家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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先日、ウルトラジャンプで新連載する椎橋先生の新作『岩本先輩ノ推薦』拝見してきました。公式では無料の読み切りが掲載されており、その頃から「あっ、これいいな……」と思っていた作品です。
連載化は素直に嬉しくコミックスが出たら買おうかと思いますが……一つ突っ込ませてくれ。

この『ヒロイン?』らしき子は女なのか? 男の娘なのか?
一読しただけでは分からん!!

読み切り版では男の子だったが……連載版はどっちなんだ!?
それとも作風の都合上、女の子は出てこないのか!?

今後の展開が別の意味で気になる作品だ!!



番外編③ 師走・付喪神騒動

 九月二十三日。

 その日、関東任侠妖怪総元締——通称・奴良組の本家は異様な静寂に包まれていた。

 

 既に時刻は夜。静まり返る奴良本家に多くの妖怪たちが集っている。

 

 本家お抱えの武闘派である青田坊や黒田坊。

 お目付役である鴉天狗、相談役である木魚達磨。

 奴良組を誰よりも愛しているが故に、その奴良組に一度は反旗を翻した牛鬼。

 何かと現体制への不満を漏らしていた一ツ目入道、その他大勢の幹部たち。

 

 それら主義主張の違うもの同士。下手をすれば意見の違いから言い争うになりそうな面子。

 

 しかし、大広間でずらりと並び立つ彼らは一切の無駄口を叩かない。

 普段の会合ともまるで違う。正装で身を固めた皆がそれぞれ張り詰めた空気を維持し——その時が来るのを静かに待ち続ける。

 

 

 

 

「——待たせたな」

 

 やがて、一人の老人がその会合の口火を切った。

 

「奴良組はこれから地獄から蘇る鵺たちとの全面抗争に入る。畏の奪い合い……怯んでいるヒマはねぇ」

 

 奴良組初代総大将・妖怪ぬらりひょんだ。

 その肉体はすっかり痩せ衰えているがその言葉、眼光に一切の緩みはない。

 その場に集った妖怪たちが、尊敬するべき彼の言葉に身を引き締める思いで耳を傾けていく。

 

「そして……その指揮はコイツがとる」

 

 しかし、今の彼は総大将ではない。

 今日この日をもって隠居する身。鵺たちとの抗争、今後の奴良組の総指揮——その全てを次なる世代へと託す側である。

 

「これはここにいる奴良組幹部の総意である。よいな」

 

 有無を言わせぬ、ドスの効いた声音でぬらりひょんは宣言する。

 その言葉に若干不安げな表情の幹部もいたが、誰も反対意見を口にするものなどいない。

 

 

「——三代目を継ぐにあたって言っておく。まず俺は人に仇なす奴は許さん」

「!」

 

 

 そして託された側、ぬらりひょんの跡を継ぐべき男が真っ先に口にする言葉。

 それこそがこの男——奴良リクオの『芯』となるべき部分であった。

 

「仁義に外れるような奴はなお許さん。たとえ他の妖怪に敗れそうになってもだ」

 

 妖怪の強さとは畏の奪い合い。

 互いに畏れをぶつけ合うことで勝敗を決定づける戦いだが——自分の力をただ強めるだけなら人間を襲った方が早い。その辺の適当な人間を怖がらせ、恐怖させることで一時的にだが己自身の力を強めることもできるだろう。

 

 しかし、奴良リクオはそれを許さない。

 これは妖怪同士の抗争、その争いに堅気の人間を巻き込むなど絶対に認めない。

 

 そんな『カッコ悪い真似』は許さない、そう言っているのだ。

 

「それは『畏』を失わぬ、そういう妖であれということだ」

 

 どんなときでもカッコよく、畏れという誇りを失わぬ『妖』であること。

 そんな立派な『人』になることこそが——あの日、幼馴染に気付かされた大切な夢なのだから。

 

「俺はこの組をそういう妖怪の集団にする」

 

 そのために、彼はこの奴良組を継ぐ覚悟を決めた。

 妖怪として覚醒した日から四年。随分と時間が掛かってしまったが、これでようやくその理想へと一歩近づけた。

 

 己の理想を胸に——奴良リクオは改めて宣言する。

 

 

「それが三代目の——百鬼夜行だ! いいな」

「「「「——はっ!!」」」」

 

 

 リクオの宣言に一同が力強い返事で頭を垂れる。

 

 幹部の中には未だにリクオに不安を覚えている者、彼の実力を測りかねている者。

 裏切り者として面の皮を被っている獅子身中の虫もいたが、少なくともこの会合の場で不満や反旗を翻すものはいなかった。

 

 この日を境に奴良リクオは十三歳。妖怪として『成人』と認められる年齢となる。

 それにより候補ではなく、彼は正式な奴良組の三代目と任命されることとなったのだ。

 

 

 

 

 ——リクオ様……。

 

 そんなリクオの晴れ舞台。会合の場の末席で雪女のつららが静かに見つめていた。

 

 ——ここまでの道のり、大変お疲れ様でした。つららは……感無量でございます!!

