家長カナをバトルヒロインにしたい   作:SAMUSAMU

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個人的に今年はリメイク・リマスター・リビルドといった作品が熱い年になりそうだ。

四月には『サガフロンティア』のリマスター。待ちに待ったヒューズ編がようやくプレイできる!
六月は『聖剣伝説レジェンドオブマナ』のリマスター。不朽の名作、サガフロと同じで何度でもやりたくなってくる神作!
夏には『月姫』のリメイク。ぶっちゃけ、本当に発売するかはまだ怪しいけどやっぱり楽しみな作品だ!
冬頃には『ポケモン・ダイパ』のリメイク。こっちは蓋を開けてみなければ分からないけど……まあ、一応楽しみではある。

そして……今月は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』リビルドしたエヴァの最終作。
今日、この小説を投稿した後に……映画館に行ってきます。
神話の終わりを……この目で見届けてくるぞ!

さて、こっちの小説の方も今回で番外編を一旦終了。
次回以降から『百物語編』を始めていく予定です。

とりあえず、本編を呼んだ後は、後書きの次回予告もどうぞ……。


番外編④ 奴良組正月大宴会

 妖怪というやつは騒ぐのが大好きだ。

 あくまで江戸妖怪、特に奴良組の本家に棲みつく妖怪たちに言えることだが、彼らは事あるごとに宴会を催し、しこたま酒を浴びるように飲み尽くす。

 

 

 

 一月。

 

「正月じゃ!!」

「宴会じゃ、宴会じゃ!!」

 

 当然のように新年を祝い、本家では主要な幹部を招いた大宴会が大体的に開かれる。

 一年の始まり、盛大に飲んでは暴れ回ることが通例と化していた。

 

 四月。

 

「花見じゃ!!」

「桜じゃあ、桜じゃあ!!」

 

 庭の桜が咲いた頃を見計らい、連日連夜に渡って酒を酌み交わしていく。

 花見は桜の花が枯れるまで続き、長い時だと二週間にも及ぶ長丁場となる。

 

 十月。

 

「ハロウィンじゃ! ハッピーハロウィンじゃ!!」

「菓子をよこせ! 酒をよこせ!!」

 

 人間たちの間でもすっかり秋の風物詩と化した一大イベント。

 この流行に乗っかり、日本妖怪たちもどんちゃん騒ぎ。街中に繰り出さないだけ、はた迷惑な人間たちよりマシかもしれないが。

 

 十二月。

 

「メリークリスマスじゃ!!」

「サンタが……サンタが——!!」

 

 ハロウィンなど祝うのだから、当然のようにクリスマスも大騒ぎ。

 サンタの仮装をするものものまで現れ、奴良組の大広間は混沌と化す。

 

 

 

 こうして一年中、飲めや歌えやの大騒ぎを毎年のように繰り返していくことになるのだが。

 

 たった一日だけ。

 飲んだくれてばかりの妖怪も大人しくなり、一滴も酒を飲まなくなる日が存在していた。

 

 それこそが——『大晦日』である。

 

 十二月三十一日、一年を締め括る最後の日。

 一年中、騒ぎに騒いだ後に来るその日、妖怪たちは恒例の行事を真面目に行っていく。

 

「——それじゃ、大掃除で」

 

 大掃除。

 今年の汚れは今年のうちに。汚れを来年まで持ち越さないことこそが、彼らなりの矜持であった。

 

 

 

×

 

 

 

「ふぃ~……今年は色々あったからな……」

 

 箒を片手に感慨深く呟きながら、奴良組の中でも相当な古株・納豆小僧が真剣に掃除に精を出していた。飲んだくれ妖怪の筆頭である彼だが、この日だけは真面目に務めを果たす。

 今日一日、頑張って掃除をすれば日付を跨いだ一月一日。宴会で飲む酒がまた格別に上手くなるのだから。

 

 そう、奴良組では明日。

 正確には日付を跨いだ零時丁度。その瞬間に新年会が始まり、またもどんちゃん騒ぎが繰り返される。

 夜にこそ本領を発揮する妖怪だからこそ、深夜から飲み始めるのである。

 

「こりゃ! さっさとやらんか! 早くせんと、幹部らが来るぞ!!」

 

 その前準備として、今は掃除に専念しろと。本家のお目付役であるカラス天狗がテキパキと皆に指示を出し、客として出迎える幹部たちが来る前に大掃除を終わらせようとしていた。

 

 しかし、気が早い幹部の中には既に本家入りしているものもいる。

 

 

 

 

「……邪魔するぞ、カラス天狗」

「うおっ!? もう来たかのか、牛鬼!」

 

 本家勤めでもないのに真っ先にやって来たのは——牛鬼組貸元頭・牛鬼である。

 牛の歩みと言われるほど思慮深いとされる彼だが、その本質は寧ろ逆。ここ数年の奴良組弱体化に対し真っ先に警鐘を鳴らし、謀反という形を取ってでも組の立て直しを図った迅速さはこういった場面でも健在。

 誰よりも早く本家入りし、正月の大宴会に備えるため、前もって掃除の済んでいた客間へと移動していく。

 

「早いではないか、牛鬼。捩目山の方は大丈夫なのか?」

 

