を継いでいるのだ。
ゆえに、己の非力さにうなだれるしかできないリクオの今の姿に、失望を隠せない。
「……しかたねぇ」
誰にも聞こえないように一人呟く春明。
カナを誘拐したという『窮鼠組』については、はぐれ妖怪の連中から聞いたことがあった。
春明は常日頃から、散歩と称し浮世絵町の町をよく見回っているが、その際に悪行をしでかす妖怪たちを締め上げ、様々な情報を聞き出している。
どこの組にも所属しないはぐれ妖怪にとって、誰がどこを支配しているかなどの情報は命綱である。
組織の妖怪に目をつけられれば、始末されるかもしれないからだ。
ゆえに彼らは常に新鮮な情報を仕入れ、己が身を守っている。
――たしか……一番街だったな。
屋敷からは未だに言い争う声が聞こえきたが、すでに春明の意識はその会話の中にはなかった。
最悪、奴良組の連中に自分の存在を感づかれる可能性もあったが、仕方ない。
不甲斐ない三代目に変わり、カナを助けに行こうと重い腰を上げ、その場を立ち去ろうとする春明。
刹那――ものすごい妖気を感じ、思わず振り返る。
「……なんだ?」
屋敷の庭先。
さっきまで、奴良リクオのいた場所に見知らぬ男が立っていた。
後ろに伸びきった長い髪、鋭い眼光、その姿からはすさまじいほどの『畏』を感じた。
「貴方様は!?」
奴良組の妖怪と思しき、猫耳の男が驚き叫ぶ。
春明もその男と同じく、驚きを隠せないでいた。
――こいつまさか、奴良リクオか!?
4年前に一度、奴良リクオが妖怪として覚醒したという話は春明の耳にも届いていたが、実際に見るのは初めてだ。本当に同一人物か、疑ってしまうほどの変貌ぶりに、その姿から目を離すことができない。
「夜明けまでの……ネズミ狩りだ」
リクオは庭に集まっていた自身のしもべたちに静かに告げる。
その姿に、さっきまでのひ弱な面影は微塵も感じられなかった。
×
何故こんなことになってしまったのか?
花開院ゆらはそう自問しながら、己の無力さにこうべを垂れる。
窮鼠たちに拉致されたゆらとカナは、大きなのケージの中に入れられていた。
自分にもカナにも、特に目立った外傷がなかったことに安堵したのもつかの間、ケージの外から多くの妖怪たちがふたりを眺めている。
獣特有の捕食者の目で。
このままでは、遅かれ早かれやつらの餌食となってしまう。
なんとかしてこの場を逃れたかったが、陰陽師の武器とも呼ぶべき式神を窮鼠に奪われてしまったため、今のゆらには彼らを倒すことも、自分たちの身を守ることもできない。
無力感に打ちのめされるゆらに、窮鼠が薄笑いを浮かべながらゲージの中に入ってきた。
「近づかんといて……」
ゆらはカナを背に庇いながら精一杯の虚勢を張る。
しかし、窮鼠にそんな見栄は通じなかった。
「知っていますか……? 人間の血は夜明け前が一番どろっ~として、おいしいんですよ」
身の毛もよだつ知識を披露しながら、ゆらたちに近づいてくる。
――式神さえあれば、こんな奴ら!
そんな彼女の心情を知ってか知らずか、窮鼠は先ほどゆらから奪った式神の入った札を見せ付けるように取り出し――
「こんな紙切れが欲しいのかな? はむ……」
そのまま、もしゃもしゃと喰ってしまった。
――……終わった。
これでゆらに対抗する手段はなくなった。
陰陽師として何もできずに終わってしまう。
奴等のいいように弄ばれ――殺される。
そんな絶望の未来に、固く目を閉じる。
――あかん、誰か……誰かたすけ……
しかし、そのときだった。
自分の服の袖を、ギュッと握り締める少女の体温を感じたのは。
その感触に思わず振り返るゆらは、体を震わしながらも、恐怖に耐えるようにじっと目を固く閉じる家長カナの弱々しい姿を目撃する。
閉じた彼女の瞼からは、涙が零れ落ちている。
その涙をまじかで見た瞬間――腹の底からどうしようもない怒りがこみ上げてくる。
目の前の妖怪たちへの怒りではない。
この少女をみすみす敵の手に落としてしまった、自分自身への怒りだ。
陰陽師である自分には、力を持たない彼女を守る義務があるのだ。
それなのに、自分はその義務も果たせず、あまつさえどこにいるかもしれない誰かに、助けを求めようとしている。
――ふざけんなや!!
