家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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遅ればせながら……あけましておめでとうございます!!
待っている方がいるとのことで、久しぶりに更新させてもらいました。

『鬼太郎』の小説の方で既に報告させていただきましたが、暫くの間はこちらに集中させていただきます。
鬼太郎6期もそろそろクライマックスが近いのか、EDもスピード感があるものに変わっていました。ずっとED流しながら小説書いてます。この曲、めっちゃ良い!!
少なくとも、6期の鬼太郎はアニメの放送が完結するまでは様子を見るつもりです。後付けの設定が出るほど、二次創作で怖いモノはありませんからね……。

年内の目標……とりあえず、今年中には千年魔京編を完結させたい。
今後ともよろしくお願い致します!!


第六十八幕 考察―家長カナの正体について

 ――ゆら……起きなさい。

 

 ――いつまでも寝ぼけていては駄目だ……。

 

 ――ワシの代わりに……人々を守るんだろ? ゆら……。

 

 

 

 

「う……ん、おじいちゃん…………はっ!?」

 

 祖父に呼ばれたような気がし、ゆらはまどろみの中から目を覚ます。

 どうやら戦いの疲れからあのまま寝入ってしまったらしい。気が付けばそこは花開院家の建物の中。布団を掛けられ、ゆらは丁重にソファーの上に寝かされていた。

 

「あっ? 起きた」

「大丈夫、ゆらちゃん?」

 

 目覚めたゆらに真っ先に駆けつけてきたのは清十字団団員である巻と鳥居の二人だった。彼女たちは心配そうな表情で、目覚めたばかりのゆらに気遣うように声を掛けてくれる。

 

「巻さん、鳥居さん。それに……清継くんに島くんも。無事やったんやな……」

 

 彼女たちの他にも、部屋の中には清継と島の二人もいた。どうやらそこは清十字団が待機している客間だったらしい。無事だった彼らの姿にほっと胸を撫で下ろす――のも束の間。

 本来ここに居なければならない、あと二人の少女の姿が見えないことにゆらは途端に危機感に襲われる。

 

「! 凛子先輩はっ!? それと…………せや、家長さん!!」

 

 清十字団の中でも一番先輩の白神凛子――そして、家長カナ。

 

「…………家長さん……くっ!」

 

 家長カナのことを思い出し、ゆらはその場で歯噛みする。そう、彼女は自分の目の前で土蜘蛛に連れ去られしまった。ここにいる筈がないのだと、改めて思い知らされる。

 そして、その事実を彼ら清十字団に伝える訳にはいかない。ゆらは一旦、カナのことについては口を閉ざすと決め、気を取り直して凛子の所在について清十字団に尋ねた。

 

「凛子先輩なら花開院の人たちの手伝いをしているよ。今はどこも手が足りていないらしい。ボクらも本来なら彼女と一緒に手伝うべきなんだが……何故だが先輩に止められてしまっている。『ここから出るな』と……何故だ!?」

 

 ゆらの問いに清継が不満そうに答えた。

 

 京妖怪によって花開院家が襲撃されたおり、白神凜子は一人、夜雀によって外へと連れ出されてしまった。幸いなことに青田坊によって救出された彼女は、そのまま部屋に残ることなく怪我人の手当てなどの手伝いをすることにしたとのこと。

 想像以上に花開院家の被害が酷く、黙って見ていられなかったらしい。

 その一方で凛子は他の清十字団の面子には手助けを求めず、彼らに部屋で待機しているように言った。

 

「ボクだって……外に出て妖怪を見てみたいのに!!」

 

 その理由の半分が清継自身にあることを彼は理解していない。

 彼は、一歩間違えれば凛子のように襲われていたかもしれない事実に気づいた様子もなく、未だに外へ妖怪を見に行きたいと思っている。

 何があってもブレない清継の肝っ玉は流石だが、今は状況が状況だ。これ以上、余計なトラブルを起こさないためにも彼には部屋で大人しくしてもらい、その見張りのために他の清十字団にも残ってもらっている。

 

「おい、清継!」

「アンタ……それしかないの?」

 