 そんな牛鬼を出迎えたのは、先に客間にて待機していた木魚達磨だった。

 彼はカラス天狗などと同じ本家勤めであり、既に相談役としての仕事をあらかた片付けている。そのため余裕を持ち、客間にて茶を一服していた。

 

「問題ない。ここ最近はあの辺りもだいぶ落ち着いてきたからな……安心して部下たちに任せられる」

 

 木魚達磨の質問に、牛鬼は揺るぎない答えを返す。

 牛鬼が縄張りとしている捩目山は奴良組の最西端。何かあった場合、真っ先に外部からの侵略対象となる確率が高い防波堤だ。そのため牛鬼自身も常に警戒を解くことが許されない、難しい立場に置かれていた。

 だが、ここ最近はこれといった小競り合いもなく、捩目山付近もすっかり静かになったと柄にもなく牛鬼は安堵していた。

 

「これも若のおかげだ。若が……リクオが京妖怪の残党を見逃したことが、逆に連中を大人しくさせることにつながった。見事な采配だ」

 

 牛鬼が推察するに、捩目山付近が安定したのには西日本最大勢力——『京妖怪』たちの存在が大きい。

 

 京妖怪は現在、羽衣狐の代理である狂骨という若い妖怪の娘が束ねている。そして狂骨率いる京妖怪たちが西日本で睨みを効かせている関係上、他組織の連中が非常に動きにくい状態になっているというのだ。

 もしもあの夏、京妖怪の残党を始末していたら。

 狂骨という抑え役を失い、京妖怪たちは暴走。生き残った残党たちがバラバラに散らばり、各地に甚大な被害をもたらしていただろう。京妖怪以外の他勢力もその混乱に乗じて動き、奴良組の縄張りである捩目山などを侵略してくる可能性もあった。

 

 そうならなかったのも全ては若の采配のおかげだと。その成長が嬉しいこともあり、牛鬼は新しく三代目を継いだリクオのことを褒め称えていた。

 

「いやいや……さすがに買い被りだろ」

 

 一方、牛鬼の賞賛に呆れたように言葉を漏らす者もいる。

 未だにリクオに対してどこか当たりの強い、反対派筆頭だった妖怪・独眼鬼組貸元頭・一ツ目入道である。 

 

「あれはただ甘ちゃんなだけさ。その甘さが……いずれわしらの足を掬うことになるかもしれんぞ?」

 

 半妖であるリクオに三代目を継がせることを一応は認めた一ツ目だが、こうして苦言を呈することはある。

 牛鬼が褒めたリクオの采配もただの偶然であると、今でも甘い考えの彼を完全に受けれていない様子を隠そうともしない。

 

「その甘さをフォローすんのが、俺たちの仕事なんじゃないのかよ、ええ、叔父貴よ!?」

 

 すると、今度は一ツ目の言い分に食ってかかる者が声を上げる。関東大猿会会長・猩影だ。

 今回の奴良組内部の大幅な人事異動により、彼もまた正式な幹部として昇進した。リクオと同じように、亡くなった父親の跡を継ぐことになったのだ。

 リクオと似たような境遇から、彼自身はどちらかというとリクオ寄りの考えを持っていた。

 四国との抗争の際には色々と複雑な思いをしたが、京都での戦いを共に乗り越えたことでその迷いも晴れたようである。

 

「猩影の言うとおりだぜ。俺たちは……そのためにここに集まってんだろが、ああん?」

 

 猩影に同意するのは薬師一派組長・鴆である。

 元より、リクオと義兄弟の盃を交わした男。病弱な身であるため最前線で戦うことは難しいが、それでも医者として全面的にリクオのバックアップをしていく。彼のような後方支援組も、大事な組の戦力だ。

 

「……ふん! 随分と若い奴が幅を利かせるようになっちまったな……」

 

 猩影や鴆といった若い連中が、血気盛んに自分に意見する光景に一ツ目は鼻を鳴らす。

 

 彼らのような若い連中。四百年前の羽衣狐との抗争も、初代ぬらりひょんの全盛期すら知らない連中に意見されて内心はかなり面白くないのだろう。

 今更リクオに反旗を翻すつもりもないようだが、だからといって積極的に彼のために働く気もない一ツ目。

 

 

 このように、奴良組の幹部といっても決して一枚岩ではない。

 今は『鵺討伐』という、分かりやすい脅威が眼前にあるため、リクオの下で全員が大人しく力を合わせている。

 だが一ツ目入道のように、未だにリクオのことを快く思っていない者たちも少ながらず存在している。

 

 こういった面子が有事の際、果たしてキチンと機能するかどうか?

