家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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ゲゲゲの鬼太郎最新話『地獄の四将 伊吹丸』の感想。
遂に登場した伊吹丸! その正体は酒呑童子の息子、ぬら孫で言うところの鬼童丸のような立ち位置でしたね。戦闘も派手、シナリオもよく、キャラもたくさん出てきた個人的にはかなりの神回でした!
声優に関して、コメント欄では皆が『名探偵コナン』の安室やら、『ドラゴンボール』のヤムチャと呟いていましたが、そこで真っ先に『ガンダム』のアムロ・レイが出てこないことに個人的にビックリ! 
作者は『スパロボ』で慣れ親しんだ声でしたが、ゲームをやってない人からすれば元ネタが古すぎなのか、世代の壁を感じてしまった。
 
フェイトグランドオーダー・水着イベントの感想。
遂に実装された水着沖田さん! ツイッターのトレンドなどでもかなり話題になってましたね! 
取りあえず、四周年記念でもらった石をほぼ全部使って、沖田を二枚、メルトを一枚、刑部姫を二枚。100連くらいで当てましたが、果たしてこれは大勝利なのか? 
FGOのガチャは相変わらず感覚が鈍ってしまうな……。

雑談が多くなりましたが、本編をどうぞ!

                     カウントダウン
                       ●●が●●するまで、あと一話……。
      


第六十幕  合流、そして彼女の答えは……

 あの日――面霊気で正体を隠した家長カナに、奴良リクオは言った。

 

『――俺の、『百鬼夜行』に加わってくれねぇか?』

 

 最初はその言葉に戸惑った。

 自分はただの人間だ。妖怪でもない自分が百鬼夜行に加わって、果たして本当に彼の力になれるのかと。

 それに自分はこれまで、何も知らない無知な振りをしてずっとリクオを騙してきた。

 そんな自分に、果たしてこれ以上――彼の側にいる資格があるのかと、そんなことすら考えていた

 

 しかし、リクオの夢――『立派な人』になりたいという、彼の願いを知り、少しでもその手伝いが出来ればと、カナはリクオの誘い、奴良組の百鬼夜行に入ることを決意する。

 

 だが、今のままの自分では力不足。そう思い立ち、カナは第二の故郷とも呼ぶべき富士の地に戻り、神通力の修行に明け暮れる。血反吐を吐くような訓練の末、彼女はほんの少しづつだが、自分自身に自信を持ち始めた。

 そして、その修業の過程でカナは思い出す。過去を、前世を知る神通力『宿命』の力で――。

 

 山吹乙女という女性と交わした――前世からの約束。

 リクオの父親、奴良鯉伴と交わした――今生の世での約束。

 

 遠い遠い過去に交わした二つの約束。その約束を守り続ける為にも、自分はリクオの力にならねばと。

 改めて覚悟が決まり、カナはその想いを強めていく。

 

 だからこそ――もう迷いはない。

 

 たとえ、自身が報われない結末を迎えることになろうとも。

 たとえ、嘘を吐き続けることになっても。

 

 もしも、リクオの心があの日と変わらず、もう一度自分を百鬼夜行に誘ってくれたのなら。

 今度こそきっと、自分は迷うことなくその手を取ることができるだろう。

 

 京の地に足を踏み入れてからというもの、家長カナは『その時』が来るのを、静かに待ち続けていた。

 

 

 

×

 

 

 

「――外殻の地脈に巣くう妖よ」

 

 花開院竜二は唱える。妖怪を滅する言葉を。彼の頭上には巨大な『杭』が浮上しており、彼の言葉に呼応するかのように杭には妖怪を排する力が集まっていく。

 

「再び京より妖を排除する封印の――礎となれ!」

 

 竜二が天に掲げていた腕を振り下ろすと同時に、その杭は奴良組――その後方で瀕死になりながらも密かに蠢いていた、この伏目稲荷神社に巣くう妖怪――二十七面千手百足に向かって放たれる。

 

「ハッ、羽衣狐様ぁあああああああああああああ!!」

 

 敗れて尚、往生際悪く奴良組に不意打ちを仕掛けようとしていた卑しい妖。京妖怪たる彼は主である羽衣狐の名を叫びながら、巨大な杭によって押し潰される。

 

「滅!!」

 

 竜二は一片の慈悲もなく、さらに杭に力を込め、二十七面千手百足の肉体を地面へと押し込んでいく。

 そして、後に残るのは墓標。二十七面千手百足の力を利用して作られた、地脈の封印であった。

 

「お……おお! み、見ろ!!」

 

 竜二が妖を封じる光景を唖然と見つめていた奴良組であったが、組員の一人がとある事実に気づき、空を見上げて叫ぶ。

 杭が打ち込まれた瞬間、この地より噴き出すように空へと昇っていた『黒い柱』の一つが、まるで栓でもされたかのようにピタリとその流れを止めたのである。

 空を覆ていた妖気も徐々に晴れていき、黒い雲の隙間から暖かい日差しが零れだしていた。

 

「……これが封印ってやつか?」

 