心の中でひ弱な自分を殴り飛ばす。
――しっかりしろ 花開院ゆら!! あたしがこんなんでどうする!!
――今この子を守ることができるの……。
――あたしだけなんやぞ!!
ゆらりと静かに立ち上がる。
彼女の中で――何かが吹っ切れた瞬間だった。
目の前の少女の雰囲気がガラリと変わったことに、窮鼠は怪訝な顔つきになる。
「……くなや」
「あ?」
「それ以上――近づくなや……」
さっきまでとは違う。えらく落ち着いた口調に、おもわず呆気に取られる窮鼠だが、彼は自身の優位を疑わない。
「おいおい……言っただろ?」
余裕の態度で、彼はゆらの肩に手を伸ばす。
「式神を持たないお前は、ただの女だって――」
刹那――ジュワッ!と窮鼠の腕に激痛が奔る。
「あつっ!?」
「窮鼠様!?」
反射的に手を引っ込めるが、引っ込めた手の平を見ると――まるで熱された鉄板に、直に触れたように真っ黒な焦げ跡がくっきりと残っていた。
「このガキ!?」
ナルシストととしての側面を持つ窮鼠は、自身の美貌を傷つけられた怒りに、手痛い反撃に激怒し、その爪を剥き出しに少女に報復をしようと彼女へと襲いかかる。
だが――窮鼠の動きがピタリと止まる。
少女の顔つきが、さっきまでとはまるで別人に様変わりしていた。
憤怒の形相で自分たちを睨みつけ、その五体から異様な威圧感を放っている。
窮鼠の中の、獣の本能が警告音を鳴らしている。
まわりの部下たちもその雰囲気に呑まれたのか、ただただ息を呑んでいた。
「……ゆらちゃん?」
不自然な沈黙に違和感を覚えたのか、後ろで震えていたカナが怯えながらも目を開ける。
「……よう聞け、ネズミどもが……」
ゆらが口を開く。そのゾッとする声音に、その場にいた全員の背筋が凍る。
「この子に、指一本でも触れてみいアンタら――絶対許さへんからな!」
「――っ!?」
それは敵対するもの、全てに寒気を覚えさせるような、恐ろしく冷たい声だった。
相手は式神を失った陰陽師。ただの人間。
本来なら臆する必要など、微塵もない相手の筈。
にもかかわらず、窮鼠たちは震えていた。
自分たちがただのネズミだった頃、天敵である猫と相対してしまったときのように、目の前の少女に恐怖していた。
窮鼠たちはそれ以上、少女たちに近づくことができず立ち尽くす。
ドゴォーン!!
突如――そんな恐ろしい静寂が打ち破り、『彼ら』はその場に乱入してきた。
すさまじい轟音とともに、部屋の扉が壁ごと吹き飛ばされ、その衝撃にそのホール内にいた、全てのものが扉の方へと振り返る。
そこには――魑魅魍魎の群れがいた。
顔だけの化け物、巨大なムカデ、全身が赤く角の生えた鬼、首が宙に浮いている男、白い着物を着た少女。
人の姿をしたものもちらほらといたが、大半が一目見て異形のものだとわかる風貌だった。
「窮鼠様、これは!?」
「お、おれも初めてみる。多分、これが……百鬼夜行!」
――百鬼夜行?