 リクオの采配がさらに試されることになるのは言うまでもないだろう。

 

 

「まあまあ、落ち着けお前たち。せっかく正月迎えるのだ、とりあえず……今日のところは皆でめでたい席を祝おうではないか……なあ?」

 

 しかし、今はいちいち意見の違いで歪みあっている場合ではないと。木魚達磨が年寄りと若い者たちの間に入る。こういった仲裁はやはり相談役である彼の領分だろう。

 

「……ああ、分かってるよ」

「ふんっ……!」

 

 木魚達磨の言葉には若い衆である鴆や猩影。古参組である一ツ目も牛鬼も黙って従う。

 とりあえずこれ以上の議論はせず、深夜に始まる宴会まで大人しくするつもりのようだ。

 

 だが、ここで予想だにしない来客があった。

 

 

「——あ、あの……失礼します……」

 

 

 幹部たちが待機しているその客間へ、おっかなびっくりといった様子で一人の少女が顔を出す。

 見た目は中学生、勿論その実年齢も十三歳。

 

 明らかに妖気を感じない——普通の人間の少女だ。

 

「ああん、なんだお前は!? どっから入り込んできやがった、この小娘が!?」

 

 いきなり人間の、それも小娘が幹部たちの部屋に入ってきたことに一ツ目入道がいきり立つ。不愉快さを隠そうともせずにその子を追い出そうとするも、そこへ鴆が待ったを掛ける。

 

「待てよ、一ツ目。お前さん……確か、家長カナだったか?」

 

 その少女——家長カナ。

 自分たちの大将であるリクオの大事な幼馴染。京都でも共に戦ってくれた相手として、鴆は彼女のことをしっかりと覚えていた。

 

「ほう、お前さんが……」

「リクオの……」

 

 木魚達磨や牛鬼も話だけは聞いていたようだ。

 カナのことをリクオの大事な友人として、決して邪険にはしない。

 

「ケッ! ……で? その若のご友人が何の御用かな? 今夜は奴良組の大事な席だ! 無関係な人間はとっとと出て行ってくれ!!」

 

 だがやはりと言うべきか。一ツ目入道はカナをリクオの友人と認識しながらも良い顔をしない。

 所詮は人間と、奴良組とは直接関係のない彼女を追い出そうと声を荒げる。

 

「うむ、確かに……いかなる用向きかは知らんが、また後日にしてくれんかのう、家長殿」

「ああ、そのとおりだぜ。京都では世話になったが……今夜は遠慮してくれないか?」

 

 木魚達磨や猩影といった面子も一ツ目に賛成し、カナに出て行ってもらうように願い出る。

 

 いかにリクオの大事な人であろうとも、たとえ神通力とやらが使える人間であろうと、あくまでカナは部外者。奴良組としても、若菜のような身内でもない限り、人間を無条件で受け入れるわけにはいかないのである。

 ところが——

 

「それが、そう言うわけにもいかんのだよ、お前たち……」

「どういうわけだ、カラス天狗?」

 

 本家の妖怪たちと掃除に精を出していたカラス天狗が幹部たちの前に再び顔を出す。

 どうやら、カラス天狗自身がカナをここまで案内して来たようだ。彼自身も少し困ったような顔をし、カナの方へチラリと目線を向ける。

 

「あっ、は、はい……わ、私の方からご説明させてもらいます」

 

 カラス天狗のその視線を受け、カナはその場にて襟を正すように気を引き締める。

 そしてゆっくりと深呼吸しながら——自分がどういった立場でここにいるのか、挨拶と共に奴良組の幹部たちに告げていた。

 

「改めまして……私は家長カナと申します」

 

 

 

「この度、富士天狗組・富士山太郎坊様の名代として、本日開かれる奴良組の会合に参加するよう言伝を預かりました」

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 沈黙、幹部一同が沈黙する中。カナ本人もやりにくそうに顔を曇らせるが、とりあえず最後まで挨拶をやり切っていく。

 

「ふ、不束者ですが……どうかよろしくお願いします」

 

 そうして深々と頭を下げたカナに対し——

 

「……なっ、なにぃいいいいいい!?」

 

 一ツ目入道が我に返って素っ頓狂な悲鳴を上げていた。

 

 

 

×

 

 

 

 富士天狗組。

 富士山周辺を縄張りにしている、富士山太郎坊という大天狗を頭に据える妖怪組織である。

 

 彼らは四百年前、ぬらりひょんと喧嘩別れしたことで奴良組から事実上離脱した。一応はまだ組の方に席こそ残しているが、ほとんどそれも形骸化していた。

 それは奴良組が最強と呼ばれた時代、奴良鯉伴が二代目になった際も変わらなかったという。

 もはや奴良組と関わることは二度とないのだろうと、彼らの存在は古い妖たちの記憶の中へと置き去りにされていた。

 

 だが、そんな彼ら富士天狗組が現代、奴良リクオの代になって突如として表舞台に出てくるようになったのだ。

 そんなことになったのも、彼女の——家長カナの存在が大きいという。

 

 なんでも、カナは富士天狗組の組長である富士山太郎坊。かつてぬらりひょんと喧嘩別れした大天狗から教えを受けた——言ってみれば、直弟子的な立場にあるというのだ。

 そんな彼女がリクオの幼馴染であったということもあり、前回の京都遠征においても、彼ら富士天狗組も京妖怪との抗争に力を貸してくれた。

 

 それにより、奴良組は四百年断絶が続いていた富士天狗組と再び友好関係を築く足掛かりを得たのである——。

 

 とはいえだ。

 四百年ぶりに戻って来たからといって、いきなり仲良しこよしで手を取り合えるわけではない。

 リクオとカナの関係が良好であろうとも、肝心の富士天狗組・富士山太郎坊が頑なに奴良組との関係を修復しようとはしなかった。

 