 伏目稲荷神社全体の妖気の濃度が薄くなったことを感じ、奴良リクオはこれが『京の地から妖を退ける』という例の封印かと疑問の呟きを漏らす。

 

「そうや。この封印を八つの地に施さなければ、京は平和にはならへん」

 

 そんなリクオの疑問に、彼の見慣れぬ陰陽師が答える。

 その陰陽師は不敵な笑顔を浮かべながら、リクオに向かって自己紹介を始めた。

 

「初めまして、ぬらりひょんの孫。芦屋家直系――花開院家十三代目の当主秀元や」

「! 秀……元?」

 

 相手の口から紡がれたその名に、奴良リクオは出立前――祖父であるぬらりひょんに言われていたことを思い出す。

 

『――京に着いたら秀元に会うとええ』

 

 後から思い出したことだが、秀元とは花開院の当主が代々襲名する名前なのだと。学校でゆらが清継相手にそんな説明をしていたことがあった。

 TVにも出てくるような有名人でゆらの祖父らしいが、確か今の当主は二十七代目だと耳にした気がする。

 しかし、目の前の男は十三代目を名乗り、明らかにゆらの祖父という歳でもなく、何やら尋常ならざる空気を纏っているようも思える。 

 

 ――なるほど、じじいの言っていた秀元ってのは……こいつのことか?

 

 リクオは何となくだが察する。祖父が会うように言っていた秀元とは彼のことなのだと。

 この京の地で起きていること、詳しい事情を知らず飛び込んできた自分たちの道を指し示す『導き手』。

 この男なら知っている筈だ。自分たちに絡みつく、羽衣狐との四百年分の因縁について。

 

「おい、アンタ――」

 

 リクオはその因縁を断つ為。秀元にそのことを尋ねようと声を掛けていた。しかし――

 

「ひでもと~~~~!!」

「あっ?」「ん?」

 

 突如、上空からやかましくとも懐かしい声が聞こえ、リクオも秀元も空を見上げる。おそらく式神の一種なのだろう、空中には牛車が浮遊しており、その牛が引っ張る箱の小窓から少女が一人、ひょっこりと身を乗り出していた。

 

「この牛車の式神どうしたらええんや!! ハァハァ……し、しんどいー」

「…………ゆら」

 

 リクオの友人、花開院ゆらだった。リクオは借りを返すべき彼女が無事だったことにひとまず安堵する。式神の制御とやらで大分消耗しているようだが、口うるさく秀元と喧嘩する余裕はあるらしく。「あんた自由過ぎるわ!」やら「式神のくせに!」などと、秀元に怒った顔で叫んでいた。

 

「ん……げっ、奴良くん……」

 

 ゆらがリクオの存在に気が付いた。彼の顔を見るや、どこかきまり悪げに箱の中で後ずさる。すると、身を引っ込めるゆらと入れ替わるように、さらに見知った相手が小窓から顔を覗かせる。

 

「ああ、リクオ様!! お久しゅうございます~~!!」 

「つららっ!!」

 

 清十字団の護衛の為、先に現地入りしていた雪女のつららだ。京都に着いてすぐ、こちらから何度か連絡を取ろうと試みた相手だが、電波の影響が悪く携帯電話も通じず皆が心配していた。

 どういう経緯によるものか、そのつららがゆらと共に現れ、リクオはとりあえず安堵の息を漏らす。

 しかし、一緒だからと言って仲良しこよしという訳ではないらしい。

 

「邪魔くさいな、アンタ!」

 

 狭い箱の中で勝手に動き回るつららに、ゆらは邪魔すんなとばかりに陰陽の札を叩きつける。

 

「ひっどい、せっかくの再会なのに! 人でなし! この人でなし!」 

 

 つららもつららで、せっかくのリクオとの再会に水を差すゆらに口を尖らせ、妖怪でありながらゆらのことを「人でなし」と罵る。つららの台詞にゆらは「妖怪に言われたくないわ!」と叫びながら、次なる言葉を口走った。

 

 

「――消えろ! 滅したる!!」

 

 

 その言葉が引き金となったのだろう。次の瞬間――彼女たちの乗っていた式神の牛車が煙のように消え去る。

 

「きゃあ!?」

「ひぇっ!!」

 

 足場を失ったつららとゆら。二人に空を浮遊する能力などなく、その体は重力に引かれて地面へと落下していく。

 

「おおい!?」

「チッ!」

 

 その光景に二人の男が慌てて走り出す。つららに向かってリクオが。ゆらに向かって実兄である竜二が。それぞれ彼女たちを受け止めようと、着地点まで駆け込んでいく。

 

「リクオ様♪」

 

 つららは人間に化けていた状態から本来の妖怪としての姿に戻りながら、そのままリクオの下へと一直線。

 彼の胸に飛び込む勢いに身を任せ、そのまま落下しようとし――

 

 

 ふいに、一陣の風が舞い上がる。

 

 

「へっ? きゃあ!」

「なっ、なんやぁ!?」

 

 風は勢いよく落下しようとしていたつららとゆらの両名を優しく包み込み、その落下スピードを緩める。そしてゆっくりと、まるで高い高いから幼子を降ろすかのような気遣いで、二人の少女を自力で地面へと立たせた。

 そして、そんな彼女たちの後に続くかのように、さらに一人の少女がその地に舞い降りる。

 

「貴様は!?」

「ん……? 誰だ、ありゃ?」

 

 その少女の存在を知る奴良組の面々が警戒して厳しい顔つきになり、彼女のことを初めてみる遠野勢が首を傾げる。

 警戒する視線、敵意な視線、奇異な視線。様々な視線に晒されながらも、その少女――狐面の彼女は奴良組と花開院家。一同が会するその場へと堂々と舞い降りていた。

 

 

 

×

 

 

 

 ――リクオくん……ちょっと雰囲気変わったかな?

