家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

81 / 124
お待たせしましてすいません。
一か月ぶりの更新です。

話が途中で詰まると抜け出すので苦労してしまい、思わず『ゲゲゲの鬼太郎』の執筆に移ってしまう作者をどうか許していただきたい。

今回は一万文字までいかず、少し短いかなと思ったんですが、連載当初はこのくらいの文字数だったことを思い出して、安堵しながら投稿。

繋ぎの回ですので、そこまで原作改変している部分はないと思いますが、どうかお楽しみください。


第七十九幕 羅城門

 走る、走る。

 弐条城に突入した奴良リクオ、脇目も振らず城の廊下を駆け抜ける。

 羽衣狐の待ち構える鵺ヶ池目指し、百鬼夜行の中でも特に選りすぐった精鋭を引き連れ、彼は一直線に突き付けていく。

 

「…………」

 

 城内に潜入してそれなりの時間は経ったがその間、敵との遭遇はない。

 特に仲間と会話をしている暇もないため、無言を貫き通すリクオであったが——

 

「——っ!!」

 

 ついに敵と会合する。

 突き付けられる殺気に応えるよう、リクオは祢々切丸を抜き放った。

 

「……また会ったな、小僧」

「お前は、遠野で会った……」

 

 日本刀で斬りかかってきた京妖怪は以前、リクオが遠野で遭遇した鬼の頭領・鬼童丸である。

 複数の鬼の部下を引き連れ、狭い廊下で対峙する両者。

 

「ふむ……しかしようここまで辿り着いた。まさか、あの土蜘蛛を退けようとは……」

 

 鬼童丸は土蜘蛛を退けてここまで来たリクオの勢いに正直関心するように呟く。遠野で出会ったときからある程度の脅威を感じてはいたが、まさかこれほどできる奴だとは思っていなかったのか。

 しかし、これ以上はやらせんと彼はリクオの前に立ち塞がる。

 

「ここから先を通すわけにはいかん!!」

 

 鬼童丸にとって、まさにここは天王山。

 ここでリクオたちを食い止めねば自分たちの宿願達成——安倍晴明の復活最大の機会を失ってしまう。

 今の羽衣狐は出産寸前でとても戦えるような状態ではない。ここで自分が足止めをしなければ全ての苦労が水泡に帰すという責任感から、彼はかつてないほどの畏を体中から漲らせる。

 

「…………」

 

 リクオもリクオで、鬼童丸相手に気合を入れる。

 鬼童丸は京妖怪の中でも生粋の武闘派、幹部として一番の障害。土蜘蛛を退けた今、彼さえ打倒することができれば羽衣狐まで後一歩。リクオの目的——羽衣狐へのけじめ、父親の敵討ちという目的を達成することができる。

 そのため自然とリクオの眼光も鋭く、発せられる畏にも力が入る。

 

「お主に我々の宿願を阻む大義があるとは思えんが……」

 

 そんなリクオの戦う覚悟に——鬼童丸は不可解そうに首を傾げる。

 無知な相手への侮辱ではない。本当に、何故そこまでして自分たちに敵対するのかと疑問を抱いているようだ。

 

 

 すると、丁度そのタイミングで城全体が突如として揺れ始めた。

 

 

「キャッ!」

「こっ、こりゃ!?」

 

 その振動につららを始めとする百鬼夜行たちが戸惑い。

 

「まずいな……出産が始まったんか?」

「っ!!」

 

 羽衣狐の出産が始まったことを察し、秀元とゆらの二人が危機感を募らせる。

 

「……どけ、おっさん!」

 

 もはや悠長に話している時間も余計な戦闘をしている時間も惜しいと、リクオは鬼童丸に道を譲るように告げる。

 

「断る。改めて聞こう……。百鬼を率いてどうする? 私怨以上の大義があるのか!?」

「大義……だと?」

 

 道を譲らない鬼童丸。彼は奴良リクオに念のために問いを投げかけた。

 それが時間稼ぎでもあることを理解しつつ、奴良リクオは思わず彼の問い掛けに聞き返してしまう。

 