『——協力はしてやるが、今更貴様らと連むつもりはない』

 

 太郎坊の言葉だ。

 鵺という脅威を前に組として協力こそ約束してくれたものの、それ以上友好関係を深める気がないとはっきりと明言してきた。

 事実、彼は会合などにも顔を出さず、リクオの三代目就任の席にも不参加を貫いた。

 

 此度の正月での大宴会も。招待されていたのだが、顔を出すつもりもなくそっぽを向いていたのだが——。

 それは流石にまずいのではと、富士天狗組内部から声が上がったらしい。

 

『太郎坊様、せめて代理人を立てるくらいしなければ……いざというときの連携に支障をきたす恐れがあります』

 

 協力するのであればそれなりの態度を示すべきだと。亡くなった若頭・ハクの代理を務める部下にそのように進言されてしまった。

 

『代理人か……あまり気乗りはせんな』

 

 部下からの申し出に、太郎坊は最初あまり乗る気ではなかった。自身が行くのも勿論嫌だったし、部下に代理として行かせるのさえ抵抗感を抱いていたようだ。

 行ったら負け、などというよく分からない感情が働いていたらしい。

 

 だが——

 

『ん? そうだ!! あやつに行かせれば良いではないか!!』

 

 そこで妙案が閃いたと、太郎坊はすぐさま浮世絵町にいる家長カナに手紙を送った。

 奴良組から送られてきた『宴会の招待状』と共に、彼女に手短に要件だけを伝える手紙だ。

 

 

『——家長カナ。お前に我ら富士天狗組の名代として、奴良組の会合に出席することを命じる』

『…………はい?』

 

 

 手紙を受け取ったカナ自身も目を丸くしていたが、断るという選択肢もなかった。

 

 

 こうして——家長カナは富士天狗組の名代として、『正式な形』で奴良組の宴会に参加することになったのである。

 

 

 

×

 

 

 

「——テメェら、明けましておめでとう」

 

 深夜零時。どこかの寺の108回目の鐘を突く音が奴良組本家にまで響く。

 日付が変わって新年、すかさずぬらりひょんが口を開いた。彼の言葉を大広間に集った本家の妖怪たち、各地より集結した幹部たちが静かに耳を傾けていく。

 

「知ってのとおりだが、昨年九月二十三日。奴良組は奴良リクオが三代目を継いだ」

 

 しかし、既に自分は奴良組の代表ではないと。ぬらりひょんは新年早々の挨拶を孫に任せてすぐにその身を引っ込める。

 ぬらりひょんの後を継ぎ、リクオから新年の挨拶が告げられていく。

 

「……晴明との抗争はすぐに迫っている。今年一番は勝負の年だ」

 

 真面目な口調で妖怪のリクオが語るように、今年は確実に鵺が復活する年となるだろう。かつてない強敵を前に、抗争がこれまで以上に激化することが予想できる。しかし——

 

「だが、それはそれとして……」

 

 リクオは真面目な挨拶をすぐに切り上げ、口元に笑みを浮かべる。

 彼自身も、校長先生の退屈なスピーチなどが苦手なタイプなため、すぐさま本題に入ることにした。

 

 見れば妖怪たちもうずうずしている。並べられたご馳走や酒を前に、これ以上は我慢できないだろうとリクオは彼らに号令を掛ける。

 

 

「今日は正月だ! とにかく……飲んで暴れろ!」

『うぉおおおおおおおおお!!』

 

 

 リクオの許しを得たことで妖怪たちは眼前のご馳走へと群がっていく。

 待ちに待った大宴会だ。この正月を皮切りに今年一年も、彼らの飲んだくれ生活が始まるのである。

 

 

 

 

「話が分かるぜぇ、三代目!!」

「酒だ! 酒持ってこいやぁああああああ!!」

「料理じゃんじゃん持ってこいやァああああああ!!」

 

 一日、たった一日我慢しただけで色々と限界だったらしく、本家の妖怪たちを中心に大広間が数秒で混沌と化す。食って、飲んで——そこには秩序などなく、皆が好き勝手やりたい放題に暴れ回っていく。

 

「……まったく、せっかく掃除したのにもうメチャクチャ……」

 

 この有様に、大掃除の指揮を取っていたカラス天狗が疲れた様子でため息を吐く。せっかく掃除したのにこの荒れよう、果たして片付けた意味があったのだろうかと。

 

「では……私は明日夜まで高尾山に帰らせていただきます」

 

 もっとも、これが毎年のことなのでそこまで気にはしていない。

 やれやれと呆れた様子を見せつつ、彼自身も正月を堪能するために実家へ——カラス天狗のたちの本拠地・高尾山天狗党へと帰っていく。

 

 

 

 

「ふん……三代目、随分余裕そうじゃないかぁ~?」

 

 暴れ回る本家の妖怪たち、高尾山へと帰っていくカラス天狗など。

 あくまでいつも通りの正月風景を前に一ツ目入道が皮肉っぽく呟く。ちびちびと酒を煽りながら、彼自身は特に酔う気分でもなく周囲を観察していた。

 

 そう、あくまで普段の正月風景ではあるものの、今年が普通の年になるわけがないのは明白。リクオ自身も言っていたように今年は勝負の年、安倍晴明こと鵺との抗争が控えているのだ。