 それを理解しているため、巻も鳥居も言われた通り清継の行動に目を光らせている。

 彼女たち自身は妖怪やら、戦いやらに巻き込まれるのは御免だと、心の底から思っているのだから。

 

 

 

 

 

「…………秀元」

「おやっ? 休憩はもう終わりでいいんか? ゆらちゃん」

 

 清十字団が何事もなく無事であったことにホッと胸を撫で下ろし、ゆらは部屋を出て廊下を歩きながら秀元を呼びだす。式神・破軍を軽く発動することで、十三代目である秀元はゆらの後方にゆらりと現れる。

 前に呼び出したときと変わらずどこか飄々とした雰囲気の彼だが、一応祖父を失ったばかりのゆらに気を遣っているのか。まだ休んでなくて大丈夫かと、彼女の心境を心配してくれている。

 

「平気や。それに……いつまでもへこたれてたら、おじいちゃんにまたドヤされてまうからな」

 

 だが、ゆらは既に気持ちの切り替えを済ませていた。せっかく夢の中から祖父が自分を叩き起こしてくれたのだ。いつまでもクヨクヨしてはいられないと、次の戦いのために広間へと向かう。

 しかし、前に進もうとした段階で彼女の胸の内に別の悩み事が浮かび上がる。

 

「なあ、秀元。今のうちに確認しておきたいことがあるんやけど……」

 

 その場に立ち止まり、秀元の方を振り返って彼に面と向かい合って尋ねる。

 

「あの狐面の子――家長さんのことについてや」

「ああ……あの子のことかいな」

 

 その質問は秀元も予測していたのか、特に慌てる様子もなくゆらの問い掛けに応じる。

 

「せやな……ボクは君とあの子がどんな仲なのか知らんから、何とも詳しいことは言えんけど。ボクが見る限り、あの子は『人間』や。あの空を飛ぶ能力も、風を起こす力も……おそらくは神通力の類やろう」

 

 秀元は家長カナという少女の人格を知らない。あくまで陰陽師として彼女の存在、能力、特性やらを分析し、ゆらに報告する。

 

「人間……せやけど、あのときの家長さんからは確かに妖気を感じたで? それはどう説明するんや?」

 

 カナが人間であると断言され、安堵するのも束の間。ゆらは狐の面を付けていたときに確かに彼女から『妖気』を感じた。それはどう説明するのかと、秀元に再度尋ねる。

 

「何や? 気づかんかったん?」

 

 その疑問に何でもないことのように秀元は答える。

 

「アレはあのお面が妖気を発してるだけや。あのお面、恐らく妖怪……付喪神の類や。きっとゆらちゃんがあの子の正体に気づかんかったのもあのお面の力やろうな。ふっ、なかなか上手に正体を隠したもんやで……」

 

 すぐ側にいた友人であるゆらですら欺いたお面の力に、感心するように呟く秀元。家長カナという少女そのものに面識のない秀元だからこそ、偏見もなくそこまでの考察ができたのだろう。

 しかし、ゆらは秀元の話に益々混乱する。

 

「お面の妖怪? なんで家長さんがそんなもんを……いったい、あの子は、何者なんや……」

 

 何故、人間であるカナがそうまでして妖怪のふりをしなければならなかったのか。

 ゆらやリクオを手助けしてくれた理由、そのために行使していた神通力の正体など。

 

 考えれば考えるほど、わからなくなることばかりでさらに思考の泥沼に嵌っていく花開院ゆら。

 

「まっ、ボクに言えることはこのくらいやな!」

 

 すると、そんな主の少女に秀元はお気楽な笑顔を向ける。

 

「ここで、あーだこーだ言うても仕方ないやろ。あの子ことについて詳しく知りたいんやら……あとは『彼』にでも聞くしかないやろうし……」

 

 そして、その悩みに対するもっともシンプルかつ、単純な解答手段を秀元はゆらに提示する。

 

「っ! せ、せやったな、あいつが……まだここにいたんや!」

 

 ゆらはそこでようやく思い出す。

 家長カナの正体を知るための、もっとも一番の近道たる存在。

 