 

 彼女は胸の奥から溢れ出す喜びを何とか抑え、心中で彼の晴れ姿を祝う。本当は叫びたいほどの歓喜に溢れていたが、さすがにこんな厳かな雰囲気でそんな真似は出来なかった。

 

 リクオの側近でもあり、彼に淡い想いを寄せている彼女にとって今回のリクオの三代目襲名は、それこそ自分のこと以上に嬉しい。

 リクオが生まれた日から今日まで。彼を慕い、彼を信じてついてきた自分たちの苦労が報われた瞬間だと。

 きっと、つらら以外の側近たちも胸の内の猛りを抑えるのに必死になっていることだろう。

 

 ——リクオ様……これからもつららは一生、貴方様の側で支えさせていただきます!

 

 だがここで終わりではない。リクオにはこの先も多くの試練が待っている。

  

 鵺との抗争は勿論、父親の仇とも呼べる百物語との決着。

 新しい大将として、今後は奴良組全体を取り仕切っていく必要があるのだ。

 

 ——必ず!! 貴方様の力となってみせます!!

 

 つららは改めて決意を固めていく。

 彼の側近としてその手助けをし、彼の力になっていくことを——。

 

 

 

×

 

 

 

 リクオの三代目襲名から時は流れる——。

 

 冬、師走の時期がやってきた。

 師走とは十二月の異称だ。その意味の由来には色々あるが『師匠である僧がお経をあげるために東西を走り回る月』なんだそうだ。

 師匠ですら忙しい時期、当然ながら弟子——部下や家来といった身分のものたちも忙しくなる。

 

「——ふぅ~……今回こそは、上手くいきますように!!」

 

 リクオの下僕であるつららもまた、その忙しさをその身で実感することになる。

 

 彼女は現在、奴良組と少し離れた場所——錦鯉(にしきごい)地区という場所のとある境内に来ていた。そこは奴良組の管轄であり、元々は彼女の母親・雪麗が管理していた土地であった。

 しかし今回のリクオ三代目襲名に伴い、組内部で大きな人事異動があり雪麗は正式な形で引退。

 

 その後釜として——彼女の娘であるつららがこの地区を管理する幹部『側近頭』として就任したのだ。

 そう、及川つららも今や立派な幹部。自分の百鬼を持つという大任をリクオから直々に任されたのである。

 

「さあ! 今日も頑張るわよ!!」

 

 つららは主人からの期待を胸に、この錦鯉地区で己を奮い立たせる。

 この地区を強化すること、地道だがそれもまた奴良組を——大将であるリクオを強くすることに繋がる。

 彼から託された信頼に応えるためにも、今日も彼女はこの地区の頭としての業務に励むことになった。

 

 

 その筈なのだが——。

 

 

「——やかましい!! こちとら、今日のガラクタ市で忙しいんだよ!!」

「——お飾りの頭は黙って見てな!!」

 

 これである。

 その錦鯉地区で働く妖怪たち・荒鷲一家とつららはなかなか上手く連携が取れないでいた。

 

 荒鷲(あらわし)一家。

 彼らはこの錦鯉地区を三百年間任されてきた人材。見た目は完全に人間と同化しているが、これでも立派な妖怪。奴良組にとって大事な財源の一つ、歴史あるテキ屋系ヤクザ妖怪なのである。

 その事実を誇りとしているだけあってか、新参者であるつららに彼らは厳しかった。

 

「いいですか? 上からの命令だから置いておきますが……あまり余計なことはせんで下さい!」

 

 彼らは地盤の強化のためにやって来たつららを邪魔者として扱う。さすがに本家の顔を立てて、彼女を追い出すような真似はしなかったが、それでもなかなか辛辣な対応である。

 まあ、彼らの対応もある意味で仕方がない。

 

「寄ってらっしゃい!! 見てらっしゃい!!」

「さあ! 今日は焼きそばがオススメだよ!!」

 

 彼らの仕事はテキ屋の運営。縁日などで寺に集まった人々を楽しませるために汗だく働く、徹底的な現場仕事なのだ。

 しかも今は『ガラクタ市』という骨董市場が開かれるかき入れどきだ。そんなクソ忙しいときに屋台のイロハも分からぬような小娘に来られたところで、教えられることなど何一つない。

 

「おら! 邪魔になんねぇよう、隅っこの方で大人しくしてな!!」

 

 そういった事情もあり、彼らはつららを閉職へと追いやる。

 小娘の相手などしていられるかとばかりに、己の仕事に邁進するわりと働き者の男たちだったのである。

 

 

 

 

「う~~……こんなのリクオ様はおろか、誰にも見せられない。は、恥ずかしすぎる!!」

 

 厄介者として持ち場を追い出されたつららは、寺の隅っこでしょぼくれていた。

 せっかくリクオの力になれると思っていたのに、実際には何も出来ずにこの始末。自分を信じてこの地を任せてくれたリクオに顔向けができない。

 

「かかか……バッカだなー、雪ん子! 情けねぇ!」

「やっほう、つらら久しぶり!」

 

 すると、そんな情けないつららの姿を嘲笑うよう、笑い声が木の上から聞こえてくる。

 つららがハッとなって顔を上げると、そこには牛鬼組・牛鬼の側近である牛頭丸、馬頭丸の二人がいたのだ。

 

「あ、あんたたち!! 本家預かりでしょ!? なんだって外うろついてんのよ!?」

「バーカ、それはもう解かれたよ」

 

 つららにとって特に牛頭丸は犬猿の仲。そんな彼からの挑発的な態度に何とか言い返すも、正直相手にすらしてもらえない。

 

「牛鬼様が貸元頭になられてお忙しいからな。いつまでも本家で遊んでるわけにゃいかんのよ! お前と違って、こっちは忙しいんぜ!!」

「ぐっ……あ、遊んでるくせに……」

 

 自分から絡んでおきながら牛頭丸たちはつららを笑い飛ばし、すぐにその場から立ち去ってしまう。

 

 ——くぅっ……見られた! 恥ずかしいぃ~!