 

 つららとゆらを無事に着地させるため、天狗の羽団扇を用いて風を操ったカナ。彼女は羽団扇を懐に仕舞いこみながら、久しぶりに再会した幼馴染、奴良リクオへと目を向ける。

 第一印象――カナはリクオの雰囲気が少し変わったことに目を見張る。それは昼だから夜だからという違いではない。奴良リクオという人物の人格、器そのものの厚みが少し太くなったような、そんな感覚である。

 

 ――知らない人たちも結構増えてるし。本当に、色んな人に慕われるようになったんだね……。

 

 カナは初めて見る顔ぶれ、リクオが遠野の地で仲間に加えたイタクたちに目を向けながら、お面の下で微笑みを浮かべる。自分もそれなりに成長したつもりだったが、リクオはカナの予想以上に、さらに大将として大きく成長していた。

 そのことが自分のことのように嬉しくなり、カナはリクオに声を掛けようと歩み寄っていく。

 

「ちょ、ちょっとアンタ!!」

 

 すると、カナが気安くリクオに近づこうとするのを阻止するかのよう、つららがその眼前にて立ち塞がる。

 

「だ、誰も助けてくれなんて頼んでないわ! 余計なことしないでちょうだいよ!」

「え? ああ……ごめんなさい」

 

 先ほどカナが起こした風。つららとゆらを手助けした行為に対し、つららは別に助けなんて借りなくても良かったと、カナに向かって口を尖らせる。

 何やら「……せっかく、リクオ様に抱きとめてもらえると思ったのに……」と小声で呟いていたが、とりあえずカナは謝ってつららに頭を下げる。

 しかし、それでもつららは敵意を緩めることなく、リクオへカナのことを警戒するよう進言する。

 

「リクオ様、お気を付け下さい! あの女……花開院家の人間と通じております! いったい何を企んでいるか、わかったものではありません!!」

 

 どうやら、つららはカナが花開院家に上がり込んでいたことを怪しんだようだ。妖怪の天敵である陰陽師と組んでいる事実を前に、正体も目的も分からぬカナに並々ならぬ敵対心を滾らせる。

 

 ――そうか……そうだよね。それは警戒して当然だよね……。

 

 カナはつららのその考えを当たり前のものとして受け入れる。(ちなみに――カナは気づいてないようだが、つららの敵意は『リクオに近づく女性』とゆう、乙女らしい嫉妬の部分も多分に含まれていた)

 

「ほう、花開院と。ますますもって油断ならぬ相手のようだな……」

 

 つららの警戒心に同調するよう、黒田坊が呟きながら武器を構える。他の奴良組の面々も、敵意やら好奇心やら複雑な感情を滾らせ、カナに視線を集中させる。

 その視線にどうしたものかとカナは考える。この状況、どこから何を説明すれば武器を降ろしてもらえるのかと、彼女は思案を巡らせていた。

 

「――これこれ……今からその花開院と協力することになるんやから。そんな怖い顔で睨まんといて♡」

 

 すると、そんなカナに助け舟を出すかのように、十三代目秀元が前に出てきた。その場の空気を和ませようと、軽い口調で奴良組の面々に声を掛け、大将であるリクオへと真剣な表情で語りかける。

 

「キミがぬらりひょんの意思を継いでここに来たと言うんなら、是非頼みたいことがある……聞いてくれるか?」

「…………つらら」

 

 秀元の言葉にリクオはつららに目配せする。敵意を引っ込めろということなのだろう。リクオの命令につららを始め、殺気立っていた面々が渋々と敵意を引っ込めていく。

 

「俺たちの因縁のこと、知ってんなら教えてくれ。俺は……その因縁を断ちに来たんだ!」

 

 仲間たちが大人しく話を聞く態勢に入ったところで、改めてリクオは秀元に問いかける。

 

 ――リクオくんの……因縁?