窮鼠の口から出た単語に、ゆらが反応する。
化物の行列――魑魅魍魎の主だけが率いることを許された妖怪たちの集合体。
だとするならば、この中にいる筈だ、
妖怪の主が、自分が倒すべき宿敵が――。
「なんだぁ!? テメー!!」
「本家の奴だな……」
「三代目はどーした!?」
窮鼠の取り巻きの男たちが口々に叫ぶが、その叫びを聞いても妖怪たちは不気味なまでに整然としている。
その不気味さに気圧されながらも、窮鼠が叫ぶ。
「いやそんなことより回状だ! 回状はどうした!? ちゃんと廻したんだろうなぁ!?」
「これのことか……」
百鬼夜行の中心にいた男が、懐から何かを取り出す。
長い髪に、鋭い眼光をした長身の男。ゆらはその姿に見覚えがあった。
花開院家に伝わる妖の記録『花開院秘録』で見たことがある。
妖怪の総大将『ぬらりひょん』。
世間一般的に、ぬらりひょんの姿は頭が長い小柄の老人として伝わっているようだが、本来は違う。
今目の前にいるこの男の容姿こそ、ぬらりひょん本来の姿なのである。
男は取り出したその紙切れ、『回状』とやらを何の躊躇いもなく破り捨てる。
「なにしやがる!?」
「てめぇ!!」
男の行動に窮鼠の部下たちが憤る。
だが、その憤りが――すぐに焦燥へと変わる。
自分たちの後ろ、ゆらとカナが入れられてゲージのさらに後ろから、巨大な何かが落ちてきた。
着地音のした場所に――
「離れて!」
頭がわらづつの小さな妖怪が少女たちを下がらせると、その大男が彼女たちの入れられていたケージを力ずくで引きちぎる。
「急げ!」
大男が少女たちに叫ぶ。ここから逃げろということだろう。
「くっ――!」
妖怪に助けられるなど、陰陽師にとって最大限の屈辱である。
ましてや、相手は妖怪の主。
奴を倒すためにわざわざこの浮世絵町まで来たというのに、それをみすみす見逃すなど。
しかし、そこまで考えたところで、ゆらはカナに目を向ける。
彼女の視線も妖怪の主へと向けられていたが、未だに体は震えて、怯えているようだった。
――今はこの子を、安全な場所まで避難させるのが最優先や!
そう判断したゆらは、震えるカナの手を引っ張り先導する。
「家長さん 早く!!」
「う、うん……」
ゆらに手を引かれながらも、カナは最後まで妖怪の主に視線を向けていた。
その視線にどのような想いが込められていたのかを、今のゆらには知る由もなかった。
×
「はぁはぁ! ここまでくれば……」
「くそっ、本家の奴らめ!」
人気のない、真っ暗な路地裏。
奴良組との抗争から、命からがら逃げ出してきたネズミたちが毒づく。
すでに彼らに正体を隠していられる余裕はなく、妖怪としてのありのままの姿で地べたに這いつくばっていた。
窮鼠組と奴良組の戦力差は圧倒的で、決着はあっというまだった。
ほとんどの仲間が奴良組の妖怪たちにあっけなくやられてしまい、頭の窮鼠も奴良リクオの手によって闇に葬られた。
だが、彼らの今の心中に、仲間の死を悼む気持ちなどない。
「窮鼠の野郎……あっけなくやられちまいやがった!」
それどころか、自分たちのボスだった男の不甲斐なさに腹立てていた。
元が獣の妖怪だったものたちにとっては、力こそが絶対だ。
弱肉強食の世界――彼らが窮鼠に従っていたのも、ネズミたちの中で一番強い力を持っていたからに過ぎない。
無残に敗北し、死んでいったものに対しての情など、彼らは欠片も持ち合わせていなかった。
「これからどうする?」
ネズミの一匹が今後の身の振り方を問う。
「とりあえず、ほとぼりが冷めるまで大人しくするしかねぇよ……」
「けど、このままじゃあ収まりがつかねえぜ!」
自らの欲望のままに生きてきた彼らにとって、今回の出来事は我慢ならない。
仲間の仇を取りたいわけではなく、やられっぱなしのままでは腹の虫も収まらないのだ。
かといって、真っ向から奴良組に喧嘩を売って勝てないことは身に染みた。
どうにかして、一杯食わせられないかと思考を巡らせる。
やがて、良い案を思いついたのか。ネズミの一匹が下卑た笑みとともに口を開く。
「じゃあ、さっきの人質の女。もう一回攫っちまおうぜ!」
「え~? 攫うつったって、お前……」
仲間の出した提案に、仲間はどこか不安がちに答える。