「あの方はおっしゃっていた……」

 

 鬼童丸の口から語られる『あの方』。おそらく彼らの主——鵺のことだろう。

 奴良組の百鬼夜行たちが奴良リクオを慕って付き従うように、京妖怪も鵺——安倍晴明を主と崇めている。

 

 鬼童丸曰く、安倍晴明は千年前の京の都で宣言したという。

 

 

『この世にふさわしいのは人と妖、光と闇の共生ではない。闇が光の上に立つ秩序ある世界だ』

 

 

「闇が……光の?」

 

 ここに来て、リクオは京妖怪たちが目的としている思想に触れる。

 

 闇とはすなわち妖怪。光とは人間のこと。

 彼らは妖怪が人間の上に立つ、妖上位の世界を作ろうとしている。

 それこそ安倍晴明の理想、その部下である京妖怪たちの大義だ。

 

「貴様も妖なら真の闇の主『鵺』の復活を共に言祝ぐべきだ。そして我ら京妖怪の下僕となり、理想世界の建設に身を捧げよ!」

「……」

「従わぬのならば……ここで死ね!!」

 

 鬼童丸が脅すようにリクオに迫るが、これでも彼なりに譲渡しているつもりだ。

 今ここで自分たちに従うのであれば、これまで敵対してきたリクオたちの罪を不問とする。共に理想の世界を目指そうではないかと、同じ妖怪として手を差し出しているのだ。

 その誘いに——リクオは口元に笑みを浮かべながら答える。

 

「なるほど……闇が人の上に立つ。確かに面白そうな話じゃねぇか。俺も妖怪だ……血がうずく」

「!? リクオ様!?」

 

 まさかの答えにつららが声を上げ、他の側近たちも驚愕にどよめく。

 半妖として人間のためにも戦ってきた彼が、京妖怪が理想とする妖怪が上位となる世界に興味を示したのだ。側近たちの驚きも当然だろう。だが——

 

「けど……そうじゃねぇ。オメーらとは違うんだよ」

「なに?」

 

 断る理由が理解できないのか、鬼童丸が呆気に取られる。

 そんな彼に向かって、リクオは刀を突きつけながら清々しい顔で言ってのける。

 

「妖怪は悪……確かにそうだ。人間相手に悪行三昧。人から畏れられる存在……」

 

 妖怪が悪——闇であることをリクオは否定しない。

 闇夜の住人である自分たちは光の中で生きる人間たちにとって脅威だろう。畏れられて当然の存在だ。

 

「ただよ、それでもオメーらと俺は違うんだ。俺は……テメェらみてぇな『情けない』奴らにはなりたくねぇんだよ」

「なんだと!?」

 

 続くその言葉を侮辱と受け取ったのか。ますます殺気立つ鬼童丸たちにリクオは己の理想を語る。

 

「テメェらみてぇに堅気の人間踏み付けにして、人の上に立つってのはよ……俺の理想とはかけ離れてる。妖の主なら、人間には畏を魅せつけてやんなきゃなんねぇ」

 

 そうだ。

 人間から畏れられるために、むやみやたらと人間を襲うようでは話にならない。

 人間には一方的に恐怖を植え付けるのではない。彼らに対しても堂々と胸を張れるような——少し子供じみた言い方をするのであれば『カッコいい悪の総大将』でなければならない。

 

 それがあの日——『立派な人になればいいんだよ』と諭されたリクオが、自分なりに考え出した己が答えである。

 

 ——そうだろ……カナちゃん?