 

 彼の言葉に内心でカナは首を傾げる。リクオが京都に来たのは、友であるゆらを救うため。そう思っていたカナは彼にそれ以外の理由――個人的な因縁があることを初めて聞いた。

 どうやらリクオも、カナの知らないところでこの京都の事情に関わっているらしい。

 カナは秀元の口から語られる奴良組と京妖怪との因縁。これから、この地で自分たちが何をしなければならないのか。その話に耳を傾けることにした。

 

 

 十三代目秀元曰く、彼は四百年前――ぬらりひょんと共に羽衣狐を討伐した。

 京妖怪の主である羽衣狐がいなくなったことにより、バラバラになった彼女の百鬼夜行。秀元はその隙を突き、この地に最強の結界――『螺旋の封印』を施したと言う。

 その封印は京の地脈を利用し、都から妖怪を退けるというもの。その結界により、妖が京の地に入るためにはその封印を一つずつ順に解いていかなければならないようになった。

 

 だが、その封印も四百年経った今、復活した羽衣狐の手によって破られる。

 

 封印が破れたことで京妖怪たちは洛中を平然と跋扈するようになり、今や京都は妖怪によって完全なる無法地帯と化し、そこに住む人々の生活を脅かそうとしている。

 秀元はそのような事態を防ぐためにも、一つ一つの封印を再度施していく必要があると提唱する。

 そしてその封印のため、自分たち花開院家と共に戦ってくれと、奴良リクオに協力を要請した。

 

 

「本当はボクがやれればよかったんやけど、生憎死んでる身なんでな」

 

 秀元はクスリと自嘲の笑みを浮かべながら、さらに詳しい手順を説明していく。

 

 羽衣狐は今日にも最後の封印の地――弐条城に入城する。

 彼女はその地で京妖怪の宿願とも呼ぶべき存在――『子』を産むとのこと。それは『闇』を象徴する存在らしく、もしも生まれ落ちてしまえば、この世はさらなる混沌に陥るだろうと、秀元は語る。

 

 それを阻止する為、これまでに破れてしまった封印に陰陽師たちが再び『栓』をしていく。先ほど、竜二が二十七面千手百足に対して行ったような、京妖怪の存在を利用した『杭による封印の栓』だ。

 その栓で蓋をし、妖気の流れを止める。そうすることで京都を覆う暗雲も少しづつ晴れていき、実質的に京妖怪たちの力も弱まっていくと言う。

 

「全ての封印を施した後……『破軍』と『祢々切丸』によって弐条城にいる羽衣狐を討つ!!」

 

 そして最後、花開院ゆらの破軍。奴良リクオの振るう祢々切丸の二つの切り札を用い、羽衣狐を討伐する。

 それこそ、四百年前――十三代目秀元とぬらりひょんがそうしたように。

 

「……頼まれなくても、やってやるさ」

 

 秀元の説明を聞き終え、奴良リクオは毅然とした立ち振る舞いで堂々と宣言する。

 

「その為に……俺たちはここまで来たんだからな!」

 

 自らの成すべきこと、しなければならないことを再確認した覚悟の表情で――。

 

 

 

×

 

 

 

「リクオ様! このつらら、ずっとリクオ様のお体を案じておりました!」

 

 一通りの話が纏まり、花開院との共闘を結ぶことが決まった奴良組。暫しの休息の後、次の封印に行くことになったため、つららはその間、主であるリクオの側に寄り添っていた。

 

「きっといらっしゃると、信じておりましたよ!!」

 

 ずっと離れ離れだったリクオとの久しぶりの再会を噛みしめるように、彼女はうっとりとした表情を彼に向ける。

 

「こほん……つらら」

 

 そんな乙女な空気前回の彼女に対し、首無が気まずそうに咳払いする。再会の喜びに浸るのは構わないが、その前に言うべきことがあるだろうと、彼はつららに報告を促す。

 そう、リクオたちより先に現地入りしたつららと青田坊。彼女たちがそうした理由はリクオの友人である清十字団を保護する為だ。つららがリクオの下へ駆けつけた以上、清十字団が今どういった状態なのかを報告する必要がある。

 

「あっ! あの、清十字団の方は大丈夫です!!」

 

 首無に急かされたことでつららは自身の義務を思い出したのか、清十字団の安否を報告する。

 彼らは現在、花開院家に保護されており、付き添いで青田坊も残っているためその警護は万全だと。つららはリクオが京妖怪との戦いに専念できるようにと、そのように現状を報告する。だが――

 

「――カナちゃんは?」

「えっ……?」

 

 彼の口から飛び出た少女の名前に、つららの心臓がドクンと高鳴る。

 

「カナちゃんは、皆と一緒なのか? 一人だけ、別のところにいたりしないのか?」 

「リクオ様……どうして、それを……?」

 

 つららはリクオが口にした疑問に純粋に驚く。彼の口ぶりは、カナが皆と一緒にいないことを何故か知っているかのような口ぶりだった。

 つららはリクオの問い掛けに言葉を絞り出し、家長カナが誰の保護下にもない事実を伝えようとする。

 

「リクオ様……実はその……大変申し上げにくいことなのですが…………」

「――ああ!? せや! 家長さんっ!!」

 

 すると、つららがその事実を口にする前にゆらが叫んでいた。どうやら、リクオとつららとの会話に聞き耳を立てていたらしい。彼女は慌てたように焦りを口にする。

 

「あかん、あかんで! 早く、家長さんを迎えにいってやらんと!! ああ~でもどこにいるか分からんし……どうしたらいいんや!!」

 