 これまでは螺旋の封印を攻略するため、『彼』のいる花開院家に戻ってくることができなかった。

 花開院に戻ってからは、戦いの疲れを癒すために眠っていたため、その機会を失っていた。

 

 しかし今なら。

 次なる戦いに備える為の小休憩中の今なら、あの少年からカナについて詳しい話を聞き出すことができる。

 狐面の少女としてこの地にやって来たカナと共に、この花開院家に訪れた例の少年陰陽師。

 

 土御門春明から、詳しい事情を聞き出すことができるかもしれない。

 

 

 

×

 

 

 

「さて……まずは現状について詳しくまとめておきたい。いいか、お前たち?」

「……」

 

 花開院家の無事だった部屋の一室。そこを間借りし、現在陰陽師たちと共闘中の奴良組一行――リクオの側近たちが集まっていた。

 メンバーはとりあえず一同の指揮をとる、黒田坊。

 それをどこか不満げに睨みつけ、壁際で青田坊が腕を組む。

 一人先走った首無がやや居心地悪気に縮こまり、その隣を毛倡妓が陣取る。

 雪女のつららはリクオが不在のためかいつもの元気がなく、一方で河童などはいつも通りのマイペースを維持していた。

 

「我々は現在、花開院の陰陽師たちと共闘中だ。彼らの力を借りねば封印とやらを施し、京妖怪たちの力を削ぐことができん。そこは各々、仕方がないものと心得よ」

 

 本来、天敵である陰陽師と組むなど妖怪としていかがなものと思われるが、花開院家がいなければ螺旋の封印は攻略できない。不満がないことを確認し、黒田坊は話を次に進める。

 

「今のところ八つの封印のうち第八、第七、第六の封印を攻略した。羽衣狐が動けない今、京妖怪に再封印を解く手段はないそうだ。その場所に奴等が再度現れることはあるまい」

 

 封印の進捗状況を報告する黒田坊。

 封印は人間の体でなければ触れることもできない。京妖怪で人の体を持っているのは羽衣狐のみ。彼女が鵺出産の準備で動けない以上、再び封印が襲われることはない。

 これにより、京妖怪たちが大きな攻勢に出ることはない。彼らは封印と動けないでいる羽衣狐を守るためにも守勢に廻るしかない。これは奴良組としても大きなアドバンテージである。

 

「一気の勝負に出たいところではある。しかし、今の拙僧らの動かせる戦力ではそれも難しかろう」

 

 しかし現状、奴良組の戦力も万全とは言い難い状況に黒田坊は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

 現在、奴良組の百鬼夜行は京妖怪――土蜘蛛の襲撃でほぼ半壊状態となっていた。

 こうして部屋の中に集まっているのもリクオの側近である一部の武闘派だけ。邪魅や猩影といった他の武闘派、納豆小僧といった小妖怪たちは負傷した組員たちと共に屋形船で待機している状態。完全にやる気というものを失くしている。

 イタクなどの遠野からの助っ人組は自分たちの指示に従うつもりがないのか、別行動をとっており今どこにいるのか黒田坊たちにも分からない。

 正直、とても京妖怪と戦えるような状況ではない。だが――

 

「だがそれでも……リクオ様が戻ってくるまでの間、我々の手でどうにか百鬼を維持しなければならん」

 

 黒田坊たちには決して引けない理由――主であるリクオのためにも、この戦線をなんとしても維持しなけれなならない必要があった。

 

 百鬼の主である奴良リクオは現在、土蜘蛛に受けた傷を癒すために医者である鴆と共に、奴良組の幹部である牛鬼にその身柄を預けられている。

 勿論、ただ療養生活を送っているわけではない。

 牛鬼の口調からするに、何かしら修行の手解きを受けていることが推察される。

 京妖怪の宿願成就が迫る中、果たしてどこまでのことができるのかはわからない。

 

 だが少なくとも、この部屋に集まっているリクオの側近たちは信じている。彼が――リクオが必ず戻ってくることを。

 だからこそ、彼が戻ってきたときのためにも、自分たちが彼の百鬼である奴良組を守らなければならない。

 

