家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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デジモンの放送が一旦止まり、ゲゲゲの鬼太郎の再放送が始まりましたね。
……個人的には嬉しいですが、決して手放しで喜べないこの状況。
なかなか気の休まらない日が続いて気分も落ち気味。

だが——そんな中でも新しい楽しみをいくつか見つけました!!
新作遊戯王のアニメ『遊戯王SEVENS』である!
作風から放送当初はそこまで期待してなかったけど、これ面白いな!
なにより、作品全体が終始明るい雰囲気なのがいい!
この憂鬱とした状況で、彼らの明るさには救われている。

このままのノリでどうか進んでほしい……。


第七十七幕 知らぬが仏

「——鏖地蔵!! 奴はどうした!?」

「ムッ……」

 

 鬼の頭領・鬼童丸。彼は配下である牛力や断鬼を連れ、急ぎ逃げた侵入者・ぬらりひょんを追いかけてきた。

 廊下では京妖怪の幹部である鏖地蔵が茫然としており、彼に敵の行方を問い掛ける。

 

「う、う~む……逃げられてしもうたわい」

「何?」

 

 鏖地蔵の返答に鬼童丸は周囲を見渡す。

 床には血溜まり、壁や天井のところどころに破壊跡。争った痕跡こそあったものの、肝心のぬらりひょんたちの姿が見えない。

 

「ちっ……!」

 

 どうやらまんまと逃げられたらしい。

 血溜まりの出血量から見て相当な深傷だっただろうに、それでもトドメを刺せなかった鏖地蔵の不手際に鬼童丸は思わず舌打ちをする。

 しかし不甲斐ないと思いながらも、深く責めることはできない。鵺ヶ池までの侵入を許したのは自分たちも同じだ。故に鬼童丸は叱責ではない。別の用件を鏖地蔵に伝えることにした。

 

「鏖地蔵……羽衣狐様の陣痛が始まった」

「!!」

「ワシらが追って始末を付けてくる。お主は沼に戻り、出産に備えよ……」

「フェフェフェ……いよいよじゃのう」

 

 そう、羽衣狐の陣痛が始まったのだ。あと数刻もすれば自分たちの宿願である鵺が——安倍晴明が生誕する。

 万が一に備え、側近である鏖地蔵には出産に立ち会ってもらわなければならない。

 

 ぬらりひょんたちは自分たちで始末をつけると、後のことを鏖地蔵に任せるつもりだった。

 

「——へぇ~、随分信用されてる見たいだね。鏖地蔵は……」

「……」

 

 すると、茶化すような口調で壁に寄りかかった少年が声を掛けてきた。どこか人を小馬鹿にする笑みを口元に浮かべる、彼の名は吉三郎。

 鬼童丸は極力彼の相手をしないよう、無言を貫き通す。

 

 羽衣狐の復活が判明し、徐々に集まってきた京妖怪の中に、この少年はいつの間にか当たり前のように混じっていた。何でも鏖地蔵の古い知り合いとのこと。見た目が老人である彼とは違い若々しい姿だが、確かにそれだけの年季を感じられる。

 

 しかし、鬼童丸はどうにもこの男のことが気に入らなかった。

 

 口調や態度など、不満なところはいろいろとあるが、直感的な部分で彼はこの少年の存在に嫌悪感を抱かずにはいられない。

 理屈ではない。吉三郎という妖怪には、相対するものを不快にさせる何か得体の知れないものが内包されている。

 

 鬼童丸が自分を疎んでいることを知って知らずか、吉三郎はさらにお喋りを続ける。

 

「ほんと、こんな嘘臭いじじいの何がそこまで信用に値するのか……君たちの正気を疑っちゃうよ、ボクは……」

「……? 何を言っている」

 

 何気ない吉三郎の呟きに、鬼童丸は思わず言い返す。

 

「鏖地蔵は長年羽衣狐様に仕えてきた側近の一人。貴様のような小僧が口を挟むことではない」

 