 

 まさに『穴があったら入りたい』というやつだ。つららの顔が恥ずかしさと屈辱によって真っ赤に染まる。

 さらに、彼女の不運はそれだけにとどまらない。

 

「見ろ!! この古臭いボロ寺を!! ハッハッハッ!!」

「こ、この脳に響く笑い声は……」

 

 牛頭丸たちと入れ替わるように響き渡る特徴的な笑い声。

 よもやとつららが振り返れば案の定——そこには特徴的なワカメ頭の少年・清十字清継の姿があった。

 

「あれ? お、及川さん!?」

「あ、ほんとだ。つららちゃんじゃん」

「なに、そのカッコ……バイト?」

 

 清継だけではない。

 彼の他にも島や巻に鳥居と、つららの正体を知らない同級生たちが勢揃いしている。

 

 ——こ、こっちの人にも見られた……!

 

 つららの格好、屋台を手伝うためのエプロン姿にアルバイトとでも勘違いしたのだろう。

 しかし事情を知らずともこんな恥ずかしい姿、見られただけで悶絶ものだ。

 

 ——くぅ~……か、かくなるうえは皆を凍らせて……それからっ!

 

 つららは思わず全員を凍らせ、その場を適当にやり過ごそうかとテンパった考えを抱いてしまい、大きく息を吸い込んでいた。

 そのまま雪女として凍える吐息を吐こうとした、まさにそのときである。

 

「及川さん、及川さん……落ち着いて」

 

 テンパる彼女を落ち着かせようと、一人の少女が声を掛ける。

 清十字団の一員としてその場にいながらも、雪女としての正体を知っている彼女の存在につららは徐々に落ち着きを取り戻していくこととなる。

 

 

「あっ……い、家長さん……」

 

 

 

×

 

 

 

「そっか。及川さん……色々大変なんだね……」

「そ、そうよ! これでも幹部だからね、何かと気苦労が多いのよ!」

 

 錦鯉地区でたまたま遭遇したつららとカナの二人。彼女たちは寺の隅っこに腰掛け、つららはこの地区をリクオから任せれたことをカナへ愚痴と共に聞かせていく。

 

「家長さんたちはどうしてここに? ……まあ、聞かなくてもなんとなく分かることだけど……」

「ははは……ま、まあね。多分……お察しのとおりかと思います」

 

 話の中、つららはカナにどうしてこの地区に来ているのかと尋ねた。ここは浮世絵町とも少し距離のあるエリア、何の目的もなくふらっと訪れるような場所ではない。

 

 もっとも、質問していたつらら自身が何となく理由を察し、カナも乾いた笑い声で頷く。

 お察しのとおり、全てはあの少年——我らが清十字団団長・清継の思いつきから始まったことである。

 

 

 

『——集合だ、清十字団!! 今日は錦鯉地区のガラクタ市で妖怪を探すぞ!!』

 

 今朝方のことである。

 カナの元に例の携帯電話に清継から連絡があった。清十字団は全員、駅前に集合。そのまま錦鯉地区で開かれているという、骨董市へ足を運ぶとのことだ。

 参加メンバーはカナを含めて五人。清継、島、巻、鳥居といった面子。ゆらは今も京都におり、凛子はこの師走で実家の手伝いが忙しいらしく、残念ながら今回は不参加だ。

 リクオも忙しくて不参加、カナは少し迷ったが——とりあえず顔は出すことにした。

 

『まったく弛んどるぞ、諸君!! まあいいさ……参加できるメンバーだけで構わん! 今日こそここで妖怪に出会うのだ!!』

 

 何人かのメンバーの欠席に不満を漏らす清継であったが、それで彼の妖怪への熱意は収まらない。

 彼はこの骨董市——古いものが集まるガラクタ市ならば妖怪に出会える筈だと。ほとんどやる気の見られない団員たちと共に妖怪探索に乗り出す。

 絶望的に霊感のない彼では、それこそ奇跡でも起こらなければ妖怪と遭遇することなどないのだろうが、実際目の付け所は悪くなかった。

 

『ガラクタ市は付喪神の研究にもってこいだからねぇ!!』

 

 このガラクタ市、相当年代が古い器物が揃っているようだ。これだけ古ければ妖怪『付喪神』が宿るものがあってもおかしくはないだろう。 

 

 付喪神——古い器物に魂が宿った妖怪。

 猫が百歳を経て『猫又』といった妖怪になるよう、物でも年月が経れば妖怪となる。

 奴良組にも何体かそういった妖怪がいる。『納豆小僧』などがいい例だろう。あれも藁苞の納豆に魂が宿った付喪神の一種だ。余談だがあの納豆……食べることはできるらしい。

 

 

 

「ほんと……目の付け所だけは悪くないのよね……はぁ~」

 

 つららが呆れ気味に息を吐く。

 彼女はよりにもよって今日、この地区に清継たちが来てしまったことに頭を抱えていた。ただでさえ荒鷲組との関係が上手くいかなくて悩んでいたというのに、さらに清十字団の面倒も見なければならないのかと。