「今は耐えるとき。皆のもの、決して畏を絶やさずに次の戦いに備えろ。……よいな?」

「ああ……言われんでもわかってるさ」

 

 黒田坊の言葉に青田坊を始め、その場にいる全員が力強く頷く。その点において、意見の違いはなく奴良組は一致団結していた。

 

「よし。では花開院家の準備が済み次第、今一度封印の攻略に打って出る。それまで各自、体を休めておけ……」

 

 そこで黒田坊は一時解散を宣言する。

 妖怪とて疲れはたまる。それに花開院と共闘している以上、自分たちだけで戦いに出るわけには行かない。

 味方である陰陽師たちの準備が終わるまで、彼は休息を取っておくことをススメ、話を終わらせようとした。

 

 

 

 

 

 

「――おい、待てよ……黒」

 

 しかし、黒田坊が話を終わらせようとしたところ、ドスの効いた声で青田坊が呼び止める。

 

「体を休めるより先に……話し合わなきゃなんねぇことがあんじゃねぇのか、あん?」

 

 彼はやや殺気立った様子で黒田坊を睨みつけていた。

 

「……話し合う。何についてだ」

 

 一方の黒田坊は感情のない声で答える。彼は青田坊が何について言及したいのか分かっているような節が見られるが、あえて青田坊に話の先を促している。

 

「決まってんだろ。あの子……家長カナについてだ」

「――っ!!」

「…………」

 

 青田坊がその名を口走るや、つららの肩がビクリと震える。他の面子も彼女ほどではないにせよ、反応を窺わせる。

 

「あの狐面の女が、あの子だったなんて……いったい何がどうなってる! もっと詳しく聞かせろよ!」

 

 花開院家でずっと留守を任せれていた青田坊はつい先ほど外で戦っていたつららたちと合流し、初めて巫女装束の少女のお面の下の素顔――それが家長カナであったことを聞かされた。

 しかし、実際にその現場に立ち会っていない青田坊がいきなりそのようなことを聞かされても寝耳に水である。

 本当にその狐面の少女が家長カナだったのか。どうして彼女がそんな真似をしていたのか話す必要があると青田坊は主張しているのだ。

 

「……詳しくも何も、先ほど全て話した通りだ」

 

 だが、黒田坊は終始冷静な態度で応じる。

 

「巫女装束の少女は家長カナだった。あの者はあの狐のお面で我らを……いや、リクオ様を欺き騙していたのだ。それ以上のことを話し合う必要はない」

「そ、そんな言い方っ!!」

 

 黒田坊の言いようにつららが声を上げた。何もそこまで言わなくてもいいだろうと、辛辣な口調の彼に抗議する。

 

「どのように言い繕うとも、それが事実だ」

 

 黒田坊はそんなつららの叫びを切って捨てる。そして、逆に冷静な観点から彼はつららと青田坊に尋ねる。

 

「逆に聞こう……青、雪女。お前たちこそ、何が気づいたことはないのか?」

「えっ!?」

「そ、それは……」

 

 黒田坊の率直な疑問に、問われた二人が言い淀む。

 

「拙僧は家長カナという少女について詳しいことを知らん。若の友人で、幼馴染みであるということだけしか伝え聞いていない」

 

 黒田坊は家長カナにこれといって面識がない。同じリクオの友人で清十字団のメンバーなら、鳥居夏実に関して多少の縁を持っているくらいだ。彼自身、それ以外のリクオの友人たちのことを名前しか知らない。

 それは首無も、毛倡妓も、河童も似たような立場である。

 

「あの少女のことなら、お前たちの方が面識があろう。普段の生活で何か気づいたことはなかったのか?」

 

 その中でも、青田坊とつららだけは他の面子よりもカナたちと近しい所にいた。リクオの護衛として浮世絵中学に通っていたのは他でもない彼らなのだから。

 

「…………」

 

 しかし、二人は黒田坊の質問に答えることができなかった。彼らはカナのことをそういった視線で見たことがなかった。彼女にそのような秘密があるなど、夢にも思っていなかったのだ。

 