 そう、千年仕えてきた鬼童丸ほどではないが、鏖地蔵も長年羽衣狐に仕えてきた同胞である。

 その実力に手腕は、四百年前の奴良組との戦いにも遺憾なく発揮された——と鬼童丸は思い込んでいる。

 故に、本来は部外者である吉三郎という妖怪に苦言を呈する。

 

「へぇ~、長年仕えてきた。ねぇ~……ふふふ」

「???」

 

 だが、鬼童丸の台詞に吉三郎はさらに意味ありげな笑みを深める。

 そんな相手の態度に疑問符を浮かべながら、鬼童丸は奇妙な苛立ちを募らせていく。

 

「済まんのう、鬼童丸。……おい、吉三郎! ちょっとこっちに来い!!」

 

 戸惑う同僚に謝罪を入れながら、鏖地蔵は言葉で周囲を惑わす吉三郎を連れ立ち、奥の方へ引っ込んでいく。

 

 

 

 

「——貴様、何を考えている!? 余計な言葉で連中の記憶を刺激するでないわ!!」

 

 周囲で誰も聞き耳を立てていないことを入念に確認しつつ、鏖地蔵は吉三郎に説教を垂れていた。

 吉三郎の迂闊な言動により、鬼童丸たちの記憶が戻ってしまう可能性について言及している。

 

 そう、鏖地蔵は催眠の左目によって獲得した『羽衣狐の側近』という立場を失うことを恐れているのだ。

 

「何のためにわしが連中の中に紛れ込んでいると思っとる! もう少し自重せい!!」

 

 本来、鏖地蔵は京妖怪などではない。彼は吉三郎と同じ、魔王山ン本五郎左衛門の一部——山ン本の目玉であり、百物語組の一員である。

 そんな彼が周囲から羽衣狐の側近として認識されているのは、彼の能力によるもの。

 催眠の左目により、主だった面々の記憶を一部入れ替えているからだ。それにより、彼は本来ならそこにいるべき鞍馬天狗の地位に居座っている。

 

 しかし、その催眠術に出来ることもそこまでが限界だ。

 

 いかに鏖地蔵の術が強力でも、鬼童丸たちほどの妖怪の記憶を好き勝手に出来るわけではない。必要以上に記憶を弄れば、それだけ現実との矛盾点も大きくなり、術が解けてしまう危険性がある。

 故に、鏖地蔵は夜雀などの協力者の存在を隠しながら上手く立ち回っている。

 

「はは! ごめんね、ごめんね!!」

 

 だが、そんなことなど知ったことかとばかりに、吉三郎は堂々と京妖怪たちの中に入れ混じっていた。当然怪しまれる彼の存在を、鏖地蔵は古い知り合いということで何とか周囲を納得させていた。

 苦労を掛けていることを謝る吉三郎だが、彼の言葉にはまるっきり誠意などというものはない。

 

「鵺復活まであと少しだ……貴様はこれ以上面倒ごとを起こさず、大人しくしていろ!!」

 

 さらに、吉三郎は暇つぶしのために魔王の小槌を持ち出したりと、何かと問題事を起こしている。そのことに頭を悩ませながらも、鏖地蔵はようやくここまでこぎつけることができた。

 あと少し、あと少しで鵺が復活する。そうなれば——これまでの自身の苦労も報われる筈だと、そのときが訪れるのを秘かに待ちわびる。

 

「ふ~ん……確かに鵺復活まであとちょっとだけどさ~」

 

 鵺の復活——安倍晴明の誕生は京妖怪だけではなく、彼ら百物語組にとっても大きな意味を持つ。にもかかわらず、吉三郎はかの者の復活にたいした興味を抱いていないのか、どこかつまらなさそうに呟く。

 今回の『計画』以上に重要視することなどないだろうに、まるで他の何かに気を取られている様子だった。

 

「……おっと! どうやら、おいでなすったようだね……」

「あん? どういう意味じゃ?」

 

 不意に、吉三郎の声音に喜びの色が混じる。乗る気でなかった彼のやる気が高まり、その視線を建物の外——弐条城の庭先のある方角へと向ける。

 鏖地蔵は吉三郎の言葉の意味を理解できなかった。だがすぐに、彼が聞き耳を立てたその異変の正体を思い知ることとなる。

 