 目まぐるしい現状に対応するあまりか。暫しの間とはいえ、友達であるカナのことを忘れていた罪悪感に苦悶の表情を浮かべ、ゆらはその場で頭を抱えている。

 

「秀元!! 次の封印に向かう前に、捜さなあかん人がいる! 竜二兄ちゃん、魔魅流くん! 悪いけど、二人は先に行っといてくれ!!」

「なんだと? おい待て、ゆら!?」

 

 ゆらは竜二と魔魅流に先に封印の地に向かうように言い、その足でカナの捜索に出ようとする。だが、竜二はゆらに待ったを掛けようとしていた。

 花開院の陰陽師にとって、何より真っ先にすべきことは京の平和を取り戻すこと。今は人捜しになどかまけている暇はないと、兄の目が妹を責めるように見つめる。

 

「急がな! 何かあってからじゃあ、遅いんや!」

 

 しかし、ゆらとてこればかりはそう簡単に譲れないと、竜二の睨みに真っ向から対立している。

 

 そう、理屈ではないのだ。京から一刻も早く妖怪たちを追い出す。それが結果的により多くの人々を救う近道になると、頭の中で分かっていても簡単に割り切れる問題ではない。

 もしも、万が一……自分たちがモタモタしている間にカナの身に何かあったら。大切な友達が傷つき、あまつさえ命を落とすようなことにでもなれば――ゆらはきっと、一生自分を許すことができなくなってしまうだろう。

 そのように感情に突き動かされるのは、決してゆらだけではなかった。

 

「待て、ゆら……俺も行く」

「リクオ様!?」

 

 ゆらに賛同し、リクオが彼女に声を掛ける。つららは主が次の封印よりもカナのことを優先したことに驚きと、「ああ……やっぱり」という思いを抱く。

 しかし、慌てふためくゆらとは違い、リクオはあくまで冷静な観点からカナの捜索手段を指摘する。

 

「京都に着いてから直ぐに、ウチの何人かにカナちゃんの捜索を頼んでおいた。連中と連携を取れば捜索範囲はかなり絞れる筈だ。そう時間はかからねぇ……」

「ホンマか!? 助かるわ、奴良くん!!」

 

 リクオはカナの捜索を数人の組員たちに命令していたらしい。まだ発見の報告はないが、既に捜索済みの場所を取り除き、他の場所を手分けして捜せばすぐに見つかるだろうと予想する。

 ゆらはリクオの言葉に表情を明るくし、『京都の全体図を表した式神』を顕現させる。それは彼女が秀元からもらった、螺旋の封印を立体模型にした式神だ。その模型を地図代わりに、リクオたちは自分たちの足で向かう捜索範囲を絞ろうと思案する。

 

 しかし――

 

「――その必要はありませんよ」

 

 凛とした声が響く。カナの捜索に出ようとするリクオとゆらの行動に水を差すよう、彼女――狐面の少女が二人に向かって話しかけていたのだ。

 

 ――こいつ……また!

 

 つららは自分たち側近を差し置き、馴れ馴れしくリクオに声を掛ける彼女の存在に険を強める。だが花開院と協力すると決めた以上、自分たちより先に花開院家と話を付けていた彼女もまた協力関係にある。

 つららはやむを得ず、彼女の語る言葉に耳を傾ける。

 

「家長……カナさん、でしたよね? 彼女なら……そう、私の仲間が既に保護しています。だから……わざわざ捜索する必要はありませんよ?」

 

 狐面の少女はやや途切れ途切れながらも、妙に確信めいて口調でそのようなことを口にする。

 すると、彼女が口にした台詞につららと同じリクオの側近たち――黒田坊が別の疑惑を抱く。

 

「仲間だと……? 貴様、あの土御門とかいう陰陽師以外に、仲間がいたのか!?」

 

 既に彼女が春明とつるんでいることは明るみになっていた。しかし黒田坊は、彼以外にこの少女の力になっている勢力がいることにますます警戒心を強める。

 だが、リクオの方は何か心当たりがあるのか。どこか納得がいった様子で狐面の少女へと向き合う。

 

「ひょっとして……その仲間ってのは、前に化け猫屋で話してた『富士天狗組』の連中かい……?」

「…………ええ、そうです」

 

 リクオの問いに、狐面の少女はやや躊躇いながらもそのような答えを返す。

 

「富士天狗組……だと?」

 

 すると、リクオの口から出た妖怪の組織と思しき名前に、首無が声を上げる。

 

「知ってんの、首無?」

 

 彼の反応に毛倡妓が尋ねる。

 

「ああ、聞いたことがある。確か……総大将の代から所属していた、奴良組傘下の組だ。だがそこの組長と総大将との間に意見のすれ違いがあり、以降四百年……これといった交流がなくなった筈だが……」

 

 首無がうろ覚えの記憶を探りながら、その組との事情をつららたちに語って聞かせていく。

 一応、正式に破門にしたわけではないため、形式上は今も奴良組の傘下だという富士天狗組。もっとも、それを聞いたところで、つららはちっとも安堵できなかった。

 