 心労を募らせるつらら、ため息の数も自然と増えていくというものだ。

 

「……及川さんは、気にせずに自分のやるべきことをやればいいと思うよ」

「……へっ!?」

 

 そんな疲れた様子のつららの心中を察し、カナが声を掛けた。

 

「色々と大変なんでしょ? 皆のことはわたしが見てるから、及川さんはお仕事頑張って……手伝えることがあれば、いつでも言ってくれて構わないから」

「い、家長さん……そ、そうね。そうしてくれると助かるけど……いいの?」

 

 カナの申し出に感謝しながらも、つららは少し戸惑った。彼女一人に清継たちの面倒を任せていいものかと、若干の後ろめたさを覚えたからだ。

 しかし、それを面倒ごとと思っていないのか。

 

「ううん、大丈夫だよ! 任せてくれれば! それに……」

 

 カナは満面の笑みでそのように答え、その視線を清十字団の面々へと向けていた。

 

 

 骨董市で元気いっぱいに妖怪を探し回る彼らを、慈しむような瞳で——

 

 

「今は、少しでも皆との時間を……大切にしたいから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~……さてと、どうしたものかしらね……」

 

 カナに清十字団の面倒を見てもらえることになり、つららは目下の問題へと集中する。

 つららがやるべきこと——それは勿論、荒鷲組との関係を良好なものとすることだ。組の強化、大将であるリクオの畏を強めるためにもそれは最優先事項。

 そのために、つららは何としてでも荒鷲組の信頼を勝ち取らねばならないのだが。

 

「……相変わらず、邪魔者扱いなのよね……もう!!」

 

 あちらの方は未だにつららを厄介者扱い。こちらから手伝うといっているのに一向に仕事を任せてすらくれない。ここまで露骨にそっぽを向かれると、さすがにつららの頭にも血が上ってくる。

 

「まったく、これがなきゃやってらんなかったわよ! はぁ~……生き返るわ♪」

 

 昂る感情、それをつららはかき氷を食べることで何とか抑えていく。

 

 そう、かき氷だ。十二月のこの時期に『かき氷』である。

 如何に縁日の定番といえども、この季節にそんなものを出している屋台もなかなかない。

 このかき氷市販のものではなく、雪女であるつららが自前の氷で作った手作りである。

 

 自分の手製ということもあり、いつもより美味しく感じられるかき氷に舌鼓を打ちながら、つららはこの先どうするか思案に耽っていた。

 

「——つめたっ! うわ~、久しぶり~……この感覚!!」

 

 と、そのときだった。

 突然、つららが手に持っていたかき氷の容器——氷鉢から声が聞こえ、氷の中からもぞもぞと何かが顔を出してきた。

 

「自分でかき氷作るなんて……あなた、もしかして雪女かしら!」

「へっ!? え、ええ!? だ、誰?」

 

 かき氷の中から現れたのは何とも小さな、愛らしい妖精のような女の子である。

 頭にちょこんとミニサイズのかき氷を乗せ、着物を纏った彼女は自らを——お(りょう)・大正浪漫硝子の付喪神と名乗った。

 

 

 大正時代。

 今のように発泡スチロールの容器が使い捨てされる前の時代。かき氷といえばガラスでできた氷鉢が使われるのが一般的だった。

 ガラス容器は当時の時代で流行の最先端。現代においてもその時代のデザインがかなり珍しく、マニアの間ではそれなりに高値で取引されて——名称としては『大正浪漫硝子(たいしょうろまんがらす)』としてブランド化されている。

 つららはこの大正浪漫硝子の氷鉢をガラクタ市の露天商で見つけ、衝動的に一つ購入していたのだが——。

 

 

「もう造られて百年くらい経ってますから、妖怪になりました!」

 

 製造されてちょうど百年の月日が経ち、氷鉢であるお涼も付喪神として魂が宿ったのだという。これまで大事に扱われてきたこともあり、人格も善良な女の子そのものである。

 

「よろしくです。ご主人様」

 

 礼儀もしっかりとしており、お涼は敬意を込めてつららへと頭を下げる。

 

「はぁ……えっ? ご、ご主人様!?」

 

 色々と唐突だったことで反応が遅れたつららだが、お涼の口にした『ご主人様』という言葉に目を剥く。本人曰く、「氷の器から生まれた付喪神だから雪女に仕える」とのことだ。

 まるで生まれたばかりの雛が親鳥を慕うように、無条件に無邪気に自分のことを主人と慕うお涼に戸惑いながらも、つららは満更ではない良い気分に浸る。

 

「……はっ!?」

 

 さらに、彼女はこのタイミングで思い出す。

 露天商で売られていた氷鉢が、一つではなかったことを。

 

 少なくともあと数十個の大正浪漫硝子・氷鉢が今この瞬間——つららの手が届くところにあるということを。

 

 

 

×

 

 

 

「——くそっ!! 食材が足らねぇぞ……おい、誰か材料買ってこい! 野菜と肉と……あと小麦粉も!!」

「——無茶言うな!! こっちだって手一杯だっつうの!!」

 

 屋台で料理をこさえていた荒鷲組の一人が声を荒げる。

 今まさに客入りもピーク時、そんなときだというのに大事な食材が切れてしまったのだ。もうすぐ作り置きしていた分もなくなる。せっかくのかき入れどきだというのに、このままでは料理を提供することができずに客足も遠のいてしまう。