 

 リクオは敵と対峙しながらも、そのことを教えてくれた幼馴染みの少女のことを思う。

 

 今もここではない、違う場所で戦っている家長カナのことを——。

 

 

 

×

 

 

 

「ひぃっ!? な、なに!?」

「じ、地震!?」

 

 羽衣狐が鵺を産む予兆。城全体が揺れる余波は城の最上階、天守閣にいた人間の女性たちの元にも響いていた。

 彼女らは羽衣狐に生き肝を捧げるため、連れてこられた霊感の高い人間たちだ。羽衣狐の食事のたびに徐々にその数を減らしてきたが、それでもまだまだ二十人以上の人間たちがそこに取り残されている。

 

「おお! ついに始まる!!」

「我ら京妖怪、千年にわたる宿願成就の時だ!!」

 

 天守閣には彼女たちの他にも見張りの京妖怪が数匹いた。

 大事な羽衣狐の食糧ということもあり、先ほどまでは厳重な監視の下で数十体という妖怪がそこの警備に当たっていた。

 だが、もはや羽衣狐は食事を必要としておらず、京妖怪の大半がとっくに鵺を迎え入れる準備に入っている。

 

 もはや、彼女らの役目は終わり、誰もその存在を気にも掛けない。

 役目を終えた今——京妖怪にとって彼女たちはいてもいなくても構わない存在なのである。

 

「……なぁ、こいつらどうする?」

 

 一人の見張りがその事実から仲間たちに問い掛ける。この余った『食糧』をどうすべきかと。

 

「そうだな……鏖地蔵様も好きにしろと仰っていたし、もう処分しちゃっていいんじゃない?」

「——!!」

 

 何気ない一言に女性たちの間に衝撃が走る。『処分』この状況でその言葉がどのような意味を持つか、分からない者はいない。既に何人もの女性が連れて行かれ、そして帰ってこなかった。

 自分たちの命運もここで尽きるのだと、その場にいる誰もが己の死期を悟る。

 

「い、いや……やめてっ!!」

 

 その残酷な真実に耐えきれずに一人の女性が嗚咽を漏らす。悲観は連鎖するように伝播し、皆が口々に叫び出す。「止めて」「助けて」と。

 

「ははは! 喚け、喚け!!」

「好きなだけ泣き叫べ人間ども! どうせ助けなど来んさ!!」

 

 しかし、彼女たちの懇願に京妖怪たちは愉悦の笑みを溢すだけ。彼らにとって人間の叫び声ほど心地よい良いものはなく、女性たちの絶望する表情に己が嗜虐心を満たす。

 彼女たちのその絶望をスパイスに、主の食い残した『残飯』にありつこうと手を伸ばしていく。

 

「さあ、一番手はお嬢ちゃんだ。生きたまま丸呑みにしてあげよう」

「や、ヤァっ!? 離してっ! 助けて、お母さん!?」

 

 妖怪の一匹が生き残っていた女性たちの中、一番の最年少らしき少女の体を掴み取る。少女は必死に泣き叫び母の名を呼ぶも、誰も名乗り出る者はいない。

 一人だけここへ連れてこられたのか、それとも既に母親は喰われてしまったのか。

 どちらにせよ今の少女に抵抗する術はなく、その生存は絶望的である。

 

「あがけ! あがけ! それじゃ、いただきまーす!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ついに京妖怪は大きな口をアングリと開け、少女を丸呑みにしようとする。少女の絶叫、それを皮切りに他の妖怪たちも残った女性たちに卒倒していく。

 

 これからこの場にて開かれるのは酒池肉林の前祝い。

 安倍晴明の復活を祝う、京妖怪たちの残酷な宴が彼女たちを血祭りに染め上げる——筈であった。

 

「ははは、はははははははは…………」

「……?」

 

 笑いながら、少女を丸呑みにしようとしていた妖怪の挙動がピタリと止まる。その様子に少女や妖怪、その場にいた全てのものが不審がる——次の瞬間。

 

 その妖怪のお腹を食い破るように、細く鋭い木の根が出現。

 その体を貫通し、一瞬で妖怪を絶命させる。

 

「いたっ……!」

「なっ、何者だ!?」

 