 にもかかわらず、普段通りの正月を過ごす呑気な本家の妖怪たち。果たしてこんな調子で今年の危機を乗り越えられるのかと、一ツ目入道は今からリクオの采配に不信感と愚痴を溢していた。

 

「しかも……こんな年に限って、あんな『珍客』まで受け入れるとは……まったくどういうつもりなのかねぇ……」

 

 さらに一ツ目入道の不満はそれだけに留まらない。

 彼は溜息を吐きながら、その独眼の視線を宴会場のとある一席へと向ける。

 

「——騒がしくてすまねぇ……カナちゃん。うるさいと思うが、これがうちの正月だ。迷惑だと思ったら言ってくれ。落ち着いて食事できる場所まですぐに案内するからよ……」

「——う、ううん! そんなことないよ、リクオくん!! 私も賑やかな方が好きだから!!」

 

 三代目となったリクオが直々に席を移動してまで彼女——あの家長カナという小娘に気を遣っている。

 本来であれば、この場にいることすら許されるべきではない人間の少女だが、相手があの富士山太郎坊の名代としてきている以上、邪険に扱うことはできない。

 

「それにしても、まさかあの太郎坊が人間相手に代理まで頼むとは……いったい何があったってんだ……」

 

 それが面白くない一ツ目だが、それ以上に驚いている。

 まさかあの太郎坊が。人間を嫌い、ぬらりひょんが珱姫と夫婦の契りを結ぶことにさえ反対し、彼の元へ離れて行ったあの大天狗が。まさか人間に自分の代理を命じるとは。

 昔の彼のことを知るだけに、一ツ目入道は未だにそのことが信じられないでいた。

 

「まあ、そうだな……」

「うむ、さすがにわしらも驚きを隠せんよ」

 

 そう思っているのは一ツ目だけではないようだ。

 彼と同じように古参のメンバー、牛鬼や木魚達磨といった面々もかなり驚いてる。まさかあの太郎坊がと、先ほどカナに挨拶されたときなど、空いた口が塞がらない気持ちだった。

 

「だが、まあ……四百年も経てば考え方も変わるだろうさ」

 

 しかし、木魚達磨などは既に切り替えを済ませていた。驚きはあるものの、そういうこともあるだろうさと——身近な例を挙げ、太郎坊の心境の変化を彼なりに解釈しようとしていく。

 

「人間が嫌いでも、人間個人に何かしらの思い入れを抱くこともあるさ。お前さんにだって覚えがある感情だろう、一ツ目よ?」

「ああん? 何のことだ……」

 

 いきなり話を振られ、一ツ目は困惑していた。

 彼自身も人間を嫌っており、木魚達磨の言うような思い入れのある人間など心当たりがない——そう言い返そうとしたところ。

 

「なんだ、忘れてしまったのか……苔姫のことさ」

「むっ……そいつは……」

 

 痛いところを突かれて一ツ目は押し黙る。

 確かに彼自身、それは体験したことのある人間個人に対する『情』だ。

 

 

 苔姫(こけひめ)——綺麗な着物を着飾った童女。彼女は現在、奴良組のシマで土地神として働いているが、元々は人間。『溢す涙が真珠になる』という特殊な神通力を秘めてこそいたが、ごく普通な人間の女の子。

 四百年前、大阪城での京妖怪との抗争で奴良組が珱姫を助け出した際、ついでにとばかりに救われた少女だった。

 

 彼女のことを助けたのは——他でもない、若りし日の一ツ目入道である。

 

 あの戦いで一ツ目は苔姫を庇いながら奮戦し、それにより彼女から慕われるようになった。一ツ目自身も、奴良組に付いてくるようになった苔姫の面倒を何かと見るようになっていた。

 苔姫が人として天寿を全うし、土地神として生まれ変わった後も何かと親交がある。最近はあまり会いにいってやれていないが、それでも一ツ目入道にとって苔姫は特別な相手。

 例えるのならば——実の娘のような存在だろうか。

 

 

「……ふん、太郎坊があの小娘を認めたことと、あのときの俺の感情が同じものだってのか……」

 

 一ツ目は当時を、人間だった頃の苔姫と接していた時代を思い出しながら呟く。

 あの頃は、総大将であるぬらりひょんの嫁が人間の珱姫だったこともあり、そこまで人間自体に嫌悪を抱いていなかったと思う。しかし、それでも桜姫や苔姫に接していたときの態度と、他の人間たちを相手にしていたときの態度はやはり違っていただろう。

 

 個人に対する情。

 きっと富士山太郎坊にとっても、あの家長カナという人間は特別な——それこそ、孫のような相手なのかもしれない。

 

 

 

×

 

 

 

 ——うわぁ~……やっぱり凄いな~、奴良組は……。

 

 ちなみに、太郎坊の名代として奴良組の大宴会に参加していたカナだったが、彼女自身も本家の騒ぎように内心かなり困惑していた。

 