「——ご報告申し上げます、鏖地蔵様」

「! な、なんじゃ!?」

 

 毎度のことながら、唐突に現れる闇斬。忍びとして坦々と諜報活動を続ける彼の報告に鏖地蔵が耳を傾ける。

 ついさっき、第三の封印まで破られたと報告してきたときには驚いたが、よくよく考えればそこまで慌てることでもないと、彼は考えを改めていた。

  

 何せ次なる封印——相剋寺にはあの土蜘蛛が居座っている。

 

 羽衣狐すら認める彼の実力があれば、並の相手など恐れるに値しない。先ほどから快進撃を続ける謎の勢力も、きっとここでその歩みを止めることだろうと、まだまだ甘めなことを鏖地蔵は考えていた。

 

 だが、既にそういった考えこそ手遅れだと。

 闇斬の報告によって、彼はまたも思い知らされることとなる。

 

「先刻、第二の封印が突破されました。何者かはさらなる巨大勢力となり進軍。東大手門々番のガイタロウ、ガイジロウを退け……たった今、この弐条城に侵入いたしました」

「…………な、なななななななんじゃとう!!」

 

 何とあの土蜘蛛が倒され、第二の封印も破られたという。

 おまけにその勢力は弐条城の門番をあっさりと打ち倒し、弐条の地に足を踏み入れた。

 

 既にすぐそこまで敵が迫っているという事実に、鏖地蔵が慌てふためくしかない。

 

 

 

 

「ふっ……」

 

 一方で、既にその驚異的な聴力で外の状況を把握していた吉三郎。

 彼は鏖地蔵のように動揺した気配もなく、寧ろ嬉しそうに口元を吊り上げ、鵺復活を阻止せんと企む一同の殴り込みを歓迎していた。

 

「ようやく来たかい……ぬらりひょんの孫」

 

 

 

×

 

 

 

「——な、なんじゃい!」

「——何がおこったんじゃ!?」

 

 弐条城に屯っていた京妖怪たちの視線が一斉に東門へと注がれる。あそこは門番であるガイタロウ、ガイジロウが守護していた城の正面玄関だ。

 許可無き者は通れず、迷い込んできた愚か者は全てあの兄弟の棍棒によって叩き潰される筈である。

 

 だがその門番を倒し、真正面から堂々と敷地内に侵入する妖たちの群れ——百鬼夜行。

 その先頭に立つ『畏』の代紋の入った羽織を纏った長身の美丈夫が京妖怪相手に宣言する。

 

「よぉく聞け、京妖怪の魑魅魍魎ども! 俺は奴良組若頭、奴良リクオだ!」

「——!!」

 

 その名に城内の妖たちが騒めき立つ。

 奴良組——羽衣狐の宿敵である、ぬらりひょんが率いるヤクザ者たち。

 四百年前、大阪城で羽衣狐を討ち取り、自分たちの宿願を台無しにした敵対組織。彼らにとって決して許すことのできない存在を前に、一様に殺気立つ京妖怪たち。

 しかし、それらの殺気を涼しい顔で受け流し、リクオは挑発的な笑みを浮かべる。

 

「俺たちとてめぇらの大将との因縁、この際キレイさっぱりと……ケジメをつけさせてもらいに来た!!」

 

 ぬらりひょんが羽衣狐を切り捨てた時から始まった、四百年分の因縁。

 そこから端を発し、リクオの父親である鯉伴も何者かに殺されて命を落とした。

 そして——三代目であるリクオが、こうして祖父と父に代わって羽衣狐と決着をつけに来た。

 

「邪魔する奴ぁ、遠慮なくたたっ斬って、三途の川ぁ見せてやるから、覚悟のねぇ奴はすっこんでろ!!」

 

 きっとこれが自分の宿命なのだろう。リクオは己の意思を固めるとともに、眼前の妖たちに向かって豪語する。

 邪魔する者は誰であろうと、叩きのめして押し通ると。

 

 頼り甲斐のある己の百鬼夜行——仲間たちと共に。

 

 

 

 

「——オラァ!! いくぜぇえええ!!」

 