 そのような妖怪の組織に所属しておきながら、陰陽師である花開院家とも協力するような『狐面の少女』の存在。つららはますますもって、彼女という存在が妖しく見えてきた。

 きっと何か企みがあるのだろうと少女へ疑いの目を向け、たとえ何があろうと側近としてリクオを守れるよう彼の側にぴったりと寄り添う。

 だが当の本人であるリクオは、彼女のことをまるで警戒していないらしい。

 

「すまねぇ……恩にきるぜ」

 

 幼馴染であるカナを保護してくれたという事実に、少女に向かって平然と頭を下げる。

 

「い、いえ……気にしないでください……」

 

 リクオの感謝の言葉に、どこか照れくさそうに狐面の少女が謙虚の姿勢を見せる。きっとお面の下では笑顔を浮かべているのだろう、それが分かるような仕草であった。

 

「……………………」

 

 つららは――その光景をどこか面白くなさそうに見つめていた。

 自分が、半ば保護を諦めていたカナを先回りで確保し、リクオの望みに応えた彼女のやりように。自分には出来ない形でリクオの力になっている彼女の在りように、決して小さくない嫉妬心を抱く。

 だがこの時点において、つららはまだ何も言おうとはしなかった。

 リクオのためになっている以上、その点において彼女に突っかかるのは筋違いだ。渋々ながらも、このまま彼女の同伴を許し、ある程度の協力関係は認めるつもりでいた。

 

 しかし、リクオの口から放たれた次なる言葉に――流石のつららも叫ばずにはいられなかった。

 

「しっかし……まさか京都まで駆けつけてくれるとは――あの時の答え、今なら聞かせてくれるんだろ?」

「…………?」

 

『あの時の答え?』とつららを始め、多くの奴良組がリクオの言葉に疑問符を浮かべる中。リクオは口元に笑みを浮かべながら、狐面の少女に向かい――その爆弾発言を口にしていた。

 

「今一度、この場で問うぜ。俺の――『百鬼夜行』に加わってくれねぇか?」

 

 

 

×

 

 

 

 ――き、きた!!

 

 リクオの問いに正体を隠した家長カナ。彼女は自身の心臓の鼓動が昂っていることを直に感じていた。

 ついに、この時が来たのだ。あの日から夜のリクオと真っ向から顔を合わせる機会もなく、ずっと保留にしていたカナの返事をリクオに聞かせる、その時が――。

 

「スゥ~……ハァ~……」

 

 流石に緊張する。カナは呼吸を整え、万全の状態でその返事を口にすべく、リクオの問いに答えようとした。だがしかし――

 

「ちょ、ちょっと、リクオ様!! 何を言ってるんですか!? こんな得体の知れない女を相手に!!」

 

 リクオの言葉に暫し唖然としていたが、すぐに我に返り異議を唱える、及川つらら。彼女以外の奴良組の面子も明らかに困惑しており、リクオに今の言葉の真意を問いただしていた。

 

「り、リクオ様……今のお言葉は……? まさか、こやつめを自らの百鬼夜行に加えるおつもりなのですか!?」

 

 皆の気持ちを代弁するかのような黒田坊の疑問。そんな彼の問いに、何でもないことのようにリクオは答える。

 

「ああ。この間、一緒に飲んだときに誘っておいたんだ。まっ、そん時はタイミングが悪くて答えを聞かせてはくれなかったけどな……」

「ま、まさか……いえ、化け猫屋で会っていたことは知っておりましたが、そのようなことになっていたとは……」

 

 黒田坊は奴良組御用達の店、『化け猫屋』の店名を口にする。彼の口から呟かれたその店名に――カナはリクオとの夜の一時を密かに思い出した。

 

 ――そういえば……あれからまだ二ヶ月くらいしか経ってないんだっけ、ふふふ……

 

 あれはそう。四国との戦いがひと段落着いた後のことだ。

 あの時のカナはリクオの実力を知り、己の無力さに打ちひしがれ、自分など彼の側にいても大した力になれないのではと、酷く迷い苦しんでいた。

 これ以上、下手に妖怪の真似などせず、ただの人間として穏やかな日々を過ごした方がいいのではと、そんなことを考えていた。しかし――そんなちっぽけな悩みを抱えるカナに、リクオは言ってくれたのだ。

 

『――アンタの力が欲しいって言ってるんじゃない。オレはアンタの心意気に惚れたんだ』

 

 必要なのは自分の力ではない。ただ、その心意気に惚れたとリクオは正体不明のカナのことを認めてくれた。

 

 あれから二ヶ月。

 ある程度の力は最低限必要だろうと考え、カナは夏休み前半の間、ずっと修行に没頭していた。そしてその過程で、カナは遠い過去に交わした二つの約束を思い出し、やはり自分はリクオの側にいたいと改めて想うようになったのだ。

 

 その想いが今、実現する一歩手前まで来ていた。

 カナにあの時のような迷いはもうない。一度は答えに窮したリクオの問い。腹を括った彼女は、自身の答えを口にしようと、ぐっと胸に力を込める。

 

 だが――リクオはともかく、おいそれとカナの百鬼夜行入りを認められない者たちが当然のように出てくる。

 