 しかし食材を補充したくとも皆忙しく、買い出しに割ける人員がいないという状態。

 

 まさに『猫の手も借りたい』というやつだろう。

 

「——買ってきました!! 追加の食材です!!」

 

 と、誰もが焦りを覚えていたときだ。指定の食材を超特急で買ってきた少女が笑顔で料理人にものを手渡す。

 他でもない、荒鷲組の組員たちがお飾りの頭と疎んでいたつららである。

 

「お、おう……サンキューな……」

 

 つららの笑顔があまりに輝かしいものだったためか、彼女のことを快く思っていなかった組員ですら照れ臭そうに食材を受け取る。

 別にそれだけで彼女のことを認めたわけではないが——正直、そんなこと言ってられるような状況ではない。

 

「おい……こっちも手伝ってくれよ」

 

 別の組員が忙しさのあまりつららに手伝いを申し出る。ついさっきまで彼女のことを邪魔者と追いやっていただろうに、随分と都合の良い注文である。

 

「ハイ!! 任せてください!!」

 

 しかし、そんな厚かましい頼みであろうとも嫌な顔一つせずにつららは元気いっぱいに応える。

 少しでも荒鷲組の役に立てることを望み、率先して雑用仕事をこなしていく。

 

「行くよ! つらら組~! 全員私についてきなさい!!」

「——シャリシャリ!!」

 

 新たに配下に加わった氷鉢の付喪神たち——『つらら組』を従えて。

 

 

 そう、つららは露天商が扱っていた大正浪漫硝子の氷鉢、その全てを買い占め——それらに宿っていた付喪神全員を下僕とすることに成功したのだ。

 

『雪女様、ありがとう!!』

『つらら姐さん!』

『ついていきます、一生! 何があっても!』

 

 全員がお涼と同じよう、雪女であるつららを主人と認め、喜んで彼女のことを崇め奉ってくれた。

 これにより気分を良くし、つららはすっかり調子を取り戻す。

 どんな雑用仕事でも率先してこなしてやろうという気分になり、せっせと業務に励むこととなったのだ。

 

 ——やっと役に立てる!

 

 ——リクオ様、見てて下さい!!

 

 これで敬愛する主人からの信頼に応えることができるだろうという、安堵と喜びに包まれながら。

 

 

 

 

「……なんだよ、あの娘。嬉しそうにさ……」

「おかしーんじゃねぇの!?」

 

 そんなふうにせっせと働くつららに、荒鷲組一同がポカーンとしている。

 何故、ああまで嬉しそうに働けるのか。

 お飾りの頭であればただ威張るだけ、踏ん反り返えるだけでもいいだろうに。どうしてあんな雑用すらも嬉しそうにこなせるのかと。

 最初の印象以上に変な小娘だという感想を抱きながらも——彼らの中でつららへの視線が変わり始めていく。

 

「働きモンだなぁ……」

 

 古今東西、働き者が嫌いな職人などどこにもいない。それは妖怪の世界だろうと同じことだ。

 バリバリのテキ屋系ヤクザ妖怪である荒鷲組にとっても、つららの働きぶりは実に感心するものだった。

 

 ただのお飾りでは決してない。

 つらら自身の輝くような働きぶりに、彼らもようやくそれを理解し始めていくのである。

 

 

 

 

「おーおー、つららちゃん、しっかりバイトしてんな!」

「感心だね~……」

「及川さん……エプロン……」

 

 つららの働きぶりを見ていたのは荒鷲組だけではない。

 妖怪探しにやってきた清十字団の面々も、遠目から彼女のバイト姿を見守っていた。巻と鳥居は同級生であるつららの働きっぷりに感心し、島が彼女のエプロン姿に見惚れている。

 

「うーむ、ここに妖怪の姿はいないようだ……」

 

 清継は相変わらず、目の前に妖怪がいるというのにそれを見つけられないでガックリと項垂れている。

 

「……あの調子なら、問題なさそうだね」

 

 そして、家長カナも。清十字団の面倒を見ながら、つららの働く姿に口元に笑みを浮かべる。

 最初、つららと出くわしたときは随分と落ち込んでいる様子で心配していたのだが、どうやら問題はないようだ。あれだけ嬉しそうに働けるのであれば、きっと彼女は大丈夫だろう。

 

「清継くん。とりあえずもう夕方だし……そろそろ家に帰らない?」

「う、うむ…………仕方ない、今日はここまでだ、諸君」

 

 カナはつららの邪魔にならないよう、清十字団の面々を家に帰すために清継へと声を掛けた。既に時刻も夕方、この錦鯉地区から浮世絵町まで結構距離もあるため、今から帰り支度を整えねば夜遅くなってしまうと。

 清継は少々未練を引きずっているようだが、一向に付喪神に出会える気配もなかったため、この場は大人しく引き下がってくれるようだ。

 他の清十字団共々、ガラクタ市を後にしようと境内の外へと歩き出した——

 

『——おい、カナ』

「……?」

 

 そのときだ。カナのカバンの中から声を出すものがいた。

 その声に反応したカナが、歩き出した清十字団と少し距離を置きながらカバンの中をそっと開け、その声の主——狐面へと囁き声で返す。

 

「……どうしたの、コンちゃん? そろそろ家に帰ろうとしたところなんだけど……」

 

 その狐面の正体はコンちゃん。

 狐面に魂が宿った付喪神、お面の妖怪・面霊気である。

 