 リクオの啖呵を皮切りに、奴良組の特攻隊長である青田坊が先陣を切って敵陣へと突っ込んでいく。

 今まで子供たちの護衛に徹していた分、ずっと全開で暴れられずに鬱憤がたまっていたのだろう。実に清々しい暴れっぷりで敵を蹴散らしていく。

 

「ふっ、相変わらずの単細胞め……」

 

 そんな青田坊を横目に、もう一人の特攻隊長である黒田坊が暗器黒演舞を舞う。

 調子がいいのか、いつもより多めに武器を繰り出す彼の手数の多さを前に、京妖怪たちは対応できずに翻弄されていく。

 

「オラオラ! エロ田坊! 調子乗りすぎて足元救われんじゃねえぞ!!」

 

 絶好調な黒田坊に天邪鬼の淡島が軽口を叩く。

 黒田坊から拝借した槍を片手に天女の鬼発・戦乙女演舞で敵を蹴散らすと同時に、味方の戦意をその美しい舞で高めていく。

 

「いくぞ、毛倡妓! 後ろを頼む!!」

「任せときな!!」

 

 淡島の舞に鼓舞され、首無と毛倡妓のツーマンセルが敵陣を突破していく。

 首無が攻め、毛倡妓が彼の背中を守る。もう、一人では突っ走らないと決めた首無は常に毛倡妓との連携を意識していく。

 

「……ふん!」

 

 首無と毛倡妓の戦いぶりに触発され、鎌鼬のイタクが威勢よく敵を切り裂いていく。

 妖怪忍者として戦場を駆け抜けていくその姿を、並の妖怪では視認することすらできない。まさに戦場に吹き荒れる突風、鎌鼬の名にふさわしい戦いぶりである。

 

「けけけ、オイラぁたちも負けてらんねぇ!」

「ん……そだねぇ~」

「……………」

 

 他にも沼河童の雨造や奴良組の河童がマイペースながらに水流で敵を洗い流し、邪魅が無言で敵を切り捨てていく。

 リクオの選んだ百鬼夜行たち。その誰もがめざましい活躍を見せ、強敵と名高い京妖怪たちを蹴散らしていく。

 

 そんな、敵味方問わず妖怪たちが入り乱れて戦う中。

 その戦場の片隅で——人間の少女たちもまた奮戦していた。

 

 

 

 

「……ちっ!!」

 

 陰陽少女・花開院ゆら。彼女は鵺の正体が安倍晴明、陰陽師として偉大な先人であることにショックを受けつつ、勢いに乗って奴良リクオたちと共に京妖怪と戦っている。

 京都から平和を取り戻すために奴良組の協力が必要とはいえ、まるで彼の百鬼夜行の一員かのように混じって戦う立ち位置に、ゆらは内心かなり不満であった。

 

「ヒュウ! ぬらちゃんの孫はカックイイな! あっ、ゆらちゃん。一応畏の羽織もらっとるけど、着るか?」

「いるか!!」

 

 彼女の不満をさらに煽るかのように、十三代目秀元が軽口を叩く。土蜘蛛を真正面から倒した功績からか、彼は奴良リクオのことをかなり信用するようになり、奴良組の一員たる証——畏の羽織をゆらに着せようとする。

 しかし、ゆらにもプライドがある。あくまで妖怪であるリクオとは一時的な共闘だと、完全に彼の仲間になったわけでないという意思表示から、決してその羽織に袖を通しはしない。

 

 意地っ張りなゆら。そんな彼女とは対照的に——もう一人の人間の少女は嬉しそうな顔でその羽織を纏っている。

 

「——ゆらちゃん!! 右上から……狙われてるよ!!」

「っ!!」

 

 叫ぶその少女の警告に、ゆらは護符を空中に数枚展開する。盾として貼られた護符は、建物の上から放たれた矢を受け止めて彼女の身を守る。

 

「くらえ!! 黄泉送りゆらMAX!!」

 

 すかさずゆらは矢を放った相手に反撃。屋根の上にいた妖怪数体を吹き飛ばす。

 