 いきなり太郎坊から『正月、奴良組の会合に参加しろ』という手紙を受け取ったときも驚いたのだが、実際に参加してみて自分の予想がかなり甘かったことを痛感する。

 というのも、カナは奴良組の会合自体参加するのが初めてであり、彼ら本家の妖怪たちとこうして食事を取る機会を今まで取ってこなかった。

 夏休みの修行で富士天狗組に滞在していた頃など。夕餉の席で天狗たちに囲まれて食事を取ったことはあったが、それとも空気感がまるで違う。

 富士天狗組は賑やかな中にもきちんとした秩序があったが、この奴良組にそんなもの微塵もない。

 

 あるのはただただ、混沌のみ。

 

「馬頭~、女装してお酌しろ!!」「な、なんでボクが!?」「うわぁ~、なんだコイツ、うわぁ~!」「オッシャー! 裸踊りじゃぁあああ!!」「この牛鬼の酒を受けろ、一ツ目よ!」「グボッ!? グガガ!?」「と、そこでバッタバッタとこのオレが!!」「毛倡妓、もうお酒がないわ!」「なーに、カッコつけてんだ、リクオ……幼馴染の前だからって!」「てめぇ、黙ってろじじい!!」「オレが酌してやるよ、オラオラ!!」「ごめんなさい、オレが悪かったです」

 

 ——…………うん、すっごいな……ほんとに……。

 

 もはや、誰が何をやっているかも把握できない。

 賑やかなのは結構だがここまでくると宴会というより、もはや喧嘩である。実際、酔っ払った勢いで何やら殴り合っているものたちもおり、その光景を肴にさらに彼らの酒は進んでいく。

 

 ——……お酒って……ここまで人も妖怪も駄目にしちゃうのか……。

 

 そんなふうに周囲がぐでんぐでんに酔っ払っていく中、カナはジュースで喉を潤していく。

 当然、彼女は未成年なのだから酒など飲まないし、本人も飲むつもりはない。

 

 酔っ払って理性を失った妖怪たちに一人素面なまま囲まれ、正直少し居心地は悪い。

 

 ——けど、皆楽しそうだし……まっ、いっか!

 

 だが先ほど気を遣ってくれたリクオにも言ったが、カナ自身も賑やかな空気は嫌いじゃない。こんなに賑やかな正月、浮世絵町に戻ってきてからはほとんど体験したこともなかったため、どこか新鮮な気分である。

 

 ——こっちに来てからは……ずっとハクと二人っきりだったからな……。

 

 カナにとって一番記憶にある正月。

 それは彼女の世話係であったハクと過ごした二人っきりの正月だ。

 

 一月一日は基本的に彼と一日を過ごし、テレビやボードゲームで適当に時間を潰していた記憶しかない。それはそれで楽しかったのだが、やはりこうして大人数に囲まれている方が正月らしさを感じられる。

 ちなみに、今も昔も何故か正月になると土御門春明は家に引きこもる傾向があり、カナは彼と正月を過ごした覚えがない。

 今回の奴良組の訪問も春明に付き添いを頼んだのだが、案の定断られた。

 

『——ふざけんな、誰が行くか』

 

 取り付く島もない。相変わらず、春明は奴良組に抵抗感どころか敵対心すら抱いている様子。

 

 ——もう少し信用してもいいと思うけど……いったい、何が気に入らないんだろう?

 

 カナは、春明が未だに奴良組に対して当たりが強い理由を察せないでいる。

 どうしてあそこまで彼は奴良組のことを——リクオのことを毛嫌いしているのだろうと、いつも疑問に思っていることだった。

 

 

 

 

「——ふ、ふわぁあ~……ちょっと眠くなってきたかな」

 

 そうして二時間ほど。奴良組の宴会を楽しんでいたカナであったが、ここで彼女の気力に限界がやってきた。

 時刻は現在午前二時。人間にとっては起きているのがわりかしツラい時間帯である。

 

 しかし、妖怪たちにとってはまだまだこれから。眠たげな彼女にも構わずどんちゃん騒ぎを続けていく。

 

「へい、若の彼女! 俺たちともっと遊ぼうぜ!!」

「また投扇興でもやる?」

 

 それどころか、酔いが回ってきた影響でカナにまで絡み始めるものまで現れる。最初は人間である彼女がこの場にいることをいくらか疑問視していたものたちだが、ぶっちゃけ酔っ払ってしまえばそんなことお構いなしだ。

 

「え、ええっと……」

 

 自分と遊ぼうと言ってくれる妖怪たち相手に、カナは眠そうにしながらも決して無下には出来ず少し困っていた。

 

「——ちょっとアンタたち、あんまり家長さんを困らせんじゃないわよ」

 

 すると、そんなカナの心境を察してか。

 奴良組の中でも特にカナと顔馴染みである少女——つららがその場に割って入ってきてくれた。

 

「その子は人間なんだから、夜通し起きていられるほどタフじゃないの。ほら、向こうの方で遊んできなさい」

 

 人間だからと差別しているわけではない。人の身であるカナの体調を気遣ってくれているニュアンスが伝わってくる言葉遣いだ。

 

「ちぇっ、しょうがねぇな……」

「あっ、及川さん……わたしは別に大丈夫だよ?」

 

 つららに小言を言われた妖怪たちがいじけるように気落ちしたため、カナは慌てて自分はまだ大丈夫だと言おうとした。

 しかし、つららなりに考えがあるようだ。彼女はカナに優しく諭すように声を掛けてくれる。

 