 カナの友人にして、公の場で戦う際などに正体を隠すために被るお面。リクオや奴良組の面々には既に正体が割れてしまっているが、清十字団の皆に対してカナは未だに自身の正体を隠している。

 そのため荒事などがあった際、いつでも戦闘態勢に入れるよう面霊気を持ち出してきたのだが——

 

『……何か……嫌な気配がする……』

 

 ここまで出番もなく、ずっと大人しくしていた面霊気がカナに警告を促していた。

 単純に妖気を感じたというわけではない。

 

 これは言うなれば、直感というものだ。

 面霊気は付喪神として、そのガラクタ市に集っていた邪な気を感じ取っていた。

 

 

 

×

 

 

 

 付喪神とは、長い年月を経て器物に魂が宿った妖怪。

 氷鉢・大正浪漫硝子のお涼や、狐面・面霊気のコンのよう、人に大事に扱われることでその人格に善性を宿すものもいるのだが——

 

 大半の付喪神というやつは、どちらかというと負の怨念。打ち捨てられた恨みなどで邪悪な性質を宿すものが殆どである。

 彼女たちのように、人に害をなさない付喪神の方が寧ろ少数派だと言っていいだろう。

 

 そして、人に打ち捨てられた怨念は——

 

 時として人に害をなし。牙を剥くことがある。

 

 

 

「——うわぁ!! な、何だ!?」

 

 悲鳴を上げたのはガラクタ市にお客として訪れていた人間の男性だった。

 その男性は露天商で売られていた骨董品をいくつか購入し、上機嫌で帰り支度を始めようと思っていた。

 

 だがその矢先、買い込んだ骨董品が突然動き出したのだ。

 

 人間であり、霊感のない男性には単純に『骨董品の皿が動き出した』かのように見えただろう。

 しかし、その場に居合わせた荒鷲組の妖怪たちにははっきりと見えていた。

 

 手足の生えたその皿が、明らかに邪悪な妖気を纏った状態で人々に危害を加えようとしているのを——。

 そして、暴れ始めた骨董品——付喪神は皿一枚だけではない。

 

「……えっ? さ、皿が……!?」

「わ、わしの壺がっ!?」

 

 ガラクタ市のいたるところから、お客たちの買った骨董品の数々が動き出し、一箇所に集っていく。

 皿やら、壺やら、陶器やら。まるで生き物のように蠢き、それは一つの集合体として巨大な人形の妖怪の姿を模していく。

 

 付喪神の集合体——その妖怪の名を『瀬戸大将』と呼ぶ。

 

 付喪神の中でも、とりわけ不遇な目にあってきた品物。何らかの曰くを持ち、人々から『呪いの品』として敬遠されてきた一品たちが合体した姿。

 

 そうして出来上がった瀬戸大将。積もり積もった恨みを晴らそうと人間たちへと襲い掛かる。

 

「ど、どうなってんだ!?」

「た、助けてくれ!?」

 

 何がどうなっているか理解もできず、人々は混乱し恐怖する。だが、慌てふためく人間たち相手だろうと付喪神たちは容赦しない。

 彼らにとって人間は、自分たちをぞんざいに扱ってきた憎むべき相手。

 

 これは因果応報である。

 瀬戸大将は戦国武将の如き風格で、手にしたアーチを槍のように振り下ろさんとする。

 

「——皆さん、下がってください!! ここは私が!!」

 

 しかし、そうはさせまいと。瀬戸大将の眼前につららが立ち塞がる。

 彼女は妖怪・雪女としての姿を堂々と晒し、人々を守るために力を尽くさんと奮闘する。

 

 ——この人たちを守らなきゃ!! リクオ様なら……きっとそうしてる筈だから!!

 

 人前で妖怪の力を行使することに抵抗がないわけではないが、きっとここにリクオがいれば自分と同じよう動くだろう。困っている人間を放置するなどという、『カッコ悪い』真似を彼がするわけがないと。

 つららは奴良組の、リクオの理想を貫かんと戦っていく。

 

「つらら姐さんを守れ!!」

 

 つららの下僕になったばかりのお涼を始めとした、大正浪漫硝子の付喪神たちも主人である彼女を援護する。

 彼女たちは奴良組の理想などまだ何も知らないが、つららのためにと彼女のサポートに回る。そして氷鉢の化身でもある彼女たちは、雪女であるつららの妖力を増幅する能力を持っている。

 付喪神としての一人一人の力はさして強くなかったが、数十という数が揃えばそれは立派な『百鬼夜行』の一部として機能し、主であるつららの畏も高めていく。

 

「これでも食らいなさい!!」

 

 そうして、強力になった冷気の力でつららは巨大な氷の棍棒を生成。その得物で自身の身の丈を大きく超える瀬戸大将を見事に打ち砕いていく。

 ところが——

 

「なっ!? まだ動けるの!?」

 

 倒したと思った瀬戸大将だが、その体の部品となっていた付喪神たちは健在だった。もともと、一匹一匹の妖怪として自我を持っていた皿や壺といったそれらが再び単体で動き出し、周囲の一般人たちに襲い掛かる。

 

「うわぁ!?」

「ひゃああ、な、何をするんじゃ!?」

 

 既に閉まっている店が大半だったが、骨董市にはまだまだお客さんが残っていた。殆どが骨董好きの爺さんたちばかりだが、そんな年寄り相手であろうとも付喪神たちは遠慮などしない。