「ふぅ……あ、ありがとう。家長さ——」

「——及川さん! そっちの池の中、何体か隠れてるよ!」

 

 ゆらは自分に危機が迫っていたことを教えてくれた少女に礼を述べようとする。

 だが、少女は間髪入れずに別の少女——雪女・及川つららに叫んでいた。

 

「任せなさい! 凍えておしまい、ふぅ~!!」

 

 彼女の信頼に応え、つららは弐条城の池庭に対して凍える吐息を吹きかける。それにより、水の中に潜んで不意打ちを仕掛けようとしていた妖怪たちが池ごと氷漬けにされる。

 

「よし!! やったわよ、家長さん!!」

 

 確かな手応えを感じ、アドバイスをくれた彼女——家長カナにつららは満面の笑みを向ける。

 

「うん!!」

「…………」

 

 妖怪であるつららの笑顔に、微笑んで応える人間のカナ。

 その光景を前に、ゆらはどうにも複雑な思いを抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 最後の決戦の地、弐条城へと向かう奴良組一同に、結局家長カナはついて来た。

 危険だからと花開院本家に避難するよう何とか説得するゆらではあったが、そんな心配を抱く彼女とは正反対にリクオが反論する。

 

『今の京都に、絶対に安全な場所なんかねぇだろ……』

 

 それを言われると言い返すこともできない。実際、花開院本家も京妖怪の襲撃を受け、ゆらの祖父も含めて多くの犠牲者を出した。

 清十字団の皆も危険な目にあったと聞くし、必ずしも後方に避難することが安全でないことが既に証明されてしまっている。だが——

 

 

『今は、俺の見えるところにいろ。それが、一番安全な筈だ……』

 

 

 リクオの言葉がどういった思いから放たれたものかは分からないが、明らかに個人的な感情がこもっているのが透けて見える。

 ただ安全だからと言う理由だけではない。カナという少女を自分の側に置いておきたいという、リクオの感情が見え隠れしていた。

 

 

 

 

 ——……ま、まあ。気持ちは分からなくもないんやで。

 

 リクオの気持ちを、何となくだが察することはゆらにだって出来る。

 正体が判明したあの時から、カナは土蜘蛛に連れ去られ、まともに話をする機会すらなかった。何日もの間その安否すら確かめられず、きっと不安な時間を過ごしていたことだろう。

 ゆらも当然、カナのことを心配していたが、幼馴染みのリクオの不安はゆら以上だっただろう。

 その反動か、あんな思いを二度としたくないという気持ちからか。

 

 リクオはカナを自身の百鬼夜行のように扱い、畏の羽織まで着せて自分の側に置こうとしている。

 

 ——…………いや、今は深く考えん方がええかも知れん。

 

 そのことに関し、物申したい気持ちが湧き出すゆらだが、とりあえず今は目の前に敵に集中する。

 奴良組の勢いのおかげで戦況はこちらが有利。だが相手は京妖怪——まだまだ油断はできない。

 

「ぬらちゃんの孫!!」

 

 戦いの中、ゆらの隣に立つ秀元が先を歩く奴良リクオの姿を見つけるや、彼に向かってアドバイスを告げる。

 

「この城のどこかに鵺ヶ池っちゅーのがある! そこが羽衣狐の出産場所や!!」

 

 真面目な口調で自分たちの最終的な目的地——羽衣狐にいる場所を示す。

 

「アンタなら辿り着ける。ぬらちゃんの孫ならな」

「おう!!」

 

 秀元の言葉にリクオも威勢よく返事をする。

 周囲の敵を引きつけ、道を開いてくれた仲間たちのために急いでその鵺ヶ池とやらへの入り口を探していた。

 

 しかし——リクオが弐条城の本丸へと続く橋を渡ろうとした、そのとき。

 

「!! リクオくん、危ない!!」

「——っ!!」

 

 カナが何者かの接近に気づき、リクオに向かって注意を呼びかける。リクオが慌ててその場から飛び退くや、彼の立っていた場所から『巨大な口』が迫り上がってきた。

 

「ちっ!!」

 