 自分を掴んでいた妖怪が力尽きたことで支えを失った少女がその場に尻餅をつく。力尽きた仲間を前に、京妖怪たちの間に緊張が走る。

 妖怪も人間も、その場の誰もがその妖怪を殺した『侵入者』の存在に目を奪われる。

 

「——これから死ぬ輩に名乗っても意味はねぇよ……」

 

 いつの間にか見張りの目を掻い潜り、その場に姿を現したのは『目つきの悪い少年』だった。

 彼は不機嫌さを隠そうともしない、寧ろ積極的にイライラをぶつけるかのような勢いで妖怪たち相手に攻撃を仕掛ける。木々を、まるで自分の手足のように操作するその術に妖怪たちが色めき立つ。

 

「き、貴様!! 陰陽師か!?」

「どうやって、ここまで!?」

 

 侵入者の存在は無論、彼らの耳にも届いていた。しかし、まさかこんなところを襲撃してくるとは思ってもいなかったのか、状況について来れずに浮き足立つ面々。

 そして、そんな致命的な隙を見逃してくれるほど——陰陽師・土御門春明という男は甘い相手ではなかった。

 

「……死ね」

「ぎゃあっ!?」

「お、おのれぇ!?」

 

 春明は降伏勧告などしない。

 目の前の京妖怪たちを敵と認識し、一切の躊躇いもなく血祭りに上げていく。その容赦のなさに抵抗しながらも戦慄する妖怪たち。

 

「ひっ!?」

 

 異形のものを顔色一つ変えることなく駆逐していく少年の姿は、その救援が救いである筈の女性たちにも空恐ろしいものを感じさせていく。

 

「そ、そこまでだ、陰陽師が!!」

 

 大半の妖怪たちが息絶え、生き残りが数匹となったところで京妖怪の一匹が声を荒げる。

 妖怪は一人の人間の女性の首元に刃物を突きつけ、春明に向かって必死な顔で静止を訴えかけていた。

 

「そ、それ以上、動くんじゃねぇ! この女殺すぞ!!」

「た、助けてぇっ!!」

 

 自分の命を守るためになりふり構っていられない妖怪に、自身の命の危機に懇願する女性。

 だが『無辜な人間を人質に取られる』という、シュチュエーションを前にしても春明は微塵も揺るがない。敵と人質の両者を冷たい視線で見下ろしながら、彼は冷酷に吐き捨てる。

 

「殺りたきゃやれば? 別に俺は構わねぇけど?」

「なっ!? き、貴様、陰陽師だろ!! この人間どもを助けに来たんじゃないのか!?」

 

 わざわざこんな場所に現れたことから、少年の目的がこの女性たちの救援であることは容易に想像できる。

 しかし、春明は特に人質の生死など気にすることもなく、周囲の妖怪たちを躊躇なく己の陰陽術・木霊で押しつぶし、切り刻んでいく。

 

「く、クッソがっー!! 馬鹿にしやがって!?」

 

 こうなったら京妖怪の方も形振り構っていられない。

 役立たずな人質をとっとと殺し、すぐにでもこの場から立ち去ろうと、突き付けていた刃物を思いっきり振りかぶろうとする。

 

「い、いやぁあああああああああああ!!」

 

 春明のせいで見せしめに殺されることとなってしまう女性の悲鳴が響き渡る。

 あわや、大惨事といったその直後——

 

「——っ!!」

 

 春明が派手に立ち回っていた、反対方向の入り口のドアが突如蹴破られる。

 そこから飛び出してきた巫女装束の少女・家長カナの登場により、その女性の危機は間一髪で阻止された。

 

「そこまでよ!!」

「なっ、なにぃい!?」

 

 カナの得物、槍の素早い一撃が妖怪の刀を打ち払う。

 さらに追い討ちを掛けるように、三つの黒い影が部屋の中に雪崩れ込んでいく。

 

「家長……殿! 先走った行動はっ——こ、これは!?」

 

 黒い影の正体は奴良組・三羽鴉。先頭の黒羽丸はカナがいきなり天守閣に突入したことに苦言を呈しながら、彼らも彼女の後に続いて部屋の中に突入し、目の前の惨状に目を見開く。