「お前たちでもわからないようなことを、拙僧らが気づける筈もなかろう。何もなければ、この話はここで終わりだ」

 

 黒田坊の言動は冷たいように思えるが、ある意味で正論かもしれない。

 何も手掛かりがない以上、カナについて話し合ったところで無為に時間を割くだけ。それなら、次の戦いのために色々と準備を進めておく方がまだ有意義な時間かもしれない。

 

「……あっ! そういやさー」

 

 だが、一同が解散しようとしたところで不意にそれまで無言だった河童が口を開く。彼はいつものマイペースな調子で懐からある物を取り出す。

 

「オイラあのとき、こんなん拾ったんだけど」

「っ! そ、それって!」

 

 河童が取り出したものにつららが声を上げる。彼がその手に掲げたもの――それはお面だった。

 家長カナが正体を隠す際に用いていた、例の狐面である。

 

「見つけたから拾ってきたんだけど、何かの手掛かりになるかな?」

「……河童よ。そういうことは早く報告しないか」

 

 今更ながらにそのような報告を上げる河童に小言を口にしつつ、黒田坊はその狐面を受け取ろうと手を伸ばす。

 何も手掛かりがなければ話すだけ無駄だが、何かしらの物品があるのであるのなら、それを糸口に探ることはできる。

 奴良組はそのお面を取っ掛かりに、カナの正体に関して考察を試みようとする。

 

 ところが――その狐面を横合からひったくる者がその場にて乱入してきた。

 

「――おい」

 

 奴良組の面々が話に夢中になっていた間にその部屋に入ってきた『彼』は、ドスの効いた声音で威圧感をたっぷりに狐面を河童の手から強奪する。

 もっとも、その狐面は元からして彼のもの――ただ本人の手元に戻ってきただけに過ぎない。

 

「貴様はっ!?」

「アンタ、何でこんなところに!?」

 

 彼がここにいることを知らなかった首無や毛倡妓などが臨戦態勢で身構える。

 

「……そういえば、テメェがいたんだったな」

 

 一方で青田坊は彼がここにいることを思い出し、溜息を吐きつつも期待を胸に抱く。

 なにせ彼ならば、家長カナが何故あんな真似をしていたのか、その事情を詳しく知っている筈なのだから。

 

 彼――土御門春明ならば。

 

「……何でテメェらがこいつを持ってやがる?」

 

 怪我をしているのか、頭に包帯を巻いている春明。

 彼は自身の怪我や奴良組の反応になど目もくれず、己の疑問を最優先に彼らに問いつめる。

 

「――詳しい事情を聞かせてもらおうじゃねぇか……」

 

 その言の葉には明らかな怒気――敵意と殺意が込められていた。

 

 

 

×

 

 

 

「――今日も夜が明けちまうな」

「…………」

 

 夜明け前――鞍馬山。鬱蒼した杉の根が露出した不思議な道――『木の根道』。頂上に沿って続く道のりの途中に、小屋が一件ポツンと建てられている。

 かつて、この地で鞍馬天狗に修行を付けてもらった牛若丸が寝泊まりしたとされる休憩所である。その小屋の中で、牛鬼と鞍馬天狗に修行を付けてもらっている奴良リクオ、付き添いの鴆が食事を取っていた。

 

 食事は鴆の手作りである。医者である彼がリクオの修行の合間にその辺から採ってきた薬草、キノコなどを適当に鍋にぶち込み、卵と米を一緒に煮詰めた雑炊。医者の手作りとあって栄養は豊富だが、味付けの方は塩だけとかなり簡素のもの。

 しかし、リクオは文句一つ言わず雑炊を腹の中に流し込む。この際、腹に貯まるものならなんでも構わないとばかりに、ぶすっとした表情で黙々と箸をつけていく。

 

「……今すげぇ顔してるぜ、リクオよ」

 

 そんなリクオに対し、鴆は軽口混じりにその表情の酷さを指摘する。

 

 現在、リクオは夜の姿をしている。常に自信たっぷりだった表情は曇り、その顔つきには今一つ余裕というものがない。(ついでに修行で牛鬼と鞍馬天狗にボコボコに叩きのめされ、顔面のほうにも腫れや傷が多数ある)