 攻撃を躱したリクオは刀を抜き、その巨大な口に向かって反撃を試みる。

 

「——彼奴め、祢々切丸を取り出そうとしておるぞ!」

 

 すると、そのリクオの動きを予測し、巨大な口に助言を行う者の声が響く。

 

「そのまま横に振り回すぞ、気をつけい!!」

 

 そいつはリクオがいったいどのようにして戦うのか、刀の軌道まで予測して巨大な口を持つ妖怪・鬼一口に警戒を促す。助言によってリクオの動きを知り、鬼一口は難なく彼の攻撃を回避。

 

「よめる、よめるぞ。なにしゆうかわかるぞ」

 

 リクオの攻撃の意思を読み取る相方——サトリと共に並び立ち、リクオを橋の上で迎え撃つ。

 

 

「わかるぞ~、お主が次何するか。手に取るようにな~」

 

 

 

×

 

 

 

 京妖怪・サトリ。

 その能力は『他者の心を見透かす』という単純だが強力なもの。彼の前ではあらゆる隠し事、企み事など全て看破されてしまう。

 サトリを退治するには『思いもよらない行動を偶然に引き起こす』あるいは『無視を決め込んで大人しく立ち去るのを待つ』という方法がある。実際、サトリはそれほど腕力や妖力は強くなく。ちょっとした機転で幸運を味方につければ普通の人間でも退治できなくもない妖怪である。

 

 だが、純粋な戦闘力が低いことはサトリ自身が誰よりも理解している。彼はその弱点を補うため、常に鬼一口と行動を共にしている。

 

 鬼一口の方はサトリとは違い、それほど知能の高い妖ではない。自分で考えるのが苦手なため、いつもサトリの指示通りに動く。

 サトリが頭脳担当、鬼一口が戦闘担当。この組み合わせはかなり相性が良く、妖怪同士の戦いでもそれなりの戦果を挙げていた。

 

「フフフ……見える、見えるぞ~」

「……」

 

 サトリと鬼一口。土蜘蛛ほどの巨体もなければ、強力な攻撃を仕掛けてくるわけでもない。修行時に戦った牛鬼などと比べてみても、それほど大した相手でないことがリクオには実感として理解できていた。

 

 だが、彼は思いの外苦戦していた。

 それは——リクオの戦い方とサトリの戦い方との、相性の悪さが主な要因である。

 

 現在のリクオの主な戦法は『鏡花水月』の幻で相手を怯ませ、その隙を突いて祢々切丸で斬り込むというもの。

 この戦い方は大抵の相手、特に初見の相手に効果を発揮できる。それこそ、ぬらりひょんという妖怪の強みであった。

 

「みえる、先が見えるぞ!」

 

 しかし、心を読むサトリにこの戦法は通じない。

 リクオがいかに幻を見せようと、サトリは本物の気配や思考を読み、素早くそれを鬼一口に伝える。

 

 結果、リクオは予想以上に彼らとの戦いに時間を食うこととなっていた。

 

 ——くっ、どうやって戦ったらいいんだ?

 

 自身の手がことごとく看破される焦りから、リクオはどうやってサトリたちと戦うか思案を巡らす。

 しかし、サトリ相手にそれは悪手である。どのようにして戦うかと考えている時点で、既にサトリの術中にはまっている。

 無論、リクオが仲間と共に鬼纏を放てばサトリも鬼一口だろうと一蹴できる。だが、生憎と百鬼夜行の仲間たちも、ゆらもカナも他の妖怪たちとの戦いで手が塞がっている。

 

「ちっ、しゃあねぇな!!」

 

 やむを得ず、リクオは真正面から斬りかかる。動きが読まれている以上、下手に小細工を労しても無意味であることを直感的に悟ったか。

 

「っ!! 来るぞ、鬼一口!」

「はーい!!」

 

 リクオを迎え撃つ形で、サトリも鬼一口に警告を促す。

 リクオの方がサトリが心を見透かすより先に斬りかかるか、サトリの方がリクオの動きを全て読み切るか。

 ここから先は早さ、素早さを競う戦いになる——かに思われた。

 

 ところが——

 