 

「ひでぇな、こりゃ。おめえがやったのかよ、陰陽師……」

 

 次男のトサカ丸も長男と同様のリアクション。

 彼らが揃って目を見開いたのは、いつの間にか先に突入していた土御門春明により、その場が血塗れな現場になっていたことだ。

 勿論、それらは全て京妖怪たちの死骸、人間は誰一人犠牲にはなってはいない。

 

「……だったらどうだってんだ、ああん?」

 

 春明は顔に飛び散った妖怪の返り血を拭いながら、黒羽丸たちに食って掛かる。

 別に敵を殺すことに何の問題があるのかと、鋭い眼光で自分に意見してくる三羽鴉たちを睨みつけてくる。

 

 

 

 

 ——なるほど。若の仰っていたとおり、かなり危険な人物のようだが……。

 

 三羽鴉の長男・黒羽丸はカナたちと共に人間たちの救出に向かいながら、常に春明の動向に気をつけていた。

 

 彼らは弐条城に突入する前、主である奴良リクオから軽くではあるが狐面の少女のこと——彼女の正体が彼の幼馴染みである家長カナだったと教えられており、そのついでにこの春明という陰陽師にも注意するよう言い渡されていた。

 

『——野郎はどうにも信用できねぇ。もしものことがあったら、カナちゃんを頼む』

 

 正直なところ、黒羽丸も最初は色々と混乱した。狐面の少女の正体もそうだし、いきなり彼女のことを守れと言われたことに関してもだ。

 だがリクオの命令、仕事である以上は従うというのが黒羽丸のスタンスであり、カナのことを警護対象として敬意を払い——その隣に立った春明を要注意人物として警戒する。

 

「もう!! 兄さん、勝手に一人で突っ走らないでよ!」

「けっ! お前が一人で突っ走らねぇよう、露払いをしてやったんだよ。有難く思え!」

 

 だが黒羽丸の心配とは裏腹に、カナは春明に自然な調子で話しかけている。

 互いに言い合うその姿はまるで兄妹喧嘩のよう。弟妹のいる黒羽丸は不覚にも親近感を抱いてしまう。

 

「お前たち、口喧嘩なら後にしろ」

 

 そうしていると、妹のささ美が冷静に状況を判断してカナと春明の話に割って入る。

 こんなときに揉め事をしている暇はないと、すぐにでも行動を再開するように言い聞かせる。

 

「す、すみません!」

「……ふんっ!」

 

 ささ美の小言にカナが素直に謝り、春明は気に入らなさそうにそっぽを向く。

 互いにまったく異なる反応だが、とりあえずこれ以上の揉め事を起こすつもりもないようだ。

 

 ——とりあえず、現時点では問題なし……。

 

 と、そのようなことを考えながら、黒羽丸も眼前の人間たちへの救助活動に専念していく。

 

 

 

 

「皆さん!! 大丈夫ですか!? 私たちは……花開院家の使いの者です。皆さんの救助に来ました! もう安心ですよ!!」

 

 一悶着あったものの、囚われていた女性たちを相手に家長カナが代表して声を張り上げる。

 

 カナが花開院家の名を借りて率先して声を掛けたのは、ひとえに女性たちに安心してもらうためだ。

 先ほど春明が京妖怪を無残に血祭りに上げる光景を見ていたためか、彼女たちの間に彼に対して怯えた空気感が漂っている。

 さらに他の面子、三羽鴉にいたっては黒い鴉の羽が明らかに人間でないと分かる。そのため人間で、一番それっぽい巫女装束のカナが率先して語りかけることで、彼女たちに怯えや不安を払拭してもらおうと試みる。

 

「け、花開院って……あの有名な陰陽師の?」

「わ、わたしたち……助かるの?」

 