 

「くっ、数が……これじゃ、埒が明かない!!」

 

 瀬戸大将のように固まっていればつららの吹雪で凍らせて動きを封じることができたが、散り散りになった相手ではどうにも分が悪い。

 多勢に無勢、つららは無数の付喪神たちに苦戦を強いられる。

 

 だが、苦戦しているつららの元へ救援が駆けつけることで状況が一変する。

 

「——てめーら、ここ俺たち荒鷲一家のシマだぞ!」

「——勝手に暴れてんじゃねぇぞ!!」

 

 荒鷲組の屈強な男たちだ。

 ここは彼らのシマなのだから参戦してくることは必然。この錦鯉地区を守るのがこのシマを縄張りとして預かる彼らの義務。

 しかし、そういった義務感以上に彼らを突き動かすものがそこにあった。

 

「女一人に戦わせるなんざぁ、名がすたらぁ!!」

 

 そう、自分たちよりも先に異変を察知し、お客さんを守るために戦うつらら。

 彼女の戦う姿に感心し、彼らはその助太刀をするべく立ち上がったのだ。

 

 

 すれ違っていたつららと荒鷲組。互いの思いが通じ合った瞬間である。

 

 

「みんな……」

 

 彼らの手助けもあり、つららは数の劣勢を覆していく。

 だがそれでも均衡は破れず、つららたちは付喪神たちを倒し切ることができずにいた。その理由というのも——

 

「おい、こいつら……はっ倒しても割っても立ち上がってきやがる!」

「カラクリ人形みてぇだな! 気持ち悪い動きしやがって!!」

 

倒しても倒しても、付喪神たちは何度でも復元し立ち上がってくる。執念で蘇るというより、何かに無理矢理操られているという感じだと荒鷲組の男たちが叫ぶ。

 

「えっ、カラクリ人形……はっ!?」

 

 その指摘につららが何かに気付く。

 

 粉々に砕かれていく付喪神たち。その周囲をよくよく見ると何か——『糸』のようなものが見えていたのだ。

 どうやらその糸によって、付喪神たちは何者かに操作されているらしい。

 

「なら……この糸を辿っていけば……けど、人がっ!?」

 

 つららはその糸の出所を辿っていき、敵の本体——付喪神たちを操る大元を探ろうと試みる。しかし、周囲には未だにお客さんたちが多数おり、その中から黒幕を見つけ出すのはなかなか骨が折れる作業だ。

 間違っても一般人に危害を加えるなどあってはならない。つららは元凶を探すのにかなりの慎重さを求められる。

 

「——及川さん!」

「……っ!」

 

 すると、そこへつららの名を叫ぶ少女の声が響き渡る。つららが空の方を見上げると、そこには狐の面を被った巫女装束の少女が滞空していた。

 

「誰だ……あれ?」

 

 荒鷲組の組員たちなどは、その少女が何者か分からず困惑していた。

 しかし、つららにはそれが誰なのか瞬時に理解できた。

 

「い、家長さん!?」

 

 そう、家長カナだ。

 他の人間たちの手前、一応は素顔を隠しているようだが、つららには問題なく彼女が誰なのか認識できる。

 被っているお面・面霊気には『認識阻害能力』があるが、既に素顔を知っているものにはその効力も発揮できない。

 しかし何も問題ないと。カナはつららに向かって手短に用件を伝える。

 

 

「——二時の方向! フードを被った男!!」

「! ええ、分かったわ!!」

 

 

 つららは何故と問う前に動いていた。

 カナの指示を信じ、彼女の指摘した方角へと意識を向ける。

 

 信じたとおり、そこを中心に傀儡の糸は張り巡らされており、この騒ぎの元凶——禍々しい妖気を放つ妖怪がそこに潜んでいた。

 

「——人が死んだら地獄にゆくの……物が死んだらどこ行くの?」

「こいつも……付喪神!!」

 

 そのフードを被った男も、また付喪神だった。

 その正体は——江戸時代に造られたカラクリ人形の成れの果て。

 

 人に操作される筈の人形が、糸によって何かを操る能力を得たらしい。相当ひどい扱いを受けてきたのか、その顔も身体も傷だらけ。そのせいで恨みつらみを抱くようになったのだろう。

 

「ここはもらう……ここの畏は……オレたちが、乗っ取る……」

 

 憎悪が籠ったような呟きの奥に、どことなく悲しい旋律が籠められているように感じられる。

 

「…………そうはいかないわ」

 

 そのカラクリ人形と対峙したことで、つららは少しだけその人形に同情の念を抱く。

 彼も、その他の骨董品たちも。もっと大事に扱われていればお涼や面霊気のように善性を抱くこともできただろうにと。

 しかし、それでもつららが刃を鈍らせることはなかった。

 

「ここは私が……預かった土地だから!!」

 

 つららにとっても譲れない想いがある。

 ここを任された者として、リクオに託された側として。これ以上、彼らの狼藉を許すことはできない。

 

「はぁああああああ!!」

 

 つららは渾身の妖気を冷気に込め、一気にそれを解き放つ。

 

 お涼たち・つらら組のサポートがあったからか。

 それとも、荒鷲組一同と気持ちが通じ合ったからか。

 

 彼女の妖力はかつてない規模で高まり——見事、その氷がシマで悪さを働く元凶を打ち砕いていった。

 

 

 

×

 

 

 