「しかし……このような得体の知れない相手を奴良組に加えるなど……せめてそのお面の下の素顔くらい、晒させるべきでは?」

 

 まだ完全にカナのことを信用していないのだろう。黒田坊は難しい表情で苦言を呈する。

 

「そ、そうですよ! 名前だって名乗らないんですから、きっと何か企んでるに違いありません!!」

 

 彼の言葉に同意するよう、つららが悲鳴に近い叫び声を上げていた。彼女のその言葉にカナはふと考える。

 

 ――名前……? そっか。確か、呼び名を教えてくれとは言ってたよね……

 

 化け猫屋で勧誘されたときにも、リクオの側にいたカラス天狗が同じような問題点を指摘していた。その際、リクオは本当の名前でなくてもいいから呼び名を教えてくれと、カナに言っていた。

 

「…………………………………………お花」

「へっ?」

 

 カナは熟考の末、『宿命』にて知ることになった前世の名前、カナと瓜二つの少女の名前を借りることにした。カナがあまりにもあっさりと名前を教えたことに、反対意見を述べていたつららの目が丸くなる。

 

「お花と……とりあえず、そう呼んでください」

 

 リクオの幼馴染である家長カナでもなく、正体不明の狐面としてでもない。

 富士天狗組と所縁のある天狗妖怪――『お花』として、改めてリクオと向かい合う。

 

 

 

「……お花か。ふっ、いい名前じゃねぇか」

 

 彼女の呼び名を知り、リクオは満足そうにその名を繰り返す。そして、どこからともなく盃を取り出し、彼は周囲の妖怪たちに聞こえるような大きな声でカナ――お花に向かって語り掛ける。

 

「お花! 俺たちはこれから、羽衣狐と四百年に渡る因縁に決着をつける! そのために、頼りになる仲間が必要だ! 俺はお前を――自分の百鬼夜行に加えてぇと思ってる!!」

 

 リクオにしてはやや強引な誘い文句ではあったが、それは周囲の者たちへの宣言でもあった。

 彼女は自分の認めた相手だと、はっきりと断言することでこれ以上の不満が出ないようにする。お花に対する彼なりの配慮である。

 

「…………」

「…………」

 

 案の定、リクオの宣言に不満を抱いていた者たちが押し黙る。主である彼がこうも堂々と宣言した以上、しもべである自分たちが口を挟んでいいことではないと、彼に忠誠を誓った側近たちが静かになる。

 

「へぇ~……やるじゃん、リクオ!」

「カッコいいー!」

 

 リクオの宣言にお花と面識のない妖怪たち――遠野勢が面白がるようにリクオたちを見つめる。

 彼らはお花のことを知らない。だがリクオは敵であった白蔵主すら、自分の百鬼夜行に誘った破天荒な男だ。顔をお面で隠す程度の相手を勧誘するなど、彼らからすればそう驚くようなことでもなかった。

 

「この盃を受けろ! 俺が――それを望んでいる」

 

 最後の駄目押しとばかりに、リクオはグイッと盃をお花に――カナに向けて突き出していた。

 

 

 

 ――…………うん、もう答えは出てるよ、リクオくん。

 

 リクオの少し強引な勧誘にやや面食らいながらも、カナは既に自分の中で答えを見出している。

 

 たとえ、自身が報われない結末を迎えることになろうとも。

 たとえ、嘘を吐き続けることになっても

 

 カナはリクオの手を取ると誓ったのだ。

 その誓いを、形として示す時が来た――ただそれだけのこと。

 

「…………」

 

 カナは、先にリクオに盃を飲むよう無言で促す。

 妖怪任侠のルールに関して、彼女は今は亡きハクから教わっていた。種族の異なる妖怪同士が血盟的連帯を結ぶ際の盃の作法。彼女はリクオとの盃を交わすのに、七分三分の盃を選択した。

 対等な関係を示す五分五分の盃ではない、忠誠を誓うという親分子分の盃。これはカナなりの周囲への配慮である。長年奴良組に仕えてきた者たちから見て、自分のような新参者がリクオと対等の関係になるなど、あまり面白いことではないだろう。

 

「…………いいんだな」

 

 カナの意図を察し、先にリクオが盃に口を付けた。盃に注がれていた酒を七分ほどグイッと飲み干し、残った三分の酒をカナの方へ差し出す。

 

「…………」「…………」「…………」

 

 その光景を奴良組が、遠野勢が、花開院家ですら固唾を呑んで見守る。

 周囲の視線が痛いほど突き刺さる中、カナはゆっくりとだが、確かな動作で盃に手を伸ばす。

 

 この盃に手を出せば最後――もはやカナは堅気とは呼べなくなる。

 裏切りは決して許されない。無論――裏切るつもりなど毛頭ない。

   

 カナは高揚する自身の感情を必死に抑え込みながら、その盃を受け取ろうとした。

 

 そして、盃に手が触れる――まさに、その刹那であった。

 

 

 

 

 

 

 

 カナは――その『声』を聞いてしまった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『強ぇヤツ――全部揃ったなぁ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 ぞくりと、カナの背筋が凍りつき、盃に手を伸ばしていた手がピタリと止まる。