 カナの言葉に人々が希望に顔を上げる。

 花開院の名はテレビを通してある程度世間に認知されていたし、地元である京都においてその知名度は高い。

 妖怪に囚われていたこの状況下で、陰陽師の存在を今更疑うものもいないだろう。

 

「ええ……もう安心です」

 

 助けが来たことでホッとなる女性たちの表情に、カナも口元を緩ませる。

 だがその一方で、そこにいた女性たちの数が二十人弱と少ないことにカナは暗い影を落とす。

 

 ——助けられるのは……これだけなの……。

 

 彼女たち以外にもここに連れてこられた人々がいた筈だ。自分たちがここへ駆けつけるまでの間に——いったいどれだけの人が羽衣狐への供物と捧げられたか、想像に難くない。

 沈痛な面持ちで落ち込みカナ。しかし、それが目の前の彼女たちに手を差し伸べない理由にはならない。

 

「…………」

 

 不安そうな表情でカナを見つめる子供がいる。先ほど京妖怪に食べられかけていた幼い少女だ。

 カナはしゃがみ込み目線を合わせ、その子を安心させようと優しく語りかけた。

 

「……もう大丈夫だよ。よくがんばったね」

「っ!」

 

 その言葉に、塞き止めていたものが堪え切れずに溢れ出したのか。

 

「う、うわぁ~ん!! 怖かったよ!! おねえちゃん!!」

「よしよし……」

 

 少女は泣きじゃくりながら、縋るようにカナの胸に飛び込んできた。

 その少女を優しく抱きしめながら、カナは改めて決意を固める。

 

 ——せめて……生き残った彼女たちだけでも救ってみせる。

 

 ——リクオくん……こっちは任せて!!

 

 

 今も別の場所で戦っている、幼馴染みの少年のことを思いながら。

 

 

 

×

 

 

 

「……そうか、お主。父親の業をも身につけたか……」

「なっ、鬼纏が防がれた!?」

 

 鬼童丸との戦闘に入った奴良リクオ。彼は百鬼の下僕であるつららと協力し『鬼纏』を放とうとした。

 しかし、大技である鬼纏を放とうとした直前、鬼童丸につららとの繋がりを刀で断たれ、鬼纏は不発に終わる。

 

 現在、奴良組率いる奴良リクオと京妖怪率いる鬼童丸がぶつかっている場所は弐条城の廊下ではない。

 鬼童丸たち、鬼の一族がかつて住処としていた『羅城門(らじょうもん)』。その幻影がリクオたちの眼前に立ち塞がっていた。

 

 もともと、この弐条城はこの世のものではない。京妖怪の蓄積された怨念が産んだ幻の城。彼らの思念通りに変化するため、鬼童丸は戦いの舞台としてこの場所を選んだのだ。

 羅城門——芥川龍之介の作品では『羅生門(らしょうもん)』と名前が多少変化しているが、千年前の京都では文字通りその門は『城』としての役割を有していた。

 ただしそれは人間のではない。妖怪——鬼たちにとっての城。彼らはここを拠点に京の都を恐怖のどん底に陥れた。

 鬼である彼らにとって、まさにここは城塞。ここから先は通さぬという彼らの強い意志を感じられる。

 

「……お前、親父を知ってんのか?」

 

 その羅城門を舞台にリクオと鬼童丸の大将同士がぶつかり合う。リクオは鬼纏が防がれた以上に、相手の口から父親のことが出たことに驚く。

 

「……ああ、そうだ。何故忘れていたのだろう。奴とは何度も畏をぶつけ合ったのに……」

 

 リクオの問いに鬼童丸が思い出したように呟く。実際、彼は羽衣狐を復活させるため何度もリクオの父・鯉伴と戦い、そして敗れている。

 屈辱の歴史とはいえ、何故そのことを忘れていたのかと疑問を持ちながらも、鬼童丸は戦いを続ける。

 

「その業……鬼纏と言ったか? やはりお前は侮れんな」

 