「!? 避けられい!!」

「っ!?」

 

 唐突にリクオの攻撃とは関係なく、サトリと鬼一口が大きく後方に飛び退く。その動きにリクオも嫌な予感を覚えて足を止めた。

 次の瞬間、リクオとサトリたちが衝突しようとしていた場所の足元から『巨大な木の根』が橋を貫く勢いで飛び出してくる。

 

 もしもリクオがあのまま突っ込み、サトリたちがそれに応じていれば——両者共に串刺しになっていたかもしれない。実際、そうしようという意思があったのか。

 

「ちっ!! 避けやがった……」

 

 その木の根を出現させた『陰陽師』が実に残念そうに吐き捨てながらその場に姿を現す。

 

「てめぇは……」

 

 自分を敵諸共串刺しにしようとした陰陽師・土御門春明に対し、リクオは喧嘩腰に睨みつける。つい先ほどカナに暴力的な行為を働いたことから、どうにもリクオはこの少年のことが好きになれない。

 もっとも、それは春明の方も同じらしい。

 

「あん? ……んだよ、なに、がんくれてやがる!?」

 

 自分を睨みつけてくるリクオ相手に、嫌悪感を隠そうともせず睨み返す。

 それにより、敵の眼前でありながらも『険悪なムードで対峙するリクオと春明の図』が出来上がっていた。

 

 

 

 

「……なんだ此奴ら? 味方同士ではないのか……?」

 

 自分と鬼一口のことなど眼中になく、敵前でガンを付け合う両者にサトリは当然戸惑っていた。

 しかし、心を読む能力を使って互いの意思を読み解くことで、両者の感情の動きや互いの関係性などが浮かび上がってくる。

 

 長身の少年の名は奴良リクオ。血気盛んな百鬼夜行を率いる、若き奴良組の三代目。

 もう片方の少年の名は土御門春明。花開院家ではない、はぐれ陰陽師。

 

 一応、どちらとも半妖のようだが、本来であれば敵対する『妖怪任侠』と『陰陽師』。

 事情がありやむを得ず共闘しているが、心の奥底からはお互いに相手のことを快く思っていない感情が伝わってくる。

 

 リクオから主に感じるもの——『不信感』に『嫉妬』のようなもの。

 

『——テメェ……カナちゃんになんて事しやがる』

『——部外者扱いすんじゃねぇ。あの子は俺の……』

 

 一方、春明という少年から感じるものは——明確な『嫌悪感』に『敵対心』。

 

『——ちっ、今のでくたばってくれればよかったんだが……』

『——さすがに、そこまで甘くねぇか』

 

 混戦の最中、隙あれば後ろから刺そうとする気満々。まさに獅子身中の虫である。

 明らかに共闘には向いていない不協和音。その根底には——ひとりの少女の影が見え隠れしている。

 

 ——はっ!! 女を取り合っての仲違いか! これはよい!!

 

 表層状の意識を読み取っただけでも使えそうな情報に、思わず愉快さで口元がにやけるサトリ。この感情を上手いこと利用すれば、同士討ちに持ち込むことも可能かもしれない。

 

 思考を読み、相手の弱みを握り意のままに操ることこそ、サトリという妖怪の真骨頂でもある。

 そうやって、彼はこれまで幾度となく多くの人間を破滅へと追いやってきたのだから。

 

 ——よし! あの小僧……他にも何か使えそうな情報がないかな? くくく……

 

 そのためにも、サトリはさらなる弱みを欲し、陰陽師・土御門春明の心の中を覗き見ようと試みる。

 四分の一が妖怪のリクオとは違い、春明の方は半妖の血も薄く、ほとんど人間といってもいい。

 

 そう、いかに陰陽師といえども所詮は人間。

 何かしらの弱みさえ突きつければ、いいように操ることができるだろう。

 

 人間という生き物そのものを低く見ていたサトリは、そのような安易な考えから、土御門春明という人間の心の奥底に土足で上がり込む。

 

 

 彼という人間の——その深淵に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「——ふぅ~。それにしても、便利な力やな。家長さんのそれ……」

「えっ? そ、そうかな?」

 