 

「……どうした?」

 

 リクオや周囲の人々が、急に動きを止めたカナを怪訝そうな目で見つめる。彼らはその『声』を耳にしなかったため、彼女が動きを止めた理由を察せない。

 

 カナだけがその『声』を聞いたのは、ある種の偶然であり、必然であった。

 

 彼女は京の街を出歩く際、周囲の警戒を常に怠らず『天耳』と『他心』。二つの神通力を常時展開していた。

 いつ敵が襲いかかって来てもいいよう、気を張りつめていたのだ。

 

 その警戒網の――遥か遠方でありながらも、その『声』はカナの耳に鮮明に届く。

 

 

『楽しみだ、楽しみだなぁー』

 

 

 まるで地の底、地獄の底から這い上がってくるよう。鼓膜を突き破り、カナの脳髄を直接揺さぶるように響く声。その声の主はその巨大な図体を軽々と浮かせ、豪快な風切り音を立てながらこちらに向かって一直線に近づいてくる。

 

 その声の主に、欠片も悪意などなく。

 その心はただひたすら――相手を叩き潰したいという『敵意』一色に塗りつぶされていた。

 

 ――ヤ、ヤバい!

 ――この敵は……ヤバすぎる!!

 

 他心でその敵意に触れたカナは、そのあまりに圧倒的な存在感に呑まれ、全身が金縛りに陥る。

 しかし、接敵まであと数秒――その時になってようやく、カナは我に返り声を張り上げる。

 差し出されたリクオの盃を振り払いながら、彼女は式神の槍を顕現させた。

 

「――!?」

「なっ、リクオ様、離れて!!」

「こやつ!? リクオ様の盃を――!!」

 

 盃を拒否されたと思い、リクオはショックを受けた表情で固まる。

 彼の誘いを土壇場で断る無礼者に、奴良組の妖怪たちが途端に殺気立つ。

 

 だが、その誰の表情も視界に入ることなく、カナは腹の底から叫び声を上げていた。

 

 

「そこから――離れてぇええええええええええええええ!!」

 

 

 カナが叫ぶのと、ほぼ同時だった。

 その声の主、圧倒的な敵意の持ち主がその場に降り立ったのは――。

 

 その妖怪は四メートルを越える白蔵主よりもさらに大きい。七メートルを越えた巨躯に、四本の腕を持つ筋骨隆々な妖怪であった。般若面のような顔に鬼のような角が二本、歌舞伎役者が連獅子の演目で振り回すような長い赤髪を携えている。

 

「――――ぬうぁあああああああああ!」

 

 着地と同時に、その妖怪は雄たけびを上げながら、近くにいた奴良組の妖怪たちを問答無用で蹴散らしていく。

 

「な……なんだ……こいつ……?」

「こ、こっちに近づいてくるぞ!?」

 

 その妖怪の突然の襲来に、リクオへの無礼を見咎めていた奴良組たちが、カナそっちのけでその妖怪と向かい合う。だが、彼らのことごとくが成す術もなく蹴散らされ、その妖怪のリクオへの接近を許してしまう。

 

 

「――――俺の名は、土蜘蛛(つちぐも)

 

 

 巨大な妖怪が、カナとリクオたちを見据えながら名乗りを上げる。

 直に聞く声は、より鮮明にカナの鼓膜を震わし、彼女の心に耐え難い恐怖の念を抱かせる。

 

「強ぇヤツと、やりに来た次第……」

 

 名乗りを口にした巨大な妖怪――土蜘蛛は、自身を取り囲むような位置に立っているリクオたちを見渡す。

 そして、その般若面の表情を好戦的に歪め、その場にいる全員に豪語した。

 

 

「戦えるヤツァは全員……俺の敵だ。百鬼残らず――喰ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪・土蜘蛛。大昔より、関西を中心に暴れ回る大妖怪だ。

 一応、京妖怪のカテゴリーには属しているが、羽衣狐の配下というわけではない。

 

 誰にも従わず、誰にも倒せず。

 神も、仏も、妖も――目に付くもの全てを喰らいつくす。

 

 土蜘蛛は昔から、天災に喩えられた。

 

 土蜘蛛は地震、土蜘蛛は台風、土蜘蛛は疫病。

 ただ過ぎ去るのを持つしかない。

 

 出逢ったら終わり。

 

 

 出逢ったら――――終わり。

 

  




補足説明
 土蜘蛛
  ついに登場。単体では最強クラスの大妖怪。
  原作でもかなり暴れまくってましたが、ぬら孫のゲーム『百鬼繚乱大戦』ではさらに手がつけられない暴れようでしたね。
 普通に鬼纏を習得したリクオを倒しちゃったり、味方の筈の京妖怪、羽衣狐もぶっ倒したり、かなりやりたい放題ですよ、この戦闘狂!

 次回の更新は九月に入ってから。大事な回なので、ゆっくり文章を組み立てていきたいので、時間がかかるかもしれません。 
 次話のタイトルの方は既に決まっていますが、タイトル自体がネタバレになってしまうので、公開はしません。次回をお楽しみに!

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