「家長さんも、そろそろ仮眠してきなさい。じゃないと……清十字団との初詣に行けなくなっちゃうわよ?」

「!! そっか……じゃあ、少し休ませてもらうね……」

 

 その言葉にハッと気付かされ、カナは素直に休むことにしたのである。

 

 

 

×

 

 

 

 奴良組の大宴会に参加していたカナとつららとリクオであったが、少年少女たちにはもう一つ大事な用事があった。それが『初詣』だ。新年の始まりを清十字怪奇探偵団の皆で迎えるイベントである。

 

 例によって例の如く、今年は清継の号令もあり、皆で『高尾山』に行くことになっていた。

 

 高尾山は東京都八王子市に位置する御山で、都心からのアクセスも手軽な高い人気を誇る観光スポットだ。

 奴良組のカラス天狗の実家である高尾山天狗党もここに拠点を構えており、神社に参拝してくる人々から沢山の賽銭と畏を集めて奴良組に貢献している。

 

 そこの神社——薬王院というところで参拝し、今年はその山から初日の出を拝む計画を清継が立てたという。

 新年早々、宴会で騒いだ後だがせっかくのお誘いということもあり、カナはリクオたちと一緒に高尾山へと向かうことになった。

 

「ふぅ~……すっかり冷え込んできたね」

 

 冬だということもあり、ジャンパーを着込んで防寒対策をするカナ。仮眠もしっかりとったため、眠気も今は晴れている。万全の状態で初日の出を迎える準備が出来ていた。

 

「うぅ~……頭痛い……」

 

 一方で、まだ頭を押さえている奴良リクオ。今は昼の姿だが、つい先ほどまで夜の姿で酒を飲んでいたため、二日酔いに近い状態だ。

 カナは正直、「リクオくん……何で未成年なのに飲んでんの?」と今更ながらの疑問を浮かべていたが、正月なので今回は見逃すことにした。

 

「リクオ様、少し寝ててください。駅に着いたら起こしますので……」

 

 つららはリクオの体調を気遣い、彼に少し休んでいるように声を掛ける。

 三人は現在、電車の中だ。高尾山の最寄駅である高尾山口駅までまだ少し距離もあり、早朝で運良く人気も少なく座れたので、少しくらいなら眠っていても構わないだろう。

 

「うん……悪いけど、そうさせてもらうよ……すぅ~……」

 

 つららの言葉に甘え、リクオは電車内で仮眠を取る。疲れも溜まっていたのだろう、穏やかな寝息を立てながらすぐさま意識を失っていく。

 

 

 

 

「……お疲れ様です、リクオ様……」

「……リクオくん、疲れてたんだね……」

 

 少年の穏やかな寝顔を前に、少女たちも優しい表情になる。

 リクオが眠ったことで意図せずして二人っきりの状態になるカナとつらら。暫くの間、互いに何も言わずに静かに電車の揺れに身を任せる。

 

「……この間は、ありがとね……」

「えっ? なに……どうしたの、及川さん?」

 

 おもむろにつららが口を開く。

 彼女が口に出したのはお礼の言葉だ。つい先日、師走の付喪神騒動の際に影ながら援護してくれたカナにまだ礼を言っていなかったことを思い出したのだろう。

 

「あ、アンタのおかげで、お客さんにもあの地区にも被害らしい被害はなかったわ……い、一応、感謝はしてるんだからね!」

 

 照れくさそうにだが、確かな感謝の気持ちをカナへと送る

 

「…………うん、わたしの方こそ、今日はフォローしてくれてありがとう」

 

 つららのお礼に一瞬、ほんの数秒だけ何故か押し黙るカナ。

 お返しとばかりに、カナの方も今日の宴会の際でのつららの何気ない気遣いに礼を述べる。彼女があの場に割って入ってくれたおかげで、カナはしっかりと仮眠を取って体調を整えることができた。

 

 清十字団と迎える初日の出を、今年の正月をしっかりとした形で迎え入れることができるのだ。

 

「去年は色々あったけど……今年も宜しくね、及川さん」

 

 カナは去年苦労を掛けたこと、今年もきっと苦労を掛けるだろうと。面を向かってつららへと改めて新年の挨拶を述べた。

 

 すると——

 

 

「……つららよ」

「えっ……?」

 

 

 つららはそっぽを向きながら、ちょっと拗ねたように呟く。

 

「いい加減、その及川さんってよそよそしい呼び方やめてくれる? 巻さんや鳥居さんだって、私のこと……つららって呼んでるんだから……」

 

 及川つららの及川は本名ではない。

 若の護衛として学生を装う際、苗字がないと不便だろうと奴良組の皆で考えた偽名である。

 

 もっとも清十字団の面々、特に巻や鳥居といった女子は基本的に彼女のことを名前で呼んでいる。つららとしては、正直人間の誰に何と呼ばれようが特に問題はないが——。

 

 さすがにカナに『及川さん』と他人行儀で呼ばれるのは、些かむず痒い。

 もう妖怪だと知っているのだから、いい加減彼女には本名である『つらら』と呼んで欲しかった。

 