 花開院ゆらは京妖怪を陰陽術で消し飛ばしながら、自身のサポートをしてくれているカナに声を掛ける。

 度重なる戦いと戦いが重なり、さすがに前面に出るのは体力的にもきついと自己判断したのか。カナは六神通の神通力——『天耳』と『他心』を行使しながら、ゆらや他の妖怪たちのフォローに専念する。

 もっとも、カナの身が心配なゆらとしては、そのサポートだけの参戦の方が安心できるし、それだけで十分に助かっている。

 

「まあ、こういった乱戦で不意打ちとか奇襲を防げるのはありがたいわね……」

 

 つららもそれに関しては同意見だ。

 カナの天耳は周囲の状況を聴覚だけで把握し、さらに他心が妖怪たちの悪意、敵意の分析をする。それにより、隠れている敵や、騙し討ちを仕掛けようとしている敵の存在を事前に察知することができる。

 敵味方が入り混じる乱戦の中、こういった能力は実にありがたい。

 

「……ううん。私なんて、まだまだだよ」

 

 だが、二人の少女の称賛に、カナは自身の技がまだまだ未熟な領域であることを告白する。

 

「六神通って言っても、まだ三つしかまともにコントロールできてないからね」

 

 現時点で、カナが自在に行使できる神通力は天耳や他心以外は空を飛翔できる『神足』だけだ。以前、四つめの神通力『宿命』を発動させることには成功したが、あれはあくまで偶発的なものに過ぎない。

 自在に引き出せない以上、カナが制御できている力とは言えない。

 

「それに、使える神通力も結構中途半端だからね……本当だったら、もっと凄いことができるんだけど」

 

 制御できている神通力にもいくつか欠点がある。

 例をあげるのであれば『他心』。カナは他心の力で周囲の悪意や敵意を感じ取っているが、本来の他心であれば対象の思考、深層意識まで深く掘り下げることができる筈なのだ。

 

 それこそ、心を読む妖怪・サトリのように。

 

 しかし、カナの技量では『相手の攻撃の意思を読み取る』くらいが関の山。 

 もしもそれ以上に精度を上げようというのであれば、さらに何年と修行する必要があっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、それでよかったのかもしれない。

 心を読む力というのは便利に思えるかもしれないが、決して多用すべき力ではない。人の思っていること、考えることを全て暴き、受け止めていいことなど何一つない。

 そんな状況、まともな人間の精神のままではきっと耐え切れない。

 

 サトリのような妖怪の心根だからこそ、平然としていられるのだ。

 

 もっとも、そのサトリでさえも——決して踏み込んではいけない領域というものがあるのだが……。

 

 

 

「……………………な、何?」

 

 

 

 サトリは不運にも、土御門春明という人間の弱みを握るために彼の深淵を覗き込んしまった。

 

 だが、そこでサトリは知ることとなる。

 土御門春明という人間の抱える事情を。彼という人間の真実を。

 

 それが——自分たち京妖怪にとって、決して無関係でないという事実を知ってしまった。

 

「お、お前……あ、あの方の……!!」

 

 衝撃のあまり思わず口走ってしまったサトリ。

 そんな彼の言葉に——『深淵』がゆっくりと振り返る。

 

 

 

 

 

 

「…………………見たな?」

 

 

 

 

 

 

 

『深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗く』

 

 

 

 

 

 ——…………サトリよ。覚悟せよ。

 

 ——お前は決して、踏み込んではならない領域に踏み込んでしまった。

 

 ——知ってはならないことを。知ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 




補足説明
 ガイタロウとガイジロウ
  弐条城東門の門番。四百年前ぬらりひょんに斬り捨てられた凱朗太の息子たち?
  親子二代……やられ役。不憫である。

 鬼一口  
  サトリの相方。何でも一口でペロリ。
  分かりやすく言っちゃうと、ワンピースのワポルのバクバクの実かな?

 サトリ
  漢字で書くと『覚』。心を読む妖怪としてはわりと広い認知度があるのかな?
  原作ではゆらの逆鱗に触れた彼ですが、今作においては……。 
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