 殺気立った様子で、おかわりした雑炊を苛立ち気味にかき込んでいく。

 

「土蜘蛛に届く刃。俺のどこにある? それがなけりゃ、何もできねぇ。カナちゃんも助けられねぇ……」

 

 彼がこうまでイライラしている原因は勿論、修行が上手くいっていないこともある。

 

 だがそれ以上に、土蜘蛛に連れ去られた幼馴染――家長カナの存在が彼の心を浮足立たせていた。

 

 既に彼女が連れ去られ、丸一日以上が経っている。京妖怪の手中に囚われ、いつその毒牙が彼女に襲い掛かるか分からないような状況だ。

 本当なら今すぐにでも助けに行きたいところを何とか堪え、土蜘蛛に対抗する手段を得るための修行に時間を割いている。

 その修業でも何かを掴むことができず、彼の苛立ちは募る一方である。

 

「さっきからそればっかだぜ。まっ、気持ちは分からなくもねぇが……」

 

 繰り返される呟きに溜息を吐きながらも、鴆はリクオの心情を察する。

 

 土蜘蛛との戦いの最中。あまりにも唐突に――彼女のお面の下の正体をリクオは知ってしまった。そして、何故と確認することも叶わず、そのままリクオはカナと離れ離れになってしまったのだ。

 きっとリクオの心は今、『幼馴染の彼女を早く助けなければ』という思いと、『彼女は何者なのか』という疑問の板挟みになっていることだろう。

 命懸けの修行の真っ只中なら、余計なことを考えている余裕もないだろう。だが、僅かでも落ち着ける休憩時間だからこそ、それが余計に気になってしまう。

 

 ——……とはいえ、この件に関しては俺から言えることなんざ、ほとんど何もねぇからな……。

 

 そんな余裕のないリクオに何かアドバイスをしたい鴆だが、事が事だけにあまり迂闊なことを口にすることができない。

 あの幼馴染の少女とリクオの関係性。それがどのようなものなのか、あるいはどれだけ深いものなのか。

 リクオの人間関係についてはあまり詳しくないため、鴆はそちら側に触れることを意図的に避けていた。

 

 ところが――。

 

「――カナって……ひょっとして、あの狐面の女の子こと? へぇ~、あの子、リクオの知り合いだったの?」

 

 そんな繊細な部分に対し、空気を読まずに容赦なく会話のメスを入れる者がいた。

 

 牛鬼の配下――馬頭丸である。

 

 馬の骨を被った少年姿の妖怪である彼は、その容姿そのまま――無邪気な子供のように首を傾げる。

 

「あれ? でも、なんで知り合いなのに顔なんて隠してたんだろう? 恥ずかしがり屋さんなのかな?」 

「おい、馬頭。お前、もうちょっと空気読めよ……」

 

 そんな馬頭丸の発言に突っ込みを入れる相方――牛頭丸。馬頭丸より多少は場の空気というものを読める彼は、リクオとカナの関係性を何となく察し、黙って雑炊を啜る。

 

 牛鬼の側近である彼ら二人はリクオの修行の手伝い――をしに来たわけではない。

 彼らは牛鬼の側近として彼に付いてきただけ。そして、特にやることもなかったため、飯をたかりにリクオたちの休んでいる小屋に転がり込んできた、ただそれだけ。

 

 だが、あの狐面の少女に関してなら、彼ら――馬頭丸もある程度のことは知っていた。

 

「あっ! そーいやボク、捩眼山であの子と戦ったんだよね……まっ、別に苦戦なんかしてないけどっ!!」

 

 それは牛鬼がリクオの力量を試すために奴良組に反旗を翻したときのことだ。牛頭丸と馬頭丸も牛鬼の命令に従い、リクオとその学友たちに刃を向けた。

 その際、馬頭丸はリクオたちと別行動をとっていた入浴中の女子たちに襲い掛かった。(そのせいで女湯を襲う妖怪というレッテルを貼られることとなったが)