 鬼纏——半妖であるリクオと鯉伴が行使する御業。鬼童丸も実のところ半妖なのだが、彼にはその業を使うことはできない。しかし、何度か鯉伴と戦った経験を瞬間的に思い出したことで、鬼童丸はその鬼纏の『破り方を思い出し』それを素早く実行に移す。

 鬼童丸の知る鬼纏は確かに威力が高い恐ろしい業だが、その分隙も多い。主人と配下の畏が重なり合い、放たれるまでの間に若干のタイムラグが存在する。その隙を——歴戦の強者である鬼童丸は見逃さず業を阻止した。

 鬼纏を行使される前に潰すという油断のなさ。土蜘蛛とは別の意味で、リクオにとって彼は驚異的な好敵手である。

 

「ワシの本気の畏でここで断つ!!」

 

 さらに間髪入れずに鬼童丸は攻勢に打って出る。

 リクオが起死回生の手段に出る前に彼を討ち取ろうと、遊びも油断もなく己の畏を解き放つ。

 

剣戟(けんげき)・梅の木!!」

「! つらら、下がってろ!!」

 

 鬼童丸のプレッシャーを感じ取り、鬼纏を防がれたことで体勢を崩していたつららを庇いながらリクオが前に出る。その彼に向かい、容赦なく襲い掛かる鬼童丸の剣戟の雨あられ。

 

「梅の木は無限に広がる枝葉の如き剣! 貴様の手数では防げんぞ!!」

「くっ……」

 

 まさにその言葉どおり。鬼童丸の剣戟は無限に広がり、枝葉の如く広がって奴良リクオに浴びせられる。

 その連続攻撃をなんとか凌ごうと祢々切丸で応戦するも、リクオの太刀捌きではその全てを防ぐことは出来ない。リクオの守りはやがてジリ貧となり、致命的な一撃を食らってしまうかもしれない。

 

 だが、ここで忘れてはいけないことがある。

 それは——彼が決して一人ではないという事実だ。

 

 リクオが危機に瀕したのなら、それを救うために彼の百鬼が手助けに入るということを——。

 

「——暗器黒演舞」

「ムッ!?」

 

 鬼童丸の無限の剣戟を防ぐものが割って入る。

 暗器黒演舞——無数の暗器を法衣の袖から出現させる、奴良組特攻隊長・黒田坊の畏である。その手数の多さで鬼童丸の剣戟を防ぎ切り、動きの止まった彼の刀を首無の紐が絡めとることで動きそのものを封じる。

 鯉伴時代から奴良組に尽くしてきた二人の強者。その内の一人、黒田坊が感心したようにリクオへと呟く。

 

「リクオ様。鬼纏を習得なされていたのですね。いやはや驚きました……齢十二にしてこの成長ぶり」

「お前らっ!?」

 

 リクオが土蜘蛛を打ち破った戦いに居合わせていなかった彼ら。

 当然の流れとして、リクオが鬼纏を使えることを知らなかったし、まさか使えるとは思っていなかった。

 

 だが、鬼纏は彼らにとっても特別な業。鯉伴と共に彼らも紡いだことのある絆の証。

 それがどういったものなのか、リクオよりも深く理解している。

 

「だが……まだまだ不慣れなご様子」

 

 それを理解した上で——まだまだリクオの鬼纏には向上の余地があることを見抜き、そして宣言した。

 

「御教授しんぜよう……鬼退治我らと共に!!」

 

 鬼纏のさらなる可能性。それをこの戦いで伝えると。

 

 

 それこそ、先達として鯉伴と共に戦ってきた、自分たちの役割だと信じて——。

 

  




補足説明
 羅城門と羅生門
  本文でも説明していますが、今昔物語では『羅城門』と呼ばれていた場所。
  そこを芥川龍之介が『羅生門』と名前を変えて小説を発表したとのこと。
  全然、ぬら孫とは関係ない知識ですが、一応覚えておいてください。

  ちなみに……自分はこの知識を『某YouTube大学』の動画で覚えました。
  にわかですが、学ぶって楽しいってその動画を見ながら実感しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。