君と隣で   作:白藜

2 / 9
ほろ苦い

ゆっくりと帰路について、夜の風景を見ながら遠回りをしながら帰る。時折吹く木枯らしがマフラーの隙間から服に入り込んで、思わず身震いをした。

 

早く帰って暖かいものでも…と考えていると、ジーンズの尻ポケットで携帯が震えていることに気づく。相手は母で、父と外食をとるので適当に外で夕食を済ましてほしいということだった。

 

なんと放任主義な親だろうか。あんまり厳しくないのはありがたいことではあるが、こういうことは事前に言っておいて欲しいものである。財布を確認すると、残金は一万と三千円。十分足りるが、どこにするか。ラーメンでも良いが、この辺りにそこまで豊富な飲食店はない。居酒屋はあれど中華屋はない。寿司屋もない。あるのは肉メニューが有名なレストランぐらい。なら…

 

「結局レストランか…」

 

親友とよく食べに行っているレストランに行くことにして、今来た道を引き返す。ここからでもレストランからでも家までの距離はそこまで変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、それじゃあねー、風邪引かないように気を付けるんだよー、らーんー」

 

自分の家から少しはなれたところにある丁字路で蘭と別れ、すっかり暗くなった道を歩く。

 

「ふんふんふーん」

 

落ち込んだ気分を持ち上げようと鼻唄を口ずさむけど、どうにも気分が上がっていかなくて、視線を落とした。その時、右のポケットに突っ込んだままのスマートフォンが震えていることに気がつく。母の表示に迷わず出ると、今日は仕事が長引いていて、夜中に帰るとのことだった。つまり、このまま家に帰っても晩御飯は用意されていない。酷いママだなぁ~、と軽口を叩くと、外で食べてきて良いわよ、立て替えておくから。と、母からのお墨付きで外食を許可された。はぁい、と返事をしていつも通りファミレスに向かう。

 

楽しい外食の筈なのに気分が乗らないのは何でだろう?

そんなことを考えながら、私はちょっとお高いファミレスへの道をとぼとぼと歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ゆーくん」

 

このタイミングでこの子と再会したのは、一体どういうことなのだろうか。居るとは思わなかったところで再会をして、ただでさえ気まずい空気が更に悪化した気がする。

 

「何でいるんだよ、モカ。」

 

「そりゃ、ごはん食べにきたんだよー、もー。」

 

わかってるくせに~、と軽口を叩くモカにため息をついた。彼女を無視して店の中へはいると、彼女もとことこと付いてきていた。

 

「2名様でしょうか?」

 

「いや、ひとり―――」

 

「ふたりでーす」

 

食いぎみに被せてきたモカのせいで、別々ではなく同一のテーブルに案内されてしまう。ただでさえ募っていた苛立ちが、更にぐんと募った気がして、気を紛らせるためにメニューを開いた。

パラパラと見回すと、新商品が2、3個発表されていて、妙に食指をそそる。これにするか、とメニューを閉じて、呼び鈴を押した。

 

「あ、私まだ決めてないのに~」

 

「どーせいつも通りでしょ。」

 

「さっすがー、分かってるね~」

 

意味のない軽口を繰り返して、こちらに来た店員に注文を頼む。

 

「それでお願いします。」

 

そう言うと店員は恭しくお辞儀をして戻っていった。

 

「ねーね、ゆーくん何でココに来たの~?」

 

気まずい空気なんて知りませんと言った感じにモカが話しかけてくる。のほほんとした口調も態度も「いつも通り」な彼女に、思わず苛立ちを感じたのは何故だろうか。

 

モカが話しかけてくるのを適当にあしらいながら時間が過ぎるのを待つ。数分たつと、ほわほわと湯気を上げた料理がふたつ、テーブルに並べられた。ありがとうございます、と笑顔で微笑みかけると、店員さんはいえいえ、ごゆるりと。と、しっとりとした口調と笑顔で微笑みかけてくれた。

 

「いただきます」

 

両手をあわせて言ってから、備え付けのフォークとナイフに手をつけて、更に盛り付けられた肉を切っていく。

切り口から溢れだした肉汁が、熱されたプレートの上でじゅわ、と弾けた。てらてらと輝く肉汁と、芳醇なソースの香りが食欲をそそる。ごくりと生唾を飲んだ。恐る恐る口に含むと、口のなかで肉汁が弾け出した。

 

「うま…」

 

思わず口に出してしまうと、通りががった店員さんにくすりと笑われてしまった。少し恥ずかしい気持ちを抑えながら、夢中で肉とライスを口に運んでいく。十数分で平らげて、しかし口の中にはまだ余韻が残っていて、暫く他の肉が味気なく感じてしまいそうで、少しだけ戸惑った。

 

「ん、おいしー!」

 

モカはモカで頼んだメニューを平らげていて、余韻に浸っていた。

 

「お済みになったお皿をお下げしても宜しいでしょうか?」

 

店員さんが聞いてくるので、お願いします。と返す。かしこまりました。と言って、店員さんはてきぱきと皿を片付けていく。

 

「後ほどカップル限定のサービスデザートをお持ちいたしますので、お待ちください。」

 

え?、という呟きは綺麗に聞き流され、モカの「よろしくお願いしまーす」という声が店員さんを後押ししてしまっていた。

 

「なんで」

 

「いーじゃーん、貰えるんだったらもらっとこー?」

 

何を言っても暖簾に腕押しだと悟って、もういいやと目をつぶる。数分後、目の前にデザートが運ばれてくるまで、暫く会話はなかった。

 

「あ、おいしー。」

 

モグモグとパルフェ・オ・ポワールを食べながら笑顔のモカにため息をつきながら自分に運ばれてきたウィークエンドシトロンに舌づつみをうつ。

果肉の爽やかな香りと甘味の強いケーキを食べ進めながら、伝票を見る。4000円。女子に払わせるわけにもいかないので、自分で伝票を持つ。

 

「残り、食べて良いから。代金も払っとく。」

 

そう言って、席を立つ。支払いを終えると、ガリ、と口の中にほろ苦さが広がった。

 

ああ、畜生。

 

 

 

 

 

いままでを思い返しながら、家まで歩いていった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。