 馬頭丸はそこで陰陽師のゆら、並びに狐面の少女――家長カナと交戦したのである。

 

「へぇ~ホントかよ? いい様にやられたんじゃねぇだろうな?」

 

 相方の報告に牛頭丸が少し意地悪そうな呟きを口にする。苦戦していないという彼の発言に疑いの眼差しを向けているのだ。

 

「ほっ、ホントだって! 確かに、いきなりで意表を突かれはしたけど……全然!! たいしたことなかったんだからな!!」

 

 あくまでもムキになって、馬頭丸はあの少女相手には後れをとっていないことを主張する。実際は、彼女が乱入してきたすぐ後に三羽鴉の横槍が入ったため、苦戦する暇もなかったというのが真相だ。

 

「まっ……あの子自身よりも、あの子の持ってた小道具の方が厄介、って印象があったかな?」

 

 そこで一旦クールダウンした馬頭丸はあの戦いを思い出し、率直な感想を述べる。彼はカナ自身よりも、カナが使用した小道具――風を起こす羽団扇の方に鮮烈な印象を抱いていた。

 

「あれって……天狗の羽団扇だよな? 結構な上物だったけど、なんでリクオの知り合いがそんなもん持ってんの?」

 

 馬頭丸はその小道具の形状―—それが天狗たちが持っているとされる『天狗の羽団扇』であることを指摘する。

 この山に棲む、鞍馬天狗配下の天狗たちの何人かもその羽団扇を所持してはいたが、それらとは比べようもないほどの威力が込められた一品だった。

 そんな上等な物を、何故リクオの友人である人間の少女が持っていたのかと。またもや空気を読まず、馬頭丸はリクオに問いかける。

 

「…………」

 

 その質問に当然、リクオが答えられるわけもなく。彼はさらに表情を険しく、雑炊を啜る箸を止めてしまう。

 

 

 

 

 

 

 ――カナちゃん……君は本当に何者なんだい?

 

 馬頭丸の発言により、一度は小難しいことを考えるの止めると決心したリクオの心が再び揺り動かされる。

 

 彼女が何者なのか、彼女の身に何が起きていたのか?

 手掛かりらしきものを提示されるたび、リクオは疑問を抱かずにはいられなかった。

 

 勿論、リクオの心に彼女との日々を疑うような思いはない。だがそれでも――やはり気にはなってしまう。

 事の真相を知るためにも、彼女を一刻も早く京妖怪の手から救うためにも、リクオは『土蜘蛛に届く刃』をこの修行で身に着けなければならない。

 

 ――くそっ!! 駄目だ……全然見えてこねぇ!!

 

 しかし、一向に見えてこない。自分の刃が土蜘蛛に届くビジョンが――。

 ぬらりひょんの畏以外に自分に何があるというのか。きっかけすら掴めずにいる――。

 

 逸る心、焦る気持ち。それがリクオの心身から徐々に余裕というものを奪っていく。

 

 そして――

 

「――なにっ!?」

 

 焦燥するリクオへと、さらなる追い打ちを掛けるように『彼ら』はその場に姿を現した。

 

 

「おいおい……修行再開にゃ早すぎんだろーが、牛鬼!?」

「…………」

 

 

 安らぎの一時を早々に切り上げられ、鴆は抗議の声を上げる。

 彼らの目の前に牛鬼――ではなく、数人の天狗たちが立ち塞がる。

 

 彼らは鞍馬天狗配下の天狗妖怪。

 辺り一帯に妖気を充満させ、体を休める彼らに容赦のない殺意を向け――。

 

 

 天狗たちは戸惑うリクオ『たち』へと、一切の躊躇なく襲い掛かった。

 

 

  

 




補足説明
 牛頭丸と馬頭丸の登場について。
  原作組の方は鞍馬山に二人が出てきて? と思うかもしれませんが、アニメの方だと何故か彼らが登場して飯をたかっています。とりあえず、何かしらの会話をさせてみたく、このような話の持っていきかたになりました。
 
 次回で、ゆらやつららが、家長カナの正体について知ることになります。
 その時の反応を色々と想像しつつ、どうか続きをお待ちください。
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