実際に、彼女たちを誘拐した結果として今の自分たちの現状がある。
くわえて、二人の少女の内の一人は、かなり手練れの陰陽師だった。
自分たちだけでは逆に返り討ちに遭うのが落ちだろう。
しかし、そんな仲間の不安など分かっているといわんばかりに、言い出しっぺのネズミは続ける。
「勿論、攫うのは茶髪の女の方だけだ。それに、今度は人質なんて回りくどいことする必要はねえ。そのまま連れてこの町を出ればいい。その後は……ふふふ」
「それ、いいな!」
「だろ? ぐふふ!」
その提案が決して自分を危険にさらすものではないと判断したのか、仲間につられたように鼻を伸ばしてニヤケる。
すでに彼らの頭の中は、無抵抗の少女をどのように可愛がってやろうかという考えで夢中になっていた。
「なら――死ぬしかねえな手前らは……」
言葉は唐突だった。
なんの前触れも無く、ネズミたちの耳に届けられた『死の宣告』。
ネズミたちがその言葉の主を探り当てるよりも前に――『死』が、彼らの体に絡みつく。
「うぉっ! な、なんだこりゃ!?」
「う、動けねぇ!!」
それは木の根だった。
コンクリートでできた地面から、突き破るようにして生えてきた木の根が、ネズミたちの体を締め付け、縛り上げる。
「く、くそ!!」
ネズミの一匹が身動きとれぬ中、必死に周囲に視線を巡らせる。
するとそこには、一人の少年が立っていた。
今日攫ってきた少女たちと同年代と思しき、人間の雄。
その頭部に――狐の顔を形どったお面を被っており、その仮面の下の素顔を知ることはできない。
だが――これから死ぬネズミたちにとって、少年の正体などどうでもよいことだ。
「じゃあな……」
少年はまるでタクトを振る指揮者のように手を振り上げ、ネズミたちに向かって別れの言葉を突きつける。
そこには何の感情も込められてはいない。
まるでゴミを掃除するかのような、無感動な声で――少年はそのまま、ぐっと握り拳を作る。
「ひぃっ! い、いやだぁああああああ!!」
そんな彼の動作に呼応するかのように、ネズミたちを縛り上げる木の根に一層の力がこもり、
次の瞬間――木々は、容赦なくネズミたちの体をバラバラに引き裂いた。
「まっ……こんなもんだろ」
カナを攫った妖怪たちに落とし前をつけ、少年――土御門春明はお面を外す。
彼はずっと奴良組の後をこっそりとつけ、窮鼠たちのアジトへとひっそりと乗り込んだ。
そして、カナたちが無事に脱出するのを見届けた後、もう用は済んだとばかりに、その場を後にしていた。
だが、逃げ出した妖気――残党の気配を悟り、その後をつけてきたのだ。
一応、何か有用な情報を持っていないかを確認して始末するつもりだったが――彼らがカナを誘拐するなどと口走ったため、一足先に地獄へ落ちてもらうことにして、自身の陰陽術を行使した。
肉片となったネズミの体を冷徹な瞳で見下ろしながら、踏みつぶす。
『なんだよ、春明? やけにご機嫌ナナメじゃないか。大丈夫かよ?』
「黙っとけ、
すると、そんな春明のご立腹な様子に、狐面――面霊気が声をかける。
長年、彼の相棒を務める
しかし、その気遣いを突っぱね、春明は何事もなかったようにその場から歩き出す。
「まったく――今日は疲れたぜ……早く帰って寝ようか……ふぁあ~」
『そだな……カナの奴も、じきに帰ってくんだろ』
首をコきりと鳴らしながら、生あくび。
つい先ほど、妖怪とはいえ命を奪ったとは思えないほど軽々しい態度で。
彼は、春明と面霊気は夜の闇の中へと消えていった。
補足説明
猫耳の男こと――良太猫。
窮鼠組にシマを乗っ取られた。『化猫組』の当主。
アニメ版だと、「子分共の仇!」と漢を見せてくれる彼ですが。
原作だと「あの街を救って下せぇ」とリクオ任せ。
うん……やっぱり作者は、初期の流れはアニメ版の方が好きですね。
今回のゆらの活躍
原作ではへたれた印象が強くなってしまう窮鼠のお話。
こちらでは少しばかり、意地を見せてもらおうと彼女に頑張って貰いました。
この先も、カナ以外のヒロインたちにもいくつか見せ場を作っていきたいです。
狐面――面霊気
こちらは完全にオリジナルキャラですが、一応『鳥山石燕』にも登場する妖怪。
今後もオリジナルキャラはできるだけ、実際に伝承のある妖怪たちを採用していきたいと考えています。