「ふぅ~……今日は色々あったな……」 

 

 骨董市での騒動終結後。つららは夜の帰り道を歩いていく。

 

 今回の騒動。人前で妖術を行使したりと何気に危ない橋を渡ったような気もしたが、幸いにも荒鷲組の妖怪たちが適当に誤魔化してくれたおかげで事なきを得た。

 あの一連の騒ぎを『氷と骨董のイリュージョン!!』と開き直るように周囲に説明するのにはさすがに耳を疑ったが、相手がスマホも知らないようなお爺さん世代ばかりというだけあってか、何とかなってしまった。

 こういった開き直り、つららにはないかもしれない。伊達に三百年間、あの地区を守り抜いてきただけのことはある大胆さだった。

 

 そんな荒鷲組だが——今日のつららの働きぶりに、遂に彼女のことを認めてくれた。

 つららが体を張って人々を守った姿が、頑なだった彼らの心を突き動かしたのだ。

 

 彼らはつららのことを『姐さん』と慕うことになり、彼女の主である奴良リクオにも従ってくれると誓ってくれた。

 ぶっちゃけ、自分より妖怪として年上の彼らから姐さん呼ばわりされるのは少しむず痒かったが、なんにせよこれで彼女の目標は一つ達成できた。

 錦鯉地区の地盤を強化し、荒鷲組との信頼を深め、奴良組全体を強化していく。

 

 それが来るべき鵺との決戦の際、必ずや奴良リクオの力になることだろう。

 

「お涼ちゃんたちも……今日はありがとうね!」

「いえいえ! 私たちの方こそ、今後ともよろしくお願いしますね!」

「シャリシャリ!!」

 

 そして、力となってくれるようになったのは荒鷲組だけではない。

 つららの新たな下僕となってくれたつらら組・大正浪漫硝子の付喪神たちも一緒だ。

 

 お涼を中心に、今後ともよろしくと頭を下げる。彼女たちと連携を高めていくことで、つららの雪女としての戦術の幅も広がっていくことだろう。

 

「……そういえば、家長さんにも後で礼を言っておかなくちゃ……」

 

 そこで忘れてはならない人のことも思い出す。

 今日の戦いにおいて、ほんの少しではあるがつららのサポートをしてくれた家長カナだ。おそらく神通力の力で敵の居所を探り、つららに伝えてくれたのだろう。彼女のおかげで迅速に悪意ある敵を発見することができたことは実に喜ばしいことだった。

 

「清十字団の子たちの面倒も任せちゃったし……うん! やっぱり、正式に挨拶もしておかなくちゃね!」

 

 正直、つららはカナのことを避けていた節があったかもしれない。

 それは彼女のことを嫌っているというわけではなく、ただ単純に気まずいと思ったからだ。

 

 

 何せ——彼女とは同じ殿方を想う間柄。ある意味でライバルだ。

 今のところ相手側にその気はなさそうだが、今後の展開でそれがどのように転ぶかも分からない。

 

 

「けど……そんなこと言ってられる状況じゃないし……また今日みたいなこともありそうだしね……」

 

 けれど、今はそのようなことを意識している場合ではない。

 当面の危機——鵺との決戦・百物語との抗争を共に乗り切るためにも。今後はより一層カナとの連携を密に取っていく必要はあるだろうと。

 

「あっ……雪だ」

 

 そのタイミングで降り注いできた雪を無邪気な顔で見つめながら、つららは自分と同じように夜空を眺めているであろうカナへと思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——ゴホッ! ガハッガハっ!!」

 

 純白に染まった雪景色が、赤い色で染まる。

 咳込んだカナの——吐血によって染まった血の色だ。

 

『……どうしたカナ? 風邪か……それにしちゃ、変な咳だが……』

 

 既にカバンの中に押し込まれてしまった面霊気は、カナの吐血するその姿を見ることができずにいた。

 咳だけを聞き、ただ単純に風邪かとカナの体調を気遣う。

 

「……うん、冷えてきたからね……なかなか、体調が戻らないんだ…………」

 

 面霊気の気遣いに努めて平静を装うカナ。

 けれど、彼女は自身の身が徐々に蝕まれていくその様子を時間の経過と共に感じていた。

 

 最近は少しでも『神通力』を行使するとこれだ。

 どうやら——その時は刻一刻と迫っているようだと、既に何かを悟り始めるカナ。

 

「…………あと少しでいいから……もってよね……」

 

 しかし、ここで倒れるわけにはいかないと。

 彼女は空虚な瞳で空を見上げる。

 

 

 

 

 きっとその空の向こう——今も人々を苦しめているであろう、憎き怨敵への憎悪をさらに滾らせながら。

 

 

 

 




補足説明
 荒鷲一家
  錦鯉地区を任されているテキ屋系ヤクザ妖怪の皆さん。
  見た目は完全に人間のヤクザ。いったい何の妖怪なんだ!?

 つらら組・お涼
  お涼を始めとした大正浪漫硝子・氷鉢の付喪神たち。
  雪女初めての百鬼夜行・つらら組。つららとの連携で必殺技は増えるぞ!

 つららが戦力を拡大していく一方。
 カナの方は順調?にフラグを立てていきますが……。

 一応、次回の話を最後に番外編を終了、百物語編に移行したいと思います。
 次回は大晦日・そしてお正月の話です。

 奴良組のめでたい席にカナちゃんが参加します、次回もお楽しみに! 
  
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