「…………ふ、ふふふ」

「ちょっ! な、なによ!! 何も笑う必要ないじゃない!!」

 

 つららの言葉にカナは笑った。勿論、決して彼女のことを馬鹿にしたわけではない。

 名前で呼んで欲しいと、本人はさりげない調子で言ったつもりだったのだろうが——。

 

 つららのその横顔は、ものすごく恥ずかしそうに真っ赤に染まっていた。

 それがたまらなく可愛らしく、あまりにも愛おしかったためカナは思わず笑ってしまったのだ。

 

「あははは!! ごめん、ごめん……」

 

 カナは快活な笑い声を上げながらつららに謝る。

 そして——

 

「それじゃあ……わたしのこともカナって、名前で呼んで欲しいな」

「そ、それは……」

 

 交換条件とばかりに、カナはつららに自分のことも名前で呼ぶようにお願いする。

 カナのその願いに対し、つららはますます表情を羞恥に染めていく。

 

『次は——高尾山口駅~高尾山口駅~』

 

 と、そのタイミングで電車のアナウンスが目的地へ到着したことを告げる。

 つららは恥ずかしさを誤魔化すように、慌てて眠っているリクオを起こす。

 

「あっ……り、リクオ様! 目的地に着きましたよ、起きてください!!」

「むにゃ~……ああ、もう着いたんだ……」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら、リクオは電車から駅のホームへと降りていく。

 彼の後ろに二人の少女、カナとつららも続いていく。

 

 

「それじゃ、わたしたちも……行こうか——つららちゃん!!」

「そ、そうね……——か、カナっ……!」

 

 

 お互いに嬉しそうに、照れくさそうに互いの名前を呼び合いながら——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高尾山の登山道。

 既に清十字怪奇探偵団一同が集まっており、遅れてやって来たカナたちを出迎えてくれていた。

 

「あ!! なんだ!! 奴良くん、遅いぞ!!」

 

 相変わらずマイペースな清継は遅れてやって来たリクオに文句を垂れる。

 

「カナちゃん!! 久しぶりね!!」

 

 実家の都合でずっと忙しかった白神凛子が、カナとの久しぶりの再会に笑みを浮かべてくれる。

 

「あれ? お、及川さんと一緒……」

 

 島はリクオがつららと一緒にやって来たことに傷ついた表情をする。基本的に彼はつらら一筋なため、カナも一緒だということに気付いていない。

 

「うぅ~……もう妖怪は嫌じゃ……」

「巻しっかり!! 傷は浅いよ!!」

 

 巻は何故かいつもの元気がなく、妖怪はこりごりだと溜息を吐いている。なんでもトイレの神様・加牟波理入道(がんばりにゅうどう)とかいう妖怪に遭遇し、すっかりトラウマになってしまったらしい。そんな巻のことを鳥居が慰めていた。

 

 残念ながら、花開院ゆらはまだ京都だ。

 きっと新年を実家で迎えているのだろうが、せめて初詣くらい彼女も一緒が良かったとカナは気落ちする。

 

 けれど、清十字団の賑やかな空気がそんなカナの寂しさを埋めてくれる。

 カナはリクオやつらら、皆と一緒にお正月を過ごせる幸運に心の底から喜びを噛みしめていく。

 

 

 ——あ~、幸せだな……。

 

 

 きっと、幸せに形や色があるとすれば、こういうものなのだろうと。

 今の自分が満ち足りていると感じながら、カナは昇る太陽——初日の出に向かって願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——この幸せが……ずっと続けばいいのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが叶うはずのない願いだと知りながらも——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、新年が明けた。

 家長カナ——人生最後の戦いが始まる。

 

 

 

 




次回予告

 それは、家長カナにとって決して避けられない戦い。
 彼女の憎悪を晴らすための戦いだった。


「カナちゃん!?」「ボクが言うのもなんだけど……キミ、色々とヤバいよ?」「殺せ、奴良リクオを殺せ!!」「恨むなら、奴良リクオを……」「さあ、始めましょう……命をかけた鬼ごっこを」「当たれば全てが爆ぜる竜の腕」「カズ、渋谷に来ちゃダメ……ヤバいよ!」「君の絵が書きたくてしょうがなかったんだ……」「てめぇか……女の背中をキャンバスにしてた変態野郎は!」「な、なつみぃぃいいい!!」「カナちゃん!? しっかりして!!」「こいつは面の皮って言ってね……」「よしたまえ、下平くん!」「だって悔しいじゃん! リクオは良い奴なのに!!」「僕らにも、できることがあるんだろうか?」「だって私は先生だから……皆を、生徒をっ!!」「私が側にいることで……カナちゃんが助かるの?」「私は信じるよ」「届け……届けえええええ!!」


「吉三郎……お前だけは——」
「キミだけは僕が——」


『——必ず殺す』


 多くの人が混乱に巻き込まれる最中……カナが選び取る未来は?
 彼女の行く末や如何に?

 ぬらりひょんの孫『百物語編』——2021年4月更新開始。

「もう……時間がないんだよ……わたしには……」


※上の台詞群は百物語編の台詞を一部抜粋したものですが、まだ製作途中ですので実際の本編と内容が異なる場合がありますのでご了承ください。

それでは、また4月に——。
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